司法試験 平成30年 民法
問題文
[民事系科目]〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,40:35:25〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。
Ⅰ
【事実】1.Aは,トラック1台(以下「甲トラック」という。)を使って,青果物を生産者から買い受け,小売業者や飲食店に販売する事業を個人で営んでいた。
2.平成29年9月10日,Aは,Bとの間で,松茸(まつたけ)5キログラムを代金50万円でBから購入する契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約においては,松茸の引渡しは,同月21日の夜に,Bのりんご農園のそばにあるB所有の乙倉庫において,代金の支払と引換えですることが定められた。
3.同月21日午前11時頃から午後2時頃にかけて,Bは,本件売買契約の目的物とするための松茸を秋の収穫期に毎年雇っているCと共に収穫し,これを乙倉庫に運び入れ,同日午後4時頃には,本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムの箱詰めを終えた。そこで,Bは,直ちに,引渡準備が整った旨をAに電話で連絡したところ,Aは同日午後8時頃に乙倉庫で引き取る旨を述べ,Bはこれを了承した。
4.同日午後6時頃,Aが松茸を引き取るため甲トラックで出掛けようとしたところ,自宅前に駐車していた甲トラックがなくなっていた。
Aがすぐに電話で事情と共に松茸の引取りが遅れる旨をBに伝えたところ,Bからは,しばらく待機している旨の返答があった。Aは,自宅周辺で甲トラックを探したが見付からなかった。そこで,Aは,同日午後8時頃,今日は引取りには行けないが,具体的なことは翌朝に改めて連絡する旨を電話でBに伝えた。
5.Bは,Aからのこの電話を受けて,引渡しに備えて乙倉庫で待機させていたCに引き上げてよい旨を伝えた。その際,Bは,近隣で農作物の盗難が相次いでおり警察からの注意喚起もあったことから,Cに対し,客に引き渡す高価な松茸を入れているので乙倉庫を離れるときには普段よりもしっかり施錠するよう指示した。乙倉庫は普段簡易な錠で施錠されているだけであったが,Cは,Bの指示に従って,強力な倉庫錠も利用し,二重に施錠して帰宅した。
6.同月22日午前7時頃,Aは,Bに,車を調達することができたので同日午前10時頃に松茸を乙倉庫で引き取りたい旨を電話で伝えた。Bは朝の作業をCに任せて自宅にいたため,Aが車でまずBの自宅に寄り,Bを同乗させて乙倉庫に行くことになった。
7.Aは,代金としてBに支払う50万円を持参して,同日午前10時過ぎに,Bと共に乙倉庫に到着した。ところが,乙倉庫は,扉が開け放しになっており,収穫した農作物はなくなっていた。
8.警察の捜査により,収穫作業道具を取り出すため乙倉庫に入ったCが,同日午前7時頃,同月21日の夜にBから受けた指示(【事実】5参照)をうっかり忘れて,りんご農園での作業のため普段どおり簡易な錠のみで施錠して乙倉庫を離れたこと,その時から同月22日の午前10時過ぎにAとBが乙倉庫に到着するまでの間に何者かがその錠を壊し,乙倉庫内の松茸,りんごなどの農作物を全部盗み去ったことが判明した。
9.その後,Bは,Aに対し,本件売買契約の代金50万円の支払を求めたが,Aは,Bが松茸5キログラムを引き渡すまで代金は支払わないと述べた。これに対し,Bは,一度きちんと松茸を用意したのだから応じられないと反論した。
〔設問1〕
【事実】1から9までを前提として,【事実】9のBの本件売買契約に基づく代金支払請求は認められるか,理由を付して解答しなさい。
Ⅱ 【事実】1から9までに加え,以下の【事実】10から14までの経緯があった。
【事実】10.甲トラックは,Aが次の経緯でDから入手したものであった。
平成27年11月9日,AとDは,Dが所有する中古トラックである甲トラック(道路運送車両法第5条第1項(関連条文後掲)が適用される自動車である。)を目的物とし,代金額を300万円とする売買契約を締結した。この売買契約においては,次のことが定められていた。
①Aは,代金の支払として,甲トラックの引渡しと引換えにDに対し内金60万円を現金で支払い,以後60か月の間,毎月4万円をDの指定する銀行口座に振り込んで支払う。②甲トラックの所有権は,Aが①の代金債務を完済するまでその担保としてDに留保されることとし,その自動車登録名義は,Aが代金債務を完済したときにDからAへと移転させる。③Aは,①の振込みを1回でも怠ったときは代金残債務について当然に期限の利益を喪失し,Dは,直ちに甲トラックの返還を求めることができる。④Aは,Dから甲トラックの引渡しを受けた後,甲トラックを占有し利用することができるが,代金債務の完済まで,甲トラックを善良な管理者の注意をもって管理し,甲トラックの改造をしない。⑤Dが③によりAから甲トラックの返還を受けたときは,これを中古自動車販売業者に売却し,その売却額をもってAの代金債務の弁済に充当する。⑥Dは,⑤の充当後に売却額に残額があるときは,これをAに支払う。
同日,AはDに対し内金60万円を支払い,DはAに対し甲トラックを引き渡した。
11.Aは,同年12月以降毎月,遅滞することなく,Dが指定した銀行口座に4万円を振り込んで代金を支払っている。
12.Aは,甲トラックの消失後(【事実】4参照),レンタカーを借りて事業を続けていたが,廃業して帰郷することにし,平成29年12月22日,居住していた借家を引き払った。Aは,Bら取引先等に廃業の通知を出したものの,転居先を知らせることはしなかった。
13.平成30年2月20日,Eは,その所有する丙土地(山林)の上に,甲トラックが投棄されているのを見付けた。その後,Eは,甲トラックがD名義で自動車登録されていることを知った。
