司法試験 平成30年 行政法
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問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕の配点割合は,35:40:25〕)
宗教法人Aは,宗教法人法に規定された宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,約10年前からB市の区域内に有している。Aは,以前から墓地用石材の販売等を扱う株式会社Cと取引関係にあったが,Cから,B市内に適当な広さの土地(以下「本件土地」という。)を見付けたので,大規模な墓地の経営を始めないかとの提案を持ち掛けられた。Cがこのような提案をしたのは,B市においては,「B市墓地等の経営の許可等に関する条例」(以下「本件条例」という。)
第3条の定めにより,株式会社であるCは墓地の経営許可を受けることができず,墓地経営のために宗教法人であるAの協力が必要であったという事情による。Aは,大規模な墓地の経営に乗り出すことは財政的に困難であると考えたが,Cから,用地買収や造成工事に必要な費用を全額無利息で融資するとの申出を受けたため,Cの提案を受け入れ,本件土地において墓地(以下「本件墓地」
という。)の経営を行うことを承諾した。そこで,Aは,Cから融資を受けて,平成29年9月25日に本件土地を購入した(なお,本件土地に所有権以外の権利は設定されていない。)。さらに,Aは,「墓地,埋葬等に関する法律」(以下「法」という。)第10条第1項に基づき,本件墓地の経営許可を得るため,本件条例に基づく必要な手続を開始した。なお,B市においては,法に基づく墓地経営許可の権限は,法第2条第5項に基づき,B市長が有している。
Aは,平成29年11月17日,周辺住民らに対して,本件条例第6条に基づく説明会(以下「本件説明会」という。)を開催した。本件説明会は,Aが主催したが,Cの従業員が数名出席し,住民に対する説明は,Aの担当者だけではなくCの従業員も行った。本件土地の周囲100メートル以内に住宅の敷地はなかったが,本件土地から100メートルを超える場所に位置する住宅に居住する周辺住民らが,本件説明会に出席し,本件土地周辺の道路の幅員はそれほど広いものではないため,墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされること,供物等の放置による悪臭の発生並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあることなど,生活環境及び衛生環境の悪化への懸念を示した。しかし,Aは,その後も本件墓地の開設準備を進め,平成30年3月16日,B市長に対して本件墓地の経営許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。
他方,本件土地から約300メートル離れた位置にある土地には宗教法人Dの事務所が存在し,Dは,同所で約10年前から小規模な墓地を経営していた。Dは,本件説明会の開催後,本件土地において大規模な墓地の経営が始まることを知り,自己が経営する墓地の経営悪化や廃業のおそれがあると考えた。Dの代表者は,その親族にB市内で障害福祉サービス事業を営む法人Eの代表者がいたことから,これを利用して,本件申請に対するB市長の許可処分を阻止しようと考えた。Dの代表者は,Eの代表者と相談し,本件土地から約80メートル離れた位置にあるDの所有する土地(以下「D所有土地」という。)に,Eの障害福祉サービスの事業所を移転するよう求めた。Eは,これを受けて,特に移転の必要性はなかったにもかかわらず,D所有土地を借り受けて事業所(以下「本件事業所」という。)を設置し,平成30年3月23日,D所有土地に事業所を移転した。本件事業所は,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に定められた要件に適合する事業所で,短期入所用の入所施設を有しており,本件条例第13条第1項第2号の「障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)」に該当する。本件事業所は,従来のEの施設の利用者を引き継いでいたことから,定員に近い利用者が日常的に利用し,また,数日間連続して入所する利用者も見られた。
B市は,本件事業所の移転やDの代表者とEの代表者に親族関係があるという事情を把握していなかったが,D及びEがB市長に対して平成30年4月16日,本件申請に対して許可をしないよう求める旨の申入れを行ったことにより,上記事情を把握するに至った。D及びEの申入れの内容は,①本件墓地が大規模であるため,B市内の墓地の供給が過剰となり,Dの墓地経営が悪化し,廃業せざるを得ないこともあり得る,②本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあり,本件条例第13条第1項の距離制限規定に違反する,③本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念がある,④本件墓地の実質的経営者は,AではなくCである,⑤仮にB市長が本件申請に対して許可をした場合には,D,E共に取消訴訟の提起も辞さない,というものであった。
B市長は,本件墓地の設置に対する周辺住民の反対運動が激しくなったことも踏まえ,本件申請に対して何らかの処分を行うこととし,平成30年5月16日,法務を担当する総務部長に対し,法に関する許可等を所管する環境部長及びB市の顧問弁護士Fを集めて検討会議を行い,本件申請に対して,許可処分(以下「本件許可処分」という。)を行うのか,あるいは不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)を行うのか,また,それぞれの場合にどのような法的な問題があるのかを検討するよう指示した。
以下に示された【検討会議の会議録】を読んだ上で,弁護士Fの立場に立って,設問に答えなさい。ただし,検討に当たっては,本件条例は適法であるとの前提に立つものとする。
なお,関係法令の抜粋を【資料 関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕B市長が本件申請に対して本件許可処分を行い,D及びEが本件許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起した場合について,以下の点を検討しなさい。
