司法試験 平成29年 商法
問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:40:25〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1.A及びBは,Cから,加工食品の製造業及び卸売業を営む甲株式会社(以下「甲社」という。)
を設立するので,協力してほしいと頼まれた。そこで,甲社の設立に際し,Aは,唯一の発起人となるとともに,甲社の設立に際して発行される株式の一部を引き受け,出資の履行として1200万円を払い込み,Bは,発起人とならなかったが,残りの株式を引き受け,出資の履行として1800万円を払い込んだ。
2.Aは,甲社の設立手続を進める上で,当初の1か月間は,設立事務を行う事務所と設立事務を補助する事務員が必要であると考えた。そこで,Aは,Dから,平成23年5月9日,「甲社発起人A」の名義で,事務所用建物を,賃貸期間を1か月に限り,賃料を後払いで60万円とする約定により賃借した。また,Aは,同月12日,「甲社発起人A」の名義で,Eを,設立事務を補助する事務員として,期間を1か月に限り,報酬を後払いで40万円とする約定により雇用した。なお,当該賃料及び当該報酬は,相場に照らし,いずれも適正な金額であった。
3.Aは,Fとの間で,平成23年5月13日,「甲社発起人A」の名義で,成立後の甲社の事業に用いる目的で,食品加工用の機械(以下「本件機械」という。)を,甲社の成立を条件として,本件機械の引渡し及び代金の支払の期日をいずれも同年7月29日とし,代金を800万円とする約定により,甲社がFから購入する契約(以下「本件購入契約」という。)を締結した。
4.平成23年6月14日,甲社の設立登記がされた。公証人の認証を受けた甲社の定款には,設立費用については「設立費用は80万円以内とする。」との記載のみがあり,また,甲社の成立を条件として特定の財産を譲り受けることを約する契約については記載がなかった。なお,当該設立費用については,裁判所の選任した検査役の調査等の必要な手続を経ていた。
甲社は取締役会設置会社かつ監査役設置会社であり,甲社の代表取締役はCである。甲社の設立時の株主は,A及びBの二人のみであり,甲社の発行済株式及び総株主の議決権のいずれも,40%はAが,60%はBが,それぞれ保有している。甲社の純資産額は,設立後,数か月の間,3000万円を超えることがなかった。
5.甲社は,Fから,平成23年6月16日,本件機械について代金として50万円を追加するように要求されるとともに,この要求に応じないのであれば,本件購入契約の有効性を問題とし,本件機械の引渡しに応じないと主張された。
〔設問1〕
⑴ Aは,Dに対して上記2の賃料60万円を,Eに対して上記2の報酬40万円を,いずれも支払っておらず,甲社は,その成立後,直ちに,D及びEから,これらの支払を求められた。
この場合において,甲社がこれらの支払を拒否することができるかどうかについて,判例の立場及びその当否を検討した上で,論じなさい。
⑵ 甲社の代表取締役Cは,本件機械が甲社の事業活動に不可欠であったことから,上記5のFの要求に応ずることもやむを得ないが,できれば代金を追加して支払うことなく本件機械の引渡しを受けたいと考え,平成23年6月20日頃,その旨を弁護士に相談した。当該弁護士の立場に立って,本件購入契約に関する会社法上の問題点について論じた上で,それを踏まえつつ,甲社が本件機械の引渡しを受けるために採ることができる方法及びこれに必要となる会社法上の手続について,検討しなさい。
6.平成27年12月,甲社の取締役会は,甲社と取引関係があった加工食品の小売販売業を営む乙株式会社(以下「乙社」という。)が経営不振に陥り,乙社から援助を求められたことを受け,乙社の全ての発行済株式を取得して,乙社を完全子会社化した上で,乙社の経営を立て直すことを決定した。乙社を完全子会社化するのは,甲社の経営方針に反対する少数株主を排除するためであった。
乙社は,会社法上の公開会社であるが,金融商品取引所にその発行する株式を上場していない。
乙社は,種類株式発行会社ではなく,その定款には,その発行する株式について株券を発行する定めや単元株式数に関する定めはない。なお,乙社の定款のうち,本問に関係する定めは,別紙の1のとおりである。
7.甲社は,乙社の株式を買い集め,乙社の発行済株式の60%に当たる6000株を取得した。
乙社の取締役はいずれも乙社が甲社の完全子会社となることに賛成していたが,乙社の創業者の一族である株主Gは,乙社が甲社の完全子会社となることに強硬に反対し,甲社からの株式売却の勧誘にも一切応じない姿勢を見せていた。
