司法試験 平成26年 商法
問題文
[民事系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3:4:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,食品の製造及び販売等を業とする取締役会設置会社である。平成26年4月の時点における甲社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)は,別紙のとおりである。
2.甲社の創業者であるAには,妻Bとの間に子Cがあり,Bの死亡後に再婚した妻Dとの間に子Eがある。甲社の株主構成としては,Aが300株,Cが50株,Dが100株,Eが50株をそれぞれ有していた。
甲社では,設立当初から,Aが代表取締役として対外的な事業活動を行い,CはAを手伝って事業活動に従事し,Dは資金管理・人事管理等を担当していた。
3.Eは,Cと性格が合わなかったため,甲社で就労することはなく,不動産の販売等を業とする乙株式会社(以下「乙社」という。)の取締役を務めていた。乙社の取締役は,Eのほか,Eの妻Fと乙社の創業者Gの合計3人であり,その代表取締役はGであった。
4.甲社は,平成21年6月,その店舗に隣接してFが所有する狭小な土地(以下「本件土地」という。)があったことから,これを駐車場の用地として取得することとし,Fとの間で,本件土地の売買契約を締結した。その際,売買代金は,本件土地に関する不動産鑑定士の鑑定評価に従い,250万円と定められた。
Fは,上記の売買代金を受領し,甲社に対し本件土地を引き渡したが,本件土地の所有権移転登記手続に必要な書類を交付せず,甲社も,Fに対してその所有権移転登記手続を督促しなかったため,本件土地の登記名義人は,Fのままであった。
5.甲社の売上げは順調に推移し,平成22年頃には,その年商は2億円程度に達した。
これに対し,乙社は,不動産開発のための資金調達に苦労し,不動産販売等の事業展開が低迷した。
Eは,乙社の将来に不安を覚えて転身を考え,Dに相談したところ,Dは,Eに対し,甲社に入社した上でCと接触の少ない部門において勤務することを勧めた。そこで,Eは,平成22年2月,乙社の取締役を辞任し,甲社の総務・企画部長として勤務を開始したが,間もなくして,新規出店の計画立案,店舗用地の調達,金融機関からの資金調達等につき経営手腕を発揮し,頭角を現した。
6.その後,Dは,自らの存命中にEの甲社における地位を強固にすることを望み,Aと相談の上で,平成24年5月20日,自らの取締役の任期が満了する機会に,その後任としてEを取締役の地位に就かせ,さらに,Aのほか,Eも代表取締役の地位に就かせることとした。
Aは,必要な書類を準備して甲社の役員の変更の登記を申請し,その旨の登記がされた。
Aは,Eが甲社の代表取締役に就任することにつき,あらかじめCの了解を得る予定であったが,Cの反発を恐れ,Cに説明をすることができず,また,上記の登記がされた後も,Cに何らの説明をしなかった。A及びDは,当面,引き続きAが代表取締役として活動しつつ,Eに副社長という肩書で対外的に活動することを認めることとした。
7.Eは,将来のAの相続の在り方によっては,その保有株式数に照らして甲社における地位が安定的でないことを懸念していた。
そこで,Dは,平成24年6月,Eが甲社の支配株主となることを目的として,甲社が400株の募集株式を発行し,その全部をEに割り当てることを計画した。Eは,甲社株式の1株当たりの直近の純資産額が10万円である旨の専門家の鑑定評価があったことから,自ら所有する4000万円相当の賃貸用の建物を出資の目的とすることとした。この建物は,必要経費を控除しても,毎年100万円の収益が見込まれるものであった。
Dは,A,C及びEに対し,甲社の将来の運営について相談したい旨を伝え,これらの者が集まった席上で,EをAの後継者としたいこと,及び甲社が400株の募集株式を発行してその全部をEに割り当てたいことを説明し,賛同を求めた。Cは,この提案に反発して直ちに退席し,Aは,時期尚早であるとして態度を保留した。
しかし,Eは,上記の甲社の募集株式の発行(以下「本件株式発行」という。)につき,株主全員の賛成があった旨の株主総会議事録を作成し,甲社に対し上記の出資の履行をした。なお,出資の目的とされた建物に関しては,価額が相当であることについての弁護士の証明及び不動産鑑定士の鑑定評価を受けており,検査役の調査を経ていない。
Eは,必要な書類を準備して甲社の募集株式の発行による変更の登記を申請し,その旨の登記がされた。そして,Dは,A及びCに対し,本件株式発行の計画を断念したなどと,虚偽の事実を述べた。
8.その後,Fは,Eが甲社を代表して金融機関との折衝を行っていたことから,甲社から乙社に対する貸付けにより乙社の不動産開発計画を推進することを計画し,開発した不動産の分譲後に借入金を甲社に返済する旨を説明して,この計画をEに提案した。Eが甲社の運転資金から貸付金を捻出することは難しい旨を述べると,Fは,知人のHが甲社に資金を貸し付けた上で,甲社がその資金を乙社に貸し付けるという方法を提案した。