⑴ D及びEは,上記取消訴訟の原告適格があるとして,それぞれどのような主張を行うと考えられるか。また,これらの主張は認められるか。B市が行う反論を踏まえて,検討しなさい。
⑵ 仮に,Eが上記取消訴訟を適法に提起できるとした場合,Eは,本件許可処分が違法であるとして,どのような主張を行うと考えられるか。また,これに対してB市はどのような反論をすべきか,検討しなさい。
〔設問2〕B市長が本件申請に対して本件不許可処分を行い,Aが本件不許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起した場合,Aは,本件不許可処分が違法であるとして,どのような主張を行うと考えられるか。また,これに対してB市はどのような反論をすべきか,検討しなさい。
【検討会議の会議録】総務部長:市長からの指示は,本件申請に対して本件許可処分を行った場合と本件不許可処分を行った場合それぞれに生じる法的な問題について,考えられる訴訟への対応も含めて検討してほしいというものです。法第10条第1項は,墓地経営許可の具体的な要件をほとんど定めておらず,本件条例が墓地経営許可の要件や手続を具体的に定めているのですが,本件条例の法的性質についてはどのように考えるべきでしょうか。
弁護士F:法第10条第1項の具体的な許可要件や手続を定める条例の法的性質については,様々な見解があり,また,地方公共団体によっても扱いが異なるようです。本日の検討では,本件条例は法第10条第1項の許可要件や手続につき,少なくとも最低限遵守しなければならない事項を具体的に定めたものであるという前提で検討することにしましょう。
総務部長:分かりました。では,まず,本市が本件申請に対して本件許可処分を行った場合の法的問題について検討しましょう。この場合,D及びEが原告となって本件許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起することが考えられます。このような訴訟は,法的に可能なのでしょうか。
弁護士F:D及びEに取消訴訟を提起する原告適格が認められるかどうかが争点となります。取消訴訟の他の訴訟要件については特に欠けるところはないと思います。D及びEは,本件許可処分が行われた場合,それぞれどのような不利益を受けると考えて取消訴訟を提起しようとしているのでしょうか。
環境部長:まず,Dについては,既にDの墓地は余り気味で,空き区画が出ているそうです。本件墓地は規模が大きく,本件墓地の経営が始まると,Dは,自らの墓地経営が立ち行かなくなるのではないかと懸念しています。墓地経営には公益性と安定性が必要であり,墓地の経営者の経営悪化によって,墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではないと考えることもできるでしょうね。
弁護士F:ええ。そのことと本件条例が墓地の経営主体を制限していることとの関連も検討する必要がありそうです。
環境部長:次に,Eについては,D所有土地に本件事業所を置いています。Eは,本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念があると考えています。本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので,その限りでは住宅の居住者と変わりがない実態があります。
総務部長:D及びEに原告適格が認められるかどうかについては,いろいろな考え方があると思います。本市としては,D及びEが,原告適格が認められるべきであるとしてどのような主張を行うことが考えられるのか,そして,それに対して裁判所がどのような判断をすると考えられるのかを検討する必要があると思います。これらの点について,F先生に検討をお願いします。
弁護士F:了解しました。
総務部長:次に,仮に原告適格が認められるとした場合,本件許可処分の違法事由としてどのような主張がされるのかについて検討します。主張される違法事由については,DとEとで重複が見られますので,本日は,Eの立場からの主張のみを検討したいと思います。
環境部長:Eは,まず,本件事業所がD所有土地に存在することで本件許可処分は本件条例第13条第1項の規定に違反すると主張しています。そのような主張がされた場合,本市としてはどのように反論するのか考えておく必要がありますね。
弁護士F:そうですね。また,本件においては,仮に,本件墓地の経営許可を阻止するため,DとEが協力して本件事業所を意図的にD所有土地に設置したという事情があるならば,このような事情を距離制限規定との関係で法的にどのように評価すべきかについても,検討する必要がありそうです。
総務部長:F先生が今指摘された事情は,Eの原告適格に関しても問題になるのではないでしょうか。
弁護士F:原告適格の問題として整理する余地もあると思います。しかし,本日の検討では,原告適格ではなく,本案の主張の問題として考えておきたいと思います。
環境部長:本件許可処分の他の違法事由として,Eは,本件墓地の実質的な経営者は,AではなくCであると主張しています。
総務部長:本件墓地の実質的な経営者が,AとCのいずれであるかは検討を要する問題ですね。仮に実質的な経営者がCであるとした場合,法的に問題があるのでしょうか。
弁護士F:本件条例によると,墓地の経営者は,地方公共団体のほか,宗教法人,公益社団法人等に限られています。仮に本件墓地の実質的な経営者がCであるとすれば,このような点も踏まえ,法や本件条例の関連諸規定に照らして違法となるのかについて,注意深く検討する必要がありますね。
総務部長:では,この点についてもF先生に検討をお願いします。また,以上のような本件許可処分の違法事由について,Eがこれら全てを取消訴訟において主張できるかについても,検討する必要がありますね。
弁護士F:はい。Eが,自己の法律上の利益との関係で,いかなる違法事由を主張できるかにも注意して検討すべきと考えています。
総務部長:次に,本件申請に対して,本件不許可処分を行った場合です。この場合にはAが本件不許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起することが想定されます。本日は,この取消訴訟における本案の主張の検討をお願いします。
