予備試験 平成26年 刑事実務基礎
問題文
[刑 事]
次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。
【事 例】
1 A(男性,22歳)は,平成26年2月1日,V(男性,40歳)を被害者とする強盗致傷罪の被疑事実で逮捕され,翌2日から勾留された後,同月21日,「被告人は,Bと共謀の上,通行人から金品を強取しようと企て,平成26年1月15日午前零時頃,H県I市J町1丁目2番3号先路上において,同所を通行中のV(当時40歳)に対し,Bにおいて,Vの後頭部をバットで1回殴り,同人が右手に所持していたかばんを強く引いて同人を転倒させる暴行を加え,その反抗を抑圧した上,同人所有の現金10万円が入った財布等2点在中の前記かばん1個(時価合計約1万円相当)を強取し,その際,同人に加療約1週間を要する頭部挫創の傷害を負わせた。」との公訴事実が記載された起訴状により,I地方裁判所に公訴を提起された。
なお,B(男性,22歳)は,Aが公訴を提起される前の同年2月6日に同裁判所に同罪で公訴を提起されていた。
2 Aの弁護人は,Aが勾留された後,数回にわたりAと接見した。Aは,逮捕・勾留に係る被疑事実につき,同弁護人に対し,「私は,平成26年1月14日午後11時頃,友人Bの家に居た際,Bから『ひったくりをするから,一緒に来てくれ。車を運転してほしい。ひったくりをする相手が見付かったら,俺だけ車から降りてひったくりをするから,俺が戻るまで車で待っていてほしい。俺が車に戻ったらすぐに車を発進させて逃げてくれ。』と頼まれた。Bからひったくりの手伝いを頼まれたのは,この時が初めてである。私は,Bが通行人の隙を狙ってかばんなどを奪って逃げてくるのだと思った。私は金に困っておらず,ひったくりが成功した際に分け前をもらえるかどうかについては何も聞かなかったが,私自身がひったくりをするわけでもないので自動車を運転するくらいなら構わないと思い,Bの頼みを引き受けた。(中略)私とBは,Bの家に戻ってから,一緒にかばんの中身を確認した。かばんには財布と携帯電話機1台が入っており,財布の中には現金10万円が入っていた。Bが,私に2万円を渡してきたので,私は,自動車を運転した謝礼としてこれを受け取った。」旨説明した。
3 受訴裁判所は,同年2月24日,Aに対する強盗致傷被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。検察官は,同年3月3日,【別紙1】の証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁護人に提出・送付するとともに,同裁判所に【別紙2】の証拠の取調べを請求し,Aの弁護人に当該証拠を開示した。
4 Aの弁護人は,【別紙1】の証明予定事実記載書及び【別紙2】の検察官請求証拠を検討した後,①同証明予定事実記載書の内容につき,受訴裁判所裁判長に対して求釈明を求める方針を定め,また,②検察官に対し,【別紙2】の検察官請求証拠の証明力を判断するため,類型証拠の開示を請求した。その上で,③Aの弁護人は,前記2のAの説明内容に基づいて予定主張記載書面を作成し,これを受訴裁判所及び検察官に提出・送付した。
5 その後,Bに対する強盗致傷被告事件の公判において,Bは,被告人質問で新たに「Aから『バットを持って行けばよい。』と勧められた。また,バットでVの後頭部を殴ってから,Vのかばんを引っ張った。」旨供述した。④同検察官は,取調べの結果,Bが自己の公判で新たにした供述の内容が信用できると判断した。
(設問1〜4は原文どおり)
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
本問は,強盗致傷罪の成否やその共謀が争点となり得る具体的事例を題材に,弁護人として,公判前整理手続において,検察官作成の証明予定事実記載書の内容につき求釈明を要求すべき事項(設問1),被害者の検察官調書の証明力を判断するために類型証拠開示請求すべき証拠(設問2),被告人の弁解等を踏まえ明示すべき予定主張の内容(設問3)などを問うとともに,検察官として,公判前整理手続終了後に共犯者の公判でなされた共犯者供述を被告人の公訴事実の立証に用いるために行うべき訴訟活動の在り方(設問4)を問うものである。昨今の刑事裁判実務において重要な役割を果たしている公判前整理手続やその他の刑事手続,更には実体法(刑法)についての基礎的知識を試すとともに,具体的事例において,これらの知識を活用し,訴訟当事者として行うべき訴訟活動や法的主張を検討するなどの法律実務の基礎的素養を試すことを目的としている。
参考答案
設問1
条文の根拠
刑事訴訟法規則第208条第1項「裁判長は、必要と認めるときは、訴訟関係人に対し、釈明を求め、又は立証を促すことができる」、及び同条3項「訴訟関係人は、裁判長に対し、釈明のための発問を求めることができる」。
弁護人が求釈明を求める事項
「強盗の共謀を遂げた」こと
検察官が第1第3項で、「被告人とBは強盗の共謀を遂げた」と明記したが、証拠に共謀があったことを示しなかった。
証明予定事実記載書に記載されている各事実に、どの証拠が共謀を証明できるかは不明である。
共謀の具体的内容がひったくりか強盗であったかが被告人の防御にとって重要であるため、共謀の日時、場所および方法、いかに共謀したかについて求釈明を求める必要がある。
設問2
