司法試験 平成24年 民事訴訟法
問題文
[民事系科目]〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3.5:4:2.5〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
【事例】Xは,Aに対し,300万円を貸し渡したが,返済がされないまま,Aについて破産手続が開始された。Xは,BがAの上記貸金返還債務を連帯保証したとして,Bに対し,連帯保証債務の履行を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。
第1回口頭弁論期日において,被告Bは,保証契約の締結の事実を否認した。
原告Xは,書証として,連帯保証人欄にBの記名及び印影のある金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書(資料参照。以下「本件連帯保証契約書」という。なお,その作成者は証拠説明書においてX,A及びBとされている。)を提出した。
Bは,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の印影は自分の印章により顕出されたものであるが,この印章は,日頃から自分の所有するアパートの賃貸借契約の締結等その管理全般を任せている娘婿Cに預けているものであり,押印の経緯は分からないと述べた。Xが主張の補充を検討したいと述べたことから,裁判所は,口頭弁論の続行の期日を指定した。
以下は,第1回口頭弁論期日の後にXの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会話である。
弁護士L:証拠として本件連帯保証契約書がありますから,立証が比較的容易な事件だと考えていましたが,予想していなかった主張が被告から出てきました。被告の主張は,現在のところ裏付けもなく,そのまま鵜呑みにすることはできませんから,当初の請求原因を維持し,本件連帯保証契約書を立証の柱としていく方針には変わりはありません。もっとも,Xによれば,本件連帯保証契約書の作成の経緯は「主債務者AがCとともにX方を訪れた上,連帯保証人欄にあらかじめBの記名がされ,Bの押印のみがない状態の契約書を一旦持ち帰り,後日,AとCがBの押印のある本件連帯保証契約書を持参した」ということのようですから,こちら側から本件連帯保証契約書の作成状況を明らかにしていくことはなかなか難しいと思います。
修習生P:二段の推定を使えば,本件連帯保証契約書の成立の真正を立証できますから,それで十分ではないでしょうか。
弁護士L:確かに,保証契約を締結した者がB本人であるとの前提に立てば,二段の推定を考えていけば足りるでしょう。他方で,仮にCがBから印章を預かっていたとすると,CがBの代理人として本 件連帯保証契約書を作成したと いうことも十分考えられます。
修習生P:しかし,本件連帯保証契約書には「B代理人C」と表示されていないので,代理人Cが作成した文書には見えないのですが。
弁護士L:代理人が本人に代わって文書を作成する場合に,代理人自身の署名や押印をせず,直接本人の氏名を記載したり,本人の印章で押印したりする場合があり,このような場合を署名代理と呼んでいます。その法律構成については,考え方が分かれるところですが,ここでは取りあえず通常の代理と同じであると考え,かつ,代理人の作成した文書の場合,その文書に現れているのは代理人の意思であると考えると,本件連帯保証契約書の作成者は代理人Cとなります。
そこで,私は,念のため,第2の請求原因として,Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加し,敗訴したときには無権代理人Cに対し民法第117条の責任を追及する訴えを提起することを想定して,Cに対し,訴訟告知をしようと考えています。
修習生P:訴訟告知ですか。余り勉強しない分野ですのでよく調べておきます。
しかし,本件連帯保証契約書を誰が作成したかが明らかでないからといって,第2の請求原因を追加する必要までありますか。裁判所が審理の結果を踏まえてCがBの代理人として保証契約を締結したと認定すれば足りるのではないでしょうか。最高裁判所の判決にも,傍論ながら,契約の締結が当事者本人によってされたか,代理人によってされたかは,その法律効果に変わりがないからとして,当事者の主張がないにもかかわらず契約の締結が代理人によってされたものと認定した原判決が弁論主義に反しないと判示したもの(最高裁判所昭和33年7月8日第三小法廷判決・民集12巻11号1740頁)があるようですが。
