司法試験 令和8年 民事訴訟法
問題文
〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、25:35:40])
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和8年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事 例】
1.Xは、電子機器の製造・販売を業とする株式会社である。Xは、同じく電子機器の製造・販売を業とする株式会社であるY1との間で、代金500万円で、Y1が見本市に出品する新製品に使用するための部品である甲をXが製造して、Y1に引き渡す旨の請負契約(以下「本件契約」という。)を締結した。その際、Xと株式会社であるY2との間で、Y1の本件契約の請負代金債務について、Y2が連帯して保証する旨の契約(以下「本件保証契約」という。)
が締結された。
2.甲の製造工程の前半部分は、独自の技術を持つ株式会社であるZがXから請け負い、Xは、Zが製造した甲の原型物に対して、更にX独自の技術を用いて最終的な仕上加工を施して甲を完成した。なお、XとZは、上記各製造工程をそれぞれ別々の工場で行っており、金型や機械設備等を共有していなかった。また、Zが担当する上記製造工程は、部外秘とされているZの他の主力製品の製造工程と共通する部分が多くあるため、同じく部外秘とされていた。
3.Xは、本件契約に基づき、甲を製造してY1に引き渡した。ところが、Y1は、支払期限を経過しても本件契約の請負代金を支払わなかったことから、Xは、弁護士L1に訴訟委任をし、Y1及びY2を共同被告として、Y1に対し本件契約に基づき、Y2に対し本件保証契約に基づき、連帯して500万円を支払うことを求める訴え(以下「本件訴え」という。)を提起し、Y1は、弁護士L2に訴訟委任をした。なお、本件訴えのうち、XのY1に対する訴え(以下、この訴えに係る訴訟を「Y1訴訟」という。)の訴訟物は、請負契約に基づく代金支払請求権であり、Xは訴状において、請求原因として、①XとY1は、本件契約を締結したこと、②Xは、甲を完成したことを主張した。
4.本件訴えに係る訴訟(以下「本件訴訟」という。)の第1回口頭弁論期日において、L1は、訴状を陳述し、L2は、「訴状記載の事実のうち、(ア)XとY1が本件契約を締結したこと、Xが甲を完成したことはいずれも認める。しかし、甲は、Y1が引渡しを受けた直後から度々不具合を起こしたため、Y1は、その旨Xに速やかに通知した上、見本市に間に合わせるためにある修理業者に甲の修理等を依頼したところ、甲には、本件契約で合意した性能が備わっておらず、欠陥があることが判明した。そして、(イ)Y1は、甲の修理費用として500万円を支出したので、Xに対して本件契約の不適合責任に基づく同額の損害賠償債権を有しており、これを自働債権として、本件契約に基づく請負代金債権と対当額で相殺する。」と記載された答弁書を陳述し、請求棄却判決を求めた。
5.他方、XのY2に対する訴え(以下、この訴えに係る訴訟を「Y2訴訟」という。)につき、Y2は訴状、呼出状等の書類の交付送達を受けていたものの、訴訟代理人に委任することなく
本件訴訟の第1回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書等の準備書面も提出しなかった。しかし、裁判所は、Y1訴訟及びY2訴訟のいずれについても、口頭弁論の続行の期日を指定した。
以下は、第 1 回口頭弁論期日終了後にされた、L1と司法修習生Pとの会話である。
P:裁判所が、Y2訴訟につき、第1回口頭弁論期日において、直ちに口頭弁論を分離して、口頭弁論を終結しなかったのは、なぜでしょうか。
L1:Y1訴訟とY2訴訟について実体的に統一した判断をしたかったのかもしれません。ところで、Y2が続行の期日にも欠席した場合においても、Y1とY2について統一的判断をするための理論構成として、どのようなものが考えられますか。
P:本件訴訟の共同訴訟形態は、民事訴訟法(以下「法」という。)第40条の適用を受けない通常共同訴訟であると思いますが、Y1とY2との間で主張共通を肯定する考え方(以下「肯定説」という。)があります。しかし、これを認めることは、弁論主義に反し、許されないのではないでしょうか。
L1:私も、肯定説に立つことには問題があると考えていますが、ここでの中心的な問題点は、弁論主義との関係というよりは、むしろ共同訴訟人独立の原則(法第39条)との関係であると思いますので、この点に焦点を当てて検討しましょう。まず、本件訴訟の共同訴訟形態は通常共同訴訟であるとします。そして、一般的に、肯定説において、主張共通が認められるのがどのような主張であるかを明らかにした上、肯定説を前提とした場合に、前記4(ア)
