予備試験 令和7年 民事実務基礎
問題文
司法試験予備試験用法文を適宜参照して、以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕
弁護士Pは、Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】
「1 私は、母であるAと父であるBとの一人息子です。Aは令和6年3月25日に亡くなり、Bは平成25年10月1日に亡くなりました。Yは、Aの弟です。
私は、大学に進学してから実家を出ています。Aは、Bが亡くなった後、A宅のある土地(以下「甲土地」という。)とその東側に隣接する土地(以下「本件土地」という。)
を相続し、一人暮らしをしていました。
Aが所有していた本件土地の東隣には、Y宅のある土地(以下「乙土地」という。)があります。本件土地は、甲土地と乙土地の間に挟まれており、位置関係としては、本件土地の西隣に甲土地が、本件土地の東隣に乙土地があります。本件土地は、東西に約5m、南北に約50mの細長い土地で、甲土地や乙土地の通路として使用することができます。
Yは、Y宅でYの妻と生活していましたが、令和5年7月25日からはYの息子であるCともY宅で同居しています。AとYは、家族ぐるみで親戚付き合いをしていました。
2 私は、令和6年4月になって、Yから、本件土地を代物弁済によってAから譲渡されたと聞き、本件土地の登記を確認したところ、別紙登記目録(省略)記載の代物弁済を原因とするYへの所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がなされており、また、Yが本件土地の西側(甲土地との境界上)に柵(以下「本件柵」という。)を設置し、本件土地を乙土地の通路として占有使用していることを知りました。
3 私は、Yに抗議しましたが、Yは、Aとの間で、令和5年1月26日にYのAに対する貸金20万円の弁済に代えてYが本件土地を取得する合意をし(以下「本件代物弁済契約」という。)、別紙の代物弁済契約書(以下「本件契約書」という。)を作成したとしてこれに応じません。また、Yは、将来の相続を考慮し、令和7年中には、Cに対し、乙土地と本件土地を生前贈与すると述べています。
そこで、私は、Yに対し、本件登記の抹消と本件土地の明渡しを求めたいと思います。」
弁護士Pは、令和7年4月5日、【Xの相談内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、Yに対し、Xの希望する本件登記の抹消と本件土地の返還を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することとした。
以上を前提に、以下の各問いに答えなさい(なお、本件訴訟において、Yが【Xの相談内容】3項に記載された事前交渉時のYの言い分のとおり主張をしたことを前提とすること。)。
⑴ 弁護士Pが、本件訴訟において、Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物及びその個数を記載しなさい。なお、訴訟物が複数ある場合は、併合態様についても記載しなさい。
⑵ 弁護士Pが、本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨
(民事訴訟法第134条第2項第2号)を記載しなさい。なお、付随的申立てについては、考慮する必要がない。
⑶ 弁護士Pが、本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項。以下同じ。)を記載しなさい。なお、訴訟物が複数ある場合は、【見出しの例】のとおり、訴訟物ごとに分けて記載し、対応する訴訟物を明示すること。
また、いわゆるよって書き(請求原因の最後のまとめとして、訴訟物を明示するとともに、請求の趣旨と請求原因の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しないこと。
【見出しの例】:「請求原因1(消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)」「請求原因2:(準消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)」など
⑷ 弁護士Pは、本件訴訟に先立って、XのYに対する請求権の実現を保全するために民事保全命令の申立てを行うこととした。弁護士Pが申立てを検討すべき民事保全命令を全て挙げ、その保全の必要性の要件について記載した上で、本件で保全の必要性が認められることについてどのような主張をすべきかを簡潔に記載しなさい。
