予備試験 令和7年 民法
問題文
次の文章を読んで、後記の〔設問1⑴・⑵〕及び〔設問2⑴・⑵〕に答えなさい。
解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和7年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えなさい。なお、民法以外の法令の適用について検討する必要はない。
【事実Ⅰ】
1.金融業を営むAは、Bに対する貸金債権6000万円(以下「本件貸金債権」という。)の担保としてBの所有する甲土地及びCの所有する乙土地にそれぞれ第1順位の共同抵当権を設定し、その旨の登記がされた。
2.その後、Cは、注文者として、建設業者Dとの間で、Dを請負人とする自宅建物の建築請負契約を締結した。Dは、Cに対する同契約に基づく報酬債権4800万円(以下「本件報酬債権」
という。)を被担保債権として、乙土地に第2順位の抵当権を設定し、その旨の登記がされた。
その後、Dは、同契約に基づく債務を履行し、Cに同契約の目的物を引き渡した。
3.その後、Bは、EのBに対する売掛代金債権2400万円(以下「本件代金債権」という。)
を被担保債権として、甲土地に第2順位の抵当権を設定し、その旨の登記がされた。
4.その後、Aは、本件貸金債権が履行期を経過しても弁済されないことから、乙土地に対する抵当権を実行した。担保不動産競売手続により、乙土地は7200万円で売却され、Aに6000万円、Dに1200万円がそれぞれ配当された。なお、Aが抵当権を実行した時点までに、本件報酬債権及び本件代金債権の履行期もそれぞれ到来していた。
5.その後、Cは、「Bの債務を担保するため抵当権を設定したばかりに、その抵当権の実行によって乙土地の所有権を失ってしまった。これによって免れた債務額をBは弁償すべきだ。」と主張し、甲土地の第1順位の抵当権を実行しようとしている。
〔設問1〕
【事実Ⅰ】1から5までを前提として、次の問いに答えなさい。
⑴ Cによる甲土地の第1順位の抵当権の実行が認められるかについて、法的根拠を明示しつつ論じなさい。
⑵ Cによる甲土地の第1順位の抵当権の実行が認められ、代金4800万円で買い受けられた場合において、C、D及びEに配当されるべき金額について、それぞれ法的根拠を明示しつつ論じなさい。
【事実Ⅱ】
6.Fは不動産業を営む個人である。Gは金融業を営む個人であり、かねてFとの間で取引関係を有していた。
【事実Ⅲ】
7.Fは、かねて世話になっていたHに、Hが起業するに当たっての事業用の土地として使わせる目的で、令和6年9月15日、Gから、Gの所有する丙土地を賃貸期間3年、賃料月額30万円を前月末日までに支払うとの約定で借り受ける賃貸借契約を締結した。
8.そして、Fは、同日のうちに、Gの承諾を得て、FG間の契約と同じ賃貸期間及び賃料で、丙土地をHに賃貸する契約を結んだ。Hは、同月中に丙土地の引渡しを受け、その利用を開始した。
9.その後、Fは体調を崩したこともあって事業収入の減少が続き、Fが令和7年1月分以降の賃料をGに支払わないため、Gは、同年4月10日、Fに対し、同月20日までに未払賃料の全額を支払うよう催告した。しかし、Fは、同日までに未払賃料を支払うことができなかった。
10.FとGは、交渉の結果、GがFに対し賃貸借契約の債務不履行に基づく解除権を有することを確認した上で、Fが令和7年4月30日までに同年1月分から同年4月分までの賃料をGに支払い、同日限り丙土地をGに明け渡すこととして、同年4月25日にFG間の賃貸借契約を合意解除した。
11.しかし、Fは、事業の立て直しが思うように進まず、また、自分が丙土地を利用していないこともあって、【事実Ⅲ】10の合意の履行に関心がなくなり、令和7年5月1日現在、【事実Ⅲ】10の賃料をGに支払っていない。一方、Hは、FH間の賃貸借契約に基づき、令和7年4月分までの賃料をFに支払い、丙土地の使用を続けている。
〔設問2⑴〕