14.同年3月10日,Eは,Dに,甲トラックが丙土地上に放置されている事実を伝え,甲トラックの撤去を求めた。ところが,Dは,㋐「Aとの間で所有権留保売買契約をしたので,私は甲トラックを撤去すべき立場にない。その立場にあるのは,Aである。」,㋑「登録名義はまだ私にあるが,そうであるからといって,私が甲トラックの撤去を求められることにはならない。」
と述べ,応じなかった。EがDにAの所在を尋ねたところ,Dは,Aの所在は知らないと述べた。また,Dによれば,甲トラックの盗難の事実と警察に盗難を届け出た旨の知らせが平成29年9月22日にAからあったが,銀行口座にはAから毎月4万円の振込みが滞りなくされていたこともあり,Aとの間で互いに連絡をすることがなかったとのことであった。
その後も,Eは,Aの所在を把握することができないままでいる。
〔設問2〕
【事実】1から14までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。
⑴ Eの【事実】14の撤去の請求に関し,【事実】14の下線を付した㋐のDの発言は正当であると認められるか,理由を付して解答しなさい。
⑵ 仮に㋐のDの発言が正当であると認められるものとした場合,Eの請求は認められるか,【事実】14の下線を付した㋑のDの発言を踏まえつつ,理由を付して解答しなさい。
(参照条文)道路運送車両法(昭和26年法律第185号)
第5条 登録を受けた自動車の所有権の得喪は,登録を受けなければ,第三者に対抗することができない。
2 (略)
Ⅲ 【事実】1から14までに加え,以下の【事実】15から20までの経緯があった。
【事実】15.数年前に妻に先立たれたCは,持病が悪化して,平成30年1月20日,死亡した。
16.Cは,積極財産として,それぞれの金額が1200万円,600万円及び200万円の定期預金を残した。Cには,3人の子F,G及びHがいたが,Hについては,Cが家庭裁判所に廃除の申立てをしており,それを認める審判が平成27年に確定していた。
17.平成30年1月21日,Cの通夜の席で,CがBに対し同月31日を期限とする300万円の借入金債務を負っていたことが判明した。
18.Fは,Cが負っていた借入金債務全額の返済をBから強く求められたため,同月31日,Bに対し300万円を支払った。
19.同年3月1日,同年1月1日付けのCの適式な自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)
があることが判明し,同年5月7日,検認の手続がされた。
20.本件遺言の証書には,「①私が残す財産は,1200万円,600万円及び200万円の定期預金である。②遠方に住みながらいつも気にかけてくれたFには,Gよりも多く,1200万円の定期預金を相続させる。③Gには600万円の定期預金を相続させる。④Hは,まだ反省が足りないので,廃除の意思を変えるものではないが,最近結婚をしたことから,200万円の定期預金のみを与える。」と記されていた。
〔設問3〕
【事実】1から20までを前提として,次の問いに答えなさい。
Fは,CがBに対して負っていた借入金債務300万円を全額支払ったことを根拠に,Gに対し,幾らの金額の支払を請求することができるか。本件遺言について,遺言の解釈をした上で,理由を付して解答しなさい。なお,利息及び遅延損害金を考慮する必要はない。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第1問〕本問は,民法の幅広い分野から,民法の基礎的な理解とともにその応用力を問うものであり,当事者の主張を踏まえつつ法律問題の相互関係や当該事案の特殊性を論理的に分析して自説を展開する能力が試されている。
設問1は,種類債務の特定と危険負担(民法第534条第2項),(狭義の)履行補助者の過失,弁済の提供又は受領遅滞若しくは受領義務違反の効果(債務者の目的物保管義務の軽減及びその軽減後の義務の内容,対価危険の債権者への移転等)等といった債権法の複数の制度・規定について,基本的な理解ができているか,その理解を具体的な事実関係に基づいて各制度・規定の相互の関連性を含めて適切に展開することができるかを問うものである。典型論点ともいえるものばかりではあるものの,複数の論点の検討を要する問題を通して,事案に即して論理を着実に展開する能力が試されている。
設問1の事実関係の下では,危険負担の適用があるか否かが問題となるが,その前提として,種類債権の特定とその後の目的物の滅失が必要となる。そこで,民法第401条が定める「債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し」たこととは,例えば,債務者が,給付の完了のために債権者がする必要のあることを除き,自らすることができることを全てした状態をいうところ,Bの債務は取立債務であることから,Bが目的物を分離して引渡準備を完了し,その旨をAに通知することにより目的物の特定が認められることなどを述べた上で,設問1の事実関係からこの特定が認められ,その特定した目的物が盗難により滅失したと認められることを述べる必要がある。
目的物が特定後に滅失した場合の売主Bの売買代金請求権の帰趨については,①双務契約上の相対立する二つの債務は互いに対価関係に立つため牽連関係が認められるとして,一方の債務の消滅により当然に他方の債務も消滅することを前提としつつ,本件においては目的物が特定していたとして民法第534条第2項の適用によりBの代金請求が認められ得るとする立場,②同じ前提に立ちつつも,民法第534条第2項の適用を否定又は制限する立場などが考えられる。これらのいずれの立場によっても構わないが,自己の採用した立場から一貫性のある法律構成をすることが求められる。なお,①②と異なり,双務契約上の相対立する二つの債務は互いに独立のものであり,一方の消滅により他方が当然に消滅することはないとする立場もあり得るが,その場合には,特殊といってよい立場であるため,そのように解する理由を明確に示すことが必要である。
上記の①の立場からは,以下の事柄について論ずることになる。