及び(イ)のY1の各主張につき主張共通が認められるかについて検討してください。これを「課題1」とします。次に、主張共通を否定する考え方(以下「否定説」という。)の根拠及び肯定説の問題点について説明してください。その際には、まず、否定説の根拠について、否定説が共同訴訟人独立の原則の趣旨をどのように考えているのかを踏まえつつ、明らかにしてください。さらに、肯定説の問題点について、前記【事例】の事実関係も踏まえつつ、指摘してください。以上を「課題2」とします。なお、課題1及び課題2について、Y1がY2に当然に補助参加したとする構成は採用しないことを前提に検討してください。
P:承知しました。
〔設問1〕
あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。なお、以下に掲げる【事例(続き・その1)】及び【事例(続き・その2)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。
【事 例(続き・その1)】
6.その後、本件訴訟の第2回口頭弁論期日が開かれたが、Y2は、同期日にも出頭せず、答弁書等の準備書面も提出しなかった。そこで、裁判所は、本件訴訟のうちY2訴訟につき、口頭弁論を分離した上で、口頭弁論を終結し、Y2訴訟の第3回口頭弁論期日において、XのY2に対する請求を全部認容する旨の判決を言い渡し、同判決は、そのまま確定した。
7.Y1訴訟は、第2回口頭弁論期日の後に、弁論準備手続に付され、争点及び証拠の整理が進
められた。その結果、争点は、前記4の損害賠償債権の存否に絞られた。同争点に関し、引渡時における甲の欠陥の有無及びその原因が問題となり、Y1は、前記4の修理業者とのやり取りから、甲の欠陥の原因は、Zが担う製造工程又はXが担う製造工程のいずれかにある可能性が高いが、そのどちらであるかがまだ判然とはしないと主張した。その上で、Y1は、まず、上記修理業者に欠陥の原因の特定を求めたが、直ちには分からないとして回答を得られず、さらに、Xに対して、Xが担う製造工程の作業工程表を 任意に提出するよう 求めたが、Xは、「技術…の秘密」(法第220条第4号ハ、第197条第1項第3号。以下「技術の秘密」という。)に該当するとして提出を拒んだ。また、Y1は、Zに対しても、Zが所持する、甲の原型物の金型に関する設計図面や作業工程表等(以下「本件図面等」という。)を任意に開示するよう求めたが、Zは、これを拒絶した。
8.Y1は、本件図面等について、法第220条第4号を文書提出義務の原因として、その所持者であるZに対する文書提出命令の申立てをした。これに対し、Zは、同申立てに係る審尋期日において、本件図面等に記載された情報は、専らXから請け負った甲の製造のためのものではあるが、前記2のとおり、Zの他の主力製品の製造に用いられる技術を応用したものでもあり、技術の秘密に該当するため、提出義務を負わないと主張した。
以下は、Zから相談を受けた弁護士L3と司法修習生Qとの会話である。
L3:法第197条第1項第3号の「技術又は職業の秘密」の意義については、「その事項が公開されると、当該技術の有する社会的価値が下落しこれによる活動が困難になるもの又は当該職業に深刻な影響を与え以降その遂行が困難になるものをいう」(最高裁判所平成12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁。以下「平成12年判例」という。)
とされています。これらの秘密のうち、職業の秘密については、報道関係者の取材源について、上記の意味での職業の秘密に当たる場合でも、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められるとした最高裁判所の決定(最高裁判所平成18年10月3日第三小法廷決定・民集60巻8号2647頁。以下「平成18年判例」という。)があり、また、金融機関が顧客の財務状況、業務状況等について分析、評価した情報について、保護に値する職業の秘密に当たる場合に限り、それが記載された文書の提出を拒絶することができるとした最高裁判所の決定(最高裁判所平成20年11月25日第三小法廷決定・民集62巻10号2507頁。以下「平成20年判例」という。)もあります。そこでQさん、職業の秘密が保護に値する秘密に該当するかどうかについて、平成18年判例及び平成20年判例が示した判断基準を説明してもらえますか。そして、そのような職業の秘密についての判断基準を踏まえて、技術の秘密が問題となっている本件図面等について、保護に値する秘密が記載されていることを理由に、Zが提出を拒むことができるとする方向で立論してみてください。
