司法試験 令和3年 行政法
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問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕の配点割合は,35:20:45〕)
A市の市道上には多くの屋台が設けられ,簡単な飲食物を提供する営業を行っており,全国各地でこの種の屋台が姿を消しつつある中で,A市の個性として貴重な観光資源となっているほか,街に賑わいや防犯効果をもたらしている。その一方で,A市の屋台には通行の阻害,道路の汚れや排水の垂れ流し等の問題があり,とりわけ,屋台の設置に必要な市道占用許可(道路法第32条第1項第6号)を有する者から名義を借りた別の者が営業を行っている屋台があることから,許可が事実上売買の対象となったり,営業者の頻繁な交代により屋台をめぐる諸問題の解決に向けた継続的な話合いが難しくなったりするといった課題が指摘され,こうした課題はA市議会でも繰り返し取り上げられてきたが,長年にわたり手付かずのままになっていた。
そこで,A市が昨年制定したA市屋台基本条例(以下「本件条例」という。)では,屋台営業に係る市道占用許可の基準及び手続を,新規の許可に係るものと許可の更新に係るものに分けて規定した上で,屋台営業に係る名義貸しを禁止することにより,名義貸し行為の一掃を目指すことにした。具体的には,本件条例は,新規に市道占用許可を受けることができる者を,本件条例の施行の日において市道占用許可を受けて屋台営業を営む者の配偶者又は直系血族に当たる者以外は,本件条例第25条所定の屋台営業候補者に限定している。また,A市のウェブサイトに掲載されている「A市屋台営業候補者募集要項」によると,屋台営業候補者の公募に応募する者は営業希望場所(1か所)を明記した応募申請書等をA市長(以下「市長」という。)に提出し,これを受けて,有識者で構成されるA市屋台専門委員会(以下「委員会」という。)は,市長によって策定された屋台営業候補者選定指針(以下「本件指針」という。)に従って審査を行い,営業希望場所ごとに総合成績が最も優れた者各1名を屋台営業候補者として適当と認める者として推薦し,その後,市長が屋台営業候補者を選定することとされている(なお,屋台営業候補者が市道占用許可及びその後の更新を受けられる期間は通算して原則3年までである。)。このように,他人の名義を借りて営業を行っている屋台にあっては,本件条例の施行後も営業を続けようとすれば,名義人本人が屋台営業を行うか,実際に屋台営業を行っている者が屋台営業候補者の公募に応募することが必要となった。
A市の市道上で他人の名義を借りて屋台営業を行ってきたBは,本件条例の施行後も同じ場所(以下「本件区画」という。)で屋台営業を続けることを希望し,本件条例の施行後に実施された屋台営業候補者の公募(合計20区画)に応募したところ,市長は本件区画についてBを屋台営業候補者に選定しない旨の決定(以下「本件不選定決定」という。)を行う一方で,Cを屋台営業候補者に選定する旨の決定(以下「本件候補者決定」という。)を行った。本件区画で屋台営業を行ってきた実績から,屋台営業候補者に選定されるはずであると考えていたBは,本件不選定決定に不服を持ち,今後の対応を相談するため,弁護士Dに相談した。以下に示された【法律事務所の会議録】を踏まえて,弁護士Dの指示に応じる弁護士Eの立場に立って,設問に答えなさい。
なお,関係法令の抜粋を【資料 関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕
⑴ 本件不選定決定は,取消訴訟の対象となる処分に当たるか,検討しなさい。
⑵ Bは本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益を有するか,検討しなさい。なお,解答に当たっては,本件不選定決定が処分に当たることを前提にしなさい。
〔設問2〕本件不選定決定の取消訴訟において,Bはどのような違法事由の主張をすべきか。想定されるA市の反論を踏まえて,検討しなさい。なお,解答に当たっては,当該訴訟が適法であることを前提にしなさい。
【法律事務所の会議録】弁護士D:Bさんの不服の内容からすると,まずは本件不選定決定の取消訴訟を提起することが考えられます。市長は本件不選定決定が処分に当たると理解して,屋台営業候補者不選定通知書において審査請求や取消訴訟の教示をしていますが,この理解が正しいか検討しましょう。
