司法試験 令和5年 民事訴訟法
問題文
(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は、25:35:40])
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事 例】Xは、Yに対して令和3年5月20日に、弁済期を同年11月末日として200万円を貸し渡し、既に弁済期は到来している旨を主張して、令和4年5月9日、Yを被告として200万円の支払を求める訴えを提起した(以下、この訴えの訴訟物の内容をなす貸金債権を「甲債権」といい、この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)。
Yは、第1回口頭弁論期日において、Xの主張を認めた上で、主位的に、甲債権に対しては既に弁済をした旨を主張し、予備的に、Xに対する200万円の売買代金債権(以下「乙債権」という。)により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を提出した。Yは、乙債権の発生原因事実として、令和3年8月4日にXに対して代金200万円で美術品(以下「本件動産」という。)を売却し、同日引き渡した旨を主張し、この売買契約の締結を証明するため、Xがその配偶者Aに対して送った電子メール(以下「本件メール」という。)の内容をプリントアウトしたもの(以下「本件文書」という。)を証拠として提出した。本件メールは、同月5日付けでXから送信されたものであり、Xの健康状態やXA間の子の学業成績に関する相談とともに、念願の本件動産をYから200万円で購入し、引渡しを受けた旨が記載されていた。
Yが、本件文書を入手した経緯は、以下のようなものであった。甲債権及び乙債権に関する紛争(以下「本件紛争」という。)が顕在化した後、その解決のため、Xは、令和4年3月、X宅にYを呼び寄せ、Xの自室において話合いをした。話合いが難航する中、Xは「一旦休憩しよう、コーヒーでも買ってくる。」と述べ、最寄りのコンビニエンスストアまで一人で赴いた。残されたYは、本件紛争は訴訟に発展する可能性も高いと考え、自己に有利な証拠を探す趣旨で、Xの机の上に閉じた状態で置いてあったノートパソコンを開いたところ、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールが閲覧可能な状態になっていることに気付いた。そこで、Yは、自身のUSBメモリにXが送受信した電子メールの全てを保存することとした。保存作業は、Xの帰宅前に終了したため、XがYの行為を認識することはなかった。話合いが終了した後、Yは、自宅において、保存したメールの内容を全て確認し、その結果、自己に有利な本件メールを発見した。本件動産についてのやりとりは全て口頭でなされ、引渡しもYがXに直接交付することによりなされた結果、本件動産の売買の証明に役立つ証拠がなかったことから、Yは、本件紛争が訴訟にまで発展した場合に備えて、本件メールをプリントアウトした。
X及びYは、いずれも弁護士に対して訴訟委任をしていなかったが、第1回口頭弁論期日において、Yが本件文書を提出したことに動揺したXは、本件動産の売買契約締結の事実を否認するにとどめ、同期日終了後に、弁護士L1に訴訟委任をした。
以下は、弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。
L1:Xは、Yが自分と配偶者との間の電子メールを無断で閲覧した上で、本件文書を証拠として提出するのはひどいと憤っています。本件文書の証拠としての利用を阻止することはできるでしょうか。
P:不当な方法で収集された証拠(いわゆる違法収集証拠)については、民事訴訟でも証拠能力が否定されることがあるということは承知していますが、不勉強で、その根拠も判断基準もあやふやです。
L1:そうですか。しかし、情報技術の発達により、本件文書のような証拠が提出される訴訟事件は増えている一方で、技術上の利便性を不当に利用した証拠収集も容易となっています。そのような方法で入手された証拠を事実認定の資料にすることが許されるかどうかは重要な論点となりますから、少し頑張ってもらおうと思います。本件文書の証明力はそれなりにあると考えられるので、ここでは専ら証拠能力の問題を検討してください。具体的には、⒜民事訴訟において、不当な方法で収集された証拠方法の証拠能力が制限される場合があり得ることを前提として、そのような証拠方法の証拠能力が否定される法的根拠を挙げた上、証拠能力の有無を判断する基準を示し、⒝上記⒜の基準に照らして本件文書の証拠能力を判断するとどのような結論に至るかを明らかにすることを「課題」とします。なお、Yの行為は犯罪行為に該当しないことを前提としてください。
