司法試験 令和2年 商法
問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は,60:40〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,電子機器部品の製造及び販売等を目的とする会社法上の公開会社でない会社であり,取締役会,監査役及び会計監査人を置いており,一種類の株式(以下「本件普通株式」という。)のみを発行している。甲社の資本金の額は10億円,発行可能株式総数は20万株,発行済株式の総数は8万株であり,Aが5万1000株を,Bが2万9000株を,それぞれ保有している。甲社の取締役はA,C及びDの3人であり,Aが代表取締役会長を,Cが代表取締役社長を,それぞれ務めている。なお,Bは,甲社の役員に就任していない。
2.甲社は,規模はそれほど大きくないが,高い技術力を持っていた。甲社の業績は,約10年前の設立以来,堅調に推移してきたため,2年前までは,毎事業年度,欠かさずに剰余金の配当をしてきた。しかし,近時は,支払が遅延する取引先が増えたため,甲社は仕入資金の調達が必要になったが,金融機関が満足な融資をしてくれないため,資金繰りに窮するようになった。
3.このような状況で,Aは,令和元年12月頃,甲社の資金繰りの改善を図ることが急務であり,少なくとも2億円の資金調達が必須であると考えた。甲社は,銀行から借入れをすることが困難であったため,Aは,株式の発行が最善であると考えたが,普通株式では引受人を見付けることができない可能性が高かったため,議決権のある剰余金配当優先株式(以下「本件優先株式」という。)を新たに発行することによって2億円の資金調達をすることを計画した。
4.Aが本件優先株式を引き受けて出資してくれそうな者を探したところ,Aの叔父Pとその友人Qがそれぞれ1億円ずつ出資してもよいという意向を示した。そこで,Aが,令和2年2月中旬に,中立的な専門機関に対し,甲社の事業計画や財務状況を示す資料を提供して,本件優先株式について合理的な方法による評価額の算定を依頼したところ,本件優先株式の評価額は1株当たり4万円と算定された。
5.これを受けて,Aが,P及びQに対し,1株当たりの払込金額を4万円として,本件優先株式をP及びQにそれぞれ2500株ずつ(合計5000株)発行することを打診したところ,P及びQは,少なくともそれぞれ甲社の発行済株式の総数の5%ずつを保有したいため,1株当たりの払込金額を2万円として,本件優先株式をP及びQにそれぞれ5000株ずつ(合計1万株)発行するように主張して譲らなかった。
6.そこで,AがC及びDに意見を聞いたところ,2人とも2億円の資金調達を実現するためには,P及びQの主張を受け入れる以外に選択肢がないが,Bが反対して計画が挫折する可能性が小さくないという意見であった。
7.Aは,令和2年3月17日,甲社の取締役会(以下「本件取締役会」という。)を招集して,役員の全員が出席の上で,対応策を協議したところ,A,C及びDは,2億円の資金調達を実現するためには,株主総会の場で何とかしてBの同意を取り付けるほかないという意見で一致した。その上で,本件取締役会では,同月25日に甲社の本社で定時株主総会(以下「本件定時総会」という。)を開催すること,「計算書類の報告の件」及び「事業報告の報告の件」を会議の目的事項とすること,「定款変更の件」を会議の目的事項として,本件優先株式の内容等の所要の事項を定める定款変更を行う旨の議案(以下「本件議案1」という。)を本件定時総会に提出すること,「新株式発行の件」を会議の目的事項として,本件優先株式の発行(以下「本件株式発行」という。)を行う旨の議案(以下「本件議案2」という。)を本件定時総会に提出することなどが決議された。なお,本件議案2は,①募集株式は本件優先株式1万株とすること,②1株当たりの払込金額は2万円(払込金額の合計は2億円)とすること,③払込期日は同年4月10日とすること,④増加する資本金と資本準備金の額はいずれも1億円とすること,⑤本件優先株式をP及びQにそれぞれ5000株ずつ割り当てることを内容とするものであった。
8.Cは,令和2年3月17日,A及びBに対し,本件定時総会の招集通知(以下「本件招集通知」
という。)を書面で発した。本件招集通知には,本件定時総会の開催日時及び開催場所のほか,会議の目的事項として「計算書類の報告の件」及び「事業報告の報告の件」が記載されており,当該目的事項との関係で必要とされる書類も,計算書類や事業報告を始め,全て添付されていた。しかし,本件招集通知には,本件議案1及び本件議案2に関する記載がなく,また,「定款変更の件」という会議の目的事項及び「新株式発行の件」という会議の目的事項がいずれも記載されていなかった。
