司法試験 令和3年 商法
問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:25:40〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,和食器の製造・販売を業とする株式会社であり,取締役会及び監査役を置いているが,会社法上の公開会社ではなく,平成28年3月31日現在,資本金は1億円,負債額は2億円,総資産額は10億円,当該事業年度の経常利益は2000万円であった。甲社の取締役は,Aほか3名であり,Aが代表取締役を務めている。
甲社の和食器は,伝統美の中に現代的なテイストを取り入れる点が評価され,人気が高まっていたが,甲社は,厳格な品質管理体制を有し,信頼できる代理店のみを通じて販売する方針を堅持していた。
2.高級食器の販売を業とする乙株式会社(取締役会を設置しておらず,株主はBのみである。以下「乙社」という。)の代表取締役Bは,Aに対し,甲社の和食器を販売させてほしいと再三申し入れていたが,断られていた。
3.Aは,平成28年5月頃,Bに対し,「私個人でレストランを開業するので,下見に同行してほしい。」と頼んだ。Aは,同行したBに対し,「レストランでは甲社の和食器を利用するので,気に入った客が乙社を通じて購入できるようにするのはどうか。」と持ち掛けるとともに,「この計画の実現には5000万円資金が足りない。」と漏らした。Bは,これを機に甲社との取引関係を深めようと思い,前記1の事項を含む甲社の財務状況の概要をAに確認した上で,乙社としてAに5000万円を融資することとし,Aに対し,「我が社にお任せください。ただ,個人に事業上の融資をした実績がないので,甲社の連帯保証を付けてください。」と述べたところ,Aは,「分かった。」と答えた。Bは,後日,Aに対し,「連帯保証についての甲社の取締役会の議事録の写しをもらえれば,すぐに融資できます。」と述べた。
4.このレストラン業は,Aが甲社の事業として提案したところ,採算がとれる見通しがないことを理由に他の取締役らに反対されたものであった。このような経緯から,Aは,甲社が連帯保証することについて,他の取締役らの賛成を得ることはできないと考え,取締役会の議事録の写しではなく,甲社代表取締役A名義でAの乙社に対する債務を連帯保証することについて取締役会の承認がある旨の確認書(以下「本件確認書」という。)を作成し,これをBに交付することとした。
5.Aは,平成28年5月25日,Bに対し,「社内規定により,取締役会の議事録は金融機関以外の第三者には公開していない。他の取引先にも取締役会の議事録を見せたことはない。」と述べて,本件確認書を交付した。しかし,Aの言う社内規定は存在しなかった。Bは,Aが知名度の高い甲社の評判を傷つけるようなことはしないであろうし,甲社の和食器を取り扱うことによる利益が期待できる一方で,自分のような小さな会社の経営者がAに取締役会の議事録の写しを強く求めれば,Aの機嫌を損ねて取引の機会を失ってしまうなどと考え,これ以上の確認をせず,乙社内で必要な手続を経た。
6.Aは,平成28年6月1日,乙社から5000万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約(利息は,年1%として1年ごとに後払いとするものとされ,最後の利息と元本の返済期日は,平成31年(令和元年)9月30日とされた。)を締結するとともに,甲社取締役会の承認を受けないまま,甲社を代表して,書面により,乙社との間でAの乙社に対する前記金銭消費貸借契約に基づく債務を連帯して保証する旨の合意をした(以下「本件連帯保証契約」という。)。なお,Aから甲社に対して本件連帯保証契約に係る保証料は支払われていない。
7.Aは,乙社に対し,1年目の利息は支払ったものの,その後の支払を怠り,返済期日に元本の返済もしなかった。そこで,乙社は,令和元年10月頃,甲社に対し,本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行を請求したが,これにより,本件連帯保証契約の存在を甲社の他の取締役らが知ることとなった。
〔設問1〕 乙社からの本件連帯保証契約に基づく保証債務の履行の請求を拒むために甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
8.甲社の設立当時の株主名簿上の株主及びその保有株式数は,Aの父親であるCが10万株,Aの祖母でありCの母親でもあるDが20万株,甲社の仕入先であり創業資金を出資した丙株式会社(以下「丙社」という。)が10万株であった。甲社では,平成24年6月開催の定時株主総会の決議を経て新たに10万株(以下「本件株式」という。)が発行され,本件株式の株主名簿上の株主はAであった。なお,甲社は,株券発行会社でも種類株式発行会社でもない。
