予備試験 平成29年 民事実務基礎
問題文
[民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】 「私は,骨董品を収集することが趣味なのですが,親友からBという人を紹介してもらい,平 成28年5月1日,B宅に壺(以下「本件壺」という。)を見に行きました。Bに会ったところ, Aから平成27年3月5日に,代金100万円で本件壺を買って,同日引き渡してもらったとい うことで,本件壺を見せてもらったのですが,ちょうど私が欲しかった壺であったことから,是 非とも譲ってほしいとBにお願いしたところ,代金150万円なら譲ってくれるということで, 当日, 本件壺を代金150万円で購入しました。 そして, 他の人には売ってほしくなかったので, 親友の紹介でもあったことから信用できると思い,当日,代金150万円をBに支払い,領収書 をもらいました。当日は,電車で来ていたので,途中で落としたりしたら大変だと思っていたと ころ,Bが,あなた(X)のために占有しておきますということでしたので,これを了解し,後 日,本件壺を引き取りに行くことにしました。 平成28年6月1日,Bのところに本件壺を取りに行ったところ,Bから,本件壺は,Aから 預かっていただけで,自分のものではない,あなた(X)から150万円を受け取ったこともな い,また,本件壺は,既に,Yに引き渡したので,自分のところにはないと言われました。 すぐに,Yのところに行き,本件壺を引き渡してくれるようにお願いしたのですが,Yは,本 件壺は,平成28年5月15日にAから代金150万円で購入したものであり,渡す必要はない と言って渡してくれません。 本件壺の所有者は,私ですので,何の権利もないのに本件壺を占有しているYに本件壺の引渡 しを求めたいと考えています。」 弁護士Pは, 【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,本件壺の引渡しを 求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することを検討することとした。 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pは,本件訴訟に先立って,Yに対して,本件壺の占有がY以外の者に移転されること に備え,事前に講じておくべき法的手段を検討することとした。弁護士Pが採り得る法的手段を 一つ挙げ,そのような手段を講じなかった場合に生じる問題についても併せて説明しなさい。 (2) 弁護士Pが,本件訴訟において,選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。なお,代償請 求については,考慮する必要はない。 (3) 弁護士Pは,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において,本件壺の引渡請求を理 由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,次の各事実を主張した。 ア Aは, 〔①〕 イ Aは,平成27年3月5日,Bに対し,本件壺を代金100万円で売った。 ウ 〔②〕 エ 〔③〕 上記①から③までに入る具体的事実を,それぞれ答えなさい。 (4) 弁護士Pは,Yが,AB間の売買契約を否認すると予想されたことから,上記(3)の法的構成 とは別に,仮に,Bが本件壺の所有権を有していないとしても,本件壺の引渡請求を理由づける 事実(民事訴訟規則第53条第1項)の主張をできないか検討した。しかし,弁護士Pは,この ような主張は,判例を踏まえると認められない可能性が高いとして断念した。弁護士Pが検討し たと考えられる主張の内容(当該主張を構成する具体的事実を記載する必要はない。)と,その 主張を断念した理由を簡潔に説明しなさい。
〔設問2〕 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】 「私は,Aから,本件壺を買わないかと言われました。壺に興味があることから,Aに見せて ほしいと言ったところ,Aは,Bに預かってもらっているということでした。そこで,平成28 年5月15日,B宅に見に行ったところ,一目で気に入り,Aに電話で150万円での購入を申 し込み,Aが承諾してくれました。私は,すぐに近くの銀行で150万円を引き出しA宅に向か い,Aに現金を交付したところ,Aが私と一緒にB宅に行ってくれて,Aから本件壺を受け取り ました。したがって,本件壺の所有者は私ですから,Xに引き渡す必要はないと思います。」 弁護士Qは, 【Yの相談内容】を前提に,Yの訴訟代理人として,本件訴訟における答弁書を作 成するに当たり,主張することが考えられる二つの抗弁を検討したところ,抗弁に対して考えられ る再抗弁を想定すると,そのうちの一方の抗弁については,自己に有利な結論を得られる見込みは 高くないと考え,もう一方の抗弁のみを主張することとした。 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Qとして主張することを検討した二つの抗弁の内容(当該抗弁を構成する具体的事実を 記載する必要はない。)を挙げなさい。 (2) 上記(1)の二つの抗弁のうち弁護士Qが主張しないこととした抗弁を挙げるとともに,その抗 弁を主張しないこととした理由を,想定される再抗弁の内容にも言及した上で説明しなさい。
