司法試験 平成27年 民法
問題文
[民事系科目]〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,4:3:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
Ⅰ
【事実】1.平成23年4月1日,Aは,山林である自己所有の甲土地から切り出した20本の丸太を相場価格に従い1本当たり15万円の価格で製材業者Bに売却する旨の契約を締結し,同日,Bの工場に上記20本の丸太を搬入した。その際,代金の支払時期は,同年8月1日とされた。
また,Aの代金債権を担保するため,丸太の所有権移転の時期は,代金の支払時とし,代金の支払がされるまでBは丸太の処分や製材をしないことが合意された。
2.平成23年4月15日,建築業者Cは,Bが【事実】1に記した20本の丸太を購入したという噂を聞き,甲土地が高品質の材木の原料となる丸太を産出することで有名であったことから,Bに対して,上記20本の丸太を製材した上,自分に売ってほしいと申し入れた。Bは,Aとの間で【事実】1に記した合意をしていたことに加え,つい最近も,当該合意と同様の合意をしてAから別の丸太を買い入れたにもかかわらず,その代金の支払前にその丸太を第三者に転売したことがAに発覚してトラブルが生じていたこともあり,Cの申入れに応じることは難しいと考え,Cに対し,少し事情があるので,もうしばらく待ってほしい,と答えた。
しかし,Cがそれでもなお強く申し入れるので,Cが古くからのBの得意先であることもあり,同月18日,Bは,Aに無断で,Cとの間で,上記20本の丸太を製材して20本の材木に仕上げ,これらの材木を相場価格に従い1本当たり20万円の価格でCに売却する旨の契約を締結した。その際,Cは,それまでの取引の経験から,Aが丸太を売却するときにはその所有権移転の時期を代金の支払時とするのが通常であり,最近もAB間で上記のトラブルが生じていたことを知っていたが,上記20本の丸太についてはAB間で代金の支払が既にされているものと即断し,特にA及びBに対する照会はしなかった。
Bは,上記20本の丸太を製材した上,同月25日,Cから代金400万円の支払を受けると同時に,20本の材木をCの倉庫に搬入した。
3.その後,Cは,DからDが所有する乙建物のリフォーム工事を依頼され,平成23年5月2日,Dとの間で報酬額を600万円として請負契約を締結した。その際,Dは,Cから,乙建物の柱を初めとする主要な部分については,甲土地から切り出され,Bが製材した質の高い材木を10本使用する予定であり,既に10本の在庫がある旨の説明を受けていた。
4.Cは,【事実】2に記した20本の材木のうち,10本は,そのまま自分の倉庫に保管し(倉庫に保管した10本の材木を,以下「材木①」という。),残りの10本は,乙建物のリフォーム工事のために使用することにした(リフォーム工事のために使用した10本の材木を,以下「材木②」という。)。
5.平成23年5月15日,Dは乙建物から仮住まいの家に移り,Dが有していた乙建物の鍵のうちの1本をCに交付した。その翌日,Cは,乙建物のリフォーム工事を開始し,材木②を用いて乙建物の柱を取り替えるなどして,同年7月25日,リフォーム工事を完成させた。
同日,Dが内覧をした結果,乙建物のリフォーム工事はDの依頼のとおりにされたことが確認され,DはCに請負の報酬額600万円を支払ったが,乙建物の鍵の返還は建物内の通気の状況などを確認してからされることになり,鍵の返還日は同年8月10日とされた。
6.平成23年8月1日,【事実】1に記した20本の丸太に係る代金の支払時期が到来したので,Aは,Bの工場に丸太の代金を受け取りに行った。ところが,Bは, 【事実】2に記したトラブルに関して,この頃,Aから高額の解決金の請求をされていたことから,Aがその請求を取り下げない限り,丸太の代金を支払うことはできない旨を述べ,その支払を拒絶した。Aは,そのようなBの対応に抗議をするとともに,Bの工場内に丸太が見当たらなかったことを不審に思い,調査をしたところ,【事実】2から5までの事情が判明した。そこで,Aは,同月5日,C及びDに対してこれらの事情を伝えた。
驚いたDがCに問い合わせたところ,Cは,自分もAから同じ事情を聞かされて困っていると答えたが,いずれにしても乙建物のリフォーム工事は既に完成していることから,同月10日,CはDに乙建物の鍵を予定どおり返還した。
〔設問1〕 【事実】1から6までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。
⑴ Aは,Cに対して,材木①の所有権がAに帰属すると主張して,その引渡しを請求することができるか。Aの主張の根拠を説明し,そのAの主張が認められるかどうかを検討した上で,これに対して考えられるCの反論を挙げ,その反論が認められるかどうかを検討しなさい。
⑵ Aは,Dに対して,材木②の価額の償還を請求することができるか。Aの請求の根拠及び内容を説明し,それに関するAの主張が認められるかどうかを検討した上で,これに対して考えられるDの反論を挙げ,その反論が認められるかどうかを検討しなさい。
Ⅱ 【事実】1から6までに加え,以下の【事実】7から13までの経緯があった。
【事実】7.平成23年12月28日,Aは,甲土地上に生育している全ての立木(以下「本件立木」という。)を製材業者Eに売却する旨の契約を締結し,その代金全額の支払を受けた。そこで,Eは,平成24年1月5日から,本件立木の表皮を削ってEの所有である旨を墨書する作業を始め,同月7日までに,甲土地の東半分に生育する立木につき,明認方法を施し終えた。
8.ところが,資金繰りに窮していたAは,平成24年1月17日,甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却する旨の契約を締結し,同日,その代金全額の支払と引換えに,甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされた。これに先立ち,Fは,同月4日に甲土地を訪れ,本件立木の生育状況を確認していたが,その時点ではEが本件立木への墨書を開始していなかったことから,上記契約を締結する際には,既にAからEに対し本件立木が売却されていたことをFは知らなかった。
