司法試験 平成28年 民事訴訟法
問題文
[民事系科目]〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3:3:4〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
【事 例】Xは, 設立後約30年が経つ「甲街振興会」 という名称の法人格を取得していない団体であり,その代表者である会長は甲街の有力者であるZが務めていた。Xには規約が定められており,甲街で事業を営む者が,Xに書面で加入申請をすれば,Xの会員となるとされている。会員数は近年は100名程度で推移しており,会員名簿は毎年作成されているが,団体の運営に実質的な関心のない者も少なくない。総会員で構成する総会(定足数は総会員の過半数)があるほか,役員として,会長1名,副会長1名,監事2名が置かれている。役員は総会で選任され,会長がXを代表する権限を有するが,不動産など重要な財産の処分については総会の承認決議が必要とされ,出席者の3分の2以上の賛成が必要となる。
Xには,唯一の不動産として,Xの事務所として使用されている建物及びその敷地である土地(以下「本件不動産」という。)があるとされていた。これは,Xの活動が軌道に乗った頃,会長であるZがAとの間で売買契約を締結して購入したものであるが,Zは, 「これはXのために購入したものであり,以後,本件不動産はXの事務所として使用する。」と公言していた。実際に,本件不動産はXの資産としてXの財産目録には計上されていたが,登記は代表者であるZの名義とされていた。本件不動産の固定資産税はZが納付していたが,Xは納税相当額をZに償還していた。
近年になり,長らくXの会長を務めていたZが高齢になってきたため,Xの内部においては,そろそろ会長を副会長であるBに交代すべきであると主張する勢力が台頭しつつあった。
そのような中,本件不動産についてYを抵当権者とする抵当権設定登記がされていることが判明した。Bが調査をしたところによると,この抵当権は,Zの子であるCに対する貸金3000万円を被担保債権とするものであり,Cは貸金債務の返済をしばしば遅滞していて,なお2000万円以上の債務が残存していることが分かった。そこで,Bは,Zに対して経緯の説明を求めた。 これに対し, Zは, 本件不動産はXの事務所として使用するために購入したものではあるが,飽くまでも,事務所として利用させることだけが目的であり,その所有権はZ個人にあると主張した。さらに,一時期Cが貸金債務の返済を滞らせていたことがあるが,もう心配はないし,今後とも本件不動産をXに使用させるつもりであると説明した。
しかし,Bの調査によれば,Zの説明とは異なって,Cはその事業が行き詰まっているため,倒産しかねない状況にあるとの風評が立っており,ZがCを経済的に支えることも困難であろうと見込まれていた。
また,Bとしては,Zから何度となく本件不動産はXのために購入したものであると聞かされていたし,そのようなZの貢献が会員に評価されていたからこそ,Zは長年にわたり会長を務めることになったのであるから,本件不動産はXがAから購入したものであって,Zの所有であったと認めることはできないし,今後の活動資金の確保の観点からも,本件不動産はXにとって極めて重要な財産であり,何としても,Yの抵当権設定登記を抹消しなければならないと考えた。
そこで,Bは,Xの規約によれば,会長は「職務上の義務に違反し,又は職務を怠ったとき」
には総会の決議によって解任することができるとされていることを確認した上で,規約に基づき臨時総会を開催し,Zの解任議案及びBの会長選任議案を提出した。
臨時総会の開催や運営に当たっては,Zやその支援者らの強い抵抗があったものの,両議案はいずれも賛成多数で可決された。
そこで,新たに会長に選任されたBは,本件不動産の問題を解決するため,知り合いの弁護士であるL1に相談した。
以下は,Bから依頼を受けた弁護士L1と司法修習生P1との間の会話である。
L1:Bから事情を聞きましたが,Yに対しては,抵当権設定登記の抹消登記手続請求と総有権確認請求をすることになりそうですね。Zに対しても訴えを提起する必要があるかどうかは,もう少しZの動向を見てから決めたいというのがBの意向のようですから,まずは,Yを被告として,どのような訴え提起の方法が考えられるかを検討してみましょう。
P1:Xは,権利能力のない社団とされる要件を満たしているといえそうですから,民事訴訟法第29条が適用され,当事者能力が認められるので,X自身が原告となってYに対する訴えを提起することができると思います。その先は,登記手続請求訴訟になると,十分に勉強が進んでいませんので,よく分からないのですが。
