予備試験 令和8年 民法
問題文
次の文章を読んで、後記の〔設問1⑴・⑵〕及び〔設問2〕に答えなさい。
解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和8年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えなさい。なお、民法以外の法令の適用について検討する必要はない。
【事実Ⅰ】
1.個人で果樹園を営むAは、新しいビニールハウス(以下「本件ハウス」という。)を建設する計画を立て、令和8年1月25日、古くから付き合いのある施工業者B及びCを自宅に呼び、同年の果樹栽培のためには本件ハウスが是非とも必要であることを話した上、3人で相談したところ、Bがこの施工を引き受けることを強く希望した。
2.【事実Ⅰ】1の相談の結果、令和8年1月25日、AB間において、Bが同年5月末日までに本件ハウスの施工を完了してAに引き渡すこと、報酬を300万円とすること等を内容とする請負契約(以下「契約①」という 。)が締結された。Bが、資材等を早めに調達するためとして報酬の前払いを希望したので、契約①においては、報酬300万円のうち200万円を同年1月30日までに支払うことが合意された。
3.また、 【事実Ⅰ】1の相談の結果、令和8年1月25日、AC間において、契約①に基づき、BがAに対して負う債務をCが連帯保証する旨の契約(以下「契約②」という。)が締結され、その旨の契約書が作成された。契約②の締結に当たっては、Cが果樹栽培用ビニールハウスを施工する能力及び経験を持つことが考慮されていた。
4.令和8年1月30日、 【事実Ⅰ】2の報酬の支払期日に関する合意に従い、Aは、Bに対し、200万円を支払った。
5.契約①及び②が締結された頃、Bは、仕事の資金繰りに窮しており、令和8年1月30日に報酬のうち200万円の前払いを受けることを希望したのも、本件ハウスの施工に必要な資材等を買い入れるためでなく、 専ら他からの借入金を返済する目的であった。Bは、Aから受領した200万円を借入金の返済に充てると本件ハウスの完成が困難になることを知りながら、その全額を借入金の返済に充ててしまった。また、Cは、契約②を締結した時、Bの資金繰りの状況及び報酬の前払いを希望した目的に気付いていた。
6.Cは、令和8年2月20日に急死した。Cの相続人は、Cの子であるDのみであり、Dは、Cの死亡を知った後、同年3月5日頃までに相続財産の一部の売却などを行い、相続を単純承認したものとみなされた。なお、Dは、IT関係の企業に勤務しており、果樹栽培用ビニールハウスを施工する十分な能力及び経験を持たなかった。
7.Aは、令和8年3月1日に、Cが死亡したこと及びその相続人がDであることを知った。
また、Aは、同じ頃に 【事実Ⅰ】5のBの資金繰りの状況及び報酬の前払いを 希望した目的を知った。そこで、Aは、契約①はBがAを欺罔して締結させたものであり、このようなBに本件ハウスの施工をさせることはできないと考えるに至った。
8.Aは、令和8年3月10日頃、果樹園の運営を続けるために確実に本件ハウスを完成させ
たいと考え、 ㋐契約②に基づき、Dに対し、D自身又はDが選択した適切な業者により本件ハウスを完成させるよう請求 するか、又は㋑契約①をBの詐欺を理由として取り消し、契約
②に基づき、Dに対し、Bに支払った請負報酬の一部である200万円の支払を請求 した上で、A自身が他の業者に本件ハウスの施工を請け負わせるか、いずれかの手段を採ろうと考えた。
〔設問1〕
⑴ 下線部㋐のAからDに対する請求が認められるかについて、論じなさい。
⑵ 下線部㋑の AからDに対する請求が認められるかについて、論じなさい(なお、契約①がBの詐欺により締結されたことを理由とするAの取消し( 民法第96条第1項)は、認められるものとする。)。
【事実Ⅱ】
前記【事実Ⅰ】1から8までに加えて、以下の事実があった。
9.Aは、果樹園の他に、甲土地を所有している。甲土地は公道に面しており、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地」(民法第210条第1項)には当たらないが、甲土地と隣接する乙土地を自動車で通行することができると幹線道路への出入りが便利であった。そこで、A は、乙土地を所有するEと協議し、令和8年5月15日、Eとの間で、甲土地を要役地として、乙土地を自動車で通行することを内容とする地役権の設定契約(以下「契約 ③」という。)を締結したが、その旨の地役権設定登記はされなかった。Aは、契約 ③の締結後、乙土地の一部(以 下「本件通路部分」という。)を舗装するなどして通路として整備し、自動車で頻繁に通行していた。
