司法試験 令和5年 憲法
問題文
(配点:100)
我が国では、全ての国民が加入する国民年金と被用者が加入する厚生年金との2本立ての年金制度となっており、両年金の統合が課題となっている。もっとも、一気に統合を図ることには解決すべき問題が多いため、20XX年、年金制度を所管するA省は遺族年金について新遺族年金として統合を図ることを検討し、「新遺族年金法案骨子」(以下「新制度案」という。)をまとめた。
遺族年金とは、被保険者が死亡した場合に、当該被保険者によって生計を維持していた遺族が受けることができる年金であり、被保険者の収入の喪失による所得の減少に対応した金銭給付を行うことによって、遺族の生活の安定が損なわれないようにすることを目的とするものである。新遺族年金は、我が国に住所を有する20歳以上65歳未満の全ての者を被保険者とし、被保険者の遺族に対して、65歳で老齢年金が支給されるまでの間給付される。新遺族年金の財源は、国民年金の保険料、厚生年金の保険料及び国庫負担金によって賄われ、新遺族年金の保険料は独自には徴収しない。受給資格を有する遺族は、死亡した被保険者によって生計を維持していた夫、妻、子又は父母であるが、それぞれ年齢制限がある。現行制度(20XX年時点の制度)の下で遺族年金を受給してきた者も、新遺族年金の受給資格要件を満たさない限り、新遺族年金を受給することはできないが、経過措置が採られることとなっている。
新制度案の作成担当者の一人であるBは、同案の憲法適合性について、A省の任期付公務員(法曹資格者)である甲に相談した。【資料1】は、甲と若手の任期付公務員(法曹資格者)Xとの会話であり、【資料2】は、新制度案である。
【資料1】甲とXの会話甲:Bさんから頂いた資料は読んでもらったと思います。詳細についてはなお検討中とのことですが、こうした遺族年金の統合については、憲法の視点からどう評価しますか。
X:現在、厚生年金に加入していた人の遺族は、国民年金による遺族基礎年金に加え、遺族厚生年金を受給でき、国民年金にのみ加入していた人の遺族より手厚い保障を受けており、遺族間で遺族年金の受給額に格差が生じています。新制度案では、遺族基礎年金と遺族厚生年金が統合されて、遺族が、定額部分と、被保険者の所得に応じての所得比例部分からなる年金を受給できるようになります。ですから、新制度案は、全体としては、公平であるとともに、実効的な遺族の生活保障につながるものであり、憲法第25条に照らして評価できると思います。
甲:ということは、やはり、憲法との関係で検討を要する部分もあるということですね。だからこそ、Bさんから、新制度発足後に訴訟でその合憲性が争われることを視野に入れて意見を述べるよう求められています。
X:しかし、生存権を具体化する法律の合憲性については、裁判所は国会に広い立法裁量を認めているので、新遺族年金制度が訴訟で争われても簡単に合憲判決が下されることになるのではないですか。
甲:いや、生活保護基準の改定に関する諸判決を見ると、裁判所も変わりつつあるようにも思えます。それに訴訟で争われても大丈夫だと自信を持って言えるような制度を作ることによって、制度に対して高い信頼を得ることができます。そこで、判例だけでなく学説も踏まえて、新制度案に憲法上の問題がないのか検討していきましょう。どういった点が問題となりますか。
X:まず、死亡した被保険者によって生計を維持してきた配偶者が、被保険者死亡時に、一定の年齢以上でなければ遺族として新遺族年金を受給できないとされていることが、憲法上問題となります。妻の場合、現行制度では年齢に関係なく遺族年金を受給できますが、新制度案では、被保険者死亡時に40歳以上でないと受給が認められなくなります。例えば、妻が39歳の時に夫が死亡した場合には、妻は40歳になっても受給資格は得られません。夫の場合には、被保険者死亡時に55歳以上でなければ受給できません。それから、現行制度の下で遺族年金の給付を受けている人が、新遺族年金の受給資格要件を満たさない場合、経過措置はあるものの、受給資格を喪失するとしている点も、憲法違反でないかが問題となります。
甲:なるほど。では、遺族の範囲から検討していきましょう。まず、配偶者について一定の年齢以上でないと受給者として認めていないことですが、Bさんの説明では、被保険者の死亡後の遺族の生活を守るという遺族年金の趣旨を踏まえつつも、遺族が就労によって自ら収入を確保することを促進することを目的とするものだとのことです。これまで被保険者の収入によって生活をしてきた人について、就労して収入を得るようになってもらいたいが、年齢が高くなると職を得ることが難しくなるので、遺族年金を支給する、という考え方ですね。特に、女性の就労促進が期待されているように思います。
X:そうした考え方も分からないではありません。しかし、家計を支えていた配偶者を亡くした夫や妻に子がいる場合、子育ての負担があるので、年齢が比較的若くても十分な収入のある職を得ることはなかなか難しいでしょう。いわゆるシングル・ファザー、シングル・マザーは、年齢を理由に遺族年金が支給されないと、健康で文化的な生活を営めなくなるのではないでしょうか。
甲:でも、保育園や学童保育の充実化などが進んでおり、子を養育しているシングル・ファザー、シングル・マザーが就労するための障壁が取り除かれてきています。それに、若いシングル・ファザー、シングル・マザーの金銭的不利益はそれほど大きくはありません。新制度案では、子がいる配偶者が遺族年金を受給する場合、子一人当たり月2万円が配偶者の受給する遺族年金に加算されるという仕組みになっています。そこで、子が一人いる夫又は妻が遺族年金を受給できたとしたら、その年金額のうち定額部分は子の加算額2万円を加えた11万円となるはずです。それに対して、配偶者が新遺族年金を受給できない場合、子が定額部分として月9万円を受給できるので、家庭全体でみれば1か月当たり2万円の差にすぎません。他方、子を養育する親に支給される児童手当、ひとり親家庭の親に支給される児童扶養手当による経済的支援がなされています。困窮した場合には生活保護を受けることもできます。
