司法試験 令和8年 憲法
問題文
〔第1問〕(配点:100)
A市立中央公園(以下「本件公園」という。)は、市民の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等の利用のため、A市が都市公園法に基づいて設置した60メートル四方の広さの市立公園である。A市内に同規模の市立公園はほかに5つあるが、いずれも郊外に位置し、市の中心部にあるのは本件公園のみである。本件公園は繁華街の近くにあり、公園南側に隣接する中央大通りの歩道は、平日・休日の昼夜を問わず多くの人々が通行する。中央大通りを挟んだ反対側の地区(10年前に廃止された県立女子短大の跡地)では再開発が行われ、数棟の超高層住宅と大型商業施設が建設されたため、本件公園一帯のにぎわいは増している。本件公園は、一般市民が随時、無料で利用できる公園であるが、その一部又は全部を独占して使用する場合には、A市立公園管理条例(以下「本件条例」という。後掲【資料】を参照。)第5条第 1 項の定める市長の許可を得る必要がある。同項所定の許可を得て、在留外国人との共生を進める国際交流団体の活動紹介を内容とする行事のほか、原水爆禁止を訴える趣旨の集会が開催されたことがある。
5年ほど前から、夜間に本件公園内で暴走族が集会を行ったり、未成年者が集まり飲酒をして騒ぐなどの行為が繰り返され、治安上の懸念を理由として夜間における公園の閉鎖を求める多くの陳情があったため、A市議会は本件条例を改正して、本件公園については夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の利用を禁止した(本件条例第8条第1項)。条例改正を受けてA市は、本件公園を囲む鉄製の柵(高さ1.5メートル)を設置し、夜間、その出入口を施錠している。ただし、本件条例第8条第 2 項の許可を得れば、夜間でも本件公園の独占使用をすることは可能であり、市内の愛好者団体による星座鑑賞会や商店街主催の盆踊り等の行事が度々夜間に本件公園で開催されている。
ところで、近年、世界各地の大都市において住宅費高騰が深刻な社会問題になっており、その原因は都市中心部の再開発によって低廉物件の減少等をもたらした地方政府の失政にあるとして、都市中心部の公園や広場で人々が寝袋や段ボールで一夜を過ごす抗議活動が世界各地で行われるようになった。この抗議活動への支持を広げるため、貧困問題に取り組んできた国際NGOが、世界各地の市民に対して、それぞれの現地時間で202*年7月1日午後 8 時から同月 2 日午前 6 時までの間に各都市の中心部でこの抗議活動を行うプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)を計画し、これへの参加を呼び掛けた。この呼び掛けに対して、世界各地の100以上の都市の市民が直ちに参加を表明した。世界各地の都市での抗議活動がリレーのように継続することになる本件プロジェクトは、世界中で注目されており、日本でも度々報道されていた。A市においても、県立女子短大の跡地利用をめぐっては、市民の間で意見が対立し、その場所で進められた再開発についても現在まで賛否が分かれているところ、再開発の結果としてA市の中心部でも住宅費は高騰しており、市民の間からもそれを問題視する意見が出始めていた。
A市内で各種の市民運動に取り組んできた「市民自治を進める会」(以下「X」という。)
は本件プロジェクトへの参加を決定し、その実施場所については、A市中心部にあって再開発
地区と近接し、夜間でも周辺の通行人が多い本件公園が最も適当であると考えて、本件公園において寝袋や段ボールで一夜を過ごす抗議活動(以下「本件活動」という。)を行うことにした。そこで、同年5月10日、Xは、同年7月1日午後8時から同月2日午前6時までの本件公園の独占使用許可を求めて申請を行った(以下「本件申請」という。)。
Xの運営方針は、大学教授(代表)、弁護士(事務局長)、牧師、僧侶、医師及び市民運動家Bの6人で構成される幹部会で決定しており、本件申請に関わる事務全般を事務局長が担当した。本件活動に参加するのはXの幹部6人とその他の会員のみである(全員で20名程度)。本件活動中、Xとしては会員外の一般市民が公園内に立ち入るのは認めないが、数名の報道関係者が取材のために公園内に立ち入る予定である。本件申請の際、取材を受けたXの事務局長は、「A市の住宅費高騰問題の深刻さを訴えるため、A市の中心部に所在する本件公園内で一夜を過ごすことにした。本件活動は公園南側の中央大通りから容易に見える場所で行う。本件プロジェクトへの連帯を訴えるパネル等を設置してライトで照らす予定である。」と語り、その発言は翌朝の新聞やニュースで報道された。また、Bは、本件申請以降、SNSで本件活動に関する情報を度々発信している。
