司法試験 平成29年 知的財産法
答案を提出
AI添削を使うにはログインしてください。
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
製薬会社X1は,「薬剤αと,薬剤γ1,γ2,γ3及びγ4から選ばれる薬剤βとを組み合わせて成る糖尿病治療用医薬」という発明について,平成27年4月1日に特許出願し,平成28年4月5日に設定登録を受けた(以下,「本件特許権」といい,同特許権に係る発明を「本件特許発明」
という。)。薬剤α及び薬剤βは,いずれもそれぞれ単体として従来より公知の糖尿病治療用医薬であったが,本件特許発明は,薬剤αと薬剤βを組み合わせ,併用して服用することによって,従来の治療用医薬にはない顕著な効能を奏する発明である。また,薬剤βは薬局で市販されている薬剤であるが,薬剤αは医師の処方せんがないと入手できない薬剤である。
X1は,別の製薬会社であるX2に対し,本件特許権について,範囲を全部,地域を日本全国,期間を特許権の存続期間全部とする専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)を設定し,本件専用実施権は登録された。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。
なお,本件特許権はいわゆる併用・組合せ特許として有効であるものとし,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(いわゆる医薬品医療機器等法)所定の問題は考慮しないこととする。また,各設問の事実関係はそれぞれ独立したものであって相互に関連性はないものとする。
〔設 問〕1.製薬会社Yは,薬剤α(顆粒)の他に,薬剤βの一種である薬剤γ1(カプセル入りの液体)
とをそれぞれ別個に製造・販売していたが,平成27年1月,本件特許発明の内容を知らずに,薬剤αと薬剤γ1を同時に服用すると更なる顕著な効果を生じるのではないかと着想し,組み合わせる用量の試行錯誤を重ねたところ,同年3月,薬剤αと薬剤γ1を最適な用量で組み合わせた糖尿病治療用医薬αγ1(以下「Y製品1」という。)を見いだし,直ちに両薬剤を組み合わせるための生産ラインの設計・製造を外部に発注したところ,平成28年8月頃,同製造ラインが完成したため,生産を開始した。その後,Yは,Y製品1の更なる改良に取り組み,その結果,薬剤βの一種ではあるが薬剤γ1と比較して更に薬理効果の高い薬剤γ2と薬剤αを組み合わせた糖尿病治療用医薬αγ2(以下「Y製品2」という。)を開発し,平成29年4月以降,これを製造・販売している。
X1は,Yに対し,YによるY製品2の製造・販売は本件特許権を侵害するものであると主張して,Y製品2の製造・販売の差止めを求めて訴訟を提起した。
X1は,どのような主張をすべきか。これに対するYの反論として,どのような主張が考えられるか。その妥当性についても論じなさい。
2.製薬会社Zは,薬剤α(顆粒)を単体の糖尿病治療用医薬として製造・販売していたが,Z製の薬剤α(以下「Z製品」という。)は,医師の処方せんに基づき薬剤師によって,患者に対して,製薬会社Aの製造に係る薬剤β(カプセル入りの液体。以下「A製品」という。)と一緒に処方され,患者に対してA製品と同時に服用するように指示され使用されている場合が多かった。
Zは,本件特許権の存在を知り,かつ上記の処方・使用の事実を知りながら,あえてZ製品の製造・販売を続けていた。
X2は,Zに対し,本件専用実施権に基づいてZ製品の製造・販売の差止めを求めて訴訟を提起した。
X2は,どのような主張をすべきか。これに対するZの反論として,どのような主張が考えられるか。その妥当性についても論じなさい。
3.X2は,X1の承諾を得て,製薬会社X3に対し,自ら本件特許発明を実施しないことを約して独占的な通常実施権を許諾し(ただし,X3による再実施許諾権はない。),これを受けたX3は,自らは本件特許発明の実施品である治療用医薬を製造・販売せず,契約に反し別の製薬会社Bに再実施許諾して本件特許発明の実施品である治療用医薬(以下「B製品」という。)
を製造・販売させて,継続的に実施料を得ている。
一方,X2は,同様にX1の承諾を得て,X3との上記実施許諾契約に反し,製薬会社Cに対し,本件専用実施権について通常実施権を許諾し,これを受けたCは,本件特許発明の実施品である治療用医薬(以下「C製品」という。)を製造・販売している。その結果,本件特許発明の実施品の市場はB製品とC製品とで二分された状況になっている。
X3は,Cに対して,C製品の製造・販売の差止めと特許法第102条第2項により算定した損害賠償を求めて訴訟を提起した。