8.乙社は従業員持株制度を採用しており,乙社の従業員のうち希望者が従業員持株会に加入している。当該従業員持株会(以下「本件持株会」という。)は,平成28年3月31日の時点で,乙社の従業員20人から成る民法上の組合であり,乙社の株式を1200株取得しており,当該1200株については下記9のとおり株主名簿に株主として本件持株会の理事長であるHが記載されている。本件持株会の会員は,積立口数に応じて本件持株会が保有する乙社の株式について持分を有し,各自の持分に相当する株式を管理の目的をもって理事長に信託している。
すなわち,当該1200株については,実質的には,本件持株会の会員である従業員20人が,その持分に応じて,保有していることとなる。本件持株会の規約のうち本問に関係する定めは別紙の2のとおりである。なお,本件持株会の規約の内容は適法であり,当該規約に基づく株式の信託を無効とする事由はない。
9.平成28年3月31日の最終の株主名簿に記載された乙社の株主及びその持株数は,次のとおりであった。
甲社:6000株,G:2000株,乙社従業員持株会(本件持株会)理事長H:1200株,I:800株10.甲社と乙社の取締役が話し合った結果,乙社を甲社の完全子会社とするため,乙社は,株式の併合をすることとなった。乙社の代表取締役Jは,取締役会の決議に基づき,平成28年6月1日に定時株主総会の招集通知を発した。当該招集通知には,株主総会の目的の一つが株式の併合であること,株式の併合に係る議案の概要として,①3000株を1株に併合すること,②株式の併合がその効力を生ずる日(以下「効力発生日」という。)を同年7月11日とすること,③効力発生日における発行可能株式総数を効力発生日における発行済株式の総数の4倍に当たる数とすること等が記載されていた。他方で,株主総会に出席しない株主が書面又は電磁的方法によって議決権を行使することができることとする旨は記載されていなかった。
乙社は,当該招集通知を発した日に,上記①から③までの事項を公告するとともに,上記①から③までの事項を含む株式の併合に関する所定の事項を記載した書面を本店に備え置いた。
11.上記10の招集通知に基づき平成28年6月20日に開催された乙社の定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)には,Gのほか,甲社の代表取締役Cが甲社を代表して出席し,また,本件持株会の発足以来その会員であるKが本件持株会理事長Hの代理人として出席した。Kは,その際,本件株主総会において議決権行使の代理人をKとする旨のHが作成した委任状を乙社に提出した。なお,本件持株会の会員でHに対し本件株主総会における議決権行使についての特別の指示をしたものはいなかった。
12.Iは平成27年10月1日に死亡し,Iの唯一の相続人であるLが,Iが保有していた乙社株式800株(以下「本件株式」という。)を相続した。Lは,Iの生前から,乙社の株主名簿上のIの住所においてIと同居しており,Iが死亡した後も,引き続き同所において居住している。Lは,Iの生前から,Iが本件株式を保有していたことを知っていたものの,本件株式を相続により取得した後も,本件株式について株主名簿の名義書換えを請求していなかったが,I宛ての本件株主総会の招集通知を受け取った日の翌日である平成28年6月3日,乙社に対し,相続により本件株式を取得したことを証する書面を提示して株主名簿の名義書換えを請求するとともに,上記10の株式の併合に反対する旨を乙社に通知した。乙社は,同日,Lの請求のとおり株主名簿の名義書換えを行った。
本件株主総会の当日,Lは,本件株主総会の会場に現れ,入場を求めたが,乙社の受付担当者は,乙社の代表取締役Jの指示に基づき,Lが本件株主総会に係る議決権行使の基準日において株主名簿上の株主でなかったことを理由として,Lの入場を認めなかった。
13.本件株主総会において,乙社の代表取締役Jは,株式の併合をすることを必要とする理由として,①株主への通知や配当金の支払に掛かるコストを削減するために株主の人数を減少させる必要があること,②乙社は,数年後に,会社の事業規模に合わせて資本金の額を減少する予定であり,そのためには,会社法上,発行済株式の総数を減少させる必要があることの2点を説明したが,乙社を甲社の完全子会社とした上で甲社の支援により乙社の経営を立て直すという本来の目的については説明しなかった。
14.本件株主総会において,上記10の株式の併合の議案については,Gが反対したが,甲社及びHの代理人であるKが賛成したことにより,可決された(以下「本件決議」という。)。
〔設問2〕 Gは,本件決議の瑕疵を主張して,本件決議の効力を否定することを検討している。
平成28年7月20日の時点で,本件決議の効力を争うためにGの立場において考えられる主張及びその当否について,論じなさい。
