司法試験 平成30年 商法
問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,25:50:25〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1.Aは,関東地方のP県において,個人でハンバーガーショップを営んでいた。Aが作るハンバーガーは,Aが独自に調合した調味料による味わいにより,地域で評判であった。
2.Aは,P県内に複数の店舗を出店しようと考え,Aの子B,弟C及び叔父Dの出資を得て甲株式会社(以下「甲社」という。)を設立した。甲社の発行済株式の総数は1000株であり,Aが300株を,Bが250株を,Cが250株を,Dが200株を,それぞれ有している。
甲社は,取締役会及び監査役を置いている。甲社では,Aが代表取締役を,B,C及び甲社の使用人でもあるEが取締役を,それぞれ務めている。甲社は,会社法上の公開会社ではなく,かつ,種類株式発行会社でもない。甲社の定款には,取締役を解任する株主総会の決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う旨の定めがある。
3.甲社は,P県内に十数店舗を出店した。この間,Dの子Fが,甲社が出店する予定がない近畿地方のQ県において,ハンバーガーショップを営む乙株式会社(以下「乙社」という。)の代表取締役として,乙社を経営するようになった。乙社の発行済株式はDが全て有しているが,Dは乙社の経営に関与していない。
4.甲社は,当初,順調に売上げを伸ばしたが,その後,3期連続で売上げが減少した。そのような中,AとCとの間で,甲社の経営方針をめぐる対立が生じた。
5.Cは,Dと面会し,Dに対し,Aが仕入先からリベートを受け取っていると述べ,次の甲社の定時株主総会において,Aを取締役から解任する旨の議案を提出するつもりであるから,これに賛成してもらいたいと求めた。Dは,甲社に見切りを付けており,自己の有する甲社株式200株(以下「D保有株式」という。)を売却することを考えていたため,Cの求めに対して回答を保留した上で,CがD保有株式を買い取ることを求めた。Cは,資金が十分ではなかったので,Dの求めに対して回答を保留した。
6.その後,Dは,甲社において営業時間内にAと面会し,D保有株式をAが買い取ることを求めた。Aがこれを拒否したところ,DはAが仕入先からリベートを受け取っている疑いがあるため,Aの取締役としての損害賠償責任の有無を検討するために必要であるとして,直近3期分の総勘定元帳及びその補助簿のうち,仕入取引に関する部分の閲覧の請求をした。これに対し,Aが,どうすればこの請求を撤回してもらえるかと尋ねたところ,Dは,自分は甲社に対して興味を失っており,Aがリベートを受け取っているかどうかなどは本当はどうでもよいと述べた上で,AがD保有株式を買い取ることを重ねて求めた。
〔設問1〕 上記1から6までを前提として,上記6の閲覧の請求を拒むために甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
7.後日,Dは,Aに対し,AとCとの間の対立は知っているが,仮に,甲社の株主総会において,Cを取締役から解任する旨の議案が提出された場合には,これに反対するつもりであると述べた。
Aは,次の甲社の定時株主総会において,Cを取締役から解任する旨の議案を提出することを計画していたため,当該議案について,Dが反対し,否決されることを恐れ,D保有株式を買い取りたいと考えたが,Aには甲社株式のほかに見るべき資産がなかった。
8.そこで,Aは友人Gに対してD保有株式の買取りを持ち掛けたところ,Gはこれに前向きであった。D保有株式の適正な売買価格は2400万円であったが,Gは,D保有株式の買取資金として1600万円しか用意することができなかったため,丙銀行株式会社(以下「丙銀行」という。)から当該買取資金として800万円を借り入れることとした。そして,D,G及び甲社は,平成27年2月2日,下記契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
本件契約
⑴ Dは,平成27年4月1日,Gに対し,売買代金2400万円の支払を受けるのと引換えにD保有株式を譲渡し,その株券を引き渡す。
⑵ 甲社は,Gが丙銀行からD保有株式の買取資金として800万円を借り入れることができるように,Gの丙銀行に対する借入金債務を連帯保証する。甲社は,Gに対し,保証料の支払を求めない。
⑶ Dは,平成27年3月25日に開催される甲社の定時株主総会においては,自らは出席せず,Aを代理人として議決権の行使に関する一切の事項を委任する。