9.本件株式が発行された経緯は,次のとおりであった。すなわち,Aは,平成24年3月頃,甲社の代表取締役であったCの要請に従い,家業である甲社を継ぐため,大学卒業後に就職した会社を辞めて実家に戻ることとした。Cは,実家に戻ったAに対し,次の株主総会でAを甲社の取締役に就任させる予定である旨を伝え,「いずれ社長になる身として,従業員や取引先の手前,多少の株を持っておく必要がある。金のことは心配しなくていい。」と述べたが,それ以上のやり取りはされなかった。そして,前記8の定時株主総会において,Aを取締役に選任するとともに,本件株式をAに発行する旨の決議がされたが,本件株式の発行に必要な事務手続は,Cの指示に基づいて,甲社の総務部が進め,株式の申込みに必要な書面等におけるAの記名押印もAが甲社に預けていた印章を用いて総務部が行った。また,払込金額である2000万円は,全てCの貯金によって賄われた。
10.本件株式に係る剰余金配当は,C名義の株式に係る分と併せてC名義の銀行口座に振り込まれており,これらの剰余金配当についてはCの所得としてCのみが確定申告をしていた。A及びC宛ての株主総会の招集通知等は,Cの指示により,いずれも甲社の総務部に留め置かれ,本件株式に係る株主総会の議決権についても,甲社の総務部が,C名義の株式に係る議決権と併せて,会社提案に賛成するものとして事務処理がされた。Cは,平成27年6月に取締役を退任し,以後は,Aが代表取締役の地位にあったが,前記のような事務処理は継続された。
11.Cは,令和元年10月頃,本件連帯保証契約の件を耳にし,甲社の将来を憂慮するようになり,Aに対し,「君は,しばらく代表取締役を降りたほうがよい。次の定時株主総会で私が再び取締役に戻り,代表取締役として甲社の経営を仕切り直すから,そのように株主総会の準備を進めなさい。」と伝えたが,Aは,これに応じなかった。そこで,Cは,Aに対し,本件株式の株主の地位はCに帰属するものであると主張したが,Aは,本件株式の株主の地位はAに帰属すると主張して譲らなかった。
〔設問2〕 CがAに対して本件株式に係る株主の地位の確認を求める訴えを提起した場合に,Cの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
12.AとCは,令和元年12月頃,①AがCに対して一定額の解決金を支払うこと,②本件株式はAに帰属することを確認することを内容とする和解契約を締結したが,甲社の経営をめぐる意見の対立は続いていた。この和解契約により,甲社の株主構成は,Aが10万株,Cが10万株,Dが20万株,丙社が10万株となった。
13.甲社においては,令和2年6月,Aの取締役としての任期満了に伴う取締役1名選任の件を議題とし(他の取締役の任期は満了していない。),Aを取締役に選任することを議案(以下「本件選任議案」という。)とする定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)を招集することが取締役会において決定され,必要事項が記載された書面にて各株主に通知された。なお,甲社の定款には「株主は,当会社の議決権を行使することができる他の株主1名を代理人として,その議決権を行使することができる。」旨の定めがある。
14.丙社(公開会社である取締役会設置会社であり,多数の株主が存在する。)の内規においては,総資産に占める帳簿価格の割合が1%未満である政策保有株式の議決権行使は,総務担当の代表取締役専務に委ねられていた。丙社の甲社への売上げが丙社の総売上げに占める割合は0.3%程度であり,丙社が保有する甲社株式の帳簿価額が丙社の総資産に占める割合は0.1%程度であった。本件株主総会の招集通知には,例年と同様,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項について甲社代表取締役に委任する旨の包括委任状用紙が同封されていた。そこで,丙社の総務担当の代表取締役専務であるEは,例年と同様,前記包括委任状用紙に必要事項を記載し,甲社に送った。
15.前記14の丙社の内規を知らないCは,この機会にAを甲社の経営から排除しようと考え,丙社の営業担当の代表取締役副社長であり,大学の同窓生であるFに相談し,本件株主総会において,Cを取締役に選任する旨の修正動議を提出してこれに賛成することを示し合わせた。Fは,Eがいつものように包括委任状を提出していることを知りながら,本件株主総会に出席することをCに約束した。
16.Dは,甲社の定時株主総会に毎年出席していたが,AとCがもめていることを知り,一方にのみ肩入れすることを避けるため,弁護士G(甲社の株主ではない。)に代わりに出席してもらうこととし,本件株主総会における議決権の行使その他一切の事項についてGに委任する旨の委任状を作成し,Gに交付した。