Eは,平成24年12月,上記のFの提案についてDに相談したところ,Dは, 「既に取締役を退任して資金管理をEに委ねているので,自分が判断すべき事柄ではないが,甲社にはリスクがあるだけでメリットがないので,やめた方がよいのではないか。」と述べた。
Eは,Dの助言に戸惑いつつも,Fの要請に抗し難く,その提案を受け入れることとし,独断で,甲社を代表して,Hから2億円を年10%の利息の約定で借り入れた(以下「本件借入れ」
という。)。本件借入れに先立ち,Eは,Hに対し,甲社の店舗建設のための資金として必要である旨を説明したが,その説明が曖昧であったため,Hから,甲社の事業計画に関する資料等を交付するよう求められていた。もっとも,本件借入れは,Eがこれらの資料等を交付しないまま実行された。
そして,Eは,平成25年1月,独断で,甲社を代表して,乙社に対し上記の2億円を年10%の利息の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。
9.Fは,平成26年3月に死亡し,その全財産をEが相続した。これに伴い,本件土地につき,相続を原因とするEへの所有権移転登記がされた。
10.A及びCは,平成26年4月,本件借入れ及び本件貸付けの事実を知り,その調査を進める中で,上記の一連の経緯が明らかになった。
また,乙社は,不動産開発計画が行き詰まって財務状態が悪化し,その結果,甲社は,本件貸付けに係る金員の返済を受けられないことが確実になった。
〔設問1〕 平成26年4月の時点で,本件株式発行の効力を争うためにCの立場において考えられる主張及びその主張の当否並びに本件株式発行に係る法律関係について,論じなさい。
〔設問2〕 本件借入れの効果が甲社に帰属するかどうかに関し,これを肯定するHの立場とこれを否定する甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
〔設問3〕 CがD及びEに対し株主代表訴訟を提起する場合に,Cの立場において考えられる主張及びその主張の当否について,論じなさい。
別紙履歴事項全部証明書○○県○○市○○一丁目2番3号甲株式会社会社法人等番号 0123-01-123456商 号 甲株式会社本 店 ○○県○○市○○一丁目2番3号公告をする方法 官報に掲載してする。
会社成立の年月日 平成20年6月2日目 的 1.食品の製造及び販売2.不動産の賃貸3.前各号に附帯する事業発行可能株式総数 2000株発行済株式の総数 発行済株式の総数並びに種類及び数 500株発行済株式の総数 平成24年 6月10日変更900株平成24年 6月20日登記資本金の額 金2000万円金4000万円 平成24年 6月10日変更平成24年 6月20日登記株式の譲渡制限に 当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を要する。
関する規定役員に関する事項 取締役 A 平成24年 5月20日重任平成24年 6月 1日登記取締役 C 平成24年 5月20日重任平成24年 6月 1日登記取締役 D 平成24年 5月20日退任平成24年 6月 1日登記取締役 E 平成24年 5月20日就任平成24年 6月 1日登記○○県○○市○○一丁目2番4号 平成24年 5月20日重任代表取締役 A平成24年 6月 1日登記○○県○○市○○五丁目6番7号 平成24年 5月20日就任代表取締役 E平成24年 6月 1日登記監査役 ○○○○ 平成24年 5月20日重任平成24年 6月 1日登記取締役会設置会社 取締役会設置会社に関する事項監査役設置会社に 監査役設置会社関する事項登記記録に関する 設立事項 平成20年 6月 2日登記これは登記簿に記録されている閉鎖されていない事項の全部であることを証明した書面である。
平成26年 4月21日○○地方法務局登記官 法務太郎 公印整理番号 あ987654 * 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,非公開会社である甲社において,適法な選任手続を経ずに代表取締役の就任登記がされた者がした行為に関し,株主総会及び取締役会の適正な手続を経ることなく行われた募集株式の発行の効力(設問1),取締役会の決議を経ることなく,また,権限を濫用して,多額の金銭の借入れを行った場合の甲社への効果の帰属(設問2),一連の行為に関する株主代表訴訟による責任追及の可否及び範囲(設問3)について,事案に即して検討することを求めるものである。
設問1では,新株発行の無効の訴えの提訴期間を経過した後の時点において,瑕疵のある募集株式の発行の効力を争う方法とその法律関係を,事案に即して論ずることが求められる。
