司法試験 平成25年 民事訴訟法
問題文
[民事系科目]〔第3問〕(配点:100 〔〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は, 2. 5:2. 5:2:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問4〕までに答えなさい。
【事例1】Aは,甲1及び甲2の二筆の土地を所有していたところ,平成24年9月30日,土地甲1をBに遺贈する旨の遺言(遺言①)をし,同年10月31日,土地甲2をCに遺贈し,遺言執行者としてDを指定する旨の遺言(遺言②)をした。Aの夫は,既に亡くなっており,子EがいるもののAとは疎遠となっており,B及びCはいずれもAの友人である。Aは,同年12月1日,死亡した。
遺言①の存在を知ったEは,平成25年1月10日,遺言①はAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主張し,Bを被告として,遺言①が無効であることの確認を求める訴えを提起した(訴訟Ⅰ)。
以下は,Bの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生P1との間でされた会話である。
L1:遺言無効確認の訴えは,遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えですが,確認の利益は認められるでしょうか。判例はありますか。
P1:はい。最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決(民集26巻1号30頁)は,三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案において,次のように判示しています。
「本件記録によれば,Xら(原告・控訴人・上告人)は,訴外某が昭和35年9月30日自筆証書によつてなした遺言は無効であることを確認する旨の判決を求め,その請求原因として述べるところは,右某は昭和37年2月21日死亡し,Xら及びY1からY5まで(被告・被控訴人・被上告人)が同人を共同相続したものであるところ,右某は昭和35年9月30日第一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し,昭和37年4月2日大分家庭裁判所の検認をえたものであるが,右遺言は,右某がその全財産を共同相続人の一人にのみ与えようとするものであつて,家族制度,家督相続制を廃止した憲法24条に違背し,かつ,その一人が誰であるかは明らかでなく,権利関係が不明確であるから無効である,というものである。これに対し,Y1を除くその余の被上告人らは,本訴の確認の利益を争うとともに,本件遺言により右某の全財産の遺贈を受けた者はY2であることが明らかであるから,本件遺言は有効である旨抗争したものである。第一審は,遺言は過去の法律行為であるから,その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして,本訴を却下し,右第一審判決に対してXらより控訴したが,原審も,右第一審判決とほぼ同様の見解のもとに,本訴を不適法として却下すべき旨判断し,Xらの控訴を棄却したものである。
よつて按ずるに,いわゆる遺言無効確認の訴は,遺言が無効であることを確認するとの請求の趣旨のもとに提起されるから,形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが,請求の趣旨がかかる形式をとつていても,遺言が有効であるとすれば,それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは,適法として許容されうるものと解するのが相当である。けだし,右の如き場合には,請求の趣旨を,あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく,いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはなく,また,判決において,端的に,当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて,確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかだからである。
以上説示したところによれば,前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法というべきである。それゆえ,これと異なる見解のもとに,本訴を不適法として却下した原審ならびに第一審の判断は,民訴法の解釈を誤るものであり,この点に関する論旨は理由がある。したがつて,原判決は破棄を免れず,第一審判決を取り消し,さらに本案について審理させるため,本件を第一審に差し戻すのが相当である。」