10.Aは、令和12年2月15日、Fとの間で、甲土地を代金1000万円でFに売却する旨の契約(以下「契約④」という。)を締結し、代金の支払と引換えに、甲土地につき、売買を原因とするAからFへの所有権移転登記と引渡しがされた。契約④の締結に当たり、Aは、「Eとは契約③を結んでいるので、本件通路部分を自動車で通行することが可能である 。」
とFに説明していた。Fは、契約④の締結後、本件通路部分を通路として維持しつつ、自動車で頻繁に通行していた。
11.Eは、令和12年6月5日に死亡し、Gが唯一の相続人として乙土地を相続した。Gは、Eの生前に、契約③の存在を知らされていなかった。この 頃、乙土地につき、相続を原因とするEからGへの所有権移転登記がされた。
12.G は、令和14年3月25日、Hとの間で、乙土地を代金700万円でHに売却する旨の契約(以下「契約 ⑤」という。)を締結し、代金の支払と引換えに、乙土地につき、売買を原因とするGからHへの所有権移転登記と引渡しがされた。Hは建設業を営んでおり、自己の所有する複数の工事用車両を乙 土地に駐車しようと考えていたことから、契約 ⑤の締結に当たり、Gに対し、「乙土地には本件通路部分があるが、本件通路部分を含めて乙土地に工事用車両を駐車することに支障はないか。」と尋ねたところ、Gは、「本件通路部分はFが自動車で通行し ているが、Eが生前に甲土地の所有者との間で何らかの通行の約束をしたとは聞いていないので、工事用車両を駐車しても差し支えない。」と説明した。この説明を受けて、Hは、Fの通行を禁止しても法的に支障はないものと判断し、Fに問い合わせることなく、契約⑤を締結した。
13.令和14年4月 頃から、Hが乙土地をフェンスで囲ったことによって、Fは本件通路部分を自動車で通行することができなくなった。
〔設問2〕
Fは、契約③に基づく地役権を有することを理由として、Hに対し、 【事実Ⅱ】13 のフェンスのうち通行の支障となる部分の撤去を請求することができるかについて、論じなさい。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1⑴
1 下線部㋐は、契約②の連帯保証債務の履行として、Bの本件ハウス施工債務そのものの履行をDに求めるものである。契約②は書面でされており有効である(446条2項、事実3)。㋐が認められるには、①施工債務の履行自体が保証債務の内容となること、②その保証債務がDに相続されたこと、③履行期が到来していることを要する。
2 施工債務の保証の内容
(1) 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う(446条1項)。保証債務は主債務と同一内容の給付を目的とするから、主債務が債務者本人でなければ履行できない非代替的作為債務である場合には、保証人は自ら履行することができず、保証債務は債務不履行による損害賠償債務を担保するにとどまる。これに対し、主債務が第三者によっても履行し得る代替的作為債務であれば、保証人は自ら又は第三者を用いて主債務と同一内容の給付をすることができ、保証債務の内容は主債務そのものの履行を含む。
(2) 本件ハウスの施工は、果樹栽培用ビニールハウスの建設であり、相応の能力と経験を有する業者であれば誰でも行える代替的作為債務である。しかも、契約②は、Cがそのようなハウスを施工する能力及び経験を持つことを考慮して締結され(事実3)、Aは、Bが施工しない場合にCに施工させることを予定していた。よって、契約②の保証債務は、Bの施工債務そのものの履行を内容とする。
3 保証債務の相続
(1) 相続人は被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するが、被相続人の一身に専属したものは承継されない(896条)。Dは、Cの施工能力を考慮して締結された契約②の保証債務はCの一身に専属する債務であり、IT関係の企業に勤務し施工の能力も経験もないD(事実6)には承継されないと反論することが考えられる。