①の立場は,民法の規定の文理に素直なものであるといえるが,①の立場に対しては公平ではないという批判が極めて有力であり,また,この立場をとることを明言する判例があるわけでもない。そこで,民法第534条第2項の文言に素直な解釈であるという指摘をするだけでなく,公平に反するという批判説にも応接した理由付けをすることが望ましい。
その上で,民法第534条が適用されるのは目的物の滅失が「債務者の責めに帰することができない事由」による場合であるため,設問1の事実関係の下で盗難による松茸の滅失がこれに当たるかを論ずべきことになる。その際には,「債務者の責めに帰することができない事由」
の意味をまず明らかにする必要がある。これについては,例えば,特定物の売主は目的物の善良な管理者の注意をもって目的物を保管する義務を負うところ,その義務を尽くしたことが上記事由に当たるとする考え方が考えられる。さらに,設問1では,Bは保管のために(狭義の)
履行補助者に当たる(【事実】3)Cを使用しているためCの主観的態様が信義則上Bの主観的態様と同視されるとした上で,Cが近隣において盗難事件が頻発し警察が注意喚起しているとの状況下でBの指示に従わずに簡易な錠による施錠しかせずに乙倉庫を離れたこと(【事実】5及び8)は善管注意義務違反に当たると解されるため,目的物として特定した松茸の滅失はBの責めに帰することができない事由によるものということは基本的にできないことになる。
もっとも,松茸の盗難は,Bによる弁済の提供があった後,又はAによる受領遅滞中に若しくはAの受領義務違反後に起きたことである。そこで,弁済の提供又は受領遅滞若しくは受領義務違反の効果としてBの保管義務の軽減が問題になる。これらのいずれの構成によっても構わないが,その構成により保管義務が軽減される理由を明らかにし,設問1の事実関係の下で保管義務の軽減が認められるかを論ずる必要がある。
そして,債務者は自己の財産に対するのと同一の注意をもって目的物を保管する義務を負う,あるいは,債務者は故意又は重大な過失による目的物の滅失又は損傷の場合にのみ責任を負うなどと軽減された義務の内容を明らかにした上で,設問1の事実関係に即して,Cの行った簡易な錠での施錠が「普段どおり」の施錠方法であったことを踏まえてその軽減された注意義務に違反しないかどうかを論ずべきことになる。
次に,上記の②の立場をとる場合には,以下の事柄について論ずることになる。
まず,自説の立場から,民法第534条の適用を否定又は制限する理由を述べる必要があり,その理由と整合的にどのような場合には適用が認められるのかを明らかにし,設問1の事実関係の下では民法第534条が適用される場合に当たらないことを述べることが求められる。
もっとも,Bによる弁済の提供又はAの受領遅滞若しくは受領義務違反が認められることから,その効果として対価危険の移転が認められ得る。そこで,その旨の指摘と設問1の事実関係の下でこれが認められることを述べた上で,目的物の滅失がBの帰責事由によるものであるときはそもそも危険負担の適用がないことを述べて,松茸の滅失がBの帰責事由によるものか否かを検討すべきことになる。そして,ここでは,上記の①の立場と同様に,債務者に課された善管注意義務と債務者の責めに帰することができない事由との関係,弁済の提供等による善管注意義務の軽減の有無などを検討すべきことになる。
設問2は,所有権に基づく妨害排除請求の相手方は現に妨害をしている者であることを前提として,所有権留保売買契約の売主として留保所有権を有する者はこれに当たるか(小問1),仮にこれに当たらないと判断すべきことを前提としたとしても,その者が妨害物となっている自動車を以前所有しており,自己の意思に基づいて登録名義人となった者であって,その自動車を譲渡した後も登録名義人にとどまっている場合は別に考えることができないのか(小問2)
を,それぞれ問うものである。
小問1では判例によっても承認されている所有権留保売買を題材に非典型担保物権の意義と留保所有権の内容を,小問2では不動産と同様の法的規制に服する自動車についての権利の得喪に係る対抗要件制度の意義という,基本的な問題に対する理解力を測ることを狙いとする。
また,小問1には最判平成21年3月10日民集第63巻3号385頁,小問2には最判平成6年2月8日民集第48巻2号373頁という重要な関連判例があり,設問2は,日頃の学習において重要判例について表層的でない理解を心掛けているかをみようとするものでもある。
小問1では,Eの請求が所有権に基づく請求であること,この請求の相手方は所有権の行使を現に妨げている者であることを前提として,甲トラックの所有権留保売買における留保売主Dは,甲トラックが丙土地上に放置されていることによってEの丙土地所有権の行使を妨げていることになり,したがって,甲トラックの撤去義務を負うかどうかが問われている。
まず,物の所有者は,その物が他人の土地上にある場合には,権原がなければ,通常,その物の撤去の義務を負う。ところが,Dは,Aとの間で所有権留保売買契約をしたことにより,通常の所有権を有する者ではなく,債権担保の目的で所有権を有するにすぎない。そこで,このような立場にあるDが所有者一般と同様に扱われるのか否かを論ずべきことになる。
Dが甲トラックの撤去義務を負うか否かについての結論はいずれでも構わないが,その結論を導く理由についての法的な構成力が問われている。その理由に関しては,例えば,次のような事情を考慮することが考えられる。
すなわち,①AD間の契約において,被担保債権の不履行があるまでは,甲トラックの占有・処分権能を有するのはAであり,Dはこれを有しないとされており,Dは,甲トラックの交換価値しか把握していないとみることができることである。これによると,Dは,形式的には甲トラックの所有者であるが,実質的には抵当権者と変わりがないとみることができ,抵当権者であれば抵当目的物による妨害排除請求の相手方にはならないと考えられる。
他方で,②上記①のようなDの地位は,AD間の契約によって創設されたものであることである。したがって,Dの甲トラックの占有・処分権能は,Aとの契約によりAとの関係で制約されているにすぎないとみる余地がある。実際にも,例えば甲トラックを不法占有する者がある場合,その者との関係では,Dは所有権に基づく返還請求をすることができるとされる可能性がある。