以上を「課題1」とします。
Q:承知しました。ところで、本件訴えが提起された後に、L1に対して、本件図面等の写しが渡されていますね。
L3:そうです。Y1から契約不適合責任の主張があったことから、L1からの依頼で、飽くまで本件訴訟の参考資料として、Zの了解を得た上で、私からL1に事実上渡したものです。
Zからは、「本件図面等は、Xには開示しないでほしい」との要請があったことから、その旨を私からL1に伝えており、L1もXもその点を了解しています。もっとも、このL1が所持する本件図面等の写しが文書提出命令の対象になるかどうかについては、検討しておく必要がありそうです。なお、本件図面等にはZの製造工程に関する秘密のみが記載され、Xの製造工程に関する秘密は含まれていません。
Q:L1が所持する本件図面等の写しは、「弁護士…が職務上知り得た事実」が記載されている文書(法第220条第4号ハ及び第197条第1項第2号)に該当するのではないでしょうか。
L3:本件でL1に依頼したのはXですが、弁護士が職務上知り得た事実には依頼者以外の秘密も含まれるという解釈を前提とすると、Qさんが言うとおりですね。ところで法第197条
第1項第2号の「黙秘すべきもの」の意義について、最高裁判所の決定ではどのように述べられていますか。
Q:「黙秘すべきもの」とは、「一般に知られていない事実のうち、弁護士等に事務を行うこと等を依頼した本人が、これを秘匿することについて、単に主観的利益だけではなく、客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう」とされています(最高裁判所平成16年11月26日第二小法廷決定・民集58巻8号2393頁。以下「平成16年判例」という。)。
L3:そうですね。この点に関して、平成16年判例がいう保護に値するような利益を有するものへの該当性判断に当たって、本件図面等に記載された情報そのものは技術の秘密に該当することを考慮すると、課題1で検討した保護に値する秘密の該当性判断の基準と同一の基準で判断すべき、という考え方もありそうですね。
Q:確かにそうですね。しかし、そのような考え方によることについては、法第197条第1項第2号の趣旨と整合しないのではないかという問題もありそうですね。
L3:そうですね。そこでQさん、課題1で説明してもらった保護に値する秘密の該当性の判断基準と、平成16年判例の保護に値するような利益を有するものの該当性の判断基準は同一と解すべきか、それとも異なると解すべきかについて、検討してください。その際、法第197条第1項第2号及び同項第3号の趣旨並びにその異同を踏まえてください。これを「課題2」とします。なお、本件図面等の記載が平成16年判例の保護に値するような利益を有するものに該当するかに関する当てはめは不要です。
Q:承知しました。
〔設問2〕
あなたが司法修習生Qであるとして、L3から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。なお、以下に掲げる【事例(続き・その2)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。
【事 例(続き・その2)】
9.Y1訴訟においては、争点及び証拠の整理手続並びに証拠調べを経て、口頭弁論が終結され
た。そして、裁判所は、本件契約に基づく請負代金債権500万円及びその契約不適合責任に基づく損害賠償債権500万円の存在がいずれも認められると判断した上で、両者が対当額で相殺されたとして、Y1に対する請求を全部棄却する判決を言い渡し、同判決は、そのまま確定した。
10.その後、Xは、Y2に対し、前記6の確定判決を債務名義とする強制執行の準備を進めていたところ、Y2は、弁護士L4に訴訟委任をして、Xを被告として、同債務名義による強制執行の不許を求める請求異議の訴え(民事執行法第35条。以下「本件後訴」という。)を提起した。
11.本件後訴において、Y2は、自分が前訴である本件訴訟において口頭弁論の期日に出頭せず、何らの攻撃防御方法も提出しなかったのは、Y1から「本件訴えについては当方で対処するからY2は何もしなくてよい。」と言われたためであると主張した。そして、「⑴XのY1に対する本件契約の請負代金請求権についてはY1訴訟において請求棄却判決が確定しているから、本件後訴においてY1訴訟の確定判決を援用する。⑵仮に、Y1訴訟の確定判決の援用が認められないとしても、Y1の相殺権の行使により、本件保証契約に基づく保証債務は付従性により消滅するのであるから、そのような相殺による消滅を本件後訴で主張立証することは、Y2訴訟の確定判決の既判力に抵触せず許容される。」と主張した。
以下は、本件後訴の担当裁判官Jと司法修習生Rとの会話である。