9.平成27年3月10日,丙銀行及びGは,D保有株式の買取資金800万円について融資契約を締結し,甲社は,適法な取締役会の決議を経て,丙銀行との間で,Gの丙銀行に対する当該融資契約に基づく借入金債務について連帯保証契約を締結した。甲社は,Gから,保証料の支払を受けていない。なお,仮に,甲社が保証料の支払を受けてこのような保証をする場合には,保証料は60万円を下回らないものであった。
10.甲社は,適法な取締役会の決議に基づき,平成27年3月25日を定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)の日として,招集通知を発した。本件株主総会においては,会社提案としてCを取締役から解任する旨の議案が,Cの株主提案としてAを取締役から解任する旨の議案が,それぞれ提出されることとなった。
11.本件株主総会には,A,B及びCが出席した。Dは,本件株主総会における議決権の行使に関する一切の事項をAに委任する旨の委任状をAに交付し,本件株主総会には,自らは出席しなかった。
本件株主総会において,Cを取締役から解任する旨の議案は,Cが反対したが,A,B及びDの代理人Aが賛成したことにより,可決された(以下「本件決議1」という。)。
続いて,Aを取締役から解任する旨の議案について,Cが提案の理由としてAの不正なリベートの受取について説明しようとした。これに対し,議長であるAは,そのような説明は議案と関連がないとして,これを制止し,直ちに採決に移り,当該議案は,Cが賛成したのみで,否決された(以下「本件決議2」という。)。
12.平成27年4月1日,丙銀行はGに対して800万円の融資を実行し,Gは,Dに対して売買代金2400万円を支払い,D保有株式を譲り受け,その株券の引渡しを受けた。
13.本件契約の内容並びに上記9及び12の事実を知ったCは,平成27年4月15日,本件決議1及び2について,株主総会の決議の取消しの訴えを提起した。
14.Gが丙銀行に対する借入金債務を弁済することができなかったため,甲社は,平成27年12月1日,丙銀行に対し,800万円の保証債務を弁済した。甲社はGに対して800万円を求償しているが,Gはこれに応じなかった。
〔設問2〕
⑴ 上記13の本件決議1及び2についての各決議の取消しの訴えに関して,Cの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。なお,本件株主総会の招集の手続は,適法であったものとする。
⑵ 上記14の事実を知ったCが甲社の株主としてA及びGに対し会社法に基づき責任追及等の訴えを提起する場合に,A及びGの責任に関し,Cの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
15.Bは,甲社の内紛が継続することにより,取引銀行の信用を失うことを危惧し,親族会議を開催し,AとCとの間を取り持つこととした。A及びCは,Bの提案に従い,下記のとおり合意した。
⑴ Bが経営者として十分な経験を積んできたことから,Aが取締役を退任した後は,Cも取締役を退任し,Bが代表取締役社長を務めることとする。ただし,内紛が解決したことをアピールするため,当面の間は,Aが代表取締役会長を,Cが代表取締役社長を,Bが取締役専務を,それぞれ務め,甲社を共同で経営する。
⑵ 甲社が丙銀行に対して弁済した800万円の求償については,A及びCが,資金を用意し,GからGの有する甲社株式200株を買い取り,Gがその売買代金をもって当該求償に係る支払に充てる。
16.Gからの甲社株式の買取りの結果,甲社の発行済株式については,Aが450株を,Bが250株を,Cが300株を,それぞれ有することとなった。また,甲社では,Aが代表取締役会長を,Cが代表取締役社長を,Bが取締役専務を,Eが取締役を,それぞれ務めることとなった。
17.平成29年5月,Aが交通事故により死亡したことから,Bは,他の役員に対し,上記15⑴の合意に従い,代表取締役社長に就任し,甲社を経営していく意思を伝えた上で,Cに対し,取締役を退任して相談役として支援してほしいと依頼した。Aの唯一の相続人であるBは,Aが有していた甲社株式450株について,単独で相続し,株主名簿の名義書換を終えた。
18.甲社の定款には,設立当初から,会社法第174条に基づく下記定めがあった。Cは,上記15⑴の合意に反し,自らが代表取締役社長の地位にとどまりたいと考えた。そこで,分配可能額との関係では,Bが相続した甲社株式450株全てについて,定款の下記定めに基づき,甲社がBに対して売渡しの請求をすることもできたが,Cが甲社の総株主の議決権の過半数を確保するために最低限必要な401株についてのみ,甲社がBに対して売渡しの請求をすることとした。
甲株式会社定款(抜粋)
(相続人等に対する売渡しの請求)