X:生活保護は、利用し得る全ての資産を活用した上でないと受けられないし、生活保護受給者は、資産を有していないか常にチェックされます。ですから、いよいよとなったら生活保護を受けることができるのだから、生活保護以外の社会保障制度の憲法適合性をしっかり検討しなくてもよい、という考え方には賛成できません。それに、この年齢制限は、一定の年齢に達していない配偶者について、年齢を理由にして異なる取扱いをするものと言えます。
甲:年齢による区別について合理性を厳密に検討すべきかが、ポイントになるでしょうね。
X:それから、男性と女性とで受給資格が認められる年齢について区別をしていることも問題となります。夫は妻の場合よりも15歳も年齢が高くなくては遺族年金を受給できないというのは、男性は十分な収入を得ることができる職に就いて働くものだが、女性はそうでない、という男女の役割についてのステレオ・タイプの発想に基づいている疑いがあります。
甲:Bさんによると、夫と妻で遺族年金の受給資格が認められる年齢が異なるのは、男女の就労状況、収入の実情に大きな格差があるからとのことです。
X:Bさんから頂いた資料によると、昨年の給与所得者の年収では、男性の平均が約600万円、女性の平均が約300万円と2倍の格差があり、40歳代、50歳代でも1.5倍強の格差があります。これは、女性の場合、非正規雇用の職員・従業員が多いからです。例えば、正規雇用の職員・従業員数は、45歳から54歳で男性約680万人に対して、女性約340万人です。女性がとりわけ40歳以上で新たに正規雇用の職を得ることが困難であることも、統計上示されています。確かにこうした男女の就労状況、収入の実情があるのですが、男女共同参画の動きが進む中で、状況は変わってきています。現状を踏まえて受給資格において男女で年齢差を設けると、女性の就労促進にもつながらず、現状を固定化することになるのではないかと危惧されます。
甲:では、新遺族年金の受給資格要件が現行制度の下で遺族年金を受給してきた人にも適用され、新遺族年金の受給資格要件を満たしていないと、受給資格を喪失するとしている点はどうでしょう。Bさんによれば、この仕組みは、新旧遺族年金制度の下での公平性を担保するためだとのことですが。
X:現在受給している遺族年金が受給できなくなるというのは、場合によっては月十数万円の収入がなくなるわけですから、受給者の生活への影響が大きいですね。もっとも、子がいる妻が遺族年金の受給資格を欠くことになっても、子が遺族年金を受給できるので、母と子一人の家庭では月2万円程度の減収にとどまりますが、子の養育にはいろいろとお金が掛かるので、生活への悪影響は軽視できません。遺族年金の受給者の受給資格を喪失させることは受給者の生存権を侵害するものではないでしょうか。
甲:生存権を具体化する法律について広い立法裁量が認められるのであれば、新旧制度の下での公平性の担保という理由で受給資格要件を旧遺族年金受給者に適用する法律を定めることも憲法第25条に違反しない、ということになるでしょう。そこで、憲法第25条違反だとするのには、この場合には立法裁量が狭いのだという理屈が必要ですね。
X:既に生じている遺族年金受給権を消滅させてしまうのですから、それには、新制度の下では受給できないのに、旧制度の下では同じ事情でも受給できている人がいるという不公平感をなくす、ということ以上の理由が必要ではないでしょうか。
甲:さすがに新制度案でも、現行制度の下で遺族年金を受給している人の期待的利益を考慮して、新制度案の受給資格要件の適用の結果、遺族年金の受給資格を喪失する場合、経過措置として5年間、従前の遺族年金の受給を認めるとしていますね。
X:それは当然だと思いますが、それでも5年間で自活できるようになるのか疑問です。それに、5年間ずっと同額の年金を受給できるわけではなく、3年目からは支給額が半減されることになっているのは問題です。
甲:では、ひとまず、今日の議論を踏まえて、新制度案の憲法適合性について批判的な見地から意見をまとめてください。その上で再度議論しましょう。
【資料2】新遺族年金法案骨子(新制度案)
第1 被保険者日本国内に住所を有する20歳以上65歳未満の者とする。
第2 支給要件遺族年金は、被保険者が死亡したとき、その者の遺族に支給する。
第3 遺族の範囲遺族年金を受けることができる遺族の範囲は、被保険者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子又は父母であって、被保険者の死亡の当時その者によって生計を維持していたものとする。ただし、次に掲げる要件に該当した場合に限る。
1 妻については、被保険者の死亡のとき40歳以上であること。
2 夫又は父母については、被保険者の死亡のとき55歳以上であること。
3 子については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあり、かつ、現に婚姻をしていないこと。
第4 受給順位子は配偶者が、父母は配偶者又は子が遺族年金の受給権を取得したときには、遺族年金を受給できない。
第5 旧遺族年金受給者に対する受給資格要件の適用国民年金法による遺族基礎年金及び厚生年金保険法による遺族厚生年金(以下「旧遺族年金」という。)は廃止する。旧遺族年金を受給していた者については、本法の定める遺族に該当する場合に限り本法による遺族年金を支給する。
第6 経過措置旧遺族年金を受給していた者で、本法の定める遺族に該当しないものについては、引き続き5年間に限り従前の遺族年金の受給を認める。ただし、3年目以降は支給額をそれまでの半額とする。
第7 年金額年金額は、定額部分と被保険者の所得に応じて決まる所得比例部分とからなる。定額部分は年108万円とする。ただし、受給者たる配偶者に、遺族に該当する子がいる場合には、子一人につき年24万円を加算する。子が受給者となる場合には、二人目以降の子一人につき年24万円を加算し、受給額は、加算された定額部分を子の数で割った額とする。
〔設問1〕あなたがXであるとして、甲とXの会話で触れられた論点をめぐり、新制度案の憲法適合性について、判例や学説を踏まえてどのような意見をまとめるべきか論じなさい。