J:確定判決に対する請求異議の訴えは、当該確定判決の内容となっている給付請求権について、同判決の既判力の基準時(事実審の口頭弁論終結時をいう。以下同じ。)後の消滅原因等を主張して、強制執行の不許を求める訴えですが、まず、前記11⑴の主張(以下「主張
⑴」という。)が認められるかを検討しましょう。Rさん、本件後訴に類似した事案の判例として、何かありますか。
R:はい。保証人に対する保証債務履行請求を全部認容する判決がされて、同判決が確定した後に、主債務者に対する給付請求につき、主債務の成立が無権代理によりそもそも認められないとの理由で全部棄却する判決がされて、同判決が確定したという事案において、保証人が主債務者勝訴の確定判決があることを請求異議の事由とすることを否定した判例(最高裁判所昭和51年10月21日第一小法廷判決・民集30巻9号903頁。以下「昭和51年判例」という。)があります。この判例は、仮に、主債務者勝訴の確定判決の効果を保証人が援用することができる、すなわち、確定判決の反射的効力(以下「反射効」という。)を肯定し得ると解したとしても、その主債務者勝訴の確定判決が、保証人敗訴の確定判決の基準時までに生じた事実を理由としている以上、保証人が同主債務者勝訴の確定判決をもって請求異議の事由とすることはできないとしたものです。昭和51年判例が反射効を一般的に認めたものかについては争いがありますが、反射効を肯定し得るとしても、それは保証人が既に受けた確定判決の既判力に劣後すると解したものといえるように思われます。
J:そうですね。Y2の主張⑴の当否を検討する際には、昭和51年判例を意識する必要があると思います。そこでRさん、既判力による遮断が必要とされる根拠及び正当化される根拠について簡潔に説明した上で、昭和51年判例のような事案において保証人敗訴の判決確定
後に主債務者勝訴の判決が確定した場合に、仮に反射効を一般には認めたとしても、保証人が主債務者勝訴の確定判決を援用できないとされる理由を説明してください。これを「課題1」とします。なお、反射効を肯定する場合の法律構成については議論がありますが、昭和51年判例のような事案に関する限り、結論としては、保証人による主債務者勝訴の確定判決の援用を否定する見解が有力だと思いますので、仮に反射効を肯定する場合にどのような法律構成を前提とするかについては、検討する必要はありません。
R:承知しました。
J:次に、前記11⑵の主張(以下「主張⑵」という。)についてはどう考えますか。
R:これについては、前訴基準時前にすでに相殺適状にあったにもかかわらず相殺権を行使せずに敗訴した被告が請求異議の訴えを提起した場合に、異議の事由として相殺権の行使の主張を認めた判例(最高裁判所昭和40年4月2日第二小法廷判決・民集19巻3号539頁。
以下「昭和40年判例」という。)があります。
J:そうですね。Y2の主張⑵の当否を検討する際には、昭和51年判例とともに、この昭和40年判例との関係も問題となりそうです。そこでRさん、昭和40年判例と本件後訴の事案の異同、及び昭和51年判例と本件後訴の事案の異同を簡潔に整理した上で、主張⑵の当否について検討し、結論を示してください。その際には、訴訟上の相殺の意思表示をしただけでは、実体法上の相殺の効果はまだ生じておらず、Y2としては、相殺による主債務の消滅そのものをY2訴訟の基準時前に主張することはできなかったこと、そのため、Y2は、本件訴訟において、相殺による主債務の消滅を主張することができたわけではないものの、主債務者の有する相殺権を理由として保証債務の履行を拒む可能性(民法第457条第3項)
があったことを前提としてください。その上で、①本件訴訟においてY2が損害賠償債権の要件を主張立証することが実際上期待できたか、②Y2が主張する、Y2訴訟での自らの応訴の態様とその理由が主張⑵の当否に影響するか、及び③本件訴訟において弁論が分離されたことが主張⑵の当否に影響するか、といった点も考慮するようにしてください。これを「課題2」とします。
R:承知しました。
〔設問3〕
あなたが司法修習生Rであるとして、Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 課題1
(1) 肯定説において主張共通が認められる主張
ア 通常共同訴訟では、共同訴訟人の一人の訴訟行為は他の共同訴訟人に影響を及ぼさないのが原則である(共同訴訟人独立の原則、法39条)。もっとも、共同訴訟人の一人が提出した証拠は援用なくして他の共同訴訟人についても証拠資料となる(証拠共通の原則)ことが認められており、主張についても同様に考え得ないかが問題となる。