弁護士L:その判例の読み方にはやや難しいところがありますから,もう少し慎重に考えてください。先にも言ったとおり,本件連帯保証契約書の作成者が代理人Cであるという前提に立つと,本件連帯保証契約書において保証意思を表示したのは代理人Cであると考えられ,その効果がBに帰属するためには,BからCに対し代理権が授与されていたことが必要となります。そうだとすると,第2の請求原因との関係では,BからCへの代理権授与の有無が主要な争点になるものと予想され,本件連帯保証契約書が証拠として持つ意味も当初の請求原因とは違ってきますね。なぜだか分かりますか。
修習生P:二段の推定が使えるかどうかといったことでしょうか。
弁護士L:良い機会ですから,当初の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,①XA間における貸金返還債務の発生原因事実,②XB間における保証契約の締結,③②の保証契約が書面によること及び④①の貸金返還債務の弁済期の到来であり,第2の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,①XA間における貸金返還債務の発生原因事実,②代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為),③②の保証契約の締結に先立って,BがCに対し,同契約の締結についての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実), ④②の保証契約が書面によること及び⑤①の貸金返還債務の弁済期の到来であるとして,処分証書とは何か,それによって何がどのように証明できるかといった基本に立ち返って考えてみましょう。
〔設問1〕
⑴ Xが当初の請求原因②の事実を立証する場合と第2の請求原因③の事実を立証する場合とで,本件連帯保証契約書が持つ意味や,同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることが持つ意味にどのような違いがあるか。弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえて説明せよ。
⑵ Xが第2の請求原因を追加しない場合においても,裁判所がCはBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したとの心証を持つに至ったときは,裁判所は,審理の結果を踏まえて,CがBの代理人として保証契約を締結したと認定して判決の基礎とすることができるというPの見解の問題点を説明せよ。
【事例(続き)】第2回口頭弁論期日において,原告Xは,第2の請求原因として,被告Bではなくその代理人Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加した。Bは,第2の請求原因に係る請求原因事実のうち,保証契約の締結に先立ちBがCに対し同契約の締結についての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)を否認し,代理人Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為)は知らないと述べた。
第3回口頭弁論期日において,Xは,第3の請求原因として,Xは,Cには保証契約を締結することについての代理権があるものと信じ,そのように信じたことについて正当な理由があるから,民法第110条の表見代理が成立する旨の主張を追加した。Bは,表見代理の成立の要件となる事実のうち,基本代理権の授与として主張されている事実は認め,その余の事実を否認した。
同期日の後,Xは,Cに対し,訴訟告知をし,その後,BもCに対して訴訟告知をしたが,Cは,X及びBのいずれの側にも参加しなかった。
裁判所は,審理の結果,表見代理が成立することを理由として,XのBに対する請求を認容する判決を言い渡し,同判決は確定した。
Bは,CがBから代理権を与えられていないにもかかわらず,Xとの間で保証契約を締結したことによって訴訟1の確定判決において支払を命じられた金員を支払い,損害を被ったとして,Cに対し,不法行為に基づき損害賠償を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。
〔設問2〕訴訟2においてBが,①CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと,②①の保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことはなかったこと, を主張した場合において, Cは, 上記①又は②の各事実を否認することができるか。
Bが訴訟1においてした訴訟告知に基づく判決の効力を援用した場合において,Cの立場から考えられる法律上の主張とその当否を検討せよ。
【事例(続き)】以下は,訴訟1の判決が確定した後 に原告Xの訴訟代理人弁護士Lと 司法修習生Pとの間でされた会話である。
