予備試験 平成28年 民事実務基礎
問題文
[民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。
〔設問1〕 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。
【Xの相談内容】 「私は,自宅を建築するために,平成27年6月1日,甲土地の所有者であったAから,売買 代金1000万円で甲土地を買い受け(以下「本件第1売買契約」という。),同月30日に売買 代金を支払い,売買代金の支払と引換えに私宛てに所有権移転登記をすることを合意しました。 私は,平成27年6月30日,売買代金1000万円を持参してAと会い,Aに対して甲土地 の所有権移転登記を求めましたが,Aから,登記識別情報通知書を紛失したので,もうしばらく 所有権移転登記を待ってほしい,事業資金が必要で,必ず登記をするので先にお金を払ってほし いと懇願されました。Aは,大学時代の先輩で,私の結婚に際し仲人をしてくれるなど,長年お 世話になっていたので,Aの言うことを信じ,登記識別情報通知書が見つかり次第,所有権移転 登記をすることを確約してもらい,代金を支払いました。しかし,その後,Aからの連絡はあり ませんでした。 ところが,平成27年8月上旬頃から,Yが私に無断で甲土地全体を占有し始め,現在も占有 しています。 私は,平成27年9月1日,Yが甲土地を占有していることを確認した上で,Yに対してすぐ に甲土地を明け渡すよう求めました。これに対して,Yは,Aが甲土地の所有者であったこと, 自分が甲土地を占有していることは認めましたが,Aから甲土地を買い受けて所有権移転登記を 経由したので,自分が甲土地の所有者であるとして,甲土地の明渡しを拒否し,私に対して甲土 地の買取りを求めてきました。 甲土地の所有者は私ですので,Yに対し,甲土地について,所有権移転登記と明渡しを求めた いと考えています。」 弁護士Pは, 【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,平成27 年8月1日付け売買を原因とするAからYへの所有権移転登記(詳細省略)がされていることが判 明した。弁護士Pは, 【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,所有権に基 づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権及び所有権に基づく返還請求権としての土地明 渡請求権を訴訟物として,甲土地について所有権移転登記及び甲土地の明渡しを求める訴訟(以下 「本件訴訟」という。)を提起することにした。 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pは,本件訴訟に先立って,Yに対し,甲土地の登記名義の変更,新たな権利の設定及 び甲土地の占有移転などの行為に備え,事前に講じておくべき法的手段を検討することとした。 弁護士Pが採るべき法的手段を2つ挙げ,そのように考えた理由について,それらの法的手段を 講じない場合に生じる問題にも言及しながら説明しなさい。 (2) 弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい(附帯請求及び付随的申立てを考慮する必要 はない。)。 (3) 弁護士Pは,本件訴状において,甲土地の明渡請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条 第1項)として,次の各事実を主張した。 ア Aは,平成27年6月1日当時,甲土地を所有していた。 イ 〔 〕 ウ 〔 〕 上記イ及びウに入る具体的事実を,それぞれ答えなさい。
〔設問2〕 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
【Yの相談内容】 「Aは,私の知人です。Aは,平成27年7月上旬頃,事業資金が必要なので甲土地を500 万円で買わないかと私に持ちかけてきました。私は,同年8月1日,Aから甲土地を代金500 万円で買い受け(以下「本件第2売買契約」という。),売買代金を支払って所有権移転登記を経 由し,甲土地を資材置場として使用しています。したがって,甲土地の所有者は私です。」 上記【Yの相談内容】を前提に,以下の問いに答えなさい。 弁護士Qは,本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成するに当たり, 抗弁となり得る法的主張を検討した。 弁護士QがYの訴訟代理人として主張すべき抗弁の内容 (当 該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。)を述べるとともに,それが抗弁となる理 由について説明しなさい。
〔設問3〕 本件答弁書を受け取った弁護士Pは,Xに事実関係を確認した。Xの相談内容は以下のとおりで ある。