〔設問2〕〔設問1〕で述べられたXの意見について、それへの反論も想定しつつ、あなたの立場からその適否を論じなさい。
なお、本問において現行制度とされているものは20XX年のものであるので、2023年現在の制度を考慮に入れる必要はない。
論文式試験問題集[公法系科目第2問][公法系科目]
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
1.本問は、架空の「新遺族年金法案骨子」(新制度案)を素材に、社会保障立法の憲法第25条、第14条第1項適合性を、訴訟をも念頭に置いて検討することを求めるものである。
設問1に対しては、A省の任期付公務員(法曹資格者)であるXの立場から、新制度案の憲法適合性について、判例だけでなく学説をも踏まえて批判的に論じる必要がある。つまり、Xとしては、生存権を具体化する立法について広い立法裁量を認める判例の立場よりも立法裁量を狭め、より厳密な違憲審査をもたらすような主張をすることが期待されている。ただし、必ずしも「憲法違反である」という結論に至らなければならないわけではない。他方、設問2では、設問1で述べられた新制度案に対する批判的な見解について、自己の立場からその適否を論じることが求められている。設問1で述べられた見解とは異なり、社会保障立法の制定、社会保障立法上の区別について広い立法裁量を認める立場から論じてもよいが、その場合でも設問1で述べられた見解に対して十分な批判を加えた上で自説を論じることが 必要である。
本問は社会保障制度についての知識を問うものではなく、甲とXとの会話文(以下「会話文」という。)の中で架空の新制度案の概要が説明され、また、関連する立法事実についても示されている。さらに、新制度案において憲法適合性を検討すべき部分も会話文の中で具体的に挙げられている。それゆえ、会話文と「新遺族年金法案骨子」から適切に必要な事実や情報、論点を見いだし、生存権に関する判例・学説の理解を基に考察を加えることができ るのかどうかが問われている。
会話文の中でXが指摘しているように、新制度案において憲法適合性を検討すべき部分としては、①死亡した被保険者によって生計を維持してきた配偶者が一定の年齢以上でなければ「遺族」として新遺族年金を受給できないとされていること、②新遺族年金の受給資格が認められる年齢について夫と妻との間で大きな開きがあること、③現行の制度の下で遺族年金の給付を受けている者が、新遺族年金の受給資格要件を満たしていない場合、受給資格を 喪失するとしていること、が挙げられる。
2.まず、新制度案が、死亡した被保険者の配偶者に対して遺族年金の受給に年齢要件を課していることについては、配偶者の生存権を侵害し、憲法第25条に違反しないかが問題となろう。しかし、最高裁判所は、堀木訴訟判決(最大判昭和57年7月7日民集36巻7号1235頁)において、「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量にゆだねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない」として、生存権具体化立法について非常に広い立法裁量を認めている。それに対して、Xの立場から、配偶者の年齢要件の憲法第25条適合性についてより立ち入った違憲審査を導こうとするのであれば、遺族年金は文字どおり「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を実現するためのものであって、生存権の中 核的な部分と関わる、といった説明が必要であろう。
さらに、配偶者の年齢要件は一定の年齢に達した者と達していない者との間で年齢により差別をするものであって、憲法第14条第1項に違反すると論じることも考えられる。確かに、堀木訴訟判決も、「憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、受給者の範囲、支給要件、支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をした……ときは、別に……憲法14条……違反の問題を生じうることは否定しえない」、としているところである。しかし、堀木訴訟判決や同判決に依拠した学生無年金訴訟判決(最判平成19年9月28日民集61巻6号2345頁)からして、生存権を実現するための法律における区別が憲法第14条第1項違反として争われる場合にも広い立法裁量を認めるのが最高裁判所の立場である。果たして生存権具体化立法における区別が年齢差別であることを理由に、合理的な区別と言えるか否かについて裁判所による厳密な検討が必要であると説得的に 主張できるかどうかが、問題となる。
3.それに対して、新制度案で、被保険者の妻が40歳以上であれば遺族年金を受給できるのに対して、夫は55歳以上でなければ遺族年金を受給できないとされているのは、性別による不合理な差別であり憲法第14条第1項に違反するのではないか、という点も問題となる。
もっとも、最高裁判所は、地方公務員災害補償法が死亡した職員の夫について一定の年齢に達していることを遺族補償年金受給の要件としていることが、憲法第14条第1項に違反しないとしている(最判平成29年3月21日判時2341号65頁)。ただし、そこでは、妻以外の遺族と妻との区別の問題として扱っており、性別による区別の問題として捉えられてはいなかった。そこで、本問の新制度案のように性別による区別として理解される場合、社会保障立法上の区別についての広い立法裁量を認める立場が妥当するかどうか検討する必要があろう。Xとしては、憲法第14条第1項後段は歴史的な経験を踏まえて不当な差別事由を掲げたものであるので、性別といった憲法第14条第1項後段列挙事由による区別がなされている場合には、厳格な違憲審査基準あるいは厳格な合理性の基準による違憲審査がなされるべきであるなどと主張することが考えられる。あるいは、「健康で文化的な最低限度の生活」に関わるものである遺族年金受給について、性別という憲法第14条第1項後段列挙事由によって区別をするものであることを理由に違憲審査の厳格度を高める主張をするこ ともあり得る。