【事実Ⅱ】及び【事実Ⅲ】(6から11まで)を前提として、令和7年5月10日、GがHに対して丙土地の明渡しを請求したとき、Gの請求が認められるかについて、考えられる複数の法的根拠を明示しつつ論じなさい。
【事実Ⅳ】
【事実Ⅱ】6に加えて、以下の事実があった。(前記【事実Ⅲ】の7から11までは存在しなかったものとする。)
12.Fは、事業資金を調達するために、Gから金銭を借り入れる交渉を進めており、令和6年10月10日、返済期限を令和7年5月31日として、Gから500万円を借り受けた(この借受けに係る貸金債権を「債権 α」という。)。
13.Fは、新規の取引先としてI及びKとの連携を強めることにした。まず、Fは、令和6年10月20日、Iから以後、顧客紹介等の便益を受けることを期待して、返済期限を令和7年7月15日として、Iに対し、200万円を貸し付けた(この貸付けに係る貸金債権を「債権β」
という。)。一方、Iは、令和6年10月20日、賃料月額20万円を当月末日払として、Iの所有する丁土地をFに賃貸する契約を締結し、同日、丁土地をFに引き渡した。
14.Fは、Fの新規事業に関心を持つKの依頼を受けて、令和6年11月1日、Kに対し、賃料月額15万円を当月末日払として、Fの所有する戊土地を賃貸する契約を締結し、同日、戊土地をKに引き渡した。
15.しかし、その後、Fが体調を崩したことにより、Fの事業収入の減少傾向が続いた。Gは、期限を過ぎても債権αの弁済を受けられなかった。
16.Fは、令和7年8月1日、戊土地をLに売り渡し、その旨の登記がされた。
〔設問2⑵〕
【事実Ⅱ】及び【事実Ⅳ】(6及び12から16まで)を前提として、次の問いに答えなさい。なお、各小問は独立した問題である。
① Gは、令和7年7月1日、債権αを回収するため、債権βを差し押さえた。Iは、Gに対し、同月分以降のFに対する賃料債権を自働債権とし、債権βを受働債権とする相殺を対抗することができるかについて論じなさい。
② Gは、令和7年7月1日、債権αを回収するため、FのKに対する賃料債権を差し押さえた。Gが、Lに対して、この差押えの効力を主張し、【事実Ⅳ】14の賃貸借契約に基づく同年8月分以降の賃料債権をKから取り立てることができるかについて論じなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
設問1は、債務者及び物上保証人がそれぞれ所有する不動産に第一順位の共同抵当権(以下「一番抵当権」という。)が設定された後、各不動産に第二順位の抵当権(以下「二番抵当権」という。)がそれぞれ設定された事案において、物上保証人所有の不動産が競売され、共同抵当権者が被担保債権の全額について満足を得た場合における物上保証人及び各後順位抵当権者らの優劣について問う問題である。
設問1(1)では、物上保証人が求償権を取得し(民法第372条の準用する同法
第351条)、弁済による代位によって第一順位の抵当権を実行することができること(同法第499条、同法第501条第1項)を指摘することが求められる。設問1(2)では、判例(最判昭和53年7月4日民集32巻5号785頁及び最判昭和60年5月23日民集39巻4号940頁)の考え方を参照するなどして、物上保証人所有の不動産の二番抵当権者が、物上保証人が弁済による代位により取得した債務者所有の不動産の一番抵当権にあたかも物上代位をするようにこれを行使して優先弁済を受けることができること並びに債務者所有の不動産の二番抵当権者が同不動産の一番抵当権を行使する物上保証人及び同人所有の不動産の二番抵当権者に劣後することを指摘し、事案に即して各人の配当金額を示すことが求められる。
設問2(1)は、賃借人(転貸人)に債務不履行があった後に賃貸人・賃借人間で契約が合意解除された場合の転借人の地位について問う問題であり、明渡請求の法的根拠を明らかにした上で、民法第613条第3項の規定に即した検討が求められる。設問2(2)①は、差押えを受けた債権を受働債権とする相殺について問う問題であり、同法第511条第1項の原則を出発点として、賃貸借契約に基づく賃料請求権が「差押え前の原因に基づいて生じたもの」(同条第2項本文)に該当するかの検討が求められる。また、設問2(2)②は、賃料債権の差押えの効力発生後に賃貸不動産が第三者に譲渡された場合における差押えの効力について問う問題であり、賃貸借契約及び賃貸人の地位の帰すうに目配りをしつつ、結論を説得的に論述することが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1⑴
