予備試験 令和5年 民事訴訟法
問題文
[民事訴訟法]〔設問1〕〔設問2〕と(の配点の割合は、3:2)次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事例】甲土地は、Xの所有である。Yは、甲土地に乙建物を建築し、これを所有していた。Yは、その後、乙建物を3つの部分に分けて、それぞれ、A、B、C(以下「Aら3名」という。)に賃貸した。Aら3名は、Yの承諾を得て、それぞれが賃借していた建物の部分を各自増改築した。なお、増築した各部分は、それぞれ増改築される前から存在していた部分と一体として店舗兼居宅として利用されており、増築した各部分は構造的にも機能的にも建物としての独立性を欠き、それぞれ不可分の状態にあった。Xは、Yを被告として、甲土地の所有権に基づき、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴え(①訴訟)を提起し、第一審では勝訴の判決を得た。その後、Yは控訴した。
【事実Ⅰ】
【事例】の控訴審において、Yから、乙建物はAら3名の増改築によってその形状が著しく変更され、乙建物はAら3名の所有に属するものとなっている旨の主張がされた。真実は、増築部分も含めて乙建物の所有権はYに帰属していたが、Xは、乙建物は増改築によって形状が著しく変更されており、増築部分も含む乙建物はAら3名の所有に属し、Yは所有しておらず、Yとの間で乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えを維持することは不可能であると誤認して、この訴えに換えて、甲土地についてのYの賃借権の不存在を確認することを求める訴えに変更した。控訴審は、変更後の訴えにつき、甲土地についてYの賃借権が存在しないことを確認する判決をし、その判決が確定した。しかし、その後、Yが、増築部分を含めて乙建物は自らの所有であることを主張したので、Xは、Yに対して、甲土地の所有権に基づき乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴え(②訴訟)を提起し、他方、Aら3名に対しては、甲土地の所有権に基づき乙建物から退去してその敷地部分を明け渡すことを求める訴えを提起した。
〔設問1〕
【事例】及び
【事実Ⅰ】の事実関係を前提に、次の設問に答えなさい。Yは、判例を踏まえれば、
【事実Ⅰ】の下線部の訴え(②訴訟)は却下を免れないと主張している。Yの主張の根拠を明らかにした上で、その主張の当否について、理由を付して答えよ。
【事実Ⅱ】(
【事実Ⅰ】とは別の事実関係である。)
【事例】の第一審の判決後、かねてから乙建物を店舗兼居宅として利用したいと考えていた第三者Dは、Yに対して、Xとの間で和解が成立するなどして乙建物を利用することができる状態になれば借り受けたいとして、その賃借を申し入れた。Yは、Dに対して乙建物を賃貸したいと考えたことから、控訴審において、Xとの和解を申し出た。裁判所から(a)X及びYは甲土地がXの所有であること及び乙建物がYの所有であることを相互に確認する、(b)XがYに甲土地を賃貸することを相互に確認するなどの和解案が提示され、XY間で当該和解案どおりの内容の訴訟上の和解が成立し、その旨調書に記載された。その後、Aら3名は乙建物を退去し、Yは乙建物をDに賃貸した。- 6 -
〔設問2〕
【事例】及び
【事実Ⅱ】の事実関係を前提に、次の設問に答えなさい。和解交渉の際に、Yは、Xに対して、乙建物を賃貸して生計を立てていたが、現在居住している丙建物が取り壊されることになり、今後は自ら乙建物を店舗兼居宅として利用したいので和解に応じてほしいとの虚偽の説明をし、Xは、Yの説明を信じ、やむを得ないと考えて、和解に応じることにした。しかし、訴訟上の和解が成立した後、Xは、丙建物が取り壊される予定はなく、Yが引き続き丙建物に居住し、乙建物はDが店舗兼居宅として利用していることを知り、だまされたことに気が付いた。Xは、第一審では勝訴しており、控訴審がそのまま継続していれば、勝訴したと考えている。Xとしては、Yに対して、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求めたいと考えているが、この場合には、どのような手続上の手段を採ることが考えられるか。理由を付して答えよ。- 7 -
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔設問1〕は、民事訴訟法第262条第2項の「再訴禁止」に関する問題である。その前提としていわゆる「訴えの交換的変更」についても考えることになる。両者の理解を、具体的な事例を通して複合的に問うものである。設問1では、まず、訴えの交換的変更について検討することが求められている。判例(最判昭和32年2月28日民集11巻2号374頁)は、交換的に訴えが変更される場合は、訴えの変更の独自の類型とせず、新訴の提起と旧訴の取下げとが結合したものと解している。設問1では、このような先行判例の存在を踏まえて、②訴訟は却下を免れないとするYの主張の意味を考えることになる。次に、第一審の判決があった後の控訴審において訴えの交換的変更が行われたことを前提に、民事訴訟法第262条第2項の再訴禁止規定の適用について検討することが求められている。既判力や信義則適用の問題につき検討することは求められていない。その検討に際しては、判例(最判昭和52年7月19日民集31巻4号693頁)の理解を踏まえて検討することが期待されている。