【Xの相談内容】 「Yは,既に甲土地について所有権移転登記を経由しており,自分が甲土地の所有者であると して,平成27年9月1日,甲土地を2000万円で買い取るよう求めてきました。Yは,事情 を知りながら,甲土地を私に高値で買い取らせる目的で,本件第2売買契約をして所有権移転登 記をしたことに間違いありません。このようなYが甲土地の所有権を取得したことを認めること はできません。」 上記【Xの相談内容】を前提に,弁護士Pは,再抗弁として,以下の事実を記載した準備書面を 作成して提出した。 エ 〔 〕 オ Yは,本件第2売買契約の際,Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していた。 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 上記エに入る具体的事実を答え,そのように考えた理由を説明しなさい。
〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述され,第1回弁論準備手続期日にお いて,弁護士P及び弁護士Qがそれぞれ作成した準備書面が提出され,弁護士Qは,
〔設問3〕 の エ及びオの各事実を否認し,弁護士Pは,以下の念書(斜体部分は全て手書きである。以下「本件 念書」という。)を提出し,証拠として取り調べられた。なお,弁護士Qは,本件念書の成立の真 正を認めた。 その後, 2回の弁論準備手続期日を経た後, 第2回口頭弁論期日において, 本人尋問が実施され, Xは,下記【Xの供述内容】のとおり,Yは,下記【Yの供述内容】のとおり,それぞれ供述した (なお,Aの証人尋問は実施されていない。)。 念書 A殿 今般,貴殿より甲土地を買い受けましたが,売却して利益が生じた ときにはその3割を謝礼としてお渡しします。 平成27年8月1日 Y Y印 【Xの供述内容】 「Yは,建築業者で,今でも甲土地を占有し,資材置場として使用しているようですが,置か れている資材は大した分量ではなく,それ以外に運搬用のトラックが2台止まっているにすぎま せん。 不動産業者に確認したところ,平成27年7月当時の甲土地の時価は,1000万円程度との ことでした。 私は,平成27年9月1日,Y宅を訪れて,甲土地の明渡しを求めたところ,Yはこれを拒絶 して,逆に私に2000万円で甲土地を買い取るよう求めてきましたが,私は納得できませんで したので,その場でYの要求を拒絶しました。 その後,私は,Aに対し,Yとのやりとりを説明して,Aが本件第2売買契約をして,甲土地 をYに引き渡したことについて苦情を述べました。すると,Aは,私に対して謝罪し, 『事業資 金が必要だったので,やむなくYに甲土地を売却してしまった。その際,既にXに甲土地を売却 していることをYに対して説明したが,Yはそれでも構わないと言っていた。Yから,代金50 0万円は安いが,甲土地を高く売却できたら謝礼をあげると言われたので,Yにその内容の書面 を作成してもらった。 』と事情を説明して,私に本件念書を渡してくれました。ただ,それ以降, Aとは連絡が取れなくなりました。」
【Yの供述内容】 「私は,建築業者で,現在,甲土地を資材置場として使用しています。本件第2売買契約に際 して不動産業者に確認したところ,当時の甲土地の時価は,1000万円程度とのことでした。 私は,平成27年9月1日,Xが自宅を訪れた際,甲土地を2000万円で買い取るよう求め たことはありません。Xと話し合って,Xが希望する価格で買い取ってもらえればと思って話を しただけで,例えば2000万円くらいではどうかと話したことはありますが,最終的にXとの 間で折り合いがつきませんでした。 Aは, 本件第2売買契約をした時, 甲土地を高く転売できたときには謝礼がほしいと言うので, 本件念書を作成してAに渡しました。その際,AがXに甲土地を売却していたという話は聞いて いません。」 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 弁護士Pは, 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに, 準備書面を提出することを予定している。 その準備書面において,弁護士Pは,前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のX Yの本人尋問における供述並びに本件念書に基づいて,
〔設問3〕 の再抗弁について,オの事実 ( 「Yは,本件第2売買契約の際,Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していた。」)が認められること(Yに有利な事実に対する反論も含む。)を中心に,
〔設問3〕 の再抗弁につい ての主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて,上記準備書面に記載すべき内容を答案 用紙1頁程度の分量で記載しなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
設問1は,不動産に係る登記請 求及び明渡請求が問題となる訴訟において,原告代理人があらかじめ講ずべき法的 手段とともに,訴状における請求の趣旨及び請求を理由付ける事実について説明を 求めるものであり,民事保全の基本的理解に加え, 。て 所有権に基づく物権的請求権の法律 要件に留意して説明することが求められる設問2は,不動産の二重譲渡事 案における実体法上の権利関係に留意しつつ,被告本人の主張を適切に法律構成し た上で,抗弁となる理由を説明することが求められる。