弁護士L:今回は幸いにして勝訴することができましたが,私たちの依頼者Xとしては,仮にBに敗訴することがあったとしても,少なくともCの責任は問いたいところでした。そこで,B及びCに対する各請求がいずれも棄却されるといういわゆる「両負け」を避けるため,今回は訴訟告知をしましたが,民事訴訟法にはほかにも「両負け」を避けるための制度があることを知っていますか。
修習生P:同時審判の申出がある共同訴訟でしょうか。
弁護士L:そうですね。良い機会ですから,今回の事件の事実関係の下で同時審判の申出がある共同訴訟によったとすれば,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告が「両負け」を避けることができたのか,整理してみてください。例えば,以下の事案ではどうなるでしょうか。
(事案)XがB及びCを共同被告として訴えを提起し,Bに対しては有権代理を前提として保証債務の履行を求め,Cに対しては民法第117条に基づく責任を追及する請求をし,同時審判の申出をした。第一審においては,Cに対する代理権授与が認められないという理由で,Bに対する請求を棄却し,Cに対する請求を認容する判決がされた。
〔設問3〕同時審判の申出がある共同訴訟において,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告の「両負け」を避けることができるか。上記 (事案)の第一審の判決に対し,①Cのみが控訴し,Xは控訴しなかった場合と,②C及びXが控訴した場合とを比較し,控訴審における審判の範囲との関係で論じなさい。
【資料】金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書平成○○年○月○日住 所 ○○県○○市・・・ (略)
貸主 X 印住 所 ○○県○○市・・・ (略)
借主 A 印住 所 ○○県○○市・・・ (略)
連帯保証人 B 印1 本日,借主は,貸主から金三百萬円を次の約定で借入れ,受領した。
弁済期 平成○○年○月○日利 息 年3パーセント(各月末払)
損害金 年10パーセント2 借主が次の各号の一にでも該当したときは,借主は何らの催告を要しないで期限の利益を失い,元利金を一時に支払わなければならない。
⑴ 第三者から仮差押え,仮処分又は強制執行を受けたとき・・・・(略)
3 連帯保証人は,借主がこの契約によって負担する一切の債務について,借主と連帯して保証債務を負う。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第3問〕本問は,原告Xが被告Bに対し連帯保証債務の履行を求める訴えを提起したが,Bの陳述から,その保証契約の締結の際,代理人としてCが関与していた可能性があることが明らかになったため,XがXC間での保証契約の締結という第2の請求原因を追加することを検討しているという事案を基に,書証による証明(設問1・小問(1) ),当事者からの主張の要否(同・小問(2)),訴訟告知の効力(設問2)及び同時審判申出共同訴訟の機能(設問3)について論じることを求め ている。
〔設問1〕の小問(1)は,連帯保証債務の履行を求める訴えである訴訟1において,原告Xが当初の請求原因②の事実(XB間における連帯保証契約の締結)を立証する場合と第2の請求原因③の事実(BのCに対する代理権授与)を立証する場合のそれぞれについて,書証である本件連帯保証契約書,特に同契約書中にBの印章による印影が顕出されていることが持つ意味を説明することを求める問題である。 説明をする際には,問題文にあるとおり,弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえることが求められており,具体的には,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の作成者とされるのが誰であるのかと関連付けつつ,処分証書や二段の推定の意義及び訴訟上の機能を明確にして論 じることが期待されている。
本件連帯保証契約書が持つ意味を簡潔に述べるとすれば, 『本件連帯保証契約書は,当初の請求原因②の事実(XB間における連帯保証契約の締結)の存在を直接証明するための証拠となるが,第2の請求原因③の事実(BのCに対する代理権授与)を直接的に証明する証拠となることはない。』ということである。
『XB間における連帯保証契約の締結』という要証事実を立証する場合には,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄には連帯保証をする旨のBの意思が表現されていることになるから,その成立の真正が認められれば,直ちに『XB間における連帯保証契約の締結』の事実が証明されることになる。文書の成立の真正を認定する際には,いわゆる二段の推定が働く。以上のことを,二段の推定の意味内容も含めて丁寧に説明していけば,処分証書や二段の推定の意義や訴訟上の機能を正確に理解し表現するという課題に応えたことになり, また,二段の推定の意味内容を説明すれば,その中でBを作成者と見る趣旨との関連がおのずから明確にされることになる。
