予備試験 令和5年 知的財産法
問題文
[知的財産法]
共に工作機械メーカーであるA社及びB社は、精密部品の加工用の工作機械に関する共同研究開発契約(以下「本件契約」という。)を締結し、いずれも研究開発部門に所属する、A社の従業員甲とB社の従業員乙が、勤務時間内に、A社及びB社の研究設備や施設を使用して共同研究開発した結果、従来よりも精密で複雑な部品加工が可能な新たな工作機械を発明した(以下「本件発明」という。)。本件発明の技術的思想の創作行為に対する甲及び乙の関与の程度は同等である。また、本件契約には、本件契約に基づき発明がなされた場合には、各社に特許を受ける権利が帰属するために必要な措置をお互い講ずる旨の定めがあった。共同研究開発中、B社内では、乙の上司から、乙が行っている研究方針について反対の意向が示されていたが、乙は、これに従わずに研究を継続した結果、本件発明に至ったものである。
A社の職務発明規程には、従業員が発明をするに至った行為が職務に属する場合には、当該発明についての特許を受ける権利をA社が承継することができる旨の定めがあり、B社の職務発明規程には、従業員が発明をするに至った行為が職務に属する場合には、その発明が完成した時に、当該発明についての特許を受ける権利をB社が取得する旨の定めがあった。
以上の事実関係を前提として、以下の各設問に答えよ。ただし、設問1及び設問2にそれぞれ記載した追加的な事実関係は、別個独立したものである。
〔設問1〕
甲が、本件発明の完成後、A社に本件発明について報告したところ、A社は、本件発明の特許を受ける権利を甲から承継することとし、甲とA社は、特許を受ける権利の譲渡に必要な手続を行った。他方、乙は、乙の上司の反対を押し切って本件発明を完成させたことから、本件発明の特許を受ける権利は自己に帰属するものと考え、甲に対し、本件発明について一緒に特許出願をしようと持ちかけた。しかし、甲は、A社との間で、特許を受ける権利の譲渡に必要な手続を済ませていたことから、乙からの誘いを断った。そのため、乙は、本件発明について、乙を発明者として特許出願を行い、その後、特許権の設定登録を受けた(以下、登録された権利を「乙特許権」という。)。
⑴ 工作機械メーカーであるC社は、本件発明の実施品である工作機械(以下「C社機械」という。)の製造及び販売を開始した。乙がC社に対し、乙特許権に基づき、C社機械の製造及び販売の差止めを請求した場合、この請求が認められるかについて論じなさい。
⑵ 乙による単独出願を知ったA社及びB社は、乙に対し、乙特許権の移転を請求することができるかについて論じなさい。
〔設問2〕
A社及びB社は、令和3年4月に本件発明について共同出願し、令和5年7月に特許権の設定登録を受けた(以下、登録された権利を「AB特許権」という。)。
D社は、工作機械メーカーであるが、令和元年秋頃から、日本国内の工場において、秘密裏に、新たな工作機械の研究開発を続け、本件発明の内容を知らずに、独自に、従来よりも精密で複雑な部品加工が可能な新たな工作機械を開発し、その製造図面を作成の上、令和3年1月には当該工作機械の試作品を製作した。この試作品は本件発明の技術的範囲に属するものであった。その後、D社は、同工作機械の量産化に向けた事業化を進め、同年8月から、工作機械(以下「D社機械」という。)の製造及び販売を開始した。D社機械は、本件発明の技術的範囲に属するものであった。
また、D社機械は、前記試作品から仕様の一部が変更されていたが、その変更に係る部分は、従来よりも精密で複雑な部品加工を可能にするための技術的手段とは無関係であった。
⑴ A社が、AB特許権に基づき、D社に対し、D社機械の製造及び販売の差止めを請求した場合、その請求が認められるかについて論じなさい。
⑵ D社は、工作機械メーカーであるE社に対し、D社機械を販売し、E社はそれを取引先に販売している。A社が、AB特許権に基づき、E社に対し、D社機械の販売の差止めを請求した場合、その請求が認められるかについて論じなさい。
⑶ その後、D社は、E社に対し、D社機械と同一の工作機械(以下「E社機械」という。)の製造を許諾し、E社は、E社機械を自ら製造し、取引先に販売するようになった。A社が、AB特許権に基づき、E社に対し、E社機械の製造及び販売の差止めを請求した場合、その請求が認められるかについて論じなさい。
【参考】特許法施行規則(昭和35年3月8日通商産業省令第10号)(特許権の移転の特例)第40条の2 特許法第74条第1項の規定による特許権の移転の請求は、自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとする。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
1 本問は、企業間の共同研究開発契約に基づく共同発明を題材として、職務発明、無効の抗弁、冒認に基づく特許権の移転請求、先使用権についての理解を問うものである。
2 設問1について(1)小問(1)については、乙による発明の職務発明(特許法(以下「法」という。)第35条第1項)該当性を論じた上で、B社の職務発明規程によれば、職務発明が完成した時、当該職務発明に係る特許を受ける権利がB社に帰属すること(同条第3項)を踏まえ、冒認を理由とする無効の抗弁の主張の可否(法第104条の3第1項及び第3項、法第123条第1項第6号及び第2項)について論じることが求められる。
