司法試験 平成30年 民事訴訟法
問題文
[民事系科目]〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,40:30:30])
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
なお,損害賠償債務の履行遅滞による損害金(いわゆる遅延損害金)の請求については問題にしないものとする。
また,本問に現れる場所のうち,甲市は甲地方裁判所(以下「甲地裁」という。)の管轄区域内に,乙市は乙地方裁判所(以下「乙地裁」という。)の管轄区域内にそれぞれ所在している。解答に当たっては,甲地裁及び乙地裁のいずれもが本問に現れる訴えの土地管轄及び事物管轄を有することを前提にすること。
【事 例】A,B及びCはいずれも自然人であり,AとCは甲市内に住所を有し,Bは個人タクシー事業者で,乙市内に住所兼営業所を有する。
Aは,乙市内でBが運転するタクシーに乗客として乗車していたところ,BのタクシーとCが運転する自動車とが衝突する事故(以下「本件事故」という。)が起こり,これによって負傷した。
Aは,本件事故後直ちに乙市内で応急措置を受けた後,D法人が甲市内に開設する病院に入院して治療を受け,退院後もこの病院に通院して治療を受けた(以下,この病院を「D病院」といい,D法人を「D」という。)。
以上の事実については,A,B及びCの相互間に争いがない。
Aの負傷について症状が固定した後,Aは,弁護士L1を代理人として,B及びCと損害賠償について話合いをした。その中で,Bは「BとCの過失によって本件事故が発生した」との認識を示したが,Cは「本件事故は専らBの過失によって発生したものであり,Cには過失がないのでCは損害賠償責任を負わない」と主張した。また,損害の額について,Aは,400万円を下回らないと主張したが,BとCはいずれも,「AがDに支払ったと主張する治療費が負傷との関係で高額過ぎるし,本件事故によってAが主張するような後遺症が生ずるはずがないので,損害額はせいぜい150万円である」と主張したため,話合いがつかない状況であった。
そこで,Bは,訴訟で解決するしかないと考え,弁護士L2に債務不存在確認訴訟を委任することにした。これを受けたL2は,Bの訴訟代理人として,Bを原告,Aを被告として次のような内容の訴状を乙地裁に提出して訴えを提起した(以下「Bの訴え」という。)。
①請求の趣旨:「本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務は150万円を超えないことを確認する」との判決を求める。
②請求の原因の要旨:本件事故はBとCによるAに対する共同不法行為に当たるが,本件事故によって発生したAの損害の金額は,高く見積もっても150万円である。ところが,Aは損害額が400万円を下回らないと主張して譲歩しようとしない。よって,Bは,Aとの間で,本件事故に係る不法行為に基づく損害賠償債務が150万円を超えないことの確認を求める。
Aは,この訴状の副本等の送達を受けたため,L1に,Bの訴えに対応するとともに,Aを原告として,B及びCに対して400万円の損害賠償を請求する訴えを提起することを委任した。
以下は,Aの委任を受けた弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。
L1:BはBの過失を争っていませんが,CはCの過失を争っています。Aの損害額については,入院及び通院中の治療費その他の費用,これらの期間の逸失利益,後遺症による逸失利益及び慰謝料等が考えられます。治療費等の領収証,後遺症についての医師の診断書,Aの年収の資料等もありますので,損害額については,400万円を主張することができると考えています。
P:そうすると,Bの主張する150万円の損害というのは低すぎますので,AからBに対して400万円の支払を求めていくことになりそうですし,Cは自ら賠償をする気が全くないようですから,Cに対してもBと連帯して400万円を支払うよう求めていくのがよいですね。Aが起こす訴えの訴訟物は,不法行為に基づく損害賠償請求権でよいでしょうか。