これに対し,『BのCに対する代理権授与』という要証事実を立証する場合には,問題文にあるとおり,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の作成者をCと見る前提に立つ以上,そこにBのCに対する代理権授与の意思が表現されていることはなく,本件連帯保証契約書が『BのCに対する代理権授与』の事実を直接的に証明する証拠となることもない。
本件連帯保証契約書ではなく,そこにBの印章による印影が顕出されていることをもって,『BのCに対する代理権授与』という要証事実との関係で間接証拠となることを論じることは考えられるが,その場合には,それがどのような意味で間接証拠になり得るのか ,すなわち, どのような過程をたどって要証事実を推認させるのかを, 丁 寧に説明する必要がある。
例えば,一般に印章の管理は厳格に行われ,それにもかかわらず本件連帯保証契約書の連帯保証人欄にBの印章による印影が顕出されていることからすれば,Bは,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の作成に先立って,自分の印章をCに交付しており,その際,Cに対し本件連帯保証契約の締結についての代理権も授与していたことが推認され得るといった説明である。
〔設問1〕の小問(2)は,司法修習生Pの見解を批判的に検討することを求める問題である。この見解は,最判昭和33年7月8日民集12巻11号1740頁〔百選第4版・47〕の説示する内容に沿うものであるが,裁判所は当事者の主張しない事実を裁判の資料としてはならないという弁論主義の命題との関係で検討すべき点がある。上記命題が主要事実について働くものであることや,代理権の発生原因事実等は主要事実であることを確認しつつ,論じることが期待されている。
〔設問2〕は,訴訟1において表見代理が成立することを理由としてXのBに対する請求を認容する判決が言い渡され,同判決が確定したことを受けて,BがCに対し提起した不法行為に基づき損害賠償を求める訴え(訴訟2)において,原告Bが,請求原因として主張した,①Cの顕名及び法律行為,②Cの無権代理の各事実をCが否認することの可否を検討することを求める問題である。
問題文からも明らかなように,訴訟1においてBがした訴訟告知に基づく判決の効力を受けることを回避するための理論構成を,まずは被告Cの立場から検討することが求められており,具体的には,訴訟告知に基づく判決効によってCが①②の事実を争えなくなるという帰結に至る可能性を示した上で,被告知者であるCが受けることとなる効力の性質,効力を制限するための論拠と本件事案への当てはめといったことを明確に論じることが期待されている。
訴訟告知を,専ら告知者の利益保護のための制度であり,第三者に判決効を及ぼすための手段であると見る考え方もあるものの,このような考え方に対しては異論が強く,本問においても,被告知者Cに対する効力が全く制限されないという結論を採りつつ説得力のある論述をすることは容易でない(以上につき,仙台高判昭和55年1月28日高裁民集33巻1号1頁〔百選第2版・111〕 ,最判平成14年1月22日集民205号93頁〔百選第4版・105〕参照)。
なお,被告知者Cに参加的効力が及ぶか否かを検討する際に,Cに補助参加の利益があったといえるか否かという観点から論じることも可能ではあるが,一般に補助参加の利益が広く解されていることからすると,Cにとって望ましい結論を得るのは難しく,本問においてそのような観点から論じることの実益は乏しいと思われる。
被告知者が受けることとなる参加的効力を制限する論拠としては,大きくとらえれば,被告知者と告知者との利害対立の可能性に着目することと,参加的効力の及ぶ客観的範囲に着目することの二つが考えられる。
前者の観点からは,参加的効力の趣旨は,補助参加人と被参加人との間で被参加人敗訴の責任の分担を図ることにある以上,被告知者が参加的効力を受ける場合とは,被告知者が告知者と協同して相手方に対し攻撃防禦を尽くすことにつき利害の一致があり,そうすることを期待できる立場にあるときに限られる,そして,BC間にそ のような利害の一致はない(BからCに対する代理権授与は,Bにとっては不利であるが ,Cにとっては有利であ る ) こ と からすれば,①②の事実ともにCには参加的効力が及ばない,と論じることが考えられる。