〔設問1〕あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下に掲げる【事例(続き)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。
【事 例(続き)】Xは、Yによる電子メールの無断閲覧は許し難いものの、本件動産の売買契約締結の事実自体は争い難いと考えた。そこで、第2回口頭弁論期日において、本件動産の売買契約締結の事実を認めた上、乙債権は既に弁済したとの主張をするとともに、仮に弁済が認められないとしても、Yは、Xの亡父Bからかつて200万円を借りており、Xは令和3年9月に死亡したBの唯一の相続人として、BのYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。)を相続により取得し、同年10月末日に弁済期が到来した旨、丙債権を自働債権、乙債権を受働債権として相殺するとの意思表示を訴訟外でした旨、及び、丙債権と乙債権の相殺適状は、甲債権と乙債権の相殺適状よりも先に生じており、民法第512条の趣旨からも前者の相殺が優先されるべきである旨の主張を追加した。なお、甲債権についてはYの兄Zが保証しており、Zは、第3回口頭弁論期日から、Yを補助するために補助参加をしている。
受訴裁判所は、Xによる丙債権を自働債権とする相殺の意思表示は、訴訟外で既に確定的になされているため、訴訟上許容されると判断した。その上で、受訴裁判所は、証拠調べを実施し、その結果、①甲債権及び乙債権の発生はいずれも争いがなく、丙債権の存在も認められるところ、甲債権及び乙債権の弁済の事実はいずれも認められない、②Yによる相殺の意思表示は、本件訴訟において裁判所により相殺の判断がされることを条件として実体法上の相殺の効果が生ずるものである一方、Xによる相殺の意思表示は、訴訟外で確定的になされていることから、Xによる相殺の意思表示が優先する、③丙債権と乙債権の相殺適状は、甲債権と乙債権の相殺適状よりも先に生じており、XY間に相殺の充当について別段の合意も認められないことから、Xによる相殺の意思表示により、乙債権と丙債権が消滅したとの心証に至り、Xの請求を認容する旨の判決をした。
以下は、弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。
L1:原判決は、相殺の再抗弁を認めてXの請求を認容していますが、Xは、そもそも乙債権についての弁済の事実が認められなかったことに不満があるようです。Xが強く希望しているところですので、控訴を提起します。
P:この場合、控訴審では、審理の範囲は、乙債権の存否に限定されるのでしょうか。仮に、甲債権や丙債権も審理の範囲に含まれるとすれば、かえってXに不利益な結果になる可能性もあるように思います。
L1:良い質問ですね。Xの控訴が適法であり、かつ、Y及びZが控訴も附帯控訴もしていないという仮定の下でも、控訴審の審理の範囲は限定されるものではなく、甲債権や丙債権が審理の範囲に含まれると考えていいでしょう。
そこで、上記仮定の下、甲債権と丙債権が審理の範囲に含まれること、並びに原判決が示した相殺の再抗弁の許容性、相殺の優先順位及び相殺の充当に関する判断には変更がないことを前提として、控訴裁判所が、(ア)甲債権は弁済により消滅した、(イ)甲債権と乙債権はいずれも弁済による消滅はしていないが、丙債権の存在は認められない、(ウ)甲債権は弁済による消滅はしていないが、乙債権は弁済により消滅した、という判断に至った場合のそれぞれについて、どのような判決をすべきことになるか、検討してください。これを「課題」とします。なお、利息又は損害金及び費用についてはないものとし、控訴の利益について検討する必要もありません。
〔設問2〕あなたが司法修習生Pであるとして、L1から与えられた課題について答えなさい。なお、以下に掲げる【事例(続き)】に記載されている事実関係は考慮しなくてよい。
【事 例(続き)】Xのみが控訴を提起し、Y及びZが控訴も附帯控訴もしなかったところ、控訴裁判所は、原判決は正当であるとの判断に基づき、Xの控訴を棄却する旨の判決をした。誰も上告又は上告受理の申立てをしなかったことから、Xの控訴を棄却する旨の判決が確定したため、Xの請求を認容する第一審判決も確定した(以下、本件訴訟に係る確定判決を「前訴確定判決」という。)。