ところで、Bは、長年、A市を拠点として外国人との共生を進める運動に関わってきたが、全国各地から外国人排斥を訴える様々な団体がA市に集結して集会やデモ行進を行うようになったため、そのような集会等に対してカウンターデモを行う団体Cを組織して、その代表になった。Xの幹部のうちCの活動に関わっているのはBのみである。同年3月1日、外国人排斥デモの参加者とBらのカウンターデモの参加者との間で小競り合いが生じ、双方の参加者がお互いに暴力を振るう事態となり、20人の逮捕者が出た。なお、Bも逮捕されたが不起訴となった。A市内ではその後も、外国人排斥を訴える諸団体とCとの間で小競り合いが何回か繰り返され、警察官が出動して制圧する事態も起きている。
A市の総務部長である甲は、本件活動により管理に支障があると認められること(本件条例
第5条第3項第5号)、また、夜間の独占使用を認めるべき特別な理由がないこと(本件条例
第8条)から、いずれの根拠においても、本件申請を不許可にできると考えている。ただし、念のため憲法上の問題点について、任期付公務員(法曹資格者)の乙に相談した。甲と乙の間でのやり取りは以下のとおりであった。
甲:本件公園は、都市公園法に基づいてA市が設置した市立公園ですので(本件条例第2条第1号)、地方公共団体が設置した「公の施設」(地方自治法第244条)に該当します。本件公園の設置目的は、近隣住民を中心とする一般市民の自由な随時利用にありますが、本件条例第5条所定の市長の許可を得れば、公園の一部又は全部を独占して使用することも可能です。なお、202*年7月1日から同月2日にかけての夜間の独占使用の申請をしているのはXのみで、他団体による申請はありません。
乙:承知しました。A市としては、Xによる本件申請を不許可にしたいとのことですが、その根拠と理由を教えてください。
甲:第一に、管理上の支障を根拠として本件申請を不許可にできると考えます。Xの幹部の一人であるBは、過去に政治的に対立する諸団体の関係者との間で暴力事件を起こしており、
逮捕されたこともある人物です。Bが幹部の一人であるXによる本件活動のための本件公園の独占使用を認めると、対立する諸団体の関係者との間で暴力沙汰になる危険性があります。Bは本件活動についてSNSで度々発信しているので、その可能性は否定できません。
また、夜間に行われる長時間の抗議活動なので、管理上の支障の発生を防ぐのに必要な人数の警察官を配備するのも容易ではありません。
乙:なるほど。ただし、管理上の支障を根拠として不許可処分をする場合、関連する判例とそれに対する学説の評価を確認する必要がありますね。
甲:第二に、A市としては、夜間の利用禁止を根拠にして不許可にできるとも考えております。
乙:本件公園は夜間、一般市民の利用が禁止されているとのことですが、本件条例第8条によれば、市長の許可があれば夜間の独占使用も可能とのことですし、過去にも許可した例があるようですね。
甲:はい。星座鑑賞会や盆踊りなど「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」(本件条例第8条第2項)があれば、許可をしてきました。例年10~20件は許可しております。ただし、住宅費高騰問題に関する抗議活動は、本件公園の夜間の独占使用によらずとも、昼間の公園でも行えますし、夜間ならば市立公民館でも行えるので、本件申請については、「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」を認めることはできません。
乙:Xとしては、特定の日時に世界規模で実施が計画されている本件プロジェクトに呼応するためには、本件公園で夜間に本件活動をするのが最適であると考えていることにも留意すべきでしょう。Xに対して特別に夜間の独占使用を認めるべき憲法上の理由があるか否かの検討が必要になりますね。
甲:「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」に関わるもう一つの問題として、夜間の利用は禁止が原則ですので、特定の政治的主張を行うための夜間の独占使用を認めたら、A市の政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれる危険性があります。
乙:なるほど。Xの夜間の独占使用を認めると、A市の政治的中立性が損なわれるのではないかという点についても、憲法の観点から検討する必要がありそうです。そこでお尋ねしますが、過去の夜間の独占使用に関して、政治的中立性を理由として抗議等があったケースはあるのでしょうか。