L1:訴訟物に関しては,AB間では債務不履行に基づく損害賠償請求権も想定できますが,BとCの共同不法行為を前提に,不法行為に基づく損害賠償請求権のみを主張することにしましょう。訴えを起こす裁判所としては,甲地裁と乙地裁が考えられます。また,AはCをも被告として訴えを提起することになりますので,BとCを共同被告として訴えを提起することを検討すべきです。
P:Bの訴えが既に提起されて訴状がAに送達されたこととの関係で,Aが提起する訴えの適法性については検討を要するのではないでしょうか。
L1:そのとおりです。では,まず,AがBを被告として乙地裁に訴えを提起する場合に,訴えが適法といえるか,また,その場合に,Aは,CをもBと共同被告とすることができるか。いずれも適法であるとの方向で立論を工夫してください。これらを「課題⑴」とします。
P:分かりました。
L1:しかし,AとCは甲市に住んでいて私の事務所も甲市にあるので,費用や時間の点から,甲地裁に訴えを提起して訴訟追行ができるかも考えておきたいところです。AがBとCを共同被告とする訴えを甲地裁に提起する場合に,この訴えが適法といえるか。これも,この訴えが適法であるという方向で,説得力のある立論をしてください。これを「課題⑵」とします。
P:分かりました。
L1:これらの課題に答えるためには,まず,Bの訴えの訴訟物を明示して,それが,Aが起こそうとしている訴えの適法性にどのように関わってくるのかを考える必要があります。
〔設問1〕あなたが司法修習生Pであるとして,L1から与えられた課題⑴及び課題⑵に答えなさい。
【事 例(続き)】弁護士L1は,Aと相談した上,原告Aの訴訟代理人として,B及びCを被告とし,本件事故がBとCの共同不法行為であると主張して,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき400万円の支払を求める訴え(以下「Aの訴え」という。)を甲地裁に提起し,その訴状の副本等はB及びCに送達された。
その後に乙地裁で開かれたBの訴えについての第1回口頭弁論期日において,Bの訴訟代理人L2は,Bの訴えを取り下げる旨を陳述し,Aの訴訟代理人として同期日に出頭したL1は,この訴え取下げに同意する旨陳述した。
そこで,その後,本件事故については,甲地裁において,Aの訴えのみが審理の対象となった。
Aの訴えについての審理の過程で,Bは,「Bの過失によって本件事故が発生したことを争わないが,Cにも過失がある。また,Aに生じた損害額は150万円以下である」と主張し,Cは「本件事故は専らBの過失によって生じたものであって,Cに過失はない。仮にCが責任を負うとしても,Aに生じた損害額は150万円以下である」と主張した。
Aの訴訟代理人L1は,B及びCとの間で争いのある損害額を証明するため,D病院での治療費等の領収証,Aの後遺症に関するD病院の医師作成の診断書及びD病院での診療記録の写しを書証として提出した。
以下は,Bの訴訟代理人L2と司法修習生Qとの間の会話である。
L2:私の経験からすると,Aの負傷の程度に照らして,400万円という損害額は不当に多額であると感じられるのです。Aが,既にあった症状の治療を本件事故の機会に乗じて受けているのではないか,また,診断書にある後遺症も本件事故とは無関係な症状ではないかとの疑いがあります。
Q:不法行為と因果関係がある損害の額の証明責任はAにあるのですから,Bとしてはそれを真偽不明に追い込めば足りるのではないですか。
L2:本件の場合は,Aは,主張に見合った領収証や診断書を提出しています。また,一定の診療記録もD病院で謄写して提出しており,それらによって証明が十分であるとの姿勢を見せています。しかし,私は,まだ,D病院でのAの診療記録の全部が提出されたわけではないと考えています。Bとしては,D病院での診療記録全体に基づいて,本件事故と治療及び後遺症との因果関係を争いたいところです。Dに診療記録の提出を求めていく方法はどのようなものが考えられますか。