このほか,③Dは,甲トラックに抵当権(自動車抵当権)を設定することもできたのにあえて所有権留保という担保手段を選んだものであって,所有者と同様に扱われることはDの選択の結果であるにすぎないといえることなどを指摘することが考えられる。
なお,前掲平成21年3月10日最高裁判決は所有権留保という社会的に重要な非典型担保の基本的内容の一部を明らかにするものであることから,法律実務家となることを志す者が知っているべき判決であるということができるが,単に同判決があることや,その内容を指摘しても十分な解答にはならず,理由付けの内容が問われるものである。
小問2では,下線部㋐のDの発言が正当と認められるという前提で解答することが求められている。これは,甲トラックの通常の所有権を有していたDが,Aとの所有権留保売買契約により甲トラックの所有権を実質的に喪失したことを前提として,設問2を考えるべきことを意味するから,まずこの点を押さえる必要がある。
そして,登録自動車の所有権の喪失はその登録をしなければ「第三者」に対抗することができない(道路運送車両法第5条第1項)ことが問題文に示されていることを踏まえつつ,設問2の事実関係の下で,Eは,その「第三者」に該当し,又は「第三者に準ずる者」として扱われるのかを,論ずべきことになる。
道路運送車両法第5条第1項は,民法第177条と同趣旨の規定であることから,「第三者」
とは,登録の不存在を主張する正当な利益を有する者をいい,隠れた物権変動により第三者が害されることを防ぐという同条の趣旨から,当該物件につき登録名義人との間で法律上の利害関係を有するに至ったことが,第三者性を基礎付ける「正当な利益」に当たると解される。
これによると,Eは,第三者には基本的に該当しないこととなる。Eが甲トラックにつき有する利害関係は,甲トラックの所有者が判明しなければ丙土地の所有権に対する妨害を排除することができないという不利益を被ることであり,Eは,甲トラックにつき,権利を取得すべき地位にあるなど何らかの法律上の利害関係を有するわけではないからである。
もっとも,判例(前掲平成6年2月8日最高裁判決)上,土地所有権の行使が建物の存在によって妨害されている場合において,登記に関わりなく建物の実質的所有者をもって妨害排除の義務者を決するとすれば,土地所有者はその探求の困難を強いられるなどの不合理を生ずるおそれがあることから,その建物の所有権を譲渡により喪失したが自ら得た登記名義をなお保持する者は,土地所有者との関係については建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係にあるとした上で,土地所有者の請求により建物を収去し土地を明け渡す義務があるとされている。登録自動車については不動産と同様の法的扱いがされることが多いことから,Dについても同様の立論が可能であるかどうかが問題になる。
この問題についても,結論はいずれでも構わないが,その結論を導く理由についての法的な構成力が問われている。
検討の筋道としては,前掲平成6年2月8日最高裁判決が地上建物による土地所有権の妨害の場合に土地所有者を例外的に保護していることから,その例外的保護の理由を明らかにして,それとの比較をすることが考えられるが,これに限られるものではなく,次に述べるような必要な考慮要素に触れられていることが必要である。
地上建物による土地所有権の妨害の場合に土地所有者の例外的保護が認められる理由としては,①建物の存立は,敷地の全面的・固定的占有を当然に伴うため,土地所有者は土地の占有という土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態が継続することが挙げられる。他方で,登録自動車による土地所有権の妨害は,全面的なものでも,固定的なものでもなく,土地所有者は,その妨害により土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になるとまで評価することはできないともいえる。
また,②一般に,民法第177条の第三者とは登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者をいうなどとされ,第三者とされるためには,当該物権変動の主張が認められると当該不動産に関する権利を失い,又は負担を免れることができなくなることが必要であるところ,本件では,土地所有者は,登記を移転していない前建物所有者による建物の所有権喪失の主張が認められると,建物所有権の隠れた移転によりその建物所有権の負担(土地所有権を妨害された状態が継続するという負担)を実質的に免れることができない地位にあるとみることができるともいえる。他方で,土地所有者は土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になるとまで評価することはできないと反論をすればこの指摘は当たらないし,そもそも違法な状態に対する責任の追及の問題を対抗問題と類似すると扱うことは適切ではないということもできる。
さらに,③建物を譲渡した元所有者は,その建物を所有する旨の登記を自らしたのであれば,その名義の移転をすることも当然にできたはずであり,登記懈怠の責めを問われても仕方がないことを指摘することができる。他方で,所有権留保売買は,被担保債権の弁済まで登記又は登録を売主名義のままにしておくことが当然の前提であり,そのことも含めて判例上承認されていることから,売主に登記懈怠の責めを負わせることは適当ではないともいえると考えられる。
このほか,建物の撤去とは,通常,建物の取壊しであることから,その費用を負担しさえすれば誰でもすることができるため,建物所有権を有しない登記名義人に負わせることも可能であるが,自動車については,前登録名義人は真の所有者の所在が判明するまで自動車を保管し続けなければならないという負担を負い続けることになりかねず,その金銭負担も重いものとなる可能性があるという事情も指摘することができる。