L1:ありがとう。ただ,訴訟Ⅰの事案には昭和47年判決の事案とは異なるところがあるように思います。昭和47年判決を前提としながら,事案の違いを踏まえ,Eが提起した遺言①の無効確認を求める訴えが確認の利益を欠き不適法であると立論してみてください。
〔設問1〕あなたが司法修習生P1であるとして,弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。
【事例1(続き)】Cは,平成25年3月1日,土地甲2につき,遺言執行者Dとともに遺贈を原因とする所有権移転登記手続の申請をし,同日,上記登記が経由された。
Eは,同年5月1日,遺言②はAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主張し,Dを被告として,上記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(訴訟Ⅱ)。
以下は,Dの訴訟代理人である弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。
L2:EがDを被告として本件訴えを提起したのはなぜだか分かりますか。
P2:はい。遺言執行者は,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており,遺言執行者がある場合に,相続人は相続財産についての処分権を失い,右処分権は遺言執行者に帰属します(民法第1012条,第1013条)。また,最高裁判所の判決にも,「相続人は遺言執行者を被告として,遺言の無効を主張し,相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができるのである。」と述べるものがあります(最高裁判所昭和51年7月19日第二小法廷判決・民集30巻7号706頁) 。Eはその趣旨に従ったのだと思います。
L2:なるほど。ただ,本件でもそのように言うことができるでしょうか。私としては,本案前の抗弁として,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格がないと主張し,訴えの却下の判決を求めようと考えています。このような立場から立論してみてください。
〔設問2〕あなたが司法修習生P2であるとして,弁護士L2から与えられた課題に答えなさい。
【事例2】材木商Fは,土地乙をその所有者Jから賃借し,材木置場として利用していたところ,平成15年4月1日,死亡した。Fの相続人は,その子であるG及びHの2名であり,Fの妻I(G及びHの母)はFより先に亡くなっている。
Gは,Fの死亡後,家業を継ぎ,土地乙を引き続き材木置場として利用している。
ところが,土地乙については,平成13年4月1日に同日付け売買を原因とするJからHへの所有権移転登記がされている。
Gは,平成23年1月10日,Hを被告として,土地乙につきGが所有権を有することの確認及びGへの所有権移転登記手続を求める訴えを提起したところ,Hは,土地乙の明渡しを求める反訴を提起した。
この訴訟(以下「前訴」という。)において,Gは,土地乙は,Gの父Fからその生前に贈与を受けた資金でGがJから買い受けたものであると主張し,Hは,Jから土地乙を買い受けたのはGではなく,Hの父Fであり,その後HがFから土地乙の贈与を受けたと主張した。
前訴の裁判所は,審理の結果,土地乙をJから買い受けたのは,GではなくFであると認められるが,HがFから土地乙の贈与を受けた事実は認められないとの心証を得たものの,それ以上,何らの釈明を求めることなく,Gの本訴請求とHの反訴請求をいずれも棄却する判決を言い渡し,同判決は,そのまま確定した。
ところが,その後もHが贈与により土地乙の単独所有権を取得したと主張したため,Gは,平成25年3月15日,Hに対し,土地乙がFの遺産であることを前提として,相続により取得した土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。
この訴訟(以下「後訴」という。)において,Hは,前訴の本訴請求についての判決により,土地乙はGの所有でないことが確定しており,この点について既判力が生じているから,Gは相続による共有持分の取得を主張することもできないと主張している。
以下は,後訴におけるGの訴訟代理人である弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
P3:前訴判決の認定によれば,土地乙はFの遺産に属し,したがって,Gは法定相続分に応じた共有持分権を有していることになるので,前訴において,Gの請求はその限度で認容されるべきであったのではないでしょうか。