(2)小問(2)については、小問(1)で論じたB社と乙の権利関係に加え、甲による発明の職務発明該当性を論じた上で、A社の職務発明規程によればA社が職務発明に係る特許を受ける権利を承継取得すること(法第35条第2項参照)、また、その場合、共有者の同意が必要である(法第33条第3項)ところ、本件契約では、各社に特許を受ける権利が帰属するために必要な措置をお互い講ずる旨の定めがあること等を踏まえ、A社及びB社が共有持分について移転請求することができるかどうか(法第74条第1項)について論じることが求められる。
3 設問2について(1)小問(1)については、D社における先使用権(法第79条)の成否の検討に当たり、D社において本件発明についての共同出願の際、発明を完成させ「事業の準備」をしていたといえるか、また、試作品とD社機械の仕様の一部が異なっていることから、「実施又は準備をしている発明の範囲」といえるかについて、最判昭和61年10月3日民集40巻6号1068頁【ウォーキングビーム炉事件】の判示を踏まえて論じることが求められる。
(2)小問(2)については、先使用権者が販売した実施品の購入者による先使用権の援用の可否(名古屋地判平成17年4月28日判例時報1917号142頁【移載装置事件】参照)、小問(3)については、先使用権に基づく実施許諾の可否について、それぞれ論じることが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 小問⑴
(1)乙のC社に対する請求は、乙特許権に基づく差止請求(特許法(以下「法」という。)100条1項)である。C社機械は本件発明の実施品であるから、その製造及び販売は乙特許権に係る特許発明の実施(法2条3項1号)に当たり、形式的には侵害が認められる。そこで、C社が乙特許権の無効を理由として抗弁を主張できるかが問題となる。
(2)乙の発明の職務発明該当性
まず、本件発明についての特許を受ける権利の帰属を検討する。
職務発明とは、従業者等がした発明であって、その性質上使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為が使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属するものをいう(法35条1項)。
本件発明は精密部品の加工用の工作機械に関する発明であり、B社は工作機械メーカーであるから、その性質上B社の業務範囲に属する。乙はB社の研究開発部門に所属する従業員であり、勤務時間内に、A社及びB社の研究設備や施設を使用して共同研究開発を行った結果、本件発明に至っている。したがって、発明をするに至った行為は乙のB社における職務に属する。
なお、共同研究開発中、B社内では乙の上司から乙が行っている研究方針について反対の意向が示されており、乙はこれに従わずに研究を継続した。しかし、職務該当性は、使用者から与えられた職務の内容を客観的・包括的にみて判断すべきであって、研究の具体的方針について上司の指示に反したからといって、研究開発という職務の範囲を逸脱することになるものではない。したがって、本件発明は乙の職務発明に当たる。
そして、B社の職務発明規程は、従業員が発明をするに至った行為が職務に属する場合には、その発明が完成した時に当該発明についての特許を受ける権利をB社が取得する旨を定めている。使用者等にあらかじめ特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する(法35条3項)。したがって、乙に生じた特許を受ける権利の持分は、本件発明の完成時にB社に原始的に帰属し、乙は特許を受ける権利を有しない。
他方、甲の発明も、甲がA社の研究開発部門に所属する従業員であり、工作機械メーカーであるA社の業務範囲に属する発明をその職務として行ったものであるから職務発明に当たる。A社の職務発明規程は特許を受ける権利を承継することができる旨を定めるものであり(法35条2項参照)、甲とA社は特許を受ける権利の譲渡に必要な手続を行っているから、甲の持分はA社に承継されている。
以上より、本件発明についての特許を受ける権利は、A社及びB社の共有であり、乙はこれを有しない。
(3)無効の抗弁の可否
発明者でない者であって、その発明について特許を受ける権利を承継しない者の特許出願に対してされた特許は、無効理由を有する(法123条1項6号)。乙は本件発明の発明者の一人ではあるが、特許を受ける権利を有しないまま単独で出願しているから、乙特許権は、特許を受ける権利を承継しない者の出願に対してされた特許として、同号の無効理由を有する。
もっとも、冒認を理由とする特許無効審判は、特許を受ける権利を有する者に限り請求することができる(法123条2項但書)。そして、法104条の3第3項は、法123条2項の規定により特許無効審判を請求することができる者以外の者は、同条1項の無効の抗弁を提出することができないと定める。これは、冒認及び共同出願違反の無効理由が、真の権利者の利益に関わる相対的な無効理由であり、真の権利者が権利の移転を請求して特許権を維持することを選択し得ることから、無関係の第三者による主張を認めない趣旨である。