〔設問2〕は、和解が実体法上無効である場合の訴訟上の和解の効果についての問題である。訴訟上の和解に関して、その効力(特に民事訴訟法第267条による既判力の有無)の理解とそれが無効となる場合のその主張方法の理解を、具体的な事例を通して問うものである。つまり、設問2では、まず、訴訟上の和解につき、詐欺により当事者の意思表示に瑕疵があることを理由に、それが無効となるかどうかにつき検討することが求められている。その検討に際しては、判例(最判昭和33年6月14日民集12巻9号1492頁等)の理解を踏まえながら、既判力の有無の議論と関連させて、検討することが期待されている。その上で、設問での訴訟上の和解を無効とする場合には、どのような手続上の手段を採って主張するのかを検討することが求められる。そこでは、設問2に記載されている事情を踏まえて、その事情に対応した手段を検討し、指摘することが期待されている。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 Yの主張の根拠
Yの主張は次の二段の論理による。第一に、Xが控訴審において建物収去土地明渡請求の訴えを甲土地についてのYの賃借権不存在確認を求める訴えに「変更」したのは、訴えの交換的変更である。訴えの交換的変更については明文の規定がなく、判例は、これを訴えの変更(民事訴訟法143条1項。以下、同法は法令名を省略する)の独自の類型とはせず、新訴の提起と旧訴の取下げとが結合したものと解している(最判昭和32年2月28日)。これによれば、①訴訟の訴えは取り下げられたことになる。なお、旧訴の取下げには相手方の同意を要するが(261条2項)、Yは控訴審において変更後の訴えについて応訴しその判決が確定しているから、黙示の同意があったものと認められる。
第二に、「本案について終局判決があった後に訴えを取り下げた者は、同一の訴えを提起することができない」(262条2項)。①訴訟については第一審でXの勝訴判決がされており、Xはその後の控訴審において訴えを取り下げたことになる。そして、②訴訟はXのYに対する甲土地の所有権に基づく乙建物収去土地明渡請求であり、取り下げられた訴えと当事者および訴訟物を同じくする。
したがって、②訴訟は262条2項の再訴禁止に触れ、却下を免れないというのがYの主張の根拠である。
2 主張の当否
(1) 訴えの交換的変更が新訴の提起と旧訴の取下げの結合であり、第一審の終局判決後の控訴審において行われたという点については、Yの主張の前提を是認できる。
(2) 問題は、②訴訟が262条2項にいう「同一の訴え」にあたるかである。訴えが取り下げられると訴訟は初めから係属していなかったものとみなされ(262条1項)、既にされた終局判決も効力を失う。そこで同条2項は、終局判決を得ておきながらこれを無にして再び同一の訴えを提起することを禁じ、裁判所の終局判決を徒労に帰させる行為を抑制するとともに、被告を同一紛争についての応訴の煩から解放する趣旨である。すなわち同項は、訴訟制度をみだりに利用する行為に対する制裁的規定である。
そうすると、同項の適用は上記趣旨に照らして限定的に解すべきであり、「同一の訴え」とは、当事者および訴訟物が同一であるだけでなく、訴えによって保護を求める利益ないしその必要性も同一である場合をいうと解すべきである。したがって、訴えの取下げ後に新たに生じた事情によって再度の訴えを提起する必要が生じた場合には、同項の適用はない(最判昭和52年7月19日参照)。
(3) 本件にあてはめる。
Xが①訴訟の訴えを交換的に変更したのは、控訴審においてYから、乙建物はAら3名の増改築によってその形状が著しく変更され、Aら3名の所有に属するものとなっている旨の主張がされたため、Xが、Yとの間で建物収去土地明渡しを求める訴えを維持することは不可能であると誤認したからである。真実は増築部分も含めて乙建物の所有権はYに帰属していたのであり、Xの誤認は、Y自身が乙建物の所有権を自己に帰属しないものとして主張したことによって引き起こされたものである。
その後、控訴審判決の確定後に、Yは態度を翻し、増築部分を含めて乙建物は自らの所有であることを主張するに至った。そのためXは、改めてYに対し乙建物の収去と甲土地の明渡しを求める必要が生じたのである。
すなわち、②訴訟を提起する必要性は、旧訴の取下げの後にYが従前の主張を翻したという新たな事情によって生じたものであって、取下げの時点における訴えの必要性と同一ではない。
(4) また、Xの訴えの変更は、Yの主張を信じたことによるやむを得ないものであり、裁判所の終局判決を徒労に帰させることを意図して訴訟を弄ぶ行為とは全く性質を異にする。むしろ、①訴訟において乙建物の所有権が自己に帰属しないと主張しておきながら、その判決の確定後にこれを自認して再訴禁止を援用するYの態度は、自ら招いたXの誤認に乗じてXの権利行使を封じるものであって、訴訟上の信義(2条)に照らしても容認し難い。