本問では,甲社における平成24年6月の本件株式発行については,検査役の調査に代わる弁護士の証明等を受けて現物出資財産の給付が完了しているものの,その時点において,代表取締役として登記されたEは,そもそも取締役としての株主総会の選任決議を欠き,代表取締役としての取締役会の選定決議も欠いており,これらの手続に瑕疵が認められる。また,甲社は,問題文別紙の履歴事項全部証明書によれば,株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定款の定めを有しており,このような非公開会社では,募集株式の発行は,株主割当ての場合を除き,株主総会の特別決議による必要がある(会社法第199条第2項,第201条,第309条第2項第5号)。しかし,甲社においては,全ての株主が会した席上で,400株の募集株式を発行してその全部をEに割り当てることについて,株主に対して賛同を求めた経緯は認められるが,株主のうち,Cはこの提案に反発して退席し,Aも賛成の意思表示はしておらず,招集手続についての瑕疵が治癒されたと評価する余地があるとしても,それを越えて全ての株主が賛成したという事実までは認められない。
この場合に,本問では,平成26年4月の時点では,本件株式発行がされた平成24年6月10日から既に1年を経過した後であるため,新株発行無効の訴えを提起することはできない(会社法第828条第1項第2号括弧書き)。そこで,本件株式発行の効力を争うためには,訴えの提起について期間制限のない新株発行不存在確認の訴え(同法第829条第1号)を提起することの可否が検討されるべきである。
新株発行不存在確認の訴えは,法文上,どのような場合に募集株式の発行が「不存在」であるかが明らかでなく,不存在の意義を解釈により明らかにした上で,本問の事案に即して当てはめることが必要になる。前述のとおり,本件株式発行に関しては,その発行手続について,Eの取締役への選任手続及び代表取締役への選定手続に瑕疵があり,本件株式発行は代表権のないEによって行われたものであること,また,本件株式発行について株主総会の特別決議を欠くことなど,諸手続に重大な瑕疵があり,これらは本件株式発行を不存在と認定する事情として指摘されるべきである。他方,本件株式発行の実体を肯定し得る事情としては,本件株式発行の対価について現物出資財産の給付がされ,登記が完了していることや,代表取締役Aが,Eについて代表取締役として行動することを容認した上で,役員変更の登記申請を行い,Eが「副社長」という肩書で対外的に活動することを認めていたことなどが挙げられる。
なお,本件株式発行の効力について,新株発行不存在確認の訴えを認容する判決が確定した場合の法律関係としては,現物出資財産の返還を含めた原状回復の在り方が問題となるが,新株発行無効の訴え(会社法第839条)と異なり,新株発行不存在確認の訴えについては,遡及効を否定する規定がない。そこで,本問では,現物出資財産に不動産としての収益が生じているため,新株発行無効の訴えについての同法第840条を類推して原状回復の範囲を限定する立場と,新株発行無効の訴えとは異なり,不当利得についての規律(民法第703条,第189条等)の適用による解決を図る立場のいずれかによることが検討されるべきである。他方,新株発行不存在確認の訴えが認容されない場合の法律関係としては,既存株主であるCは,本件株式発行によって持株比率の低下(単独の持株比率が10%から約6%に低下するほか,Aの有する株式数と合わせても発行済株式総数の過半数を占めることができず,会社の支配に及ぼす影響力が低下する。)という損害を受けるので,この損害の賠償を会社法第429条第1項又は不法行為責任に基づき請求することが考えられる。
設問2では,適法な選任手続を経ずに代表取締役の就任登記がされたEが,取締役会の決議を経ることなく,また,権限を濫用して行った本件借入れに関し,その効果が甲社に帰属するかについて,事案に即して適切に論ずることが求められる。
本件借入れに係る借入金の返還請求を主張するHの立場では,①代表権のあるEによる行為であること,②Eに代表権がないとしても,Eは「副社長」という肩書を付されていた点で表見代表取締役についての規定(会社法第354条)を類推適用することができること,③Eに代表権がないとしても,故意に不実の事項を登記した場合の効果(同法第908条第2項)が認められることを,それぞれ主張することが考えられる。これらのうち,②については,Eは使用人にすぎず,取締役の地位にないため,同法第354条を直接適用することはできないが,本問では,A及びDがEに「副社長」の肩書で対外的に活動することを認めていたという経緯があり,「株式会社が…副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合」(同条参照)に該当すると評価して,同条の類推適用を主張することが考えられる。また,③については,Eの選任手続に瑕疵がある関係で,甲社による不実の事項の登記があったと評価できるかが問題となり得るが,代表権のあるAが,自らEの代表取締役への就任登記を申請していることから,甲社により不実の事項の登記がされたものと評価する余地があり,これらの点について事案に即して検討する必要がある。