以上を踏まえれば,Eを「第三者」に準ずる者と認めて例外的に保護することは適当ではないと理解することに相当の理由があると考えられるが,上記のとおりいずれの結論でも許容される。
解答に当たっては,以上に例示した事情の全部を挙げることが求められるものではなく,根幹的と思われる理由を挙げて結論を正当化することで十分である。もっとも,結論を正当化する際には,その結論を根拠づける方向に働く事情を挙げるだけでなく,反対の結論を根拠付ける方向に働く事情も考慮し,それに応接することが望ましい。
設問3は,遺言による財産の処分によって,共同相続人への債務の承継が影響を受けるか否かを問うことを通じて,相続法に関する基本的な知識に基づく事案の分析力や解釈論の展開力を試すものである。
設問3については,①被相続人Cを共同相続したCの子FGに対し法定相続分とは異なる割合で特定の財産をそれぞれ「相続させる」遺言,及び,Cから廃除(民法第892条)された子Hに対し特定の財産を「与える」遺言について,遺言の解釈によってその法的性質(とりわけ,「相続させる」遺言が相続分の指定を伴うものであるか)を明らかにした上で,②Cが残したBに対する借入金債務がFGにどのように承継されるか,さらに,この債務を全額支払ったFがGに対し幾らの金額の支払を請求することができるかについて,検討することが求められる。
まず,Cの遺言(以下「本件遺言」という。)の解釈に当たっては,どのような指針に基づいて解釈すべきか,例えば,「被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については,……遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものである」(最判平成3年4月19日民集第45巻4号477頁参照)などと必要に応じて簡潔に言及することが求められる。
その上で,FGに対する「相続させる」遺言に関しては,判例が,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言は,①相続人に対し,特定の財産を単独で相続させようとする趣旨に解するのが合理的な意思解釈であって,特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではないとし,②かかる「相続させる」趣旨の遺言は,特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることを遺言で定める点で,正に民法第908条にいう「遺産の分割の方法を定めた遺言」
であるとしている。したがって,この判例の立場を前提とすれば,共同相続人FGに対し,1200万円・600万円の定期預金をそれぞれ「相続させる」遺言は,「遺産分割方法の指定」
と意思解釈するのが合理的であることになる。なお,共同相続された定期預金について,遺産分割の対象となる旨の判例が最近出されている(最判平成29年4月6日集民第255号129頁。最大判平成28年12月19日民集第70巻8号2121頁参照)が,本問においてはその旨の言及を特に求めるものではない。
そして,「遺産分割方法の指定」については,法定相続分よりも多い割合で分割の指定がされたり,各共同相続人に対し法定相続分とは異なる割合で分割の指定がされた場合には,特段の事情がない限り,「相続分の指定」(民法第902条)を伴うものと解釈するのが一般的である。このような形で法定相続分とは異なる割合による遺産分割の指定がされたことは,債務の承継割合を法定相続分から変更する意思がないことが明らかであるなどの特段の事情がない限り(最判平成21年3月24日民集第63巻3号427頁参照),その分割された割合で「相続分の指定」がされて,債務もその割合で承継させる趣旨に意思解釈するのが合理的であると考える立場であり,このような立場を取るならば,共同相続人FGに対し法定相続分とは異なる割合で1200万円・600万の定期預金をそれぞれ「相続させる」とする本件遺言は,「相続分の指定」を伴うものと解釈することになる。
上記の立場に対し,特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言を「特定遺贈」と解釈する学説も少なくない。このような説に立って論ずるに当たっては,上記の「相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定」と解する立場に対する批判を踏まえた議論を展開し,例えば,「遺産分割方法の指定」は,本来は,現物分割・換価分割などの遺産全体の分割方法の指針を定めるものであって,特定の財産の処分は特定遺贈によることが民法の予定するところであることを指摘することが考えられる。
このほか,上記の各立場も踏まえつつ,本件遺言は,飽くまでも個別の積極財産を処分したに過ぎない点などを考慮して,遺言者には債務の承継割合までを変更する意思はなく,法定相続分の割合で承継すると解釈することも,解答として許容されるものと考えられる。
次に,Hに対する遺言については,Hは廃除(民法第892条)により相続資格を失っていたこと,したがって,200万円の定期預金を「与える」遺言は,相続人以外の者に対する遺言による特定の財産の処分であるから,特定遺贈と解釈されることを述べることが求められる。
本件遺言において廃除の意思に変わりがないとCがしていることに照らして,廃除の取消し(民法第894条第2項)の趣旨を含むものではなく,相続資格を失ったままであることに言及することが望ましい。
以上を前提に,Cの残した金銭債務が共同相続人FGにどのように承継されるかについては,次のように考えられる。
まず,共同相続人は,法定相続分に応じて相続人の権利義務を承継するのが原則であるが(民法第899条),指定相続分(民法第902条)がある場合は指定相続分に応じて承継する。