また,後者の観点からは,次のように論じることができる。すなわち,参加的効力が及ぶ客観的範囲は,判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断のほか,その前提として判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断などにも及ぶが, 判決理由中の判断については, いわゆる傍論が拘束力を持つ理由は乏しく,判決主文中の判断を導き出すために必要かつ十分なものに限られる。これを本件について見ると,訴訟1においては,B敗訴の判決で表見代理の成立が認定されているものの,そのためにCの無権代理の判断が必要であるわけではない。このような論拠からは,参加的効力の客観的範囲に含まれるのは①の事実(Cの顕名及び法律行為)だけであり,②の事実(Cの無権代理)はこれに含まれないことになる。
〔設問3〕は,同時審判の申出がある共同訴訟において,上訴があった場合の審判の統一がどのように,また,どの程度まで図られるかを検討することを求め る問題である。検討をする際には,問題文において与えられた事案において,①Cのみが控訴し,Xは控訴しなかった場合と,②C及びXが控訴した場合とを比較し,控訴審における審判の範囲を明確にしつつ,「両負け防止」の趣旨が実現される仕組みやその程度を論じることが求められている。
同時審判申出共同訴訟は,民法第117条の無権代理人の責任と本人の責任のように実体法上併存し得ない請求について,実体法上あり得ないはずの両負けを避けるために設けられたものであり,弁論及び裁判の分離が禁止され(民事訴訟法第41条第1項) ,同一手続で審理及び判決がされることによって事実上裁判の統一が図られることが期待できる。もっとも,同時審判共同訴訟の性質はあくまでも通常共同訴訟であり,共同訴訟人独立の原則が妥当する(同法第39条)ことから,共同被告の一方の上訴又は一方に対する上訴の提起があっても,その余の部分は確定してしまい,移審もしないと解されている。
このように,上訴のあった当事者間の請求についてしか確定遮断と移審の効果が生じず,上訴審の審判対象となるのもその範囲のみである(敗訴当事者が上訴しなかった請求については附帯上訴の余地もない) ことから,移審する部分と移審しない部分とで審判の統一が図られない可能性があり,①Cのみが控訴した場合には,控訴審での両負けがあり得る。これに対し,②双方が控訴した場合には,弁論及び裁判の併合が要求され(同法第41条第3項),第一審段階と同様に 事実上裁判の統一が図られることが期待できる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1⑴
1 処分証書と二段の推定
文書を証拠とするには、その成立が真正であること、すなわち挙証者が主張する特定人の意思に基づいて作成されたことを証明しなければならない(228条1項)。
文書のうち、意思表示その他の法律行為が記載された文書を処分証書という。処分証書は、その成立の真正が認められれば、記載された法律行為がされたという要証事実が直ちに証明される。これに対し、作成者の認識や報告が記載された報告文書は、記載内容の真実性について別途自由心証による評価を要する。
また、私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定される(228条4項)。同項の「押印」とは、本人又は代理人の意思に基づく押印をいう。そこで、文書中の印影が本人の印章によって顕出されたものであるときは、印章は通常厳格に管理され他人に容易に使用させないという経験則により、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され(第一段の推定)、これにより228条4項の法律上の推定が働いて文書全体の成立の真正が推定される(第二段の推定)。これを二段の推定という。
2 当初の請求原因②の事実を立証する場合
当初の請求原因②は、XB間における保証契約の締結である。この場合、本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の作成者はB本人とされ、同欄にはBが連帯保証をする旨の意思が表示されていることになる。
したがって、本件連帯保証契約書は、連帯保証人欄についてBを作成者とする処分証書であり、その成立の真正が認められれば、XB間における保証契約の締結という要証事実が直ちに証明される。すなわち、本件連帯保証契約書は要証事実を直接証明する直接証拠となる。
そして、同欄の印影はBの印章により顕出されたものであることにBも争いがないから、二段の推定により成立の真正が推定される。もっとも、Bは印章を娘婿Cに預けていたと述べているから、これが認められれば第一段の推定を支える経験則の前提が失われ、推定は覆される余地がある。
3 第2の請求原因③の事実を立証する場合
第2の請求原因③は、BがCに対し保証契約締結の代理権を授与したことである。この場合、本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の作成者は代理人Cであり、そこに表示されているのは保証契約を締結するというCの意思である。
