予備試験 令和4年 刑事実務基礎
問題文
[刑 事]
次の【事例】を読んで、後記〔設問〕に答えなさい。
【事例】
1 A(23歳、男性)は、令和3年3月31日、「被告人は、金品を強取しようと考え、㋐Bと共謀の上、令和3年3月9日午後1時頃、H県I市J町1丁目2番3号V方に、宅配業者を装って玄関から侵入し、その頃から同日午後1時10分頃までの間、同所において、V(当時75歳)に対し、持っていたサバイバルナイフを突き付け、『金とキャッシュカードを出せ。』などと申し向け、持っていたロープでVの両手首及び両足首を縛るなどの暴行脅迫を加え、Vの反抗を抑圧した上、V所有又は管理の現金500万円及びキャッシュカード1枚を強取し、その際、Vに加療約10日間を要する両手関節部擦過傷の傷害を負わせた。」旨の住居侵入、強盗致傷被告事件(以下「本件被告事件」という。)でH地方裁判所に公判請求された。B(21歳、男性)は、Aが公判請求される前日に、前記住居侵入、強盗致傷の事実で同裁判所に公判請求されていた。
2 Aが公判請求されるまでに収集された主な証拠の概要は次のとおりである(以下、特に年を明示していない日付は全て令和3年である。)。なお、Aは、取調べに対し、一貫して黙秘していた。
⑴ Vの警察官面前の供述録取書(証拠①)
「私は、自宅に1人で住んでいる。3月9日午後1時頃、玄関のチャイムが鳴り、インターホンに応対したところ、男が宅配業者を名乗ったため、玄関のドアを開けた。すると、茶色の作業着上下と帽子を着用した男が玄関内に入ってきてドアを閉め、ポケットから取り出したナイフを私ののど元に突き付け、『金とキャッシュカードを出せ。』と言ってきた。男の言うとおりにしないと刺されると思い、寝室のたんすの中に現金やキャッシュカードがあることを伝えた。男は、私にナイフを突き付けたまま、私を連れて寝室に移動し、再び、現金とキャッシュカードを出すように言ってきた。私は、たんすの引き出しを開け、中にあった現金500万円とR銀行の私名義のキャッシュカード1枚を男に示した。男は、その現金とキャッシュカードを奪って作業着上衣のポケットに入れると、私を床にうつ伏せに押さえ付け、私の両手首と両足首をロープで縛った。そして、男が『キャッシュカードの暗証番号を教えろ。』と言ってきたので、私は、4桁の暗証番号を教えた。すると、男はその場から立ち去った。私は、両手両足を必死に動かし、ロープを緩めて手足を抜いたが、その際、両手首を怪我してしまった。その後、110番通報した上で、R銀行に電話をかけ、キャッシュカードの利用を停止した。犯人の男が家にいた時間は約10分間だった。」
⑵ ロープに関する捜査報告書(証拠②)
「Vの110番通報を受け、3月9日午後1時40分頃にV方に臨場した警察官らは、Vの両手首及び両足首を縛っていたものとして、Vから水色のロープ2本の提出を受けたことから、これを領置した。」
⑶ I市立病院医師作成の診断書(証拠③)
「Vが3月9日、同病院を受診し、同日から約10日間の加療を要する両手関節部擦過傷と診断された。」
⑷ Qマンション防犯カメラ画像の精査に関する捜査報告書(証拠④)
「警察官らがV方付近の防犯カメラを検索したところ、V方から北方約50メートルに位置するQマンション入口に防犯カメラが設置されていることが判明した。同防犯カメラ画像を精査した結果、3月9日午後0時56分、同マンション前路上に、車両番号『あ 8910』の黒色ワンボックスカーが止まり、同日午後0時58分、同車両助手席から男(茶色の作業着上下、帽子を着用)が降り、南方に歩いていく状況と、同日午後1時11分、南方から同男と思われる男が走ってきて同車両助手席に乗り込み、同車両が発進する状況が記録されていた。」
⑸ 車両検索に関する捜査報告書(証拠⑤)
「車両番号『あ 8910』について検索をかけたところ、同車両番号での黒色ワンボックスカーの該当は1台のみであることが確認され、その使用者はBであることが判明した。」