イ 肯定説は、共同訴訟人独立の原則は共同訴訟人が他の共同訴訟人の訴訟行為によって不利益を受けることを防止する原則であり、有利な主張の効力を及ぼすことはその趣旨に反しないこと、同一期日で審理される共同訴訟人間で裁判資料が区々となることは統一的判断への期待や訴訟経済に反することを根拠とする。そして、肯定説が主張共通を認めるのは、共同訴訟人の一人がした事実の主張のうち、①その内容が他の共同訴訟人にとっても有利であり、②他の共同訴訟人がこれと抵触する訴訟行為(当該事実を認める陳述等)をしていない場合である。この場合、他の共同訴訟人の援用がなくても、その者についても当該主張がされたものとして扱われる。他方、自白などその者に不利益な陳述の効力を及ぼすことは、肯定説においても認められない。
(2) (ア)の主張について
L2の(ア)の陳述は、本件契約の締結及び甲の完成というY1訴訟の請求原因事実を認めるもので、Y1の裁判上の自白である。これらの事実は、Y2訴訟でも、保証債務の付従性から主債務の発生を基礎付ける請求原因事実であり、Y2にとっても不利益である。したがって、(ア)は他の共同訴訟人に有利な主張ではなく、肯定説によっても主張共通は認められない。Y2は訴状等の交付送達を受けながら第1回期日に出頭せず答弁書も提出していないから、Y2訴訟ではこれらの事実につき擬制自白(法159条3項、1項)が成立し得るにとどまる。
(3) (イ)の主張について
L2の(イ)の陳述は、Y1がXに対し契約不適合責任に基づく500万円の損害賠償債権を有し、これを自働債権として請負代金債権と相殺する旨の相殺の抗弁である。相殺の意思表示そのものはY1の私法上の形成権の行使であって他人に共通し得ないが、Y1が損害賠償債権を有し相殺権を行使したという事実の主張は、これが認められれば主債務である請負代金債権が消滅し保証債務も付従性により消滅する(民法448条1項参照)から、Y2にとって有利な主張である(①)。また、Y2は何らの訴訟行為もしておらず、抵触する行為はない(②)。したがって、肯定説によれば、(イ)の主張はY2訴訟においてもY2の主張として扱われ、主張共通が認められる。その内容は、Y1の相殺による主債務の消滅、ないし主債務者Y1が相殺権を有することを理由とする保証債務の履行拒絶(民法457条3項)の主張となる。
2 課題2
(1) 否定説の根拠
否定説は、共同訴訟人独立の原則の趣旨を、各共同訴訟人の訴訟追行の自主性と独立性の保障と理解する。通常共同訴訟は本来別個に提起し得る複数の訴えが審理の便宜のために併合されたにすぎず、判決の基礎となる事実を主張するか否かは各共同訴訟人の自主的判断に委ねられるべきであり、法39条は、他の共同訴訟人の訴訟行為により有利にも不利にも影響を受けないことを保障した規定である。この理解からすれば、ある共同訴訟人が主張しない事実を他の共同訴訟人の主張によってその者の判決の基礎とすることは、主張しないという自主的判断を無視して訴訟追行の独立性を害し、法39条に反する。また、裁判所は弁論を自由に分離でき(法152条1項)、分離されれば主張共通は観念し得ないから、裁判所の裁量によって裁判資料の範囲が左右されるのは不安定であり、統一的判断の必要があるなら補助参加(法42条)等の制度を利用すべきである。
(2) 肯定説の問題点
ア 第1に、Y2は訴状等の交付送達を受けながら、訴訟代理人を選任せず第1回期日に出頭せず、答弁書も提出していない。Y2は、自らの訴訟を争わず、連帯保証人として保証債務を履行した上でY1に求償する(民法459条)という処理を選択している可能性がある。肯定説によれば、このようなY2の意思にかかわらずY1の相殺の主張がY2訴訟の判決の基礎とされ、Y2の自主的な訴訟追行の自由を害する。
イ 第2に、(イ)の主張の内容は、甲の引渡し直後の不具合、Xへの通知、修理業者への依頼、修理費用500万円の支出という、Y1しか知り得ない具体的事実から成る。主張共通を認めると、Y2が一度も出頭せず何ら立証活動をしないY2訴訟において、裁判所はこれらの事実を審理判断しなければならないこととなり、しかも損害賠償債権の存否についてY1訴訟とY2訴訟で異なる判断がされる危険がある。これを避けるには裁判所は分離を控えざるを得ず、法152条1項の裁量を不当に制約する。本件で裁判所が第1回期日に分離せず続行期日を指定したのはこのためと考えられるが、Y2が続行期日にも欠席すれば、肯定説を貫く限り裁判所は欠席当事者のために審理を引き延ばすことになる。
ウ 第3に、(イ)の相殺の抗弁は(ア)の自白を前提に請負代金債権の成立を認めた上で提出される予備的抗弁であり、(ア)と(イ)は一体の防御方法である。(ア)の主張共通を否定し(イ)のみを認めると、Y2訴訟では請求原因事実につき擬制自白が成立する一方で相殺の抗弁のみが主張されたものと扱われ、Y1の主張の一部を切り取って他の共同訴訟人の裁判資料とすることとなって、共通する主張の範囲が不明確である。