Q:文書送付嘱託の申立てをすることが考えられます。
L2:実務的にはそのとおりです。そのほかには,どのような方法が考えられますか。
Q:文書提出命令の申立ても一つの方法だと考えられます。
L2:そうですね。では,文書提出命令の申立てについても考えてみましょう。私がBの訴訟代理人としてAの診療記録について所持者をDとして文書提出命令を申し立てるとして,予想されるDからの反論を念頭に置きながら,Dに文書提出義務があるとする説得力のある立論をしてください。これを課題とします。文書提出義務の存否に関する民事訴訟法の条文に即して具体的に考えてください。診療記録には患者Aに関する情報が記載されていますので,そのことをどう考えるべきか,よく検討する必要があります。
〔設問2〕あなたが司法修習生Qであるとして,L2から与えられた課題に答えなさい。
【事 例(続き)】Aの訴えについて審理した結果,裁判所は,本件事故はBの過失によって発生したもので,Cの過失を認めることはできず,また,Aに発生した損害額は250万円であると判断し,「Bは,Aに対し,250万円を支払え。AのBに対するその余の請求及びAのCに対する請求を棄却する。」という主文の判決をした(訴訟費用の負担及び仮執行宣言に関する部分は問題としない。)。
Bは,AのBに対する請求が250万円の限度で認容されたことには納得ができたので,これに対して不服を申し立てるつもりはなかったが,AのCに対する請求が全部棄却されたことには不満を抱いた。しかし,Aは,Bに対してもCに対しても控訴を提起するつもりはないとのことであった。
そこで,L2は,Bの訴訟代理人として,BがAを補助するために参加する旨の申出をするとともに,Aを控訴人,Cを被控訴人として,「AのCに対する請求を棄却する判決を取り消し,AのCに対する請求のうち250万円が認容されるべきである」と主張して,控訴期間内に控訴を提起した。
控訴裁判所である丙高等裁判所(以下「丙高裁」という。)は,L2の補助参加申出書と控訴状を含む訴訟記録について甲地裁から送付を受け,Cに控訴状の副本等を送達した。
Cは,Bによる補助参加に異議を述べ,この控訴は不適法であると主張した。Cは,控訴を不適法であるとする理由として,(ア)第一審で補助参加をしていなかったBがAのために控訴をすることはできないこと,及び,(イ)Bにはこの訴訟への補助参加が許されないので控訴をすることもできないことという二つの理由を挙げ,そのいずれにしても控訴は不適法であると主張している。
〔設問3〕Cの主張(ア)及び(イ)のそれぞれの当否を検討し,丙高裁の受訴裁判所がこの控訴の適法性についてどのように判断すべきかを論じなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第3問〕本問は,Aが,Bが運転するタクシーとCが運転する自動車との衝突事故(本件事故)によって負傷したという事例を基本的な題材として,①BがAを被告として150万円を超える損害賠償債務の不存在確認の訴えを提起し,その訴訟が係属した後,AがB及びCを被告として提起する損害賠償請求の訴えが適法であるとする立論をすること(設問1),②Aを原告,B及びCを被告とする損害賠償請求訴訟において,Bが,病院開設者である法人Dを所持者としてAの診療記録について文書提出命令を申し立てた場合に,Dに文書提出義務があるとする立論をすること(設問2),③当該訴訟の第一審判決においてAのCに対する請求が棄却された場合に,Bが,Aのために補助参加の申出をするとともに,Aを控訴人,Cを被控訴人として提起した控訴が適法かどうかを論ずること(設問3)をそれぞれ求めるものである。
なお,甲地裁及び乙地裁が本問に現れる訴えの土地管轄及び事物管轄を有することは解答の前提にするよう問題文に明記しているので,これらの管轄の有無を論ずる必要はない。