弁護士E:Bさんは,屋台営業候補者の公募に応募して,本件不選定決定を受けたので,本件条例及び本件条例施行規則の仕組みに即して,屋台営業候補者の選定が申請に対する処分に当たるか,したがって,本件不選定決定が申請拒否処分に当たるかを検討すればいいでしょうか。
弁護士D:基本的な方針はそれでいいと思いますが,Bさんが屋台営業候補者の公募に応募したのは,飽くまでも市道占用許可を受けるためなので,市道占用許可との関係にも注意してください。
なお,A市は,本件条例第9条を行政手続法上の審査基準として定めたようです。本件条例第9条の性格については,我々もA市と同じ立場を取ることにしましょう。
弁護士E:本件不選定決定が処分に当たるとしても,既に市長はCさんに対して本件候補者決定を行っているため,本件候補者決定が取り消されない限り,Bさんは本件区画について屋台営業候補者への選定を受けることができないとも考えられ,本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益は失われていることにならないでしょうか。
弁護士D:その問題については,放送局の開設免許に関する判例(最高裁判所昭和43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13号3254頁)がありますので,この判例を参考にして検討してください。
弁護士E:承知しました。
弁護士D:次に本案で主張すべき違法事由ですが,Bさんは,本件区画で10年以上も屋台営業を行ってきて,A市との間でトラブルもなかったのに,今後営業が続けられなくなると生活の基盤が失われてしまうと述べています。
弁護士E:新しい条例を施行する場合には経過措置を設けるのが通例で,そうすることが法的に要請される場合もありますが,本件条例の施行に際して,Bさんのように従前から他人の名義を借りて屋台営業を行っていた者(以下「他人名義営業者」という。)の地位への配慮はなかったのですか。
弁護士D:市長は,本件条例可決後の記者会見において,A市での屋台営業に係る市道占用許可は6か月ごとの更新のため,本件条例の施行から6か月後には屋台営業候補者が営業を開始できるよう速やかに公募を実施し,その間は他人名義営業の継続を暫定的に認めると述べました。
そうすると,他人名義営業者の地位への配慮は市道占用許可の期間の範囲内にとどまることになりますが,他人名義営業者が市道占用許可の更新を期待し得る地位を有しないのか疑問です。
弁護士E:他人の名義を借りた屋台営業はそもそも道路法上無許可営業に当たり,法的な保護に値しないということでしょうか。
弁護士D:しかし,本件条例制定に至るまでの経緯や関係法令の規定等に照らして,屋台営業において他人の名義を借りることは,営業の実績が全て法的な保護に値しなくなるほど悪質な行為と評価できるのでしょうか。本件条例が違法であるとまではいえないとしても,本件不選定決定の違法事由を検討する上で,まずは,Bさんの地位に対する配慮に欠けるところがなかったか検討してください。
弁護士E:承知しました。
弁護士D:それから,Bさんへの屋台営業候補者不選定通知書には,Bさんの総合成績が本件区画で第2位であった旨が記されていますが,実は,委員会は,Bさんを屋台営業候補者として適当と認める者として推薦していたようです。20区画の応募に対する屋台営業候補者選定決定後の記者会見で,市長が自ら発表したことですが,A市のウェブサイトで公開されている本件指針は,本件条例施行規則第19条第1号から第4号までの各号の審査に25点ずつ配点するとともに各号の審査において考慮すべき要素を例示しているところ,委員会では,他人名義営業者が本件条例の施行後6か月以内に新たな店舗や仕事を探すことは困難である上,特にA市との間でトラブルのなかった他人名義営業者は,今後A市の屋台政策への確実な貢献が期待できるとして,各号の審査では25点の配点の範囲内で営業実績を踏まえて5点を与えるという本件指針の運用を申し合わせたのです。
弁護士E:そうすると,委員会は,他人名義営業者の地位への更なる配慮が必要であると考えていたといえますね。