〔設問2〕
弁護士Qは、本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】
「私の息子であるCがY宅に戻ってくることになりました。私は、乙土地の西側にある、雑草の生えた空き地である本件土地を通路として使用するため、取得しようと考え、令和4年11月、Aに相談しました。
Aは、本件土地を日常的に通路として使用しているが、値段にはこだわらないと述べました。
私は、Cが、令和2年5月1日、Aに対し、生活費として20万円を貸し付けていたこと(以下「本件貸金債権」という。)を思い出し、Cから本件貸金債権を譲り受け、その弁済に代えて本件土地をAから譲り受けることにしました。そこで、私は、令和5年1月25日、Cから本件貸金債権を無償で譲り受けました。また、Cは、同日、Aに電話し、Cが私に本件貸金債権を譲渡したことを通知しました。
その上で、私は、令和5年1月26日、Aとの間で、本件貸金債権の弁済に関し本件代物弁済契約を締結しました。私は、本件土地の所有権移転登記を了し、また、本件土地の西側に本件柵を設置して乙土地の通路として使用し始め、現在、本件土地を占有しています。
Cは、令和5年7月25日にY宅に戻って、私と私の妻と同居しています。
令和5年2月13日に本件土地について代物弁済を原因とする所有権移転登記手続を経ており、本件土地の所有者は私です。本件登記は、本件代物弁済契約に基づくものであり、私には本件登記を保持する権原があります。」
弁護士Qは、【Yの相談内容】を前提に、Yの訴訟代理人として、本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成した。その際、弁護士Qは、【Yの相談内容】を踏まえて、抗弁を主張することとした。
【Yの相談内容】について、抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)を記載しなさい。なお、【見出しの例】のとおり、主張内容を簡潔に示した見出し(他の主張との違いが分かるような具体的なもの)を付け、請求原因が複数ある場合は攻撃防御の対象となる主張を明記すること。また、【見出しの例】のとおり、抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)が共通する場合、まとめて記載してよい。
【見出しの例】:「抗弁1:免除(請求原因1・2に対し)」「抗弁2:消滅時効(請求原因1に対し)」など
〔設問3〕
本件答弁書を受け取った弁護士Pは、Xに事実関係を確認した。Xから聴取した内容は以下のとおりである。
【Xからの聴取内容】
「1 Aがわずか20万円の本件貸金債権の弁済に代えて時価50万円の本件土地を譲渡するはずがありません。
2 AがCから令和2年5月1日に20万円を借りたことは間違いありません。私は、令和3年4月にそのことをCから聞いた際、同年1月15日に、私が所有していたパソコン1台をCに対して代金20万円で売却して引き渡したものの、代金をCから受領していないことを思い出しました。そこで、私は、Aには伝えないまま、Cに対し、令和3年4月10日、上記代金債権をもって、CのAに対する20万円の本件貸金債権と相殺する旨を電子メールで伝えました。したがって、本件代物弁済契約締結当時、上記のとおり相殺したことで本件貸金債権は存在していなかったことになります。
3 その後、Cは、令和4年3月になって、私に対し、パソコンは無償で譲り受けたものなのだから、上記の相殺は納得ができないと言い始めました。私は、言いがかりだと思いましたが、従兄弟であるCと事を荒立てたくはありませんでした。そこで、私は、Aには内密にAに代わって、令和4年3月7日、Cに対して20万円を弁済しました(以下「本件弁済」という。)。弁済することは、Aの意思にもCの意思にも反しなかったはずです。
私が有効な弁済をしたことは、Yも知っていたはずです。そうすると、本件弁済によって本件貸金債権は消滅していたことから、本件代物弁済契約は無効となるはずです。また、Yは、実際には本件弁済によって本件貸金債権は存在していないにもかかわらず、これがあるかのように装って、Aを騙して本件代物弁済契約を締結させたのですから、詐欺に当たり、私は、仮に本件代物弁済契約が締結されていたとしても、本件代物弁済契約を取り消したいと思いました。そこで、私は、令和6年4月10日、Yに電話し、本件弁済によって本件貸金債権は消滅していたにもかかわらず、Aを欺罔して本件代物弁済契約を締結させたことは詐欺に当たることから、本件代物弁済契約を取り消す旨を伝えました。