〔設問3〕 上記10の株式の併合により乙社の株式を失うこととなるLの経済的利益が会社法上どのように保護されるかについて,論じなさい。ただし,株式の併合をやめることを請求し,株式の併合の効力を否定し,又は損害賠償を請求するという手段については,論じなくてよい。
別 紙1 乙株式会社定款(抜粋)
(なお,以下の定めは,設立時から本件株主総会の終結の時までの間,変更されていない。)
(定時株主総会の基準日)
第11条 当会社は,毎年3月31日の最終の株主名簿に記載された議決権を有する株主をもって,その事業年度に関する定時株主総会において議決権を行使することができる株主とする。
(決議)
第15条 株主総会の普通決議は,法令又は定款に別段の定めがある場合のほか,出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって決する。
2 会社法第309条第2項に定める決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う。
(議決権の代理行使)
第16条 株主は,当会社の他の株主1名を代理人として,その議決権を行使することができる。
2 乙株式会社従業員持株会規約(抜粋)
(株式の管理及び名義)
第10条 会員は,各自の持分に相当する株式を管理の目的をもって理事長に信託するものとする。
2 前項により理事長が受託する株式は,株主名簿において理事長名義とする。
(議決権の行使)
第11条 理事長名義の株式の議決権は,理事長が行使するものとする。ただし,会員は,各自の持分に相当する株式の議決権の行使について,理事長に対し,株主総会ごとに特別の指示を与えることができる。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,①発起人が取引の相手方に対し設立費用について未払額を残した状態で会社が成立した場合において設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていたときの設立費用の負担(設問1⑴),②定款に記載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否等(設問1⑵),③買収者が対象会社の少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合に係る株主総会の決議の取消事由及び無効事由(設問2),④株式の併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手続や反対株主の株式買取請求(設問3)に関する理解等を問うものである。
設問1⑴においては,判例は,設立費用の全部又は一部が未払の状態で会社が成立した場合には,債務は,定款に記載した金額(会社法第28条第4号)の範囲で,成立後の会社に帰属し,その金額の範囲では,取引の相手方は,成立後の会社に対し,弁済等を請求することができ,発起人に対しては,弁済等を請求することができないという立場を採っていること(大判昭和2年7月4日民集6巻428頁,大判昭和8年3月27日法学2巻1356頁)を明らかにするとともに,判例に賛成し,又は反対するいずれかの立場から,その当否を検討することが求められる。
判例に賛成する見解としては,設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていた場合においては,債務は,①契約を締結した順序により,契約を締結した順序が明らかでないときは,債務の額に応じた按分の方法により,定款に記載した金額の範囲で,成立後の会社に帰属するというものや,②契約を締結した順序にかかわらず,債務の額に応じた按分の方法により,定款に記載した金額の範囲で,成立後の会社に帰属するというものなどが考えられる。他方で,判例に反対する見解としては,債務は,①定款に記載した金額の範囲であっても,成立後の会社に帰属せず,取引の相手方は,発起人に対し,弁済等を請求することができるにとどまり,弁済等をした発起人が,定款に記載した金額の範囲で,成立後の会社に対し,求償をすることができるにすぎないというものや,②定款に記載した金額にかかわらず,全て成立後の会社に帰属し,取引の相手方は,成立後の会社に対し,弁済等を請求することができ,定款に記載した金額を超えている部分については,会社が,発起人に対し,求償をすることができるというもの,③取引の相手方は,会社及び発起人のいずれに対しても,弁済等を請求することができるというものなどがある。判例に賛成し,又は反対するいずれの立場を採る場合であっても,これらの見解といわゆる設立中の会社の概念や発起人の権限の範囲との関係を意識し,甲社がDから求められた賃料60万円の支払及びEから求められた報酬40万円の支払を拒否することができるかどうかについて,事案に即して説得的に論ずることが望まれる。