設問1では,まず,Bが既にAを被告として150万円を超える損害賠償債務の不存在確認の訴えを提起し,訴状がAに送達されて訴訟係属が生じていることとの関係で,AがBに対して400万円の支払を求める訴えの適法性が問題となる。そして,AのBに対する訴えの適法性に関しては,民事訴訟法第142条の重複起訴の禁止との関係を重複起訴禁止の趣旨を踏まえて論じなければならず,その前提として,Bの訴えの訴訟物を明示する必要がある。
Bの訴えの訴訟物は,例えば,判例による訴訟物の捉え方を踏まえると,本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務のうち150万円を超える部分と解することとなり,AのBに対する400万円の支払請求の訴えのうち150万円を超える部分については,事件の同一性(当事者と訴訟物の同一性)が認められるので,重複起訴の禁止との関係が問題となる。また,Bの訴えの訴訟物について,Bが義務を自認している150万円の部分をも含むと解する考え方に立つと,AのBに対する400万円の支払請求の訴えの全部について重複起訴の禁止との関係が問題となる。訴訟物の捉え方については,複数の考え方があり得るところであり,どの立場に立つかによって評価に差がつくわけではないが,いずれにせよ,Bの訴えの訴訟物は,設問1を考える上で当然に明示する必要がある。
そして,設問1で重複起訴の禁止との関係を論ずる際には,Aがその訴えを提起する裁判所が,Bの訴えに係る訴訟が係属している裁判所(乙地裁)であるのか,それ以外の裁判所(甲地裁)であるのかという課題(1)と課題(2)の違いを意識しつつ検討を進める必要がある。
設問1の課題(1)では,まず,Aが乙地裁にBを被告とする訴えを提起することが適法であることを論ずる必要があり,金銭債務不存在確認の訴えの被告は原告に対してその金銭の支払を求める反訴を提起することができ,これによると重複起訴の禁止の規定に抵触しないこと(そもそも同条が禁止する「更に訴えを提起すること」に当たらないと考えられること,又は「更に訴えを提起すること」には当たるが,重複起訴禁止の趣旨に反しないので適法と考えられること)を指摘することが求められる。
設問1の課題(1)では,これに加えて,Aが,乙地裁において,CをBとの共同被告として損害賠償請求の訴えを適法に提起できることを論ずる必要がある。これについては,共同訴訟の一般的要件(同法第38条前段)を満たすことを指摘すべきであるのはもちろんであるが,そのほかに,上記のようにAがBに対する反訴を提起する場合,この反訴請求と併合して本訴原告以外の者であるCに対する請求に係る訴えを提起できるかを検討する必要がある。すなわち,Bに対する反訴請求と本訴原告ではないCに対する請求とを併合して訴えを提起することを許せば,法が定めていない主観的追加的併合を認めることになるが,それでよいかという問題が存在するので,この問題を意識しつつ,それが許されるとの立論をすることが求められる。
他方,Aが,Bの訴えに対する反訴ではなく,別訴として,BとCを共同被告とする訴えを乙地裁に提起することも考えられるところ,この場合には主観的追加的併合の許否という問題は生じないが,前記の重複起訴の禁止の問題との関係で,Aが受訴裁判所に口頭弁論の併合を求め,口頭弁論が併合されることにより重複起訴禁止の趣旨に反しなくなることを指摘して,訴えの適法性を理由づけることが望まれる。
また,金銭債務不存在確認の訴えの被告が原告に対してその金銭の支払を求める反訴を提起した場合には,その確認の訴えについて確認の利益が認められなくなる旨の判例(最高裁判所平成16年3月25日第一小法廷判決・民集58巻3号753頁)の趣旨を意識しつつ,AがBに対する給付の訴えを提起することにより,Bの訴えについては確認の利益がなくなることを指摘して,重複起訴禁止の趣旨に反せず適法であるとする解答も,一応の評価ができるところである。