設問3は,再抗弁の事実につい て問うものである。判例で示された当該再抗弁に係る要件事実に即して,原告の主 張内容から必要な事実を選択し,他の主張事実との関係にも留意することが求められる。
設問4は,上記の再抗弁の主張 について,書証と人証の双方を検討し,必要な事実を抽出した上で,どの事実がい かなる理由から再抗弁に係る評価を根拠付ける際に重要であるかに留意して,準備書 面に記載すべき事項を問うものである。
参考答案
設問1
第(1)小問
本件について、訴訟物は①所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権及び②所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であることを明示されているから、それぞれの訴訟物について、以下の手段をとることができる。
甲土地の所有権移転登記請求権を被保全権利として処分禁止の仮処分の執行(民保53条1項)を申立てる
理由は、Xは甲土地の所有権登記を得るために、当該訴訟について勝訴判決を得たとしても、Yは第三者に登記を移転する場合、口頭弁論終結前の承継人に対しては、第三者に既判力もないため(民訴115条1項1号)、改めて第三者に対して訴訟を起こさないと、訴訟目的は実現しなくなるから、登記を他人に移転させないためには、処分禁止の仮処分の執行をする必要がある(民保23条1項)。
甲土地の土地明渡請求権を被保全権利として占有移転禁止の仮処分命令を申立てる(民保25の2第1項)
理由は、Xは甲土地の明渡を求めるために、当該訴訟について勝訴判決を得たとしても、Yは第三者に占有を移転する場合、第三者に既判力もないため(民訴115条1項1号)、改めて第三者に対して訴訟を起こさないと、訴訟目的は実現しなくなるから、占有を他人に移転させないためには、占有移転禁止の仮処分命令をもらう必要がある。
第(2)小問
Yは、Xに対し、甲土地につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
Yは、Xに対し、甲土地を明け渡せ。
第(3)小問
イ Aは、平成27年6月30日、Xに対し、甲土地を代金1000万円で売った。
ウ Yは、現在甲土地を占有している。
設問2
Yは、対抗要件の抗弁を主張して、Xからの請求を拒むことができる。
Yは、甲土地の登記名義人である。Yが民法177条の「第三者」にも該当すれば、Xは、Yに対し、登記なくして所有権を主張することができなくなり、請求原因に基づくXの権利行使を阻止することができるので、Yは、対抗要件の抗弁を主張して、Xからの請求を拒むことができる。
設問3
エ Yは、本件第2売買契約の際、本件第1売買契約が締結された事実を知っていた。
対抗要件に関する抗弁は、Yが民法177条の「第三者」であることを前提としている。この「第三者」は、他の物権変動があったことについて善意・悪意を問わないが、実体上物権変動があった事実を知る者において当該物権変動についての登記の不存在を主張することが信義に反すると認められる事情がある場合には、このような背信的悪意者は、登記の不存在を主張するについて正当な利益を有しないので、民法177条の「第三者」には当たらないとされているから、第2売買契約の際、Yが件第1売買契約が締結された事実を知っていたことを主張・立証する必要がある。
再抗弁とは、抗弁と両立し、抗弁の法的効果を覆滅して、請求原因の法的効果を復活させるものである。
よて、この主張は、否認ではなく、再抗弁になる。
設問4
動かしがたい事実を指摘
評価する
本件念書の成立の真正につき争いがない。本件念書は類型的信用文書ではない。
売買契約書
Yは、Aと本件第2売買契約を締結したのは平成27年8月1日である。そして、Yは、Aに謝礼として売却金額を3割も渡すことを約束したことは同日であるから、Yは本件第2売買契約を締結後、直ちに甲土地を売却する意思を示したのは、甲土地を売却する目的で買ったことである。
確かに、Yは、建築業者で,現在も甲土地を資材置場として使用しているから、Yの供述通り、Aから転売利益が欲しいであるから、本件念書を作成してA渡したかもしれない。
しかし、甲土地に置かれている資材は大した分量ではなく、それ以外に運搬用のトラックが2台止まっているにすぎないから、本件念書のことも加えて、資材などを甲土地に置いたのは、Yの甲土地につき転売目的を隠すためにした可能性がある。
そして、Yの供述によると、「Aから転売利益が欲しい」であるため、経験則から見れば、AもYの転売目的を知っていたことは考えられる。
Yは「甲土地を2000万円で買い取るよう求めたことはありません」と主張したが、以上の推認過程から見れば、本件念書が存在しており、、Yに所有目的で甲土地を買ったとは思われないから、認められないべきである。
以上の事実から見れば、Yは、本件第2売買契約の際、Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していたことは明らかである。