1 Cは、Bの債務を担保するため自己所有の乙土地に抵当権を設定した物上保証人であり、Aの抵当権実行により乙土地の所有権を失った(事実4)。Cが甲土地の第1順位の抵当権を実行できるかは、CがBに対する求償権を取得し、弁済による代位によりAの甲土地に対する抵当権を取得するかによる。
2 求償権
物上保証人は、抵当権の実行によって抵当不動産の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する(372条、351条)。乙土地の売却代金7200万円のうち6000万円がAに配当され、本件貸金債権は全額消滅した(事実4)から、Cは、Bに対し、失った財産の価額のうち債務の消滅に充てられた6000万円の求償権を取得する(459条1項)。事実5のCの主張は、この求償権の主張にほかならない。
3 弁済による代位
(1) 債務者のために弁済をした者は債権者に代位し(499条)、弁済をするについて正当な利益を有する者は、対抗要件を備えることなく当然に代位する(500条)。代位者は、自己の権利に基づいて求償できる範囲内で、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使できる(501条1項、2項)。
(2) 物上保証人は、弁済をしなければ抵当不動産の所有権を失う地位にあるから、正当な利益を有する者に当たり、抵当権の実行による配当は弁済と同視できる。よって、Cは、乙土地の競売によりAが6000万円の満足を得たことにより当然にAに代位し、求償権6000万円の範囲内で、本件貸金債権及びその担保である甲土地の第1順位の抵当権を行使できる。
4 したがって、Cによる甲土地の第1順位の抵当権の実行は認められる。
第2 設問1⑵
1 甲土地の売却代金4800万円は、Cが代位取得した第1順位の抵当権の被担保債権6000万円に満たないから、まず第1順位の抵当権に基づく配当に全額が充てられる。その上で、乙土地の第2順位抵当権者Dと甲土地の第2順位抵当権者Eがどのような地位を有するかが問題となる。なお、本件報酬債権及び本件代金債権はいずれも履行期が到来している(事実4なお書)から、D及びEは配当を受け得る地位にある。
2 Dの地位
(1) 債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産との共同抵当において、物上保証人所有の不動産が先に競売され、共同抵当権者が全額の満足を得たときは、物上保証人は債務者所有不動産の第1順位の抵当権を代位取得し、物上保証人所有不動産の後順位抵当権者は、物上保証人が代位取得した抵当権から、あたかも物上代位をするように優先して弁済を受けることができる(最判昭53.7.4)。後順位抵当権者は、物上保証人が代位取得する抵当権に自己の抵当権の効力が及ぶことを期待して設定を受けたのであり、その抵当権は物上保証人の代位取得した抵当権の上に転化して存続すると解するのが公平だからである。
(2) 他方、392条2項後段による後順位抵当権者の代位は、債務者所有の複数の不動産に共同抵当権が設定された場合を前提とし、物上保証人所有の不動産を含む共同抵当には適用されない。債務者は本来債務全額を負担すべき者であり、その不動産の後順位抵当権者は、当該不動産から第1順位抵当権者が全額の満足を得ることを甘受すべき地位にあるからである。したがって、債務者所有の不動産の後順位抵当権者は、第1順位の抵当権を行使する物上保証人及び物上保証人所有不動産の後順位抵当権者に劣後する(最判昭60.5.23)。
3 あてはめ