ところで、Zは、XのYに対する請求が認容されることを阻止するため、第一審において、甲債権を保証している旨を主張して、Yを補助するために参加の申出をした。Zの補助参加にはXもYも異議を述べなかったことから、Zは適法に補助参加人として訴訟追行し得ることとなった。
Zは、第一審の第3回口頭弁論期日において、甲債権については、Yからの要請により、Xが債務を免除した事実(以下「免除の事実」という。)を、丙債権については、ZがYに代わってBに対して弁済した事実(以下「弁済の事実」という。)を主張した上で、免除の事実を証明するためにZ自身の証人尋問の申出をした。しかし、Yは、Yが主張する甲債権の弁済時期よりも免除の事実の時期の方が遅かったことから、同期日において、免除の事実はない旨を主張するとともに、Zの証人尋問の申出を撤回した。なお、弁済の事実は、Xにより争われ、証拠調べが実施されたが、第一審、控訴審のいずれにおいても認められなかった。
本件訴訟終了後、Zは、Xから保証債務の履行を迫られたことから、かねて付き合いのある弁護士L2に電話で連絡をとった。L2は、「大変な状況ですね。少し込み入った事件ですので、関連する書類を持って一度事務所においでください。お待ちしています。」と述べ、通話を終了した。
以下は、弁護士L2と司法修習生Qとの間の会話である。
L2:Zの説明によると、XがZに対して保証債務の履行を求めて訴えを提起する可能性があります。その場合、Zとしては甲債権の存在を争うことになると思いますので、XのZに対する上記訴えに係る訴訟手続において、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく何らかの拘束力が作用するか否かが問題になります。そこで、この点を検討してください。これを「課題1」
とします。
Q:承知しました。もっとも、Zとしては、Xに対して任意に保証債務を履行した上で、Yに対して求償することも考えられますね。
L2:そのとおりです。しかし、Yが求償に応じない場合には、ZはYに対して求償の訴えを提起する必要があります。そして、この場合、Yは、求償債務を否定するために甲債権の存在を争うことを考えるでしょう。
Q:そうすると、ここでも、甲債権の存在を認めた前訴確定判決の効力が問題になりますね。
L2:そうです。ただ、この場合は、前訴である本件訴訟の補助参加人が被参加人に対して前訴確定判決を援用するという珍しい構図になっており、このような援用が許されるか、という問題も含んでいそうです。そこで、このような問題があることに留意しつつ、ZのYに対する上記訴えに係る訴訟手続において、前訴確定判決の効力が作用するか否かについて検討してください。これを「課題2」とします。なお、「課題2」については、民事訴訟法第46条の効力以外の効力を検討する必要はありません。
〔設問3〕あなたが司法修習生Qであるとして、L2から与えられた課題1及び課題2について答えなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
本問は、XがYに対し、貸金の返還を求める訴えを提起し(以下、この訴えの訴訟物の内容をなす貸金債権を「甲債権」といい、この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)、これに対し、Yが請求原因事実を認めた上で、主位的に弁済の抗弁を、予備的にXに対する売買代金債権(以下「乙債権」という。)により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を主張したという事案を素材としている。この事案について、①Yが不当な方法で収集した電子メールをプリントアウトしたもの(以下「本件文書」という。)の取調べを申し出た場合において、民事訴訟におけるいわゆる違法収集証拠の証拠能力についての検討(設問1)、②本件訴訟において、更にXが相続により取得したYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。)によって乙債権を相殺したという訴訟外の相殺の再抗弁を主張し、Xの請求を認容する判決に対してXのみが控訴した場合において、不利益変更禁止の原則を踏まえた控訴審の審理・判断についての検討(設問2)、③甲債権の保証人であるZが補助参加した本件訴訟についてXの請求を認容する判決が確定した場合において、その後に提起されたXのZに対する保証債務履行請求訴訟及びZのYに対する求償請求訴訟における、上記確定判決に基づく効力ないし参加的効力について の検討(設問3)をそれぞれ求めるものである。