17.FとGは,本件株主総会の当日,受付担当者に対し,議場への入場を求めたところ,受付担当者は,株主名簿の記載,Fの名刺及び前記16のDのGに対する委任状を確認し,FとGを議場へ案内した。その後,A及びCが議場に入り,Aが議事を進めようとしたところ,Cは,「Aは,本件連帯保証契約について説明を果たす立場にもあるから,私が議長を務める。」との動議を提出した。Aは,本件連帯保証契約の件もあることから,ひとまず父親の顔を立てようと考え,動議に賛成し,ほかに異論もなく,Cが議長となった。
18.議長となったCは,「Gには出席資格がない。」と述べるとともに,「Fには丙社代表者としての出席を認めます。」と述べた。これらに対し,AとGが異論を唱えたが,Cが取り合わなかったため,Gは,仕方なく退場した。Cが議事を進めると,Fは,本件選任議案に対する修正動議として,Cを取締役に選任する旨の議案(以下「本件修正議案」という。)を提出した。これを受けて,Cは,「取締役1名の選任が議題となっているので,候補者ごとに採決をするのではなく,取締役として選任すべき者としてAとCのいずれかの氏名を記載するという方法で採決をすることとしたい。」と提案したところ,誰も異論を唱えなかった。そこで,Cがあらかじめ用意した投票用紙と投票箱により投票が実施された。
各株主の議決権の行使状況は,次のとおりであった。すなわち,Aは,Aの議決権についてAを取締役に選任すべき旨の投票をするとともに,丙社の代理人として丙社の議決権についてAを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Aによる投票」欄参照。)。Cは,Cの議決権についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした。Gは,退場したため,Dの代理人としてDの議決権について投票することはできなかった。Fは,丙社の代表取締役副社長として丙社の議決権についてCを取締役に選任すべき旨の投票をした(下表の「Fによる投票」欄参照。)。
株主の氏名又は名称 A C D 丙社議決権の数(万個) 10 10 20 10取締役として選任すべき A C Aによる投票 Fによる投票者として記載した氏名 A C19.投票用紙の集計後,Cは,丙社の議決権の行使については,Fによる投票が有効であり,Aによる投票が無効であることを前提に,Cが取締役として選任された旨を宣言して(以下「本件決議」という。),本件株主総会を閉会した。
20.Fが,丙社の代表者として,本件株主総会に出席した上で本件修正議案を提出して議決権を行使したことは,独断によるものであった。また,AもCも,前記14の内規の存在を知らなかった。
〔設問3〕 Aは,令和2年7月,本件株式の株主として本件決議の取消しを求める訴えを提起したいと考えているが,本件決議の効力を争うためにAの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕1 本問は,公開会社でない株式会社(以下「非公開会社」という。)において,①代表取締役が当該株式会社を代表して当該代表取締役が個人として負う債務を連帯して保証する旨の合意をした場合に,当該株式会社がその連帯保証債務の履行を拒絶するために考えられる法的な主張としてどのようなものがあり,そのような主張が認められるのかを問うとともに(設問1),②誰が株主であるかが争われている場合に,具体的な事実関係の下でどのように株主を認定すべきか(設問2),③議決権の行使を委任することができる代理人を株主に限る旨の定款の規定がある場合に株主ではない弁護士が代理人として議決権を行使することの可否や,株主である株式会社の代表取締役がその内部的制限に反して当該株式会社を代表して議決権を行使することの可否といった株主総会における議決権行使の在り方(設問3)を問うものである。いずれについても,会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前提に,問題点を適切に分析した上で,具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができるか否かを問うものである。