L3:確かにそのような疑問は湧きますね。そもそも訴訟物のレベルにおいてGが単独所有権に基づく請求をしているのに,共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容としてできるかについては議論がありますが,両者は実体的に包含関係にあり,一個の訴訟物の一部として共有持分権の限度で請求を認容することは可能であるという前提で考えてください。
P3:分かりました。
L3:それから,今の点とは別に,Gが相続によって不動産を取得したことを主張する場合の請求原因が何であるか確認する必要がありますね。その上で,主張のレベルにおいて,裁判所は,請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるかということが問題になりそうです。検討してみてください。
〔設問3〕
⑴ 相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は何か。本件の事実関係に即して説明しなさい(共有持分の割合に関する部分は捨象すること。)。
⑵ 前訴における当事者の主張を前提とすると,裁判所は,適切に釈明権を行使したならば,上記請求原因を判決の基礎とすることができるかどうか,検討しなさい。
【事例2(続き)】以下は,数日後に弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
L3:さて,我々としては,前に検討してもらった諸点を踏まえて,Hの上記主張に対し,Gの法律上の反論を考えることになりますが,見通しはどうですか。
P3:法律論としてまとめきれていないのですが,前訴ではHの反訴請求も棄却されているにもかかわらず,後訴で前訴判決の既判力を持ち出してGの共有持分権を否定するというHの態度には問題があるような気がします。既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した判例(最高裁判所昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁)と関連付けて法律論を組み立てられないかと考えています。
例えば,平成10年判決は,次のように述べています。いわゆる明示の一部請求の訴訟物は,その債権全体のうちの一部請求部分に限られるという考え方を前提とする判旨です。
「一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するものではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。すなわち,裁判所は,当該債権の全部について当事者の主張する発生,消滅の原因事実の存否を判断し,債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号1355頁参照),現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,現存額が請求額に満たないときは現存額の限度でこれを認容し,債権が全く現存しないときは右請求を棄却するのであって,当事者双方の主張立証の範囲,程度も,通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満た ない額しか現存しないとの判断を示すものであって,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって,右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと,金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限り,信義則に反して許されないと解するのが相当である。」
L3:そうですね。既判力は前訴の訴訟物の範囲について生じ,その範囲で後訴において作用するのが原則ですが,あなたが指摘してくれた昭和51年判決や平成10年判決のように,判例は,訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めています。訴訟物の範囲を超える部分では信義則が働くという論法です。
このように信義則を理由として訴訟物の範囲よりも広く蒸し返しを禁じること(遮断効の拡張)が認められるのであれば,信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い範囲に止めること(遮断効の縮小)も認められるかもしれません。遮断効の縮小に関しては,色々な考え方があり得ますが,本件では,平成10年判決を参考にして立論することにしましょう。言うまでもなく,信義則は一般条項ですから,これを持ち出す場合には,どのような事情がいかなる理由により信義則の適用を基礎付けるのか,十分検討する必要があります。困難な課題ではありますが,Hの上記主張に対し,Gの立場から考えられる法律上の主張を立論してみてください。