9.平成24年1月25日,Fは,甲土地を訪れたところ,本件立木の一部にEの墨書があることに気付いた。Fは,本件立木がEに奪われるのではないかと不安になったため,本件立木を全て切り出した上で,それまでの事情を伏せて,近くに住む年金暮らしの叔父Gに,切り出した丸太を預かってもらうよう依頼した。これに対し,Gが自己の所有する休耕中の丙土地であれば丸太を預かることができると答えたことから,同年2月2日,Fは,Gとの間で,保管料を30万円とし,その支払の時期を同月9日として,切り出した丸太を預かってもらう旨の合意をし,切り出した丸太を丙土地にトラックで搬入した。
10.平成24年2月10日,Eは,甲土地の西半分に生育する立木に墨書をするために甲土地に行ったところ,本件立木が全て切り出されていることを発見した。Eは,驚いて甲土地の近隣を尋ね歩いた結果,しばらく前にFが甲土地から切り出した丸太をトラックで搬出していたことが分かった。
11.平成24年2月13日,Eは,Fの所在を突き止め,本件立木の行方について事情を問いただしたところ,Fは,本件立木はAから購入したものであり,既に切り出してGに預けてあると答えるのみで,それ以上Eの抗議について取り合おうとしなかった。
12.そこで,Eは,平成24年2月15日,Gの所在を突き止め,確認したところ,Gが確かにFから【事実】9に記した丸太を預かっていると言うので,事情を話し,丸太を全てEに引き渡すよう求めた。Gは,Eとともに丙土地に行き,丸太を点検したところ,その一部にはEの墨書があることが分かったが,Eの墨書がないものもあったほか,丸太は全てFから預かったものであり,Fから保管料の支払もまだ受けていないことから,Eの求めに応じることはできないと答えた(これらの丸太のうち,Eの墨書がないものを,以下「丸太③」といい,Eの墨書があるものを,以下「丸太④」という。なお,Eの墨書は現在まで消えていない。)。
13.平成24年4月2日,Eは,Gに対し,丸太③及び丸太④の所有権は全てEに属し,これらをGが占有しているとして,その引渡しを求める訴えを提起した。
〔設問2〕 【事実】1から13までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。
なお,本件において,立木ニ関スル法律による登記は行われておらず,同法の適用については考慮しなくてよい。
⑴ 丸太③に関し,Gは,丸太③をEが所有することを争うことによって,Eの請求を拒否する旨主張した。このGの主張の根拠を説明した上で,Gは,どのような事実を主張・立証すべきであるか,理由を付して解答しなさい。
⑵ 丸太④に関し,Gは,丸太④をEが所有すること及びこれをGが占有していることは争わないが,丸太の保管料のうち丸太④の保管料に相当する金額の支払を受けるまでは,Eの請求を拒否する旨主張した。このGの主張の根拠を説明した上で,その主張が認められるかどうかを検討しなさい。
Ⅲ 【事実】1から13までに加え,以下の【事実】14から18までの経緯があった。
【事実】14.Cと同居しているCの長男Hは,満15歳の中学3年生である。平成24年11月15日,Hは,Cの自宅前を通行する者を驚かせようとして,Cの倉庫から,15センチメートル角で長さ2メートルの角材(以下「本件角材」という。)を持ち出し,Cの自宅前の道路の一部を横切るように置いた。Hが本件角材を置いたのは夕方であったが,その付近は,街路灯から離れていたために,夜間になると,歩行者でも,かなりの程度の注意を払っていなければ,本件角材に気付かない程度の暗さになり,Hもそのことを認識していた。
15.Hは,中学2年生の終わり頃から急に言動が粗暴になり,喧嘩で同級生に怪我をさせたり,同級生の自転車のブレーキワイヤーを切るといった悪質ないたずらをしたりしたことなどから,Cが学校から呼び出しを受けるという事態が何度も生じていた。Cは,Hに対し,他人に迷惑を掛けてはいけないといった一般的な注意をするものの,反抗的なHにどのような対応をしてよいのか分からず,それ以上の対策を講ずることはなかった。
16.HがCの自宅前に本件角材を置いてから1時間後,既にその付近がかなり暗くなってから,近所に住む女性Kの運転する自転車がCの自宅前の道路に差し掛かった。Kは,Kの子で3歳になるLを保育所に迎えに行き,荷台に設置した幼児用シートにLを乗せて自宅に戻る途中であったが,自転車の車輪が本件角材に乗り上げたため,ハンドルを取られて転倒し,Kは無事だったものの,Lは右腕を骨折した。
17.【事実】16の事故の際,Kは,携帯電話で通 話をしていたため,片手で自転車を運転していた。また,自転車の前照灯が故障していたが,保育所からKの自宅までの道路はKが普段よく使う道路であったため,Kは,前照灯の故障を気にせず,事故のあった場所を走行していた。
これらの事情も,【事実】16の事故の原因となったことが確認されている。なお,本件において,KがLを幼児用シートに乗せていたことは,法的に問題がないものとする。
18.Lには,【事実】16の事故により,右腕の骨 折の治療費等として30万円相当の損害が生じた。
〔設問3〕 【事実】1から18までを前提として,以下の⑴及び⑵に答えなさい。
⑴ Lが【事実】18に記した損害の賠償をCに対して請求するための根拠を説明した上で,それに関するLの主張が認められるかどうかを検討しなさい。
⑵ ⑴の請求に対し,その賠償額について,Cはどのような反論をすることが考えられるか。その根拠を説明した上で,その反論が認められるかどうかを検討しなさい。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第1問〕本問は,AがBとの間で丸太について所有権留保付き売買契約を締結していたにもかかわらず,BがAに無断でその丸太を製材し,製材後の材木をCに売却した後,Cがその材木の一部をDから請け負った乙建物のリフォーム工事に使用した事例(設問1) ,Aがその所有する甲土地上の立木をEに売却し,Eがその立木の半分に明認方法を施した後,Aから甲土地を買い受けたFが全ての立木を切り出し,その切り出した丸太をGに預けた事例(設問2) ,Cの子である15歳のHが夕刻に自宅前の道路に角材を置いたことにより,その道路を通り掛かったKの運転する自転車が転倒し,その自転車の幼児用シートに乗っていたKの子である3歳のLが傷害を負った事例(設問3)に関して,民法上の問題についての基礎的な理解とともに,その応用を問う問題である。当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力,その前提として,様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し,それに即して論旨を展開する能力などが試される。