設問1(a)は、民事訴訟において違法収集証拠の証拠能力が制限される場合があり得ることを前提としつつ、証拠能力を否定する際の法的根拠を挙げて、証拠能力の有無をいかなる基準により判断すべきかを問うものである。民事訴訟法(以下「法」という。)には、違法収集証拠の証拠能力を制限した規定はないが、にもかかわらず違法収集証拠の証拠能力がなぜ無制限には認められないかについては、裁判所が当事者等による証拠の違法な作成・収集を助長するおそれ、公正かつ適正な裁判に対する国民の信頼を損なうおそれ等への配慮があることの指摘が期待される。具体的な事例において違法収集証拠の証拠能力を制限する際の法的根拠及び判断基準については、最高裁判所の判例がいまだ存在せず、様々な学説が提唱されている状況であるから、いかなる見解を採用したかによって評価に差を設けることはない。例えば、下級審裁判例(東京高判昭和52年7月15日判時867号60頁参照)による場合には、人格権の保護を根拠としつつ、当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて取得されたものかどうかを基準とすることが考えられる。また、訴訟上の信義則(法第2条)を根拠とし、証拠収集の手段や態様の違法性、被侵害利益の重大性、証拠の重要性、真実発見の要請等を総合的に考慮して証拠能力の有無を判断する有力説による場合には、判断基準となり得る重要な要素を摘示しつ つ、それらの総合考慮により判断すべきことを指摘する必要があろう。
設問1(b)は、設問の事実関係の下で、(a)において採用した判断基準に照らして本件文書の証拠能力の有無を判断することを求めるものである。証拠収集の手段や態様の違法性等の各要素に該当する具体的な事実の検討は、(a)において採用した判断基準と整合的でない限り、評価されない。例えば、前掲下級審裁判例によるときは、人格権侵害ないし違法性との関係で、証拠収集の手段・態様の違法性、被侵害利益の重大性を検討し、その結果、人格権侵害ないし違法性が肯定される場合でも、他の要素(証拠の重要性、真実発見の要請)に鑑み、違法性が阻却される余地があるかどうかを検討することが考えられる。他方、訴訟上の信義則を根拠とした総合考慮による場合には、上記の各要素に該当する事実を設問の事実関係から抽出した上で、個別にあてはめを行い、総合考慮の結果として、結論を導くことが期待される。
設問2は、相殺の抗弁に対するいわゆる再相殺について、訴訟上の相殺の再抗弁は不適法であるが、訴訟外の相殺の意思表示の主張は適法と解されること(最判平成10年4月30日民集52巻3号930頁参照)を前提として、第1審で訴訟外の再相殺の主張が認められて請求認容判決がされた事案において、Xのみが控訴した場合の控訴審の審理判断の在り方について、具体的な事実関係を基に論じさせるものであり、民事訴訟の基本的な理解を踏まえた論理的思 考力及び論述力を問うものである。
(ア)では、控訴裁判所の心証に従えば、原判決を取り消し、請求を棄却する旨の判決をすることが想定されるところ、この判決が不利益変更禁止の原則(法第304条)に違反するかについて、同原則の趣旨を踏まえ、控訴裁判所の判決が確定した場合と原判決が確定した場合の既判力の比較により検討することが求められる。甲債権の弁済による消滅を理由とする請求棄却判決は、Xにとり不利益変更に当たると解されるから、控訴裁判所は、控訴を棄却する旨を 主文とする判決をするにとどめるべきことになろう。
(イ)においても、控訴裁判所は、原判決を取り消し、請求を棄却する旨の判決をすることが想定される。ここでも不利益変更禁止原則の適用を検討する必要があるが、具体的な事実関係の下で、相殺の判断に係る既判力(法第114条第2項)の検討を含めるべきことを論じた上 で、請求棄却判決がXにとって不利益変更に当たることを指摘することが期待される。
(ウ)では、控訴裁判所も請求認容判決をすることが想定されるものの、乙債権の弁済による消滅により、訴訟外の相殺の主張につき判断が不要となる点を指摘し、原判決の理由中でされていた丙債権による相殺に係る判断が控訴裁判所の判決ではなされないことの帰結について検討することが求められる。訴訟外の相殺の主張の判断に法第114条第2項の適用を認める通説では、丙債権に係る判断につき既判力の範囲に変更が生ずることから、控訴裁判所は、原判 決を取り消し、Xの請求を認容する旨を主文とする判決をすべきことになろう。