第9条 当会社は,相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し,当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。
19.Cは,甲社の取締役会を招集し,取締役会において,適法な手続に基づき,上記18の請求に関する議案を決議するための甲社の臨時株主総会の招集が決議された。
20.甲社は,上記19の取締役会の決議に基づき,平成29年7月3日,臨時株主総会を開催した。
当該臨時株主総会において,上記18の請求に関する議案は,議長であるCがその決議からBを除いた上で,Cのみが議決権を行使して賛成したことにより,可決された。甲社は,当該臨時株主総会の終結後,直ちにBに対して上記18の請求をした(以下「本件請求」という。)。
〔設問3〕 会社法第174条の趣旨を踏まえつつ,本件請求の効力を否定するためにBの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,①会計帳簿の閲覧の請求の拒絶事由(設問1),②株主の権利の行使に関する利益の供与を理由とする株主総会の決議の取消しの訴え,株主総会の否決決議の取消しを請求する訴え(設問2⑴),③株主の権利の行使に関して財産上の利益を供与することに関与した取締役及び当該利益の供与を受けた者に対する責任追及等の訴え(設問2⑵),④譲渡制限株式の相続人に対する売渡しの請求(設問3)についての理解等を問うものである。
設問1においては,⑴Dによる閲覧の請求が会社法第433条第1項の会計帳簿の閲覧の請求に該当すること,当該請求の要件等に言及した上で,⑵当該請求が同条第2項第1号又は第3号の拒絶事由等に該当し,甲社が当該請求を拒むことができるかどうかについて検討することが求められる。
⑵のうち,Dによる閲覧の請求が会社法第433条第2項第1号の拒絶事由に該当するか否かを検討するに当たっては,Dが,その権利の確保又は行使に関する調査の目的でなく,D保有株式をAに買い取らせる目的で当該請求を行ったと認めることができるかどうかについて,Dの言動等の事実関係を適切に評価した上で説得的に論ずることが求められる。
また,Dによる閲覧の請求が会社法第433条第2項第3号の拒絶事由に該当するか否かを検討するに当たっては,乙社の営む事業が甲社の「業務と実質的に競争関係にある」と認めることができるかどうかについて,甲社及び乙社はいずれもハンバーガーショップを営んでいること,甲社は関東地方のP県に,乙社は近畿地方のQ県に,それぞれ出店していること,甲社はQ県には出店する予定がないことなどの事実関係を適切に評価した上で,説得的に論ずることが必要となろう。さらに,Dが「~事業を営み,又はこれに従事するものである」と認めることができるかどうかについても,Dは,乙社の発行済株式の全部を有していること,乙社の経営には関与していないこと,乙社の代表取締役であるFと親子関係にあることなどの事実関係を踏まえて,具体的に検討することが求められる。
設問2⑴においては,甲社がGから保証料の支払を受けないでGの丙銀行に対する借入金債務について連帯保証したことが,「何人に対しても」(会社法第120条第1項)という文言に照らして,Gに対する財産上の利益の供与(同項)に該当するか否か(同項の文言上,利益供与の相手方は誰でもよく,現に株主である者に限られない。),あるいはこのことがD保有株式の売買契約が成立する前提となっており,Dに対する財産上の利益の供与(同項)に該当するか否かについて説得的に論ずることが求められる。そして,上記連帯保証が,(G又はDに対する)財産上の利益の供与に該当するとすれば,当該利益の供与が株主の権利の行使に関してされたもの(同項)ということができるかどうかについて,本件契約によれば,Dが本件株主総会には自らは出席しないでAを代理人として議決権の行使に関する一切の事項を委任することとされていたといった諸々の事実関係に即して検討することが望まれる。その上で,本件決議1についての株主総会の決議の取消しの訴えに関して,当該利益の供与により,本件決議1が株主総会の決議の方法が法令に違反したもの(同法第831条第1項第1号)と認めることができるかどうかについて検討することが求められる。
また,本件決議2についての株主総会の決議の取消しの訴えに関しては,本件決議2が株主総会の決議の方法が法令に違反し,又は著しく不公正なもの(会社法第831条第1項第1号)