もっとも、不当な性差別として念頭に置かれてきたのは女性を不利に扱う女性差別であったのに対して、新制度案は男性を女性に比較して不利に扱うものであるという点をどう考えるかが問題となる。会話文では、男女の就労状況、収入の実情に大きな格差があることがデータによって裏付けられており、新制度案における夫と妻の年齢要件の相違はそうした格差を踏まえてのものであるとされている。そこで、こうした女性の優遇が実質的平等実現のための区別であり、厳密な違憲審査がなされる「性差別」には当たらないと解すべきなのか、あるいは、実質的平等を実現するという名目での女性優遇が、男女の役割についてのステレオ・タイプの発想に基づくものであり、現状を固定化させてしまうものであると批判的に捉 えるべきなのか、どちらの立場をとるのかが問われることになる。
4.これまで遺族年金の受給権が認められてきた者に対して、新遺族年金の受給資格要件を遡及的に適用し、受給資格要件を満たさない場合には受給資格を喪失させることは、憲法第25条に違反しないのかも問題となろう。これについては、Xとしては、生存権を具体化する法律が制定された後に、当該法律を改廃して法律上の受給権をなくしたり、縮減したりする場合には、法律を制定して受給権を生み出す場合よりも立法裁量が狭まり、合理的な理由が求められるという、いわゆる「制度後退禁止原則」に依拠することが考えられる。この場合には、法律によって抽象的な権利である生存権が具体的な権利とされているからであるとか、生存権の自由権的な側面の侵害に当たるからであるとか、制度後退禁止原則が認められる理由が論じられていなければならない。他方、最高裁判所が、生活保護基準における老齢加算廃止について、厚生労働大臣は「被保護者の……期待的利益についても可及的に配慮するため、その廃止の具体的な方法等について、激変緩和措置の要否などを含め、……専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである」、としていることも参考になろう(最判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁)。つまり、この判示を参考にして、国会には新遺族年金制度の創設について立法裁量が認められるが、これまで遺族年金を受給してきた者の期待的利益を考慮に入れてその裁量を行使しなければならず、裁判所は、国会が新遺族年金制度の創設に当たりそうした期待的利益に適切な考慮を払ったか 審査すべきである、と論じることも考えられる。
さらに、新遺族年金の受給資格要件を満たさない遺族年金受給者の受給資格を喪失させることが憲法第25条に違反しないとしても、せめて受給資格喪失者に対して経過措置をとるべきでないか、また、従前の年金の受給を認める期間が5年間でよいのか、3年目から受給額を半減させることは不当でないか、問題となろう。また、上記老齢加算廃止についての判決が「老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は、……老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に、被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、生活保護法3条、8条2項の規定に違反し、違法となるものというべきである」、としていることも参考になろう。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1 Xの意見
1 配偶者に対する年齢要件と25条
(1)立法裁量の広狭
ア 25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有すると定める。これは単なるプログラム規定ではなく、国民の権利を定めたものであるが、その具体的内容は国の財政事情や多方面にわたる複雑多様な政策的判断を必要とするため、立法による具体化を要する。判例は、憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は立法府の広い裁量に委ねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるとしている(最大判昭57.7.7)。
イ しかし、この広い立法裁量が一律に妥当するわけではない。立法裁量の広狭は、当該給付が25条の保障する最低限度の生活にどの程度近いか、他の制度による代替が可能か、制約の程度がどれほどかによって異なると解すべきである。
遺族年金は、被保険者が死亡した場合に、当該被保険者によって生計を維持していた遺族に対し、被保険者の収入の喪失による所得の減少に対応した金銭給付を行うことによって、遺族の生活の安定が損なわれないようにすることを目的とする。すなわち、家計を支える者を失った遺族の生活そのものを支える制度であり、25条1項が保障する健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の中核に直接関わる。付加的・補充的な給付や、複数の年金の併給の調整の問題とは性質を異にする。
ウ したがって、遺族年金の受給資格の範囲については、立法府の裁量は相対的に狭く、受給資格の設定が、遺族年金制度の目的に照らして合理的な根拠を有するかどうかについて、裁判所が立ち入った審査を行うべきである。甲も指摘するとおり、生活保護基準の改定に関する近時の諸判決は、裁量の行使の過程に対する審査を行っており、裁量の名の下に審査を放棄する態度はとられていない。
(2)本件年齢要件の合理性
ア 新制度案第3の1は、妻について被保険者の死亡のとき40歳以上であることを、同2は夫について55歳以上であることを受給の要件とする。この年齢要件の目的は、Bの説明によれば、遺族が就労によって自ら収入を確保することを促進することである。すなわち、年齢が高くなると職を得ることが難しくなるため、一定の年齢以上の者に限って年金を支給するというものである。
就労を促進すること自体は正当な目的である。しかし、この目的と手段との間には重大な断絶がある。