2⑴ 設問1においては,甲社としては,①Aが甲社の代表取締役として締結した本件連帯保証契約は,利益相反取引である間接取引(会社法第356条第1項第3号)に該当し,取締役会設置会社である甲社においてはその取締役会の承認が必要であった(同法第365条第1項)のに,取締役会の承認を得ていないので無効(甲社に効果不帰属)である,②本件連帯保証契約は,多額の借財(同法第362条第4項第2号)又は重要な業務執行(同項柱書)に該当し,取締役会設置会社である甲社においてはその取締役会によって決定されなければならなかったのに,取締役会によって決定されていないので無効(甲社に効果不帰属)であるなどと主張して,本件連帯保証契約に基づく債務の履行を拒絶することが考えられる。なお,甲社としては,上記①及び②のいずれかの主張が認められれば,上記債務の履行を拒絶することができることになる。
⑵ 甲社の上記①の主張の当否を論ずるに当たっては,本件連帯保証契約が間接取引に該当するものであるにもかかわらず,甲社の取締役会の承認がないことを指摘した上で,取締役会の承認がない間接取引の効力について,判例(最判昭和43年12月25日民集22巻13号3511頁)を踏まえて検討することが求められる。
⑶ 続いて,甲社の上記②の主張の当否を論ずるに当たっては,まず,甲社の財務状況や本件連帯保証契約に係る主債務の額等の本問の事実関係に照らし,多額の借財又は重要な業務執行に当たるか否かを検討することが求められる。本問の事実関係からすると,これらに当たると判断することが一般的であると考えられることから,更に進んで,甲社の取締役会によって決定されていないことを指摘した上で,その場合の効力について,判例(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁)を踏まえて検討することになる。
⑷ 上記①及び②の主張のいずれにおいても,判例の立場に立って検討する場合には,本件連帯保証契約の相手方である乙社の主観面の検討が必要となる。まずは,本件連帯保証契約を締結することが間接取引に該当することや,多額の借財又は重要な業務執行に該当することについての乙社の認識を検討することになるが,前者については,本件連帯保証契約の内容からして乙社の悪意が認められるのが自然であろうし,後者についても,甲社の財務状況の概要を確認したという本問の事実関係からすると,乙社の悪意が認められるのが自然であろう。その上で,取締役会の決議がないことについて,自らが立てた規範に沿って,過失又は重過失の有無を中心に検討することになる。その際には,取引をめぐるこれまでの経緯や本件連帯保証契約に関するやりとりに関する事実関係を丁寧に拾い,それらに対する評価を加えながら検討することが求められる。例えば,甲社との取引を望む小さな事業会社である乙社の代表取締役としては,本件確認書が交付されたにもかかわらず取締役会の議事録の写しを強く求めることは困難であったことなどを指摘して,過失又は重過失がないと評価することも考えられよう。
3⑴ 設問2においては,Cとしては,名義上の引受人ではなく,実質上の引受人が株主になるという考え方を前提に,本件株式について,引受けの申込みなど引受契約の締結に至るまでCの主導で行われてきたこと,Cの貯金から払い込まれたこと,その発行に至る経緯及び本件株式に係る権利を行使してきたのはCであることなどの本問の事実関係を指摘して,自らが実質上の引受人であって本件株式の株主であると認定されるべきであるなどと主張することが考えられる。
⑵ Cの上記主張の当否を検討するに当たっては,まず,本問のような場合に誰を株主と認定するのかについての考え方を検討する必要がある。すなわち,株式の申込みや引受けに際して名義に現れた者が株主であると考えるのか(いわゆる形式説),名義が誰であるかにかかわらず,一般私法上の法律行為の場合と同じく,実質上の引受人が株主となると考えるのか(いわゆる実質説),といった考え方の対立がある中で,どのような考え方に立脚するのかを検討する必要がある。
実質説に立つ場合には,本問の事実関係を拾いつつ,それらを適切に評価して結論を導く必要がある。本問では様々な事実関係があるが,払込金額がCの貯金によって賄われたこと,「従業員や取引先の手前,多少の株式を持っておく必要がある」や「金のことは心配しなくていい」といったCの発言,甲社の株主総会においてAを引受人とする決議がされたこと,本件株式の引受けに係る書面に記載された名義はAであったこと,Aが甲社の役員に就任した経緯,Cが本件株式に係る権利を行使してきたことなどの各事実について,単に事実を列挙するだけでなく,それぞれについての評価を加えた上で結論を導くことが求められる。例えば,「金のことは心配しなくていい」というCの発言については,Aに対して払込金額に相当する金銭を贈与する趣旨であったという方向で評価することもできるし,本件株式の実質的な引受人はCであって名義のみAとしたにすぎないという方向で評価することもでき,いずれの方向であっても,自分なりに事実に対する評価を加えて結論を導き出すことが求められる。さらに,本件株式を引き受けた時点における実質的な引受けの意思が問題となることに意識した上で,その後の事情については当時の意思を推認させるものであるなどの評価を加えながら検討するといったように,より実務的な観点からの考察が加えられていると,なお望ましい。