FGへの「相続させる」遺言において複数の立場があり得るが「相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定」であると解する場合には,指定相続分(2:1)により,それ以外の立場による場合には法定相続分(1:1)により債務を承継することになる。
次に承継の態様が問題となるが,CはBに対し300万円の金銭債務(可分債務)を負っていたことから,判例(大決昭和5年12月4日民集第9巻1118頁)の立場を前提とすれば,民法第427条により,共同相続人FG間では上記の割合に応じた分割債務として承継することになる。
そして,Fは,Gが単独で負う債務までBに弁済している。これは,債務者の意思に反するもの(民法第474条第2項)とはいえないので,FはGに対し,事務管理等を理由として,指定相続分で承継したとする場合には100万円の支払を,法定相続分で承継したとする場合には150万円の支払を,それぞれ請求することができるものと考えられる。
他方で,金銭債務(可分債務)の共同相続について,不可分債務又は合有債務と解する学説も有力であり,分割債務説を批判しつつ,これらの学説に立った検討を加えることも考えられる。この場合には,内部的負担部分は,法定相続分又は指定相続分に応じて定められ(民法第899条参照),その負担部分を超える額についてFはGに求償することができるものと考えられる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 Bの請求の根拠と要件
BのAに対する請求は、本件売買契約に基づく代金50万円の支払請求(民法555条)である。その請求原因は、①AB間で松茸5キログラムを代金50万円とする売買契約を締結したこと、②代金債務の履行期が到来したことである。本件では、平成29年9月10日に本件売買契約が締結され、代金の支払は同月21日の夜に目的物の引渡しと引換えにすることが定められていたから、①②はいずれも認められる。
これに対し、Aは、Bが松茸5キログラムを引き渡すまで代金は支払わないと述べている。これは、同時履行の抗弁(533条)を述べるとともに、松茸の盗難によりBの引渡債務が履行不能となったことを理由に反対給付の履行を拒む(536条1項)という抗弁と解される。そこで、これらの抗弁の成否を検討する。
2 種類債務の特定
Bの引渡債務の目的物は「松茸5キログラム」であり、種類債務である。種類債務は、目的物が特定しない限り債務者は調達義務を負い、同種の物を再調達して給付すべきであるから、本件の盗難によっても履行不能とはならない。そこで、まず目的物の特定の有無が問題となる。
401条2項は、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了したときは以後その物を債権の目的物とすると定める。ここに「物の給付をするのに必要な行為を完了」したとは、給付の完了のために債権者がすべきことを除き、債務者が自らすることのできる行為を全て了した状態をいうと解する。そして、本件売買契約では引渡場所がB所有の乙倉庫と定められており、Bの引渡債務は債権者が目的物を取りに来る取立債務である。取立債務においては、債務者が目的物を他から分離して引渡しの準備を整え、その旨を債権者に通知すれば、債務者としてなしうることを全てしたといえるから、これにより特定が生じると解する。
本件では、Bは、平成29年9月21日午後4時頃には本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムの箱詰めを終えて乙倉庫に分離・保管し、直ちに引渡準備が整った旨をAに電話で連絡している。したがって、同日午後4時頃に目的物の特定が生じた。
そして、特定した松茸は、同月22日午前7時頃から午前10時過ぎまでの間に何者かに盗み去られ、滅失した。種類債務の特定後は債務者の調達義務が消滅するから、Bの引渡債務は社会通念上履行することができなくなった(412条の2第1項)。よって、Aは履行の請求をすることができず、同時履行の抗弁は反対給付義務の存否の問題に吸収される。
3 危険の移転
履行不能が当事者双方の責めに帰することができない事由によるときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができる(536条1項)。もっとも、売買においては、売主が契約の内容に適合する目的物をもって引渡債務の履行を提供したにもかかわらず買主がその受領を拒み又は受けることができない場合において、その提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によって目的物が滅失したときは、買主は代金の支払を拒むことができない(567条2項・1項後段)。危険は履行の提供により買主に移転するからである。そこで、同項の要件を検討する。
(1)履行の提供と受領遅滞
Bは、約定に合う松茸5キログラムを箱詰めして乙倉庫に用意し、その旨をAに通知した。取立債務のように債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知して受領の催告をすれば足りる(493条但書)から、これによりBの口頭の提供があったといえる。
他方、Aは、同日午後6時頃に甲トラックを盗まれたため、午後8時頃、今日は引取りに行けない旨をBに伝えている。これは、約定の履行期における目的物の受領を拒み又は受けることができない場合に当たり、Aは受領遅滞に陥った(413条)。甲トラックの盗難はA自身の責めに帰すべき事由とはいえないが、受領遅滞の成立に債権者の帰責事由は要しないから、結論は変わらない。そして、Aが具体的なことは翌朝連絡すると述べるにとどまり、Bの提供状態がそのまま維持されていたことからすれば、受領遅滞の状態は盗難時まで継続していた。
(2)当事者双方の責めに帰することができない事由
次に、松茸の滅失がBの責めに帰すべき事由によるものでないかを検討する。特定物の引渡債務を負う債務者は、引渡しをするまで契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって目的物を保存する義務を負う(400条)。特定した種類物についても同様である。