設問1⑵においては,甲社の代表取締役Cから相談を受けた弁護士の立場に立って,判例が,定款に記載がない財産引受けは,無効であり,譲渡人も無効を主張することができ,会社成立後,株主総会の特別決議をもってこれを承認しても,有効とならず,成立後の会社が追認しても,有効とならないとしていること(最判昭和28年12月3日民集7巻12号1299頁,最判昭和42年9月26日民集21巻7号1870頁,最判昭和61年9月11日裁判集民148号445頁)を意識しながら,本件購入契約に関する会社法上の問題点として,定款に記載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否について,説得的に論ずることが求められる。その上で,甲社が本件機械の引渡しを受けるために採ることができる方法及びこれに必要となる会社法上の手続について,判例に賛成する見解からは,甲社がFから本件機械を購入する契約を改めて締結しなければならず(この場合には,Fの増額要求をある程度受け入れるのもやむを得ないであろう。),そのために,本問においては,本件機械の価額及び甲社の純資産額等に照らし,本件機械の取得が事後設立に当たり,株主総会の特別決議によって,当該契約の承認を受けなければならないこと(会社法第467条第1項第5号,第309条第2項第11号)に言及しながら,事案に即して検討することが望まれる。他方で,判例に反対し,定款に記載がない財産引受けの追認を認める見解からは,本件購入契約を追認することが考えられるが,そのために,本問においては,本件機械の価額及び甲社の純資産額等に照らし,株主総会の特別決議によって,当該契約の承認を受けなければならないと考えられること(同法第467条第1項第5号類推,第309条第2項第11号類推)などに言及しながら,事案に即して検討することが望まれる。
設問2においては,乙社の創業者の一族である株主Gが,平成28年7月11日を効力発生日とする株式の併合により株主の地位を失ったとしても,本件決議の取消しにより株主の地位を回復するので,本件決議の取消しの訴えについて原告適格を有すること(会社法第831条第1項柱書き後段)を前提として,Gの立場から,買収者である甲社が対象会社である乙社の少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合に係る本件決議の取消事由について論ずるとともに,その無効事由についても,事案に即して説得的に論ずることが求められる。
本件決議の取消事由として,第1に,本件持株会の会員であるKが,株主名簿に記載されている株主でないにもかかわらず,本件持株会理事長Hの代理人として議決権を行使したことが,株主総会の決議の方法の定款違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて,株主は,代理人によってその議決権を行使することができる(同法第310条第1項)が,乙社の定款第16条は,議決権を行使する株主の代理人の資格を当該会社の株主に制限しているところ,判例が,そのような定款の規定は,株主総会が,株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し,会社の利益を保護する趣旨に出たものと認められ,合理的な理由による相当程度の制限ということができるから,有効であるとしていること(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)を前提として,そのような趣旨も踏まえて,検討することが求められる。例えば,Kは,株主名簿上の株主ではないが,実質的に乙社の株主であることをどのように評価するかが検討対象となろう。
第2に,乙社の代表取締役Jは本件株主総会において株式の併合をすることを必要とする理由を説明している(会社法第180条第4項)が,Jの説明の内容に照らし,その説明が株主総会の決議の方法の法令違反(同法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて,事案に即して検討することが求められる。
第3に,Iの相続人である株主Lに議決権を行使させなかったことが,株主総会の決議の方法の法令違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かなどについて,株式の譲渡の対抗要件に関する同法第130条第1項が株式の相続にも適用されるか否かに言及しながら,事案に即して検討することが求められる。