次に,設問1の課題(2)は,Aが,甲地裁において,BとCに対する訴えを提起する場合であってもそれが適法であるとする立論をすることを求めている。課題(1)と異なり,反訴によることはできず,また,官署としての裁判所を異にするため直ちに口頭弁論を併合することもできない。そこで,本件でAが甲地裁にBとCを共同被告とする訴えを提起する場合,Bの訴えに係る訴訟が係属する裁判所とは別の裁判所に提起する別訴であっても,これを適法と認めるべき必要性及び重複起訴の禁止の趣旨が妥当しないとする理由を示すことにより,Aの訴えが適法であることを述べることになる。そこでは,債務不存在確認訴訟と給付訴訟とでは得られる判決の効果に違いがあること(給付判決には執行力が認められる。),Bの訴えの訴訟物が150万円を超える部分のみであると解する見解に立つ場合には,Aの訴えの訴訟物のうちBの訴えの訴訟物となっていない150万円については訴訟物の重なりがないこと,Bが自己に有利な管轄裁判所に消極的確認の訴えを提起することにより,Aが甲地裁で訴えを提起できるはずの地位を損なうこと,本件では,Aの訴えの提起がBの訴えについての第1回口頭弁論期日前の時点でされており,Bの訴えについて審理が進んでいる状態ではないことなどの諸事情を考慮に入れて論ずることが期待される。
設問2では,Aの診療記録について所持者Dが文書提出義務を負うかどうかが問題となり,同法第220条の規定に即して文書提出義務を肯定する立論をすることが求められる。同条の規定のうち根拠として検討する必要があるのは,一般的な文書提出義務を定めた同条第4号である。本問では,除外事由としての同号ハ・第197条第1項第2号(医師の守秘義務に係る文書)への該当性が問題となり,医師の守秘義務によって保護されているのが訴訟の当事者であるAについての情報であることがDの文書提出義務に影響するのではないかという点を考慮に入れ,文書の所持者が当該訴訟の当事者に対して負う守秘義務が問題となった場合の判例(最高裁判所平成19年12月11日第三小法廷決定・民集61巻9号3364頁)の趣旨等をも考慮して,除外事由に当たらないことの理由を示すことが必要となる。
そのほかに,同法第220条第3号前段の利益文書を根拠とする立論をすることにも一定の評価が可能であるところ,Aの診療記録についてAの相手方当事者であるBの利益のために作成されたといえるか,同条第4号の除外事由の適用又は類推適用がないか(それがあるとすると,除外事由に該当しないか)等の問題点について,提出義務を肯定する方向で論ずることが求められる。
なお,同号ニ(いわゆる自己利用文書)の該当性も一応問題になり得るが,一般に診療記録が各種の事項に関して証拠方法となり得ること等を踏まえると,専ら所持者の利用に供するための文書とは解することができないので,自己利用文書の該当性を論ずる必要はない。
設問3では,主張(ア)との関係で,第一審で補助参加をしていなかったBがAのために控訴をすることの可否について,主張(イ)との関係で,補助参加の利益(同法第42条参照)について,それぞれ論じ,Bの控訴が適法か否かの結論を示す必要がある。
前者に関しては,第一審で補助参加をしていなかった者も,補助参加の申出とともに被参加人のために控訴ができるとするのが同法第43条第2項及び第45条第1項から導かれる適切な解釈である。後者の補助参加の利益の有無に関しては,考え方が分かれ得るところであり,最高裁判所昭和51年3月30日第三小法廷判決・裁判集民事117号323頁の趣旨等をも意識しつつ,自らの考え方を述べることが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 Bの訴えの訴訟物
判例・実務は旧訴訟物理論を採用し、訴訟物は実体法上の請求権ごとに別個に観念される。Bの訴えは、本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務が150万円を超えないことの確認を求めるものであり、Bは請求の原因においても150万円の限度では債務の存在を自認している。
そこで、Bの訴えの訴訟物は、本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務のうち150万円を超える部分の不存在であると解する。
2 課題⑴(乙地裁に訴えを提起する場合)