他方,借入金の返還請求を否定する甲社の立場としては,上記①に対してEの選任手続に瑕疵があることを主張し,上記②③に係る瑕疵についてHに悪意又は重過失があったことを主張するほか,④本件借入れは甲社にとって多額の借財(会社法第362条第4項第2号)に該当するところ,その取締役会の決議を経ておらず,かつ,Hは取締役会の決議を欠いていることを知り又は知ることができたこと,⑤本件借入れは,甲社の事業上の必要性によるものではなく,Eの個人的な思惑によるものである点で,権限濫用行為に該当するところ,Hはこれを知り又は知ることができたことを主張することが考えられる。上記④については,本件借入れが,甲社の年商に匹敵する額であり,1株当たりの純資産額から算出される甲社の純資産の額などに照らしても「多額の借財」に該当すると認められることを,具体的な事実を示して指摘することが求められる。そして,Hが甲社の取締役会の決議を欠いていることにつき,悪意であるとまでは評価することができないとしても,取締役会議事録等の確認をしなかった経緯をどのように評価するかについて,言及されるべきである。上記⑤については,Eは,Hに対し,借入金を私的な使途に充てることを疑わせるような事情を説明してはいないが,使途についての説明が曖昧であったという経緯があり,このような事実関係の下で,Hが権限濫用を知り又は知ることができたといえるか否かにつき,事案に即して論ずることが求められる。
設問3では,Cが株主代表訴訟を提起する場合に関し,Eに対しては,本件借入れ及び本件貸付けの結果甲社に生じた損害に関する任務懈怠責任を追及し,また,Eが相続により承継した本件土地の所有権移転登記義務の履行を請求することができるか,Dに対しては,Eの任務懈怠責任に関連したDのいわゆる監視義務違反の結果甲社に生じた損害に関する任務懈怠責任を追及することができるかについて,それぞれ事案に即して法的問題点を論ずることが求められる。
Eに対する株主代表訴訟においては,まず,Eが適法な取締役選任手続を経ておらず,実体法上は使用人の地位にあるにすぎない点が問題となるが,代表取締役として行動している一連の経緯に照らし,事実上の取締役に該当するなどとして,会社法第423条第1項の類推適用によりEの任務懈怠責任を肯定する余地がある。この場合に,Eの任務懈怠の内容としては,本件借入れによる債務の負担及び本件貸付けによる貸付金の回収不能という具体的な損害と直接の因果関係を認め得るEの任務懈怠が指摘されるべきであり,本件借入れ及び本件貸付けについて,多額の借財及び重要な財産の処分として必要となる取締役会の決議を欠いていることを指摘することも求められる。また,EがFから相続した甲社に対する所有権移転登記義務については,そのような債務も株主代表訴訟の対象とすることが認められるか否かが問題となる。
Eの所有権移転登記義務は,取締役間のなれ合いによる請求の懈怠のおそれがあるという点では,任務懈怠責任と共通の問題点を有しているが,他方,Eが取締役の地位に基づき負担した義務ではなく,相続を原因として承継した債務であること,法律上,甲社がEに対して移転登記請求権を行使することができることは当然としても,この権利を株主代表訴訟によって実現することを認めると,甲社における取引上の裁量的判断を制約することになりかねないが,そのような結論は妥当かなどの観点も踏まえて検討することが求められる。
さらに,Dに対する株主代表訴訟においては,Dの取締役の退任登記はされているが,Eが適法な取締役選任手続を経ていないため,甲社において,A及びCだけでは法律で定められた取締役の員数(会社法第331条第4項)を充たしておらず,任期満了により退任したDがなお取締役としての権利義務を有する地位にあること(同法第346条第1項)を前提に論ずることが必要である。その上で,Dは,Eによる本件借入れ及び本件貸付けに際して,Eからあらかじめ相談を受けながら,「やめた方がよいのではないか。」と述べるだけで,積極的に違法な借入れ及び貸付けの実行を制止するために適切な措置を講じていないが,この点について,損害と因果関係のある任務懈怠として,Dの監視義務違反が認められるか否かを事案に即して検討することが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 本件株式発行の瑕疵
(1)Eは平成24年5月20日付けで取締役及び代表取締役への就任の登記がされているが、Eを取締役に選任する株主総会の決議(会社法329条1項)はなく、Eを代表取締役に選定する取締役会の決議(362条2項3号、3項)もない。登記は権利の発生要件ではないから、Eは取締役でも代表取締役でもなく、実体法上は甲社の総務・企画部長という使用人の地位にあるにすぎない。したがって、本件株式発行は代表権を有しない者が行ったものである。
(2)また、甲社は、その株式を譲渡により取得するには取締役会の承認を要する旨の定款の定めを有するから、公開会社ではない(2条5号)。公開会社でない会社においては、募集株式の発行は、株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合を除き、株主総会の特別決議によって募集事項を定めなければならない(199条2項、309条2項5号)。これは、公開会社でない会社においては株主の持株比率の維持についての利益が重視されるべきことによる。