9.令和2年3月25日に開催された本件定時総会には,役員の全員が出席しており,また,株主であるA及びBのいずれもが出席した。Cが「定款変更の件」について本件議案1を,「新株式発行の件」について本件議案2を,それぞれ本件定時総会に上程したところ,Bは,本件議案1及び本件議案2のことを初めて知って驚いた。しかし,Bは,Cから,2億円の資金調達が急務であること,そのためには,事実上,本件株式発行以外に選択肢がないこと,2万円という1株当たりの払込金額は中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額に相当する額である旨を説明されて,そのような事情であれば本件株式発行によって自己の持株比率が下がるのもやむを得ないと考えて,渋々ながら賛成したため,本件議案1及び本件議案2がいずれも可決された(以下,本件議案1に関する本件定時総会の決議を「本件決議1」といい,本件議案2に関する本件定時総会の決議を「本件決議2」という。)。
10.その後,Cが会社法所定の手続を行い,P及びQが払込期日である令和2年4月10日にそれぞれ1億円ずつを払い込んだことにより,P及びQに対する本件株式発行が行われた。なお,上記4の本件優先株式の客観的な評価額の算定後,払込期日までの間に,本件優先株式の価値を著しく変動させるような事情はなかった。
〔設問1〕 Bは,本件株式発行の効力の発生後になって初めて,中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した本件優先株式の評価額が1株当たり4万円であったことを知った。Bは,本件決議1及び本件決議2には瑕疵があり,そのことが本件株式発行の効力に影響を及ぼすと考えている。Bは,令和2年5月14日の時点で,どのような訴えを提起して,どのような主張をすることが考えられるかを検討した上で,その主張の当否について,論じなさい。
下記11及び12では,上記8及び9とは異なり,本件株式発行が適法に行われたことを前提として,〔設問2〕に答えなさい。
11.本件株式発行によって甲社の資金繰りは改善した。しかし,その後,約2年が経過し,甲社の資金繰りは再び苦しくなってきた。甲社は,P及びQの要望により,毎事業年度,本件優先株式について剰余金の配当をしてきたが,資金繰りが苦しい中,甲社にとっては,本件優先株式に係る剰余金の配当が重荷になってきた。なお,本件優先株式は,その発行後,P及びQがそれぞれ5000株ずつを保有し続けている。
また,甲社の定款では,本件優先株式の内容として,発行可能種類株式総数のほか,①甲社が剰余金の配当をするときは,本件優先株式の株主に対し,本件普通株式の株主に先立ち,各事業年度に,本件優先株式1株につき1000円(以下「配当優先額」という。)を配当すること,②本件優先株式について配当優先額の配当をした後に,更に分配可能額がある場合には,本件優先株式の株主は本件普通株式の株主と共に株式数に応じて配当を受けることができること,③ある事業年度において本件優先株式の株主に対してする1株当たりの配当の額が配当優先額に達しない場合には,当該不足額は翌事業年度以降に累積すること,④本件優先株式の株主は,株主総会における決議事項の全部について議決権を行使することができること,⑤本件優先株式の譲渡による取得には,甲社の承認を要すること,⑥会社法第322条第2項に基づき,同条第1項の規定による種類株主総会の決議を要しないことが定められていた。
12.このような状況で,甲社は,本件優先株式についてのみ株式の併合をすること(以下「本件株式併合」という。)を計画し,取締役会で,役員の全員が出席の上で,臨時株主総会(以下「本件臨時総会」という。)を開催すること,「株式併合の件」を会議の目的事項として,①本件優先株式のみを2株につき1株の割合で併合すること,②本件株式併合の効力発生日,③効力発生日における発行可能株式総数について定める議案(以下「本件議案3」という。)を本件臨時総会に提出することなどを決議した。
甲社は,この取締役会の決議に従い,招集手続を経て,本件臨時総会を開催した。本件臨時総会では,Cが,本件優先株式に係る甲社の剰余金の配当の負担を軽減するためには本件株式併合が必要である旨を説明した上で,本件議案3について審議したところ,P及びQが強く反対したが,A及びBが賛成したため,本件議案3が可決された(以下,本件議案3に関する本件臨時総会の決議を「本件決議3」という。)。なお,甲社は,本件臨時総会の開催に先立ち,株主に対する会社法所定の通知をするとともに,本件株式併合に関する事項を記載した会社法所定の書面を本店に備え置いた。また,Pは,本件臨時総会に先立ち,本件株式併合に反対する旨を甲社に対し書面で通知した。