イ 第一に、年齢が若ければ就労によって収入を確保できるという前提は、子を養育する配偶者については成り立たない。家計を支えていた配偶者を亡くし、幼い子を養育しなければならない者が、直ちに十分な収入のある職を得ることは容易でない。保育園や学童保育の充実化が進んでいるとしても、就労の障壁は完全に取り除かれていない。とりわけ、それまで被保険者の収入によって生活してきた者は、職業経験や技能の蓄積を欠く場合が多く、死別という精神的打撃も受けている。にもかかわらず、新制度案は、子の養育の有無を受給資格の判断において一切考慮しない。
ウ 第二に、年齢要件は被保険者の死亡の時点で判定され、その後の事情変更を考慮しない。妻が39歳のときに夫が死亡した場合、妻は40歳になっても受給資格を得られない。就労の困難は年齢の上昇に伴って増すというのが年齢要件の前提であるのに、死亡時の年齢で永久に資格を否定するのは、前提と矛盾する。この点において、年齢要件は目的との対応関係を欠いている。
エ 第三に、甲は、子が一人いる場合、配偶者が受給できれば定額部分は子の加算額を加えて月11万円となるのに対し、配偶者が受給できない場合でも子が月9万円を受給できるから、家庭全体では月2万円の差にすぎないと説明する。しかし、これは所得比例部分を考慮していない。新制度案第7は、年金額が定額部分と被保険者の所得に応じて決まる所得比例部分からなるとしている。配偶者が受給資格を失う場合、子が受給者となるが、現行の遺族厚生年金に相当する所得比例部分がどのように扱われるかは明らかでなく、家計を支えていた被保険者の所得水準に応じた保障が失われる可能性がある。また、子が18歳に達する日以後の最初の3月31日までに達すれば子の受給も終了するが(新制度案第3の3)、そのとき配偶者が40歳未満であれば、以後一切の給付がない。月2万円の差にすぎないという説明は、長期的な保障の有無という本質的な差異を覆い隠すものである。
オ 第四に、甲は、児童手当、児童扶養手当による経済的支援、さらに生活保護の存在を指摘する。しかし、生活保護は、利用し得る全ての資産を活用した上でなければ受けられない補足性の原則に立ち、受給中も資産の有無が継続的に確認される。生活保護を受けられるのだから他の社会保障制度の憲法適合性を厳しく検討しなくてよいという論法は、25条の保障を生活保護に一元化するものであって採り得ない。社会保険としての遺族年金は、保険料の拠出に対応する給付であって、資力調査を伴う公的扶助とは制度の性格を異にする。他の制度の存在は、遺族年金自体の合理性を基礎付けるものではない。
(3)以上より、配偶者に対する年齢要件は、就労促進という目的との関係で、子の養育の有無及び死亡後の事情変更を考慮せず、受給資格を一律に否定するものであって、遺族の生活の安定という遺族年金の目的に照らして合理性を欠き、25条に違反する。
2 配偶者に対する年齢要件と14条1項
(1)判例も、憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、受給者の範囲、支給要件、支給金額等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをしたときは、14条1項違反の問題を生じ得ることは否定できないとしている(前掲最大判昭57.7.7)。
(2)本件年齢要件は、被保険者の死亡時において40歳(夫については55歳)に達している配偶者と達していない配偶者との間に、遺族年金の受給資格の有無という決定的な差異を設けるものである。
(3)年齢は14条1項後段の列挙事由ではないが、次の理由により、区別の合理性は厳密に検討されるべきである。
第一に、年齢は、自己の意思や努力によって変更することのできない属性である。本人の責めに帰すべき事由によらない事柄を理由として不利益を及ぼすことは許されない(最大決平25.9.4参照)。
第二に、区別によって生ずる不利益が、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利という人格的生存の基盤に関わる。失われる利益が重大であれば、区別の合理性の審査もそれに応じて厳密でなければならない。
第三に、39歳と40歳との間に就労能力の有意な差があるとは考え難く、境界の設定について合理的な根拠が示されていない。
(4)したがって、区別の目的が重要であり、区別と目的との間に実質的な関連性があることを要すると解すべきである。そして、前記1で述べたとおり、年齢要件は就労促進という目的との実質的関連性を欠くから、14条1項に違反する。
3 夫と妻の年齢要件の差異と14条1項
(1)新制度案は、妻については40歳以上、夫については55歳以上を受給の要件とし、15歳の開きを設ける。これは性別による区別である。
(2)14条1項後段は、歴史的に不当な差別の根拠とされてきた事由を列挙したものであり、これらに基づく区別については、裁判所は厳格に審査すべきである。性別は、自己の意思によって変更することのできない属性であり、かつ歴史上不合理な差別の根拠とされてきた。したがって、性別に基づく区別の合憲性は、区別の目的が重要であり、かつ区別が目的達成のために実質的な関連性を有することを要する(厳格な合理性の基準)と解すべきである。判例も、国籍法の国籍取得要件に関し、立法目的に合理的な根拠が認められる場合であっても、区別の具体的な態様が立法目的との間に合理的関連性を有しなければならないとして、立ち入った審査を行っている(最大判平20.6.4)。
(3)なお、判例は、地方公務員災害補償法が死亡した職員の夫について一定の年齢に達していることを遺族補償年金の受給要件としていることについて、14条1項に違反しないとしている(最判平29.3.21)。しかし、同判決は、この区別を「妻以外の遺族と妻との区別」として整理しており、性別による区別の問題として正面から扱ったものではない。本件の新制度案は、「妻」と「夫」を明示的に書き分け、年齢要件に15歳もの開きを設けるものであるから、性別による区別として構成すべきである。同判決の判断をそのまま援用することはできない。