本件では、DがA、C及びEを集めて本件株式発行について賛同を求めたという経緯はあるが、Cは提案に反発して直ちに退席し、Aは時期尚早であるとして態度を保留した。株主全員が出席して異議なく決議に同意した場合には招集手続の瑕疵は治癒されると解されるが、本件では株主が賛成したという事実自体が存在しない。したがって、本件株式発行は株主総会の特別決議を全く欠く。Eが作成した株主全員の賛成があった旨の株主総会議事録は虚偽のものである。
(3)他方、現物出資については、募集事項として現物出資財産の内容及び価額を定めることを要し(199条1項3号)、原則として検査役の調査を受けなければならない(207条1項)。もっとも、弁護士等が現物出資財産の価額が相当であることを証明した場合には検査役の調査は不要である(207条9項4号)。本件では弁護士の証明及び不動産鑑定士の鑑定評価を受けているから、この点に違法はない。また、1株当たりの純資産額が10万円であることに照らせば、400株に対する4000万円相当の建物の出資は価額としても相当である。
2 本件株式発行の効力を争う方法
株式の発行が効力を生じた後は、その無効は新株発行無効の訴え(828条1項2号)によってのみ主張することができるが、その提訴期間は、公開会社でない会社においては株式の発行の効力が生じた日から1年以内である(同条2項2号)。本件株式発行の効力発生日は平成24年6月10日であるから、平成26年4月の時点では既に1年を経過しており、Cは新株発行無効の訴えを提起することができない。
そこで、Cは、提訴期間の制限がない新株発行不存在確認の訴え(829条1号)を提起することが考えられる。Cは甲社の株主であり、持株比率の低下という不利益を受けるから、確認の利益を有する。
3 「不存在」の意義
829条1号は、株式の発行が存在しないことの確認を求める訴えを定めるが、いかなる場合に発行が「不存在」となるかについて明文の規定はない。
同訴えには提訴期間の制限がなく、不存在を広く認めれば株式の発行によって形成された法律関係の安定が著しく害される。他方、株式の発行の実体が存在しないにもかかわらず、提訴期間の経過により一切これを争えないとすることも不当である。そこで、「不存在」とは、株式の発行の実体が物理的に存在しない場合に限らず、発行手続の瑕疵が著しく重大であって、法律上株式の発行があったと評価することができない場合を含むと解する。その判断にあたっては、①発行主体の権限の欠缺の程度、②法が要求する基本的な手続の欠缺の有無、③払込み又は給付の有無、登記の有無など発行の実体を肯定し得る事情を総合考慮すべきである。
4 本件へのあてはめ
不存在を肯定する事情としては、第一に、本件株式発行は取締役でも代表取締役でもないEが独断で行ったものであって、会社の機関による行為とは評価し難いこと、第二に、公開会社でない甲社において法が要求する株主総会の特別決議を全く欠き、しかもEが虚偽の株主総会議事録を作成してこれを偽装したこと、第三に、発行済株式総数500株に対して400株という大量の株式を特定の者に割り当てるもので、既存株主の持株比率に重大な影響を与えること、第四に、株主であるA及びCは発行の事実を知らされず、Dはかえって計画を断念したと虚偽の事実を述べてこれを隠蔽したことが挙げられる。
他方、実体を肯定し得る事情としては、4000万円相当の建物の現物出資が現実に履行され、価額についても弁護士の証明及び鑑定評価を受けていること、募集株式の発行による変更の登記が完了していること、代表取締役Aが自らEの代表取締役就任の登記を申請し、Eが副社長の肩書で対外的に活動することを認めていたことが挙げられる。
しかし、Aが容認したのはEの対外的な活動であって、これは取引の相手方の保護を基礎づけ得る事情にすぎず、既存株主との関係において会社の意思決定の欠缺を補うものではない。そして、公開会社でない会社における募集株式の発行について株主総会の特別決議は最も基本的かつ本質的な要件であり、これが全く存在せず、しかも虚偽の議事録と虚偽の説明によって株主に対し隠蔽されたという本件の瑕疵は、単なる手続違反の程度を超え、会社としての意思決定が全く存在しないことを意味する。
したがって、本件株式発行は「不存在」であり、Cの新株発行不存在確認の請求は認められる。
5 本件株式発行に係る法律関係
(1)不存在確認の請求が認められる場合
新株発行無効の訴えについては、無効判決に遡及効がなく(839条)、会社は株式を取得した者に対し払込金額に相当する金銭を支払うものとされている(840条1項)。これに対し、新株発行不存在確認の訴えについては、遡及効を否定する規定も原状回復に関する規定も存在しない。
840条を類推して甲社がEに対し払込金額相当額の金銭4000万円を支払えば足りるとする立場も考えられる。しかし、840条は無効判決に遡及効がないことを前提として、既に株主であった者との間の清算方法を定めた規定である。これに対し、不存在の場合には株式の発行が初めから存在しないのであるから、甲社が建物の給付を受けた法律上の原因は全く存在せず、840条を類推する基礎を欠く。
