司法試験 令和2年 刑事訴訟法
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問題文
[刑事系科目]〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
【事 例】1 令和元年10月から11月にかけて,H市内で,何者かが一戸建ての民家に侵入して室内から金品を窃取するという住居侵入窃盗事件が,連続して5件発生した。5件いずれの事件においても,現場民家の1階掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスが半円形に割られた上で施錠が外され,室内が物色されて金品が窃取されており,同市を管轄するH警察署には,不安を感じた住民から早期の犯人検挙を求める要望が多数寄せられていた。
H警察署司法警察員Pは,同市内に居住する甲が,同年12月1日夜,同市内の一戸建てのX方において,庭に面した1階掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスにガラスカッターを当てているのを,顔見知りの住民Wに目撃されたために逃走した旨の情報を,Wからの通報により覚知した。
同事件については,窃盗被害が発生しておらず被害届が提出されなかったために立件されないこととなったが,甲がガラスカッターを当てていたクレセント錠近くの窓ガラスに,半円形の傷跡が残されており,その傷跡は一連の住居侵入窃盗事件の窓ガラスの割れ跡と形状において類似していたことから,Pは,甲が一連の住居侵入窃盗事件の犯人ではないかと目星を付け,同月2日,Wの事情聴取をし,甲がX方窓ガラスにガラスカッターを当てていたのを目撃した状況に関するWの供述調書を作成した。
そうした中,同月3日午後8時頃から同日午後9時頃までの間に,同市内の一戸建てのV方において,家人が不在の隙に,V方の庭に面した1階掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスが半円形に割られた上で施錠が外され,V方1階の居間にあったタンスの1段目引出しに保管されていた,封がされていない茶封筒入り1万円札10枚が窃取されるという事件が発生した(以下「本件住居侵入窃盗」という。)。Vは,同日午後9時頃帰宅して本件住居侵入窃盗の被害に気付き,110番通報した。
2 その通報を受けてV方付近を検索したH警察署司法警察員P及びQは,犯人の発見には至らなかったが,本件住居侵入窃盗における窓ガラスの割れ跡が,X方窓ガラスに残された半円形の傷跡の形状に類似していたことから,甲が本件住居侵入窃盗に及んだのではないか,ひいては本件住居侵入窃盗と前記5件の住居侵入窃盗事件は甲による連続窃盗事件ではないかと考えた。そこで,P及びQは,甲にH警察署への任意同行を求めて甲の取調べを実施することとし,同月4日午後6時頃に甲方に赴いたが不在のため同方付近で待機していたところ,同日午後9時頃,甲が帰宅したのを確認したので,甲方のインターホンを鳴らし,玄関先に出てきた甲に対し,「昨日発生したV方における住居侵入窃盗の件で話を聞かせてもらいたいので,H警察署に来てもらえないか。」と申し向けた。それに対し甲は,「疑われるのは本意ではないし,早く犯人が捕まってほしいので協力します。」と言ってこれに同意した。そこで,P及びQは,甲を徒歩で同行し,同日午後9時10分過ぎ頃,H警察署に到着した。
①Pは,同日午後9時20分頃から,H警察署取調室において,甲に黙秘権及び取調室からいつでも退去できる旨を告げた上で,本件住居侵入窃盗について甲の取調べを開始した。同取調べは,当初Pが担当し,後にQが引き継いで,翌5日午後9時30分頃まで約24時間行われたが,その間,甲は,取調べを拒否して帰宅しようとしたことはなく,仮眠したい旨の申出をしたこともなかった。また,P及びQは,甲からのトイレの申出にはいずれも応じたほか,朝食,昼食及び夕食を摂らせて休憩させた。そして,同取調べ中,同取調室及びその周辺には,現に取調べを行っている1名の取調官のほかに警察官が待機することはなかった。甲は,取調べが開始された同月4日は,「やっていません。証拠があるなら見せてください。」