⑴ まず、AがBに対して400万円の支払を求める訴えが、重複起訴の禁止(民事訴訟法142条)に触れないかが問題となる。
同条の趣旨は、①同一事件について重複して審理することによる訴訟上の不経済の回避、②既判力ある判断が相互に矛盾抵触することの防止、③被告が二重に応訴の負担を負うことの回避にある。したがって、形式的に事件の同一性が認められても、これらの趣旨が妥当しない場合には同条に違反しないと解すべきである。
本件では、当事者はAとBであって同一であり、Aの請求のうち150万円を超える部分の訴訟物はBの訴えの訴訟物と表裏の関係にあって同一であるから、形式的には事件の同一性が認められる。
もっとも、Aは、Bの訴えの被告として、同一の手続内で反訴(146条1項)を提起することができる。反訴は本訴の手続内で審理されるものであるから、そもそも同条が禁ずる「更に訴えを提起する」ことに当たらないと解され、仮にこれに当たるとしても、同一手続内で併せて審理される以上、審理の重複も判断の矛盾抵触も生じない。また、Bは自ら訴えを提起した者であるから、二重応訴の負担も問題とならない。
さらに、判例は、金銭債務の不存在確認の訴えの被告が当該金銭の支払を求める反訴を提起した場合には、当該確認の訴えについて確認の利益が失われるとしている。確認の訴えは給付の訴えと異なり執行力がなく、紛争の抜本的解決に資する場合に限り確認の利益が認められるからである。本件でも、Aが給付の反訴を提起すればBの訴えは確認の利益を欠くことになるから、判断の矛盾抵触のおそれは一層生じない。
したがって、Aが乙地裁においてBに対し400万円の支払を求める反訴を提起することは適法である。
⑵ 次に、AがCをもBと共同被告とすることができるかを検討する。
共同訴訟は、訴訟の目的である権利義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときに許される(38条前段)。本件のAのBに対する請求とCに対する請求は、いずれも本件事故という同一の事実上の原因に基づく共同不法行為に基づく損害賠償請求権であるから、同条前段の要件を満たす。
しかし、Aが反訴の形式で訴えを提起する場合、本訴原告Bに対する反訴請求に併せて、本訴の当事者でないCに対する請求を立てることになる。これは法の明文のない主観的追加的併合を認めることにならないかが問題となる。判例は、明文なき主観的追加的併合について、審理の複雑化や訴訟の遅延を招くことなどを理由に、これを許されないとしている。
もっとも、主観的追加的併合が否定される実質的理由は、新請求の追加によって既に進行した審理が混乱し、新たに当事者とされた者の審級の利益が害される点にある。本件では、CもBも、本件事故におけるBの過失、Cの過失及びAの損害額という共通の争点について争っており、証拠も治療費の領収証、診断書、診療記録など共通である。併合審理によってかえって審理の重複が避けられ、B・C間で過失や損害額の判断が食い違うことも防げる。また、Aの訴えはBの訴えの第1回口頭弁論期日前に提起されており、Cの審級の利益も害されない。
したがって、38条前段の要件を満たし、かつ審理の著しい複雑化を招かない本件においては、反訴に併せてCに対する訴えを提起することも許されると解する。
⑶ なお、Aが反訴によらず、B及びCを共同被告とする別訴を乙地裁に提起する方法も考えられる。この場合には主観的追加的併合の問題は生じない。そして、Bの訴えと同一の裁判所に係属するから、Aが口頭弁論の併合(152条1項)を求め、これが併合されれば、審理の重複も判断の矛盾抵触も生じないから、142条の趣旨に反せず適法である。
3 課題⑵(甲地裁に訴えを提起する場合)
甲地裁に訴えを提起する場合は、反訴によることができず、また受訴裁判所を異にするため直ちに口頭弁論を併合することもできない。しかし、以下の事情を考慮すれば、142条の趣旨は本件に妥当せず、Aの訴えは適法と解すべきである。