⑹ V名義のキャッシュカード利用状況に関する捜査関係事項照会回答書(証拠⑥)
「R銀行S支店に開設されたV名義の普通預金口座(口座番号1234567)に係るキャッシュカードについては、3月9日午後1時35分頃、Vの申入れにより利用停止の手続が執られた。同日午後1時40分、UコンビニエンスストアT店に設置されたATMに同キャッシュカードが挿入され、出金の操作が行われたが、未遂に終わっている。」
⑺ UコンビニエンスストアT店防犯カメラ画像の精査に関する捜査報告書(証拠⑦)
「UコンビニエンスストアT店の駐車場及び店内に設置された防犯カメラ画像を精査した結果、3月9日午後1時38分、黒色ワンボックスカーが駐車場に止まり、運転席から、黒色の上衣、青色のズボンを着用した男(以下『甲』という。)、助手席から、茶色の作業着上下を着用した男(以下『乙』という。)がそれぞれ降り、入店する様子が記録されていた。また、入店後、甲が、同日午後1時39分から同日午後1時41分までの間、ATM前に立っている様子、乙が、清涼飲料水コーナーでペットボトル1本を手に取り、同日午後1時41分、店員にカードを手渡して購入手続を行う様子が、記録されていた。」
⑻ 商品購入状況に関する捜査報告書(証拠⑧)
「UコンビニエンスストアT店店長からの聴取により、3月9日午後1時41分、同店において、清涼飲料水1本が購入されたこと、その購入に際しては、交通系ICカードが用いられたことが判明し、同カードの名義人を照会した結果、Bであることが確認された。」
⑼ B方及びB使用車両の捜索差押調書(証拠⑨)
「3月10日午前7時から同日午前7時45分までの間、B方及びB使用車両の捜索を実施し、B方において、現金200万円、茶色の作業着上下1着、茶色の帽子1個、水色物干しロープ1巻及び携帯電話機1台を発見したので、これらを差し押さえた。」
⑽ Bの警察官面前の供述録取書(3月12日付け)(証拠⑩)
「3月1日の夜、Aから電話で、『家に金をためているばあさんがいるらしい。一緒にその金を奪わないか。』と誘われ、金に困っていたので承諾した。それから何回か、Aと共に私の車でV方付近に行き、V方の様子を観察したところ、Vが1人暮らしで、昼前後はV方にいることが分かったので、昼過ぎ頃にV方に押し入ることにした。その後、Aと話し合い、私が宅配業者を装ってV方に入り、刃物でVを脅して現金とキャッシュカードを奪うこと、その際にVから暗証番号を聞き出すこと、発覚を遅らせるためにVを縛ること、その間Aが見張りをすることを決めた。Aから、宅配業者のような服とVを縛る道具を用意するように言われたので、茶色の作業着上下と帽子を購入した。Vを縛るためには、家にあった物干しロープを使うことにした。3月9日午後0時過ぎ頃、購入した作業着を着て、私の車でA方に行き、その後、Aに運転を替わってV方に向かった。Aは、V方付近のマンション前に車を止めると、『親父のだから、落としたりするなよ。』と言いながら、私にナイフを渡してきた。そのナイフを受け取って作業着上衣のポケットに入れ、帽子をかぶり、軍手をはめて車から降りた。その後は計画どおりに実行し、V方のたんすの引き出し内にあった現金の束とキャッシュカード1枚を奪い、暗証番号を聞き出した。V方を出た後は、Aが待つ車の助手席に乗り込み、Aが車を発進させた。Aは、しばらくの間車を走らせていたが、30分ほど経った頃、Uコンビニエンスストアの駐車場に車を止め、『カードで金を下ろしてくる。』と言ってきた。そこで、私は、Vから奪ったキャッシュカード1枚をAに渡して暗証番号を伝え、Aにナイフを返した。Aが車から降り、私も飲み物でも買おうと思って車から降りた。店内では、私名義の交通系ICカードを使ってスポーツドリンク1本を買った。それから、Aと2人で車に戻ったが、この時Aが不機嫌そうに、『もう使えなかった。』と言っていたので、キャッシュカードが利用停止になっており、出金できなかったことが分かった。その後、A方に行き、Vから奪った現金500万円を2人で分けた。取り分は、Aが300万円で私が200万円だった。実行したのは私だったので分け前に少し不満はあったが、地元の先輩であるAには昔から面倒を見てもらっていて、私が学校でいじめられていたときに助けてもらったり、金に困っていたときに金を貸してもらったりしていたので仕方ないと思った。」