本件では、乙倉庫の施錠をしたのはB自身ではなくCである。しかし、Cは、Bが毎年秋の収穫期に雇い、本件では収穫から保管に至る作業を委ねられていた者であり、Bが自己の債務の履行のために使用した履行補助者に当たる。債務者が他人を用いて履行をする場合、その者の行為による利益を享受する以上、その者の行為は信義則上債務者自身の行為と同視すべきであるから、Cの注意の懈怠はBの帰責事由となると解する。そして、Cは、近隣で農作物の盗難が相次ぎ警察の注意喚起もあった状況で、Bから二重施錠を指示されていたにもかかわらず、これをうっかり忘れて普段どおり簡易な錠のみで施錠して乙倉庫を離れている。本来の善管注意義務を基準とすれば、これは義務違反に当たり、滅失はBの責めに帰すべき事由によるものとなる。
もっとも、413条1項は、債権者が履行の受領を拒み又は受けることができない場合において、債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は履行の提供をした時からその引渡しをするまで自己の財産に対するのと同一の注意をもって目的物を保存すれば足りると定める。債務者は本来履行期に目的物を引き渡して保管の負担から解放されるはずであり、これが延びたのは債権者側の事情によるからである。本件では、Bは履行の提供をし、Aが受領を拒んでいるのであるから、同項により、Bの保管義務は自己の財産に対するのと同一の注意に軽減される。
これを前提に検討すると、Cが用いた簡易な錠による施錠は、乙倉庫につき「普段どおり」の施錠方法であり、B自身が自己の農作物を保管する際に通常採っていた方法である。りんごなど他の農作物も同様に保管されており、現に全部が盗まれている。二重施錠はBが特にAへの引渡しのために上乗せして指示した措置にすぎず、これを怠ったことは、自己の財産に対するのと同一の注意を欠いたものとは評価できない。したがって、軽減された保管義務の違反はなく、松茸の滅失は当事者双方の責めに帰することができない事由によるものといえる。
(3)結論
よって、567条2項により、Aは代金の支払を拒むことができない。なお、受領遅滞中に当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行が不能となったときは、その不能は債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなされる(413条の2第2項)から、536条2項前段によってもAは反対給付の履行を拒むことができず、同条1項の抗弁は認められない。
以上より、Bの代金50万円の支払請求は認められる。
第2 設問2
1 小問⑴
Eの請求は、丙土地の所有権に基づく妨害排除請求としての甲トラック撤去請求である。その要件は、①Eが丙土地を所有すること、②相手方が現に丙土地所有権の行使を妨げていること、③相手方に妨害を正当化する権原がないことである。甲トラックが丙土地上に投棄されている以上、その所有者は、権原がなければ通常撤去義務を負う。
本件でDは、甲トラックの登録名義人であり、かつAとの間で、代金完済までその担保として所有権をDに留保する旨を合意している(【事実】10②)。そこで、所有権留保の留保売主が、所有権者として撤去義務を負うかが問題となる。
所有権留保は、売買代金債権を担保するために所有権の形式を用いる非典型担保であり、留保売主が有する権利は実質的には担保権としての性質を有する。本件のAD間の契約では、Aが甲トラックを占有し利用することができるとされ(④)、Dが返還を求めて換価充当しうるのは代金債務の不履行により期限の利益が喪失した後に限られ(③⑤)、清算義務も定められている(⑥)。すなわち、Dが把握しているのは甲トラックの交換価値にとどまり、その使用・占有の権能はAに帰属する。このような留保売主の地位は実質的に抵当権者に近く、抵当権者が抵当目的物による妨害について撤去義務を負わないのと同様に扱うべきである。
そこで、留保所有権者は、残債務弁済期が到来するまでは、留保所有権の目的物が第三者の土地上にあってその土地所有権を侵害していても、撤去義務や不法行為責任を負わないが、残債務弁済期が経過した後は、留保所有権が担保権の性質を有するとしても、撤去義務や不法行為責任を免れないと解する(最判平成21年3月10日)。弁済期経過後は、留保売主が目的物を占有し処分して換価する権能を現実に取得するからである。
本件では、Aは平成27年12月以降毎月遅滞することなく4万円を支払い続けており(【事実】11)、期限の利益喪失事由(③)は生じていない。したがって、平成30年3月10日時点で残債務の弁済期は到来していない。
よって、Dは甲トラックの撤去義務を負わず、撤去すべき立場にあるのはなお占有・利用権能を有するAであるから、㋐のDの発言は正当であると認められる。
2 小問⑵
㋐が正当であるとすると、Dは実質的に甲トラックの所有権を喪失したことになる。しかし、登録を受けた自動車の所有権の得喪は、登録を受けなければ第三者に対抗することができない(道路運送車両法5条1項)。甲トラックの登録名義はなおDにあるから、Eが同項の「第三者」に当たれば、Dは所有権の喪失をEに対抗できず、撤去義務を免れないことになる。
同項は民法177条と同趣旨の規定であるから、「第三者」とは、登録の不存在を主張する正当な利益を有する者をいうと解する。そして、同項の趣旨は、隠れた権利変動によって当該物につき法律上の利害関係を有するに至った者が害されることを防ぐ点にあるから、正当な利益とは、当該物につき登録名義人との間で権利を取得し又は負担を免れるべき地位に立つことをいう。
本件のEが甲トラックについて有する利害関係は、真の所有者が判明しなければ丙土地所有権に対する妨害を排除できないという不利益にとどまる。Eは甲トラックにつき権利を取得すべき地位にあるわけではないから、原則として「第三者」には当たらない。