L1:差し当たり,議論を単純化するために登記請求については考えることとせず,総有権確認請求訴訟を前提として議論しましょう。
P1:総有権確認請求訴訟の提起ということになると,最高裁判所平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1065頁によれば,権利能力のない社団が原告となり,その代表者が不動産についての総有権確認請求訴訟を追行するには,その規約等において当該不動産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するとされています。したがって,本件不動産の総有権の確認を求めるためには,少なくとも,重要な財産の処分についての承認決議に必要な総会の出席者の3分の2以上の賛成に基づく授権が必要ということになりそうです。
L1:そうですね。ただ,Zの立場を支持する勢力もなお有力のようで,今後の動向によっては,3分の2以上の賛成を得ることは簡単ではないかもしれません。3分の2以上の賛成を得ることができないことも想定すると,他にどのような方法が考えられますか。
P1:その場合には,一般的には,構成員全員が原告となって訴えを提起することになるのではないでしょうか。
L1:しかし,本件では,構成員の中にはZやその支持勢力がおり,彼らは訴えの提起に反対するかもしれません。そういった場合には,どのような対応策が考えられるか,検討する必要がありますね。
そこで,まずは,X自体を当事者とせずXの構成員がYに対して総有権の確認を求めるには,原則としてその全員が原告とならなければならないとされる理由について整理してください。
その上で,構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合の対応策について検討してください。
さらに,訴訟係属後に甲街で事業を開始して新たに構成員となる者が現れる可能性があります。そこで,この場合の訴訟上の問題点について,まとめてみてください。その際は,その者がBに同調する場合としない場合とが考えられることを考慮してください。
〔設問1〕あなたが司法修習生P1であるとして,L1から与えられた課題に答えなさい。
【事 例(続き) 】BとL1は,検討を重ねた結果,Xを原告,YとZを被告として総有権確認請求の訴えを提起することとし,それと併せて登記手続請求の訴えも提起するとの結論に至った。そこで,本件不動産はXの構成員の総有に属するとして,Xを原告とし,YとZとを共同被告として,本件不動産の総有権確認請求の訴えを提起し,併せてYに対しては抵当権設定登記の抹消登記手続請求の訴えを,Zに対してはZから現在の代表者であるBへの所有権移転登記手続請求の訴えを提起した。 なお, Bは, 他の会員を説得し, 事前にこれらの訴え (以下, これらの訴えに係る訴訟を 「第1訴訟」という。)の提起のために必要となる総会の承認決議を得た。
以下は,このような経緯で訴えを提起されたZから訴訟委任を受けた弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。なお,Xが原告となって登記手続請求の訴えを提起することの当否について検討する必要はない。
L2:Zは,そもそも,Z自身がXの会長の地位にあるのに,Bが会長であるかのように行動していることに不満があるようです。自らがXの会長の地位にあることを裁判で認めてもらいたいという要望は何とかして受け止めてあげたいですね。第1訴訟において,Bを代表者として提起された訴えの適法性自体を争い,却下判決を求めることは当然ですが,それに加えて,第1訴訟の中で,自らが会長の地位にあることや解任決議が無効であることを確定させる判決を得ることができないかも検討した方がいいでしょう。
もっとも,X内部での会長の選解任がいかなる場合に無効となるのかという実体的な問題については,ひとまず,解任事由が存在しないというZの言い分どおりの事実が認められれば,解任決議は無効となり,そうであるとすれば,規約上1名に限られる会長が既に存在する状況でされた新会長の選任決議も無効となる,という前提で検討を進めてみてください。
P2:分かりました。Zとしては,Zの解任決議が無効であること,及びZがXの会長の地位にあることの確認を求める訴えを提起することが考えられ,その場合,Xを被告とすることが適当であると思います。そして,第1訴訟の中で,Zが会長の地位にあり,自らの解任決議は無効であることを主張するわけですから,反訴として提起することが簡便だと思います。
L2:そうですね。Zが,第1訴訟においてXを被告として反訴を提起するという前提で検討しましょうか。それから,Zの提起する反訴において,会長としての地位が争われることになるBがXの代表者として訴訟を追行す ることを認めてよいかという問題もありそうですが,差し当たり,この点は検討の対象から除外します。