設問1は,添付と即時取得という物権法の基本的事項に対する理解を問うとともに,これと関連する形で不当利得についても検討させることにより,法律問題相互の関係の正確な理解とそれに基づく法的構成力を問うものである。
⑴では,Aは,Cに対して,材木①の所有権がAに帰属すると主張してその引渡しを請求していることから,材木①の所有権の所在について検討することが求められる。その際,AB間における丸太の売買契約では,Bが売買代金を支払うまで丸太の所有権はAに留保されていること,Bがまだ売買代金を支払っていないこと,丸太の製材は加工に当たり,民法第246条第1項本文及びただし書によると,材木①の所有権は丸太の所有者であるAに帰属することを的確に分析することが期待されている。
これに対し, Cの反論としては, 即時取得 (民法第192条) を主張することが考えられる。
Cは,Bとの売買契約,つまり取引行為に基づき,材木①の引渡しを受けているからである。
しかし,【事実】2によれば,Bが材木①の所有者であると信じたことにつき,Cには過失が認められる。ここでは,事実を的確に評価する能力が問われる。
⑵では,Aは,Dに対して,材木②の価額の償還を求めていることから,その根拠が確認されなければならない。まず,材木②は,材木①と同様の理由からAの所有物であるが,Dの所有する乙建物に組み込まれて一体化されている。これは付合に当たり,民法第242条本文によると,乙建物の所有者であるDが材木②の所有権を取得する。その結果,材木②の所有権を失ったAは,民法第248条に従い,Dに対し,その償金を請求することができる。このAの請求を基礎付けるに当たっては,付合の意義が正確に説明され,本問に示された事実関係に即して適切な当てはめをすることが求められる。
また,民法第248条は「第703条及び第704条の規定に従い」としていることから,AのDに対する請求の具体的な内容を確定するためには,不当利得の成立要件について,本問に示された事実関係に即して検討する必要がある。ただし,要件を単に羅列することは求められておらず,付合に関する当てはめをする中で,これらの要件を実質的に検討することでも足りる。
さらに,AがDに対して請求することができる額について,AB間の関係を考慮に入れた分析をすることも期待されている。材木②の価額は200万円であるから,材木②の所有者であるAは,Dに対して,200万円を請求することができるはずである。他方,材木②の材料に当たる丸太の価額は150万円であるため,Aが受けた損失を勘案するならば,AがDに対して請求できる額は150万円にとどまると考える余地もある。
これに対して,Aの償金請求に対するDの反論として考えられるのは,例えば,DがCに請負代金を支払済みであることから,その限度でDの利得は消滅したという主張である。この反論を基礎付けるためには,Aが受益をした時点,つまり材木②が乙建物に付合した時点において,Dが善意であり(材木②の所有権をCが有しないことを知らなかった) ,かつ,悪意に転じる前に,Cに請負代金を支払ったことが指摘されなければならない。
しかし,仮にDが自分で乙建物のリフォーム工事をするためにCから材木②を購入し,まだ材木②が乙建物に付合していないとすると,Dについて即時取得が成立しない限り,DがCに材木②の売買代金を支払ったとしても,AはDに対して材木②の返還を請求することができるはずである。このような観点からすると,DがCに請負代金を支払っていることを理由として,Dの利得の消滅を認めることは適切でなく,むしろ,Dにおいて材木②の価値に相当するものを即時取得したと評価することができる場合に,Dの利得について法律上の原因が認められ,DはAの償金請求を拒絶することができると考える可能性もある。その際には,引渡し時における善意無過失という即時取得の要件について,Dは,乙建物の鍵のうちの1本をCに交付して仮住まいの家に移っただけであるから,Cを通じて乙建物を間接的に占有していると評価することができ,材木②が乙建物に付合した時に材木②の引渡しを受けたのと同じ状況となるから,Dの善意無過失について判断すべき基準時は付合が生じた時点であること等が問題となる。
設問2は,立木が二重に譲渡された後に切り出された場合においてその切り出された丸太について返還請求がされた事例を素材として,所有権に基づく物権的返還請求権の主張に対する典型的な抗弁の1つである対抗要件具備による所有権喪失の抗弁について正確な理解を有しているかどうか及び民事留置権の成否に関して事案に即した適切な検討ができるかどうかを問うものである。
⑴では,対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の構造を正確に理解した上で,それを本問の事例に即して展開し応用する能力が問われている。
Gが「丸太③をEが所有することを争うことによって」Eの請求を拒否する旨主張する根拠は,Fが対抗要件を具備することにより丸太③の所有権を確定的に取得した結果,Eがその所有権を喪失したことに求められる。そのため,ここではまず,Gの主張の根拠が,この意味での対抗要件具備による所有権喪失の抗弁に求められることを説明し,Gが主張・立証すべき事実を的確に示すことが求められる。
その前提として,EのGに対する請求は,丸太③の所有権がEに属することを理由とする。
これは,丸太③が,甲土地から切り出される前は,甲土地に生育していた立木であること,この本件立木は,甲土地の定着物(民法第86条第1項)ないし甲土地と付合して一体となるもの(民法第242条)であることから,甲土地の所有者であるAに帰属すること,EはAから売買により本件立木の所有権を取得したこと,その後本件立木が甲土地から切り出されても,Eの所有権は切り出された丸太に及び続けることによって基礎付けられる。