第4に,買収者である甲社の代表取締役Cが甲社を代表して議決権を行使しているところ,本件決議が,株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによる著しく不当な決議(会社法第831条第1項第3号)に当たるか否かについて,事案に即して検討することが求められる。
本件決議の無効事由としては,買収者である甲社が対象会社である乙社の少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合が,株主平等原則(会社法第109条第1項)に違反するか否かについて,論ずることが求められる。
設問3においては,平成28年7月11日を効力発生日とする株式の併合により乙社の株式を失うこととなる株主Lの経済的利益が会社法上どのように保護されるかについて,説明及び検討することが求められる。
まず,株式の併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手続(会社法第235条,第234条第2項から第5項まで)について説明する必要がある。
次に,反対株主の株式買取請求(会社法第182条の4)についても説明することが求められる。その際には,株主Lは,本件株主総会に先立って株式の併合に反対する旨を乙社に対し通知したが,本件株主総会の会場への入場を認められなかったため,本件株主総会において株式の併合に反対していないこと(同法第182条の4第2項第1号参照)から,株主Lが乙社に対し株式買取請求をすることができるかどうかについて,同法第130条第1項が株式の相続にも適用されるか否かについての設問2における検討と整合的かつ説得的に論ずることが求められる。
例えば,株式の相続は「株式の譲渡」(会社法第130条第1項)に当たらないとの立場を採ると,相続人は名義書換えをすることなく,株式の取得を会社に対抗することができ,したがって,Lは本件株主総会において議決権を行使することができた株主となる。この場合には,前述のとおり,形式的には,Lは同法第182条の4第2項第1号に規定する株主の要件を満たしていないものの,その原因が,Lが本件株主総会の会場への入場を求めたにもかかわらず,これを乙社の受付担当者が代表取締役Jの指示に基づき不当に拒否したことにあるから,乙社は同号の規定によるLからの株式買取請求を信義則上拒否することができないと解し,又はLは同項第2号に規定する株主(「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」)
に当たり,Lは乙社に対し株式買取請求をすることができると解することが考えられよう。
他方で,株式の相続は「株式の譲渡」(会社法第130条第1項)に含まれるとの立場を採ると,相続人は株主総会に係る議決権行使の基準日までに名義書換えをしなければ,株式の取得を会社に対抗することができず,したがって,Lは本件株主総会において議決権を行使することができなかった株主となる。この場合には,Lが乙社に対し株式買取請求をすることができるかどうかについて,同法第182条の4第2項第2号に規定する株主(「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」)に,株主総会の基準日以前に議決権を有する株式を取得しながら名義書換えを怠った者(株主総会の基準日後に株主名簿の名義書換えをした株主)が含まれるか否かに言及しながら,検討することが期待される(なお,この点に関する裁判例として,例えば,東京地決平成21年10月19日金判1329号30頁,東京地決平成25年9月17日金判1427号54頁参照)。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1⑴
1 発起人Aの行為の性質
甲社が支払を拒否できるかは、Aの締結した契約上の債務が成立後の甲社に帰属するかによる。
設立中の会社は権利能力なき社団としての実体を有し、発起人はその機関としての地位を有する。そして会社の設立が完了すると、設立中の会社について生じた権利義務は、特別の移転行為を要せず当然に成立後の会社に帰属すると解する。もっとも、発起人の権限は設立それ自体に必要な行為に限られ、成立後の事業を準備する開業準備行為には及ばないと解すべきである。設立中の会社の目的は会社の設立であり、また会社財産の充実を確保する必要があるからである。
本件では、Dからの事務所用建物の賃借(平成23年5月9日)及びEの事務員としての雇用(同月12日)は、いずれも設立事務を行うための場所と人員の確保であって、期間も当初の1か月に限られている。これらは設立手続の遂行に必要な行為であり、開業準備行為ではない。したがって、これらは設立に関して支出する「費用」(会社法28条4号)に当たる。
2 設立費用の負担