P2:分かりました。
L2:検討をするに当たって1点確認をしておきたいのですが,本案の前提として判断される手続的事項については,独自の訴えの利益は認められないという考え方を聞いたことはありませんか。
P2:はい。そう言えば,最高裁判所昭和28年12月24日第一小法廷判決・民集7巻13号1644頁も,訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法としていたと思います。本件では,会長の地位にあるかどうかが争われているので,利益状況は似ているようにも思います。Zが提起する反訴も却下されてしまう可能性があるのでしょうか。
L2:少なくとも,そういう反論に備えておく必要はあるでしょうね。以上のことを踏まえた上で,Zが解任決議が無効であることやZがXの会長の地位にあることを確認する訴えを提起することについて訴えの利益が認められるという理由付けを具体的にまとめてみてください。それから,反訴として提起するということですから,民事訴訟法第146条第1項所定の要件についての検討も念のために行っておいてください。
〔設問2〕あなたが司法修習生P2であるとして,L2から与えられた課題に答えなさい。
【事 例(続き) 】第1訴訟について審理がされた結果,XのYとZに対する請求はいずれも認容され,判決(以下「前訴判決」という。)は確定した。前訴判決の確定を受け,Yは,本件不動産について設定を受けていた抵当権は無効であり,損害を被ったなどとして,Zに対して,債務不履行に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。この訴訟(以下「第2訴訟」という。)において,Zは,「Aから本件不動産を買い受けたのは自分であり,抵当権設定契約時にも本件不動産を所有していたからYに対しても抵当権を有効に設定していて,登記も具備させたのであるから,債務不履行はない。」と主張した。
これに対し,Yは,「前訴判決において本件不動産がXの構成員の総有に属することが確認された以上,Zは,本件不動産はXの構成員の総有に属さず,Zの個人財産に属したと主張して損害賠償責任を免れることはできない,そうでなければ,Yは,第1訴訟においては本件不動産はXの構成員の総有に属するという理由で敗訴し,他方,第2訴訟においては本件不動産はZの個人財産に属するという相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を負うことになってしまい,不当である。」と主張した。
以下は,第2訴訟の審理を担当する裁判官Jと司法修習生P3との間でされた会話である。
J:本件はいろいろと問題がありそうですね。本件では,YはZに対して不法行為ではなく,債務不履行に基づいて損害賠償請求をしていますね。そもそも,本件のような事案において,債務不履行に基づく損害賠償請求が実体法上可能か否か等についても学説は分かれているようですが,私としては,抵当権設定契約の時において設定者が抵当権の目的物の所有権を有していなければ有効な抵当権を設定できず,その場合には,設定者は抵当権設定契約に基づく債務不履行責任を負うと理解したいと考えています。以下では,この理解を前提に民事訴訟法上の問題について検討してもらいます。相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を負わされるのは不当であるというYの主張は,既判力と関係しそうですから,裁判所の方でよく検討をしておかないといけませんね。前訴判決の既判力によってこの問題を解決することができるかどうかについては,どう考えますか。
P3:本件の事実関係を前提とすると,前訴判決のうちXのYに対する総有権確認請求についてされた部分の効力がXの構成員の一人であるZにも及んでいると解する余地があるのではないでしょうか。
J:なるほど。①権利能力のない社団が当事者として受けた判決の効力は,当該社団の構成員全員に対して及ぶと述べる最高裁判所平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1065頁があることは承知していますが,それを本件において援用することが適切かという点については,具体的に検討してみる必要があると思います。
P3:他方で,仮に前訴判決の既判力がZに及ぶことになるとしても,それが第2訴訟においてどのような意味を持つのか,今一つはっきりしないような気がします。