設問3の課題1では、甲債権を認めて、XのYに対する請求を認容する旨の判決が確定した後、XがYの補助参加人であったZに対して甲債権に係る保証債務の履行を請求したという場合において、XY間の確定判決が、XのZに対する保証債務履行請求訴訟において何らかの拘束力を及ぼすかを問うものである。確定判決の拘束力としては様々なものを想定し得ることから、それらを広く取り上げた上で、それぞれの拘束力について十分に検討をすることが期待される。一例を挙げるならば、通説の立場から、Zは、法第115条により既判力の拡張を受ける者ではないこと、法第46条の効力は、参加人と被参加人との間の敗訴責任の共同分担という根拠から認められる特別な効力であって、参加人と相手方との間に生ずることは想定されないことを論じた上で、さらに、争点効又は法第2条に基づく信義則上の拘束力の作用を認め得 るか、を論ずることが考えられる。
設問3の課題2は、XのYに対する請求認容判決の確定後、保証債務を履行したZがYに対して求償請求訴訟を提起した場合に、XのYに対する請求認容判決に係る法第46条の効力をZが援用し得るか、という点を問うものである。補助参加人による被参加人に対する同条の効力の援用が、同条の根拠から正当化し得るか、という点を、同条自体は、被参加人から補助参加人に対して同条の効力を援用する場合を想定していることを踏まえて論ずることが期待される。例えば、法第46条の根拠を敗訴責任の共同分担と捉える立場からは、補助参加人から被参加人に対して同条の効力を援用することは認められてしかるべきであると論ずることが考えられるが、このように論ずる場合には、同条が被参加人から補助参加人への援用を想定してい ることとの整合性をどうつけるかについても一定の説明が求められよう。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 課題⒜(証拠能力が否定される法的根拠及び判断基準)
⑴ 民事訴訟法には、不当な方法で収集された証拠(違法収集証拠)の証拠能力を制限する規定はない。民事訴訟においては、自由心証主義(247条)の下、事実認定の資料となり得るものは広く証拠として許容されるのが原則であり、真実発見の要請からも、証拠能力は原則として制限されない。
⑵ もっとも、違法収集証拠の証拠能力が無制限に認められるとすれば、次の弊害が生ずる。
第一に、違法に収集された証拠であっても訴訟において利用できるとすれば、裁判所が当事者による証拠の違法な作成・収集を助長することになる。第二に、違法な手段によって得られた証拠に基づく判決は、公正かつ適正な裁判に対する国民の信頼を損なう。第三に、証拠収集の過程で侵害された人格権等の実体法上の権利が、訴訟手続において事後的に是認される結果となり、その保護が無意味となる。
そこで、法的根拠としては、民事訴訟の当事者が信義に従い誠実に訴訟を追行すべき義務を負うこと(2条)、及び人格権の保護(憲法13条)に求められる。すなわち、著しく反社会的な手段を用いて人格権を侵害して収集された証拠を訴訟に用いることは、訴訟上の信義則に反し許されないと解する。
⑶ そして、証拠能力の有無は、①証拠収集の手段・態様の違法性の程度、②収集行為によって侵害された利益の重大性、③当該証拠が訴訟において有する重要性及び代替証拠の有無、④真実発見の要請等を総合的に考慮して判断すべきである。真実発見の要請と人格権の保護の要請は、いずれも一方的に優先するものではなく、具体的な事案に即した衡量を要するからである。
2 課題⒝(本件文書の証拠能力)
⑴ まず、証拠収集の手段・態様の違法性について検討する。
Yは、本件紛争の解決のための話合いのためにX宅のXの自室に招かれたにすぎない。それにもかかわらず、Yは、Xがコーヒーを買うため一人で外出した機会に乗じて、Xの机の上に閉じた状態で置いてあったノートパソコンを無断で開き、Xがプライベートで利用しているアカウントのメールを閲覧した上、自己のUSBメモリにXが送受信した電子メールの全てを保存した。
閉じた状態で置かれていたパソコンを開くという行為は、その内容を他人に見られることを拒むXの明示の意思に反することが明らかであり、偶然目に入ったものを記憶したというものではなく、自己に有利な証拠を探す趣旨で意図的に行われた積極的な探索行為である。しかも、本件紛争に関係するメールに限らず、送受信した電子メールの全てを無差別に複製し、自宅において全ての内容を確認している。これは、必要最小限度を大きく超える侵害行為である。