4 さらに、仮に本件代物弁済契約が有効であるとしても、Aは、Cが実家に戻ってYと同居することから本件土地を手放したと思います。そこで、AとYは、Cが令和5年中にYとY宅で同居を開始することを、本件土地を譲渡する条件とする合意をしていたと思います。」
弁護士Pは、【Xからの聴取内容】を前提に、Xの訴訟代理人として、本件訴訟の準備書面(以下「本件準備書面」という。)を作成した。
その際、弁護士Pは、【Xからの聴取内容】を踏まえて、再抗弁を主張することとした。
⑴ 【Xからの聴取内容】2項の下線部について、再抗弁として主張するか否かの結論を記載しなさい。その上で、再抗弁として主張する場合には、再抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)を記載し、主張しない場合はその理由を記載しなさい。
⑵ 【Xからの聴取内容】4項について、再抗弁として記載すべき具体的事実(要件事実)を記載しなさい。なお、後記⑶アのとおり、裁判官は、争点整理の結果、上記の具体的事実(要件事実)は審理する必要がないと判断したが、本問の回答に当たっては、この点は考慮する必要はない。
⑶ 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件訴状、本件答弁書及び本件準備書面が陳述された。
ア 裁判官は、設問1【Xの相談内容】を含む本件訴状におけるXの主張を検討し、⑵の事実は審理する必要がないと判断した。攻撃防御方法としての位置付けを踏まえながら、その理由を記載しなさい。
イ Yは、本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、本件弁済がされたことは否認するが、仮に本件弁済がされたと認められた場合、本件弁済がAの意思やCの意思に反するなどの本件弁済の効力を争う主張はしないと発言した。裁判官は、当該発言を踏まえ、【Xからの聴取内容】
3項の下線部について、再抗弁として主張させる必要がないと判断した。攻撃防御方法としての位置付けを踏まえながら、その理由を記載しなさい。
〔設問4〕
第1回口頭弁論期日において、弁護士Qは、本件代物弁済契約の締結を裏付ける証拠として、本件契約書(なお、押印部分以外は全てパソコンで作成されている。)を、「A」作成部分の作成者をAとして提出し、書証(乙第1号証)として取り調べられた。これに対し、弁護士Pは、同期日において、本件契約書のうちA作成部分の成立を否認し、A名下の印影がAの印章によることは認めた。
第2回口頭弁論期日において、XとYの各本人尋問が実施され、Xは【Xの供述内容】のとおり、Yは【Yの供述内容】のとおり、それぞれ供述した(それ以外の者の尋問は実施されていない。)。
なお、【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】のうち下線部については該当する以下の書証が提出されて取り調べられており、その成立に争いがない。
令和6年4月時点で本件土地の時価が50万円である旨が記載された不動産鑑定士作成の不動産鑑定書(甲第1号証)
令和5年2月10日にAとYが立ち会い、AとYが甲土地と本件土地との境界を確認したことが記載された同日付けの土地家屋調査士作成の境界確認書(乙第2号証)
令和5年1月26日付けで発行されたAの印鑑登録証明書(乙第3号証)
令和5年1月20日付けで作成されたAと工事業者である株式会社Dとの間の請負工事契約書
(以下「別件請負契約書」という。)(乙第4号証)
【Xの供述内容】
1 Aは、本件土地を北側にある県道への通路として、日常的に使用していました。私がAを相続したことから、甲土地と本件土地を第三者に売却しようと、不動産鑑定士に鑑定を依頼したところ、本件土地の時価は50万円でした。Aがわずか20万円の本件貸金債権の弁済に代えてYに本件土地を譲渡するはずがありません。
2 本件土地の草むしりなどの管理は、Y夫婦が行っていたと聞いています。
3 Yは、Aが自宅を修繕するために工事業者を呼んで契約を締結する際、Aから実印を預かって、Aの代わりに、別件請負契約書に押印しました。Yは、このときAから預かった実印を、Aの許可なく使用して、本件契約書に押印したのだと思います。
4 なお、Aは、令和5年1月当時、手が不自由で署名はできませんでした。
【Yの供述内容】
1 Aと私は、姉弟であり、隣に住んでいました。
2 本件土地は、乙土地の西側に存在する、東西に約5m、南北に約50mの細長い土地で、雑草が生えている空き地です。本件土地は、夏場はすぐに雑草が生えて虫が湧いてくるため、近所から苦情が寄せられないよう、夏場は月に1回は除草などをしなければなりませんが、A一人ではできないため、私や私の妻が手伝っていました。Aは、本件土地の管理に困っていたため、私が本件土地を20万円の対価で取得することに賛成していました。