J:②確かに,本件不動産がXの構成員の総有に属していればZの所有には属しないということは,一物一権主義から当然にいえそうではありますが,しかし,前訴判決の既判力がいつの時点における権利関係の存否について生じているのかということとの関係で,第2訴訟におけるYとZの主張の対立点に関して前訴判決の既判力が作用し得るのかは,私も少し引っかかっているところなので,具体的に検討してみてください。
P3:既判力に基づく説明以外の説明によってYの主張を根拠付ける余地もあるかもしれませんが,そういった検討も必要でしょうか。
J:③それも検討していただきたいですね。ただ,既判力以外の根拠を用いようとする場合には,第1訴訟の段階でYとして採るべき何らかの手段があったのであれば,それをしなかったYが不利益を被ってもやむを得ないという反論も出てくるかもしれません。結論を限定するわけではありませんが,第1訴訟の段階でYとして採るべき手段があったかどうかという点にも触れながら,検討してみてください。
P3:なかなか大変な検討になりそうです。
J:前訴判決が存在するにもかかわらず,第2訴訟において本件不動産の帰属に関して改めて審理・判断をすることができるのかを検討することが今回の課題です。なお,検討事項も多いので,差し当たり,前訴判決のうち登記手続請求についてされた部分を考慮に入れる必要はありません。では,頑張ってください。
〔設問3〕あなたが司法修習生P3であるとして,下線部分①から③までに現れたJの問題意識についての検討結果を示しつつ,Jから与えられた課題に答えなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第3問〕本問は,権利能力なき社団の構成員に総有的に帰属する財産をめぐる紛争を基本的な題材として,①当該社団の構成員が原告となって総有財産の所有関係を第三者に主張する場合には,それが固有必要的共同訴訟に当たることを前提に,そのような訴訟を現実に遂行した場合に生じ得る問題についての解決方法(〔設問1〕),②当該社団が原告となり社団の元代表者等を被告として総有財産の帰属関係等を争う訴訟において,元代表者が解任決議の無効や会長の地位確認を求める訴えを反訴で提起することにつき,訴えの利益や反訴要件の有無( 〔設問2〕),③当該訴訟において敗訴した被告の一方が他方の被告に対して債務不履行責任を追及する場合に,前訴においても審理された総有財産の帰属に関して改めて審理・判断することの可否(〔設問3〕)に関して,検討をすることが求められている。
これらの課題に含まれる論点は,基礎的なものも少なくないが,全体の分量との関係では,その論点についての正確な知識に基づく解答を端的に論述することが必要であり,また,問題文には関連判例等を踏まえた問題意識が多く示されているから,これらに的確に応答し,論述することが期待されている。
〔設問1〕では,まず,総有権確認請求訴訟という形態で,総有財産の所有関係を第三者に主張することが固有必要的共同訴訟に当たるとされる理由についての分析が求められている。総有財産に関する紛争形態は様々であるものの,本件の訴訟物は総有権を第三者に確認するというものであるから,固有必要的共同訴訟に当たる理由の説明もそれに応じたものとする必要がある。
そして,このことを踏まえつつ,本件のXのように相応に構成員の数の多い権利能力なき社団において構成員を原告として訴えを提起しようとした場合に,実際にどのような問題が生じ得るかを検討し,考えられる解決方法を提示することが求められている。そして,弁護士L1と司法修習生P1との間の会話では,構成員の中に反対者がいた場合にどのようにして訴えの適法性を確保するべきかという問題意識が示されている。典型的には反対者を被告として訴えを提起することが想定されるが,その際には,先に述べた,総有権確認請求訴訟が固有必要的共同訴訟とされる論拠と整合性のある説明を工夫することが期待される。さらに,続いて,訴え提起後に構成員に変動が生じた場合,その中でも新たな構成員が追加的に現れた場合の処理をどうするかという問題意識も示されている。ここでは,様々な方法が考えられるところであるが,代表者として行動しているBの方針に同調しない構成員については,その自発的な行動が想定し難く,原告側のみで行うことのできる方策としてどのようなものが考えられるかという観点から検討することが求められている。