⑾ B使用の携帯電話機の精査に関する捜査報告書(証拠⑪)
「B使用の携帯電話機を精査したところ、メッセージアプリがインストールされ、同アプリに『A』なる者が登録されていること、『A』とBとの間で通話やメッセージが頻繁に交わされており、3月1日午後8時32分にも『A』からの着信があり、約14分間の通話があったことが判明した。」
⑿ A方の捜索差押調書(証拠⑫)
「3月10日午後3時から同日午後3時45分までの間、A方の捜索を実施し、Aが使用する部屋において、R銀行発行に係るV名義のキャッシュカード1枚(口座番号1234567)及びサバイバルナイフ1本を発見したので、これらを差し押さえた。」
⒀ A父の警察官面前の供述録取書(証拠⑬)
「私は、妻、息子のAと3人で自宅に住んでいる。警察官から、サバイバルナイフを所持しているかと尋ねられたが、1本持っている。特注品であり、柄には私の名前が入っている。本日、Aの部屋から発見されたというサバイバルナイフ1本を見せてもらったが、柄に入った名前などから私のものに間違いない。3月7日にもそのナイフを持って釣りに行った。Bのことは知っているが、ここ数年は会ったことがなく、そのナイフを貸したこともない。」
⒁ 指紋対照結果に関する捜査報告書(証拠⑭)
「証拠⑫記載のサバイバルナイフ1本から採取した指紋のうち、柄から採取した指紋2個が、それぞれBの右手拇指及び右手中指の指紋と一致した。」
⒂ Qマンション防犯カメラ画像の精査に関する捜査報告書(証拠⑮)
「3月1日以降の防犯カメラ画像を新たに入手して精査した結果、同月3日から同月5日までの各日午前8時頃から午後6時頃までの間、車両番号『あ 8910』の黒色ワンボックスカーがQマンション前路上に止められ、同車両を男2名が出入りする様子が記録されていた。」
⒃ Aの債務に関する捜査報告書(証拠⑯)
「消費者金融各社に対する照会の結果、本件犯行日である3月9日時点で、Aが消費者金融Y社に対して105万円、消費者金融Z社に対して220万円の債務を負っていたこと、Y社に対する債務につき、3月10日午前9時32分に100万円が返済され、Z社に対する債務につき、同日午前9時34分に200万円が返済されていることがそれぞれ判明した。」
⒄ Bの検察官面前の供述録取書(3月26日付け)(証拠⑰)
証拠⑩と同旨の供述に加え、「事件の翌朝、警察官が家に来たとき、初めはしらを切ろうかと思ったが、嘘を言っても通用しないだろうと思い、最初から全部本当のことを話すことにした。Vに怖い思いをさせて申し訳ない。」旨の供述が録取されている。なお、Bは、取調べに対し、一貫して本件犯行を認め、証拠⑩と同旨の供述をしていた。
3 受訴裁判所は、4月2日、本件被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。
検察官は、同月14日、本件被告事件について、犯行に至る経緯、犯行状況等をB供述に沿って時系列で記載した証明予定事実記載書を裁判所に提出するとともに、証拠の取調べを裁判所に請求し、当該証拠を弁護人に開示した。
その後、所定の手続を経て、弁護人は、「AがBと共謀した事実はなく、Aは無罪である。」旨の予定主張記載書を裁判所に提出し、検察官請求証拠に対する意見を述べた。これを受け、㋑裁判所は、検察官に対し、どのような事実と証拠に基づいてAB間の共謀を立証するのか、その主張と証拠の構造が分かるような証明予定事実記載書を追加で提出するように求めた。