3 私は、本件契約書のうち押印部分を除いてパソコンで作成し、令和5年1月26日の朝、A宅を訪問してAに書類の内容を説明し、押印した本件契約書を、Aの印鑑登録証明書とともに私の自宅に届けるよう伝えました。
私は、同日の夕方、私の自宅の郵便受けを確認すると、A名下にAの印影がある本件契約書と同日付けで発行されたAの印鑑登録証明書が入っていました。本件契約書のAの印影は、Aの印鑑登録証明書の印影と一致しています。なお、本件契約書にはAの署名はなく、記名がされていますが、これは、当時、Aは手が不自由で字がうまく書けなかったためです。
4 私は、令和5年2月20日、本件土地の西側(甲土地との境界上)に本件柵を設置し、本件土地を通路として日常的に使用し始めました。本件柵を設置するに先立って、令和5年2月10日、土地家屋調査士に依頼し、甲土地と本件土地との境界を確定することにし、私とAが立ち会って、甲土地と本件土地の境界を確認しました。
5 私は、Aが自宅を修繕するために工事業者と請負契約を令和5年1月20日に締結する際、Aに頼まれて、同日、Aの実印を預かり、別件請負契約書に押印したことはありますが、すぐにAへ返却しており、Aの実印を勝手に使用したことなどありません。また、別件請負契約書のA名下のAの印影と、本件契約書のA名下のAの印影とは一致していません。Aは、私に対し、令和5年1月22日に古い実印の印鑑登録を廃止し、新しい実印の印鑑登録をしたと話していました。
以上を前提に、以下の問いに答えなさい。
弁護士Qは、本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、準備書面を提出することを予定している。
その準備書面において、弁護士Qは、前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて、本件代物弁済契約が締結された事実が認められることにつき、主張を展開したいと考えている(なお、Xが令和3年1月15日、パソコン1台をCに代金20万円で売った事実、Xが令和4年3月7日、Cに対して20万円を弁済した本件弁済の事実はいずれも立証されていないものとする。)。弁護士Qにおいて、上記準備書面に記載すべき内容を、提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて、答案用紙1ページ以内で記載しなさい。なお、記載に際しては、本件契約書のA作成部分の成立の真正に関する争いについても言及すること。
〔設問5〕
裁判官は、第2回口頭弁論期日において、弁護士Qに対し、準備書面の提出をすべき期間を定めた。その法的根拠と目的を簡潔に記載しなさい。
(別紙)
(注)押印部分以外は全てパソコンで作成されている。
代物弁済契約書
AとYは、YのAに対する20万円の貸金の弁済
に代えて、AはYに本件土地を譲渡することに合意
致しました。
令和5年1月26日
A
Y
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
設問1は、所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権及び所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権が問題となる訴訟において、原告の希望に応じた訴訟物、その個数と併合態様、請求の趣旨及び請求を理由づける事実の内容を問うものである。また、前記訴訟において、原告代理人が申立てを検討すべき民事保全命令を挙げ、保全の必要性の要件について記載した上で、その当てはめを問うものである。前記訴訟物や請求原因の要件事実、民事保全法などにつき、正確な理解が求められる。
設問2は、被告の主張(代物弁済)に関し、民事実体法の要件・効果を踏まえ、抗弁事実の内容を問うものである。主張の位置付けについて事案に即した正確な分析が求められる。
設問3は、原告の主張(相殺、停止条件、詐欺取消し)に関し、民事実体法の要件・効果を踏まえ、再抗弁事実の内容や主張の当否を問うものである。攻撃防御方法として意味があるか否かといった観点から、主張の位置付けについて事案に即した正確な分析が求められる。
設問4は、被告代理人の立場から、本件代物弁済契約を締結した事実が認められることに関し、準備書面に記載すべき事項を問うものである。要証事実についての証拠構造を正確に捉え、本件契約書に作成名義人の印章により顕出された印影があることを踏まえ、いわゆる二段の推定が働くことを前提として、事案に即して、認定根拠に言及しながら、被告にとって有利又は不利となる重要な事実を適切に分析