〔設問2〕
⑴ 本件株式併合の効力の発生によって,Pには,どのような不利益が生じ,又は生じるおそれがあると考えられるかについて,説明しなさい。
⑵ Pは,本件決議3に従い,本件株式併合の効力が発生することによって,自己に不利益が生じ,又は生じるおそれがあることに強い不満を感じている。Pは,本件株式併合の効力の発生前の時点で,どのような会社法上の手段を採ることが考えられるかについて,論じなさい。なお,損害賠償を請求するという手段については,論じなくてよい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕1 本問は,①公開会社でない株式会社(以下「非公開会社」という。)が募集株式の発行等をする場合にどのような手続が要求されるか,それらの手続に瑕疵があることが当該募集株式の発行等の効力にどのような影響を及ぼすか,及び募集株式の発行等の無効をどのような訴えにより主張すべきかについての理解等を問う(設問1)とともに,②会社が特定の種類の株式のみを対象として株式の併合をしようとする場合に,当該種類株式の株主とその他の種類株式の株主がどのような利害状況に置かれるのか,及び不利益を受けるおそれのある種類株式の株主の事前の法的救済方法としてどのようなものが考えられるかの理解等を問う(設問2)ものである。いずれの点についても,会社法上の重要な規定・制度及び重要な判例に関する基礎的な理解を有していることを前提に,それを本問の事案に適切に応用することができるか否かが試されている。
2⑴ 設問1においては,Bは,①議決権のある剰余金配当優先株式(本件優先株式)の発行(本件株式発行)を行う旨の議案(本件議案2)に関する甲社の定時株主総会(本件定時総会)の決議(本件決議2)には,取消事由があり,非公開会社において,募集事項を決定する株主総会の決議に取消事由があることは,本件株式発行の無効原因に該当すると主張すること,及び②本件優先株式の内容等の所要の事項を定める定款変更を行う旨の議案(本件議案1)に関する本件定時総会の決議(本件決議1)には,取消事由があるため,本件株式発行は定款の定めのない種類の株式の発行となり,これは本件株式発行の無効原因に該当すると主張することが考えられる。
⑵ そして,令和2年5月14日の時点では,本件株式発行の効力が生じているため,Bは,例えば,新株発行の無効の訴え(会社法第828条第1項第2号)を提起し,本件株式発行の無効原因として,上記⑴①及び②のとおり主張することが考えられる。
これらのことを論述する際には,本問においては,⒜新株発行の無効の訴えの提訴期間(非公開会社にあっては,株式の発行の効力が生じた日から1年以内。会社法第828条第1項第2号)が経過していないこと,さらに,⒝株式の発行の無効原因として,株主総会の決議の取消事由を主張する場合には,当該決議の取消しの訴えの提訴期間内(株主総会の決議の日から3か月内。同法第831条第1項柱書き前段)に,新株発行の無効の訴えを提訴しなければならないとする立場に立つときは,その提訴期間も経過していないことにも言及することが求められる。
⑶ Bの上記⑴①の主張の当否を論ずるに当たっては,本問において,甲社は取締役会設置会社であるから,株主総会の招集通知には,株主総会の日時及び場所のみならず,株主総会の目的である事項及び払込金額が募集株式の引受人に特に有利な金額である場合(いわゆる有利発行の場合)における募集株式を引き受ける者の募集に係る議案の概要を記載しなければならなかったにもかかわらず(会社法第299条第2項第2号,第4項,第298条第1項,会社法施行規則第63条第7号ホ),本件定時総会の招集通知(本件招集通知)には,株主総会の日時及び場所のみを記載していたため,本件決議2には,株主総会の招集の手続の法令違反という株主総会の決議の取消事由があること(同法第831条第1項第1号)を指摘した上で,いわゆる全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるか否かについて,判例(最判昭和60年12月20日民集39巻8号1869頁)等も踏まえ,検討することが求められる。