もっとも、判例は、土地所有権の行使が地上建物の存在によって妨害されている場合において、建物所有権を譲渡により喪失したが自ら得た登記名義をなお保持する者は、土地所有者との関係では建物の物権変動における対抗関係にも似た関係にあるとして、土地所有者に対し建物を収去して土地を明け渡す義務を負うとしている(最判平成6年2月8日)。実質的所有者を探求する困難を土地所有者に強いるのは不合理だからである。登録自動車は不動産に準じた公示制度に服するから、Dについても同様の立論が可能かが問題となる。
しかし、第一に、建物の存立は敷地の全面的・固定的な占有を当然に伴い、土地所有者は占有という所有権の本質的権能を奪われた状態が継続するが、自動車の投棄による妨害は全面的でも固定的でもなく、同程度の侵害とはいえない。第二に、建物を譲渡した元所有者は自ら登記を得たのであるから名義の移転も当然になしえたのに対し、所有権留保売買は被担保債権の完済までは登録名義を売主にとどめておくことを当然の前提とし、判例もこれを承認しているのであるから、Dに登録懈怠の責めを負わせるのは適当でない。第三に、建物の撤去は取壊しであって費用を負担すれば誰でもなしうるが、自動車については、前登録名義人が真の所有者の所在が判明するまで保管を続けねばならず、その負担は過大となりかねない。
もっとも、Dは自動車抵当という手段を選びえたのに所有権留保を選んだのであり、また、Aの所在が判明しない以上Eの保護の必要が高いという反対方向の事情も存する。しかし、留保所有権者の実質が担保権者にすぎないことは小問⑴で前提とされたところであって、そのことを理由に再び所有者としての責任を負わせるのは一貫しない。
よって、Eを道路運送車両法5条1項の「第三者」又はこれに準ずる者として保護することはできず、Dは甲トラックの所有権喪失をEに対抗できる。Eの請求は認められない。
第3 設問3
1 本件遺言の解釈
被相続人の遺産の承継に関する遺言の解釈は、遺言書の文言を前提としつつ、遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきである(最判平成3年4月19日)。
まず、Fに1200万円、Gに600万円の定期預金を「相続させる」とする部分(②③)について。特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、当該相続人に当該財産を単独で相続により承継させる趣旨と解するのが合理的であり、特段の事情がない限り遺贈と解すべきではなく、908条にいう遺産分割の方法を定めた遺言に当たると解する。本件では、FGはいずれもCの子であり相続人であるから、本件遺言②③は遺産分割方法の指定である。
そして、総額2000万円の積極財産のうちFに1200万円、Gに600万円を割り付けることは、法定相続分(子2人で各2分の1)とは異なる割合による分割の指定である。遺言者が、Fには「Gよりも多く」と明示して割合的に異なる配分をしたときは、特段の事情がない限り、相続分の指定(902条)を伴うものと解するのが合理的である。よって、FGの指定相続分は、1200万円対600万円、すなわち3分の2対3分の1である。
次に、Hに200万円の定期預金のみを「与える」とする部分(④)について。Hは平成27年に確定した審判により廃除されており(892条)、相続資格を失っている。本件遺言には廃除の意思を変えるものではないと明記されているから、廃除の取消し(894条2項)の趣旨を含むものではなく、Hは相続人ではない。したがって、④は相続人以外の者に対する特定財産の処分であり、特定遺贈(964条)と解される。
2 借入金債務の承継
CがBに対して負っていた300万円の借入金債務は可分の金銭債務である。可分債務は、相続開始と同時に法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じて承継すると解する(大決昭和5年12月4日、427条)。そして、相続分の指定がある場合には、共同相続人間の内部関係においては指定相続分に応じて債務を承継する(899条・902条)。本件では、Fが3分の2、Gが3分の1であり、Fの負担部分は200万円、Gの負担部分は100万円である。
もっとも、相続債権者は、相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し法定相続分に応じてその権利を行使することができる(902条の2本文)。相続人間の遺言の内容を知りえない相続債権者を保護する趣旨である。したがって、Bは、FGに対しそれぞれ150万円を請求することができたにとどまる。
3 Fの請求しうる額
Fは、平成30年1月31日、Bの強い求めに応じて300万円全額を支払った。このうちF自身の負担部分200万円を超える100万円は、Gが終局的に負担すべき部分である。
Gの債務部分の弁済について、Fは債務者GではないがGの共同相続人であり、Bから全額の返済を求められる立場にあったのであるから、弁済をするについて正当な利益を有する第三者といえ、少なくともGの意思に反する弁済(474条2項)には当たらない。したがって弁済は有効であり、Gは債務を免れた。
そうすると、Fは、Gのために義務なく事務を管理し、Gのために有益な費用を支出したものとして、事務管理に基づく有益費用償還請求(702条1項)をすることができる。また、Gは法律上の原因なくFの損失により債務の消滅という利益を受けたものとして、不当利得返還請求(703条)も可能である。
なお、仮にFGが法定相続分で債務を承継すると解するならば、Fの負担部分は150万円となり、Gに請求しうる額は150万円となる。しかし、本件遺言は、Fに対し「Gよりも多く」財産を与える趣旨を明示しており、積極財産の配分に対応して債務の負担割合も変更する意思であったと解するのが合理的であって、債務の承継割合を法定相続分から変更する意思がないことが明らかであるという特段の事情は認められない。
よって、Fは、Gに対し、100万円の支払を請求することができる。
以上