他方で,形式説に立つ場合には,判例(最判昭和42年11月17日民集21巻9号2448頁)が実質説を採用していると評価されていることを踏まえ,より説得的な論述が望まれる。例えば,その根拠として,集団的関係における画一的な取扱いの必要性や,非公開会社においては名義に現れない実質上の引受人を株主とすることによって閉鎖性を維持することができなくなることを指摘したり,事実関係として,本件株式の引受けの申込みをする際に提出すべき書面(会社法第203条第2項)の名義がAであることや,甲社の株主総会において本件株式をAに発行する旨の決議がされたことを指摘したりすることにより,説得的な論述を展開することが望ましい。
4⑴ 設問3においては,Aとしては,①他の株主1名を代理人としてその議決権を行使することができる旨の定款の規定(以下「本件定款規定」という。)に基づいてDの代理人である弁護士Gによる議決権の行使が認められなかったこと,②丙社の内規に従って包括委任状が提出されていたにもかかわらず,内規によって権限が制限されているFによる議決権の行使が認められ,包括委任状に基づくAの議決権行使が認められなかったことが,それぞれ決議の方法が法令に違反する場合(会社法第831条第1項第1号)に該当すると主張することが考えられる。なお,上記①及び②のいずれについても,株主総会決議取消しの訴えを提起したAではないD又は丙社の議決権の行使に関する事由であることから,株主総会決議取消しの訴えにおいて他の株主に係る事由を主張できることが前提となるし,仮に法令違反が肯定されるとすれば,「決議に影響を及ぼさないもの」(同条第2項)
には当たらず,裁量棄却はされないものと考えられることから,これらの点についても言及されていることが望ましい。また,Aとしては,上記①及び②のいずれかが認められれば,本件決議の取消しが認められることになる。
⑵ Aの上記①の主張の当否を論ずるに当たっては,株主は,代理人によってその議決権を行使することができるものとされていること(会社法第310条第1項)を前提に,他の株主1名を代理人としてその議決権を行使することができるという本件定款規定の有効性及び適用範囲について,判例(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁等)
を踏まえて検討することが求められる。その際には,Dの代理人であるGが弁護士であること,甲社が非公開会社であることなどの本問の事実関係を踏まえ,これらの事実関係がどのように影響するのかについての考察を加えながら検討することが求められる。例えば,Gが弁護士であるという点については,一般的には本件定款規定のような議決権の行使に係る代理人資格の制限は有効ではあるものの,弁護士であるGが代理人とされている本問においては適用されるべきではないといった指摘をすることが考えられる一方,職種により株主総会のかく乱のおそれを個別に判断すれば,円滑な総会運営を阻害し,恣意的な判断を招くおそれがあることを理由に,弁護士であるGにも本件定款規定は適用されるとする立場に立つことも考えられる。また,甲社が非公開会社であるという点については,それゆえに株主ではない第三者の株主総会への参加を排除する必要があるということもできる一方で,本問のように株主間で対立がある場合には代理人を株主に限ることによって株主権の代理行使の機会を実質的に奪うことになりかねないということもできるところである。いずれにしても,これらの事実関係が,本件定款規定の有効性や適用範囲にどのように影響するのかを具体的に考察することが望まれる。
⑶ 続いて,Aの上記②の主張の当否を論ずるに当たっては,まず,丙社の内規によれば,甲社の株式の議決権行使については他の代表取締役であるEに委ねられることとなるが,Fも,「副社長」ではあるものの,丙社の代表取締役であって,丙社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しており(会社法第349条第4項),上記内規は,代表取締役であるFのこのような権限を内部的に制限するものであって善意の第三者に対抗することができないということ(同条第5項)を指摘する必要がある。その上で,上記内規による代表権の制限が第三者である甲社との関係で問題となることを前提に,本問の事実関係を踏まえて,甲社の主観面を検討した上で結論を導くことが求められる。その際には,議決権行使という集団的権利行使の場面であること,他方で,甲社が株主数の少ない閉鎖的な非公開会社であることなどの事情がどのように影響するのかについても検討することができれば,なお望ましい。なお,本問の事実関係からすると,Fによる議決権の行使は,Fがその代表権を濫用したとみる余地もあり得ることから,上記の点に加えて,そのような観点から検討を加えることも考えられるところである。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 考えられる主張