また,有利発行の場合には,取締役は株主総会の決議に際して有利発行を必要とする理由を説明しなければならず(会社法第199条第3項),それを欠くことは,株主総会の決議の方法の法令違反という取消事由(同法第831条第1項第1号)に該当するところ,本問において,甲社の取締役Cは,本件決議2に際し,2億円の資金調達が急務であり,そのためには,事実上,本件株式発行以外に選択肢がないことを説明する一方で,2万円という払込金額が公正な払込金額である旨の虚偽の説明をしており,株主Bは本件株式発行が有利発行であることを認識することができていないため,果たして取締役Cは有利発行を必要とする理由を説明したものと評価することができるか,あるいは仮にそのような評価が可能であるとした場合であっても,株主の議決権行使に重要な影響を及ぼす事項について虚偽の説明をして,本件決議2を成立させているため,決議方法の著しい不公正という取消事由(同号)が認められないかといった点について,検討することが求められる。
さらに,本件決議2に取消事由が認められると解する場合には,例えば,「非公開会社については,その性質上,会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益〔支配的利益〕の保護を重視し,その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救済するというのが会社法の趣旨と解されるのであり,非公開会社において,株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合,その発行手続には重大な法令違反があり,この瑕疵は上記株式発行の無効原因になる」とする判例(最判平成24年4月24日民集66巻6号2908頁。なお,公開会社については「株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には,右新株が,株主総会の特別決議を経ることなく,株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもって発行されたものであっても,その瑕疵は,新株発行無効の原因とはならない」とする最判昭和46年7月16日集民103号407頁を参照。非公開会社については最判昭和46年7月16日の射程は及ばないと解される。)を踏まえ,本問のように,募集事項を決定する株主総会の決議を経ている場合であっても,本件決議2に上記のような取消事由があると解するときは,既存株主の意思に反してその支配的利益が害されているといえるか否かについて,事案に即して検討した上で,本件株式発行に無効原因が認められると解すべきか否かを論ずることが求められる。加えて,Bには,有利発行である本件株式発行を差し止める機会が実質的に与えられなかったことも考慮して,本件株式発行に無効原因があると認められるか否かを論じることも考えられる(最判平成9年1月28日民集51巻1号71頁を参照)。
⑷ Bの上記⑴②の主張の当否を論ずるに当たっても,上記⑶と同様に,本件決議1には,株主総会の目的である事項及び定款の変更に係る議案の概要の記載がないという株主総会の招集の手続の法令違反があり,そのことが株主総会の決議の取消事由に該当すること(会社法第831条第1項第1号)を指摘した上で,いわゆる全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるか否かについて,判例(前掲最判昭和60年12月20日)等も踏まえ,検討することが求められる。
そして,本件決議1に取消事由が認められると解する場合には,本件株式発行が定款の定めのない種類の株式の発行に該当し,これが本件新株発行の無効原因に該当すると認められるか否かについて,検討することが求められる。
3 設問2⑴においては,本件優先株式のみを対象とする株式の併合(本件株式併合)の効力の発生によって,本件優先株式の株主であるPは,その保有する本件優先株式の数が半減するため,①株主総会における議決権の割合が大幅に縮減することになること,②優先配当額の総額も半減することになることなどについて,説明することが求められる。その際には,Pの議決権割合がどれほど縮減することになるかを具体的に算定した上で,Pは,本件株式併合の効力の発生前には有していた一定の少数株主権も行使することができなくなることに言及したり,本件優先株式には累積条項が付されていることなどに鑑みると,優先配当額の総額の縮減によってPが受ける不利益は比較的大きいと考えられることに言及したりするなど,より深い分析を示すことができていれば,なお望ましい。