加えて、Yは保存作業をXの帰宅前に終えており、XがYの行為を認識することはなかった。Xに事後的に異議を述べる機会すら与えられていない。
⑵ 次に、侵害された利益の重大性について検討する。
電子メールは、特定の相手方との間の私的な通信であり、その内容は通信の秘密として保護される(憲法21条2項)。本件メールは、Xがその配偶者Aに対して送ったものであり、Xの健康状態やXA間の子の学業成績に関する相談が記載されている。これらは、X及びその家族の私生活の核心に属する高度のプライバシー情報であり、夫婦間の通信という最も秘密性の高い領域に属する。Yは、本件メールのみならずXが送受信したメールの全てを閲読したのであるから、侵害された利益はきわめて重大である。
⑶ 他方で、本件文書の重要性及び真実発見の要請を検討する。
本件文書は、乙債権の発生原因事実である本件動産の売買契約の締結を証明する証拠であり、Yの相殺の抗弁の成否を左右する中核的な証拠である。そして、本件動産についてのやりとりは全て口頭でなされ、引渡しもYがXに直接交付することによりなされたため、他に売買の証明に役立つ証拠が存在しない。本件文書の証明力はそれなりにあると考えられるから、これを排除すればYは乙債権の立証手段を失い、真実に反する判決がされるおそれがある。
⑷ 以上を総合して考慮する。
確かにYの立証の必要性は高い。しかし、代替証拠が存在しないのは、Yが契約書等の書面を作成しなかったというY自身の事情に起因するものであって、これをもってXの重大なプライバシー侵害を正当化することはできない。また、Yの行為は、本件紛争が訴訟に発展する可能性が高いと考えて自己に有利な証拠を探す目的でされたものであり、まさに訴訟における利用を目的とした計画的な侵害である。このような証拠収集を是認すれば、当事者が相手方の私的領域を無断で探索することを訴訟制度が助長することになり、公正かつ適正な裁判に対する国民の信頼を著しく損なう。
なお、Yの行為が犯罪行為に該当しないことは前提とされているが、犯罪に当たらないことは直ちに違法性を否定するものではなく、上記の人格権侵害の重大性に照らせば、著しく反社会的な手段による収集と評価すべきである。
⑸ よって、本件文書の証拠能力は否定され、Xは本件文書の証拠としての利用を阻止することができる。
第2 設問2
1 前提となる原判決の既判力
確定判決は、主文に包含するものに限り既判力を有する(114条1項)。また、相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する(同条2項)。同項の趣旨は、相殺の抗弁が認められれば自働債権が消滅し、認められなければ自働債権が存在しないことになるのに、これに既判力が生じないとすると、同一の債権について再度の訴訟を許し、紛争の蒸し返しとなるからである。
原判決は、甲債権の存在を認め、Yの乙債権による相殺の抗弁については、Xの丙債権による訴訟外の相殺によって乙債権が消滅したとしてこれを排斥し、請求を認容した。したがって、原判決が確定した場合の既判力は、①甲債権200万円の存在(114条1項)、②相殺に供された乙債権の不存在(同条2項)、③相殺に供された丙債権の不存在(同項)に及ぶ。訴訟外の相殺の意思表示の主張についても、相殺に供された債権の帰趨を確定する必要は訴訟上の相殺と同様であるから、同項が適用されると解する。
2 不利益変更禁止の原則
控訴裁判所は、第一審判決の取消し及び変更を、不服申立ての限度においてのみすることができる(304条)。その趣旨は、審判の範囲の設定を当事者に委ねる処分権主義が控訴審においても妥当することにあり、控訴人のみが控訴し被控訴人が附帯控訴をしない場合には、原判決より控訴人に不利益な変更を加えることはできない。
そして、控訴人に不利益か否かは、控訴審判決が確定した場合と原判決が確定した場合とを比較し、既判力の範囲において控訴人にとっていずれが不利益かによって判断する。
3 ⒜の場合(甲債権は弁済により消滅した)
この場合、控訴裁判所の心証に従えば、原判決を取り消してXの請求を棄却することになる。
しかし、請求棄却判決が確定すれば、Xは甲債権200万円が存在しないという既判力ある判断を受け、Yから200万円の支払を受けられなくなる。これに対し、原判決が確定すれば、Xは甲債権200万円の存在について既判力ある判断を得て、Yから200万円を回収することができる。