もっとも、設立費用は定款に記載し、検査役の調査を経なければ効力を有しない(28条4号、33条)。これは、無制限に設立費用を会社に負担させると会社財産が害され、株主及び債権者の利益が損なわれるからである。そこで、未払の状態で会社が成立した場合の債務の帰属が問題となる。
判例は、設立費用の債務は定款に記載した金額の範囲で成立後の会社に帰属し、その範囲では取引の相手方は会社に対してのみ弁済を請求することができ、発起人に対しては請求することができないとしている(大判昭和2年7月4日)。
この立場は、定款記載額という外部から明らかな基準によって会社の負担の上限を画し、会社財産の充実を図りつつ、記載額の範囲では相手方の請求を会社に対して認めるものであって、設立中の会社の法理と28条4号の趣旨を調和させるものである。相手方は定款を閲覧して記載額を知り得る立場にあるから、不当な不利益を受けるともいえない。よって判例の立場は正当である。
そして、記載額を超える場合にいずれの債務が会社に帰属するかについては、契約を締結した順序により定めるべきである。発起人は定款記載額の枠内で順次契約を締結していくのであり、その順序に従って会社の負担とするのが当事者の合理的意思に合致する。
3 本件へのあてはめ
本件の設立費用の総額は、Dの賃料60万円とEの報酬40万円の合計100万円であり、いずれも相場に照らし適正であるが、定款記載の80万円を超える。
契約締結の順序は、Dとの賃貸借が5月9日、Eとの雇用が5月12日である。したがって、Dの債務60万円は全額が甲社に帰属し、Eの債務は残額20万円の限度で甲社に帰属する。
よって、甲社はDに対する60万円の支払を拒否することができない。Eに対しては、20万円の支払は拒否できないが、これを超える20万円の支払は拒否することができる。もっとも、当該20万円については発起人Aが自ら負担すべきものであり、EはAに対して請求し得る。
第2 設問1⑵
1 本件購入契約の効力
本件購入契約は、発起人Aが「甲社発起人A」名義で、成立後の甲社の事業に用いる目的で、甲社の成立を条件として本件機械を有償で譲り受ける旨の契約である。これは財産引受け(28条2号)に当たる。
財産引受けは現物出資と並ぶ変態設立事項であり、定款への記載及び検査役の調査が効力要件である(28条2号、33条)。過大評価された財産が会社に持ち込まれることによる会社財産の空洞化を防ぐ趣旨である。
甲社の定款には、成立を条件として特定の財産を譲り受けることを約する契約についての記載がなかった。したがって本件購入契約は無効である。そしてこの無効は絶対的なものであり、譲渡人であるFの側からも主張することができる(最判昭和42年9月26日)。本件でFが本件購入契約の有効性を問題とし得るのはこのためである。
2 追認の許否
次に、甲社が本件購入契約を追認し、又は株主総会の特別決議によって承認することによって有効とすることができるかが問題となる。
判例は、定款に記載のない財産引受けは、会社成立後に株主総会の特別決議をもって承認しても有効とならず、成立後の会社が追認しても有効とならないとしている(最判昭和28年12月3日、最判昭和61年9月11日)。
追認を認めれば、定款記載及び検査役の調査という手続を経ないまま財産引受けの効果を会社に帰属させることとなり、28条2号及び33条の規制が容易に潜脱される。したがって追認は許されないと解すべきである。
3 甲社が採ることができる方法
そこで、甲社が本件機械の引渡しを受けるためには、改めてFとの間で本件機械の売買契約を締結するほかない。本件購入契約は無効であるから、甲社はFに対し従前の代金額による引渡しを請求できず、Fの50万円の増額要求をある程度受け入れることもやむを得ない。
もっとも、会社が成立後2年以内にその成立前から存在する事業用財産を取得する契約は、事後設立として、当該財産の対価の帳簿価額の合計額が会社の純資産額の5分の1を超える場合には、株主総会の特別決議による承認を受けなければならない(467条1項5号、309条2項11号)。これも財産引受けの規制の潜脱を防ぐ趣旨である。
本件では、甲社の設立登記は平成23年6月14日であり、相談時点である同月20日頃に契約を締結すれば成立後2年以内である。本件機械は甲社の事業に用いる食品加工用の機械であって成立前から存在した事業用財産である。そして甲社の純資産額は設立後数か月の間3000万円を超えることがなかったから、その5分の1は600万円以下である。他方、代金は800万円であり、増額に応じればさらに高額となる。したがって5分の1を超える。
よって、甲社は株主総会の特別決議による承認を得る必要がある。甲社の株主はA(40%)及びB(60%)のみであり、両者の賛成を得れば議決権の3分の2以上の多数による決議が可能である。甲社の設立に協力したA及びBの承認を得た上で、改めて売買契約を締結し、本件機械の引渡しを受けるべきである。