その上で,Gの主張は,Aが甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却する旨の契約が締結され,それに基づき甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされたことによって,民法第177条により,Fが本件立木の所有権を確定的に取得したこと,したがってEは本件立木の所有権を喪失したことによって基礎付けられる。本件立木は甲土地の定着物ないし甲土地と付合して一体となるものであることから,厳密に言うと,Fは,甲土地の売買により本件立木の所有権を取得し,甲土地の所有権移転登記により本件立木についても対抗要件を具備することになる。
このほか,Gの主張の根拠としては,対抗要件の抗弁を考える余地もある。これは,AからEへの本件立木の売買に基づく物権変動について,Fから丸太③の寄託を受けたGが民法第177条の第三者に当たること,あるいは民法第177条の第三者に当たるFの地位をGが援用することにより,丸太③に対応する立木について明認方法を具備していないEはその所有権の取得をGに対抗することができないという構成による。その際には,受寄者が民法第177条の第三者に当たるか否かが問題となることなどを踏まえて,対抗要件の抗弁が認められる理由を適切に論じることが求められる。
⑵では,寄託契約に基づく保管料債権を被担保債権とする民事留置権の成否について正確に検討することができるかどうかが問われている。
ここでは,まず,Gの主張が民事留置権(民法第295条)に基づくものであることを示す必要がある。商事留置権の成否について検討する必要はない(【事実】9を参照)。
このGの主張が認められるためには,民事留置権の要件の全て,すなわち,(i)他人の物を占有していること,(ii)その物に関して生じ た債権を有すること,(iii)被担保債権の弁済期が到来していること,(iv)占有が不法行為によって始まったものでないことについて,主張・立証責任の所在にも留意しつつ,それぞれの要件の意味を示し,それに該当する事実の有無を判断することが求められる。
本問では,民事留置権の目的物である丸太④は,切り出される前の立木についてEが明認方法を具備していたことから,Eの所有に属する。それに対して,被担保債権である丸太④の保管料債権の債務者はFであるため,このような場合に単純に民事留置権の成立を認めると,Eの所有物がEとは無関係のFの債務の担保に供される事態を認めることになり,民事留置権の成立を認めることが適当かどうかという問題 が生じる。そこで,(i)の要件について,被担保債権の債務者以外の者が所有する物も「他人の物」といえるか否か,あるいは,(ii)の要件について,このような場合に被担保債権と物との間に牽連性が認められるか否かについて,留置権の制度趣旨に遡った検討をすることが期待される。
また,本問では,Fが丸太④を甲土地から切り出してGに寄託した行為はEに対する不法行為に該当すると考えられることから,Gが丸太④を預かった行為もEに対する不法行為に該当し,(iv)の要件が充足されないことになるか否かも問題となる。この点については, 【事実】9の事情を適切に評価して,Gの不法行為の成否を判断することが求められる。
なお,民事留置権の主張を認めるためには,その全ての要件が充足されていることを確認する必要があるのに対し,例えば,(i)や(ii)の要件について必要十分な検討を経てその充足が否定される場合には,民事留置権の成立を否定する結論を出すために,他の要件について検討する必要はない。そのような場合,他の要件について検討していないことを理由に不利に扱われることはない。
設問3は,未成年者であるHの不法行為を素材として,不法行為法についての基本的な知識とその理解を問うものである。責任能力がある未成年者の不法行為についての監督義務者の責任と被害者側の過失についてはいずれも確立した判例があることから,それを踏まえて検討することが期待されている。
⑴で問われているのは,Hの親であるCの責任であるが,Cの責任については,Hに不法行為責任が認められるか否かによって,その法律構成が異なる。Hが本件角材を路上に置く行為は,客観的に不法行為に当たると考えられるが,Hに責任能力が認められない場合,Hの不法行為責任は否定される(民法第712条)。その場合には,Hの親権者であり,法定監督義務者となるCについて,民法第714条に基づく責任が認められる可能性がある。他方で,同条は,直接の加害者に責任能力が認められない場合の補充的責任を定めたものであり,Hに責任能力が認められる場合には,適用されない。しかし,このように直接の加害者である未成年者に責任能力が認められる場合でも,判例は,その監督義務者が民法第709条によって責任を負う可能性を認めている。本問では,これらの全体的な相互関係を踏まえて,Cの不法行為責任の成否を適切に論じることが求められる。
まず,Hの責任能力については,民法には明確な年齢基準が定められていないものの,従来の判例では,12歳前後がその基準とされていることから,既に満15歳に達し中学3年生であるHについては, 特段の事情がない限り, 責任能力が肯定されると考えられる。 したがって,これを前提とする限り,Cについて,民法第714条に基づく責任を追及することはできない。
しかし,判例は,未成年者の責任能力が肯定される場合でも,監督義務者に監督義務違反としての故意又は過失が認められ,それと結果との間に相当因果関係があれば,監督義務者自身の不法行為として,民法第709条の責任を負うことを認めている。これによると,Cについて監督義務違反が認められるか否か,認められるとした場合,その監督義務違反とLの権利侵害との間に相当因果関係が認められるか否かについて,本問に示された事実関係に即して,的確に検討することが求められる。もっとも,このように判例に依拠して検討することが唯一の解答ではなく,適切な理由付けによってこれと異なる論じ方をすることも排除されていない。
⑵は,賠償額について,Cはどのような反論をすることが考えられるかを検討させるものである。ここでは,過失相殺について論じることが期待される。
【事実】16及び17によると,既に付近がかなり暗くなっていたにもかかわらず,Kが前照灯の故障した自転車を,携帯電話を使用していたため,片手で運転していたことから,Kについて過失と評価されるような事情が認められるが,Lについては,過失と評価されるような事情は認められない。本問の損害賠償請求はLによるものであるため,L自身には過失がないにもかかわらず,こうしたKの過失が,Lの損害賠償請求において過失相殺の対象として考慮されるかどうかが問題となる。この点について,判例は,被害者自身の過失でなくても,被害者と身分上・生活関係上の一体性が認められる者に過失があった場合については,その者の過失を過失相殺の対象として考慮することを認めている。判例に即して論じる場合には,以上の点を的確に示し,本問に示された事実関係に即して,その要件が満たされている否かを的確に検討することが求められる。