と認めることができるかについて,CがAを取締役から解任する旨の議案の提案の理由を説明しようとしたところ,議長であるAがこれを制止し,直ちに採決に移ったことを,株主による提案理由の説明の拒絶として株主提案権の(実質的)侵害に該当し,あるいは議長の議事整理に関する権限(同法第315条第1項)の濫用に該当すると位置付けることができるのではないかといった観点から,検討することが考えられる。さらに,判例は,ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であるとしていること(最判平成28年3月4日民集70巻3号827頁)を意識した上で,その適否を論ずることが求められる。
設問2⑵においては,Aに対する責任追及等の訴え(会社法第847条第1項)については,甲社がGから保証料の支払を受けないでGの丙銀行に対する借入金債務について連帯保証したことが,G又はDに対する財産上の利益の供与(同法第120条第1項)に該当するとすれば,①Aは,同条第4項及び会社法施行規則第21条第1号に基づき,少なくとも,供与した利益の価額に相当する額である60万円を支払う義務を負うと認めること,②甲社がGの丙銀行に対する借入金債務について連帯保証したことに関するAの行為は,法令に違反し,又は善管注意義務に違反するため,任務懈怠(同法第423条第1項)に該当し,Aは,甲社に対し,少なくとも,保証債務の履行として丙銀行に弁済した800万円を支払う義務を負うと認めることが考えられる。なお,Aが支払義務を負う金額(①にあっては「供与した利益の価額に相当する額」,②にあっては会社の損害額)については,上記の各金額以外の額であるとする論理も考えられるところであり,事案に即して説得的に論じられていれば,必ずしも,上記の各金額でなければならないものではない。
Gに対する責任追及等の訴え(会社法第847条第1項)については,Gが,「当該利益の供与を受けた者」に該当するのであれば,同法第120条第3項に基づき,供与を受けた財産上の利益である60万円を返還する義務を負うと認めることが考えられる。なお,Gが返還義務を負う金額についても,同様に,必ずしも,上記の金額でなければならないものではない。
設問3においては,譲渡制限株式の相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条)の趣旨は,株式会社が,定款にその旨の定めを設けることにより,相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対し,当該譲渡制限株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができることとし,当該株式会社にとって必ずしも好ましくない者が当該株式会社の株主となることを防ぐことができるようにすることにあることを踏まえつつ,本件請求の適否について,具体的に検討することが求められる。
その際には,Bは甲社株式を相続する前から甲社の株主であったこと,Bが相続した甲社株式450株の全部についてではなく,Cが甲社の総株主の議決権の過半数を確保するために最低限必要な401株についてのみ,甲社がBに対して売渡しの請求をすることとしたこと,Aが取締役を退任した後はCも取締役を退任してBが代表取締役社長を務める旨のAC間の合意が存在していたこと,本件請求はCが甲社の支配権を取得する目的でされていること,他方で,会社法第174条の文言上は,これらのことにより,譲渡制限株式の相続人等に対する売渡しの請求が不適法となるとは規定されていないこと,甲社定款第9条の定めは設立当初から設けられていたことなどの諸事情を総合的に考慮して,説得的に論ずることが求められる。
その上で,平成29年7月3日に開催された臨時株主総会における甲社がBに対して売渡しの請求をすることに関する議案を可決した決議について,①特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによる著しく不当な決議に該当するか否か(会社法第831条第1項第3号),②決議の内容が法令に違反するか否か(同法第830条第2項),又は③決議の内容が定款(定款の趣旨)に違反するか否か(同法第831条第1項第2号),及び当該決議が取り消され,又は無効であることが確認されることにより,本件請求が効力を生じないこととなることなどについて,検討することが考えられる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 請求の性質及び要件
Dが閲覧を求める直近3期分の総勘定元帳及びその補助簿は、会計帳簿そのもの又はこれに関する資料であるから、本件請求は会計帳簿の閲覧の請求(会社法433条1項)に当たる。
同項は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内は、いつでも、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写の請求をすることができるとする。