〔設問2〕では,〔設問1〕と異なり,権利能力なき社団であるXが原告となって訴えを提起した事案について問うものである。Bを代表者とするXは,本件紛争の解決のため,本件不動産の所有名義人である元代表者のZと,Zから抵当権の設定を受けてその旨の登記を経たYとを被告として,総有権確認請求と各登記手続請求の訴えとを提起しているが,ここで,被告とされたZは自身がなおXの代表者の地位にあることを認めさせようと,Xを被告としてZ自身の解任決議の無効等を確認する反訴を提起しようとしている。代表権に関する紛争が存在する場合に,このような確認の訴えに訴えの利益が認められることについては異論は少ないと思われるが,ここでは,特に,最高裁判所昭和28年12月24日第一小法廷判決・民集7巻13号1644頁が,訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法としていることを踏まえつつ,共にある(別の)訴訟における訴訟要件の存否に関わる判断でありながら,本件における権利能力なき社団であるXの代表権の存否の確認を求める訴えはなぜ適法となるのかを,本件における事実関係も踏まえながら,訴訟代理権と代表権とでは実質的な紛争の広がりが異なるといったことを指摘し,説明することが求められている。
また,〔設問2〕においては,念のため,反訴要件の具備・不具備について検討することも求められている。 本件との関係では,「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求」
といえるか否か,「著しく訴訟手続を遅滞させる」場合に当たらないか否かについて,本件の事実関係に基づいた当てはめの検討が求められている。前者については,仮にBではなくZがXの代表者の地位にあるとすれば,Bを代表者とするXの訴えはそのままでは適法なものとしては維持できないから,その点を争うとともにZの代表権の確認を反訴で求めることは防御の方法と関連する請求となるのではないか,また,本訴としてX代表者としてのBへの登記移転請求の訴えも併合されていることから,本訴請求と関連性を有するといえないかなど具体的に摘示することが望まれる。
〔設問3〕では,〔設問2〕の訴訟(第1訴訟)において原告勝訴の判決(前訴判決)が確定したことを前提に,本件不動産について設定を受けていた抵当権は無効であり,損害を被ったなどとして,YがZに対して債務不履行に基づく損害賠償を求める第2訴訟を提起したとの事実関係の下で,この第2訴訟で本件不動産の所有関係を再度審理・判断することができるのかどうかが問われている。本件の事実関係はやや複雑であるものの,まず,第1訴訟における共同被告であるにすぎないYとZとの間には当然には既判力が生じないことが前提として押さえられなければならない。その上で,裁判官Jと司法修習生P3との会話を見れば,本件については,二つの検討のルート,すなわち,①前訴判決のうちXとYとの間の部分については,Xを当事者としているところ,引用判例(最高裁判所平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1065頁)に従えばXの構成員であるZにも既判力が及ぶため,YとZとの間に既判力が生ずることとなり,本件不動産の所有関係について再度の審理・判断ができないことになるのではないかという権利能力なき社団に特有の法理による解決を模索する方向性と,②権利能力なき社団を離れてより一般的に,前訴で敗訴をした共同被告間における担保責任の追及訴訟において二重敗訴の危険を防ぐ手段としてどのようなものが想定され得るかという問題として解決を模索する方向性とが示唆されていることが読み取れる。
まず,①の方向性に関しては,本件において引用判例の法理を援用することができるかを権利能力なき社団及びこれを当事者とする訴訟の性質についての解釈を踏まえつつ検討する必要があり,そこでは,判例法理に素朴に従えば判決効の拡張を受けることになりそうなZがXの相手方として行動しているという本件事案の特殊性を踏まえてどのように結論付けるかについて考察することが求められている(問題文の下線部①参照)。また,この点についていずれの結論を採るにせよ,本件の事実関係の下で,抵当権の設定時点における本件不動産の所有関係という第2訴訟の争点についての審理・判断が前訴判決の既判力によって封じられるのかを具体的に検討することも求められている。すなわち,前訴判決の既判力の基準時よりも「前」の時点における所有関係が争点となっているところ,そのような争点との関係で,前訴判決の口頭弁論終結時に本件不動産がXの総有に属していた(すなわち,Zの所有には属していなかった)という判断につき生じている前訴判決の既判力がそれ自体として意味を持ち得るのかという問題を意識して,解答することが求められている(問題文の下線部②参照)。
他方で,②のルートに関しては,①のルートのような既判力による解決は困難であることを踏まえ,信義則や争点効などによって再審理が不可能であることを結論付けることが視野に入る。もっとも,こうした議論は明文の根拠に乏しく,程度の差はあるものの一般条項に依拠したものとならざるを得ないことからすれば,Yとして事後の訴訟を想定し,第1訴訟の段階で採るべき手段が何かなかったのかという事情は考慮すべき事情となるはずである。そこで,このような方法としてどのような方法があり得るかを検討すると,訴訟告知などが想定される。