弁護士D:ところが,委員会の各委員がこの申合せどおりに審査を行った結果,ほとんどの区画についてBさんのような他人名義営業者が屋台営業候補者として適当と認める者として推薦されたため,不審に思った市長が委員会の議事録を取り寄せて申合せの内容を知ったのです。前回市長選挙で屋台営業の刷新を公約に掲げて当選した市長としては,屋台営業者の交代をより積極的に推進して公約を実現したいと考え,委員会の審査結果から申合せに基づく点数を差し引いた総合成績に基づいて屋台営業候補者を選定したと記者会見で発表しました。その結果,Bさんの総合成績が2位になったと考えられます。
弁護士E:事情がよく分かりました。
弁護士D:我々としては,市長は委員会の推薦どおりにBさんを屋台営業候補者に選定すべきであったという立場ですので,既に検討をお願いした他人名義営業者の地位への配慮の問題のほかに,屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せが合理的であったかという問題を検討する必要があります。委員会の申合せが不合理であれば,市長がこれに基づく推薦を覆すのは当然ということになりますから。具体的には,委員会の申合せが本件条例施行規則第19条各号の選定基準に照らして是認することができるか,また,新規に屋台営業を始めようとして公募に応募した者の利益を不当に侵害することにならないか検討してください。なお,A市は,平成7年からA市行政手続条例を施行しており,同条例は行政手続法第2章と同じ内容の規定を設けていますので,必要に応じて参照してください。
弁護士E:承知しました。
弁護士D:そして,これらの検討を踏まえて,本件不選定決定の取消訴訟における違法事由の主張として,市長の選定に係る判断の内容に瑕疵があったと主張することができないか検討してください。さらに,市長が委員会の推薦を覆して選定したこと自体に瑕疵があったと主張することも考えられます。その際には,行政庁である当時の運輸大臣の処分と諮問機関である運輸審議会の決定との関係について一般論を述べた判例(最高裁判所昭和50年5月29日第一小法廷判決・民集29巻5号662頁)がありますので,この判例を参考に,諮問機関の機能等を踏まえて本件不選定決定が違法であると主張することができないか,検討することにしましょう。
弁護士E:承知しました。
【資料 関係法令】
○ 道路法(昭和27年法律第180号)(抜粋)
(道路の占用の許可)
第32条 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物,物件又は施設を設け,継続して道路を使用しようとする場合においては,道路管理者の許可を受けなければならない。
一~五 (略)
六 露店,商品置場その他これらに類する施設七 (略)
2 前項の許可を受けようとする者は,左の各号に掲げる事項を記載した申請書を道路管理者に提出しなければならない。
一 道路の占用(道路に前項各号の一に掲げる工作物,物件又は施設を設け,継続して道路を使用することをいう。以下同じ。)の目的二 道路の占用の期間三 道路の占用の場所四 工作物,物件又は施設の構造五 工事実施の方法六 工事の時期七 道路の復旧方法3~5 (略)
(道路の占用の許可基準)
第33条 道路管理者は,道路の占用が前条第1項各号のいずれかに該当するものであつて道路の敷地外に余地がないためにやむを得ないものであり,かつ,同条第2項第2号から第7号までに掲げる事項について政令で定める基準に適合する場合に限り,同条第1項(中略)の許可を与えることができる。
2~6 (略)
○ A市屋台基本条例(抜粋)
(定義)
第3条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
⑴ 屋台 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第2条第4項に規定する軽車両に飲食店営業(食品衛生法施行令(昭和28年政令第229号)第35条第1号に規定する飲食店営業をいう。次号において同じ。)のための設備を備え付けたものをいう。
⑵ 屋台営業 屋台を一定の時間一定の場所に設置して行う飲食店営業をいう。
⑶ 屋台営業者 屋台営業を営む者をいう。
⑷ 屋台営業従事者 屋台営業者以外の者であって屋台営業に従事するものをいう。
⑸ 市道 道路法(昭和27年法律第180号)第2条第1項に規定する道路であって市が管理するものをいう。