もっとも,判例による被害者側の過失法理に依拠して検討することが唯一の解答ではない。
特に,被害者側の過失法理については,その妥当性を疑問視する見解も有力であり,判例と異なる構成を採る場合であっても,適切な理由付けが行われ,その要件等が的確に検討されていれば,それに相応した評価がされることになる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1⑴
1 Aの主張の根拠
Aは、材木①の所有権に基づく返還請求権として、Cに対し材木①の引渡しを請求する。その要件は、①Aが材木①を所有すること、②Cが材木①を占有することである。Cは材木①10本を自己の倉庫に保管しているから、②は充たされる。
2 材木①の所有権の帰属
⑴ 平成23年4月1日のAB間の売買契約においては、Aの代金債権を担保するため、丸太の所有権移転の時期は代金の支払時とし、代金の支払がされるまでBは丸太の処分や製材をしないことが合意されている。所有権の移転時期について当事者が特約をした場合には、その特約に従う(民法176条)。平成23年8月1日の支払時期が到来してもBは代金の支払を拒絶しているから、丸太20本の所有権はAに留保されたままである。
⑵ Bは、Aに無断で20本の丸太を製材して20本の材木に仕上げた。これは、他人の動産に工作を加えて新たな物を作り出す行為であり、加工(246条1項)にあたる。
加工者が他人の動産に工作を加えたときは、その加工物の所有権は材料の所有者に帰属する(同項本文)。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する(同項但書)。
本件では、丸太1本の相場価格は15万円、材木1本の相場価格は20万円であるから、工作によって生じた価格は1本当たり5万円であり、材料の価格15万円の3分の1にとどまる。これが材料の価格を「著しく超える」とはいえない。
したがって、246条1項本文により、材木20本の所有権は材料の所有者であるAに帰属する。材木①もAの所有である。
3 Cの反論
⑴ これに対しCは、材木①を即時取得(192条)したと反論することが考えられる。
即時取得の要件は、①取引行為に基づくこと、②動産の占有を平穏かつ公然に取得したこと、③占有取得時に善意かつ無過失であること、④前主が無権利者であることである。本件では、①BC間の平成23年4月18日の売買契約は取引行為であり、②Cは同月25日に代金400万円を支払うと同時に20本の材木の引渡しを受けてこれを自己の倉庫に搬入しており、④前主Bは前記のとおり無権利者である。
⑵ 問題は、③Cの善意無過失である。即時取得における無過失とは、前主に処分権限があると信じたことについて取引上要求される注意を尽くしたことをいう。
本件では、第一に、Cは、それまでの取引の経験から、Aが丸太を売却するときにはその所有権移転の時期を代金の支払時とするのが通常であることを知っていた。第二に、Cは、最近もAB間で代金の支払前にBが丸太を第三者に転売したことによるトラブルが生じていたことを知っていた。第三に、Cが丸太の製材と売却を申し入れたのに対し、Bは当初「少し事情があるので、もうしばらく待ってほしい」と答えており、Cは、Bが丸太を自由に処分できない事情があることを疑うべき契機を与えられていた。
これらの事情の下では、Cは、Aへの代金支払が済んでいるか否かをA又はBに照会すべきであった。Cは建築業者という専門業者であり、A及びBとは従前から取引関係があったのであるから、照会は容易であった。それにもかかわらず、Cは代金の支払が既にされているものと即断し、特にA及びBに対する照会をしなかった。
したがって、Cには過失が認められ、即時取得は成立しない。
4 結論
Cの反論は認められず、Aの請求は認められる。
第2 設問1⑵
1 Aの請求の根拠及び内容
⑴ 材木②も、前記と同様の理由によりAの所有物であった。しかし、Cは、平成23年5月16日から7月25日までの間、材木②を用いて乙建物の柱を取り替えるなどのリフォーム工事を行った。
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する(242条本文)。付合とは、物が不動産に結合し、取引上の独立性を失って不動産の構成部分となることをいい、分離が物理的に不可能である場合に限らず、分離すると社会経済上著しい不利益を生ずる場合も含む。
本件では、材木②は乙建物の柱その他の主要な部分として用いられており、これを分離するには乙建物を毀損するほかない。したがって材木②は乙建物に付合し、乙建物の所有者Dがその所有権を取得した。
242条但書は、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げないとするが、同但書は、附属させた者が目的物について権利を有する場合にその権利を保護する趣旨の規定である。Cは請負契約に基づき工事をする権原を有するが、材木②について何らの権利も有しないから、同但書の適用はない。
⑵ 242条の適用によって所有権を失った者は、703条及び704条の規定に従い、その償金を請求することができる(248条)。したがって、Aは、Dに対し、材木②の価額の償還を請求することができる。
⑶ 請求額については、Aが所有権を失ったのは材木②であり、その価額は1本20万円の10本分で200万円であるから、200万円を請求しうると考えられる。
もっとも、248条は703条及び704条に従うとしており、不当利得の返還はAの損失の範囲に限られる。Aがもともと有していたのは丸太の所有権であり、材木への価値の増加はBの加工という労力によって生じたものである。Aは、Bに丸太を1本15万円で売却する契約をしていたのであるから、Aが現実に失った経済的価値は丸太10本分の150万円にとどまる。加工により形式的にAが材木の所有権を取得したことを理由に、Bの労力によって生じた増加価値50万円までAに取得させることは、不当利得制度の趣旨である損失と利得の調整に反する。
したがって、Aが請求しうる額は150万円にとどまると解すべきである。
2 Dの反論
⑴ 利得の消滅