(4)区別の目的は、男女の就労状況、収入の実情に大きな格差があることを踏まえ、女性の就労の困難に配慮することである。女性の実質的な平等を実現しようとするものとして、目的自体は重要である。
(5)しかし、手段としての実質的関連性には重大な疑問がある。
ア 第一に、統計上の格差は確かに存在する。給与所得者の年収では男性の平均が約600万円、女性の平均が約300万円であり、40歳代・50歳代でも1.5倍強の格差がある。正規雇用の職員・従業員数は、45歳から54歳で男性約680万人に対し女性約340万人である。しかし、これらはいずれも集団としての平均値・総数であって、個々の配偶者の就労能力や収入の実情を示すものではない。平均的な格差を根拠として、全ての夫を一律に不利に扱い、全ての妻を一律に有利に扱うことは、個人を集団の属性によって処遇するものであって、個人の尊重(13条)に反する。
イ 第二に、15歳という開きの根拠が示されていない。女性が40歳以上で新たに正規雇用の職を得ることが困難であるという統計があるとしても、男性については55歳でなければ同様の困難が生じないということを裏付ける資料はない。区別の程度と立法事実との対応関係が欠けている。
ウ 第三に、本制度の目的は遺族の就労促進でもある。ところが、妻について40歳という低い年齢から受給を認めることは、40歳以上の女性に就労を促すのではなく、年金によって生活を支えることを選択させる方向に働く。これは、男性は十分な収入を得ることができる職に就いて働くものだが、女性はそうでないという男女の役割についての固定的な観念を前提とし、かつこれを制度として承認するものである。男女共同参画が進む中で、現状の格差を制度に組み込むことは、格差を固定化し、女性の就労促進にも逆行する。
エ 第四に、現実の経済的困難に対応することが目的であれば、性別ではなく、現実の収入、就労の状況、子の養育の有無といった中立的な指標によって受給資格を定めることができる。これはより適切かつ制限的でない手段である。性別という属性を用いる必要はない。
(6)以上より、夫と妻の間に15歳の年齢差を設ける区別は、目的との実質的関連性を欠き、14条1項に違反する。
4 旧遺族年金受給者の受給資格喪失と25条
(1)新制度案第5は、旧遺族年金を廃止し、旧遺族年金を受給していた者については新法の定める遺族に該当する場合に限り遺族年金を支給するとする。その結果、現に遺族年金を受給している者が、新制度の受給資格要件を満たさない場合には受給資格を喪失する。場合によっては月十数万円の収入が失われる。
(2)この点については、立法裁量が狭いと解すべき特別の理由がある。
ア 25条1項の権利は法律によって具体化されるが、いったん具体化された受給権は、法律上の権利として受給者の生活の基礎を形成する。これを事後に剥奪することは、新たに制度を創設する場合とは性質が異なる。新たな給付の創設については、財政事情や政策判断の余地が大きいが、既に成立している受給権を消滅させることは、受給者の現実の生活を直接に破壊する。生存権には、国家による既存の給付の剥奪を受けない自由権的側面があると解すべきであり、この側面においては立法裁量は狭まる。いわゆる制度後退禁止原則の趣旨は、ここに求められる。
イ 判例も、生活保護における老齢加算の廃止について、厚生労働大臣は被保護者の期待的利益についても可及的に配慮するため、その廃止の具体的な方法等について激変緩和措置の要否などを含め専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有するとした上で、激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及び現に選択した措置が相当であるとした判断に、被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合には違法となるとしている(最判平24.2.28)。すなわち、既存の給付を廃止する場合には、受給者の期待的利益への可及的配慮が義務付けられ、裁判所はその配慮が尽くされたかを審査すべきである。
(3)本件における理由の検討
ア Bによれば、旧受給者にも新制度の受給資格要件を適用するのは、新旧遺族年金制度の下での公平性を担保するためである。確かに、同じ事情にある者について、旧制度の下では受給できるのに新制度の下では受給できないという状態は、不公平感を生む。
イ しかし、既に発生している受給権を消滅させるには、不公平感の解消という以上の理由が必要である。第一に、新旧の制度の間に差異が生ずることは、制度改正に伴って常に生じる現象であり、経過的な取扱いの差異は不公平というより制度移行の必然的な帰結である。第二に、新遺族年金の財源は国民年金の保険料、厚生年金の保険料及び国庫負担金によって賄われ、新遺族年金の保険料は独自には徴収しないとされており、旧受給者を従前のまま受給させ続けることによって財政が破綻するという事情は示されていない。第三に、旧受給者は、旧制度の下で保険料を拠出した被保険者の遺族であり、拠出に対応する給付への期待は保護に値する。
ウ したがって、公平性の担保という理由のみで旧受給者の受給資格を喪失させることは、期待的利益への可及的配慮を欠く。
5 経過措置の相当性
(1)新制度案第6は、新法の定める遺族に該当しない旧受給者について、引き続き5年間に限り従前の遺族年金の受給を認めるが、3年目以降は支給額をそれまでの半額とする。
(2)経過措置が設けられていることは、期待的利益への配慮の表れとして評価できる。しかし、その内容は相当性を欠く。
ア 第一に、5年という期間である。それまで被保険者の収入によって生活してきた者が、新たに職を得て自活できるようになるには、職業訓練や資格取得を要する場合も多い。子を養育している場合には、子が一定の年齢に達するまで就労が制限される。5年という期間が十分であることの根拠は示されていない。少なくとも、子を養育する者については、子が高校を卒業する時期までの保障を継続すべきである。