なお、追認を認める見解に立つ場合でも、実質的に事後設立と同様の財産移転が生ずるから、467条1項5号及び309条2項11号を類推して株主総会の特別決議による承認を要すると解すべきである。
第3 設問2
1 原告適格及び提訴期間
Gは、平成28年7月11日の効力発生により、保有する2000株が1株に満たない端数となって乙社の株主たる地位を失う。しかし、本件決議が取り消されれば株主の地位を回復するから、Gは「当該決議の取消しにより株主…となる者」として原告適格を有する(831条1項柱書後段)。また平成28年7月20日は決議の日である同年6月20日から3か月内であり、提訴期間内である。
2 決議方法の定款違反(831条1項1号)
Kは本件持株会理事長Hの代理人として議決権を行使している。株主は代理人によって議決権を行使することができる(310条1項)が、乙社の定款16条は代理人の資格を当会社の他の株主1名に制限している。
判例は、代理人資格を株主に限る定款の定めは、株主総会が株主以外の第三者によって攪乱されることを防止し会社の利益を保護する趣旨に出たものであり、合理的な理由による相当程度の制限として有効であるとしている(最判昭和43年11月1日)。
Kは株主名簿上の株主ではないから、形式的には定款16条に違反する。しかし、Kは本件持株会の発足以来の会員であり、持分に応じて乙社株式を実質的に保有し、その持分に相当する株式を管理の目的でHに信託しているにすぎない。また本件持株会は乙社の従業員20人から成る民法上の組合であって、Kは乙社の従業員である。このような者が議決権を代理行使しても、総会が会社と無関係な第三者によって攪乱されるおそれはなく、前記定款の趣旨に反しない。
したがって、Kによる代理行使は定款16条に違反せず、取消事由とならない。
3 株式併合の理由の説明義務違反(831条1項1号)
会社が株式の併合をするには、株主総会において併合を必要とする理由を説明しなければならない(180条4項)。株主に併合の是非を判断させ、買取請求等の対抗手段を講ずる機会を与える趣旨である。したがって、説明は併合を必要とする真実の理由についてなされなければならない。
本件では、代表取締役Jは、株主への通知等のコスト削減及び将来の資本金減少のために発行済株式総数を減少させる必要があることのみを説明し、乙社を甲社の完全子会社とした上で甲社の支援により経営を立て直すという本来の目的を説明しなかった。しかも3000株を1株に併合するという割合は、コスト削減等の目的に照らして著しく過大であり、説明された理由では到底正当化できない。
これは真実の理由を秘匿した不実の説明であり、180条4項に違反する。よって決議の方法が法令に違反し、取消事由となる。
4 Lに議決権を行使させなかったこと(831条1項1号)
乙社はLの入場を拒否し、議決権を行使させなかった。Lが本件株主総会において議決権を行使できる株主であったかが問題となる。
株式の譲渡は、株主名簿の名義書換えをしなければ会社に対抗することができない(130条1項)。相続による株式の取得にも同項が適用されるかが問題となる。
130条1項は、会社による株主の把握の便宜を図るため、株主の交替を会社に主張するには名簿上の記載を要するとしたものである。しかし相続は被相続人の権利義務を包括的に承継する法律上当然の移転であり、当事者の意思に基づく「株式の譲渡」には当たらない。したがって、相続人は名義書換えを経ずに株式の取得を会社に対抗することができると解する。
本件では、Iは平成27年10月1日に死亡し、唯一の相続人Lが本件株式800株を相続した。したがってLは基準日である平成28年3月31日(定款11条、124条1項)において既に株主であり、本件株主総会において議決権を行使することができる株主であった。Lは同年6月3日に名義書換えも完了している。
よって、Lの入場を拒否して議決権を行使させなかったことは決議の方法の法令違反であり、取消事由となる。
これに対し、Lの議決権は800株分であり、仮に反対票として算入しても、甲社6000株及びH1200株の賛成により議決権の3分の2以上の賛成という要件(180条2項、309条2項4号、定款15条2項)は充たされ、決議の結果に影響しない。もっとも、議決権行使の機会そのものを奪う瑕疵は株主の最も基本的な権利に対する侵害であり、しかも代表取締役Jの指示に基づく意図的なものである。したがって瑕疵が重大でないとはいえず、裁量棄却(831条2項)は認められない。
5 特別利害関係人による著しく不当な決議(831条1項3号)
甲社の代表取締役Cは甲社を代表して本件決議に賛成している。甲社は、本件併合によって乙社を完全子会社とし、経営方針に反対する少数株主を排除するという、他の株主と共通しない個人的利益を得る。したがって甲社は決議について特別の利害関係を有する者に当たる。