⑹ 市道占用許可 屋台営業を行うための道路法第32条第1項(中略)の規定による市道の占用の許可をいう。
(市道占用許可の申請)
第8条 市道占用許可を受けようとする者(次条第1項(中略)において「申請者」という。)は,道路法第32条第2項に規定する申請書のほか規則で定める書類を市長に提出しなければならない。
(市道占用許可の基準等)
第9条 市長は,申請者(次条第1項に規定する更新申請者を除く。以下この項において同じ。)の申請の内容が道路法第33条第1項に規定する場合に該当する場合であって,次に掲げる基準のいずれにも適合するときに限り,市道占用許可を与えるものとする。
⑴ 申請者が,次のいずれにも該当しないこと。
ア A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団員イ A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団又は暴力団員と密接な関係を有する者
⑵ 申請者が,次のいずれかであること。
ア この条例の施行の日において市道占用許可を受けている屋台営業者(以下「現営業者」という。)の配偶者又は直系血族のうち,同日及び申請の日(現営業者が死亡している場合にあっては,現営業者が死亡した日。)において,主として現営業者が営む屋台営業による収入により生計を維持している屋台営業従事者(その者が2人以上である場合は,そのうちの1人に限る。)
イ 第25条第1項に規定する屋台営業候補者
⑶ 市道占用許可を受けようとする場所が,次のいずれにも適合すること。
ア~ウ (略)
2 (略)
(市道占用許可を受けた者による屋台営業等)
第13条 市道における屋台営業は,市道占用許可を受けた者が,自ら行わなければならない。
2 市道占用許可を受けた者は,市道占用許可に係る権利を他人に譲渡し,転貸し,又は担保に供してはならない。
(屋台営業候補者の公募)
第25条 市長は,市道における屋台営業が,まちににぎわいや人々の交流の場を創出し,観光資源としての効用を発揮することができると認めるときは,場所を指定して,当該場所において市道占用許可を受けることができる者(法人を除く。以下「屋台営業候補者」という。)の公募を行うことができる。
2~3 (略)
4 前3項に定めるもののほか,屋台営業候補者の公募に関し必要な事項は,規則で定める。
(屋台営業候補者の選定等)
第26条 市長は,前条第1項の規定による公募を行った場合は,A市屋台専門委員会に諮り,屋台営業候補者を選定するものとする。
2 A市屋台専門委員会は,規則で定める基準に基づき,当該公募に応募した者のうちから屋台営業候補者として適当と認める者を推薦するものとする。
3 市長は,第1項の規定による選定を行ったときは,その旨を当該屋台営業候補者に通知しなければならない。
(A市屋台専門委員会)
第28条 市長の附属機関として,A市屋台専門委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2~5 (略)
○ A市屋台基本条例施行規則(抜粋)
〔(注) 本規則中,「条例」はA市屋台基本条例を指す。〕(公募書類)
第18条 条例第26条第1項の規定により屋台営業候補者の選定を受けようとする者(以下「公募申請者」という。)は,市長が定める期間内に,公募屋台営業候補者応募申請書(中略)に次の各号に掲げる書類を添えて市長に提出しなければならない。
⑴~⑸ (略)
(選定基準)
第19条 条例第26条に規定する規則で定める基準は,次に掲げるとおりとする。
⑴ 関係法令等を遵守し,安全で快適な公共空間及び良好な公衆衛生を確保する具体的な取組が示されていること。
⑵ 市民,地域住民及び観光客に親しまれ,観光資源としてA市を広報することができる屋台を目指し,従来のA市らしい屋台文化を守るとともに,新たな魅力を創出するための創意工夫が見られること。
⑶ 地域の清掃活動に参加する等地域貢献に向けた具体的な取組が示されていること。
⑷ まちににぎわいや人々の交流の場を創出し,まちの魅力を高めようとする意欲が感じられること。
(決定の通知)
第21条 条例第26条第3項の規定による通知は,屋台営業候補者選定通知書(中略)により行うものとする。
2 市長は,屋台営業候補者として選定しないこととしたときは,屋台営業候補者不選定通知書(中略)により公募申請者に通知するものとする。