Dは、既にCに請負の報酬額600万円を支払済みであるから、その限度で利得は消滅した(703条)と反論することが考えられる。Dは、乙建物に材木②が付合した時点でAの所有権留保の事実を知らず、Aから事情を伝えられた平成23年8月5日より前の同年7月25日に報酬を支払っているから、善意の受益者として利益の現存する限度で返還義務を負うとの主張である。
しかし、報酬の支払は請負契約に基づくD自身の債務の履行であって、材木②の所有権取得の対価として支払われたものではない。また、仮にDが自ら工事をするためにCから材木②を買い受け、まだ乙建物に付合していないとすれば、Dについて即時取得が成立しない限り、Dが代金を支払っていてもAはDに対し材木②の返還を請求しうるはずである。代金の支払が所有権喪失の帰結を左右しないのであるから、付合の場合にこれを利得の消滅として扱うことは一貫しない。したがって、この反論は適切でない。
⑵ 即時取得による法律上の原因
そこで、Dは、材木②の価値に相当するものを即時取得(192条)したから、その利得には法律上の原因があり、Aの償金請求を拒絶することができると反論すべきである。
ア 取引行為
DC間の請負契約(平成23年5月2日)において、Cは自ら材料を調達して乙建物のリフォーム工事を行うものとされており、材料の価値は報酬に含まれている。請負人が自ら提供した材料が注文者の不動産に付合することによって注文者がその価値を取得する関係は、売買に類する有償の取引行為と評価することができる。したがって取引行為の要件は充たされる。
イ 占有の取得
Dは、平成23年5月15日に乙建物から仮住まいの家に移り、乙建物の鍵のうちの1本をCに交付したにとどまる。Dは鍵の1本をなお保持しており、Cを通じて乙建物を間接的に占有していたと評価できる。そして、材木②が乙建物に付合した時点で、Dは乙建物の構成部分として材木②の占有を取得したことになるから、占有取得の要件も充たされる。
ウ 善意無過失の基準時
以上より、Dの善意無過失の有無は、材木②が乙建物に付合した時点を基準として判断すべきである。付合は平成23年5月16日から同年7月25日までのリフォーム工事の進行に伴って生じている。
Dは、Cから、乙建物の柱を初めとする主要な部分については甲土地から切り出されBが製材した質の高い材木を10本使用する予定であり、既に10本の在庫がある旨の説明を受けていた。Dにとって、請負人Cが自己の倉庫に在庫として保有する材木がCの所有物であると信じたことは自然であり、Dは建物の所有者にすぎず、材木の流通経過や仕入先の代金決済状況を調査すべき義務を負うものではない。また、Aの所有権留保の事実を疑うべき契機となる事情もなかった。Dが事情を知ったのは、工事完成後の平成23年8月5日である。
したがって、Dは付合の時点において善意無過失であり、材木②の価値を即時取得した。
3 結論
Dの反論が認められ、Dの利得には法律上の原因があるから、AのDに対する償金請求は認められない。なお、Aは、Bに対し売買代金債権(300万円)及び丸太の処分禁止特約違反による損害賠償請求権を有し、Cに対しては材木②に係る所有権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権(709条)を有するから、これらによって救済を求めるべきである。
第3 設問2⑴
1 Eの請求の根拠
Eは、丸太③の所有権に基づく返還請求権として、Gに対しその引渡しを請求している。その請求原因は、①Eが丸太③を所有すること、②Gが丸太③を占有することである。
本件立木は、甲土地に生育する立木であり、土地の定着物(86条1項)として甲土地の構成部分をなし、甲土地の所有者Aに帰属していた。Eは、平成23年12月28日、Aから本件立木を売買により取得し、代金全額を支払った。立木を土地と分離して取引の目的とすることは可能であり、売買契約の成立により立木の所有権はEに移転する(176条)。そして、立木が土地から切り出されて丸太となっても、同一物としての物理的連続性が保たれている限り、Eの所有権は切り出された丸太に及び続ける。
Gは、Fから預かった丸太を丙土地に保管しており、丸太③を占有している。
2 Gの主張の根拠
⑴ これに対しGは、丸太③をEが所有することを争うことによってEの請求を拒否する旨主張している。この主張の根拠は、Fが対抗要件を具備することにより丸太③の所有権を確定的に取得した結果、Eがその所有権を喪失したという、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁である。
⑵ 立木を土地と分離して譲渡した場合、譲受人がその物権変動を第三者に対抗するためには、明認方法を施すことを要する。他方、立木は土地の定着物であるから、土地の譲受人は、土地の売買により立木の所有権をも取得し、土地の所有権移転登記によって立木についても対抗要件を具備する。
本件では、Aは、平成24年1月17日、甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却し、同日、甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされた。したがって、Fは、同日、本件立木についての所有権取得を第三者に対抗することができる地位を得た。
他方、Eは、平成24年1月5日から明認方法を施す作業を始め、同月7日までに甲土地の東半分に生育する立木につき明認方法を施し終えたにとどまる。丸太③はEの墨書がないものであるから、甲土地の西半分に生育していた立木から切り出されたものであり、Eは明認方法を具備していない。
⑶ E・Fは、いずれもAから本件立木を取得した二重譲受人の関係にあり、その優劣は対抗要件具備の先後によって決せられる(177条)。丸太③に対応する立木については、Eが対抗要件を具備しないまま、Fが甲土地の所有権移転登記によって対抗要件を具備したのであるから、Fが確定的にその所有権を取得し、Eは所有権を喪失した。
3 Gが主張・立証すべき事実
したがって、Gは、所有権喪失の抗弁として、次の事実を主張・立証すべきである。
第一に、平成24年1月17日、AとFとの間で、甲土地及び甲土地上の本件立木をAがFに売却する旨の契約が締結されたことである。これはFの所有権取得の原因である。
第二に、同日、甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされたことである。これはFが本件立木についても対抗要件を具備したことを示す。