そうすると、同欄にBがCに代理権を授与する旨の意思が表現されていることはない。代理権授与は保証契約とは別個の行為であり、本件連帯保証契約書に記載された法律行為ではないからである。したがって、本件連帯保証契約書は、Cを作成者とする処分証書として、Cが顕名して保証契約を締結した事実(第2の請求原因②)を直接証明するにとどまり、代理権授与の事実を直接的に証明する証拠とはならない。
もっとも、同契約書中にBの印章による印影が顕出されていること自体は、代理権授与の間接証拠となる。すなわち、一般に印章の管理は厳格に行われるという経験則からすれば、連帯保証人欄にBの印章による印影が顕出されている以上、Bは同欄の作成に先立って自らの印章をCに交付したものと推認される。そして、印章の交付という重大な行為がされた以上、その際にBはCに対し本件保証契約の締結についての代理権も授与していたものと推認し得る。このように、印影は要証事実を間接的に推認させる間接証拠として機能する。
なお、この場合の二段の推定は、文書の作成者をCとする前提の下で、代理人Cの意思に基づく押印があるかという形で問題となるにとどまり、代理権授与の立証に直接寄与するものではない。
第2 設問1⑵
1 弁論主義の内容
弁論主義とは、訴訟資料の収集提出を当事者の権能かつ責任とする原則である。その第一テーゼとして、裁判所は当事者の主張しない事実を判決の基礎とすることができない。その根拠は、私的紛争の解決について当事者の意思を尊重する私的自治の訴訟法的反映であり、かつ、不意打ちを防止して当事者に攻撃防御の機会を保障する点にある。
そして、弁論主義が適用されるのは、権利の発生・変更・消滅という法律効果を直接基礎付ける主要事実に限られる。間接事実や補助事実は証拠と同様の機能を有するにとどまるからである。
2 Pの見解の問題点
Pの見解は、最判昭和33年7月8日の説示に沿うものである。同判決は、契約の締結が本人によってされたか代理人によってされたかは法律効果に変わりがないとして、当事者の主張なく代理による締結を認定することも弁論主義に反しないとした。
しかし、代理人が本人のためにすることを示して法律行為をしたこと(顕名及び法律行為)及びその法律行為に先立って本人が代理人に代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)は、代理の効果が本人に帰属するための要件であり、いずれも主要事実である。
そうすると、本人が自ら契約を締結したという当初の請求原因と、代理人が代理権に基づき締結したという第2の請求原因とは、主要事実のレベルで異なる。前者が認められなくても後者により請求が認容され得るのであって、両者は法律効果が同一であっても主要事実を異にする別個の請求原因である。
本件では、Bは当初の請求原因に対して保証契約の締結を否認したのみであり、代理権授与の有無については何ら攻撃防御をしていない。弁護士Lも指摘するとおり、第2の請求原因を前提とすれば、BからCへの代理権授与の有無が主要な争点となり、本件連帯保証契約書の証拠としての意味も当初の請求原因とは異なってくる。それにもかかわらず、Xの主張がないまま裁判所が代理による締結を認定すれば、Bは代理権授与の不存在について反証の機会を与えられないまま敗訴することとなり、著しい不意打ちとなる。
したがって、Pの見解は、主要事実について当事者の主張を要するという弁論主義の第一テーゼに反し、当事者の手続保障を害する点で問題がある。前記判例の説示は傍論であり、代理権授与の有無が実質的な争点となっていない事案における判断として限定的に理解すべきである。
よって、Xが第2の請求原因を追加しない限り、裁判所は代理による締結を認定して判決の基礎とすることはできない。
第3 設問2
1 訴訟告知と参加的効力
訴訟告知(53条1項)がされた場合、被告知者が参加しなかったときであっても、参加することができた時に参加したものとみなして46条が適用される(53条4項)。すなわち、被告知者には判決の参加的効力が及び得る。
参加的効力は、既判力と異なり、判決主文中の判断のみならず判決理由中の事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断にも及ぶ。その根拠は、補助参加人が被参加人と協同して訴訟を追行した以上、被参加人の敗訴の責任を共同して分担すべきであるという点にある(46条)。
本件では、BがCに訴訟告知をし、Cは参加しなかった。訴訟1の確定判決は表見代理の成立を理由にB敗訴としたものであるから、Bがこれを援用すれば、Cは①の顕名及び法律行為の事実、並びに②のBからCへの代理権授与がなかったという事実を争えなくなるおそれがある。そこでCの立場からは、参加的効力の制限を主張すべきである。