その後、検察官による追加の証明予定事実記載書の提出、Bの証人尋問請求等の所定の手続が行われ、9月21日、裁判所は、争点を整理し、検察官が請求したBを証人として尋問する旨の決定をするなどした上、審理計画を策定し、公判前整理手続を終了した。裁判所が策定した審理計画は、第1回公判期日に冒頭手続、検察官請求証拠のうち証拠書類等の取調べ、第2回公判期日にBの証人尋問、第3回公判期日に被告人質問、第4回公判期日に論告、弁論等を行い、第5回公判期日に判決を言い渡すというものであった。
4 検察官は、Aについて、起訴後の接見等禁止決定がなされていたものの、その終期が公判前整理手続の終了する日までとされていたことから、㋒同日、接見等禁止の請求をし、裁判官は、その終期を第1回公判期日が終了する日までとして接見等禁止決定をした。
第1回公判期日において、冒頭手続、検察官請求証拠のうち証拠書類等の取調べが行われた。
検察官は、同期日終了後、裁判所に対し、接見等禁止の請求をし、裁判所は、その終期を第2回公判期日が終了する日までとして接見等禁止決定をした。
その後、第2回公判期日において、Bの証人尋問が行われ、Bは、証拠⑰と同旨の証言をした。㋓検察官は、同期日終了後、接見等禁止の請求をしなかった。
〔設問1〕
下線部㋐に関し、検察官は、Aが本件被告事件に関与した状況についてのB供述の信用性が認められ、同供述の内容等を踏まえればAに共謀共同正犯が成立すると判断したものであるところ、以下の各問いに答えなさい。なお、証拠①から⑨及び証拠⑪から⑯に記載された内容については、信用性が認められることを前提とする。
⑴ B供述のうち本件被告事件に関与したのはAであるとする供述部分の信用性が認められると判断した検察官の思考過程について、具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
⑵ Aに共謀共同正犯が成立すると判断した検察官の思考過程について、具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
〔設問2〕
下線部㋑に関し、裁判所が検察官に対し、追加の証明予定事実記載書の提出を求めた理由を、公判前整理手続の制度趣旨に言及しつつ答えなさい。
〔設問3〕
下線部㋒及び㋓に関し、検察官は、下線部㋒では接見等禁止の請求をしたのに、下線部㋓ではこれをしていないが、検察官がこのように異なる対応を採った理由を、具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
〔設問4〕仮に、第2回公判期日に実施されたBの証人尋問の主尋問において、Bが「今回の事件は、全てAに言われたとおりにやった。当日私が着ていた作業着やロープもAが用意したものだ。」旨証言した後、反対尋問において、弁護人がその点に関し捜査段階でどのような供述をしていたのかについて尋問を尽くしても、「覚えていない。」旨の証言に終始したとする。この場合において、弁護人は、Bの証人尋問終了後、「やむを得ない事由」(刑事訴訟法第316条の32第1項)があり、かつ、証拠能力も認められるとして、証拠⑩の取調べを請求した。これに対し、検察官は、「やむを得ない事由」があることは争わないとした上で、証拠意見として「異議なし」と述べた。
⑴ 弁護人が証拠⑩の取調べを請求した思考過程について、「やむを得ない事由」があり、かつ、証拠能力も認められると考えた理由にも言及しつつ答えなさい。
⑵ 検察官が証拠意見として「同意」ではなく「異議なし」と述べた理由を答えなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