〔設問4〕あなたが司法修習生P3であるとして,弁護士L3から与えられた課題に答えなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第3問〕本問は,二つの相続紛争事案を基に,確認の利益(設問1),当事者適格(設問2),弁論主義(設問3)及び判決の効力(設問4)について検討することを求めている。問題文には,事実関係のほか,関係する判例や考え方の方向性等が示されており,受験者にはこれらの情報を踏まえた上でその先の考察を行うことが期待されている。
〔設問1〕は,遺言無効の確認を求める訴えである訴訟Ⅰについて,訴えが確認の利益を欠き不適法であるとする立場からの立論を行うこと,換言すれば,本件には最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決・民集26巻1号30頁の判例の射程が及ばず,本件で遺言無効の確認を求めることは確認対象の選択において適切でないと論じることを求めている。
一般に,現在の権利又は法律関係の存否ではなく,その前提に過ぎない過去の事実や法律関係の存否を問題とすることは,多くの場合迂遠であるし,その後の法律関係の変動が考慮されず,現在の紛争の解決に役立つとも限らないことから,過去の法律関係の存否の確認を求める訴えには,原則として確認の利益がないとされている(売買契約の無効の確認を求める訴えにつき最高裁判所昭和41年4月12日第三小法廷判決・民集20巻4号560頁)。【原則及びその根拠】昭和47年最判によれば,遺言が無効であることの確認を求める訴えは適法として許容される場合があるとされているけれども,同最判の事案は,多数の不動産等を含む全財産を一人の相続人に遺贈するというものであり,そのような場合に個々の財産について原告の共有持分権に引き直してその確認を求めるとすれば,特定の財産を漏らしたりする危険もある。そのようなことを想定すると,遺言が複数の財産を対象とするような事案においては,対象財産全てに共通する遺言という基本的法律行為の無効を既判力により確定する方が,より直接的かつ抜本的な紛争解決につながるものといえる。【昭和47年最判の理解】これに対し,訴訟Ⅰで問題とされている遺言①の対象財産は,土地甲1だけであり,遺言①の無効の確認を求めることによって多数の紛争を一挙に解決できるという関係にない。Eとしても,Bを被告として現在の法律関係である土地甲1の所有権の確認を求める訴えを提起できれば紛争の解決として十分である。昭和47年最判は本件とは事案を異にし,本件にその判例の趣旨は及ばない。【本件事案への当てはめ】昭和47年最判についてはより広く遺言無効の訴えを許容したものという理解もあり得るが,設問の趣旨に沿って訴訟Ⅰが確認の利益を欠くというためには,以上のように立論することになろう。
過去の法律関係の存否の確認を求める訴えが許されないという原則の根拠に関し,設問に対する解答を超えて確認の利益の一般論(対象選択の適否,手段としての適否等)を論じても,特に評価の対象とはしない。昭和47年最判との関係では,なぜ上記原則の例外が認められるのか,その理由を説明することが必要である。本件事案への当てはめに関しては,昭和47年最判の事案と本件の事案とが区別できること,換言すれば,二つの事案の相違とその意味することを理解し,答案に表現できていることが必要であるが,重要なのは対象財産の個数であり,相続人の人数の多寡や受遺者が相続人であるか否かがポイントになっているわけではない。
〔設問2〕は,所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えである訴訟Ⅱについて,被告とされた遺言執行者Dが被告適格を欠き,訴えは不適法であるとする立場からの立論を行うこと,換言すれば,遺言執行者が遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することを定めた民法の規定や,相続人が遺言執行者を被告として遺言の無効を主張し,相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴を提起することができる旨述べる最高裁判決があるにもかかわらず,訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格が認められないことを,その根拠と共に論じることを求めている。
遺言執行者が相続財産について有する管理処分権,ひいては法定訴訟担当として認められるその当事者適格も,遺言執行という任務に由来するものであるが,訴訟Ⅱで問題とされている遺言②の対象財産は土地甲2のみであり,遺言②に基づく遺言執行の内容も同土地の所有権移転登記を行うことに尽きる。ところが,登記が受遺者Cに移転した以上,この遺言②の執行は終了しており,遺贈目的物の管理処分権も遺言執行者ではなく受遺者Cに帰属することからすれば,所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えは,登記名義人であり本来の登記義務者である受遺者Cを被告として提起すべきである。