4 設問2⑵においては,Pは,本件株式併合の効力の発生前の時点で,会社法上の手段として,①反対株主の株式買取請求をすること(会社法第116条第1項第3号イ),②本件株式併合について,差止請求をすること(同法第182条の3),③本件優先株式のみを2株につき1株の割合で併合すること等について定める議案(本件議案3)に関する甲社の臨時株主総会(本件臨時総会)の決議(本件決議3)について,株主総会の決議の取消しの訴えを提起することなどが考えられる。
⑴ Pは,種類株主総会の決議を要しない旨の会社法第322条第2項の定めがある本件においては,反対株主の株式買取請求をすることができる。Pが反対株主の株式買取請求をすることについて論ずるに当たっては,設問2⑴の解答及び本問におけるその他の事実関係を踏まえ,反対株主の株式買取請求の要件が満たされているか否か,例えば,本件優先株式の株主に損害を及ぼすおそれがあるか否か(同法第116条第1項第3号柱書き)や,「反対株主」に該当するか否か(同条第2項)などにも言及することが求められる。
⑵ Pが株式の併合の差止請求をすることについて論ずるに当たっては,設問2⑴の解答及び本問におけるその他の事実関係を踏まえ,取り分け差止事由が認められるか否かについて検討することが求められる。
この点に関する解釈としては様々なものがあり得るところであり,例えば,①甲社が本件優先株式を発行する前に発行していた株式(本件普通株式)の株主は本件株式併合によって他の株主と共通しない特別の利益を得るため,株主総会の決議について特別の利害関係を有する者に該当し,かつ,本件株式併合は専ら本件優先株式の株主の優先配当権を実質的に縮減することを目的とするため,本件決議3は著しく不当な決議に該当することから,本件決議3には,取消事由がある(会社法第831条第1項第3号)と認められ,これが(瑕疵のない株主総会の決議による決定を求める)同法第180条第2項に違反し,差止事由である法令違反(同法第182条の3)が認められるといった解釈が考えられる。
また,②優先株主の優先配当権の実質的な縮減を目的とする不当な株式併合であって権利濫用の法令違反があるとして,差止事由である法令違反が認められるという解釈も考えられる。さらに,③取締役の善管注意義務を定める一般的な規定(同法第330条,民法第644条)も会社法第182条の3にいう「法令」に含まれるとする理解を前提に,取締役は善管注意義務の一内容として株主間の不当な利益移転を生じさせないようにする義務を負うところ,本問では,このような義務の違反があるため,差止事由である法令違反が認められるとする解釈も考えられる。なお,④①から③までのように本件決議3に取消事由があるとしても,実際に本件決議3が取り消されない限りは,差止事由である法令違反があるとは認められないとする解釈も考えられる。
⑶ Pが本件決議3の取消しの訴えの提起をすることについて論ずるに当たっては,仮に本件決議3が取り消された場合には,これによって本件株式併合も無効となると解されるため,本件決議3の取消しの訴えの提起をすることは,本件株式併合の効力が発生した後に,本件株式併合の無効を主張する前提となることに言及するなど,まずは,本件株式併合の効力の発生前の時点で,本件決議3の取消しの訴えを提起することの意義を明らかにすることが望ましい。
その上で,本問における事実関係を踏まえ,本件決議3に取消事由が認められるか否か,例えば,上記⑵における①から③までの解釈と同様の解釈により,本件決議3には,取消事由がある(会社法第831条第1項第3号)と認められるか否かなどについて検討することが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 提起すべき訴え
令和2年5月14日の時点では、払込期日である同年4月10日が経過し本件株式発行の効力が既に生じている。したがってBは、新株発行の無効の訴え(会社法828条1項2号)を提起し、本件決議1及び本件決議2の瑕疵を無効原因として主張すべきである。
甲社は公開会社でない会社であるから、提訴期間は株式の発行の効力が生じた日から1年以内であり(828条1項2号)、Bは甲社の株主として原告適格を有する(同条2項2号)。
また、株主総会の決議の取消事由を新株発行の無効原因として主張するには、法律関係の早期安定を図る831条1項の趣旨に照らし、決議の取消しの訴えの提訴期間である決議の日から3か月内に新株発行の無効の訴えを提起すべきものと解される。本件決議1及び本件決議2の日は令和2年3月25日であるから、同年5月14日はその3か月内である。したがっていずれの期間制限も充たす。
なお、併せて本件決議1及び本件決議2の取消しの訴え(831条1項)を提起することも考えられる。
2 本件決議2の取消事由
⑴ 招集手続の法令違反