などと言って自らが本件住居侵入窃盗を行ったことにつき否認していたが,時間の経過とともに疲労し,翌5日午後3時頃には,言葉数が少なくなった。その頃,Qは,Pから取調べを引き継いだが,甲の供述態度は変わらず,Qは,同日午後5時頃に甲に夕食を摂らせた。そして,取調べ再開後も,言葉数が少ないながらも甲が否認している状況が続いたため,Qは,「このままではらちが明かない,これまでの取調べにより甲が疲労している今の状況であれば,軽微なうそをつくだけで自白を得られるのではないか。」と考え,同日午後7時10分頃,本件住居侵入窃盗が行われた同月3日の夜に甲が目撃されたという情報は得ていなかったにもかかわらず,甲に対し,「12月3日の夜,君が自宅から外出するのを見た人がいるんだ。」と申し向けた。それを聞いた甲は,それまでの取調べの結果疲労していたこととあいまって自白するしかないと思い込み,同月5日午後7時30分頃,本件住居侵入窃盗を行ったことを認めるに至った。そして,甲は,Qから問われたことにポツリポツリと答えながら,同日午後8時20分頃までにかけて,本件住居侵入窃盗を行った状況を自白した。そこで,Qは,同日午後9時20分頃までの間,甲の前記自白を内容とする供述調書1通を作成し,同日午後9時30分頃,取調べを終了した。
その後,甲は,本件住居侵入窃盗の被疑事実により逮捕勾留されたが,甲は,徹夜で取調べを受けていなければ否認を続けることができたと考えて後悔し,黙秘に転じたため,前記供述調書1通のほかには甲の供述調書が作成されることはなかった。
3 甲が勾留された後,甲方の捜索が行われ,封がされていない,被害品と同種の茶封筒入り1万円札10枚と,ガラスを半円形に切ることができるガラスカッター1点が発見押収された。また,実況見分を行った結果,本件住居侵入窃盗における窓ガラスの半円形の割れ跡は,甲方から発見押収されたガラスカッターにより形成可能であることが判明した。その後,甲は,黙秘のまま本件住居侵入窃盗の事実で公判請求された。なお,甲方から発見押収された茶封筒入り現金10万円及びガラスカッターからは,Vの指紋やV方ガラスからの付着物等Vに直接結び付く痕跡は検出されなかった。また,同ガラスカッターは,一般に流通し,容易に入手可能なものであった。ほかに,本件住居侵入窃盗につき,その犯行状況を撮影した防犯カメラ映像その他の甲の犯行であることを直接裏付ける証拠は得られなかった。
公判において,甲は,本件住居侵入窃盗の事実を否認し,検察官は,甲方から押収された前記茶封筒入り現金10万円や前記ガラスカッターのほか,甲の自白を内容とする前記供述調書等の取調べを請求した。また,検察官は,X方における甲の犯行と,本件住居侵入窃盗の犯行とは手口が類似しており,このことは,甲が本件住居侵入窃盗の犯人であることを推認させる事実であるとして,X方における甲の犯行を目撃した状況に関するWの前記供述調書のほか,X方の実況見分調書(X方掃き出し窓のクレセント錠近くのガラスに半円形の傷跡が残っている状況を撮影した写真等添付のもの)や,窓ガラスの割れ跡等に関する実況見分調書(本件住居侵入窃盗における窓ガラスの半円形の割れ跡が,X方窓ガラスに残された半円形の傷跡と形状において類似しており,甲方から発見押収されたガラスカッターによりいずれも形成可能であることを明らかにしたもの)を証拠調べ請求した。
甲の弁護人は,Wの前記供述調書については,不同意との証拠意見を述べた。これを受けて検察官は,Wの前記供述調書と同じ立証趣旨で,②Wの証人尋問を請求したところ,弁護人は,Wの証人尋問につき,「異議あり。関連性なし。」との証拠意見を述べた。
〔設問1〕 下線部①の取調べの適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
〔設問2〕1.自白に対する,自白法則及び違法収集証拠排除法則の適用の在り方について論じなさい。
2.1で論じた自己の見解に基づき,下線部①の取調べで得られた甲の自白の証拠能力について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
〔設問3〕 下線部②の請求につき,裁判所はこれを認めるべきか。弁護人の証拠意見を踏まえて,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。