第三に、丸太③が甲土地から切り出された立木であることである。これは請求の対象となる物の同一性に関わる。
なお、Eの明認方法の具備は、Fの所有権取得をEに対抗させないための再抗弁としてEが主張・立証すべき事実であるが、丸太③についてはEの墨書がないことが明らかである。また、Eは、Fが背信的悪意者であることを再抗弁として主張しうるが、Fは平成24年1月4日に甲土地を訪れた時点ではEの墨書を認識しておらず、契約締結時にAからEへの売却を知らなかったのであるから、背信的悪意者にはあたらない。
4 対抗要件の抗弁との関係
Gの主張の根拠として、AからEへの立木の売買に基づく物権変動について、Eが明認方法を具備するまでその取得を認めないという対抗要件の抗弁を考える余地もある。しかし、Gは丸太の受寄者にすぎず、丸太について固有の利益を有しないから、177条の「第三者」すなわち対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有する者にあたらない。Fの第三者たる地位を援用する構成も考えられるが、本件ではFが現に対抗要件を具備しており、所有権喪失の抗弁によってEの請求原因そのものが否定されるから、対抗要件の抗弁を論ずる必要はない。
第4 設問2⑵
1 Gの主張の根拠
丸太④は、Eの墨書がある丸太であり、甲土地の東半分の立木から切り出されたものである。Eは平成24年1月7日までに当該立木について明認方法を施し終えており、同月17日のFの登記に先立って対抗要件を具備しているから、Eが確定的に所有権を取得する。Gもこれを争っていない。
Gの主張は、丸太の保管料のうち丸太④の保管料に相当する金額の支払を受けるまでEの請求を拒否するというものであり、その根拠は留置権(295条1項)である。Gは商人ではなく、丸太の保管も商行為でないから、商事留置権は問題とならない。
留置権の要件は、(i)他人の物を占有すること、(ii)その物に関して生じた弁済期にある債権を有すること、(iii)占有が不法行為によって始まったものでないこと(同条2項)である。
2 (i)他人の物の占有
Gは、平成24年2月2日、Fとの間で保管料を30万円とする寄託契約を締結し、切り出された丸太を丙土地に搬入して保管している。丸太④はEの所有物であるから、Gは「他人の物」を占有している。
295条1項は「他人の物」と定め、「債務者の物」とは定めていない。留置権は、物の占有者が当該物に関して債権を有する場合に、公平の観念に基づいて債権の弁済を受けるまで物の返還を拒むことを認める法定担保物権であり、被担保債権の債務者が物の所有者であることを当然の前提とするものではない。したがって、この要件自体は充たされる。
3 (ii)牽連性
⑴ 「その物に関して生じた債権」(牽連性)とは、①債権が物自体から生じた場合、又は②債権が物の返還請求権と同一の法律関係若しくは事実関係から生じた場合をいう。
Gの保管料債権は、丸太の保管という給付の対価であり、丸太④自体に関して生じた債権であるかにみえる。
⑵ しかし、Gの保管料債権は、Fとの間の寄託契約に基づく約定の報酬債権であり、その債務者はFである。他方、留置権によって引渡しを拒まれるのは所有者Eである。このような場合に留置権の成立を認めると、Eは、自己と何らの法律関係も有しないFの債務のために自己の所有物を担保に供されることになり、Eに不当な負担を課すことになる。留置権が公平の観念に基づく制度であることからすれば、かかる結果は許されない。
判例も、不動産の二重譲渡において、第一譲受人が譲渡人に対して有する損害賠償債権をもって、第二譲受人の明渡請求に対し留置権を主張することはできないとしている。これは、被担保債権の債務者が目的物の所有者でない場合に、物と債権との牽連性を否定した趣旨と解される。
⑶ 本件において、Gは、Fから「それまでの事情を伏せて」依頼を受け、Fの所有物であると信じて寄託契約を締結したにすぎず、Eとの間には何らの契約関係も存在しない。Gの報酬債権は専らFとの契約関係から生じたものであって、Eに対する丸太④の返還義務と同一の法律関係から生じたものではない。
したがって、約定の保管料債権と丸太④との間に牽連性は認められず、Gの留置権の主張は認められない。
4 (iv)占有が不法行為によって始まったものでないこと
もっとも、仮に牽連性を認める立場に立つとしても、295条2項の要件が問題となる。
Fが本件立木を切り出してGに寄託した行為は、Eの所有権を侵害する不法行為(709条)にあたる。しかし、同項は占有者自身の占有の始めが不法行為によることを要件とするから、G自身について不法行為が成立するかを検討すべきである。
Gは、近くに住む年金暮らしの叔父であり、Fからそれまでの事情を伏せられたまま丸太を預かるよう依頼され、自己の所有する休耕中の丙土地であれば預かることができると答えたにすぎない。Gは丸太の所有関係について何ら知らず、Fが甲土地を買い受けたことを前提とすれば、Fが切り出した丸太を所有することに疑いを抱くべき事情もなかった。したがって、Gに故意も過失もなく、Gの占有は不法行為によって始まったものではない。
なお、Gは平成24年2月15日にEから事情を聞き、丸太の一部にEの墨書があることを確認しているが、同項は占有の始めを基準とするから、占有開始後に悪意となったことは同項に該当しない。
5 結論
牽連性が認められないため、Gの留置権の主張は認められず、GはEに対し丸太④を引き渡さなければならない。なお、Gは、丸太④の保管によってEの利益となる費用を支出した限度では、Eに対し事務管理に基づく費用償還請求(702条1項)又は不当利得返還請求(703条)をなしうるにとどまり、Fとの約定保管料そのものをEに請求することはできない。
第5 設問3⑴
1 Hの行為と責任能力
Hは、平成24年11月15日夕方、Cの倉庫から15センチメートル角で長さ2メートルの本件角材を持ち出し、Cの自宅前の道路の一部を横切るように置いた。その付近は夜間になると歩行者でもかなりの程度の注意を払っていなければ本件角材に気付かない程度の暗さになり、Hもそのことを認識していた。かかる行為は、通行人の身体の安全を侵害する危険を生じさせるものであり、客観的に不法行為(709条)の要件を充たす。
