CIVIL PROCEDURE
信義則による後訴の遮断
判例の射程
【判例(79事件)】最判昭51.9.30=農地の買収処分後約20年を経て、前訴(所有権移転登記請求)で敗訴した者が、後訴で買収処分の無効を理由に同一土地の所有権を主張した事案で、後訴は実質的に前訴の蒸し返しであり、前訴で主張できたのに主張せず、相手方の地位を長く不安定にするものとして、信義則に照らして許されないとした。
補足
【趣旨】既判力が形式的に及ばない場合でも、前訴の紛争を蒸し返す後訴の主張は紛争解決の終局性・訴訟経済の観点から信義則(2条)により遮断される。
【判断要素】①前訴後訴の紛争の同一性・実質的争点の共通性、②前訴で争う機会を実質的に有していたか、③後訴主張が前訴判決の趣旨と矛盾する程度、④敗訴当事者の蒸し返しの意図。
【留意点】信義則による遮断は明文の根拠を持たず適用範囲を慎重に限定。単に「信義則違反」と論ずるのでなく上記要素を本件に即して検討する。
【79事件の位置づけ】前訴と後訴が約20年離れ、前訴で主張できた事由を蒸し返したという特殊な事案に対する救済判例と理解されている。これを一般化して「前訴の争点と重なれば信義則で遮断」と書くのは誤り。80事件(明示の一部請求の全部棄却後の残部請求)の信義則とは類型が異なるので区別する。
【効果の違い】既判力による遮断=後訴の主張が排斥され請求棄却(本案判決)。信義則による遮断=後訴の提起自体が信義則に反するとして訴え却下(訴訟判決)。結論の書き分けに注意。
関連判例
最判昭51.9.30(百選79事件)信義則による後訴の遮断
本訴は、実質的には前訴のむし返しというべきものであり、前訴において請求をすることに支障もなかったのにかかわらず、さらに本訴を提起することは、信義則に照らして許されない。
答案での書き方(法的三段論法)
- 1
問題提起
本件で信義則による後訴の遮断が問題となる旨を、条文を引用して1〜2文で提起する。
- 2
規範
判例・通説の定式を条文とセットで示す。
- 3
あてはめ
問題文の事情を要件ごとに引用し、「〜という事情は…を意味するから、要件○を満たす」と評価を加える。数字・なお書き・当事者の具体的行動は必ず拾う。
- 4
結論
「したがって/よって」で要件充足と結論(成立・不成立、適法・違法、合憲・違憲)を一文で締める。
自分の答案がこの4要素に分解できているかは、AI答案添削で色分けして確認できます。
あわせて読みたい論点
この論点の前提になる論点や、対になる論点です。
訴訟の終了/既判力
争点効
さらに学びたい人へ(おすすめ教材)
この論点の理解を深める教材です。リンクにはアフィリエイトリンクを含みます(価格は変わりません)。
書籍
読解 民事訴訟法(勅使河原) ↗受験生が陥りがちな誤答例を挙げて修正してくれる。既判力・弁論主義の「生じる」「及ぶ」の理解が曖昧なら必読。
書籍
読解 民事訴訟法(勅使河原和彦) ↗受験生が陥りがちな誤答例を挙げて修正してくれる一冊。既判力の「生じる」「及ぶ」「作用する」の区別、先決・矛盾関係での遮断の説明は、この本の整理に沿っています。既判力が曖昧なら最初に読む本。
書籍
ロジカル演習 民事訴訟法(越山和広) ↗短い事例で「既判力が生じるか・及ぶか・作用するか」を一つずつ確認できる演習書。論証例を自分の言葉で再現する練習に向いています。
講座
アガルート 重要問題習得講座(重問) ↗信頼できる答案例が付いた網羅的な演習書。解答例を問題提起・理由付け・規範・あてはめ・結論の5色に塗り分けて周回する。憲法・刑法以外の論文の軸。
出題実績と演習
よくある質問
Q「信義則による後訴の遮断」は予備試験・司法試験で出題されていますか?+
令和4年の論文式試験で出題(または関連出題)されています。頻出度は標準ランクです。
Q既判力とは何か?+
前訴確定判決の判断内容が後訴に対して有する拘束力をいう。趣旨は紛争の蒸し返し防止・紛争解決の終局性・訴訟経済・法的安定性の確保にあり、当事者に手続保障が及んだことが実質的根拠である。客観的範囲は主文に包含するもの(114条1項)に限られる。
Q既判力の基準時後に取消権や相殺権を行使できる?+
基準時(事実審の口頭弁論終結時)前に取消事由が存在したのに行使しなかった取消権は遮断される(最判昭55.10.23)。相殺権は訴訟物とは別個独立の抗弁であり基準時後でも遮断されない(最判昭40.4.2)。建物買取請求権も遮断されない。
Q一部請求の後に残部請求はできる?+
一部請求であることが明示されていれば訴訟物はその一部に限定され、残部請求は既判力に反しない(最判昭37.8.10)。ただし一部請求が棄却された後の残部請求は、特段の事情のない限り信義則に反し許されない(最判平10.6.12)。明示がなければ既判力は債権全体に及ぶ。
Q既判力が作用するのはどんな場面?+
前訴の訴訟物と後訴の訴訟物が同一・先決・矛盾のいずれかの関係にある場合である。作用の内容は、後訴裁判所が前訴判断と矛盾する判断をできない積極的作用と、当事者の矛盾する主張が排斥される消極的作用の二つに分けて書く。