〔設問3〕 Yに対する訴訟は, 審理の結果, AB間の売買契約が認められないという理由で, Xが敗訴した。 そこで,弁護士Pは,Xの訴訟代理人として,Bに対して,BX間の売買契約の債務不履行を理由 とする解除に基づく原状回復請求としての150万円の返還請求訴訟(以下「本件第2訴訟」とい う。)を提起した。 第1回口頭弁論期日で,Bは,Xから本件壺の引渡しを催告され,相当期間が経過した後,Xか ら解除の意思表示をされたことは認めたが,BがXに対して本件壺を売ったことと,BX間の売買 契約に基づいてXからBに対し150万円が支払われたことについては否認した。弁護士Pは,当 該期日において,以下の領収書(押印以外,全てプリンターで打ち出されたものである。以下「本 件領収書」という。)を提出し,証拠として取り調べられた。これに対し,Bの弁護士Rは,本件 領収書の成立の真正を否認し,押印についてもBの印章によるものではないと主張している。 その後,第1回弁論準備手続期日で,弁護士Pは,平成28年5月1日に150万円を引き出し たことが記載されたⅩ名義の預金通帳を提出し,それが取り調べられ,弁護士Rは預金通帳の成立 の真正を認めた。 第2回口頭弁論期日において,XとBの本人尋問が実施され,Xは,下記【Xの供述内容】のと おり,Bは,下記【Bの供述内容】のとおり,それぞれ供述した。 領 収 書 X 様 下記金員を確かに受領しました。 金150万円 ただし,壺の代金として 平成28年5月1日 B Ⓑ 【Xの供述内容】 「私は,平成28年5月1日に,親友の紹介でB宅を訪問し,本件壺を見せてもらいました。 Bとは,そのときが初対面でしたが,Bは,現金150万円なら売ってもいいと言ってくれたの で,私は,すぐに近くの銀行に行き,150万円を引き出して用意しました。Bは,私が銀行に 行っている間に,パソコンとプリンターを使って,領収書を打ち出し,三文判ではありますが, 判子も押して用意してくれていたので,引き出した現金150万円をB宅で交付し,Bから領収 書を受け取りました。当日は,電車で来ていたので,取りあえず,壺を預かっておいてもらった のですが,同年6月1日に壺を受け取りに行った際には,Bから急に,本件壺は,Aから預かっ ているもので,あなたに売ったことはないと言われました。 また,Yに対する訴訟で証人として証言したAが供述していたように,Aは同年5月2日にB から200万円を借金の返済として受け取っているようですが,この200万円には私が交付し た150万円が含まれていることは間違いないと思います。」
【Bの供述内容】 「確かに,平成28年5月1日,Xは,私の家を訪ねてきて,本件壺を見せてほしいと言って きました。私はXとは面識はありませんでしたが,知人からXを紹介されたこともあり,本件壺 を見せてはあげましたが,Xから150万円は受け取っていません。Xは,私に150万円を現 金で渡したと言っているようですが,そんな大金を現金でもらうはずはありませんし,領収書に ついても,私の名前の判子は押してありますが,こんな判子はどこでも買えるもので,Xがパソ コンで作って,私の名前の判子を勝手に買ってきて押印したものに違いありません。 私は,同月2日に,Aから借りていた200万円を返済したことは間違いありませんが,これ は,自分の父親からお金を借りて返済したもので,Xからもらったお金で工面したものではあり ません。父親は,自宅にあった現金を私に貸してくれたようです。また,父親とのやり取りだっ たので,貸し借りに当たって書面も作りませんでした。その後,同年6月1日にもXが私の家に 来て,本件壺を売ってくれと言ってきましたが,断っています。」 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 本件第2訴訟の審理をする裁判所は,本件領収書の形式的証拠力を判断するに当たり,Bの記 名及びB名下の印影が存在することについて,どのように考えることになるか論じなさい。 (2) 弁護士Pは,本件第2訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定して いる。その準備書面において,弁護士Pは,前記【Xの供述内容】及び【Bの供述内容】と同内 容のX及びBの本人尋問における供述並びに前記の提出された書証に基づいて,Bが否認した事 実についての主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて準備書面に記載すべき内容を, 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,答案用紙1頁程度の分 量で記載しなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
設問1は,動産の引渡請求が問題となる訴訟において,原告代理人があらかじめ講ずべき法的手段とともに,引渡請求の訴訟物や当該請求を理由付ける事実について説明を求めるものである。民事保全の基本的理解に加えて,所有権に基づく物権的請求権の法律要件について,民事実体法及び判例で示された規律や動産取引の特殊性に留意して検討することが求められる。