本問は、共謀共同正犯の成否が争点となる住居侵入、強盗致傷事件を題材に、刑事手続の基本的知識、刑事事実認定の基本構造及び基礎的刑事実務能力を試すものである。設問1は、共犯者供述のうち被疑者が犯人であるとする供述部分の信用性が認められると判断した検察官の思考過程と、共謀共同正犯が成立すると判断した検察官の思考過程を、それぞれ具体的な事実関係を踏まえて検討することを通じて、供述の信用性判断及び共謀共同正犯についての基本的理解を示すことが求められる。設問2は、事例に現れた、公判前整理手続における裁判所及び当事者のやり取りを踏まえ、裁判所が検察官に追加証明予定事実記載書の提出を求めた理由を検討することを通じて、公判前整理手続の意義や機能に対する基本的理解を示すことが求められる。設問3は、公判前整理手続に付された事件の起訴後の接見等禁止請求を巡る検察官の対応に、手続の進展に伴い差が生じている理由を検討することを通じて、接見等禁止における罪証隠滅のおそれについての理解を正確に示すことが求められる。設問4は、弁護人が共犯者の証人尋問後に、その捜査段階における供述録取書の取調べを請求した思考過程と、同請求に対する検察官の証拠意見の理由を検討することを通じて、刑事訴訟法第316条の32第1項の「やむを得ない事由」についての基本的理解を示すとともに、弾劾証拠についての理解を正確に示すことが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 小問(1)
(1)共犯者の供述は、自己の刑責を軽減し、あるいは他者を引き込む危険があるから、その信用性は、客観的証拠との符合、供述内容の具体性・自然性、供述経過の一貫性、虚偽供述の動機の有無を総合して慎重に判断すべきである。
(2)まず、B供述は客観的証拠と広範かつ細部にわたって符合している。
犯行態様については、宅配業者を装い、ナイフでVを脅して現金とキャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出し、ロープで縛ったという供述が、V供述(証拠①)、水色ロープ2本の領置(証拠②)及び診断書(証拠③)と一致する。
Aの関与については、第一に、B使用の黒色ワンボックスカー(証拠⑤)が3月9日午後0時56分にQマンション前に止まり、午後0時58分に茶色の作業着の男が降り、午後1時11分に同男が走って戻って助手席に乗り込み発進している(証拠④)。助手席から降りたBが実行犯であるから、その間車内で待機し運転していた別の者がいたことになり、Aが運転と見張りを担当したという供述が裏付けられる。
第二に、午後1時38分に同車両がUコンビニ駐車場に止まり、運転席から甲、助手席から茶色の作業着の乙が降り、甲が午後1時39分から41分までATM前に立ち、乙がB名義の交通系ICカードで飲料を購入している(証拠⑦⑧)。乙がBであり、運転席から降りてATMを操作した甲がAである。しかもV名義のキャッシュカードは午後1時35分に利用停止され、午後1時40分の出金操作は未遂に終わっている(証拠⑥)。Aが「もう使えなかった」と言ったという供述と正確に符合する。
第三に、A方からV名義のキャッシュカード(口座番号も一致)とサバイバルナイフが発見され(証拠⑫)、同ナイフはA父の特注品で柄に父の名が入っており、父は3月7日にもこれを使用し、Bに貸したことも近年会ったこともない(証拠⑬)。そのナイフの柄からBの指紋2個が検出されている(証拠⑭)。Bが同ナイフを握った事実は、Aが「親父のだから、落としたりするなよ。」と言って渡したという供述以外では説明できない。
第四に、3月3日から5日までB使用車両がQマンション前に止められ男2名が出入りしていたこと(証拠⑮)は共に下見をしたという供述と、3月1日午後8時32分にAから約14分間の着信があったこと(証拠⑪)は同日夜に電話で誘われたという供述と符合する。
第五に、B方から現金200万円が発見され(証拠⑨)、Aは翌10日午前9時32分に100万円、同9時34分に200万円を返済しており(証拠⑯)、合計300万円はAの取り分と一致する。これはAの動機も示す。
