司法試験 令和3年 刑事訴訟法
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問題文
[刑事系科目]〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】1 令和2年8月4日午前9時30分,H県I市内の一戸建て家屋に住む女性V(当時77歳)の自宅に電話が掛かってきた。電話を掛けてきた男は,S銀行の職員を装い,Vに対し,「Vさんの預金口座が犯罪組織に利用されており,このままでは預金が全て引き出されてしまいます。本人確認が必要ですので,これから私が質問する内容に正確にお答えください。」と言った。Vは,S銀行I支店に多額の預金をしていたこともあって,電話の相手をS銀行の職員であると信じ,尋ねられるままに,住所がH県I市K町3丁目45番地,生年月日が昭和18年4月10日,夫と死別し,一人暮らしで,一人息子は他県に住んでいること,S銀行I支店に約2000万円の預金があり,台所の食器棚にいわゆるタンス預金として現金500万円があることを話した。電話の相手は,Vに対し,「午前中に私どもの職員がお宅に伺います。」と伝え,電話を切った。
その2時間後,S銀行の職員を装った1名の男がV方を訪れ,Vによって玄関ドアの鍵が開けられると同時にV方内に押し入り,いきなりVの顔面に催涙スプレーを吹き付けた。そして,同男は,持っていたロープでVの身体を後ろ手に緊縛し,さらに,持っていたガムテープで,Vの鼻を塞がないようにしてその口を塞いだ上,台所の食器棚から現金500万円を取り出してこれを強奪した。
その後,同男は,ロープでVの両足を縛り,逃走した(以上の事件を,以下「本件住居侵入強盗」
という。)。
2 その30分後,たまたまV方を訪れたVの息子が,ロープで緊縛されて倒れているVを発見し,直ちにVを助けるとともに,110番通報をした。
その後,H県警察は,事件当時V方周辺に駐車されていた不審車両に関する情報を基に,犯行の際に使用されたレンタカーを割り出し,同車を借りたのが甲であることを突き止めた。
H県警察司法警察員Pらは,甲方の捜索差押許可状の発付を受けた上で,同許可状に基づき,令和2年8月5日午前9時から,H県M市内にある一人暮らしの甲方の捜索を実施し,引き続き,甲をH県M警察署に任意同行した。そして,Pらが本件住居侵入強盗について甲から事情を聴くと,甲は,「Vさん方に押し入り,Vさんを縛り上げて500万円を奪ったのは私です。」と述べた。
そこで,Pは,その旨を録取した供述調書1通を作成した。
また,甲は,「私は,乙の指示で今回の強盗を行い,500万円は乙に全額手渡しました。私たちは,H県I市内のAビル21号室をアジトとしており,そこには私と乙だけが出入りし,そこから乙が強盗のターゲットになる相手に携帯電話で電話を掛けていました。昨日は,午前10時30分,乙に呼び出されてそのアジトに行きました。そして,乙から,Vさんに関する情報や犯行に使う道具などについて印字された紙を見せられ,その説明を受けました。その後,私はVさんの家に向かったのです。」「アジトには,パソコンとプリンターのほか,強盗のターゲットになる人の氏名と電話番号の入った名簿データが保存されているUSBメモリがあります。その名簿には,Vさんの氏名と電話番号もあるのではないかと思います。このUSBメモリは,パスワードが掛けられていて,一度でも間違えると初期化されてしまいます。パスワードは8桁の数字で,乙しか知りません。また,乙の背後には,警察と敵対し,捜査に一切協力しない指定暴力団である丙組がいて,乙は,その幹部に,犯行で得た金の一部を貢いでいます。」と供述したものの,「私が乙や丙組のことを警察に話したと分かると,私の身が危ないので,調書の作成には応じられません。」と述べたことから,以上の供述についての供述調書は作成されなかった。
3 同月5日午後1時,Pらは,甲を,乙及び氏名不詳者と共謀の上,本件住居侵入強盗に及んだ旨の被疑事実で通常逮捕するとともに,裁判官に対し,同被疑事実で,乙名義で借りていることが判明した前記Aビル21号室の捜索差押許可状の発付を請求した。裁判官は,「捜索すべき場所」を「H県I市N町2丁目3番4号Aビル21号室」とし,「差し押さえるべき物」を「被害品と認められる現金,本件に関係ありと思料される名簿,マニュアル,メモ,名刺,パーソナルコンピュータ及びその付属機器類,電磁的記録媒体,携帯電話機及び付属の充電器」とする捜索差押許可状を発付した。
Pらは,同許可状に基づき,同日午後4時,同室に居合わせた乙立会の下,同室の捜索を開始し,まず,パーソナルコンピュータ及びプリンターを差し押さえるとともに,①丙組の幹部丁の名刺1枚(「丙組若頭丁」と印刷されたもの)を差し押さえた。続いて,Pらは,【資料1】のとおり印字されたメモ(以下「本件メモ1」という。)を発見したことから,これを差し押さえた。さらに,Pらは,白色USBメモリ1本及び黒色USBメモリ1本を発見した。これを見た乙は,Pらに対し,「USBメモリの中身を調べずに全部持って行くのですか。パスワードは全部『2222』にしていますから,この場で確認してください。」と申し出たが,Pらは,②前記USBメモリ合計2本について,いずれもその内容をその場で確認することなく差し押さえた。
