司法試験 令和2年 商法
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問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は,60:40〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,電子機器部品の製造及び販売等を目的とする会社法上の公開会社でない会社であり,取締役会,監査役及び会計監査人を置いており,一種類の株式(以下「本件普通株式」という。)のみを発行している。甲社の資本金の額は10億円,発行可能株式総数は20万株,発行済株式の総数は8万株であり,Aが5万1000株を,Bが2万9000株を,それぞれ保有している。甲社の取締役はA,C及びDの3人であり,Aが代表取締役会長を,Cが代表取締役社長を,それぞれ務めている。なお,Bは,甲社の役員に就任していない。
2.甲社は,規模はそれほど大きくないが,高い技術力を持っていた。甲社の業績は,約10年前の設立以来,堅調に推移してきたため,2年前までは,毎事業年度,欠かさずに剰余金の配当をしてきた。しかし,近時は,支払が遅延する取引先が増えたため,甲社は仕入資金の調達が必要になったが,金融機関が満足な融資をしてくれないため,資金繰りに窮するようになった。
3.このような状況で,Aは,令和元年12月頃,甲社の資金繰りの改善を図ることが急務であり,少なくとも2億円の資金調達が必須であると考えた。甲社は,銀行から借入れをすることが困難であったため,Aは,株式の発行が最善であると考えたが,普通株式では引受人を見付けることができない可能性が高かったため,議決権のある剰余金配当優先株式(以下「本件優先株式」という。)を新たに発行することによって2億円の資金調達をすることを計画した。
4.Aが本件優先株式を引き受けて出資してくれそうな者を探したところ,Aの叔父Pとその友人Qがそれぞれ1億円ずつ出資してもよいという意向を示した。そこで,Aが,令和2年2月中旬に,中立的な専門機関に対し,甲社の事業計画や財務状況を示す資料を提供して,本件優先株式について合理的な方法による評価額の算定を依頼したところ,本件優先株式の評価額は1株当たり4万円と算定された。
5.これを受けて,Aが,P及びQに対し,1株当たりの払込金額を4万円として,本件優先株式をP及びQにそれぞれ2500株ずつ(合計5000株)発行することを打診したところ,P及びQは,少なくともそれぞれ甲社の発行済株式の総数の5%ずつを保有したいため,1株当たりの払込金額を2万円として,本件優先株式をP及びQにそれぞれ5000株ずつ(合計1万株)発行するように主張して譲らなかった。
6.そこで,AがC及びDに意見を聞いたところ,2人とも2億円の資金調達を実現するためには,P及びQの主張を受け入れる以外に選択肢がないが,Bが反対して計画が挫折する可能性が小さくないという意見であった。
7.Aは,令和2年3月17日,甲社の取締役会(以下「本件取締役会」という。)を招集して,役員の全員が出席の上で,対応策を協議したところ,A,C及びDは,2億円の資金調達を実現するためには,株主総会の場で何とかしてBの同意を取り付けるほかないという意見で一致した。その上で,本件取締役会では,同月25日に甲社の本社で定時株主総会(以下「本件定時総会」という。)を開催すること,「計算書類の報告の件」及び「事業報告の報告の件」を会議の目的事項とすること,「定款変更の件」を会議の目的事項として,本件優先株式の内容等の所要の事項を定める定款変更を行う旨の議案(以下「本件議案1」という。)を本件定時総会に提出すること,「新株式発行の件」を会議の目的事項として,本件優先株式の発行(以下「本件株式発行」という。)を行う旨の議案(以下「本件議案2」という。)を本件定時総会に提出することなどが決議された。なお,本件議案2は,①募集株式は本件優先株式1万株とすること,②1株当たりの払込金額は2万円(払込金額の合計は2億円)とすること,③払込期日は同年4月10日とすること,④増加する資本金と資本準備金の額はいずれも1億円とすること,⑤本件優先株式をP及びQにそれぞれ5000株ずつ割り当てることを内容とするものであった。
8.Cは,令和2年3月17日,A及びBに対し,本件定時総会の招集通知(以下「本件招集通知」
という。)を書面で発した。本件招集通知には,本件定時総会の開催日時及び開催場所のほか,会議の目的事項として「計算書類の報告の件」及び「事業報告の報告の件」が記載されており,当該目的事項との関係で必要とされる書類も,計算書類や事業報告を始め,全て添付されていた。しかし,本件招集通知には,本件議案1及び本件議案2に関する記載がなく,また,「定款変更の件」という会議の目的事項及び「新株式発行の件」という会議の目的事項がいずれも記載されていなかった。