・評価し、説得的に論述することが求められる。
設問5は、民事訴訟手続に関し、法的根拠(条文)と目的を問うものである。民事訴訟法の正確な理解が求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 小問(1) 訴訟物
所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権1個と、所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権1個の合計2個であり、併合態様は単純併合である。
2 小問(2) 請求の趣旨
(1) 被告は、原告に対し、本件土地を明け渡せ。
(2) 被告は、原告に対し、本件土地について、別紙登記目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
3 小問(3) 請求を理由づける事実
請求原因1(所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権)
ア Aは、令和5年1月26日当時、本件土地を所有していた。
イ Aは、令和6年3月25日、死亡した。
ウ Xは、Aの子である。
エ Aの夫Bは、平成25年10月1日、死亡した。
オ Aには、X以外に子はいない。
カ Yは、本件土地を占有している。
請求原因2(所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権)
ア 請求原因1のアないしオと同じ。
イ 本件土地について、別紙登記目録記載のY名義の所有権移転登記(本件登記)がある。
物権的請求権の要件事実は、原告の現所有と、被告の占有(返還請求)又は原告の所有権を妨害する登記の存在(妨害排除請求)である。Xの所有は、Aのもと所有とAからの相続(民法896条)で基礎づける。Yは令和5年1月26日の本件代物弁済契約によりAから本件土地を取得したと主張しているから、同日当時のAの所有については権利自白が成立する見込みであり、同時点のもと所有を主張すれば足りる。相続については、Aの死亡とXがAの子であること(887条1項)に加え、X単独の所有を主張するため、配偶者Bの先死亡(890条)と他に子がいないことを要する。Yの占有権原や登記保持権原はYが抗弁として主張すべきものであるから、本件柵の設置や登記原因が代物弁済であることは記載しない。
4 小問(4) 民事保全
(1) 検討すべきは、明渡請求権を保全するための占有移転禁止の仮処分と、抹消登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分であり、いずれも係争物に関する仮処分である(民事保全法23条1項、53条1項)。
(2) 保全の必要性は、係争物の現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに認められる(23条1項)。
(3) Yは、将来の相続を考慮し、令和7年中にCに対し乙土地と本件土地を生前贈与すると明言している。Cは令和5年7月25日からY宅でYと同居しており、本件土地はY宅のある乙土地の通路として使用されているから、贈与に伴って本件土地の登記と占有がCに移転する具体的な危険がある。本件訴訟の提起は令和7年4月5日であり、判決確定前に贈与が実行される可能性が高い。贈与によりCへの所有権移転登記がされると、Cは口頭弁論終結前の承継人であって、Yに対する抹消登記判決の効力はCに及ばず(民事訴訟法115条1項3号参照)、Xは改めてCを相手に訴えを提起しなければならない。処分禁止の仮処分の登記をしておけば、その後のCへの登記はXに対抗できず、Yに対する勝訴判決によってCの登記を抹消できる(民事保全法58条1項、2項)。また、占有がCに移転すれば、Yに対する明渡判決によってCに対し強制執行をすることはできないが、占有移転禁止の仮処分を執行しておけば、その後の占有承継人Cに対しても執行できる(62条1項)。したがって、現状の変更により権利の実行が不能又は著しく困難となるおそれがあり、保全の必要性が認められる、と主張すべきである。
第2 設問2
抗弁:代物弁済による所有権喪失(請求原因1・2に対し)
1 Cは、令和2年5月1日、Aに対し、20万円を、返還の約束をして貸し付けた(本件貸金債権)。
2 Cは、令和5年1月25日、Yとの間で、本件貸金債権をYに無償で譲渡する旨合意した。
3 Aは、令和5年1月26日、Yとの間で、本件貸金債権の弁済に代えて本件土地の所有権をYに移転する旨合意した(本件代物弁済契約)。