第一に、債務不存在確認の訴えと給付の訴えとでは、得られる判決の効果が異なる。給付判決には執行力が認められるのであり、Aは債務名義を取得するという固有の利益を有する。Bの訴えに応訴して請求棄却判決を得ても、この利益は得られない。
第二に、Bの訴えの訴訟物は150万円を超える部分に限られるから、Aの請求のうち150万円の部分については訴訟物の重なりがなく、そもそも事件の同一性が認められない。
第三に、Bは自己の住所兼営業所の所在地を管轄する乙地裁に先んじて消極的確認の訴えを提起している。これによって、A及びCの住所地を管轄し、Aの代理人の事務所も所在する甲地裁で訴訟を追行できるはずのAの地位が損なわれることになる。消極的確認の訴えを先に提起することによって給付請求者の裁判所選択の利益を奪うことまで、142条が是認しているとは解されない。
第四に、Aの訴えはBの訴えの第1回口頭弁論期日前に提起されており、Bの訴えについて実質的な審理は進んでいない。したがって審理の重複による不経済は現実には生じない。加えて、前述のとおりAが給付の訴えを提起すればBの訴えは確認の利益を失い、却下されるべきものとなるから、既判力ある判断が矛盾抵触するおそれもない。
以上より、Aが甲地裁にB及びCを共同被告として提起する訴えは、142条に反せず適法である。Cとの共同訴訟が38条前段の要件を満たすことは前述のとおりである。
第2 設問2
1 Dの文書提出義務の根拠として検討すべきは、一般的な文書提出義務を定める220条4号である。同号によれば、文書の所持者は、同号イからホまでの除外事由に当たらない限り、文書提出義務を負う。
本件で問題となるのは同号ハ、すなわち197条1項2号に規定する事項で黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書に当たるかである。診療記録には、医師がその職務上知った患者Aの病状、治療経過等の秘密が記載されているから、形式的には同号ハに該当するようにみえる。
2 しかし、医師の守秘義務及び197条1項2号が保護しているのは、患者本人のプライバシーないし秘密であり、患者の利益を離れて医師又は病院開設者に独自の利益を認めるものではない。したがって、除外事由としての同号ハの該当性も、秘密の主体である患者本人について保護の必要性があるかどうかによって判断すべきである。
そして判例は、文書の所持者が当該訴訟の当事者に対して守秘義務を負う場合について、秘密の主体である当事者が自ら当該秘密に関する事項を訴訟に顕出しているなど、もはや保護に値する秘密といえない場合には、職業の秘密として保護されないとしている。
本件では、秘密の主体であるAが、原告として自己の損害額を立証するため、D病院での治療費等の領収証、D病院の医師作成の診断書及びD病院での診療記録の写しを、自ら書証として提出している。すなわちA自身が診療記録の内容を本件訴訟に顕出し、これを自己に有利な証拠として用いているのである。そうであるにもかかわらず、同一の診療記録のうち自己に不利な部分についてのみ秘密としての保護を主張することは、信義に反し許されない。したがって、Aは診療記録についての秘密の保護を放棄したものと評価でき、黙秘の義務は免除されたものと同視すべきである。
Dからは、患者のプライバシーの保護及び医師の守秘義務を理由に提出を拒む旨の反論が予想される。しかし、上記のとおり保護されるべき秘密の主体はAであり、A自身がその保護を放棄している以上、Dが独自にこれを援用することはできない。また、本件文書提出命令の申立てが求める診療記録は、Aが既に一部を提出した同一の診療経過に関するものであって、Aの他の秘密が不必要に開示されるものでもない。
よって、同号ハの除外事由には当たらず、Dは220条4号に基づき文書提出義務を負う。
3 なお、同条3号前段の利益文書を根拠とする立論も考えられる。もっとも、診療記録は診療の経過を記録して医療の用に供するために作成されるものであり、Aの相手方当事者であるBの利益のために作成されたとはいい難いから、この立論によることは困難である。