したがって、不当利得に関する規律によるべきである。すなわち、甲社は、法律上の原因なく建物の給付を受けたものであるから、不当利得としてこれを返還しなければならない(民法703条)。甲社としては、Eが虚偽の議事録を作成したという事情を了知していなかったとしても、本件株式発行がEの独断によるものであったことに照らせば、現存利益への限定は認められない。
建物から生じた収益については、占有者が果実を取得できるかという問題となる(民法189条、190条)。もっとも、本件株式発行の不存在の原因を自ら作出したのはEであるから、Eが甲社に対し毎年100万円の収益の返還を請求することは信義則上許されない。したがって、甲社は建物自体を返還すれば足り、不存在確認判決の確定までに収取した収益を返還する必要はない。
(2)不存在確認の請求が認められない場合
本件株式発行が有効であるとすると、Cの持株比率は500株中の50株(10パーセント)から900株中の50株(約5.6パーセント)へと低下し、Aの有する300株と合わせても350株にとどまって発行済株式総数の過半数を占めることができなくなる。Cは、甲社の支配に及ぼす影響力の低下という不利益を受ける。
そこで、Cは、E及びDに対し、役員等の第三者に対する責任(429条1項)又は不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求することが考えられる。429条1項は、役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うとするものであり、Eについては適法に選任された取締役でないから後述の事実上の取締役として類推適用する余地があり、Dについては後述のとおり取締役としての権利義務を有するから適用がある。もっとも、持株比率の低下に伴う株式の価値の減少という損害は、その額の算定が困難であるという問題が残る。
第2 設問2
1 Hの主張① Eが代表権を有すること
Hは、Eが代表取締役として登記されているから代表権を有すると主張することが考えられる。しかし、前述のとおり、Eについては取締役の選任決議も代表取締役の選定決議も存在せず、登記は代表権の発生要件ではない。したがって、Eが代表権を有するという主張は認められない。
2 Hの主張② 354条の類推適用
(1)株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対して責任を負う(354条)。同条は権利外観法理に基づく規定であり、会社側の帰責性として名称使用の許諾又は黙認が必要である。
Eは取締役の地位にないから354条を直接適用することはできない。しかし、同条の趣旨は、会社が代表権を有するものと認められる名称の使用を許諾又は黙認したことによって生じた外観への第三者の信頼を保護する点にあり、当該名称を付された者が取締役であるか使用人であるかは、第三者の信頼という観点からは本質的な差異ではない。したがって、取締役でない者に対し副社長等の名称が付された場合にも、354条を類推適用すべきである。
(2)本件では、A及びDは、Eに副社長という肩書で対外的に活動することを認めており、Eは現に甲社を代表して金融機関との折衝を行っていた。したがって、甲社が「副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合」に当たり、会社側の帰責性も認められる。
(3)もっとも、354条の「善意」の第三者とは、代表権がないことを知らない者をいうが、重大な過失がある者は悪意者と同視して保護の対象から除外すべきである。権利外観法理は、外観を正当に信頼した者を保護する法理であり、著しい不注意によって外観を信頼した者を保護する必要はないからである。
本件では、Hは、Eの借入目的の説明が曖昧であったため甲社の事業計画に関する資料等の交付を求めていたにもかかわらず、これが交付されないまま2億円を貸し付けている。年商2億円程度の会社に対し年商に匹敵する2億円を貸し付けるにあたり、登記事項証明書や取締役会議事録の確認もせず、求めた資料の交付も受けないまま実行したことは、通常の注意を著しく欠くものである。したがってHには重大な過失があり、354条の類推適用による保護は受けられない。
3 Hの主張③ 908条2項の適用
故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない(908条2項)。
本件におけるEの代表取締役就任の登記は、選任決議及び選定決議を欠く点で実体を伴わない不実の登記である。そして、代表取締役であるAが自ら必要な書類を準備してこの登記を申請しているから、甲社が故意又は過失によって不実の事項を登記したものと評価することができる。したがって、甲社はEに代表権がないことをHに対抗することができないのが原則である。
しかし、908条2項の「善意」についても、354条と同様に、重大な過失がある第三者は保護されないと解すべきである。上記のとおりHには重大な過失があるから、この主張も認められない。