代物弁済(民法482条)は、弁済をすることができる者が債権者との間で本来の給付に代えて他の給付をする旨を合意する諾成契約であり、不動産を目的とする代物弁済による所有権移転の効果は、原則として契約の意思表示によって生じる(最判昭57年6月4日)。債務消滅の効果には登記の具備を要するが(最判昭40年4月30日)、Xの所有権喪失を基礎づけるには契約の成立で足りるから、令和5年2月13日の本件登記の経由は抗弁事実として不要である。代物弁済は既存の債務とYがその債権者であることを前提とするから、本件貸金債権の発生原因事実(587条)と、CからYへの譲渡契約(466条1項)を要する。弁済期の合意は、債務者が期限の利益を放棄できる(136条2項)から不要である。債務者対抗要件(467条1項)は債務者が主張してはじめて問題となる権利抗弁であり、債務者A自身がYを債権者として代物弁済契約を締結している以上、Cによる同月25日の電話通知の事実は記載しない。Yは「本件登記を保持する権原がある」と述べるが、代物弁済によりAが所有権を失えば、Xは相続によっても所有権を取得せず、明渡請求と抹消登記請求はいずれも理由を失う。したがって、原告の所有を前提とする登記保持権原の抗弁ではなく、所有権喪失の抗弁として、両請求原因に共通の抗弁と位置づける。
第3 設問3
1 小問(1)
再抗弁として主張しない。相殺(民法505条1項)は、二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合に、各債務者が対当額で債務を免れるものであり、自働債権の債権者と受働債権の債務者とが同一であること(相互性)を要する。Xが主張する相殺は、XのCに対するパソコンの売買代金債権20万円を自働債権とし、CのAに対する本件貸金債権を受働債権とするものであるが、本件貸金債権の債務者はAであってXではない。第三者が自己の債権をもって他人の債務を相殺することは、第三者の弁済(474条)とは異なり認められないから、令和3年4月10日にXがCに電子メールで相殺の意思表示をしても本件貸金債権は消滅せず、しかもXはこれをAに伝えておらずAの関与もない。相殺の主張は主張自体失当であり、再抗弁としない。
2 小問(2)
再抗弁:停止条件(抗弁に対し)
AとYは、本件代物弁済契約の際、Cが令和5年中にYとY宅で同居を開始することを本件代物弁済契約の停止条件とする旨合意した。
停止条件付法律行為は条件が成就するまで効力を生じない(127条1項)から、停止条件の合意は代物弁済による所有権移転の効果の発生を妨げる事実として再抗弁となり、条件の成就はYが再々抗弁として主張立証すべき事実である。
3 小問(3)ア
上記のとおり、停止条件の合意は再抗弁、条件の成就は再々抗弁に位置づけられる。ところが、本件訴状に記載された【Xの相談内容】1項には、Cが令和5年7月25日からY宅でYと同居している旨が記載されている。これは、「Cが令和5年中にYとY宅で同居を開始する」という条件の成就に該当する事実をX自らが主張するものである。弁論主義の下でも、裁判所はいずれの当事者が主張した事実であるかを問わず判決の基礎にできる(主張共通の原則)上、Yがこれを援用すれば先行自白として裁判上の自白が成立し、証明を要しない(民事訴訟法179条)。そうすると、停止条件の合意を審理してこれが認められたとしても、令和5年7月25日の条件成就により本件代物弁済契約はその時点から効力を生じ(127条1項)、Aが死亡した令和6年3月25日より前に本件土地の所有権はYに移転していたことになるから、再抗弁の成否は結論に影響しない。したがって、⑵の事実は攻撃防御方法として意味を持たず、審理する必要がない。
4 小問(3)イ
本件弁済は、第三者XがAの債務として本件貸金債権をCに弁済したもの(474条1項)であり、本件代物弁済契約の前提である本件貸金債権を契約前の令和4年3月7日に消滅させる事実である。債務が存在しなければ代物弁済契約は所有権移転の効果を生じないから、本件弁済は弁済の再抗弁に位置づけられる。これに対し、詐欺取消しの再抗弁(96条1項)は、Yの欺罔行為、それによるAの錯誤、錯誤に基づく意思表示、Yの故意、Aの承継人X(120条2項)による取消しの意思表示(令和6年4月10日の電話)を要件とするところ、Xの主張する欺罔行為は「本件弁済により本件貸金債権が消滅していたのに、これが存在するように装った」というものであり、本件弁済の事実を不可欠の前提とする。本件弁済が認められれば、弁済の再抗弁により抗弁は排斥され、詐欺を審理するまでもない。本件弁済が認められなければ、欺罔行為の前提を欠き、詐欺の再抗弁も成立しない。しかも、Yは、本件弁済がAの意思に反する(474条2項)、Cの意思に反する(同条3項)などの効力に関する主張はしないと発言したから、弁済の再抗弁の成否は本件弁済の事実の有無のみにかかる。詐欺取消しの再抗弁は、弁済の再抗弁の要件事実をすべて含み、さらにYの悪意等の立証を要するにもかかわらず、効果において弁済の再抗弁を超えるものではない。したがって、詐欺取消しは弁済の主張に対して独自の意義を持たない攻撃防御方法であり、主張させる必要がない。