環境部長:環境部では本件不許可処分をする場合の処分理由として,次のことを考えています。(ア)
本件墓地周辺の生活環境及び衛生環境が悪化する懸念から,周辺住民の反対運動が激しくなったこと,(イ)Dの墓地を含むB市内の墓地の供給が過剰となり,それらの経営に悪影響が及ぶこと,(ウ)本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあること,の3点です。
弁護士F:(ウ)については先ほど検討しましたので,本件不許可処分の問題としては,検討を省略しましょう。まず,(ア)について補足される点はありますか。
環境部長:Aは,本件墓地の設置に当たっては,植栽を行うなど,周辺の生活環境と調和するよう十分配慮しているとしていますが,住民の多くはそれでは十分ではないと考えています。
弁護士F:次に,(イ)についてですが,本件墓地の経営は,B市内の既存の墓地に対して大きな影響を与えるのでしょうか。
環境部長:Dの墓地を含めて,B市内には複数の墓地がありますが,いずれも供給過剰気味で,空き区画が目立つようになっています。本件墓地の経営が始まれば,Dの墓地のような小規模な墓地は経営が破綻する可能性もあると思います。
総務部長:では,これらの(ア)及び(イ)の処分理由に対して想定されるAからの主張について,本市からの反論を含めて,F先生に検討をお願いします。
弁護士F:了解しました。
【資料 関係法令】
○ 墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)(抜粋)
第1条 この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。
第2条 この法律で「埋葬」とは,死体(中略)を土中に葬ることをいう。
2,3 (略)
4 この法律で「墳墓」とは,死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設をいう。
5 この法律で「墓地」とは,墳墓を設けるために,墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつては,市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域をいう。
6,7 (略)
第10条 墓地,納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならない。
2 (略)
○ B市墓地等の経営の許可等に関する条例(抜粋)
(趣旨)
第1条 この条例は,墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号。以下「法」という。)
第10条の規定による経営の許可等に係る事前手続並びに墓地,納骨堂又は火葬場(以下「墓地等」
という。)の設置場所等,構造設備及び管理の基準その他必要な事項を定めるものとする。
(墓地等の経営主体)
第3条 墓地等を経営することができる者は,原則として地方公共団体とする。ただし,次の各号のいずれかに該当し,B市長(以下「市長」という。)が適当と認める場合は,この限りでない。
⑴ 宗教法人法(中略)に規定する宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,B市(以下「市」という。)の区域内に有するもの
⑵ 墓地等の経営を目的とする公益社団法人又は公益財団法人で,登記された事務所を,市の区域内に有するもの2 前項に規定する事務所は,その所在地に設置されてから,3年を経過しているものでなければならない。
(説明会の開催)
第6条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けて墓地等を経営しようとする者は,当該許可の申請に先立って,規則で定めるところ〔注:規則の規定は省略〕により,墓地の設置等の計画について周知させるための説明会を開催し,速やかにその説明会の内容等を市長に報告しなければならない。
(経営の許可の申請)
第9条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けようとする者は,次の各号に掲げる事項を記載した申請書を市長に提出しなければならない。
⑴~⑹ (略)
2 墓地又は火葬場の経営の許可を受けようとする者は,前項の申請書に次の各号に掲げる書類を添付しなければならない。
⑴ 法人(地方公共団体を除く。)にあっては,その登記事項証明書
⑵ 墓地又は火葬場の構造設備を明らかにした図面
⑶ 墓地にあっては,その区域を明らかにした図面
⑷ 墓地又は火葬場の周囲100メートル以内の区域の状況を明らかにした図面
⑸ 墓地又は火葬場の経営に係る資金計画書
⑹ (略)
3 (略)
(墓地等の設置場所等の基準)
第13条 墓地及び火葬場は,次の各号に定めるものの敷地から100メートル以上離れていなければならない。ただし,市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,この限りでない。
⑴ 住宅
⑵ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(中略)に規定する障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)
⑶~⑸ (略)
2 墓地及び火葬場は,飲料水を汚染するおそれのない場所に設置しなければならない。
3 墓地等の土地については,当該墓地等の経営者(地方公共団体を除く。)が,当該墓地等の土地を所有し,かつ,当該土地に所有権以外の権利が設定されていないものでなければならない。ただし,市長が当該墓地等の経営に支障がないと認めるときは,この限りでない。
(墓地の構造設備の基準等)
第14条 墓地には,次の各号に掲げる構造設備を設けなければならない。ただし,市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,この限りでない。
⑴ 外部から墳墓を見通すことができないようにするための障壁又は密植した垣根
⑵ 雨水等が停滞しないようにするための排水路
⑶ 墓地の規模に応じた管理事務所,便所,駐車場並びに給水及びごみ処理のための設備(墓地の付近にあるこれらのものを含む。)
2 墓地の構造設備については,植栽を行う等周辺の生活環境と調和するように配慮しなければならない。