(2) しかし、前記のとおり施工債務は代替的作為債務であり、㋐の請求もD自身による施工に限らず、Dが選択した適切な業者による完成を求めるものである(事実8)。また、契約②は、同年の果樹栽培のために本件ハウスの完成を確実にするというAの利益のために締結されたものであり(事実1)、保証人の死亡により保証の効力が失われるとすることは当事者の合理的意思に反する。よって、保証債務はCの一身に専属するものではなく、相続財産の一部を売却して単純承認したものとみなされた唯一の相続人D(921条1号、事実6)に承継される。
4 履行期
(1) もっとも、保証債務は主債務に付従し、保証人の負担は主債務より重いものであってはならない(448条1項)から、主債務の履行期が到来しない限り、保証人に保証債務の履行を請求することはできない。連帯保証人に催告・検索の抗弁がない(454条)ことは、主債務の履行期前の請求を正当化するものではない。
(2) 契約①の施工完了・引渡しの期限は令和8年5月末日であり(事実2)、Aが㋐の請求をしようとする同年3月10日頃には、Bの施工債務の履行期は到来していない。Bが前払金200万円を借入金の返済に充てて完成が困難になっている(事実5)としても、履行が不能となったとはいえず、主たる債務者Bが「その債務を履行しないとき」(446条1項)に当たらない。
5 以上から、㋐の請求は、令和8年3月10日頃の時点では認められない。5月末日を経過してもBが本件ハウスを完成させないときは、AはDに対し、D自身又はDが選択した業者による完成を請求することができる。その際、Dは、主たる債務者Bが有する残報酬100万円との同時履行の抗弁(533条)を主張できる(457条2項)。
第2 設問1⑵
1 下線部㋑は、Aが契約①を詐欺(96条1項)を理由に取り消した結果Bが負う200万円の返還債務について、契約②に基づきDに履行を求めるものである。取消しにより契約①は初めから無効であったものとみなされ(121条)、Bは、受領した200万円(事実4)につき原状回復義務を負う(121条の2第1項)。問題は、この原状回復義務が契約②の保証の範囲に含まれるかである。
2 付従性
(1) 保証債務は主債務の存在を前提とし(付従性)、その範囲は主債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものに及ぶ(447条1項)。しかし、取消しにより主債務が遡及的に消滅した場合の原状回復義務は、主債務の不履行から生ずる債務ではないから、当然には保証の範囲に含まれない。
(2) この点、行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、取消原因を知っていたときは独立の債務を負担したものと推定される(449条)。しかし、同条は制限行為能力による取消しに限定した規定であり、詐欺による取消しの場合に直接適用することはできない。
3 保証契約の解釈
(1) もっとも、保証契約は主債務の発生原因である契約とは別個の契約であり、当事者は、主たる契約が取り消された場合の原状回復義務をも担保する旨を合意できる。保証人の責任の範囲は保証契約の合理的解釈により定まり、判例も、特定物の売主のための保証人は、特段の事情のない限り、契約解除による原状回復義務についても責任を負うとしている(最大判昭40.6.30)。そして、449条が取消原因を知って保証した者に独立の債務負担を推定するのは、取消原因を知りつつ保証した者は取消しの有無にかかわらず債務の履行を引き受ける意思を有するのが通常だからであり、この趣旨は保証契約の解釈に当たっても考慮されるべきである。
(2) 本問では、契約②は、Aが同年の果樹栽培のために本件ハウスを確実に完成させる必要があることを前提に、契約①と同日に、3人の相談の結果として締結された(事実1から3まで)。契約①には報酬200万円の前払いの合意が含まれており(事実2)、契約②はこれを含む契約①上のBの債務を連帯保証するものである。そして、Cは、契約②の締結時に、Bが資金繰りに窮しており、前払いを希望した目的が資材の調達ではなく借入金の返済にあることに気付いていた(事実5)。このような事情の下では、Cは、前払金がBに流用されて本件ハウスが完成せず、Aが契約①の効力を否定して前払金の返還を求める事態が生じ得ることを認識した上で、Aに前払金を支払わせるために契約②を締結したものといえる。したがって、契約②の合理的解釈として、Cは、契約①が取り消された場合にBが負う前払金の返還債務をも担保する意思であったと解すべきである。