もっとも、未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない(712条)。責任能力の有無は個別に判断されるが、判例上はおおむね12歳前後が基準とされている。
Hは満15歳の中学3年生であり、しかも自らが本件角材を置いた場所が夜間には歩行者でも気付かない程度の暗さになることを認識していたのであるから、自己の行為が他人に損害を加える違法なものであることを弁識する能力を有していた。したがって、Hには責任能力が認められる。
2 Cの責任の法律構成
714条1項は、責任無能力者がその責任を負わない場合に監督義務者が責任を負うと定めるものであり、責任能力のある未成年者の行為には適用されない。したがって、LはCに対して同条に基づく請求をすることはできない。
もっとも、判例は、責任能力ある未成年者の行為について、監督義務者に監督義務違反としての故意又は過失が認められ、それと未成年者の行為による結果との間に相当因果関係があるときは、監督義務者自身の不法行為として709条の責任を負うとしている。監督義務者の責任は、未成年者に責任能力があることによって当然に否定されるものではなく、監督義務者自身の義務違反という独自の違法性に基づくものだからである。
3 Cの監督義務違反
親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し義務を負う(820条)。この義務の内容は、子の年齢、性向及び具体的な危険の予見可能性に応じて定まる。
本件では、Hは中学2年生の終わり頃から急に言動が粗暴になり、喧嘩で同級生に怪我をさせたり、同級生の自転車のブレーキワイヤーを切るといった悪質ないたずらをしたりしたことから、Cが学校から呼び出しを受けるという事態が何度も生じていた。特に、自転車のブレーキワイヤーを切る行為は、他人の身体に重大な危害を及ぼしうる危険な行為である。Cは、Hが他人の身体や財産に危害を及ぼす行為を反復していることを具体的に認識していたのであるから、親権者として、Hの行動を具体的に把握し、同種の行為を防止するための実効的な指導及び監督をすべき義務を負っていた。
それにもかかわらず、Cは、Hに対し他人に迷惑を掛けてはいけないといった一般的な注意をするにとどまり、反抗的なHにどのような対応をしてよいのか分からず、それ以上の対策を講ずることはなかった。これは、具体的な危険を認識しながら実効的な監督を怠ったものであり、監督義務違反としての過失にあたる。
また、本件角材はCの倉庫から持ち出されたものであり、Cは、建築業者として危険となりうる資材を保管する者として、Hがこれを自由に持ち出せる状態を放置していた点でも注意を欠いている。
4 相当因果関係及び損害
Cが前記の監督義務を尽くしていれば、Hが本件角材を持ち出して暗い道路に置くという行為を防止しえたと認められる。そして、道路を横切るように置かれた角材に自転車の車輪が乗り上げて転倒し、同乗者が負傷することは、かかる行為から通常生ずべき結果である。したがって、Cの監督義務違反とLの傷害との間には相当因果関係がある。
Lには、本件事故により右腕の骨折の治療費等として30万円相当の損害が生じている。
5 結論
Lの主張は認められ、LはCに対し709条に基づき30万円の損害賠償を請求することができる。なお、Hも709条の責任を負い、CとHの責任は不真正連帯債務の関係に立つ(719条1項前段参照)。
第6 設問3⑵
1 Cの反論の根拠
Cは、賠償額について、過失相殺(722条2項)を主張することが考えられる。被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して損害賠償の額を定めることができる。
本件では、事故の際、Kは携帯電話で通話をしていたため片手で自転車を運転しており、また自転車の前照灯が故障していたにもかかわらず、普段よく使う道路であったためこれを気にせず、既にかなり暗くなった事故現場を走行していた。これらの事情も事故の原因となったことが確認されている。Kの行為は、自転車の運転者として当然に尽くすべき注意を欠くものであり、過失と評価される。
2 被害者側の過失
⑴ もっとも、損害賠償を請求しているのはLであり、Lは3歳の幼児であって、幼児用シートに乗せられていたにすぎず、L自身には過失と評価されるような事情はない。Lには事理弁識能力もない。
そこで、Kの過失をLの損害賠償請求において過失相殺の対象として考慮できるかが問題となる。
⑵ 722条2項の過失相殺は、不法行為によって生じた損害を加害者と被害者との間で公平に分担させるという制度の趣旨に基づくものである。そうすると、被害者本人に過失がない場合であっても、被害者と身分上又は生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者に過失があるときは、その過失を被害者側の過失として考慮することができると解すべきである。これを認めなければ、加害者は被害者の近親者の過失によって生じた損害までも負担する一方、被害者は事実上その近親者から利益を受けることになり、損害の公平な分担に反するからである。判例も同様の立場を採る。
⑶ 本件では、KはLの母であり、Lを保育所に迎えに行って自宅に戻る途中であったのであるから、K・Lは同居して生計を同一にする親子であり、身分上かつ生活関係上一体をなす関係にある。また、Kは本件事故の際に現にLを監護していた者である。したがって、Kの過失はLの損害賠償請求において被害者側の過失として考慮される。
⑷ なお、被害者側の過失の法理については、被害者本人に過失がないのに賠償額が減額されるのは被害者の救済として不十分であるとの批判もある。しかし、本件のようにLが未成年であり、賠償金が親権者Kの管理の下でLの治療等に充てられることが通常である以上、Kの過失を考慮しないことはかえって公平を失する。したがって、前記の見解が妥当である。
3 過失相殺の程度
もっとも、減額の程度については慎重な考慮を要する。Hは、通行人を驚かせようとして、夜間になれば歩行者でもかなりの注意を払わなければ気付かない程度に暗くなることを認識しながら、道路の一部を横切るように本件角材を置いたのであり、その行為の危険性と違法性は著しく高い。他方、Kの過失は自転車運転上の注意義務違反であり、本件角材という予期しえない障害物が道路上に置かれていたという事情に照らせば、その寄与の程度は限定的である。
したがって、Cの過失相殺の反論は認められるものの、減額の割合は限定的なものにとどまるべきである。
以上