甲社は取締役会設置会社であるから、株主総会の招集の通知は書面でしなければならず(299条2項2号)、当該通知には298条1項各号に掲げる事項を記載しなければならない(299条4項)。そして298条1項2号により株主総会の目的である事項を定めなければならず、取締役会設置会社において募集株式の払込金額が引受人に特に有利な金額である場合には、当該募集に係る議案の概要も定めなければならない(298条1項5号、会社法施行規則63条7号ホ)。
本件優先株式の評価額は中立的な専門機関により合理的な方法で1株当たり4万円と算定されており、算定後払込期日までの間にその価値を著しく変動させる事情はなかった。これに対し払込金額は1株2万円であって、公正な価額の2分の1にとどまる。「特に有利な金額」とは公正な払込金額と比較して特に低い金額をいうところ、本件はこれに当たる。したがって本件株式発行は有利発行である。
本件招集通知には、「新株式発行の件」という目的事項の記載がなく、本件議案2の概要の記載もなかった。よって招集手続に法令違反があり、取消事由となる(831条1項1号)。
⑵ 全員出席総会による治癒
これに対し甲社は、株主A及びBの全員が本件定時総会に出席しているから瑕疵は治癒されると主張することが考えられる。判例も、株主全員が出席し異議なく決議がされた場合には招集手続の瑕疵が治癒されるとしている(最判昭和60年12月20日)。
しかし、この法理は、株主全員が目的事項及び議案の内容を了知した上で審議に加わったことによって、招集通知が目的とする株主の準備の機会の保障が実質的に充足された場合に妥当するものである。
本件では、Bは本件定時総会の席上で本件議案1及び本件議案2を初めて知って驚いたのであり、事前に議案の内容を検討し、情報を収集し、賛否を判断する機会を全く与えられていない。これでは出席の実質的意味が失われており、瑕疵が治癒されたとはいえない。
⑶ 決議方法の法令違反及び著しい不公正
有利発行の場合、取締役は株主総会において当該払込金額でその募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない(199条3項)。これは、株主が持株比率の低下及び株式価値の希釈化という不利益を受けることを前提に、その賛否を判断できるようにする趣旨である。
本件でCは、2億円の資金調達が急務でありそのためには事実上本件株式発行以外に選択肢がないことを説明した。しかし他方で、2万円という払込金額が中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額に相当する額である旨を説明している。これは評価額が4万円であったという事実に反する虚偽の説明であり、Bは本件株式発行が有利発行であることを認識できなかった。
有利発行であることを前提としない説明は、199条3項の求める説明とはいえない。また、仮に形式的に理由の説明があったと評価しても、株主の議決権行使に決定的な影響を及ぼす払込金額の公正性について虚偽の説明をして賛成を得たものであって、決議の方法は著しく不公正である。
よって本件決議2には831条1項1号の取消事由がある。
3 本件決議1の取消事由
本件優先株式を発行するには、その内容を定款で定めなければならない(108条2項)。本件決議1はそのための定款変更であり、特別決議を要する(466条、309条2項11号)。
本件招集通知には「定款変更の件」という目的事項の記載も本件議案1の概要の記載もなかったから、前記2⑴と同様に招集手続の法令違反があり、前記2⑵と同様の理由により全員出席総会による治癒も認められない。よって本件決議1にも831条1項1号の取消事由がある。
4 無効原因
⑴ 公開会社でない会社においては、持株比率の維持に係る既存株主の利益、すなわち支配的利益の保護が重視され、その意思に反する株式の発行は新株発行の無効の訴えにより救済するのが会社法の趣旨である。判例も、公開会社でない会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続には重大な法令違反があり、この瑕疵は無効原因になるとしている(最判平成24年4月24日)。
本件では形式的には本件決議2という特別決議が存在する。しかし、前記のとおり当該決議は招集通知に議案の記載を欠き、かつ払込金額の公正性について虚偽の説明がされた結果成立したものである。Bは、払込金額が公正であり持株比率の低下もやむを得ないと誤信して賛成したのであって、有利発行であることを知れば賛成しなかったと考えられる。すなわち本件株式発行はBの真意に反するものであり、Bの支配的利益が実質的に害されている。現にBの持株比率は29000株/8万株の約36.3%から29000株/9万株の約32.2%に低下している。