請求を認容する原判決から請求を棄却する判決への変更は、原告であるXにとって明らかに不利益である。また、Xの不服は乙債権が弁済により消滅していないと判断された点にあるのであり、甲債権を否定することを求めるものではないから、不服申立ての限度を超える。
よって、控訴裁判所は、原判決を取り消すことはできず、Xの控訴を棄却する旨を主文とする判決をするにとどめるべきである。
4 ⒝の場合(甲債権及び乙債権の弁済による消滅はないが、丙債権の存在が認められない)
この場合、丙債権が存在しないのであるからXの再相殺の主張は認められず、Yの乙債権による相殺の抗弁が認められる結果、甲債権は相殺により消滅する。したがって心証に従えば、原判決を取り消して請求を棄却することになる。
ここで既判力を比較する。控訴審判決が確定した場合、①甲債権の不存在(114条1項)、②相殺に供された乙債権の不存在(同条2項。相殺により消滅した結果である)、③相殺に供された丙債権の不存在(同項。存在しないと判断された結果である)に既判力が生ずる。他方、原判決が確定した場合は、前述のとおり①甲債権の存在、②乙債権の不存在、③丙債権の不存在に既判力が生ずる。
両者を比較すると、乙債権及び丙債権についての既判力の内容は同一であり、異なるのは甲債権について存在が確定されるか不存在が確定されるかという点のみである。したがって、請求棄却判決はXにとって200万円の回収可能性を失わせるものであり、不利益変更に当たる。
よって、この場合も控訴裁判所は、Xの控訴を棄却する旨を主文とする判決をすべきである。
5 ⒞の場合(甲債権は弁済による消滅をしていないが、乙債権は弁済により消滅した)
この場合、乙債権が弁済により消滅しているから、Yの相殺の抗弁は自働債権を欠き、それ自体として理由がない。そうすると、Xの丙債権による訴訟外の相殺の再抗弁について判断する必要はなくなる。結論として、控訴裁判所も甲債権の存在を認めて請求を認容することになり、主文は原判決と同一である。
しかし、既判力の範囲は異なる。控訴審判決が確定した場合、①甲債権の存在(114条1項)及び②相殺に供された乙債権の不存在(同条2項)に既判力が生ずるが、丙債権については判断がされないから、丙債権の不存在について既判力は生じない。すなわち、Xは丙債権200万円を保持したまま甲債権200万円を回収できる。これに対し、原判決が確定すれば、丙債権の不存在について既判力が生じ、Xは丙債権を失う。
したがって、控訴審の判断内容は、Xにとって原判決よりも有利である。Xの不服は、まさに乙債権が弁済により消滅していないと判断され、その結果として丙債権が相殺に供されて失われた点にあるのであるから、この変更はXの不服申立ての範囲内の利益変更であり、304条に反しない。
そして、主文が同一であるからといって控訴を棄却すれば、丙債権の不存在という既判力を伴う原判決がそのまま確定し、Xの不服は何ら救済されない。
よって、控訴裁判所は、原判決を取り消し、改めてXの請求を認容する旨を主文とする判決をすべきである。
第3 設問3
1 課題1(XのZに対する保証債務履行請求訴訟)
⑴ 既判力について
既判力は、当事者、当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人、これらの者の口頭弁論終結後の承継人及び請求の目的物の所持者に及ぶ(115条1項各号)。
補助参加人は、自己の名において判決を求める者ではなく、当事者ではない。Zは、本件訴訟の当事者ではなく、Yが他人のために被告となった場合のその他人でもなく、口頭弁論終結後の承継人でもない。また、保証債務は主債務とは別個の債務であり、保証債務履行請求権は前訴の訴訟物と異なる。
したがって、前訴確定判決の既判力はZに及ばない。
⑵ 46条の効力について
補助参加に係る訴訟の裁判は、一定の例外を除き、補助参加人に対してもその効力を有する(46条)。この参加的効力は、既判力と異なり、判決主文の判断のみならず判決理由中の判断にも及ぶ。
もっとも、その根拠は、補助参加人が被参加人と協同して訴訟を追行したのであるから、敗訴の責任を共同して分担すべきであるという点にある。したがって、この効力は参加人と被参加人との間に生ずるものであって、参加人と相手方との間に生ずることは想定されていない。
よって、Xは、ZとYとの間の関係を規律する46条の効力を、自己とZとの間で援用することはできない。
⑶ 争点効について
争点効とは、前訴において当事者が主要な争点として争い、裁判所がこれを審理して下した判断に生ずる通用力であって、後訴において当事者がこれと矛盾する主張立証をすることを許さない効力をいうとされる。