(1) Dは、乙土地の競売で本件報酬債権4800万円のうち1200万円の配当を受けた(事実4)から、残債権額は3600万円である。Dは、Cが代位取得した甲土地の第1順位の抵当権(被担保債権6000万円)を物上代位的に行使し、売却代金4800万円から残債権額3600万円の配当を受ける。
(2) Cは、代位取得した第1順位の抵当権に基づき、残額1200万円の配当を受ける。1200万円はCの求償権6000万円の範囲内である。
(3) Eは、甲土地の第2順位抵当権者として、第1順位の抵当権を行使するC及びDに劣後し、392条2項によりDの代位に対抗することもできない。売却代金はC及びDへの配当で尽きるから、Eへの配当はない。
4 よって、Cに1200万円、Dに3600万円、Eに0円が配当されるべきである。
第3 設問2⑴
1 法的根拠
Gの明渡請求の根拠としては、①丙土地の所有権に基づく返還請求権と、②転借人は賃貸人に対し転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う(613条1項前段)ことから、転貸借終了に基づく目的物返還義務の直接の履行請求が考えられる。①ではHの占有権原(転借権)の存否が、②では転貸借の終了が問題となり、いずれも、FG間の賃貸借の合意解除をHに対抗できるかによる。
2 合意解除の対抗
(1) Hは、Fが丙土地をHに使わせる目的で借り受け(事実7)、Gの承諾を得て転貸を受けた適法な転借人である(612条1項、事実8)。賃貸人は、賃借人との賃貸借を合意解除しても、その解除を適法な転借人に対抗できない(613条3項本文)。賃貸人は転貸を承諾した以上、賃借人との合意によって転借人の地位を奪うことは信義に反するからである。
(2) もっとも、合意解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、賃貸人は合意解除を転借人に対抗できる(613条3項ただし書)。賃貸人が債務不履行解除をすれば転貸借はその基礎を失うのであり、合意解除の形式を採ったにすぎないこの場合に転借人を保護する必要はないからである。
(3) 本問では、賃料は前月末日払であり(事実7)、Fは令和7年1月分以降の賃料を支払わず、Gは4月10日に同月20日を期限として未払賃料全額の支払を催告したが、Fは支払えなかった(事実9)。4か月分合計120万円の不払いは、Fの体調不良と収入減少という事情を考慮しても、賃貸借の信頼関係を破壊するに足りる債務不履行であり、Gは、催告期間の経過により541条本文の解除権を取得した。賃貸人が賃料不払を理由に解除するに当たり転借人に支払の機会を与える必要はない(最判平6.7.18)から、Hが4月分までの賃料をFに支払っていたこと(事実11)は解除権の発生を妨げない。そして、FG間では、Gが解除権を有することを確認した上で、4月25日に合意解除がされている(事実10)。よって、合意解除当時Gは解除権を有しており、Gは合意解除をHに対抗できる。
3 転貸借の終了
賃貸借が賃借人の債務不履行により終了した場合、転貸借は、賃貸人が転借人に目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する(最判平9.2.25)。613条3項ただし書により対抗できる合意解除は債務不履行解除と同視されるから、本問でも同様に解すべきである。Gが5月10日にHに明渡しを請求したことにより(FG間の合意による明渡期限4月30日も経過している。事実10)、FH間の転貸借は終了し、Hは占有権原を失うとともに、613条1項により転貸借終了による返還義務をGに対して直接負う。
4 以上から、Gの請求は、①②いずれの根拠によっても認められる。
第4 設問2⑵①
1 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗できないが、差押え前に取得した債権による相殺は対抗できる(511条1項)。また、差押え後に取得した債権であっても、差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、差押え後に他人の債権を取得した場合を除き、相殺を対抗できる(同条2項)。