さらに、Bは、本件定時総会の席上で初めて議案を知ったため、有利発行である本件株式発行について募集株式の発行の差止め(210条)を求める機会を実質的に奪われている。判例も、株主に差止めの機会が与えられなかったことを無効原因の判断において考慮している(最判平成9年1月28日)。
したがって、本件決議2の瑕疵は本件株式発行の無効原因となる。
⑵ また、本件決議1が取り消されるべきものであるとすると、本件優先株式の内容を定める定款の定めは効力を有しないこととなる。そうすると本件株式発行は定款の定めのない種類の株式の発行であり、108条2項に違反する重大な法令違反である。種類株式の内容を定款で定めることを要するとしたのは、株主及び株式取得者に株式の内容を明らかにし、既存株主の利益を保護する趣旨であるから、その違反は無効原因となると解すべきである。
5 結論
Bは、新株発行の無効の訴え(828条1項2号)を提起し、本件決議1及び本件決議2の各取消事由を無効原因として主張することができ、その主張はいずれも理由がある。
第2 設問2⑴
1 議決権割合の縮減
本件株式併合は本件優先株式のみを2株につき1株の割合で併合するものである。本件優先株式の株主は株主総会における決議事項の全部について議決権を行使することができる(定款④)。
併合前の甲社の議決権の総数は、本件普通株式8万株と本件優先株式1万株の合計9万個であり、Pが有する議決権は5000個、その割合は約5.6%である。併合後は、本件優先株式が5000株となるため議決権の総数は8万5000個となり、Pが有する議決権は2500個、その割合は約2.9%に低下する。
これに伴い、Pは、併合前には行使することができた総株主の議決権の100分の3以上を要する少数株主権、すなわち株主総会の招集請求(297条1項)、会計帳簿の閲覧謄写請求(433条1項)、業務の執行に関する検査役の選任の申立て(358条1項)、取締役の解任の訴え(854条1項)等を単独では行使することができなくなる。これは株主としての監督是正権の重大な縮減である。
他方、本件普通株式の株主であるA及びBの議決権割合は、合計で約88.9%から約94.1%に上昇し、A単独でも約56.7%から約60.0%に上昇する。すなわち本件株式併合は、優先株主の議決権を普通株主に移転させる効果を有する。
2 優先配当額の縮減
甲社が剰余金の配当をするときは、本件優先株式の株主は本件普通株式の株主に先立ち1株につき1000円の配当優先額の配当を受ける(定款①)。Pが受けるべき配当優先額の総額は、併合前は5000株につき500万円であるが、併合後は2500株につき250万円となり半減する。
さらに、本件優先株式には、ある事業年度における1株当たりの配当の額が配当優先額に達しない場合に当該不足額を翌事業年度以降に累積する旨の条項が付されている(定款③)。したがって、将来累積していく不足額の基礎となる配当優先額そのものが半減することになり、Pが受ける不利益は一時的なものにとどまらず、継続的かつ確定的なものである。
また、配当優先額の配当をした後に更に分配可能額がある場合の株式数に応じた配当(定款②)についても、Pの受ける額は半減する。
3 まとめ
Pは、1株当たり2万円、合計1億円を払い込んで本件優先株式を取得したにもかかわらず、本件株式併合によって、議決権割合及び優先配当を受ける地位をいずれも半減させられ、その経済的価値及び支配的利益の双方について重大な不利益を受ける。なお、Pの保有株式数は5000株であるから1株に満たない端数は生じない。
第3 設問2⑵
1 反対株主の株式買取請求(116条1項3号イ)
株式会社が株式の併合をする場合において、ある種類の株式を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類の株式を有する株主は、会社に対し、自己の有する当該種類の株式を公正な価格で買い取ることを請求することができる(116条1項3号イ)。ただし、322条1項の種類株主総会の決議があった場合は除かれる。
本件では、甲社の定款には322条2項に基づき同条1項の種類株主総会の決議を要しない旨の定めがある(定款⑥)から、種類株主総会の決議は行われておらず、同号の除外には当たらない。
そして「損害を及ぼすおそれ」については、前記のとおりPの議決権割合が約5.6%から約2.9%に低下して少数株主権を失い、累積条項の付された優先配当額も半減するのであるから、これが認められる。