なお,同室から,携帯電話機は1台も発見されなかった。
4 Pらは,前記捜索を終えると,乙にH県M警察署への任意同行を求め,これに応じた乙は,同日午後7時30分,同署において,甲及び氏名不詳者と共謀の上,本件住居侵入強盗に及んだ旨の被疑事実で通常逮捕された。
5 翌6日,Pらは,差し押さえた前記USBメモリ2本につき,H県警察本部の専門職員の協力を得てその内容の確認作業をした。
すると,前記黒色USBメモリには8桁のパスワードによるロックが掛かっており,一致しないパスワードが入力されると直ちに初期化されてしまう設定がされていることが判明した。そして,同USBメモリのロックを解除すると,Vの氏名と電話番号を含む,多数の者の氏名と電話番号が記載された名簿データや,本件メモ1の記載内容と同一内容のデータが保存されていることが明らかになった。また,同データに対する捜査の結果,本件メモ1が作成されたのが同月4日午前10時20分であったことも明らかになった。
一方,前記白色USBメモリについては未使用であることが判明し,また,差し押さえた前記パーソナルコンピュータ及びプリンターにも本件住居侵入強盗に関するデータが残存していないことが判明したため,Pらは,同月6日中にこれらを乙に還付した。
6 甲は,逮捕後一貫して自己が本件住居侵入強盗を実行したことは認めたが,乙及び丙組の関与をうかがわせる事項は一切供述せず,本件メモ1についても供述を拒んだ。
他方,乙は,逮捕後一貫して黙秘した。
その後,H地方検察庁検察官Qは,甲及び乙について,両名共謀の上,本件住居侵入強盗に及んだ旨の公訴事実で公訴を提起したが,裁判所は,公訴事実に対する認否の見込みを踏まえ,併合審理することなく,それぞれ個別に審理することとした。
7 甲は,自己の公判で,自己が本件住居侵入強盗を実行したことは認めたが,乙及び丙組の関与をうかがわせる事項は一切供述せず,本件メモ1についても全く供述しなかった。
8 他方,乙は,自己の公判において,「全く身に覚えがない。甲と住居侵入や強盗の共謀をしたことも一切ない。」旨述べて公訴事実を否認した。
その後の証拠調べ手続において,③Qが,甲乙間において本件住居侵入強盗に関する共謀が存在することを立証するため,本件メモ1の証拠調べ請求をしたところ,乙の弁護人は,「不同意ないし取調べに異議あり。」との証拠意見を述べた。
その後,甲の証人尋問が実施され,甲は,自己が本件住居侵入強盗を実行したことについては証言したが,本件メモ1の記載事項を含め,乙との共謀に関する事項については,一切の証言を拒絶した。
〔設問1〕 下線部①及び②の各差押えの適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
〔設問2〕1.下線部③で証拠調べ請求された本件メモ1の証拠能力について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。ただし,本件メモ1が乙作成のものであることは証拠上認定できるものとする。
2.仮に,本件メモ1及びその記載と同一内容のデータのいずれもが発見されず,他方で,甲方の前記捜索時に,【資料2】記載のとおりの手書きのメモ(以下「本件メモ2」という。)が,机の施錠された引き出し内にあった甲使用の手帳の令和2年8月4日のページの部分に挟んである状態で発見され,差し押さえられたものとする。また,甲は,捜査段階及び自己の公判を通じて,本件メモ2について全く供述しなかったものとする。
乙の公判の証拠調べ手続において,④Qが,甲乙間において本件住居侵入強盗に関する共謀が存在することを立証するため,本件メモ2の証拠調べ請求をしたところ,乙の弁護人は,「不同意ないし取調べに異議あり。」との証拠意見を述べた。その後,甲の証人尋問が,甲と乙との間及び甲と傍聴人との間の双方に遮へい措置を講じて実施された。甲は,自己が本件住居侵入強盗を実行したことについては証言したが,本件メモ2の記載事項及びその作成経緯を含め,乙との共謀に関する事項については,「私は,誰から何と言われようと証言しませんし,今後も絶対に証言することはありません。」と述べ,一切の証言を拒絶した。
下線部④で証拠調べ請求された本件メモ2の証拠能力について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。ただし,本件メモ2が甲作成のものであることは証拠上認定できるものとする。
【資料1】V K町3-45S18.4.10夫と死別 一人暮らし 息子は県外S銀行 2000万タンス預金500万 台所の食器棚催涙スプレー ロープ ガムテープ後ろ手
【資料2】乙から指示されたことV K町3-45家に一人よきん2000万タンス500万 台所しょっきだなさいるいスプレー ロープ ガムテープ後ろ手口だけ ハナ×両あし