そして、本件決議は3000株を1株に併合するというものであり、甲社以外の株主はすべて端数となって地位を失う。その目的は少数株主の締め出しにあり、真実の理由も説明されていない。他方、乙社の経営再建という目的のために少数株主の全面的排除が不可欠であったとはいえない。よって著しく不当な決議であり、取消事由となる。
6 無効事由(109条1項)
Gは、少数株主の締め出しを目的とする株式の併合が株主平等原則(109条1項)に反し決議は無効であると主張することが考えられる。
株式会社は、株主をその有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならない(109条1項)。
しかし、株式の併合は全株主の有する株式に同一の割合で一律に作用するものであり、形式的には株式数に応じた平等な取扱いである。また、端数が生ずる株主の経済的利益は、端数処理(235条)及び反対株主の株式買取請求(182条の4)によって保護されている。
したがって、株主平等原則違反による無効事由は認められず、瑕疵は取消事由にとどまる。
7 結論
Gの主張のうち、180条4項違反、Lの議決権行使の拒否及び831条1項3号に基づく主張はいずれも理由があり、本件決議は取り消される。
第4 設問3
1 端数の処理
株式の併合により1株に満たない端数が生ずるときは、会社は端数の合計数に相当する株式を競売し、その代金を株主に端数に応じて交付しなければならない(235条1項、234条2項)。市場価格のある株式については市場価格による売却が認められ、市場価格のない株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により売却することができる(235条2項、234条2項)。会社自らが買い取ることも許される(234条4項、5項)。
乙社は上場会社ではないから市場価格はなく、裁判所の許可を得た任意売却又は乙社による買取りによることとなる。
これにより、Lの保有する800株に対応する端数の価値は金銭として交付され、Lの経済的利益が一応確保される。もっとも、売却価格が公正な価値を下回るおそれは残る。
2 反対株主の株式買取請求
株式の併合により1株に満たない端数が生ずる場合には、反対株主は、会社に対し、端数となるものの全部を公正な価格で買い取ることを請求することができる(182条の4第1項)。この請求は効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間にしなければならない(同条4項)。会社は効力発生日の20日前までに株主に対し通知又は公告をしなければならない(同条3項)。
乙社は平成28年6月1日に併合に関する事項を公告しているから、同条3項の手続は履践されている。
ここで、182条の4第2項1号は、当該株主総会に先立って株式の併合に反対する旨を会社に通知し、かつ当該株主総会において反対した株主を反対株主とする。
本件では、Lは平成28年6月3日に併合に反対する旨を乙社に通知しているが、本件株主総会への入場を拒否されたため、総会において反対していない。したがって形式的には同号の要件を充たさない。
しかし、前述のとおりLは130条1項の適用を受けず基準日において株主であったのであり、本件株主総会において議決権を行使することができた。にもかかわらず総会で反対できなかったのは、乙社の受付担当者が代表取締役Jの指示に基づき不当に入場を拒否したことによる。自ら株主の権利行使を妨げた乙社が、株主が総会で反対しなかったことを理由に買取請求を拒むことは、信義則(民法1条2項)に反し許されない。
よって、Lは乙社に対し、本件株式800株の全部について公正な価格による買取りを請求することができる。
3 価格の決定
株式買取請求がされた場合、会社と株主との間で価格の協議が行われ、効力発生日から30日以内に協議が成立しないときは、その期間の満了後30日以内に、会社又は株主は裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができる(182条の5第1項、2項)。
これにより、Lは端数処理による売却代金ではなく、裁判所が認定する公正な価格による対価を得ることができ、その経済的利益が実質的に保護される。
4 情報開示
なお、会社は効力発生日の20日前の日から効力発生日後6か月を経過する日までの間、株式の併合に関する事項を記載した書面を本店に備え置かなければならない(182条の2第1項)。乙社は招集通知を発した日にこれを備え置いている。Lはこれを閲覧して買取請求の当否を判断することができ、この事前開示もLの経済的利益の保護に資する。
以上