こうした方法があることを踏まえれば,既判力に基づく説明以外の説明で再審理をすべきでないとするYの主張は否定されざるを得ないのか,それとも一定の方法があるとはいえ本件の事実関係の下ではなおYの主張は認め得るものであるのかを,自らの立場を明らかにしつつ,論証することが必要となる(問題文の下線部③参照)。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 全員が原告とならなければならない理由
ある訴えが固有必要的共同訴訟に当たるかは、訴訟物たる権利関係の実体法上の性質と、紛争の合一的解決の必要性という訴訟法上の観点から判断する。
権利能力のない社団の財産は、構成員全員に総有的に帰属する。総有とは、各構成員が持分を有せず、団体の目的の範囲内で使用収益する権能を有するにとどまり、所有権そのものは構成員全員に一個不可分のものとして帰属する形態である。
そうすると、本件不動産の総有権は構成員全員に一個の権利として帰属するのであり、その帰属を第三者に対して確認するには、権利の帰属主体である構成員全員が当事者とならなければ、権利関係の全体について判断することができない。また、構成員の一部についてのみ総有権の帰属を確定しても、他の構成員との間で判断が食い違えば、総有という不可分の権利関係について矛盾する判断が併存することになる。
よって、X自体を当事者とせずその構成員がYに対して総有権の確認を求める訴えは固有必要的共同訴訟であり、原則として構成員全員が原告とならなければならない。
2 訴えの提起に反対する構成員がいる場合
Xには約100名の構成員があり、その中にはZ及びその支持勢力のように訴えの提起に反対する者がいる。これらの者を原告に加えることはできないが、原告から除外すれば当事者適格を欠き訴えは却下されることになる。
そこで、訴えの提起に反対する構成員については、これを被告として訴えを提起すべきであると解する。
固有必要的共同訴訟とされる理由は、前記のとおり総有権の帰属主体全員について権利関係を合一に確定する必要がある点にある。そうであれば、全員が訴訟に関与し、その帰属について攻撃防御の機会を与えられて判決の効力を受ければ、この要請は満たされる。原告側に立つか被告側に立つかは問わない。かえって、反対者を被告とすれば、総有権がXの構成員に帰属するか否かについて反対者も当事者として争うことができ、その手続保障にも適う。
したがって、Bに同調する構成員が原告となり、Yに加えてZ及びその支持勢力を被告として、本件不動産が構成員全員の総有に属することの確認を求めれば、訴えは適法である。
3 訴訟係属後に新たに構成員となる者が現れた場合
甲街で事業を開始してXに書面で加入申請をすれば、その者はXの会員となる。そうすると、新たな構成員は本件不動産の総有権の帰属主体となるから、当該構成員が訴訟に関与しない限り当事者適格に欠けることになる。
まず、新構成員がBに同調する場合には、自ら原告側に共同訴訟参加(52条1項)をすることが考えられる。本件訴訟は固有必要的共同訴訟であり、訴訟の目的が当事者の一方及び第三者について合一にのみ確定すべき場合に当たるから、同条の要件を満たす。
これに対し、新構成員がBに同調しない場合には、自発的に参加することは想定し難い。そこで、原告側のみで採ることのできる方策が必要となる。
第一に、原告らが、訴えの変更の手続(143条)に準じて、当該新構成員を被告として追加する訴えの主観的追加的併合をすることが考えられる。確かに、判例は一般に訴えの主観的追加的併合を認めていないが、その理由は、別訴を提起して弁論の併合を求めれば足り、第三者の審級の利益等を害するおそれがある点にある。しかし固有必要的共同訴訟においては、当事者を追加しなければ訴え全体が却下されるのであって、追加を認めなければ原告の救済が不可能となる。したがって、固有必要的共同訴訟については例外的に当事者の追加を許すべきである。
第二に、新たに構成員となることにより総有権の帰属主体としての地位を取得するのであるから、これを訴訟承継に準じて捉え、訴訟引受けの申立て(50条1項)を類推して原告側から当該構成員に訴訟を引き受けさせることも考えられる。もっとも、総有権は一個不可分のものであって、新構成員は従前の構成員から権利を承継するわけではないから、承継人として扱うには理論的な難点がある。
したがって、第一の方法により新構成員を被告として追加するのが適切である。
第2 設問2
1 確認の利益
確認の訴えは、その性質上対象が無制限に拡大するおそれがあり、給付の訴えと異なり執行力がないため、紛争の抜本的解決に資する場合に限り確認の利益が認められる。その判断は、確認対象の選択の適否、即時確定の現実的必要性及び方法選択の適否を考慮してする。