甲:はい。市内の経営者・商店主が組織する「新幹線延長を求める市民の会」から、本件公園で午後7時から午後9時まで無料ビアガーデンを開いて、帰宅途中の市民に新幹線延長の必要性をアピールしたいとの申請があったので、市長が夜間の独占使用を許可したところ、市議会で延長反対派の議員が政治的中立性の観点から問題ではないかと質問しました。市長は「新幹線延長は市長選の際の私の公約であり、A市の基本政策の一つであるから、その御批判は当たらない。」と答弁しました。
乙:最後に確認しますが、本件申請を許可したら、夜間に騒音が出て近隣住民が迷惑するとは考えていないということですね。
甲:世界各地の抗議活動の様子やXの申請内容から判断して、本件活動自体から騒音の問題が生じるとは考えていません。また、許可の際、例えば午後9時以降の静穏確保の厳守を求め
る条件を付すことも可能です(本件条例第8条第2項)。ちなみにXの事務局長は、「そのような条件を付した許可で結構です。」と答えています。
乙:承知しました。それでは、憲法上の論点を精査した上で、改めて私見を申し上げます。
〔設問〕
あなたが検討を依頼された乙であるとして、本件申請について、市長が、①本件条例第5条
第3項第5号に規定する管理上の支障があることを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、②本件条例第8条第2項に規定する特別な理由がないことを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、それぞれについて論じなさい。なお、その際には、参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及すること。規定の文言の明確性については、論じる必要はない。
【資料】A市立公園管理条例(抜粋)
第1条 この条例は、市立公園の設置、管理等について必要な事項を定め、市立公園の健全な発展と利用の適正化を図り、もって市民福祉の増進に寄与することを目的とする。
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 市立公園 都市公園法第2条第1項に規定する都市公園でA市が設置するもの及び同項に規定する都市公園以外の公園又は緑地でA市が設置するものをいう。
二~四 (略)
五 独占使用 市立公園の一部又は全部を独占して使用することをいう。
第5条 独占使用をしようとする者は、市長の許可を得なければならない。
2 前項の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を市長に提出しなければならない。
一 申請者の住所、氏名及び職業
二 (略)
3 次の各号に該当する場合、市長は第1項の許可をすることができない。
一 公衆による市立公園の利用を害すると認められる場合。
二~四 (略)
五 その他市立公園の管理に支障があると認められる場合。
第8条 市立公園のうちA市立中央公園については、夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の利用は認めない。
2 前項の規定にかかわらず、市長は、夜間の独占使用を認めるべき特別な理由があるときは、
第5条第3項各号に該当する場合を除き、夜間の独占使用を許可することができる。この場合において、市長は、必要な条件を付することができる。
3 前項の許可を受けようとする者は、第5条第2項の定める申請書を市長に提出しなければならない。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 検討の前提
1 制約される権利
(1) 本件活動は、Xの会員約20名が本件公園内で寝袋や段ボールで一夜を過ごし、本件プロジェクトへの連帯を訴えるパネルを設置してライトで照らし、中央大通りから容易に見える場所で住宅費高騰問題の深刻さを訴えるものであり、数名の報道関係者の取材も予定されている。これは、共通の目的を有する多数人が一定の場所に集まり対外的に意見を表明する活動であり、憲法21条1項の保障する集会の自由に含まれる。集会は、国民が様々な意見や情報に接し、相互に意見や情報を伝達、交流する場として必要であり、対外的に意見を表明するための有効な手段であるから、集会の自由は民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならない(成田新法事件・最大判平成4年7月1日)。