4 甲社の主張④ 多額の借財に係る取締役会決議の欠缺
(1)取締役会設置会社においては、多額の借財は取締役会の決議によらなければならない(362条4項2号)。「多額」か否かは、当該借財の額、会社の総資産及び経常利益等に占める割合、借財の目的、従来の取扱い等を総合して判断すべきである。
本件借入れは2億円であり、甲社の年商(2億円程度)に匹敵する額である。1株当たりの純資産額が10万円であることからすれば、甲社の純資産の額は発行済株式総数500株を前提とすれば5000万円、900株を前提としても9000万円であり、資本金の額も2000万円(本件株式発行後は4000万円)にすぎない。したがって、本件借入れは明らかに「多額の借財」に当たる。
Eは独断で本件借入れを行っており、取締役会の決議は存在しない。
(2)代表取締役の代表権は包括的なものであり(349条4項)、これに加えた制限は善意の第三者に対抗することができない(同条5項)。そこで、取締役会の決議を欠く代表取締役の行為も原則として有効であり、相手方が決議を欠くことを知り又は知ることができた場合に限り無効となると解する。これは、会社の内部的意思決定の欠缺という相手方が容易に知り得ない事情によって取引の安全が害されることを防ぐ趣旨である。
本件では、Hは、年商に匹敵する2億円の借入れであれば取締役会の決議を要することを容易に想到できたにもかかわらず、取締役会議事録等を一切確認していない。したがって、Hは取締役会の決議を欠くことを知ることができたといえ、本件借入れは無効であり、その効果は甲社に帰属しない。
5 甲社の主張⑤ 代表権の濫用
代表取締役が、客観的には代表権の範囲内の行為について、自己又は第三者の利益を図る目的でこれを行った場合、相手方が当該目的を知り又は知ることができたときは、その行為の効果は会社に帰属しないと解する(民法107条参照)。
本件借入れは、甲社の店舗建設その他の事業上の必要によるものではなく、Fの要請を受けて乙社の不動産開発計画を推進するためにされたものである。E自身、甲社の運転資金から貸付金を捻出することは難しいと述べており、Dからも甲社にはリスクがあるだけでメリットがないと助言されていた。したがって、本件借入れはEが第三者である乙社及びFの利益を図る目的で行った権限濫用行為である。
Hがこれを知り又は知ることができたかについては、Eが店舗建設のための資金として必要である旨を説明しており、乙社への転貸を疑わせる説明をしていないことからすれば、Hが悪意であったとまではいえない。しかし、その説明は曖昧であり、HはEに事業計画に関する資料等の交付を求めたにもかかわらずこれを受けないまま2億円を貸し付けている。2億円という多額の貸付けにおいて使途に関する客観的資料を一切確認しなかったことは、通常要求される注意を欠くものであるから、Hは権限濫用の事実を知ることができたといえる。
6 結論
Hの主張①は認められず、主張②及び③は要件の一部を満たすものの、Hに重大な過失があるため認められない。他方、甲社の主張④及び⑤はいずれも認められる。したがって、本件借入れの効果は甲社に帰属しない。
第3 設問3
1 株主代表訴訟の要件
Cは甲社株式50株を有する株主である。甲社は公開会社でないから、株式の保有期間の要件は適用されない(847条2項)。Cは、甲社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により責任追及等の訴えの提起を請求し、甲社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは、自ら甲社のために責任追及等の訴えを提起することができる(847条1項、3項)。甲社が訴えを提起しない場合には不提訴理由の通知を請求することもできる(847条4項)。
2 Eに対する責任追及
(1)Eが423条1項の「取締役」に当たるか
Eは適法な選任手続を経ておらず、実体法上は使用人の地位にあるにすぎないから、423条1項の「取締役」に当たらないのが原則である。
しかし、Eは、代表取締役として登記され、副社長の肩書で対外的に活動することを会社から認められ、現に甲社を代表して金融機関との折衝を行い、本件株式発行、本件借入れ及び本件貸付けという重要な業務執行を独断で行っていた。このように実際に会社経営の意思決定及び業務執行を行い、正式な取締役と同様の外観を呈していた者が、自らが関与した選任手続の瑕疵を理由に責任を免れることは著しく衡平に反する。したがって、Eを事実上の取締役として、423条1項を類推適用すべきである。
(2)本件借入れに係る責任
本件借入れは多額の借財(362条4項2号)に当たるにもかかわらず、Eは取締役会の決議を経ることなく独断でこれを行った。これは法令違反であり、任務を怠ったものといえる。
もっとも、設問2で述べたとおり本件借入れの効果が甲社に帰属しないのであれば、甲社は2億円の債務を負担しないから、この点についての損害は生じない。したがって、本件借入れに関する損害賠償責任は、本件借入れの効果が甲社に帰属する場合に、負担した債務2億円及び年10パーセントの利息相当額の損害について問題となる。