遺言執行者Dが被告適格を欠くというためには,このように立論することになろう。
相続財産に関する訴訟において遺言執行者に被告適格が認められることの根拠に関しては,遺言執行者の実体法上の地位(問題文に書かれている内容)を再確認し,法定訴訟担当であることなど遺言執行者の訴訟法上の地位に言及すべきであるが,設問に対する解答を超えて「そもそも当事者適格とは‥」といった当事者適格の一般論を論じても特に評価の対象とはしない。
本件事案への当てはめに関しては,登記の移転により遺言の執行が終了したこと及び遺贈目的物の管理処分権が受遺者に帰属していることの二点を指摘すべきであり,仮に遺言執行者が当事者適格をもち続けることとなれば,遺言執行者がいつまでも相続紛争から解放されないことになって不都合であるといった指摘があれば評価できる。
〔設問3〕及び〔設問4〕は,相続人であるG及びHのうち,Gが相続財産である土地乙を占有し,Hが同土地の登記名義を有しているという事実関係において,GがHに対し売買による土地乙の取得を請求原因として所有権移転登記手続を求める訴え等を提起し,HがGに対し同土地の明渡しを求める反訴を提起した(前訴)ところ,本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却する判決がされて確定し,その後,GがHに対し今度は相続を請求原因として土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した(後訴)という事案を基に,後訴においてHがした主張,すなわち『前訴の本訴請求についての判決により,土地乙はGの所有でないことが確定しており,この点について既判力が生じているから,Gは相続による共有持分の取得を主張することもできない』との主張にGの立場から反論することを求めている。
弁護士L3と司法修習生P3との会話にもあるとおり,前訴判決の認定によれば土地乙はFの遺産に属し,したがって,Gは法定相続分に応じた共有持分権を有していることになるが,単独所有権と共有持分権は実体的に包含関係にあり,一個の訴訟物の一部として共有持分権の限度で請求を認容することは可能であるという理解を前提とする。
〔設問3〕は,まず議論の前提を整理するものである。
小問1では,相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因を本件の事実関係に即して摘示することが求められている。請求原因事実その他の主要事実とは,法律要件に該当する具体的な事実をいい,抽象的な摘示,例えば,金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権の請求原因事実を「返還約束」と「金銭の授受」であると解答するようではいけない。本問では,①『Fは平成15年4月1日死亡』,②『GはFの子』,③『Jは土地乙をもと所有』,及び④『JF売買』を摘示すべきであるが,上記③④の代わりに『Fは①の当時土地乙所有』と書いた答案にも同じ評価をする。
小問2では,小問1で整理した請求原因ごとに各事実が当事者から主張されているか否かを検討することが求められている。具体的にみると,上記①,②及び③については,「父Fから」
「その生前に」などのGの主張から読み取ることができるのに対し,上記④については,Gはこれと矛盾する「JG売買」を主張し,かえってHが④を主張していることから,このように請求原因の一部でありながら原告であるGが主張していない事実を判決の基礎とすることができるか否かということが問題となる。
弁論主義は,裁判所と当事者との間の役割分担を問題とするものであるから,主要事実の主張はいずれの当事者からされてもよく,ある主要事実が既に当事者によって主張されているときは,それがたまたま主張責任を負っていない当事者によって主張されていても,裁判所は,この事実を斟酌でき(主張共通の原則),そうすると,上記④についても判決の基礎とすることができる。
なお,上記③④に代えて『Fは①の当時土地乙所有』を請求原因として挙げた場合は,この点はGもHも主張していないため,これ自体について主張共通の問題にはならないが, 『Fは①の当時土地乙所有』を基礎付ける上記③④のうち④について上記に述べた通り主張共通問題を生じることになる。
このように必要な請求原因事実の主張に欠けるところはないと理解すると,弁論主義の本来の趣旨からは,設問の場面において裁判所の釈明は不可欠なものでないことになるが,それが裁判所の心証の所在を敗訴の可能性のある当事者(この場面で言えばH)に対して明らかにし,注意を喚起するためのものであるなどの説明があれば評価できる。