(2) 本件公園は、都市公園法に基づきA市が設置した市立公園であり、地方自治法244条の「公の施設」に当たる。同条2項は正当な理由がない限り住民の利用を拒んではならないと定め、同条3項は不当な差別的取扱いを禁止する。公園は道路や広場と並び伝統的に表現活動の場として利用されてきたパブリック・フォーラムであり、本件公園でも過去に国際交流団体の行事や原水爆禁止集会が許可を得て開催されている。
2 判断枠組み
(1) 泉佐野市民会館事件(最判平成7年3月7日)は、公の施設の利用を拒否し得るのは、利用の希望が競合する場合のほか、施設をその集会のために利用させることによって他の基本的人権が侵害され公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られ、その危険の程度と集会の自由の重要性とを比較衡量して判断すべきであるとした。そして、条例の「公の秩序をみだすおそれがある場合」とは、集会の自由を保障することの重要性よりも、集会が開かれることによって人の生命、身体又は財産が侵害され公共の安全が損なわれる危険を回避する必要性が優越する場合をいい、その危険性の程度は、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要であるとして、条例の文言を限定解釈した。学説は、同判決を、表現の自由に対する規制の正当化基準として確立した「明白かつ現在の危険」の基準に近い厳格な基準を採用したものと評価する一方、比較衡量を出発点とすることで管理者の判断に流れやすい不安定さを指摘する。本件では、危険の「具体的予見」の要求を厳格に維持する必要がある。
(2) 本件条例5条3項5号の「管理に支障があると認められる場合」は、危険防止を理由とする不許可事由であるから、上記判例の趣旨に沿って限定的に解釈運用されなければならない。他方、8条2項の「特別な理由」は、夜間閉鎖の例外的開放に関する要件であり、別途の検討を要する。以下、設問の①②について検討する。
第2 設問① 管理上の支障を根拠とする不許可処分の憲法適合性
1 「管理上の支障」の意義
本件条例5条3項5号は「その他市立公園の管理に支障があると認められる場合」と定め、1号の「公衆による市立公園の利用を害する」場合等に準ずる事由を予定する。公園の管理上の支障とは本来、施設の物理的損傷や他の利用者の利用の妨げなど施設管理の見地からの支障をいうが、甲が主張するのは、本件活動を許可すると対立団体との間で暴力沙汰になる危険があるという、集会の開催に伴う公共の安全に対する危険である。これを同号に読み込むとしても、泉佐野市民会館事件の趣旨に照らし、同号に該当するのは、集会によって人の生命、身体又は財産が侵害される明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合に限られると解すべきである。
2 あてはめ
(1) まず、当該日時の夜間の独占使用を申請しているのはXのみであり、利用の競合はない。また、夜間は一般市民の利用が禁止されているから、公衆の利用を害することもない。したがって、不許可の根拠となり得るのは危険の有無のみである。
(2) 甲が危険の根拠として挙げるのは、第一に、Xの幹部の一人であるBが、カウンターデモ団体Cの代表として、同年3月1日に外国人排斥デモの参加者との間で双方が暴力を振るう事態となり逮捕されたこと(不起訴)、その後も小競り合いが繰り返され警察官が出動する事態が起きていること、第二に、Bが本件活動についてSNSで度々発信していることである。
(3) しかし、Bの関与する暴力事件は外国人排斥を訴える諸団体とCとの間の対立に起因するものであり、本件活動のテーマである住宅費高騰問題とは関係がない。Bは不起訴となっており、一方的な加害者と認定されたわけでもない。Xは大学教授、弁護士、牧師、僧侶、医師及びBの6人で構成される幹部会で運営方針を決定し、本件申請の事務は弁護士である事務局長が担当しており、Cの活動に関わるのはBのみである。本件活動は、会員約20名が寝袋で一夜を過ごすという平穏な態様のものであり、会員外の一般市民の立入りは認めず、公園は高さ1.5メートルの鉄製の柵で囲まれ夜間は出入口が施錠される。甲自身、本件活動自体から騒音の問題が生じるとは考えていないと述べている。したがって、主催者側が暴力的行為に及ぶ危険は認められない。