(3) この返還債務の保証は金銭債務であり、Cの一身に専属するものではないから、Dに相続される(896条本文)。また、AがBの欺罔の事情を知ったのは令和8年3月1日頃であり(事実7)、取消権は行使期間(126条)内にある。
4 以上から、Aが契約①を取り消した上で、契約②に基づきDに対し200万円の支払を請求することは認められる。
第3 設問2
1 Fの請求は、地役権に基づく妨害排除請求である。地役権は物権であり、その円満な行使が妨げられているときは、地役権者は妨害者に対し妨害の排除を請求できる。Fの請求が認められるには、①Fが契約③に基づく地役権を有すること、②FがこれをHに対抗できることを要する。
2 Fの地役権
(1) 地役権は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利である(280条本文)。甲土地は公道に面し袋地ではない(事実9)から210条の通行権は問題とならないが、乙土地を自動車で通行することが幹線道路への出入りに便利であるという便益のために、甲土地を要役地、乙土地を承役地とする通行地役権を設定することは可能であり、契約③によりAE間で通行地役権が有効に設定された。
(2) 地役権は、要役地の所有権に従たるものとして、これとともに移転する(281条1項本文)。Aは契約④により甲土地をFに売却し、所有権移転登記と引渡しがされ、契約③の存在もFに説明されている(事実10)から、Fは、甲土地の所有権とともに通行地役権を取得した。
3 Hに対する対抗
(1) 地役権の設定は、登記をしなければ第三者に対抗できない(177条)ところ、契約③の地役権設定登記はされていない(事実9)。
(2) Gは、Eの唯一の相続人として乙土地を相続した包括承継人であり(事実11)、Eの法的地位をそのまま承継するから、177条の「第三者」に当たらない。Gが契約③を知らされていなかったとしても、Gは地役権の負担を承継する。
(3) Hは、Gから乙土地を買い受けて所有権移転登記を経た者であり(事実12)、原則として177条の第三者に当たる。もっとも、通行地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらない(最判平10.2.13)。このような譲受人は、通行地役権の設定を容易に推認でき、要役地所有者に照会するなどして地役権の有無を容易に確認できるから、登記の欠缺を主張することは信義に反するからである。
(4) 本問では、本件通路部分はAが舗装するなどして通路として整備したものであり、Fもこれを通路として維持しつつ自動車で頻繁に通行していた(事実9、10)から、契約⑤の時点で、本件通路部分が要役地所有者Fによって継続的に通路として使用されていることは物理的状況から客観的に明らかであった。また、Hは、契約⑤の締結に当たり、本件通路部分の存在を認識して駐車に支障がないかをGに尋ね、GからもFが自動車で通行していることを説明されており(事実12)、Fの継続的な通行を現に認識していた。Gは「通行の約束をしたとは聞いていない」と説明したが、Gは生前のEから契約③を知らされていなかったにすぎず(事実11)、この説明は地役権の不存在を裏付けるものではない。Hは、建設業を営み工事用車両の駐車のために乙土地を取得しようとしていたのであるから、通行者Fに問い合わせて通行の権原を確認することは容易かつ必要であったのに、これをせずに契約⑤を締結した(事実12)。よって、特段の事情はない。
(5) したがって、Hは登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらず、Fは、登記なくして通行地役権をHに対抗できる。
4 Hが乙土地をフェンスで囲ったことによりFの自動車による通行が妨げられている(事実13)から、Fは、地役権に基づく妨害排除請求として、Hに対し、フェンスのうち通行の支障となる部分の撤去を請求することができる。
以上