しかし、114条1項が既判力の範囲を判決主文に包含するものに限定したのは、当事者が判決理由中の判断についてまで拘束されることを予期せず、訴訟活動の重点の置き方を誤るおそれがあることを考慮したものである。明文の根拠なく理由中の判断に拘束力を認めることは、この趣旨に反する。判例も争点効を否定している。
したがって、争点効を認めることはできない。
⑷ 信義則上の拘束力について
もっとも、判例は、前訴と後訴の関係、当事者の訴訟上の行動等に照らし、後訴における特定の主張が実質的に紛争の蒸し返しとなるなど信義に反すると認められる場合には、これを許さないとしている(2条)。
本件では、Zは、甲債権を保証している旨を主張して補助参加の申出をし、異議なく適法に補助参加人として訴訟追行し、第3回口頭弁論期日から参加していた。Zは甲債権の存否について現実に争う機会を与えられていたといえる。
しかし、Zは、免除の事実を主張し、これを証明するため自ら証人尋問の申出までしたにもかかわらず、被参加人であるYは、同期日において免除の事実はない旨を主張し、Zの証人尋問の申出を撤回した。補助参加人の訴訟行為は被参加人の訴訟行為と抵触する限りその効力を有しないから(45条2項)、Zの主張及び証拠の申出は効力を失ったことになる。すなわちZは、自己の主張立証を貫徹する機会を実質的に奪われていた。
そうすると、Zが後訴において甲債権の存在、特に免除による消滅を主張することは、紛争の蒸し返しとは評価できず、信義則に反しない。
⑸ 以上より、XのZに対する保証債務履行請求訴訟において、前訴確定判決に基づく拘束力は作用せず、Zは甲債権の存在を争うことができる。
2 課題2(ZのYに対する求償請求訴訟)
⑴ Zは、Yのために補助参加をした者であり、Yは本件訴訟において敗訴している。そこで、Zは、前訴確定判決の理由中の判断、すなわち甲債権が発生し弁済によって消滅していないという判断について、46条の効力をYに対して援用することが考えられる。
⑵ もっとも、46条は、「補助参加に係る訴訟の裁判は、……補助参加人に対してもその効力を有する」と規定しており、文言上、被参加人から補助参加人に対して参加的効力を援用する場合を想定している。そこで、本件のように補助参加人から被参加人に対して援用することが許されるかが問題となる。
⑶ これを認めるべきである。
第一に、46条の根拠は、補助参加人と被参加人とが協同して訴訟を追行したことによる敗訴責任の共同分担にある。敗訴の責任を共同して分担すべきであるという関係は、両者の間で相互的なものであって、一方のみが拘束され他方が自由に前訴の判断を争えるとするのは著しく不公平である。
第二に、46条各号は、補助参加について参加を許さない裁判が確定した場合、補助参加人が45条1項ただし書により訴訟行為をすることができなかった場合、被参加人が補助参加人の訴訟行為を妨げた場合、被参加人が補助参加人がすることができない訴訟行為を故意又は過失によってしなかった場合を除外事由とする。これらは、いずれも補助参加人が十分な訴訟追行をすることができなかった場合に参加的効力を否定する趣旨であり、補助参加人の手続保障に配慮した規定である。これに対し、被参加人は、自ら当事者として完全な訴訟追行権を有していたのであるから、前訴の判断に拘束されても手続保障に欠けるところはない。したがって、被参加人を拘束することには何ら不都合がない。
第三に、46条が被参加人からの援用を規定したのは、被参加人が敗訴した場合に参加人に責任を分担させるという典型的な場面を想定したにすぎず、参加人からの援用を積極的に排除する趣旨ではないと解される。
よって、46条の効力は参加人と被参加人との間において双面的に生ずるものであり、Zは同条の効力をYに対して援用することができる。
⑷ そして、Zが援用しようとするのは、甲債権が発生し、Yの主張する弁済によっては消滅していないという判断である。この点は、Y自身が主位的に弁済の抗弁を主張し、当事者として主張立証を尽くした上で排斥された事項である。Yが自ら争って敗れた判断に拘束されることは、敗訴責任の共同分担の趣旨にまさに適合する。
なお、免除の事実に関する判断については、前述のとおりYがZの訴訟行為を妨げているから、46条3号の除外事由に当たり、Zに対して効力を有しない。しかし、Yは自らの妨害行為を理由として除外事由を援用することはできないから、Yは甲債権の存在についての判断に拘束される。
⑸ 以上より、ZのYに対する求償請求訴訟において、Zは46条の効力を援用することができ、Yは甲債権の存在を争うことができない。
以上