(3)本件貸付けに係る責任
2億円の貸付けは、甲社の年商に匹敵する額の金銭を支出して金銭債権を取得する行為であり、重要な財産の処分(362条4項1号)に当たる。Eは取締役会の決議を経ることなく独断でこれを行っており、法令違反の任務懈怠がある。
さらに、Eは、取締役を務めていた乙社が不動産開発のための資金調達に苦労し事業展開が低迷していたことを熟知しており、Dからも甲社にはリスクがあるだけでメリットがないと助言されていた。それにもかかわらず、Eは、Fの要請に抗し難く、乙社の返済能力について何ら調査をせず、無担保で2億円を貸し付けている。これは取締役としての善管注意義務及び忠実義務(330条、民法644条、355条)に違反するものであり、経営判断として許容される範囲を著しく超える。
甲社の損害は、返済を受けられないことが確実となった貸付金2億円及びこれに対する利息相当額である。任務懈怠と損害との間に相当因果関係も認められる。
なお、Eは本件貸付けの時点で乙社の取締役を辞任しているから、本件貸付けが利益相反取引(356条1項)に当たるとはいえないが、Eの妻であるFの提案に応じ、Eが取締役を務めていた乙社の利益を図るためにされたものであることは、忠実義務違反の評価を強める事情である。
(4)本件土地の所有権移転登記義務の履行請求
甲社は平成21年6月にFから本件土地を買い受け、代金250万円を支払い引渡しを受けているが、所有権移転登記を受けていない。Fの死亡によりその全財産をEが相続したから、Eは甲社に対する所有権移転登記義務を承継している。
Cがこの登記義務の履行を株主代表訴訟によって請求できるかが問題となる。取締役が会社に対して負う取引上の債務一般を対象に含めるべきであるとする見解は、取締役間のなれ合いによって会社による権利行使が懈怠されるおそれがあり、株主による是正を認める必要があると説く。本件でも、代表取締役Aが長期間Fに対して登記手続を督促しなかったという経緯があり、懈怠のおそれは現実のものである。
しかし、847条1項の「責任追及等の訴え」は、役員等がその地位に基づいて会社に対して負う責任を追及する訴えを対象とするものであり、Eの登記義務は、Eが取締役の地位に基づき負担したものではなく、売主Fの相続人として承継した取引上の債務にすぎない。このような取引上の債務の履行請求までを株主代表訴訟の対象とすると、債権を行使する時期や方法に関する会社の裁量的判断が広く制約され、かえって会社の利益を害するおそれがある。
したがって、本件土地の所有権移転登記義務の履行請求は株主代表訴訟の対象とならず、Cの主張は認められない。もっとも、長期にわたり登記手続の履行を督促しなかったことについて、Cは代表取締役Aの任務懈怠責任を追及する余地がある。
3 Dに対する責任追及
(1)Dの地位
Dは平成24年5月20日に取締役の任期が満了し、退任の登記がされている。しかし、Eの取締役選任手続には瑕疵があってEは取締役ではないから、甲社の取締役はA及びCの2名にとどまる。取締役会設置会社の取締役は3人以上でなければならない(331条4項)から、甲社は法令で定めた取締役の員数を欠くこととなる。この場合、任期の満了により退任した取締役は、なお取締役としての権利義務を有する(346条1項)。
したがって、Dは平成24年12月の時点において取締役としての権利義務を有し、423条1項の責任を負う。Dがこの地位を認識していなかったとしても、346条1項の地位は法律上当然に生ずるものであるから、責任の成否は左右されない。
(2)監視義務違反
取締役は、取締役会の構成員として他の取締役の職務の執行を監督する権限を有する(362条2項2号)。したがって、取締役会に上程されていない事項についても、他の取締役による違法又は不当な業務執行を知り又は知り得た場合には、取締役会の招集を請求し(366条2項)、取締役会における是正措置を促すべき義務を負う。
本件では、Dは、平成24年12月、Eから本件借入れ及び本件貸付けの計画について相談を受け、「甲社にはリスクがあるだけでメリットがないので、やめた方がよいのではないか。」と述べている。すなわち、Dはこれらの行為が甲社に損害を与えるものであることを明確に認識していた。
それにもかかわらず、Dは、自分が判断すべき事柄ではないとして助言を述べるにとどまり、取締役会の招集を請求してA及びCに事実を報告し、取締役会の決議により実行を阻止するなどの措置を何ら講じていない。しかも、Dは、本件株式発行についてもA及びCに対し計画を断念したと虚偽の事実を述べ、Eによる独断的な業務執行を助長している。
したがって、Dには監視義務に違反する任務懈怠が認められる。Dが取締役会を招集して報告していれば、A及びCはEの独断的な業務執行を阻止することができたといえるから、任務懈怠と甲社に生じた損害(本件貸付けに係る貸付金2億円の回収不能等)との間に相当因果関係も認められる。
(3)よって、Cは、Dに対し、423条1項に基づく損害賠償請求を株主代表訴訟により行うことができる。
以上