〔設問4〕は,既判力による遮断効の範囲が縮小するという理論構成をし,Gの立場からHの主張に反論することを求めている。遮断効の範囲の縮小に関しては色々な考え方があり得るものの,本問では,問題文において示唆されているとおり,明示的一部請求の事案において,既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した判例と関連付けて論じることが求められている。
前訴でGの所有権確認請求の全部棄却が確定した以上,Gが乙土地について共有持分権を有するとの主張は既判力により遮断されるのが原則である。【原則の確認】しかし,前訴でHは,反訴請求原因事実としてJF売買・FH贈与を主張し,裁判所が前者を認め後者を否定した以上,前訴判決には乙土地がFの遺産であるとの裁判所の判断が示されており,設問3で検討したように,本来Gの本訴請求は相続分に応じた共有持分の限度で一部認容されるべきであったことを考えれば,後訴において,Fからの相続による乙土地の共有持分権の取得をGが主張することが紛争の蒸し返しであるとは評価できない。【Gの主張の評価】かえって,後訴においてHが,前訴裁判所の上記判断を前提としてFの死亡によりその子Gが共有持分権を取得したとするGの主張を,Gの所有権確認請求を全部棄却した内容的に不当な判決の既判力を持ち出して争うことは,上記判断が前訴におけるHの自己責任に基づく訴訟追行の結果であることに照らすと,信義則違反である。【Hの信義則違反】そうすると,Gの所有権確認請求を全部棄却した確定判決の既判力は,後訴におけるGの上記主張を遮断しない限度で,訴訟物の枠よりも縮小される。【結論】いずれにせよ,Hの信義則違反に何らかの形で引き寄せて論じることが必要であり,また,信義則という一般条項を用いるからには,どのような事情がいかなる理由により信義則の適用を基礎付けるのかを具体的に論じなければならない。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 確認の利益の判断枠組み
確認の訴えは、その性質上対象が無制限に拡大するおそれがあり、また給付の訴えと異なり執行力がないため、紛争の抜本的解決に資する場合に限り確認の利益が認められる。その判断は、確認対象の選択の適否、即時確定の現実的必要性、方法選択の適否という観点からされる。
本件で問題となるのは確認対象の選択の適否である。
2 過去の法律行為の確認が原則として許されない理由
一般に、現在の権利又は法律関係の存否ではなく、その前提にすぎない過去の事実や法律関係の存否の確認を求める訴えには、確認の利益がないのが原則である(売買契約の無効確認につき最判昭41.4.12)。
その根拠は、第一に、過去の法律関係を確定しても、そこから現在の権利関係を導くにはなお法律上の評価を要するから迂遠であること、第二に、過去の法律行為から現在に至るまでの法律関係の変動が考慮されず、現在の紛争の解決に役立つとは限らないことにある。
3 昭和47年判決の理解
これに対し、判例は、遺言無効確認の訴えについて、請求の趣旨が形式上過去の法律行為の確認を求める形をとっていても、遺言が有効であるとすればそれから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは適法であるとした(最判昭47.2.15)。
その理由として、同判決は、審理判断の対象が明確さを欠くことはなく、また当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効を端的に判示することによって確認訴訟の紛争解決機能が果たされることを挙げる。
もっとも、同判決の事案は、三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を一人の相続人に遺贈するというものであった。このような事案では、個々の財産ごとに原告の共有持分権の確認に引き直すとすれば、対象財産が多数であるために特定の財産を漏らす危険があり、また訴訟が複雑化する。対象財産の全てに共通する基本的法律行為である遺言の無効を既判力によって確定する方が、より直接的かつ抜本的な紛争解決につながる。前記原則の例外が認められるのは、このような事情があるからである。
4 本件へのあてはめ
本件の遺言①は、土地甲1をBに遺贈する旨のものにすぎず、対象財産は土地甲1の一筆だけである。したがって、遺言①の無効を確認することによって多数の紛争を一挙に解決できるという関係にない。
Eは、Bを被告として、現在の法律関係である土地甲1の所有権が自己に帰属することの確認を求める訴えを提起することができる。遺言①が無効であれば土地甲1はAの遺産としてEに帰属するのであって、所有権の確認を求めれば足り、確認対象を漏らす危険もない。かえって、遺言①の無効という過去の法律行為の確認にとどめれば、その後の法律関係の変動、例えばBからの転々譲渡の有無などが判断から外れ、現在の紛争の解決に直結しない。