甲社は、本件連帯保証契約が、①取締役会の承認を欠く利益相反取引(会社法356条1項3号、365条1項)であるから無効である、②多額の借財又は重要な業務執行に当たるのに取締役会の決議を欠くから無効である(362条4項2号、同項柱書)、と主張して保証債務の履行を拒むことが考えられる。いずれかの主張が認められれば履行を拒むことができる。
2 利益相反取引(間接取引)
⑴ 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするときは、取締役は株主総会において重要な事実を開示して承認を受けなければならず(356条1項3号)、取締役会設置会社においては取締役会の承認を受けなければならない(365条1項)。会社の犠牲において取締役が利益を得ることを防ぐ趣旨である。
本件連帯保証契約は、甲社がその代表取締役Aの乙社に対する5000万円の借入金債務を連帯して保証するものであり、しかもAから甲社に保証料も支払われていない。したがって間接取引に該当する。
Aは甲社の取締役会の承認を受けないまま、甲社を代表して本件連帯保証契約を締結している。
⑵ そこで、取締役会の承認を欠く間接取引の効力が問題となる。
356条1項の趣旨は会社の利益を保護することにあるから、承認を欠く取引は原則として無効である。もっとも、間接取引はその性質上会社及び取締役以外の第三者が当事者となるのであり、この第三者の取引の安全を害することは相当でない。
そこで、会社は、取締役会の承認を欠くことを主張して取引の無効を第三者に対抗するには、当該第三者が承認を欠くことを知っていたことを主張立証しなければならないと解する(最判昭和43年12月25日)。そして、知らなかったことについて重大な過失がある場合には、保護に値しないから悪意と同視すべきである。
⑶ 本件では、乙社の代表取締役Bは、保証の対象がA個人の債務であることを当然に認識しており、本件連帯保証契約が間接取引に該当することは認識していた。
しかし、Bは取締役会の承認がないことを知らなかった。Bは当初Aに取締役会の議事録の写しを求めており、Aから社内規定により金融機関以外の第三者には公開していないと説明された上で、取締役会の承認がある旨の本件確認書を交付されている。
確かに、Aの説明する社内規定は存在せず、議事録の開示を拒む理由も不自然であって、Bが更に確認を尽くさなかったことには過失がある。もっとも、乙社は株主がBのみの小規模な会社であり、再三申し入れても断られてきた甲社との取引関係を得ようとする立場にあった。Bが議事録の写しを強く求めればAの機嫌を損ねて取引の機会を失うと考えたことにも無理はなく、代表取締役名義の確認書の交付を受けてこれを信頼したことが著しく不注意であったとはいえない。
したがって、Bに重大な過失があるとまではいえず、乙社は悪意と同視されない。よって甲社は①の主張によって無効を対抗することができない。
3 多額の借財又は重要な業務執行
⑴ 取締役会は、多額の借財については取締役に決定を委任することができず、自ら決定しなければならない(362条4項2号)。重要な業務執行の決定についても同様である(同項柱書)。保証も会社に債務を負担させる行為であるから「借財」に含まれると解すべきである。
多額に当たるかは、当該行為の金額、会社の総資産及び経常利益等に占める割合、従来の取扱い等を総合して判断する。
甲社の資本金は1億円、負債額は2億円、総資産額は10億円、経常利益は2000万円である。これに対し本件連帯保証契約の主債務額は5000万円であり、総資産額の5%、負債額の25%に相当し、経常利益の2.5倍に及ぶ。しかも主債務者はA個人であって、甲社は何らの対価も得ていないから、履行すればそのまま甲社の損失となる。
したがって本件連帯保証契約は多額の借財に当たり、少なくとも重要な業務執行に当たる。そして取締役会の決議を欠く。
⑵ 取締役会の決議を欠く代表取締役の行為の効力については、代表取締役は会社の業務に関する一切の行為をする権限を有するのであり(349条4項)、取締役会の決議は会社の内部的意思決定にすぎない。したがって当該行為は原則として有効であるが、相手方が決議を経ていないことを知り又は知ることができたときは無効であると解する(最判昭和40年9月22日)。
⑶ 本件では、Bは、甲社の資本金、負債額、総資産額及び経常利益といった財務状況の概要をAに確認した上で融資を決めている。したがってBは、5000万円の連帯保証が甲社にとって多額の借財に当たり取締役会の決議を要することを認識していた。現にB自身が取締役会の議事録の写しを求めている。