Aの弁護人が甲第4号証のVの検察官調書の証明力を判断するためには、刑事訴訟法第316条の15によって、開示を請求する類型証拠は以下と考えられる:
実況見分調書のすべて(第316条の15第1項3号)
実況見分調書は、316条の15第1項3号に該当する。なぜなら、その存在又は状態が事実認定の資料となる可能性がある証拠であり、「第321条第3項に規定する書面又はこれに準ずる書面」である。
理由としては、実況見分調書にはであるから、供述に矛盾する点や不自然な点がないかを検討することが甲第4号証の証明力を判断するために重要であり、かつAの防御の準備のために必要である。
甲第3号証に関する鑑定書のすべて
鑑定書は、「第321条第4項に規定する書面又はこれに準ずる書面」として、第316条の15第1項4号の類型に該当する。
理由としては、VはBのバットによって殴打された場合、バットはVの頭の繊維が残し、それを検出されると思われる。よって、これは供述に矛盾する点や不自然な点がないかを検討することが甲第4号証の証明力を判断するために重要であり、かつAの防御の準備のために必要である。
Vの供述録取書未開示のすべて
Vは「検察官が取調べを請求した供述録取書等の供述者」であるから、その取調べによって請求した供述録取書は316条の15第1項5号ロの供述録取書に該当する。
理由としては、316条第3項本文により、同項1号ロの「事案の内容、特定の検察官請求証拠に対応する証明予定事実、開示の請求に係る証拠と当該検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該開示の請求に係る証拠が当該検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由」という事項は明らかにしなければならないであり、当該供述録取書の内容、態度や経過などについて、事件直後の供述録取書と事件から一定の時間経った供述録取書で内容が変わっていないか、かつAの防御の準備のために必要である。
甲1号証の診断に関するカルテのすべて
カルテは、316条の15第1項1号に該当する。なぜなら、カルテは、そのぞんざい又は状態が事実認定の資料となる可能性がある証拠であり、1号の証拠物に含まれると言える。
理由としては、カルテに医師がVから聴取した内容が含まれ、医師の判断があり、供述内容に矛盾する点や不自然な点がないかを検討することが甲第4号証の証明力を判断するために重要であり、かつAの防御の準備のために必要である。
設問3
結論
Aには強盗致傷罪ではなく、窃盗罪の幇助犯に成立する。
理由
AとBは強盗(致傷)罪の共謀をしたことがない
平成26年1月14日午後1時頃、AはBの家にいた際に、Bの頼みによって、Bとひったくりを共謀し、これに基づく準備をしたから、ひったくりに基づく共謀であり、強盗の共謀ではない。
よって、AはBと強盗(致傷)罪の共謀をしたことがない。
BはVを殴打しなかった(暴行、脅迫)
強盗罪の暴行又は脅迫とは、一般人をして反抗を抑圧するに足りる程度の暴行又は脅迫をいう。
平成26年1月15日零時頃、Bは降車した際にはバットを持っていたが、Bは同バットでVを殴打したのでなく、Vの背後からVに近付いたとき、いきなりVが右手に持っていたかばんをつかんで後ろに引っ張って、Vが後方に転倒して頭部を地面に打ち付いたから、Vの頭部挫創の傷害はこれによったものである。
よって、Vは怪我したが、BがVを殴打しなかった。
よって、暴行又は脅迫が認められず、強盗罪は成立しない。
仮にBがVを殴打したとしても、Aに責任を問わせるべきではない
Bが乗車および降車したときに、夜深くなったため、暗い視線でAはBがバットを持ったかについて見えなかった。バットを見えなかった以上、バットでVを傷害することを予知できることもない。
Aはあくまでも「ひったくり」の共犯であるから、VはBによって殴打されてもされなくても、Vが傷害されたことをAに問責すべきではない。
Aは窃盗の故意であり、Bは強盗の故意であるから、重なり合う窃盗の範囲で共同正犯が成立するにすぎない。
Aは共同正犯ではなく、窃盗罪の幇助犯に成立するにとどまる。
本件において、BがAを唆して、犯行の参与をした。その上で、Aはあくまでも運転をし、Bの犯行を加功しただけ、重要な役割を担っておらず、正犯意思を欠いたから、ひったくりの幇助をしたにとどまる。
設問4
刑事訴訟法第298条により、弁護人は証拠調べを請求できるから、Aの弁護人は、被告人質問調書を証拠調べを請求することができる。
同法第320条により、公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることができない。Bの新供述は、Aの公判期日外でしたものであるため、伝聞に当たり、本条文の規定のより、この供述は原則として証拠とすることができない。
同法第321条1項1号により、被告人以外の供述者が公判準備もしくは公判期日において前の供述と異なった供述をしたとき、これを証拠とすることができる。本件において、Bは確かに異なった供述をしたが、これはのAの公判期日のでなく、Bに対する強盗致傷被告事件の公判で異なった供述をしたので、弁護人は、この条文が適用されないと主張することができる。
公判前整理手続終了後の証拠調べ請求
「やむを得ない事由」316条の32
公判前整理手続きが終結したのが3月28日であり、Bの公判が行われたのが4月21日から4月23日であり、Aの公判前整理手続でBの被告人質問調書を証拠調べ請求することは不可能であるから、やむを得ない事由が存在する。