9.令和2年3月25日に開催された本件定時総会には,役員の全員が出席しており,また,株主であるA及びBのいずれもが出席した。Cが「定款変更の件」について本件議案1を,「新株式発行の件」について本件議案2を,それぞれ本件定時総会に上程したところ,Bは,本件議案1及び本件議案2のことを初めて知って驚いた。しかし,Bは,Cから,2億円の資金調達が急務であること,そのためには,事実上,本件株式発行以外に選択肢がないこと,2万円という1株当たりの払込金額は中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額に相当する額である旨を説明されて,そのような事情であれば本件株式発行によって自己の持株比率が下がるのもやむを得ないと考えて,渋々ながら賛成したため,本件議案1及び本件議案2がいずれも可決された(以下,本件議案1に関する本件定時総会の決議を「本件決議1」といい,本件議案2に関する本件定時総会の決議を「本件決議2」という。)。
10.その後,Cが会社法所定の手続を行い,P及びQが払込期日である令和2年4月10日にそれぞれ1億円ずつを払い込んだことにより,P及びQに対する本件株式発行が行われた。なお,上記4の本件優先株式の客観的な評価額の算定後,払込期日までの間に,本件優先株式の価値を著しく変動させるような事情はなかった。
〔設問1〕 Bは,本件株式発行の効力の発生後になって初めて,中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した本件優先株式の評価額が1株当たり4万円であったことを知った。Bは,本件決議1及び本件決議2には瑕疵があり,そのことが本件株式発行の効力に影響を及ぼすと考えている。Bは,令和2年5月14日の時点で,どのような訴えを提起して,どのような主張をすることが考えられるかを検討した上で,その主張の当否について,論じなさい。
下記11及び12では,上記8及び9とは異なり,本件株式発行が適法に行われたことを前提として,〔設問2〕に答えなさい。
11.本件株式発行によって甲社の資金繰りは改善した。しかし,その後,約2年が経過し,甲社の資金繰りは再び苦しくなってきた。甲社は,P及びQの要望により,毎事業年度,本件優先株式について剰余金の配当をしてきたが,資金繰りが苦しい中,甲社にとっては,本件優先株式に係る剰余金の配当が重荷になってきた。なお,本件優先株式は,その発行後,P及びQがそれぞれ5000株ずつを保有し続けている。
また,甲社の定款では,本件優先株式の内容として,発行可能種類株式総数のほか,①甲社が剰余金の配当をするときは,本件優先株式の株主に対し,本件普通株式の株主に先立ち,各事業年度に,本件優先株式1株につき1000円(以下「配当優先額」という。)を配当すること,②本件優先株式について配当優先額の配当をした後に,更に分配可能額がある場合には,本件優先株式の株主は本件普通株式の株主と共に株式数に応じて配当を受けることができること,③ある事業年度において本件優先株式の株主に対してする1株当たりの配当の額が配当優先額に達しない場合には,当該不足額は翌事業年度以降に累積すること,④本件優先株式の株主は,株主総会における決議事項の全部について議決権を行使することができること,⑤本件優先株式の譲渡による取得には,甲社の承認を要すること,⑥会社法第322条第2項に基づき,同条第1項の規定による種類株主総会の決議を要しないことが定められていた。
12.このような状況で,甲社は,本件優先株式についてのみ株式の併合をすること(以下「本件株式併合」という。)を計画し,取締役会で,役員の全員が出席の上で,臨時株主総会(以下「本件臨時総会」という。)を開催すること,「株式併合の件」を会議の目的事項として,①本件優先株式のみを2株につき1株の割合で併合すること,②本件株式併合の効力発生日,③効力発生日における発行可能株式総数について定める議案(以下「本件議案3」という。)を本件臨時総会に提出することなどを決議した。
甲社は,この取締役会の決議に従い,招集手続を経て,本件臨時総会を開催した。本件臨時総会では,Cが,本件優先株式に係る甲社の剰余金の配当の負担を軽減するためには本件株式併合が必要である旨を説明した上で,本件議案3について審議したところ,P及びQが強く反対したが,A及びBが賛成したため,本件議案3が可決された(以下,本件議案3に関する本件臨時総会の決議を「本件決議3」という。)。なお,甲社は,本件臨時総会の開催に先立ち,株主に対する会社法所定の通知をするとともに,本件株式併合に関する事項を記載した会社法所定の書面を本店に備え置いた。また,Pは,本件臨時総会に先立ち,本件株式併合に反対する旨を甲社に対し書面で通知した。
〔設問2〕
⑴ 本件株式併合の効力の発生によって,Pには,どのような不利益が生じ,又は生じるおそれがあると考えられるかについて,説明しなさい。
⑵ Pは,本件決議3に従い,本件株式併合の効力が発生することによって,自己に不利益が生じ,又は生じるおそれがあることに強い不満を感じている。Pは,本件株式併合の効力の発生前の時点で,どのような会社法上の手段を採ることが考えられるかについて,論じなさい。なお,損害賠償を請求するという手段については,論じなくてよい。