Dは甲社の発行済株式1000株のうち200株を有し、総株主の議決権の20%を有する。また、請求は甲社において営業時間内にされており、Aが仕入先からリベートを受け取っている疑いがあるためAの取締役としての損害賠償責任の有無を検討する必要があるという理由が明らかにされ、対象も直近3期分の仕入取引に関する部分に限定されている。したがって同項の要件は充たされる。
そこで甲社は、433条2項の拒絶事由を主張することが考えられる。
2 433条2項1号
同号は、請求を行う株主がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったときを拒絶事由とする。株主の情報収集権を認める一方、株主権と無関係な目的による権利行使から会社を保護する趣旨である。
本件では、Dは請求の理由としてAの責任追及の調査を掲げている。しかし、Dは請求に先立ち甲社に見切りを付けてD保有株式の売却を考えており、CからA解任議案への賛成を求められた際にも回答を保留して自己の株式の買取りを求めていた。そして本件請求に先立ってAに対しD保有株式の買取りを求め、これを拒否されるや直ちに本件請求をしている。さらにAが請求の撤回の条件を尋ねたのに対し、Dは自分は甲社に対して興味を失っており、Aがリベートを受け取っているかどうかなどは本当はどうでもよいと明言した上で、重ねてD保有株式の買取りを求めている。
これらの経緯によれば、本件請求の真の目的は、閲覧請求を圧力手段としてAにD保有株式を買い取らせることにあり、Aの責任追及という株主権の確保又は行使に関する調査の目的は存在しないと認められる。
よって、433条2項1号の拒絶事由が認められ、甲社は本件請求を拒むことができる。
3 433条2項3号
同号は、請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるときを拒絶事由とする。会計帳簿には会社の営業上の秘密が含まれるため、競業者への情報流出を防ぐ趣旨である。判例は、同号の拒絶事由については、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営む等の客観的事実が認められれば足り、会社を害する意図等の主観的要件を要しないとしている(最決平成21年1月15日)。
まず、乙社の事業が甲社の業務と実質的に競争関係にあるかを検討する。甲社及び乙社はいずれもハンバーガーショップを営んでおり、業種は同一である。もっとも、甲社は関東地方のP県内に出店し、乙社は近畿地方のQ県において営業しており、営業地域は全く異なる。そして甲社はQ県に出店する予定がない。「実質的に競争関係」には近い将来において競争関係が生ずる可能性がある場合も含まれると解すべきであるが、本件では甲社の出店計画からそのような可能性も認め難い。したがって実質的な競争関係は認められない。
次に、仮に競争関係を認めるとしても、Dが「事業を営み、又はこれに従事するもの」といえるかが問題となる。Dは乙社の発行済株式の全部を有するが、乙社の経営には関与しておらず、乙社を経営しているのはDの子Fである。親子関係があることをもって直ちにDとFを同視することはできず、Dは単に株式を保有するにとどまる。したがってDが自ら事業を営み、又はこれに従事するものとはいえない。
よって、433条2項3号の拒絶事由は認められない。
4 結論
甲社は、433条2項1号の拒絶事由を主張して本件請求を拒むことができる。
第2 設問2⑴
1 本件決議1について
⑴ 利益供与
甲社は、Gの丙銀行に対する借入金債務について連帯保証をし、Gから保証料の支払を受けていない。同様の保証をする場合の保証料は60万円を下回らないものであった。したがって甲社は、Gに対し保証料相当額の経済的負担を免れさせており、財産上の利益を供与したといえる。
株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない(120条1項)。同項の文言上、供与の相手方は限定されておらず、現に株主である者に限られない。したがって、本件契約の時点で甲社の株主でなかったGに対する供与であっても同項の対象となる。
また、本件契約は、Gによる買取資金の調達を甲社の無償保証によって可能とすることを内容とするものであり、これによって初めてD保有株式の売買が成立し得たのであるから、Dに対する財産上の利益の供与と評価する余地もある。
⑵ 株主の権利の行使に関して
本件契約⑶は、Dが本件株主総会には自ら出席せず、Aを代理人として議決権の行使に関する一切の事項を委任することを定める。これは、Dの議決権行使をAに委ねさせ、Cを取締役から解任する旨の議案を可決させることを目的とするものである。Aは、Dが当該議案に反対し否決されることを恐れてD保有株式の買取りを計画したのであり、無償保証はその資金調達を可能とするためにされた。