イ 第二に、3年目以降の半額への減額である。自活のための準備期間であるはずの期間中に給付が半減すれば、生活はその時点で困窮する。しかも、減額は一律であり、現実の就労状況や収入の有無を考慮しない。段階的な減額が激変緩和として意味を持つのは、受給者が段階的に収入を得られるようになる場合であるが、新制度案にはそのための就労支援措置が併せて定められていない。就労促進を目的と称しながら、職業訓練、職業紹介、保育の確保といった支援を伴わず、給付の減額のみを行うことは、目的達成の手段として合理性を欠く。
(3)以上より、新制度案第5及び第6は、旧受給者の期待的利益に対する可及的配慮を欠き、25条に違反する。
6 結論
新制度案は、遺族基礎年金と遺族厚生年金を統合し、遺族間の受給額の格差を是正して公平かつ実効的な遺族の生活保障を図るものとして、全体としては25条の趣旨に適合する。しかし、①配偶者に対する年齢要件(第3の1、2)は25条及び14条1項に違反し、②夫と妻の年齢要件の差異は14条1項に違反し、③旧遺族年金受給者の受給資格を喪失させる仕組み(第5)及び経過措置の内容(第6)は25条に違反する。これらの点について修正を要する。
第2 設問2 反論を踏まえた私見
1 想定される反論
Xの意見に対しては、次の反論が想定される。①社会保障立法については、国の財政事情を無視できず、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするから、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない場合を除き、裁判所の審査は及ばない(前掲最大判昭57.7.7)。遺族年金が生存権の中核に関わるというだけで裁量が狭まるものではない。②新制度案における区別は、社会保障制度の設計の一部であり、財源の配分の問題である。14条1項違反が問題となる場合でも、立法裁量の広さは25条の場面と同様に考慮されるべきである(最判平19.9.28参照)。③年齢要件は、就労による自立の可能性という客観的な指標に基づくものであり、画一的な基準によらなければ制度の安定的な運用は困難である。個別の事情を考慮する仕組みは、認定の煩雑さと不公平を生む。④夫と妻の年齢差は、男女の就労状況・収入の実情という客観的なデータに基づく区別であり、現実に不利な立場にある女性を手厚く保護するものである。実質的平等の実現のための措置であって、不当な性差別には当たらない。判例も、遺族補償年金の受給要件における同様の区別を合憲としている(前掲最判平29.3.21)。⑤制度後退禁止原則は判例の採用するところではない。老齢加算廃止判決も、期待的利益への「可及的」配慮と述べるにとどまり、裁量権の存在を前提としている。⑥新制度案は現に5年間の経過措置を設けており、期待的利益への配慮は尽くされている。
2 私見
(1)審査の枠組み
ア 社会保障立法について立法府の広い裁量を認める判例の立場は、基本的に支持すべきである。給付の水準、受給資格、財源の配分は相互に関連し、限られた財源の中で優先順位を決する作業であって、国会の政策的判断に委ねられるべき事柄が多い。裁判所が個別の給付の当否を判断することは、制度全体の整合性を損なう。
イ しかし、広い裁量が認められることは、裁判所の審査が及ばないことを意味しない。判例も、受給者の範囲、支給要件、支給金額等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをしたときは14条1項違反の問題を生じ得るとしており、また、生活保護基準の改定に関しては、期待的利益や生活への影響等の観点から裁量権の逸脱・濫用を審査している(前掲最判平24.2.28)。すなわち、審査されるのは、立法府が考慮すべき事情を考慮し、考慮すべきでない事情を考慮しなかったか、及び判断の過程に合理性があるかである。
ウ そこで、私見としては、次のように整理する。第一に、給付の水準及び財源の配分に関する判断については、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と認められる場合に限り違憲となる。第二に、受給資格の設定における区別については、区別の事由の性質に応じて審査の厳格度を変える。14条1項後段の列挙事由に基づく区別については、社会保障立法であっても、区別の目的が重要であり、区別が目的との実質的な関連性を有することを要する。第三に、既に発生した受給権を消滅させる場合については、受給者の期待的利益及び生活への影響に対する適切な配慮がなされたかを審査する。
(2)配偶者に対する年齢要件について
ア 25条適合性
反論③のとおり、社会保険制度においては画一的な基準による運用が不可避であり、受給資格を年齢という客観的指標によって定めることには合理性がある。就労による自立の促進という目的も正当である。
しかし、Xの指摘のうち、死亡時の年齢で永久に資格を否定する点及び子の養育の有無を考慮しない点は、看過できない。年齢要件の根拠が「年齢が高くなると職を得ることが難しくなる」ことにあるならば、被保険者の死亡後に受給者が当該年齢に達した時点で受給資格を認めるのが制度の論理に適う。39歳で夫を失った妻が40歳になっても資格を得られないという帰結は、制度自身が掲げる根拠と矛盾する。これは、立法目的との関係で考慮すべき事情を考慮していない点において、裁量の逸脱に当たる。
子の養育の有無についても、遺族年金の目的が遺族の生活の安定であることからすれば、就労の可能性を判断する上で最も重要な事情である。新制度案第7が子一人につき年24万円の加算を設けていることは、子の存在による経済的負担を制度自身が認識していることを示す。にもかかわらず、受給資格の判断において子の養育を考慮しないのは一貫性を欠く。
また、甲が挙げる他制度の存在については、Xの指摘が正当である。生活保護は補足性の原則に立つ最後の手段であり、その存在をもって社会保険給付の合理性を基礎付けることはできない。児童手当及び児童扶養手当は、子の養育に伴う費用の支援であって、家計を支える者を失ったことによる所得の喪失を補うものではない。