本件において、C社は本件発明について特許を受ける権利を有する者ではなく、単に実施品を製造販売する第三者にすぎない。したがってC社は、冒認を理由とする無効の抗弁を主張することができない。他に乙特許権の無効理由や、C社が実施権を有するなどの事情も認められない。
(4)結論
よって、C社は乙の請求を妨げる主張をすることができず、乙のC社に対するC社機械の製造及び販売の差止請求は認められる。
2 小問⑵
(1)特許が法123条1項6号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる(法74条1項)。そして、この移転請求は、自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとされている(特許法施行規則40条の2)。
前述のとおり、乙特許権は法123条1項6号の要件に該当する。そこで、A社及びB社が「特許を受ける権利を有する者」に当たるかを検討する。
(2)B社について
乙がした本件発明は職務発明であり、B社の職務発明規程は発明完成時に特許を受ける権利をB社が取得する旨を定めているから、乙の持分は発生時からB社に帰属する(法35条3項)。これは原始取得であって譲渡ではないから、特許を受ける権利の共有持分の譲渡について他の共有者の同意を要する旨の法33条3項の適用はなく、同意の有無を問題とする必要はない。
本件発明の技術的思想の創作行為に対する甲及び乙の関与の程度は同等であるから、その持分は各2分の1と解される。したがってB社は、特許を受ける権利の2分の1の持分を有する者である。
(3)A社について
甲の持分は、甲とA社との間の譲渡の手続により甲からA社に移転している。もっとも、特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡することができない(法33条3項)。本件発明は甲乙の共同発明であり、特許を受ける権利は発生時から甲(後にA社)とB社の共有であったから、甲の持分をA社に譲渡するにはB社の同意が必要である。
この点、本件契約には、本件契約に基づき発明がなされた場合には、各社に特許を受ける権利が帰属するために必要な措置をお互い講ずる旨の定めがあった。これは、A社及びB社が、それぞれの従業者がした発明に係る持分を各社が取得することを相互に前提とし、そのために必要な協力をする旨を合意したものである。そうすると、甲の持分がA社に帰属することについては、B社があらかじめ包括的に同意していたと解すべきである。
したがってA社は、法33条3項の同意を得て甲の持分を有効に承継取得しており、特許を受ける権利の2分の1の持分を有する者である。
(4)結論
以上より、A社及びB社は、いずれも乙特許権に係る発明について特許を受ける権利を有する者であるから、法74条1項により、乙に対し乙特許権の移転を請求することができる。もっとも、その請求は自己が有すると認める持分に応じてすべきものであるから(特許法施行規則40条の2)、A社及びB社はそれぞれ2分の1の持分についてのみ移転を請求することができ、特許権全部の移転を請求することはできない。
なお、移転の登録がされた場合には、特許権は初めから当該請求をした者に帰属していたものとみなされる(法74条2項)。
第2 設問2
1 小問⑴
(1)D社機械は本件発明の技術的範囲に属するから、D社によるその製造及び販売はAB特許権に係る特許発明の実施(法2条3項1号)に当たる。特許権が共有に係る場合であっても、各共有者は、自己の持分に基づき単独で差止請求(法100条1項)をすることができるから、A社は単独でD社に対し差止めを請求し得る。そこで、D社に先使用権(法79条)が認められるかが問題となる。
(2)先使用権の要件
特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をした者であって、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する(法79条)。
ア 発明の内容を知らないで自ら発明をしたこと
D社は、令和元年秋頃から日本国内の工場において秘密裏に新たな工作機械の研究開発を続け、本件発明の内容を知らずに、独自に、従来よりも精密で複雑な部品加工が可能な新たな工作機械を開発している。したがってこの要件を充たす。
イ 特許出願の際に事業の準備をしていたこと
AB特許権に係る特許出願は令和3年4月であり、D社がD社機械の製造及び販売を開始したのは同年8月であるから、出願の際にD社が実施である事業をしていたとはいえない。そこで「事業の準備」に当たるかが問題となる。
「事業の準備」とは、特許出願に係る発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者が、その発明につき、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味する(最判昭61.10.3)。
本件において、D社は令和元年秋頃から約1年半にわたり研究開発を継続し、令和3年1月には当該工作機械の製造図面を作成の上、試作品を製作している。製造図面の作成及び試作品の製作は、量産に向けた技術的裏付けが整い、設計が確定したことを意味するものであり、研究段階を超えて事業化の段階に入ったことを客観的に示す行為である。しかもD社は、その後同工作機械の量産化に向けた事業化を進め、出願からわずか4か月後の令和3年8月には現に製造及び販売を開始している。