(5) 以上より、②訴訟は262条2項にいう「同一の訴え」にあたらず、または同項の趣旨に照らしてその適用を受けないから、再訴禁止には触れない。
3 したがって、②訴訟が却下を免れないというYの主張は理由がなく、②訴訟は適法である。
なお、変更後の訴えについての確定判決の既判力は、甲土地についてYの賃借権が存在しないという判断についてのみ生ずるにとどまり(114条1項)、②訴訟の訴訟物である所有権に基づく建物収去土地明渡請求権の存否と同一・先決・矛盾の関係に立たないから、②訴訟に作用するものではない。
第2 設問2
1 訴訟上の和解の効力
(1) 和解を調書に記載したときは、その記載は確定判決と同一の効力を有する(267条)。本件では和解案どおりの内容の訴訟上の和解が成立し、その旨調書に記載されているから、本件訴訟は和解によって終了したことになる。
(2) そこで、「確定判決と同一の効力」に既判力が含まれるかが問題となる。既判力を認めると、和解の内容に実体法上の瑕疵があっても再審事由に準じる事由がなければこれを争えず、当事者の救済に欠ける。他方、既判力を全く否定すると、和解による紛争解決の実効性が損なわれる。そして、訴訟上の和解は当事者の互譲による意思表示を基礎とするものであって、裁判所の審理判断を経た判決とは性質を異にするから、意思表示に瑕疵がある場合に既判力をもって当事者を拘束することは、既判力の正当化根拠である手続保障の観点から正当化できない。
そこで、訴訟上の和解には原則として既判力が生ずるが、錯誤・詐欺・強迫等の実体法上の無効・取消原因がある場合には、これを主張して和解の効力を否定し得ると解する(制限的既判力説)。判例も、訴訟上の和解に意思表示の瑕疵がある場合に和解が無効となることを認めている(最判昭和33年6月14日等)。
2 本件和解の瑕疵
Yは、和解交渉の際に、Xに対し、現在居住している丙建物が取り壊されることになり今後は自ら乙建物を店舗兼居宅として利用したいとの虚偽の説明をした。Xはこれを信じ、やむを得ないと考えて和解に応じたのである。
しかし真実は、丙建物が取り壊される予定はなく、Yは引き続き丙建物に居住し、乙建物はDが利用している。しかも、Yは控訴審における和解の申出に先立ってDから乙建物の賃借の申入れを受け、Dに賃貸したいと考えていたのであるから、当初から自ら乙建物を利用する意図はなく、ことさらに虚偽の事実を告げたものである。
したがって、Yの行為はXを欺いて錯誤に陥らせ和解の意思表示をさせるものであって、詐欺(民法96条1項)にあたる。Xは第一審で勝訴しており、Yの説明がなければ甲土地をYに賃貸するという内容を含む和解に応じることはなかったから、欺罔行為と和解の意思表示との間に因果関係も認められる。
よって、Xは詐欺を理由に和解の意思表示を取り消すことができ、取消しにより和解は初めから無効であったものとみなされる(民法121条)。
3 採るべき手続上の手段
(1) 制限的既判力説によれば、和解が取り消され無効となる場合には267条の効力も生じないから、和解による訴訟終了の効果も生じない。すなわち、本件訴訟は控訴審においてなお係属していることになる。
そこで、Xは、Yに対して詐欺による取消しの意思表示をした上で、控訴審裁判所に対し期日指定の申立てをし、和解は無効であって訴訟は終了していないとして、乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める従前の請求についての審理の続行を求めるべきである。
受訴裁判所は、和解の効力について審理し、無効と認めるときは弁論を続行して本案について判決をし、有効と認めるときは訴訟終了宣言判決をすることになる。
(2) この手段が最も適切である。控訴審は続審制を採り、第一審の訴訟資料・証拠資料に新資料を追加して審理するから(296条、297条)、Xは第一審で積み重ねた訴訟資料と勝訴判決をそのまま利用することができ、控訴審がそのまま継続していれば勝訴したというXの利益に最も適う。
(3) 他の手段との比較を述べる。
ア 和解無効確認の訴えを別途提起する方法は、確認判決に執行力がなく本件訴訟の帰趨を直接決することができないから迂遠である。
イ 和解の無効を前提に、改めてYに対し乙建物の収去と甲土地の明渡しを求める新訴を提起する方法も考えられる。しかし、第一審からやり直すことになって従前の訴訟資料を利用できずXに不利益であり、また、和解が無効であれば本件訴訟はなお係属しているのであるから、新訴は重複起訴の禁止(142条)に抵触するおそれがある。
ウ 請求異議の訴え(民事執行法35条)は債務名義に基づく執行を阻止するための手段であり、本件和解の内容は所有権と賃貸借の相互確認であって執行の問題を生じないから適切でない。
エ 再審の訴え(338条)は確定判決に対する不服申立手段であり、制限的既判力説のもとでは和解の無効は期日指定の申立てによって主張し得るから、これによる必要はない。
(4) 以上より、Xは、詐欺による取消しの意思表示をした上で、控訴審裁判所に対し期日指定の申立てをし、本件訴訟の審理の続行を求めるべきである。
以上