(1) 対象選択の適否
Zが会長の地位にあることの確認は、現在の法律関係の確認であって問題はない。
解任決議が無効であることの確認は、過去の法律行為の効力の確認である。もっとも、本件では規約上会長は1名に限られており、Zの解任決議が無効であれば会長が既に存在する状況でされたBの選任決議も無効となるという関係にある。したがって、解任決議の無効確認は、これによって現在の会長の地位の帰属という法律関係が一挙に明らかになるものであり、現在の紛争の解決に直結する。地位確認と併せて求める限り、対象選択として不適切とはいえない。
(2) 昭和28年判決との区別
判例は、訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法としている(最判昭28.12.24)。そこで、本案の前提として判断される手続的事項については独自の訴えの利益がないとして、Zの訴えも不適法となるのではないかが問題となる。
しかし、訴訟代理権は、特定の訴訟手続において訴訟行為をする権限にすぎない。その存否は当該訴訟の裁判所が訴訟要件として職権で調査し判断すれば足り、これについて別に確認判決を得ても、当該訴訟限りの意味しか持たない。紛争が訴訟外の法律関係に広がることもない。
これに対し、権利能力のない社団の会長の地位は、単に第1訴訟における代表権の存否という訴訟要件に関わるにとどまらない。会長はXを代表する権限を有し、Xの業務執行、財産の管理、総会の招集、対外的な取引などXの活動全般にわたる団体法上の地位である。本件では、会員数約100名のXにおいてZ派とB派の対立が継続し、臨時総会の開催や運営に当たってもZやその支援者らの強い抵抗があった。Zの地位をめぐる紛争は、第1訴訟を離れてXの運営全般に及ぶものであり、その広がりは訴訟代理権の場合と実質的に異なる。
そうすると、Zが会長の地位にあることを既判力をもって確定することは、第1訴訟の訴訟要件としての判断にとどまらず、Xの内部紛争を抜本的に解決する機能を有する。
(3) 即時確定の必要性及び方法選択
Zは解任決議により会長の地位を否定され、Bが会長としてXを代表して訴えを提起するなど現に活動している。Zの地位は現実に危険にさらされており、即時確定の必要がある。また、会長の地位について給付の訴えや形成の訴えによることはできず、確認の訴えによるほかない。
(4) 結論
よって、Zの反訴には確認の利益が認められる。
2 反訴要件
反訴は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に、口頭弁論の終結に至るまで提起することができる(146条1項)。
まず、関連性が認められる。Zは本訴において、Bを代表者として提起された訴えは代表権を欠き不適法であるとして却下判決を求めるのであり、Bの代表権の存否は本訴に対するZの防御の方法そのものである。Zが会長の地位にあることの確認を求める反訴請求は、この防御の方法と直接の関連を有する。また、本訴にはZからBへの所有権移転登記手続請求が含まれており、Bが会長の地位にあるか否かはその請求の当否にも関わるから、本訴請求との関連性もある。
次に、著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときには当たらない(146条1項2号)。反訴の争点はZに解任事由としての職務上の義務違反又は職務怠慢があったかであるが、本訴においても、Zが本件不動産を子Cの債務の担保に供した経緯が主要な争点となる。両者の訴訟資料は共通に利用でき、審理が著しく重複し遅延することはない。
さらに、本件反訴は第一審の口頭弁論終結前に提起されるものであり(控訴審における反訴の場合に必要となる相手方の同意(300条1項)は不要である)、反訴請求が他の裁判所の専属管轄に属するものでもない(146条1項1号)。
よって、反訴要件は充足する。
第3 設問3
1 共同被告間に既判力は生じないこと
既判力は原則として当事者間に生ずる(115条1項1号)。第1訴訟においてYとZはいずれもXを相手方とする共同被告にすぎず、相互に対立当事者として攻撃防御を尽くしたものではない。したがって、前訴判決によってYとZとの間に当然に既判力が生ずることはない。
2 下線部① 平成6年判決の法理の援用の可否
判例は、権利能力のない社団が当事者として受けた判決の効力は、当該社団の構成員全員に対して及ぶとしている(最判平6.5.31)。この法理によれば、X・Y間の総有権確認請求を認容した前訴判決の効力はXの構成員であるZにも及び、結果としてY・Z間に既判力が生ずることになりそうである。