(4) 次に、甲が想定するのは、Bの存在を契機として対立団体の関係者が本件公園に押し掛けて暴力沙汰になるという、敵対的聴衆による混乱の危険である。しかし、泉佐野市民会館事件は、主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは憲法21条の趣旨に反すると述べ、上尾市福祉会館事件(最判平成8年3月15日)は、主催者側に責任のない敵対的な者による妨害のおそれは、警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限り不許可の理由となり得るとした。本件では、対立団体が本件活動の妨害を予告しているなどの具体的事情は何ら示されていない。本件活動は事務局長の取材発言が新聞やニュースで報道されて既に広く知られており、BのSNS発信は集会の周知という当然の活動にすぎず、妨害の具体的予見を基礎付けない。Bが本件活動に参加するとしても、それはXの幹部として住宅費問題を訴えるためであって、Cの代表としての活動ではない。
(5) 甲は、夜間の長時間の活動であるため警察官の配備が容易でないとも述べる。しかし、上尾市福祉会館事件のいう「警察の警備等によってもなお混乱を防止できない特別な事情」とは、警備を尽くしてもなお防止できないことを意味するのであって、警備に手間がかかることを意味しない。公園は柵で囲まれ施錠されるから外部からの侵入は物理的に困難であり、仮に周辺で小競り合いが生じたとしても、それは公園外の公道上の問題として警察が対処すべきものである。
(6) これに対し、泉佐野市民会館事件の基準は暴力的団体の利用という特殊な事案で示されたものであり、公の施設一般の管理については管理者により広い裁量を認めるべきであるとする見解や、過去に暴力事件を起こした者が幹部に含まれる団体については危険の蓋然性を認めてよいとする見解もあり得る。しかし、集会の自由の重要性に照らし、構成員の一人の過去の別件行為を理由に団体全体の集会を拒否することは、集会の主催者の思想や構成員を理由とする差別的取扱いにほかならず、憲法21条1項、14条1項の趣旨及び地方自治法244条3項に反する。
3 結論
本件条例5条3項5号の管理上の支障を根拠とする不許可処分は、明らかな差し迫った危険の具体的予見を欠き、憲法21条1項に違反し許されない。
第3 設問② 特別な理由がないことを根拠とする不許可処分の憲法適合性
1 夜間利用禁止と「特別な理由」の位置付け
(1) 本件条例8条1項は本件公園の夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の利用を禁止する。これは、暴走族の集会や未成年者の飲酒等が繰り返され治安上の懸念から多数の陳情があったことを受けたものであり、表現の内容にかかわらず時間に着目して利用を制限する内容中立的な規制である。治安の確保という目的は正当であり、昼間の利用は可能で郊外に5つの同規模公園もあることからすれば、夜間利用禁止自体は憲法21条1項に反しない。
(2) そうすると、夜間の本件公園は原則として表現活動に開かれていない施設であり、8条2項の例外的開放については、学校施設の目的外使用について管理者の裁量を認めた呉市教研集会事件(最判平成18年2月7日)と同様に、市長に一定の裁量が認められるとする見解があり得る。しかし、同判決も、裁量判断において集会の自由の重要性を考慮すべきことを求め、考慮すべき事項を考慮せず又は考慮すべきでない事項を考慮した判断は裁量権の逸脱濫用となるとした。しかも、8条2項は「特別な理由」があれば「第5条第3項各号に該当する場合を除き」許可できると定め、現に例年10件から20件の許可がされ、星座鑑賞会、盆踊り、無料ビアガーデン等が開催されている。本件公園は夜間においても、許可を通じて集会の用に供される施設となっているのである。公の施設をいったん表現活動に開放した以上、その利用の許否を表現の内容や見解によって区別することは、パブリック・フォーラムにおける見解差別として憲法21条1項により厳格に禁じられる。したがって、「特別な理由」の有無の判断に当たっては、集会の自由の重要性を考慮し、申請者が当該日時に当該場所で集会を行うことの必要性を実質的に評価しなければならず、表現の内容や見解を理由に許否を区別することは許されない。
2 代替手段の存在を理由とする不許可の可否
(1) 甲は、住宅費高騰問題に関する抗議活動は昼間の公園でも、夜間の市立公民館でも行えるから特別な理由がないと主張する。