そうすると、D社は出願の際に即時実施の意図を有しており、その意図が製造図面の作成及び試作品の製作という客観的に認識される態様・程度において表明されていたといえる。したがってD社は、出願の際に日本国内において事業の準備をしていた。
ウ 「実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内」であること
D社機械は、令和3年1月に製作された試作品から仕様の一部が変更されている。そこで、先使用権の効力がD社機械に及ぶかが問題となる。
法79条の趣旨は、出願前から発明を自ら完成させて事業の実施又はその準備をしていた者の投下資本を保護し、特許権者との間の公平を図る点にある。そうすると、先使用権の効力の及ぶ「実施又は準備をしている発明」の範囲は、出願の際に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式に限定されるものではなく、その実施形式に具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶと解すべきである(最判昭61.10.3)。
本件では、試作品からD社機械への仕様の変更に係る部分は、従来よりも精密で複雑な部品加工を可能にするための技術的手段とは無関係であった。すなわち、変更部分は本件発明の技術的思想の中核とは関わりがなく、試作品に具現された発明と同一性を失わせるものではない。また、事業の目的も、工作機械の製造及び販売である点で一貫している。
したがって、先使用権の効力はD社機械の製造及び販売に及ぶ。
(3)結論
よってD社はAB特許権について先使用権(法79条)を有し、D社機械の製造及び販売は適法である。A社のD社に対する差止請求は認められない。
2 小問⑵
(1)E社は、D社からD社機械を購入し、これを取引先に販売している。D社機械は本件発明の技術的範囲に属するから、その販売は形式的には実施(法2条3項1号)に当たる。
まず、E社自身に先使用権が認められるかを検討すると、E社は、出願の際に日本国内において本件発明の実施である事業をしておらず、その準備もしていないから、法79条の要件を充たさない。また、先使用権は、出願前から自ら発明を完成させて事業の実施又は準備をしていた者の投下資本を保護する趣旨の権利であり、その者に固有の地位として認められるものであるから、E社がD社の先使用権を自己のために援用することもできない。
(2)もっとも、特許権者又は実施権者が我が国において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達したものとして消尽し、もはや特許権の効力は当該特許製品の使用、譲渡又は貸渡し等には及ばない。これは、特許権者に二重の利得を認める必要がないこと、及び特許製品の円滑な流通を確保して取引の安全を図る必要があることによる。
先使用権は法定の通常実施権であり、先使用権者による製造及び譲渡は特許権の効力の及ばない適法な実施である。したがって、先使用権者が適法に製造して譲渡した特許製品についても消尽が生じ、その後の流通に特許権の効力は及ばないと解すべきである。
本件では、D社機械は、先使用権を有するD社が適法に製造し、E社に販売したものである。したがって当該D社機械についてAB特許権は消尽しており、E社がこれを取引先に販売する行為に特許権の効力は及ばない。
(3)よって、A社のE社に対するD社機械の販売の差止請求は認められない。
3 小問⑶
(1)E社機械は、E社がD社の許諾を受けて自ら製造したものであり、D社が譲渡した製品ではないから、消尽の問題は生じない。そこで、E社がD社の先使用権に基づく実施許諾によって実施権を取得するかが問題となる。
(2)先使用権は、法律上当然に発生する法定通常実施権であり、特許権者に対して特許発明の実施を容認させる権利にすぎず、第三者を排除する排他的効力を有しない。そして法79条は、先使用権者が「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において」通常実施権を有すると定めており、先使用権者自身の事業として実施する範囲に限って保護を与える趣旨である。
また、通常実施権の移転は、実施の事業とともにする場合、特許権者の承諾を得た場合及び相続その他の一般承継の場合に限られる(法94条1項)。これは、特許権者の意思に基づかずに実施主体が拡大することを防ぐ趣旨であり、先使用権についても同様に妥当する。先使用権は、出願前から実施又は準備をしていた者の投下資本を保護し特許権者との公平を図るために認められるものであって、これを超えて先使用権者が自由に第三者に実施を許諾し、実施主体を拡大することを認めれば、特許権者の利益を不当に害することになる。
したがって、先使用権者は、特許権者の承諾なくして第三者に再実施許諾をすることはできないと解すべきである。本件において、A社及びB社がD社による実施許諾を承諾した事情はない。
(3)よって、E社は実施権を取得せず、E社がE社機械を自ら製造し取引先に販売する行為は、AB特許権の侵害に当たる。A社のE社に対するE社機械の製造及び販売の差止請求は認められる。
以上