(3)次に、B供述は、ナイフを渡される際のAの発言や、分け前への不満をもちつつ先輩であるAには逆らえなかったという心情に至るまで具体的であり、体験した者でなければ述べ得ない内容を含む。また、Bは当初から一貫して犯行を認め、証拠⑩と同旨の供述を続けており(証拠⑰)、変遷がない。
(4)さらに、Bは自ら住居に侵入して暴行脅迫を加えた実行行為者であることを認めており、自己の刑責を軽減する供述をしていない。Bは学校でいじめられた際に助けられるなどAに恩義を感じていた関係にあり、Aを殊更不利に引き込む動機は見当たらない。
(5)以上より、本件に関与したのはAであるとするB供述部分の信用性は認められる。
2 小問(2)
(1)2人以上の者が特定の犯罪を共同して実行する意思を相通じ、その共謀に基づいて共謀者の一部が実行行為に出た場合には、実行行為を分担しない者にも共同正犯が成立する(刑法60条)。他人の行為を自己の犯罪実現の手段として利用する関係が必要であるから、共謀としての意思連絡に加え、自己の犯罪として実現する意思(正犯意思)が必要である。
(2)本件では、Aは3月1日夜、Bに電話して「家に金をためているばあさんがいるらしい。一緒にその金を奪わないか。」と犯行を発案して誘い、Bはこれを承諾した。その後数回にわたりV方付近に赴いて在宅状況を観察し、犯行時刻を昼過ぎと定め、Bが宅配業者を装って侵入し刃物でVを脅して現金とキャッシュカードを奪い暗証番号を聞き出すこと、発覚を遅らせるためVを縛ること、その間Aが見張りをすることという具体的な役割分担を取り決めている。住居侵入及び強盗についての意思連絡は明らかである。
(3)そして、Aは犯行を発案して主導し、Bに作業着とVを縛る道具の準備を指示し、当日は自ら運転して現場に赴き、父の所有する特注のサバイバルナイフを凶器として提供し、Bの犯行中は車内で待機して逃走手段を確保し、Bを乗せて離脱した。さらに自らVのキャッシュカードを用いてATMで出金を試み、強取金500万円のうち過半の300万円を取得して自己の債務の弁済に充てている。Aは本件犯行を自己の犯罪として実現する意思を有していた。
(4)Bは共謀に基づき、3月9日午後1時頃から同1時10分頃までの間、宅配業者を装ってV方に侵入し、サバイバルナイフを突き付けて金品を要求し、ロープで両手首及び両足首を縛ってVの反抗を抑圧して現金500万円及びキャッシュカード1枚を強取した。Vの両手関節部擦過傷は、縛られたロープから脱しようとした際に生じたものであり、強盗の手段たる暴行に基づく傷害として共謀の射程内にある。
(5)よって、Aには住居侵入罪(刑法130条前段)及び強盗致傷罪(240条前段)の共謀共同正犯(60条)が成立する。
第2 設問2
公判前整理手続は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため、事件の争点及び証拠を整理する手続である(刑事訴訟法316条の2第1項)。その実質は、検察官の証明予定事実の明示(316条の13第1項)と被告人側の予定主張の明示(316条の17第1項)を通じて争点を実質的に絞り、必要な証拠調べの範囲を確定して審理計画を策定することにある。
本件では、弁護人の予定主張により争点はAB間の共謀の有無に絞られた。ところが検察官の当初の証明予定事実記載書は、犯行に至る経緯及び犯行状況をB供述に沿って時系列に記載したにとどまり、共謀を基礎づける個別の事実と各証拠との対応関係が示されていない。Aは黙秘しており、その関与を示す直接証拠はB供述のみであるから、その信用性を支える客観的証拠を含む立証構造が明らかにされなければ、争点の実質的な整理も証拠の取捨も審理計画の策定もできない。弁護人としても的確な反論や証拠調べ請求、証拠開示請求ができず、争点整理が形式的なものに終わる。
そこで裁判所は、上記制度趣旨を実現するため、主張と証拠の構造が分かる追加の証明予定事実記載書の提出を求めたのである。
第3 設問3