したがって、本件の利益供与は、株主たるDの議決権の行使に関してされたものといえる。
⑶ 決議取消事由
利益供与を伴う違法な議決権行使に基づく決議は、決議の方法が法令に違反したものとして取消事由となる(831条1項1号)。本件では、Dの200株分の議決権がAによって行使され、これが賛成票に算入されている。よって本件決議1には取消事由がある。
⑷ 裁量棄却
これに対し甲社は、裁量棄却(831条2項)を主張することが考えられる。甲社の定款は取締役の解任決議について議決権を行使することができる株主の議決権の過半数の出席及び出席議決権の3分の2以上の多数を要求する。Dが出席しなかったとすれば出席議決権は800個、その3分の2は533個余りであり、A及びBの賛成550個でこれを上回るから、決議の結果は変わらない。
しかし、831条2項による棄却には、違反する事実が重大でないことも必要である。利益供与の禁止は、会社財産の浪費を防止し、株主総会における議決権行使の公正を確保するという会社法の根幹に関わる規律であり、本件では代表取締役Aが自己の地位の保全のために会社財産を用いて株主の議決権行使を操作している。この違反は重大であり、裁量棄却は認められない。
よって、本件決議1の取消しを求めるCの主張は理由がある。
2 本件決議2について
Cは、議長であるAが提案理由の説明を制止し直ちに採決に移ったことが、株主提案権の実質的侵害であり、また議長の議事整理権(315条1項)の濫用であって、決議の方法が法令に違反し又は著しく不公正であると主張することが考えられる。
確かに、Aの不正なリベートの受取は、Aを取締役から解任する旨の議案の理由そのものであって議案と関連がないとはいえず、議案提出株主の説明の機会を一切与えずに採決に移ったAの措置は、議事整理権の濫用として違法といわざるを得ない。
しかし、判例は、ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であるとしている(最判平成28年3月4日)。否決決議を取り消しても当該議案が可決されたことになるものではなく、取消しによって新たな法律関係が生ずるわけではないから、訴えの利益を欠くというべきである。
本件決議2はAを取締役から解任する旨の議案を否決した決議である。したがって、その取消しを求める訴えは不適法として却下される。Cは、改めて株主総会の招集を請求し(297条)又は議案を提出して争うべきである。
第3 設問2⑵
1 提訴の要件
甲社は公開会社ではないから、Cは6か月の株式保有要件を充たす必要がなく(847条2項)、株主として甲社に対し責任追及等の訴えの提起を請求し、60日以内に甲社が訴えを提起しないときは自ら訴えを提起することができる(847条1項、3項)。
2 Aの責任
⑴ 利益供与に関与した取締役の責任
株式会社が120条1項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与に関与した取締役は、会社に対し、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う(120条4項)。利益の供与をした取締役は、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しても免責されない(同項ただし書)。関与した取締役の範囲は会社法施行規則の定めるところによる。
Aは、甲社の代表取締役として本件契約を締結し、自らの地位を保全するために無償の連帯保証をさせた者であって、利益の供与をした取締役にほかならない。
したがってAは、供与した利益の価額に相当する額として、保証料相当額である60万円を甲社に支払う義務を負う。
⑵ 任務懈怠責任
取締役がその任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(423条1項)。
Aは、120条1項に違反する利益供与を行ったのであり、これは法令違反であって任務懈怠に当たる。また、甲社はGから保証料を受けることなく何ら事業上の必要もない個人の株式取得資金の債務を保証しており、専らAの個人的利益のために会社に無償でリスクを負担させたものであって、善管注意義務(330条、民法644条)違反も認められる。
そして甲社は、平成27年12月1日、丙銀行に対し800万円の保証債務を弁済し、Gに対する求償も果たせていない。Aの任務懈怠と相当因果関係のある甲社の損害は800万円である。
よってAは、甲社に対し800万円の損害賠償責任を負う。なお前記60万円の支払義務と重複する範囲では一方の履行により他方も消滅すると解すべきである。
3 Gの責任