そうすると、本件は昭和47年判決の事案とは異なり、同判決の趣旨は本件には及ばない。遺言①の無効確認という確認対象の選択は適切でなく、現在の法律関係の確認を求めるべきであったといえる。
よって、Eの提起した訴訟Ⅰは確認の利益を欠き不適法であり、却下されるべきである。
第2 設問2
1 遺言執行者の地位
当事者適格とは、訴訟物たる特定の権利又は法律関係について当事者として訴訟を追行し判決を受けるにふさわしい資格をいい、原則として当該権利関係の帰属主体に認められる。
遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し(民法1012条)、遺言執行者がある場合には相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができない(同法1013条)。したがって、遺言の執行に必要な範囲で相続財産の管理処分権は遺言執行者に帰属する。
この実体法上の管理処分権に基づき、遺言執行者は、遺言の執行に関する訴訟について法定訴訟担当として当事者適格を有する。判例も、相続人は遺言執行者を被告として、遺言の無効を主張し、相続財産について自己が持分権を有することの確認を求める訴えを提起することができると述べている(最判昭51.7.19)。
2 本件における被告適格
もっとも、遺言執行者の管理処分権、ひいては法定訴訟担当としての当事者適格は、遺言執行という任務に由来するものである。そうであれば、遺言の執行が終了し、もはや管理処分権を有しなくなった場合には、当事者適格も失われると解すべきである。
本件の遺言②は、土地甲2をCに遺贈する旨のものであり、対象財産は土地甲2のみである。そして、遺言②に基づく遺言執行の内容は、受遺者Cのために土地甲2の所有権移転登記手続をすることに尽きる。
ところが、平成25年3月1日、Cは遺言執行者Dとともに遺贈を原因とする所有権移転登記手続の申請をし、同日、同登記が経由された。これにより遺言②の執行はすべて終了しており、Dはもはや土地甲2について管理処分権を有しない。遺贈の目的物の管理処分権は、登記名義を取得した受遺者Cに帰属している。
そして、訴訟Ⅱは、C名義の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えである。抹消登記手続を命ずる判決の効力を受け、これを履行すべき本来の登記義務者は、登記名義人である受遺者Cである。したがって、訴訟Ⅱの被告適格は受遺者Cにあり、遺言執行者Dにはない。
なお、遺言の執行が終了した後も遺言執行者が当事者適格を有し続けるとすれば、遺言執行者はその任務を終えたにもかかわらずいつまでも相続紛争から解放されないことになり、不当である。
3 結論
よって、Dは被告適格を欠き、Eの提起した訴訟Ⅱは不適法として却下されるべきである。
第3 設問3
1 小問⑴
相続による特定財産の取得を主張する者は、被相続人が当該財産を所有していたこと及び自己が相続によりこれを承継したことを基礎付ける具体的事実を主張しなければならない。
本件の事実関係に即していえば、Gが主張すべき請求原因は、①Fが平成15年4月1日に死亡したこと、②GがFの子であること、③Jが土地乙をもと所有していたこと、及び④JとFとの間で土地乙の売買契約が締結されたことである。
①②は相続による承継を基礎付ける事実であり、③④はFが土地乙の所有権を有していたことを基礎付ける事実である。なお、③④に代えて、Fが①の当時土地乙を所有していたことを摘示することも許される。
2 小問⑵
(1) 問題の所在
前訴において、Gは、土地乙はFからその生前に贈与を受けた資金でGがJから買い受けたものであると主張した。ここからは、Fが死亡したこと(①)、GがFの子であること(②)及びJが土地乙をもと所有していたこと(③)を読み取ることができる。
これに対し、④のJF売買については、Gはこれと矛盾するJG売買を主張しており、かえってHが反訴請求原因として④を主張している。そこで、請求原因の一部であって原告Gが主張していない事実を、裁判所が判決の基礎とすることができるかが問題となる。
(2) 主張共通の原則
弁論主義の第一テーゼは、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることができないというものである。その趣旨は、訴訟資料の収集提出を当事者の権能かつ責任とし、裁判所と当事者との役割分担を定めるとともに、当事者に不意打ちを与えないことにある。
このように弁論主義は裁判所と当事者との間の役割分担を問題とするものであるから、主要事実の主張はいずれの当事者からされてもよい。ある主要事実が既に当事者によって主張されているときは、それがたまたま主張責任を負わない当事者によって主張されたものであっても、裁判所はこれを斟酌することができる(主張共通の原則)。相手方が自ら主張した事実を基礎に判断されても不意打ちとはならないからである。