また、同条4号ニのいわゆる自己利用文書については、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるものをいう。診療記録は、患者本人への開示や各種の場面での証拠方法となることが当然に想定される文書であるから、専ら所持者の利用に供するための文書とはいえず、除外事由に当たらない。
第3 設問3
1 主張㋐について
補助参加の申出は参加しようとする訴訟の係属する裁判所にしなければならないが、補助参加人は参加の申出と同時に訴訟行為をすることができる(43条2項)。また、補助参加人は、訴訟について攻撃又は防御の方法の提出、上訴の提起その他訴訟行為をすることができる(45条1項)。
これらの規定は、参加の申出と同時に上訴を提起することを当然の前提としているから、第一審で補助参加をしていなかった者も、上訴期間内に補助参加の申出とともに被参加人のために上訴を提起することができると解すべきである。補助参加制度の趣旨は、他人間の訴訟の結果によって影響を受ける第三者に自己の利益を守る機会を与えることにあり、その必要が現実化するのは敗訴判決が出た後であることが多いからである。
また、補助参加人の訴訟行為は被参加人の訴訟行為と抵触するときはその効力を有しないが(45条2項)、本件でAは控訴を提起しないというにとどまり、控訴権を放棄するなどの積極的な訴訟行為をしていないから、L2の控訴がAの訴訟行為と抵触するものではない。
本件でL2は、補助参加の申出と同時に、控訴期間内にAを控訴人として控訴を提起している。よって、第一審で補助参加をしていなかったことを理由に控訴を不適法とすることはできず、主張㋐は理由がない。
2 主張㋑について
⑴ 補助参加が許されるのは、「訴訟の結果について利害関係を有する」第三者である(42条)。もっとも、事実上又は経済上の利害関係で足りるとすれば、訴訟が無用に複雑化し、相手方当事者の利益も害される。そこで、「利害関係」とは、当該訴訟の判決の主文又は理由中の判断が、参加人の法的地位に影響を及ぼす関係をいうと解する。
なお、Bは本件訴訟においてAの共同被告であるが、AのCに対する請求については当事者でないから、同請求について補助参加することは妨げられない。
⑵ 本件で、Bは、AのCに対する請求が認容されることに利益を有する。すなわち、B及びCが共同不法行為者であれば、両者は連帯してAに対する損害賠償責任を負い(民法719条1項)、Bは自己の負担部分を超えて弁済したときはCに対して求償することができる。ところが、AのCに対する請求を棄却し、Cの過失を否定した判決が確定すると、BがCに対して求償権を行使する際に、Cの過失がないとの判断が先例的に機能し、Bの求償権の実現が事実上著しく困難となる。
もっとも、AのCに対する請求を棄却する判決の既判力はBとCとの間には及ばず(115条1項1号)、Cの過失の有無という理由中の判断もBのCに対する求償請求訴訟を法的に拘束するものではない。この点を重視すれば、Bは事実上の利害関係を有するにとどまり、補助参加の利益を欠くという結論もあり得る。
しかし、Bは本判決によりAに対し250万円の支払を命じられ、これを弁済すればCに対する求償権を取得する立場にある。Cの過失の有無はAのCに対する請求の当否を決する主要な争点であり、かつBの求償権の成否を決する要件そのものでもある。このように、当該判決の理由中の判断がそのままBの求償権の成否を基礎づける事実についての判断となる場合には、Bの法的地位に対する影響は単なる事実上のものにとどまらないと評価すべきである。
また、Bは共同被告として既に第一審の審理に関与しており、Cの過失についても主張を展開していたのであるから、Bの補助参加を認めても審理が不当に複雑化することはなく、Cに新たな応訴の負担を課すものでもない。
したがって、Bには補助参加の利益が認められ、主張㋑も理由がない。
3 結論
以上より、Cの主張㋐及び㋑はいずれも理由がない。丙高裁は、Cの異議を却下してBの補助参加を許し、本件控訴を適法なものとして、AのCに対する請求について本案の審理をすべきである。
以上