X3は,どのような主張をすべきか。これに対するCの反論として,どのような主張が考えられるか。その妥当性についても論じなさい。
〔第2問〕(配点:50)
社会福祉法人丙は,ある市においてチャリティーコンサート(以下「本件コンサート」という。)
を開催し,無報酬での出演を引き受けてくれた歌手Aに歌ってもらった。本件コンサートは,この市の職員を対象としたもので,50名が来聴した。入場は無料だったが,会場で配布されたプログラムの中に,市内の福祉施設への寄附のお願い文と封筒が挟んであり,そのお願い文には,寄附をしたい者は封筒に金銭を入れて出口に置かれた募金箱に投じるようにと記載されていた。丙は,今後も近隣の市において同じ演目のチャリティーコンサートを催す予定である。
本件コンサートの主催者は丙であるが,歌の選曲はAに任されていたところ,歌われた曲の中に,乙が作曲した曲を10曲集めて自ら発行したCD(以下「本件CD」という。)に含まれていたMという曲があった。
Mの歌詞は,反戦活動家の甲が,全国各地の戊辰戦争の戦場を巡り,その土地に伝わる戦争に関する詩を集めて編んだ詩集(以下「本件詩集」という。)に収められた詩の一編である詩Pを,そのまま利用したものである。本件詩集は,戦争の悲惨さを格調高く歌った詩60編を甲が厳選し,テーマごとに6章に分けて構成したものであり,詩Pは,「戦の果てに」と題する章であるQ章を構成する10の詩の中の一つであった。平和運動家としても知られる乙は,本件詩集を読み,Q章「戦の果てに」において,戦争により荒れた田畑や戦死者の遺族の悲しみを詠んだ詩がまとめられているという構成に初めて接して感銘を受け,平和を祈念してQ章「戦の果てに」の10の詩に曲を付けて本件CDとして発行したが,収録した曲の順序は,本件詩集のQ章の収載順とは異なっていた。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕1.乙は,本件コンサートにおけるMの歌唱は乙の著作権を侵害するものであるとして,丙に対して,今後丙が催す予定の同じ演目のチャリティーコンサートの開催の差止めを求める訴訟を提起した。乙は,どのような主張をすべきか。これに対する丙の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。なお,本件コンサートのプログラムには,Mの作曲者が乙であることは表示されていたものとする。
2.インターネット上で,エンターテインメントに関するニュース配信の事業を行っている新聞社丁は,本件コンサートが開催されたという記事(以下「本件記事」という。)を配信し,この記事にAがMを歌っている場面の動画(丁が取材して録画したもの。以下「本件動画」という。)
を貼り付けた。本件記事の文章は500文字であり,本件動画は,Mの歌唱全体が7分間であったうちの1分間で構成されている。画面上,本件動画の部分は画面の8分の1の面積の窓になっており,その横に本件記事の文章が配置されている。なお,丁の配信記事に配信期限はなく,一旦配信されたものは,そのまま配信され続けるシステムになっており,本件コンサートの開催から1年以上経過してもなお本件記事は配信されている。
乙は,丁に対して,本件動画の配信は乙の著作権を侵害するものであるとして,本件動画の配信の差止めを求める訴訟を提起した。乙は,どのような主張をすべきか。これに対する丁の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
3.乙は,本件CDに収められた楽曲の創作及び発行に際し,甲の許諾を得ておらず,本件CDに本件詩集や甲についての言及もなかったので,甲は,乙の本件CDの発行は甲の著作権及び著作者人格権を侵害するものであるとして,本件CD発行の差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起した。甲は,どのような主張をすべきか。これに対する乙の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
4.乙は,本件CDに収められた楽曲の創作及び発行に際し甲の許諾を得ており,同楽曲に関する著作権を著作権管理団体Jに信託的に移転していたものとする。戊は,劇団主宰者であり,戦争を茶化した喜劇の背景音楽として,Mを繰り返し再生している。再生に際し,戊は著作権管理団体JからMの再生の許諾を得ていた。乙は,戊のMの使用態様は乙がMを作曲した意図を損ない,戊がこのような趣旨によりMを再生することは乙の権利を侵害すると主張して,Mの再生の差止めを求める訴訟を提起した。乙は,どのような主張をすべきか。これに対する戊の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。