そして、前記のとおりAの説明する社内規定の存在は不自然であり、他の取引先にも見せたことがないという説明もかえって不審を抱かせるものである。本来であれば、取締役会の決議の有無は議事録(371条)によって確認すべきであり、代表取締役が一方的に作成した確認書は、代表取締役自身が利益を得る取引に関するものである以上、その真実性を担保するものとはいえない。Bは、これを容易に知ることができたにもかかわらず確認を怠った。
よって、乙社は取締役会の決議を経ていないことを知ることができたといえ、本件連帯保証契約は無効である。
4 結論
甲社は、②の主張により、本件連帯保証契約の無効を主張して保証債務の履行を拒むことができる。
第2 設問2
1 Cの主張
Cは、本件株式の実質上の引受人はCであるから、株主名簿上の名義がAであっても本件株式に係る株主の地位はCに帰属すると主張することが考えられる。
2 誰を株主と認定すべきか
株式の引受けの名義人と実質上の引受人が異なる場合、いずれを株主と認定すべきかが問題となる。
株主の地位は多数の者との間の集団的法律関係の基礎となるから、名義に現れた者を一律に株主とすべきであるとの見解もある(形式説)。
しかし、株式の引受けは引受人と会社との間の私法上の契約であり、その効果の帰属は当事者の意思に従って決すべきである。会社に対する関係では株主名簿の記載が基準となり(130条1項)、会社の事務処理の便宜は害されない。したがって、名義が誰であるかにかかわらず、実質上の引受人が株主となると解する(最判昭和42年11月17日)。
実質上の引受人の認定は、払込金額の出捐者、引受手続における主導性、引受書面の名義、名義人の関与の程度、発行後の権利行使の状況等を総合して、引受けの当時における実質的な引受けの意思を基礎として判断すべきである。発行後の事情は当時の意思を推認させる間接事実として評価される。
3 あてはめ
本件株式の払込金額2000万円は全てCの貯金によって賄われている。出資の履行をした者が株主となるのが原則であり、これはCを実質上の引受人とする方向に強く働く事実である。
また、本件株式の発行に必要な事務手続は、当時の代表取締役であったCの指示に基づいて甲社の総務部が進め、株式の申込みに必要な書面等におけるAの記名押印も、Aが甲社に預けていた印章を用いて総務部が行っている。すなわちAは引受けの申込みという意思表示を自ら行っておらず、引受手続は一貫してCが主導している。
さらに、発行後の事情も重要である。本件株式に係る剰余金配当はC名義の株式に係る分と併せてC名義の銀行口座に振り込まれ、Cのみが自己の所得として確定申告をしていた。A宛ての株主総会の招集通知等もCの指示により総務部に留め置かれ、議決権もC名義の株式と併せて事務処理がされていた。Aが平成27年6月以降代表取締役となった後も同様の処理が継続している。これらは、Cが自己の株式として本件株式を支配し続けてきたことを示すものであり、引受当時における実質的な引受けの意思がCにあったことを推認させる。
これに対し、株主名簿上の株主はAであり、申込書面の名義もAであって、平成24年6月の定時株主総会では本件株式をAに発行する旨の決議がされている。また、Cは「金のことは心配しなくていい」と述べており、これを払込金額に相当する金銭をAに贈与する趣旨と解する余地もある。
しかし、Cの発言は「いずれ社長になる身として、従業員や取引先の手前、多少の株を持っておく必要がある」というものであり、これはAを対外的に株主として示す必要があるという趣旨にとどまる。すなわち名義のみをAとする意図を示すものであって、Aに実質的な株主の地位を取得させる意思を示すものとはいえない。「金のことは心配しなくていい」という発言も、Aに出資の負担を負わせないという趣旨であって、贈与の意思を示すものとまではいえない。そしてそれ以上のやり取りはされておらず、Aが引受けの意思を表明した事実もない。
4 結論
よって、本件株式の実質上の引受人はCであり、本件株式に係る株主の地位はCに帰属する。Cの主張は認められる。なおこれはAとCとの間における帰属の問題であり、甲社に対する権利行使については株主名簿の名義書換えを要する(130条1項)。
第3 設問3
1 訴えの要件
Aは本件株式の株主であるから原告適格を有する(831条1項柱書)。本件決議は令和2年6月にされ、提訴は同年7月であるから3か月の提訴期間内である。
なお、Aは他の株主であるD及び丙社の議決権行使に関する瑕疵を主張することになる。831条1項1号は決議の方法の法令違反を広く取消事由とし、提訴権者を株主一般としているから、株主は自己に関する瑕疵に限らず決議の方法の瑕疵を主張することができる。