2 Iの自働債権である7月分以降の賃料債権は、各月の使用収益の対価として各月に発生するものであるから、7月1日の差押え後に取得した債権である。そこで、これが「差押え前の原因に基づいて生じたもの」に当たるかが問題となる。
3 511条2項は、差押え前から相殺の期待を有していた第三債務者を保護する趣旨であるから、自働債権の発生原因である基本的な法律関係が差押え前に成立しており、第三債務者がそれに基づき相殺を合理的に期待し得たといえれば、これに当たると解する。
4 本問では、丁土地の賃貸借契約は、令和6年10月20日、債権βの貸付けと同日に締結され、同日丁土地が引き渡されている(事実13)。賃料は月額20万円、当月末日払と確定しており、差押え時に、賃貸借契約から毎月一定額の賃料債権が発生することは確定していた。また、FはIから顧客紹介等の便益を受けることを期待して貸し付け、Iは同日にFに丁土地を賃貸しているから、両者は債権βと賃料債権とを取引関係の一環として相互に決済することを予定していたといえ、Iの相殺の期待は保護に値する。よって、7月分以降の賃料債権は差押え前の原因に基づいて生じたものに当たり、Iが他人の債権を取得したものでもない。
5 したがって、Iは、各月の賃料債権の弁済期(当月末日)が到来し、債権βの弁済期(7月15日)との関係で相殺適状(505条1項)が生じた後、相殺の意思表示(506条1項)をすることにより、相殺をGに対抗できる。
第5 設問2⑵②
1 Gは、7月1日、FのKに対する戊土地の賃料債権を差し押さえた。差押えは、継続的な賃貸借契約から将来発生する賃料債権にも及ぶ。問題は、差押え後の8月1日にFが戊土地をLに売却し登記を経た(事実16)ことにより、8月分以降の賃料債権が差押えの効力の外に置かれるかであり、賃貸人の地位の帰すうによって異なる。
2 賃貸人の地位の帰すう
Kは令和6年11月1日に戊土地の引渡しを受けているが、賃借権の登記(605条)はなく、民法上、Kは賃借権の対抗要件を備えていない。よって、戊土地の譲渡により賃貸人の地位が当然にLに移転することはなく(605条の2第1項)、Lは、所有権に基づきKに明渡しを請求し得る。もっとも、FとLの合意により、Kの承諾なく賃貸人の地位をLに移転することはできる(605条の3前段)。
3 賃貸人の地位がLに移転しない場合
賃貸借契約はFK間に存続し、Kが使用収益を続ける限り、8月分以降の賃料債権はFに帰属する。これは差押えの対象債権そのものであるから、Gは、Lに対しても差押えの効力を主張し、8月分以降の賃料債権をKから取り立てることができる。ただし、Lが明渡しを求めてKが使用収益できなくなれば、以後の賃料債権は発生しない。
4 賃貸人の地位がLに移転した場合
(1) 8月分以降の賃料債権は、賃貸人Lの下でKの使用収益の対価として発生するものであり、Fに帰属しない。これに対し、Gは、差押えの処分禁止効により、Fが差押え後に戊土地を売却して賃貸人の地位を移転したことはGに対抗できず、差押えの効力はLの下で生ずる賃料債権にも及ぶと主張することが考えられる。
(2) しかし、差押えは賃料債権についてFの処分を禁ずるにとどまり、戊土地の所有権の処分まで禁ずるものではなく、賃貸人の地位の移転は所有権の移転に伴うものである。将来の賃料債権は、目的不動産が譲渡されれば差押債務者の下では発生しなくなる性質のものであり、賃料債権のみを差し押さえた債権者はこれを甘受すべきである。また、賃料債権の差押えは登記等により公示されず、Lは所有権移転登記を経て戊土地を取得している(事実16)から、Lの下で生ずる賃料債権にまで差押えの効力が及ぶとすれば、不動産取引の安全を害する。Gは、戊土地自体や売買代金債権を差し押さえることにより保全を図ることができる。よって、差押えの効力は、賃貸人の地位の移転後にLの下で発生する賃料債権には及ばないと解する。
(3) したがって、この場合、Gは、Lに対し差押えの効力を主張して8月分以降の賃料債権をKから取り立てることはできない。
以上