設問2は,動産の二重譲渡事案における実体法上の権利関係及びそれに係る要件事実の理解を前提に,原告の所有権喪失原因について幅広く検討した上,本件の時系列の下で予想される再抗弁の内容を念頭に,適切な抗弁を選択し,その理由を説明することが求められる。
設問3は,二段の推定についての基本的理解と当てはめを問うとともに,原告代理人の立場から,準備書面に記載すべき事項を問うものである。争点に関する書証及び当事者尋問の結果を検討し,証拠により認定することができる事実を摘示した上で,原告の主張を根拠付けるために,各認定事実に基づき,いかなる推論・評価が可能か,その過程を検討・説明することが求められる。
参考答案
設問1
第(1)小問
本件壺に対する占有移転禁止の仮処分命令(民保25条の2第1項1号)を申立てることができる。
判決の既判力は、口頭弁論終結後の承継人に対しても及ぶ(民訴115条1項3号)が、口頭弁論終結前の承継人に対しては及ばない
Yが口頭弁論終結前に本件壺をY以外の者に移転すると、判決がなされても、Y以外の者に既判力は及ばないため、改めて訴訟を提起しなければならなくなるから、Yに移転させないようにする必要がある(民保23条1項)。
そこで、占有移転禁止の仮処分命令がなされると、Yは本件壺を他人に移転することができなくなる。
よって、弁護士Pは、本件壺に対する占有移転禁止の仮処分命令を申立てることができる。
第(2)小問
訴訟物は、所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権である。
第(3)小問
ア 平成27年3月5日当時、本件壺を所持していた。
イ Bは、平成28年5月1日、Xに対し、本件壺を150万円で売った。
ウ Yは、現在本件壺を占有している。
第(4)小問
Bが本件壺の所有権を有していないとしても、本件壺の引渡請求をするには、即時取得(民法192条)にしなければならない。
しかし、Bは、平成28年5月1日、Xに対し、本件壺を150万円で売ったとき、本件壺は現実にXに引き渡したのでなく、以後BがXのために占有しておくことになったため、占有改定(民法183条)による引渡である。
占有改定による即時取得することができないので、弁護士Pは即時取得を主張しても、Xは同理由によりYから本件壺の引渡請求をすることができない。
よって、弁護士Pはその主張を断念した。
設問2
第(1)小問
本件において、YとXはいずれでもBとの間に売買契約が成立されるから、二重譲渡の関係となるから、Yは対抗要件の具備による所有権喪失を主張することができる。
YB間に売買契約が成立した際に、Bが本件壺を占有していたから、YがBは所有者であることを信じる理由があるため、即時取得を主張することができる。
第(2)小問
弁護士Qは、対抗要件の具備による所有権喪失を主張しないことが考えられる。
YとXはいずれでもBとの間に売買契約が成立されるから、二重譲渡の関係となる。動産の対抗要件は引渡であるため、先に引渡される方が対抗要件を具備する。
Xは、平成28年5月1日に、占有改定により本件壺が引渡され、対抗要件が具備する。
Yは、同月15日に、現実の引渡により本件壺を占有し始めた。
よって、先に対抗要件を具備したのはXの方であるから、弁護士Qは、対抗要件の具備による所有権喪失を主張しないことが考えられる。
Xも再抗弁として、Bは、平成28年5月1日に、Xに対し、本件壺を、占有改定の方法により引渡したを主張することができる。
設問3
第(1)小問
本件領収書は私文書であるから成立の真正を証明する必要がある(228条1項)。
本人の署名又は押印があるとき、真正に成立したものと推定される(民訴228条4項)。「本人の署名又は押印」とは本人の意思に基づく署名又は押印をいう。
Xの供述によると、Bは,Xが銀行に行っている間に、パソコンとプリンターを使って、領収書を打ち出したから、「署名」という要件は満たさない。
文書中の陰影が本人の印章によって顕出された場合は、本人の石による押印であると事実上推定される(1段目の推定)。
本件では本人の印章によって顕出されたとは言えない。
さらに、「三文判ではありますが、判子も押して用意してくれていた」の供述によれば、XはB本人が押印したところを目撃したこともなく、Bも自分が押印した事実を否認したため、当該三文判がBの印鑑であることが証明されない限り、「押印がある」ことも証明できず、本件領収書の形式的証拠力は認められない。
第(2)小問
争いのない事実と成立の真正が認められた書面から認定できる事実を書いて、経験則から推認力を書く。
平成28年5月2日に、YはBに200万円の借金を返済したことにつき、争いがない。Xが平成28年5月1日に、通帳から150万円を引き下ろした事実についても、争いがない。平成28年5月1日にXが150万円を引き下ろした後に、B宅を訪れた後、Bは翌日に200万円の借金を返済したから、時間的に近接した時点でBは200万円という多額の現金を手に入れており、その中にXの150万円がある可能性が高い。
確かに、Bは、その200万円は父親からもらった現金であると主張している。しかし、貸し借りに当たって何の書面も作らず、やり取りが存在した証明もできないから、当該主張は認められない。
XとBは前から面識もなく、本件壺のために知り合ったから、XはBに150万円を引渡したことは、他の取引にも存在する可能性が低い。
よって、BはXに本件壺を売った事実は認められる。