2 Gによる議決権の代理行使を認めなかったこと
⑴ 株主は、代理人によってその議決権を行使することができる(310条1項)。これに対し甲社の定款は、代理人を当会社の議決権を行使することができる他の株主1名に制限している。
判例は、代理人の資格を株主に限る定款の定めは、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、合理的な理由による相当程度の制限として有効であるとしている(最判昭和43年11月1日)。したがって本件定款規定自体は有効である。
⑵ もっとも、310条1項が議決権の代理行使を認めたのは、株主が自ら出席できない場合にも議決権行使の機会を確保する趣旨である。したがって本件定款規定は、その趣旨である総会の攪乱の防止という必要がなく、他方で株主の議決権行使の機会を実質的に奪う場合には適用されないと解すべきである。
本件では、Dの代理人Gは弁護士である。弁護士は法律専門家として職務上高度の規律に服し、議事を混乱させる言動に及ぶことは考え難いから、Gが代理人として出席しても総会が攪乱されるおそれはない。
また、甲社の株主はA、C、D及び丙社の4名のみであり、AとCは甲社の経営をめぐって対立していた。Dは一方にのみ肩入れすることを避けるために中立的な第三者である弁護士Gに委任したのであって、本件定款規定を適用すれば、Dは対立する当事者の一方に委任するほかなく、議決権の代理行使の機会を実質的に奪われる。甲社が公開会社でないことは株主以外の第三者の総会参加を排除する理由となり得るが、株主が4名にとどまり株主間に深刻な対立がある本件では、かえって代理人資格の制限が株主の権利行使を不当に制約することになる。
⑶ したがって本件定款規定はGによる代理行使に適用されない。甲社の受付担当者も株主名簿の記載及びDの委任状を確認した上でGを議場に案内しており、会社としてその出席を認めていた。
それにもかかわらず、議長Cは一方的にGの出席資格を否定し、A及びGの異論を取り合わずにGを退場させ、Dの議決権行使の機会を奪った。これは310条1項に違反し、決議の方法が法令に違反する場合に当たる(831条1項1号)。議長の議事整理権(315条1項)の濫用にも当たる。
⑷ 裁量棄却(831条2項)についても検討する。甲社の議決権の総数は50万個であり、Dの議決権は20万個でその40%を占める。本件決議はCに20万個、Aに10万個の投票がされたものであるから、Dが議決権を行使していれば結果は変わり得た。したがって「決議に影響を及ぼさないもの」に当たらない。また株主の議決権行使の機会そのものを奪う瑕疵は重大である。よって裁量棄却は認められない。
⑸ よって、この主張は理由があり、本件決議は取り消される。
3 Fによる議決権行使を有効としたこと
⑴ Aは、丙社の内規に従いEが包括委任状を提出していたのであるから、Aによる丙社の代理人としての投票が有効であり、内規によって権限を制限されたFによる投票は無効であると主張することが考えられる。
⑵ しかし、代表取締役は株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し(349条4項)、この権限に加えた制限は善意の第三者に対抗することができない(349条5項)。
Fは丙社の代表取締役副社長であり、代表取締役である。総資産に占める帳簿価格の割合が1%未満である政策保有株式の議決権行使を総務担当の代表取締役専務に委ねる旨の丙社の内規は、Fの代表権に対する内部的制限にすぎない。
そして、甲社の側でAもCも当該内規の存在を知らなかった。したがって甲社は善意の第三者であり、丙社は内規による制限を甲社に対抗することができない。
また、Fは、Eが包括委任状を提出していることを知りながら、Cと示し合わせて自ら出席し議決権を行使したのであって、丙社の利益のためではなく専らC及び自己の目的のために代表権を行使したものといえ、代表権の濫用に当たる余地がある。しかし代表権の濫用についても、相手方が濫用の事実を知り又は知ることができたときに限り会社に効果が帰属しないと解すべきであり、甲社は内規もFの独断も知らなかったのであるから、なおFの議決権行使は丙社に帰属する。
⑶ そして、株主本人又はその代表者が総会に出席して議決権を行使した場合には、先に与えられた委任は撤回されたものと解すべきである。本件では丙社の代表取締役Fが出席して投票しているから、包括委任状によるAへの委任は撤回されており、Aによる丙社の議決権の行使は効力を有しない。
⑷ よって、Fによる投票を有効とし、Aによる投票を無効としたことに法令違反はなく、この主張は認められない。
4 結論
Aは、Gによる議決権の代理行使を認めなかったことを理由として本件決議の取消しを求めることができる。
以上