しかし、同法理の根拠は、権利能力のない社団が当事者となる訴訟において、社団はその構成員全員に総有的に帰属する権利関係について、代表者を通じて構成員全員のために訴訟を追行するものであり、構成員の利益は社団の訴訟追行によって代表されているという点にある。いわば構成員のための訴訟担当に類する関係があるからこそ、判決効の拡張が正当化される。
ところが本件では、Zは第1訴訟においてXの相手方である共同被告として、本件不動産は自己の個人財産であると主張して正面からXと対立している。Xの代表者Bは、Zを解任して会長となった者であり、ZはBによってその利益を代表されているとは到底いえない。かえってZは、Xとの間では当事者として自ら攻撃防御を尽くしており、X・Z間には既判力が生じている。
このように、構成員が社団の相手方として行動している場合には、判決効拡張の基礎となる利益代表の関係が欠けるから、平成6年判決の法理を援用してX・Y間の判決の効力をZに及ぼすことは適切でない。
3 下線部② 既判力の時的限界
仮に前訴判決の既判力がZに及ぶとしても、それが第2訴訟において意味を持つかは別問題である。
既判力は、事実審の口頭弁論終結時における訴訟物たる権利関係の存否の判断について生ずる。前訴判決が確定するのは、第1訴訟の口頭弁論終結時において本件不動産がXの構成員の総有に属していたという判断である。
これに対し、第2訴訟におけるYとZの対立点は、抵当権設定契約の時点において本件不動産がZの所有に属していたかである。この時点は前訴判決の基準時より前である。
所有権は時の経過とともに移転し得るものであるから、基準時に本件不動産がXの構成員の総有に属していたことから、それより前の抵当権設定契約時にZの所有に属していなかったことが論理的に導かれるわけではない。一物一権主義により同一時点で総有と個人所有が併存し得ないとしても、それは同一時点についていえることにすぎない。
確かに、前訴判決は、ZがAから本件不動産を買い受けた際にXのために購入したものであるとの判断を前提としており、Zがもともと所有権を有していなかったと判断したものと考えられる。しかし、これは判決理由中の判断であって既判力を生じない(114条1項)。
したがって、前訴判決の既判力は、第2訴訟における抵当権設定時の所有関係という争点に作用しない。
4 下線部③ 既判力以外の根拠
(1) 争点効
前訴において当事者が主要な争点として争い、裁判所がこれを審理判断した事項について、同一の争点が後訴の主要な争点となった場合に、前訴の判断に拘束力を認める争点効の理論がある。
しかし、114条1項が既判力の客観的範囲を主文に包含するものに限定した趣旨は、当事者が審判の対象として設定した訴訟物についてのみ拘束力を認め、理由中の判断については後訴での再審理を許すことで当事者の予測可能性を確保する点にある。明文の根拠なく理由中の判断に拘束力を認めることは、この趣旨に反し不意打ちを招く。判例も争点効を否定している。したがって、争点効によってYの主張を根拠付けることはできない。
(2) 信義則
次に、信義則(2条)により第2訴訟における再審理が封じられるかを検討する。
Yの主張するとおり、Yは、第1訴訟では本件不動産がXの構成員の総有に属するという理由で敗訴し、第2訴訟では本件不動産がZの所有に属するという相矛盾する理由で敗訴するおそれがあり、二重に敗訴する危険を負う。実体法上両立し得ない事実関係により二重に敗訴するのは不合理である。
しかし、Yは、第1訴訟の段階でこの危険を回避する手段を有していた。
第一に、YはZに対して訴訟告知(53条1項)をすることができた。Zは、本件不動産がXの総有に属すると判断されればYに対し担保責任を負う立場にあり、第1訴訟の判決理由中の判断がその法的地位に影響を及ぼすから、補助参加の利益を有する。訴訟告知をすれば、Zが参加しなくても参加することができた時に参加したものとみなされ(53条4項)、本件不動産がZの所有でなかったという理由中の判断についても参加的効力(46条)が及び、Zはこれを争えなくなったはずである。
第二に、Yは、第1訴訟においてZに対する損害賠償請求を予備的に併合提起し、又は別訴を提起して弁論の併合を求めることにより、同一手続内で矛盾のない判断を得ることもできた。
Yはこれらの手段を採らなかったのであり、二重敗訴の危険は自ら招いたものといわざるを得ない。他方、Zは、第1訴訟においても第2訴訟においても一貫して本件不動産は自己の所有であると主張しているのであって、矛盾した態度をとるものではなく、Zに信義則上非難すべき点はない。
したがって、信義則によってZの主張を遮断し第2訴訟における再審理を封じることはできない。
5 結論
よって、前訴判決が存在するにもかかわらず、第2訴訟において本件不動産の帰属に関して改めて審理及び判断をすることができる。Yの主張は認められない。
以上