第4 設問4
1 本件契約書(乙1)は、本件代物弁済契約の合意そのものを記載した処分証書であるから、A作成部分の成立の真正が認められれば、特段の事情のない限り、本件代物弁済契約の締結が認定される。
2 Xは、A作成部分の成立を否認するが、A名下の印影がAの印章によることは認めている。印章は本人が厳重に管理し、他人が無断で使用することは通常ないという経験則から、印影が本人の意思に基づいて顕出されたことが事実上推定され(最判昭39年5月12日)、これにより民事訴訟法228条4項の推定が働き、本件契約書のA作成部分は真正に成立したものと推定される。印章が印鑑登録された実印であることは、この推定を一層強める。
3 Xの反証は成功しない。Xは、Yが令和5年1月20日に別件請負契約書(乙4)への押印のために預かったAの実印を無断で使用したと述べる。しかし、Xは大学進学以来実家を離れ、令和6年4月にYから聞いて初めて事情を知ったにすぎず、「使用したのだと思います」という推測を述べるにとどまる。これに対し、成立に争いのない乙4のA名下の印影と本件契約書の印影とは一致しない。Aは同月22日に旧実印の印鑑登録を廃止して新たな実印を登録したのであるから、Yが同月20日に預かり直ちに返却した旧実印では本件契約書の印影を顕出できない。さらに、本件契約書の印影は、契約当日の同月26日付けで発行されたAの印鑑登録証明書(乙3、成立に争いなし)の印影と一致する。印鑑登録証明書は印鑑登録証を所持する者でなければ交付を受けられず、当日発行の証明書が本件契約書とともにY方の郵便受けに入れられていたというYの供述は、乙3によって裏付けられている。署名がなく記名であることも、Aが当時手が不自由で署名できなかったことをX自身が認めており、不自然ではない。
4 契約後のAの行動も締結を裏付ける。Aは、契約の約2週間後の同年2月10日、Yとともに土地家屋調査士の立会いの下で甲土地と本件土地との境界を確認している(乙2、成立に争いなし)。自己所有の隣接地同士について弟と境界を確認する必要はなく、これは、Yが本件土地を取得し境界上に柵を設置することをAが了解していたことを示す。しかも、Xによれば、Aは本件土地を北側の県道への通路として日常的に使用していたところ、Yは同月20日に甲土地との境界上に本件柵を設置し、Aは本件土地を通路として使えなくなった。それにもかかわらず、Aは、令和6年3月25日に死亡するまで1年以上、隣に住む弟Yに何ら異議を述べていない。同年2月13日に代物弁済を原因とする本件登記が経由されていることも、これと整合する。
5 Xは、時価50万円の土地を20万円の債権の弁済に代えて譲渡するはずがないと述べる。しかし、甲1の鑑定は、契約から1年以上後の令和6年4月時点で、甲土地とともに第三者に売却することを前提とする評価であり、本件土地は幅約5メートル、長さ約50メートルの雑草の生えた細長い空き地で、通路以外の単独の利用価値は乏しい。夏場は月1回の除草を要し、A一人ではできずY夫婦が手伝っていたことはXも認めており、管理に困っていたAが隣に住む弟Yに20万円の対価で譲ることに賛成していたというYの供述は自然である。本件弁済もパソコンの売買も立証されていないから、本件貸金債権は契約当時存在しており、代物弁済の前提にも欠けるところはない。
6 以上から、本件契約書のA作成部分は真正に成立したものであり、本件代物弁済契約が締結された事実が認められる。
第5 設問5
法的根拠は民事訴訟法162条1項である。裁判長(単独体では裁判官)は、答弁書若しくは特定の事項に関する主張を記載した準備書面の提出又は特定の事項に関する証拠の申出をすべき期間を定めることができる。その目的は、当事者の主張・立証の提出時期を明確にして争点及び証拠の整理を計画的に進め、相手方に反論の準備の機会を保障し(161条参照)、審理の充実と迅速化(2条)を図ることにある。期間を徒過して提出された攻撃防御方法については、時機に後れたものとして却下(157条1項)するか否かの判断の基礎となり、令和4年改正により、期間経過後に提出する当事者はその理由を説明しなければならないものとされた(162条2項)。