接見等禁止決定(刑事訴訟法81条)は、被告人が逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときにされる。本件の争点はAB間の共謀の有無であり、Aが黙秘していることからその中核的証拠はBの供述であるから、ここでの罪証隠滅のおそれとは、Aが第三者を通じてBに働きかけ、その供述を変更させることを主たる内容とする。BはAを地元の先輩として慕い、いじめから助けられ金銭を借りるなどの恩義を感じていた関係にあるから、働きかけが効を奏する現実的可能性があった。
㋒の時点では、Bの証人尋問は第2回公判期日に予定されていたにとどまり、まだ実施されていない。Aが接見等を通じてBに働きかければ、Bが証言を変更し又は証言を拒むおそれがあり、罪証隠滅のおそれが具体的に存在した。そこで検察官は接見等禁止を請求した。
これに対し㋓の時点では、既に第2回公判期日においてBの証人尋問が実施され、Bは証拠⑰と同旨の証言をしている。公判廷での証言は証拠として顕出され公判調書に記載されるから、その後にBが供述を変更しても、当該証言そのものを失わせることはできない。残る手続は被告人質問、論告・弁論及び判決であり、A自身の供述に関わるものであって第三者への働きかけによる罪証隠滅の余地は乏しい。罪証隠滅のおそれが大きく減少したため、検察官は接見等禁止を請求しなかったのである。
第4 設問4
1 小問(1)
(1)公判前整理手続が終了した後は、やむを得ない事由によって請求することができなかった証拠を除き、新たに証拠調べを請求することができない(刑事訴訟法316条の32第1項)。
本件のB証言は、作業着やロープもAが用意したというものであるが、証拠⑩におけるBの供述は、作業着と帽子は自らが購入し、ロープは自宅にあった物干しロープを用いることにしたというものであって、これと矛盾する。弁護人は、Bが公判でこのような証言をすることを公判前整理手続の段階で予測することができず、また反対尋問で捜査段階の供述を尋問しても「覚えていない」との証言に終始したため、証言自体によって矛盾を顕出することもできなかった。したがって、証拠⑩の取調べ請求はやむを得ない事由によってすることができなかったものといえる。
(2)証拠⑩はBの公判期日外の供述を内容とする書面であるから、記載内容の真実性を証明するために用いるのであれば伝聞証拠として証拠能力を有しない(320条1項)。もっとも、弁護人の立証趣旨は、Bが公判廷外で証言と相反する供述をしていた事実そのものによってB証言の証明力を減殺することにある。この場合、要証事実は供述内容の真実性ではなく、そのような供述が存在したこと自体であるから伝聞法則は適用されず、証人の供述の証明力を争うための証拠(328条)として証拠能力が認められる。
そして、328条により許容されるのは信用性を争う対象の供述者自身の自己矛盾供述に限られ、その供述が同人のものであることは厳格な証明によらなければならない(最三判平18.11.7)。証拠⑩はB自身の署名押印のある警察官面前の供述録取書であるから、この要件を満たす。
(3)以上から、弁護人は証拠⑩の取調べを請求したものである。
2 小問(2)
「同意」(326条1項)は、伝聞証拠につき反対尋問権を放棄してこれを実質証拠として用いることを許容する訴訟行為である。検察官が同意すれば、証拠⑩は伝聞例外として証拠能力を取得し、Aとの共謀の内容を含む記載全体が、その真実性を証明するための実質証拠として用いられることになる。
しかし弁護人の請求は328条の弾劾証拠としての取調べを求めるものであり、検察官も、B証言の証明力を争うという限度でのみ取調べを認める意思である。ここで「同意」と述べれば326条1項の同意と解され、整理された争点及び証拠の範囲を超えて証拠⑩が実質証拠として扱われるおそれがある。
そこで検察官は、326条1項の同意をするものではなく、328条の限度における取調べ請求に異議を述べないという趣旨を明確にするため、「異議なし」と述べたのである。
以上