(3) 本件へのあてはめ
本件では、④のJF売買はHが反訴請求原因として主張している。したがって、主張共通の原則により、裁判所はこれを判決の基礎とすることができる。①から③までもGの主張から読み取ることができる。
そうすると、前訴において相続による取得の請求原因事実の主張に欠けるところはなく、裁判所は、Gが土地乙の共有持分権を相続により取得したとの請求原因を判決の基礎とすることができた。弁論主義の本来の趣旨からすれば、この場面で裁判所の釈明は不可欠なものではない。
もっとも、裁判所がこの構成によって判断するのであれば、Hは本訴請求が一部認容される可能性があることを認識していない。釈明権の行使(149条1項)は、裁判所の心証の所在を敗訴の可能性のある当事者であるHに明らかにし、その注意を喚起して攻撃防御の機会を与えるものとして意義を有する。したがって、裁判所は適切に釈明権を行使した上で、上記請求原因を判決の基礎とし、Gの本訴請求を共有持分権の限度で一部認容すべきであった。
第4 設問4
1 原則の確認
既判力は、主文に包含するものに限り生ずる(114条1項)。前訴の本訴請求は土地乙についてGが所有権を有することの確認であり、これを棄却する判決が確定した以上、前訴の口頭弁論終結時においてGが土地乙の所有権を有しないことが既判力をもって確定される。
そして、単独所有権と共有持分権は実体的に包含関係にあり、共有持分権の限度で一部認容が可能であることを前提とすれば、Gが共有持分権を有するとの主張も前訴の訴訟物の範囲に含まれ、既判力により遮断されるのが原則である。Hの主張はこの原則に沿うものである。
2 信義則による遮断効の縮小
もっとも、既判力は前訴の訴訟物の範囲について生じ、その範囲で後訴において作用するのが原則であるが、判例は、訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めている。明示的一部請求で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものであるから、特段の事情がない限り信義則に反して許されないとされる(最判平10.6.12。最判昭51.9.30も参照)。
このように、既判力の作用は、前訴における当事者の訴訟追行の態様と後訴における主張の実質に照らし、信義則によって訴訟物の枠を超えて拡張され得る。そうであれば、逆に、既判力の作用を訴訟物の枠より狭い範囲にとどめること、すなわち遮断効の縮小も、信義則によって認められ得ると解すべきである。既判力は紛争解決の実効性と相手方の信頼の保護のための制度であり、その援用が当該当事者の訴訟追行の結果に照らして著しく不当である場合には、信義則による修正を受けるからである。
3 本件へのあてはめ
第一に、Gが後訴で主張するのは、Fからの相続による土地乙の共有持分権の取得である。しかし、これは前訴において裁判所が認定したところと完全に一致する。前訴の裁判所は、土地乙をJから買い受けたのはGではなくFであると認定しており、前訴判決には土地乙がFの遺産であるとの判断が示されている。そして設問3で検討したとおり、前訴において主張共通の原則により請求原因事実の主張に欠けるところはなく、本来Gの本訴請求は相続分に応じた共有持分の限度で一部認容されるべきであった。
そうすると、Gが後訴で共有持分権の取得を主張することは、前訴で認められなかった主張を蒸し返すものではなく、かえって前訴判決が本来下すべきであった判断を求めるものである。Hに二重の応訴の負担を強いるともいえない。
第二に、前訴において土地乙がFの遺産であるとの判断が示されたのは、HがJF売買及びFH贈与を反訴請求原因として主張し、そのうち前者が認められ後者が否定されたという、H自身の訴訟追行の結果である。Hは自ら土地乙がFの遺産であることを前提とする主張をしたのであって、前訴判決によって土地乙がGに何らの権利もない財産であると確定されたという期待を有し得る立場にない。しかも前訴ではHの反訴請求も棄却されており、Hは前訴判決によって自己の所有権を確定してもいない。
それにもかかわらず、Hが後訴において、自ら主張した事実に基づく前訴裁判所の判断を前提とするGの主張を、Gの所有権確認請求を全部棄却した内容的に不当な前訴判決の既判力を持ち出して争うことは、自己責任に基づく訴訟追行の結果に反する態度であって、信義則(2条)に反する。
4 結論
よって、Gの所有権確認請求を全部棄却した前訴確定判決の既判力は、後訴におけるGの共有持分権取得の主張を遮断しない限度で、訴訟物の枠よりも縮小される。Hの主張は信義則に反して許されず、Gは相続による共有持分の取得を主張することができる。
以上