エ 以上から、Y1とY2との間で主張共通を認める肯定説には問題があり、否定説が妥当である。
第2 設問2
1 課題1
(1) 平成18年判例及び平成20年判例の判断基準
法197条1項3号は「技術又は職業の秘密」に関する事項について証言拒絶を認め、法220条4号ハはこれを文書提出義務の除外事由とする。平成18年判例は、取材源が職業の秘密に当たる場合でも保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められるとし、保護に値するか否かは、秘密の公表によって生ずる不利益と証言拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決すべきとした。平成20年判例も、保護に値する職業の秘密に当たる場合に限り提出を拒絶でき、その判断は、当該情報の内容及び性質、開示によって所持者が受ける不利益の程度、文書が提出されないことによって生ずる真実発見及び裁判の公正に対する影響の程度等を比較衡量して行うとした。すなわち、職業の秘密該当性に加え、秘密の性質及び開示による不利益の重大性と当該訴訟における証拠としての必要性との比較衡量により、保護に値する秘密か否かが判断される。
(2) 本件図面等についての立論
ア 技術の秘密も、法197条1項3号が職業の秘密と同列に規定し、秘密保持の利益と真実発見の要請との調整が必要である点は異ならないから、保護に値する秘密に限り提出を拒むことができ、その判断は上記の比較衡量によると解すべきである。
イ 本件図面等は、Zが所持する甲の原型物の金型に関する設計図面及び作業工程表等であり、Zが独自の技術をもって担う製造工程に関する情報である。この工程は部外秘とされるZの他の主力製品の製造工程と共通する部分が多く、本件図面等の情報もその技術を応用したものである。したがって、本件図面等が公開されればZの主力製品の製造技術が競業者に知られ、模倣等により当該技術の社会的価値が下落してZの事業活動が困難になるから、技術の秘密に該当する。
ウ 次に比較衡量する。開示による不利益についてみると、Zは本件訴訟の結果に利害関係を有しない第三者であるにもかかわらず、主力製品に関わる技術の秘密の開示という重大な不利益のみを被る。XとZは製造工程を別々の工場で行い金型や機械設備等を共有しておらず、Zは契約相手方であるXに対してすら本件図面等を開示していない。文書提出命令により本件図面等が訴訟記録に顕出されれば、X及びY1はいずれもZと同じ電子機器の製造・販売を業とする競業者であるから、これらの者に秘密が知られる。民事訴訟法には特許法105条の4のような秘密保持命令の制度がなく、閲覧制限(法92条)によっても当事者への開示は防げないから、一旦開示された秘密は回復不能である。
エ 他方、証拠としての必要性についてみると、Y1訴訟の争点は損害賠償債権の存否であり、引渡時における甲の欠陥の有無とその原因が問題とされているから、欠陥の原因が製造工程にあることが明らかになれば引渡時に欠陥が存在したことの立証に資することは否定できない。しかし、Xは請負人として、Zに担当させた工程を含め完成した甲について契約不適合責任を負うから、原因がZ工程とX工程のいずれにあるかは責任の成否を左右しない。しかも、XはX工程の作業工程表の提出を技術の秘密を理由に拒んでおり、Z工程の図面等だけが開示されても両工程の対比による原因の特定には至らない。甲の欠陥の有無及び内容は、甲そのものの検証、修理業者の証言や修理記録、鑑定等によって立証可能であり、本件図面等によらなければ立証できないものではない。
オ 以上を比較衡量すると、開示によりZが被る不利益は重大かつ回復不能である一方、本件図面等が提出されないことによる真実発見及び裁判の公正への影響は限定的である。したがって、本件図面等には保護に値する秘密が記載されており、Zは法220条4号ハ、197条1項3号によりその提出を拒むことができる。
2 課題2
(1) 法197条1項2号及び3号の趣旨とその異同
法197条1項2号は、弁護士等が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて証言拒絶を認める。その趣旨は、弁護士等の職務が依頼者等からの秘密の開示を前提として成り立つことから、依頼者等が安心して秘密を打ち明けられるよう弁護士等との信頼関係を保護し、職務の適正な遂行を確保する点にある。保護される利益は第一次的には秘密の主体である本人の秘匿の利益であり、本人が黙秘義務を免除すれば証言を拒めない(同条2項)のはこのためである。本件でも、Zは「Xには開示しない」との条件の下で本件図面等の写しをL1に交付したのであり、保護されるのはこの信頼関係である。これに対し、3号は、技術の秘密の公開による社会的価値の下落や職業遂行の困難という秘密保持者自身の不利益を防止する趣旨であり、秘密の内容それ自体の価値を保護する。両者は証言義務の例外である点で共通するが、2号は本人と弁護士等との信頼関係を、3号は秘密の客観的価値を保護する点で異なる。