2 利害の対立に着目する主張
参加的効力の趣旨は、前記のとおり被参加人敗訴の責任を補助参加人との間で分担させる点にある。そうであれば、被告知者が参加的効力を受けるのは、被告知者が告知者と協同して相手方に対し攻撃防御を尽くすことにつき利害が一致し、かつそうすることを期待できる立場にあった場合に限られると解すべきである。
本件において、BからCへの代理権授与の存否は、Bにとっては不存在が有利であるのに対し、Cにとっては存在が有利であって、両者の利害は正面から対立する。Cは、Bと協同してXに対し代理権の不存在を主張することを期待し得る立場になかった。
したがって、CはBの援用に対し、①②のいずれの事実についても参加的効力は及ばないと主張することができ、この主張は正当である。
なお、Cには訴訟1の判決理由中の判断が無権代理人の責任を左右する関係にあり補助参加の利益(42条)は認められるが、参加の利益が広く解されていることからすれば、参加の利益の有無を論じてもCに有利な結論は得られない。
3 客観的範囲に着目する主張
仮に参加的効力が及ぶとしても、判決理由中の判断のうち拘束力を有するのは、判決主文中の判断を導き出すために必要かつ十分な判断に限られる。傍論に拘束力を認める理由は乏しいからである。
本件の訴訟1では、表見代理(民法110条)の成立を理由にXの請求が認容されている。表見代理の成立には、Cが顕名して保証契約を締結したこと(①)が必要である。しかし、表見代理は代理権がないことを前提とする制度であるとはいえ、判決が無権代理であることを積極的に認定しなければ主文を導けないわけではなく、裁判所は代理権の存否を確定せずに正当理由の存在をもって請求を認容し得る。
したがって、参加的効力の客観的範囲に含まれるのは①の事実のみであり、②の無権代理の事実はこれに含まれない。Cは少なくとも②を否認することができる。
4 結論
利害対立に着目する主張により、Cは①②いずれの事実も否認することができる。仮にその主張が認められなくとも、客観的範囲に着目する主張により②を否認することができる。
第4 設問3
1 同時審判の申出がある共同訴訟の仕組み
同時審判申出共同訴訟(41条)は、共同被告の一方に対する訴訟の目的である権利と他方に対する権利とが法律上併存し得ない関係にある場合に、原告の申出により認められる。本件のように、本人Bに対する有権代理を前提とする保証債務履行請求と、無権代理人Cに対する民法117条の責任追及とは、代理権の存否によっていずれか一方のみが成立する関係にあり、実体法上併存し得ない。
これらを別訴で審理すれば、いずれの訴訟でも代理権の存否についての判断が食い違い、実体法上あり得ないはずの原告の「両負け」が生ずるおそれがある。そこで41条1項は弁論及び裁判の分離を禁止し、同一手続で審理及び判決がされることによって事実上裁判の統一が図られることを期待する。
もっとも、同時審判申出共同訴訟の性質はあくまで通常共同訴訟であり、共同訴訟人独立の原則(39条)が妥当する。したがって、審判の統一は事実上のものにとどまり、必要的共同訴訟のように判決を合一に確定すべき効果は生じない。
2 ①Cのみが控訴し、Xが控訴しなかった場合
共同訴訟人独立の原則により、控訴による確定遮断及び移審の効果は、控訴のあった当事者間の請求についてのみ生ずる。
本件事案では、第一審はBに対する請求を棄却し、Cに対する請求を認容した。Cのみが控訴した場合、控訴審の審判対象はXのCに対する請求のみである。XのBに対する請求は控訴期間の経過により確定し、移審もしない。Xが敗訴したBに対する請求について附帯控訴(293条)をする余地もない。
その結果、控訴審が代理権授与を認めてCに対する請求を棄却すると、既に確定したBに対する請求棄却と相まって、Xは両負けとなる。41条3項は控訴審における弁論及び裁判の併合を要求するが、移審していないBに対する請求については併合すべき対象が存在しない。
したがって、この場合には審判の統一は図られず、控訴審での両負けが生じ得る。
3 ②C及びXが控訴した場合
XがBに対する請求棄却部分について控訴すれば、当該請求についても確定遮断及び移審の効果が生ずる。そうすると、XのBに対する請求とXのCに対する請求がいずれも控訴審に係属することになる。
この場合、控訴審は41条3項により弁論及び裁判を併合しなければならない。したがって、第一審と同様に、同一の裁判体が同一の訴訟資料に基づいて代理権の存否を判断することになり、事実上裁判の統一が図られることが期待できる。
4 結論
同時審判の申出がある共同訴訟において実現される審判の統一は、弁論及び裁判の分離禁止による事実上のものにとどまる。したがって、原告が両負けを避けるためには、自ら敗訴した請求についても控訴して全請求を控訴審に係属させることが必要である。②の場合には両負けを避け得るが、①の場合には避けられない。
以上