120条3項は、会社が同条1項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを会社に返還しなければならないとする。
Gは、甲社の無償保証によって本来支払うべき保証料の負担を免れたのであり、「当該利益の供与を受けた者」に当たる。
もっとも、Gが供与を受けた財産上の利益は保証料相当額である60万円であって、丙銀行に対する弁済額800万円そのものではない。800万円については、甲社は求償権(民法459条1項)に基づいて請求すべきものである。
よってGは、120条3項に基づき60万円を甲社に返還する義務を負う。
第4 設問3
1 174条の趣旨
174条は、株式会社が定款にその旨の定めを設けることにより、相続その他の一般承継により当該会社の譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができることとするものである。その趣旨は、譲渡制限株式について会社の承諾なく一般承継がされる場合に備え、会社にとって必ずしも好ましくない者が株主となることを防ぎ、閉鎖的な株主構成を維持することにある。
2 形式的要件の充足
本件では、甲社の定款9条が設立当初から174条に基づく定めを置いており、Bは相続により甲社株式450株を取得している。売渡しの請求は株主総会の決議によらなければならず(175条1項)、当該決議は特別決議である(309条2項)。また請求は相続等があったことを知った時から1年以内にしなければならない(176条1項)。Aの死亡は平成29年5月であり、請求は同年7月3日であるから期間内である。分配可能額との関係も問題がないとされている(461条1項)。
さらに、売渡しの請求の相手方となる株主は当該株主総会において議決権を行使することができない(175条2項)。議長Cが決議からBを除いたことは同項に従うものであり、B以外の株主の全部が議決権を行使することができない場合にも当たらないから、同項ただし書の適用もない。
そこでBは、決議自体の瑕疵を主張して本件請求の効力を否定することとなる。
3 特別利害関係人による著しく不当な決議(831条1項3号)
株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときは、決議の取消事由となる(831条1項3号)。
本件決議により売渡しが実現すると、Bの持株は700株から299株に減り、自己株式401株は議決権を有しないから(308条2項)、議決権を有する株式は599株となり、Cの300株が過半数を占める。Cは本件決議により甲社の支配権を取得するという、他の株主と共通しない個人的利益を得るのであって、特別の利害関係を有する者に当たる。
そして決議の内容は著しく不当である。第一に、BはAの株式を相続する前から250株を有する甲社の株主であり、取締役専務でもあって、174条が想定する「会社にとって好ましくない新たな株主」ではない。第二に、甲社はBの相続した450株全部について売渡しを請求することもできたのに、Cが総株主の議決権の過半数を確保するために最低限必要な401株についてのみ請求している。この選択は、閉鎖性の維持とは無関係に、Cの支配権確立という目的のみから説明されるものである。第三に、AとCとの間には、Aの退任後はCも退任してBが代表取締役社長を務める旨の合意が存在し、Cの行動はこれに反する。
よって、本件決議は831条1項3号に該当し、取り消されるべきである。
4 決議内容の法令違反又は定款違反(830条2項、831条1項2号)
Bは、本件決議の内容が174条及び定款9条の趣旨に反し、決議内容の法令違反(830条2項)又は定款違反(831条1項2号)であると主張することも考えられる。
前記のとおり、既存株主に対し支配権移動を目的として一部の株式のみの売渡しを請求することは、174条及びこれを受けた定款9条の趣旨に反する。
もっとも、174条及び定款9条の文言上は、相続人が既に株主であることや請求を一部の株式に限ることによって売渡しの請求が許されないとはされていない。また定款9条は設立当初から存在し、株主はこれを前提に株主となっている。したがって決議内容が直ちに法令又は定款の文言に違反するとまではいえない。この主張は、定款の趣旨に違反するものとして831条1項2号に当たるとする限度で認められ得るが、前記3の831条1項3号による取消しによって目的は達せられる。
5 結論
本件決議が取り消されると、その効力は決議の時に遡って失われる。そうすると本件請求は175条1項の株主総会の決議を欠くものとなり、効力を生じない。したがってBは、本件決議の取消しの訴え(831条1項3号)を提起してその取消しを求めることにより、本件請求の効力を否定することができる。
以上