したがって、配偶者に対する年齢要件は、①被保険者の死亡後に当該年齢に達した場合に受給資格を認める仕組みを欠く点、②子を養育する配偶者について例外を設けていない点において、25条に違反する。年齢要件それ自体を一律に違憲とする必要はなく、これらの修正を加えれば合憲となる。
イ 14条1項適合性
年齢は14条1項後段の列挙事由ではなく、社会保障給付の受給資格を年齢によって区切ることは広く行われている。年齢による区別それ自体を厳格に審査すべきとまではいえない。もっとも、アで述べたとおり、区別の内容が制度の掲げる根拠と矛盾する点において、合理的な理由を欠く区別であり、14条1項にも違反する。独立の違憲事由としてではなく、25条違反の判断と重なるものとして位置付けるべきである。
(3)夫と妻の年齢要件の差異について
ア まず、本件の区別を性別による区別として構成すべきか否かを検討する。判例が遺族補償年金の受給要件に関して妻以外の遺族と妻との区別として整理したことは(前掲最判平29.3.21)、当該法律の規定の構造に即した整理であった。これに対し、新制度案第3は、「妻」については40歳以上、「夫又は父母」については55歳以上と明示的に書き分けており、配偶者の内部において性別のみを基準として年齢要件に15歳の差を設けている。したがって、性別による区別として構成するのが素直である。この点でXの意見は正当であり、反論④のうち判例の援用の部分は採り得ない。
イ 次に、本件区別が実質的平等の実現のための措置として正当化されるかを検討する。男女の就労状況及び収入に現実の格差があることは、統計上明らかである。社会に存在する構造的な不利益を是正するために、不利な立場にある集団を一時的に優遇する措置は、14条1項の趣旨に反しない。この観点からは、反論④に一定の理由がある。
しかし、本件区別を実質的平等の実現措置として正当化することはできない。
第一に、実質的平等の実現措置が許されるのは、当該措置が構造的な不利益の是正に向けられ、かつ格差の解消とともに解除されることが予定されている場合である。本件区別は、現在の格差をそのまま受給資格に反映させるものであり、格差の是正ではなく、格差を前提とした給付の配分である。女性の就労促進という目的に対しては、むしろ逆方向に作用する。
第二に、新制度案全体の目的は、遺族が就労によって自ら収入を確保することを促進することである。妻について40歳という低い年齢から受給を認めることは、40歳以上の女性については就労よりも年金による生活を前提とすることを意味し、制度自身の目的と矛盾する。すなわち、本件区別は、女性の就労促進という目的との関係で手段の方向性を誤っている。
第三に、15歳という差の大きさについて、立法事実の裏付けがない。女性が40歳以上で新たに正規雇用の職を得ることが困難であるという資料は示されているが、男性が55歳未満であれば就労によって生活を維持できるということを示す資料は示されていない。区別の程度と立法事実との対応を欠く。
第四に、遺族年金の目的が遺族の生活の安定であり、就労の可能性がその判断の基礎であるならば、性別という属性ではなく、現実の収入、就労の状況、職業経験、子の養育の有無といった中立的な指標によるべきである。これは実現可能であり、かつ性別による区別を避けられる手段である。
ウ したがって、夫と妻との間に15歳の年齢差を設けることは、目的との実質的な関連性を欠き、14条1項に違反する。配偶者について性別を問わず同一の年齢要件を定めるべきである。
(4)旧遺族年金受給者の受給資格喪失について
ア 制度後退禁止原則を、既存の給付の縮減が原則として許されないという意味で理解するならば、これは採り得ない。社会保障制度は、人口構成、経済状況、就労形態の変化に応じて見直されるべきものであり、既存の給付の水準を一切変更できないとすれば、制度の持続可能性が損なわれる。反論⑤はこの限度で正当である。
イ しかし、既に発生した受給権を消滅させる場面では、受給者の現実の生活が直接に影響を受けるから、立法府は受給者の期待的利益及び生活への影響に適切な配慮をしなければならない。判例も、激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及び現に選択した措置が相当であるとした判断について、期待的利益や生活への影響等の観点からみた裁量権の逸脱・濫用の有無を審査すべきものとしている(前掲最判平24.2.28)。裁判所は、配慮が全くなされていないか、著しく不十分である場合には、違憲・違法の判断をすべきである。
ウ 本件では、新旧制度の下での公平性の担保という理由が示され、5年間の経過措置も設けられている。これらは、期待的利益への配慮が全くないとはいえないことを示す。
しかし、措置の内容は相当性を欠く。第一に、3年目以降に支給額を一律に半減させることは、自活のための準備期間中に生活の基盤を失わせるものであり、激変緩和という経過措置の趣旨に反する。第二に、子を養育している受給者について、子の成長に応じた配慮がなされていない。第三に、就労促進を目的と称しながら、職業訓練、職業紹介、保育の確保といった就労支援措置が制度上用意されていない。給付の削減のみを行い、自活の条件を整えないことは、目的と手段の対応を欠く。
エ したがって、新制度案第5自体を違憲とする必要はないが、第6の経過措置は、①5年という期間を子の養育状況に応じて延長する仕組み、②3年目以降の一律半減に代えて、受給者の収入の状況に応じた段階的な減額とする仕組み、③就労支援措置の整備を伴わせることが必要であり、現行の内容のままでは25条に違反する。
3 結論
新制度案は、遺族基礎年金と遺族厚生年金を統合して遺族間の受給額の格差を是正し、定額部分と所得比例部分からなる給付によって実効的な生活保障を図るものであり、その基本的な枠組みは25条の趣旨に適合する。
しかし、①配偶者に対する年齢要件は、被保険者の死亡後に当該年齢に達した場合の取扱い及び子を養育する配偶者についての例外を欠く点で25条及び14条1項に違反し、②夫と妻との間に15歳の年齢差を設ける区別は14条1項に違反し、③旧受給者に関する経過措置は、3年目以降の一律半減及び就労支援措置の欠如という点で25条に違反する。これらについて修正を加えた上で立法すべきである。
以上