(2) 判断基準の異同
ア 平成16年判例は、2号の「黙秘すべきもの」を、一般に知られていない事実のうち、本人がこれを秘匿することについて単に主観的利益だけでなく客観的にみて保護に値するような利益を有するものとした。本件図面等の情報は技術の秘密に該当するから、所持者がZかL1かで提出義務の有無が異なるのは不均衡であり、3号と同一の比較衡量によるべきとの考え方もあり得る。しかし、以下の理由から両者の基準は異なると解すべきである。
イ 第1に、3号は秘密の内容自体の価値を保護するから、その価値と真実発見の要請とを直接比較衡量することになじむ。これに対し、2号は本人が弁護士等に秘密を委ねたという関係そのものを保護対象とするのであり、委ねられた秘密が訴訟上の必要性との比較衡量によって開示され得るとすれば、依頼者等は弁護士等に秘密を打ち明けることを躊躇し、2号の趣旨が没却される。
ウ 第2に、平成16年判例が客観的に保護に値する利益を要求した趣旨は、本人が秘匿を望みさえすれば拒絶が認められるとすると例外が過度に広がるため、犯罪の計画など秘匿に正当な利益のない事項を除外する点にあり、これは秘匿利益の客観的合理性という閾値の問題であって、訴訟上の必要性との相関的な比較衡量を予定するものではない。
エ 第3に、2号では本人が義務を免除すれば拒絶権が消滅する(同条2項)から、真実発見との調整は本人の意思を通じて図ることが法の予定するところである。本件でもZが開示に同意すればL1は提出を拒めないのであって、所持者による相違は制度趣旨の違いに基づく当然の帰結であり不均衡とはいえない。
オ したがって、2号の保護に値する利益の該当性は、本人が当該事実を秘匿することについて客観的に合理的な利益を有するか否かにより判断すべきであり、3号における保護に値する秘密の比較衡量とは異なる基準によると解すべきである。
第3 設問3
1 課題1
(1) 既判力による遮断の根拠
既判力とは確定判決の判断内容に与えられる後訴における通用力であり、基準時である事実審口頭弁論終結時における訴訟物たる権利関係の存否の判断に生じる(法114条1項、民事執行法35条2項参照)。当事者は基準時前に存在した事由を主張して前訴の判断を争うことができず、後訴裁判所もこれと矛盾する判断をすることができない(遮断効)。遮断が必要とされる根拠は、確定判決によって解決された紛争の蒸し返しを防止し、勝訴当事者の紛争解決に対する合理的期待を保護して法的安定性を確保する制度的要請にある。これが当事者との関係で正当化される根拠は、当事者には前訴で基準時までに当該事由を主張立証する機会が手続上保障されていたのであるから、これを行使しなかった結果を自己責任として引き受けるべき点にある。
(2) 昭和51年判例の事案で保証人が主債務者勝訴判決を援用できない理由
ア 保証人敗訴の確定判決は、基準時における保証債務の存在を既判力をもって確定している。主債務の不成立(無権代理)は基準時前に存在した事由であり、保証人はその訴訟でこれを主張して争うことができ、その機会が手続上保障されていた以上、主張しなかったことには自己責任が妥当し、遮断効が及ぶ。
イ その後に確定した主債務者勝訴判決は、保証人敗訴判決の基準時前の事実を理由に主債務の不存在を判断したにすぎず、基準時後に新たな消滅原因が生じたものではない。請求異議の事由は基準時後に生じたものに限られる(民事執行法35条2項)ところ、主債務者勝訴判決の確定を基準時後の新事由と捉えることは、遮断された基準時前の事由を判決確定という形式を借りて蒸し返すことを許すものであり、遮断効の制度的根拠に反する。
ウ 反射効は実体法上の依存関係を理由に判決の効力を第三者に及ぼすものであるが、保証人が自ら当事者として手続保障を受け既判力ある敗訴判決を受けている場合には、保証人自身の訴訟における手続保障と自己責任が貫徹されるべきであり、反射効はこれに劣後する。したがって、仮に反射効を一般に認めても、保証人は主債務者勝訴の確定判決を請求異議の事由とすることはできない。
(3) 本件の主張⑴についても、Y2訴訟の確定判決は第2回口頭弁論期日終結時を基準時として保証債務の存在を確定しており、Y1訴訟の確定判決は、第1回期日にされた相殺の意思表示及び基準時前に存在した損害賠償債権を理由に主債務の消滅を判断したものであるから、昭和51年判例と同様、Y2はこれを援用して請求異議の事由とすることはできず、主張⑴は認められない。