(2) しかし、本件活動は、国際NGOが呼び掛け世界100以上の都市の市民が参加を表明した本件プロジェクトに呼応し、現地時間の7月1日午後8時から翌日午前6時までの間に各都市の中心部で寝袋や段ボールで「一夜を過ごす」という形式で行われることに意味がある。都市中心部の公共空間で夜を過ごすという行為自体が、住宅費高騰により住居を失う人々の状況を象徴する表現であり、世界各地の抗議活動がリレーのように継続する中で同時刻に行われることで連帯のメッセージが伝わる。昼間に行えば一夜を過ごすという表現の核心が失われ、公民館で行えば、再開発地区に近接し夜間も通行人の多い本件公園から中央大通りの通行人や報道関係者に訴えるという訴求効果が失われる。本件公園は市の中心部にある唯一の市立公園であり、再開発の賛否が分かれ住宅費高騰を問題視する意見が出始めている市民に対し、再開発地区の目の前で訴えることには固有の意義がある。表現の時・場所・方法は表現内容と不可分であり、表現の意味を失わせるような代替手段の存在をもって「特別な理由」を否定することは、実質的に表現の内容を制約するに等しい。
(3) 他方、A市が過去に特別な理由を認めた星座鑑賞会や盆踊りは、夜間に行われることに意味がある行事であるが、本件活動も同様に夜間に行われることに意味がある。本件活動に特別な理由を認めなければ、娯楽的行事には認め政治的表現には認めないという不均衡が生じる。
(4) さらに、夜間利用禁止の趣旨である治安の確保についてみると、甲は本件活動から騒音の問題が生じるとは考えておらず、本件条例8条2項後段により午後9時以降の静穏確保の条件を付すことも可能であり、Xの事務局長はそのような条件付許可で結構であると答えている。参加者は会員約20名に限られ、一般市民の立入りも認めないから、暴走族や未成年者の飲酒のような治安上の懸念は生じない。したがって、夜間利用禁止の趣旨は条件付許可によって十分に達成できる。
3 政治的中立性を理由とする不許可の可否
(1) 甲は、特定の政治的主張を行うための夜間の独占使用を認めると、A市の政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれると主張する。
(2) この点、金沢市庁舎前広場事件(最判令和5年2月21日)は、市庁舎前広場が庁舎と一体をなし庁舎の一部として管理される公用財産であって地方自治法244条の公の施設には当たらないとした上で、庁舎管理権に基づく広場の使用の許否については、市の政治的中立性に対する住民の信頼を確保し庁舎としての機能を維持する必要と集会の自由の重要性との比較衡量により判断すべきであるとし、特定の政治的主張を掲げる集会の不許可を合憲とした。甲はこれを援用することが考えられる。しかし、同判決は、庁舎という市の意思決定の場に特定の政治的主張を掲げる外観を生じさせることを避ける必要があった事案である。本件公園は、市民の休息、散歩等のために設置された都市公園であり、庁舎とは無関係であって、過去にも原水爆禁止集会や国際交流行事が許可されてきたパブリック・フォーラムであるから、同判決の射程は及ばない。公の施設の利用を許可することは、施設管理者が当該集会の主張に賛同することを意味しない。利用希望者の主張が政治的であることを理由に許可を拒むことは表現の内容に着目した規制であり、中立性に対する市民の信頼という抽象的な利益は、政治的表現の排除を正当化するやむにやまれぬ利益とはいえない。むしろ、市の政策に沿う主張であれ批判的な主張であれ等しく施設の利用を認めることこそが、市の中立性を担保する。
(3) しかも、A市は、「新幹線延長を求める市民の会」による午後7時から午後9時までの無料ビアガーデンにつき、帰宅途中の市民に新幹線延長の必要性をアピールするという政治的主張を内容とする行事であるにもかかわらず夜間の独占使用を許可し、市議会での批判に対し市長は「新幹線延長は市長選の際の私の公約であり、A市の基本政策の一つであるから、その御批判は当たらない」と答弁している。これは、市の基本政策に沿う政治的主張には夜間使用を認める一方、再開発を地方政府の失政として批判する本件活動には政治的中立性を理由に認めないというものであり、見解に基づく差別にほかならない。政治的中立性の名の下に市の政策を批判する表現のみを排除することは、政府に批判的な言論こそ最も保護されるべきとする表現の自由の核心を侵害し、地方自治法244条3項の不当な差別的取扱いにも当たる。
(4) これに対し、公の施設の設置目的は本件条例1条の「市民福祉の増進」にあり、夜間利用の原則禁止の下での例外的許可については市長の広い裁量を認めるべきであるとする見解もあり得る。しかし、裁量が認められるとしても、その行使が表現の内容や見解を理由とする差別に当たる場合には、考慮すべきでない事項を考慮した裁量権の逸脱濫用となり、憲法21条1項、14条1項に違反する。
4 結論
本件申請については、本件プロジェクトとの同時性及び本件公園の場所的特性に照らし、夜間の独占使用を認めるべき特別な理由が認められ、治安上の懸念は条件付許可で対処できる。したがって、本件条例8条2項の特別な理由がないことを根拠とする不許可処分は、憲法21条1項に違反し許されない。
以上