次にPが「反対株主」(116条2項1号イ)に当たるかを検討する。同号イは、当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を会社に対し通知し、かつ当該株主総会において当該行為に反対した株主をいう。Pは、本件臨時総会に先立ち本件株式併合に反対する旨を甲社に書面で通知し、本件臨時総会においても本件議案3に強く反対しているから、これに当たる。
甲社は株主に対する会社法所定の通知をしているから(116条3項)、Pは効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その有する本件優先株式5000株の全部について買取請求をすることができる(同条5項)。価格については甲社との協議により、協議が成立しないときは裁判所に価格の決定の申立てをすることができる(117条)。
これにより、Pは公正な価格で投下資本を回収することができる。
2 株式の併合の差止請求(182条の3)
株式の併合が法令又は定款に違反する場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、会社に対し、当該株式の併合をやめることを請求することができる(182条の3)。甲社は単元株式数を定款で定めておらず、本件株式併合に関する事項を記載した書面を本店に備え置いている(182条の2)。
⑴ 法令違反
株式の併合は株主総会の特別決議によらなければならない(180条2項、309条2項4号)。したがって瑕疵のない株主総会の決議を欠く株式の併合は180条2項に違反する。
本件決議3には、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたという取消事由(831条1項3号)がある。
すなわち、本件株式併合によって、本件普通株式の株主であるA及びBは、優先配当の負担が半減することにより自らの受ける配当が増加し、かつ議決権割合が上昇するという、本件優先株式の株主と共通しない特別の利益を得る。したがってA及びBは決議について特別の利害関係を有する者に当たる。
そして本件株式併合は、本件優先株式のみを対象とし、専ら優先株主の優先配当を受ける権利及び議決権を実質的に縮減することを目的とするものである。CもPらに対する剰余金の配当の負担を軽減するために必要であると説明している。しかし、P及びQは1株2万円、合計2億円を払い込み、優先配当を受けることを前提に甲社の資金繰りを支えたのであって、甲社が一方的にその地位を半減させることは著しく不公平である。甲社の資金繰りの改善は、優先株主との合意による株式の取得や定款変更など、優先株主の同意を得る手続によるべきであった。よって本件決議3は著しく不当な決議である。
したがって本件決議3は取り消されるべきものであり、本件株式併合は適法な株主総会の決議を欠くものとして180条2項に違反する。
これに対し、決議が現に取り消されるまでは法令違反とはいえないとの見解もある。しかし182条の3は株式の併合の効力発生前における事前の救済手段であり、取消事由のある決議に基づく併合の実行を許すことは同条の趣旨を損なう。したがって取消事由の存在をもって法令違反と解すべきである。
なお、優先株主の権利を実質的に縮減することを目的とする本件株式併合は株主平等原則(109条1項)の趣旨にも反し、権利の濫用に当たるともいえ、また取締役が株主間の不当な利益移転を生じさせたものとして善管注意義務(330条、民法644条)違反にも当たるから、これらを法令違反と解することもできる。
⑵ 不利益を受けるおそれ
前記第2のとおり、Pは議決権割合及び優先配当について重大な不利益を受けるおそれがある。
⑶ よってPは、甲社に対し本件株式併合をやめることを請求することができ、その訴えを本案として差止めの仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てることが実効的である。
3 本件決議3の取消しの訴え(831条1項3号)
Pは、本件決議3の取消しの訴えを提起することもできる。本件決議3が取り消されれば、その効力は決議の時に遡って失われ、本件株式併合は株主総会の決議を欠くものとして無効となる。
したがって、効力発生日前に本件決議3の取消しの訴えを提起しておくことは、効力発生後に本件株式併合の無効を主張するための前提となるとともに、前記2の差止請求における法令違反の主張を基礎づける意義を有する。
取消事由は前記2⑴のとおり831条1項3号であり、Pは株主として原告適格を有し、決議の日から3か月内に訴えを提起しなければならない。
以上