2 課題2
(1) 昭和40年判例と本件後訴の異同
昭和40年判例は、前訴被告が基準時前に相殺適状にあった自己の反対債権を行使せずに敗訴した後、請求異議の訴えで相殺権を行使して異議事由とすることを認めた。その理由は、相殺権の行使は訴求債権とは別個の自働債権を処分するものであるから前訴での行使を強制できず、基準時後の相殺の意思表示により初めて債権消滅の効果が生じる点にある。本件後訴と共通するのは、保証債務の消滅原因として相殺が問題となる点である。しかし、同判例では前訴被告自身が自働債権及び相殺権を有していたのに対し、本件で相殺権を有するのは主債務者Y1であり、Y2は主債務者の相殺権を理由に履行を拒み得る地位(民法457条3項)を有するにとどまる。また、本件では相殺の意思表示自体がY2訴訟の基準時前にY1によってされており、基準時後に新たにされたものではない。
(2) 昭和51年判例と本件後訴の異同
昭和51年判例は、保証人敗訴判決確定後に主債務者勝訴判決が確定した点で本件と共通する。しかし、同判例では主債務の不成立という基準時前の事由を保証人自身が直接主張できたのに対し、本件では、訴訟上の相殺の意思表示だけでは実体法上の相殺の効果は生じておらず、相殺による主債務消滅の効果はY1訴訟の判決確定により確定的に生じたから、Y2は主債務の消滅そのものを基準時前に主張することはできなかった。他方で、Y2にはY1の相殺権を理由に履行を拒むという防御方法が基準時前に存在していた。
(3) 主張⑵の当否
ア 主張⑵は、相殺による主債務の消滅はY2訴訟の基準時後の事由であるから既判力に抵触しないとする。確かに、相殺の確定的効果がY1訴訟判決の確定により生じた以上、これを基準時後の事由と捉える余地はある。しかし、遮断効の正当化根拠が手続保障と自己責任にあることからすれば、効果の発生時期の形式のみで判断するのではなく、Y2が基準時前に当該事由に基づく防御を行うことができ、かつそれを期待できたかによって判断すべきである。Y2は基準時前に民法457条3項の履行拒絶の抗弁を主張でき、これが認められればY2訴訟は請求棄却となったのであるから、Y1の相殺権を基礎とする防御方法は基準時前にY2に与えられていた。主張⑵は、実質的にはこの防御を怠った結果をY1訴訟判決の確定という形で蒸し返すものであり、昭和51年判例の趣旨が妥当する。
イ ①Y2が本件訴訟で損害賠償債権の要件を主張立証することが期待できたか。甲の不具合、Xへの通知、修理業者への依頼、修理費用500万円の支出はY1の側の事実であるが、Y2はY1と同業の株式会社で連帯保証を引き受けるほどの関係にあり、Y1から本件訴えへの対処について連絡を受けているから、Y1を通じて資料や修理業者の情報を入手することは容易であった。また、Y1は第1回期日の答弁書で損害賠償債権と相殺を主張しており、Y2が出頭していればその内容を知り得た。民法457条3項の抗弁はY1が相殺権を有する旨を主張すれば足りる。したがって、期待可能性はあった。
ウ ②Y2が主張する応訴の態様とその理由について。Y2はY1から「当方で対処するから何もしなくてよい」と言われたため出頭しなかったと主張する。しかし、通常共同訴訟では各共同訴訟人は独立して訴訟を追行する責任を負い(法39条)、Y1の言葉を信じて自らの訴訟を放置したのはY2自身の訴訟追行上の判断であって、その不利益はY1との内部関係で処理されるべきものである。何ら帰責事由のない勝訴者Xとの関係で、Y2の内部的事情を理由に確定判決の効力を覆すことは、勝訴者の地位の安定という既判力の制度的根拠に反する。この事情は主張⑵の当否に影響しない。
エ ③弁論の分離について。弁論の分離は裁判所の裁量であり(法152条1項)、Y2が2回にわたり欠席し準備書面も提出せず擬制自白が成立する状況で、第2回期日にY2訴訟を分離して終結したことは正当な訴訟運営である。Y2が出頭して民法457条3項の抗弁を主張していれば裁判所は統一的判断のため分離を控えたと考えられ、分離を招いたのはY2自身の欠席であるから、この事情も主張⑵の当否に影響しない。
オ なお、昭和40年判例の趣旨は自己の反対債権の処分を前訴で強制できない点にあるところ、Y2に求められるのは自己の債権の処分ではなく、既にY1が行使した相殺権を理由とする履行拒絶の抗弁の提出にすぎないから、同判例の射程は及ばない。
(4) 結論
以上から、Y2には基準時前にY1の相殺権を理由とする防御を行う機会が保障され、それを行うことが期待できたのであるから、相殺による主債務の消滅を理由とする保証債務消滅の主張はY2訴訟の確定判決の既判力により遮断される。主張⑵は認められず、本件後訴は請求棄却となる。
以上