司法試験 令和3年 憲法
問題文
[公法系科目]
〔第1問〕(配点:100)
1.20××年,各地の大規模なデモにおいて,いくつかの団体の構成員が,覆面や仮面で顔を隠して参加するようになった。これらの団体は,それぞれ異なる政治的主張を掲げ,組織的な活動を行っていた。これらの団体の構成員は,集団行進(集団示威運動を含む。)に際して,顔を隠すだけでなく,団体の主張が書かれた大きな旗を振り回す,抗議の対象となるものが書かれた紙を燃やすなどの行動も行っていた。また,これらの団体は,このような行動の動画や,集団行進への参加の呼び掛けを,ウェブサイトやソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SNS」という。)を通じて配信していた。
上記各団体は,顔を隠すこと自体に特定のメッセージを込めていなかったが,このような集団行進のスタイルが大きな注目を集めた。SNS等では,「デモの報道で顔が映る心配がない。」
「就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できる。」といった意見が多く見られ,上記各団体の構成員ではないデモ参加者の中にも,顔を隠す者が多数現れるようになった。
2.前記の大規模なデモでは,参加者の大部分は平穏に集団行進を行っていた。しかし,その最中に,顔を隠した参加者の一部が,商店のショーウィンドウを破壊する,ごみ箱に放火するなどの暴力的な行為を行うようになった。さらに,いくつかのデモでは,顔を隠した参加者の一部が警備に当たる警察官を負傷させ,それぞれ数十名が逮捕される事態となった。
逮捕者には,前記各団体の構成員が相当数含まれていた。しかし,逮捕者の半数ほどはそれらの団体の構成員ではなく,専ら暴力的な行為を目的として,その都度SNSで仲間を募り,デモに参加していた者であった。さらにそれ以外にも,その場の雰囲気に刺激された一般の参加者が,暴力的な行為に加わり逮捕された例もあった。
集団行進の許可を求められた公安委員会は,主催者側に適切な対応を求め,また所轄の警察署も警備を強化していた。しかし,大規模なデモの最中に暴力的な行為が散発的に行われることから,集団行進の主催者も警察も,そのような行為を行う者を事前に把握し対応することが困難であった。また,顔を隠している被疑者の特定が難しいため,逮捕者は暴力的な行為を行った者の一部にとどまっていた。
3.このような状況に強い懸念を抱いた国会議員Xらは,次のような規制を内容とする法律案を検討している。
規制① 顔を隠して集団行進に参加することを禁止する。
規制② 集団行進において公共の安全を害する行為を行った者が一定比率以上含まれる団体を観察対象として指定し,当該団体がその活動のために利用している機関紙,ウェブサイト,SNSのアカウント等について,報告を義務付ける。
4.【別添資料】は,規制①及び②の内容として検討されている法律案の骨子である。Xらは,法律案の骨子について,法律家甲に相談した。その際の甲とXとのやり取りは,以下のとおりであった。
甲:まず規制①ですが,暴力的な行為をしている者だけでなく,平穏にデモを行っている多くの参加者にまで,一律に規制を及ぼすのは行き過ぎではないですか。
X:規制①の目的は,集団行進において公共の安全を害する行為が行われるのを抑止することであり,デモそれ自体を規制するつもりはありません。覆面や仮面で顔を隠している人はそのことで何かを伝えようとしているわけではないのですから,顔を隠さなくても集団行進を通じてメッセージを届けることは,十分に可能なはずです。他方,覆面や仮面で顔を隠すことによって,誰がやっているか分からないという感覚が生じて,普段はしないような行動に走る面があることは否定できません。同じようなことは,ウェブサイトやSNSでの表現一般をめぐっても,問題になっています。
甲:顔を隠すことが許される「正当な理由」としては,どのようなものを想定していますか。例えば,マスクの着用についてはどうですか。
X:感染症対策や健康上の理由でマスクをする,信仰上の理由から顔を隠すといったことは,もちろん「正当な理由」があるものとして扱われます。
なお,この種の規制では,文言の明確性も問題になりますが,この点は別途相談する予定ですので,本日は検討いただく必要はありません。
甲:分かりました。次に規制②ですが,団体の規制に関する既存の立法と比べると,対象となる団体の危険性はさほど大きくないように思います。どのようにお考えでしょう。
X:公共の安全を害する行為を実効的に抑止するためには,そのような行為を助長している団体の活動を把握する必要があります。これが規制②の目的です。規制②を担当するのは,公共の安全の確保のために最近新たに設置されたA1委員会とA2庁です。
また,観察処分を受けた団体が,そのことを意識して自覚ある行動をとることも期待しています。
甲:団体の指定の要件に関してですが,そもそも構成員の範囲の画定が可能なのでしょうか。
X:団体の指定の要件は,我々の間でも議論になり,これまで逮捕者が出た事案を調査しました。
構成員としては,組織としての活動に継続的に参加している者を想定しており,A2庁である程度の把握ができているとのことです。SNS等をフォローして集団行進に参加しているだけの者は,構成員に含みません。
公共の安全を害する行為を助長している団体は,現状では,構成員がおおむね50人から100人程度の,比較的規模の小さなものです。これらの団体のいずれでも,過去5年以内に,デモにおいて「法律案の骨子」の第2の2に掲げる行為のいずれかを行い,処罰された構成員が全体の10パーセント以上に上ります。構成員の10パーセント以上という基準であれば,当面は,指定の対象を,実際に問題を起こした団体だけに絞り込むことができるとみています。基準については,今後の状況の変化も踏まえ,A1委員会で見直してもらいます。
また,規制②で報告が義務付けられるのは,団体がその活動のために利用している媒体の名称等のみです。報告によって得られた情報は,A2庁による団体の活動の把握に用いますが,必要な場合には,A2庁が各都道府県の公安委員会に提供し,公安条例や道路交通法等の運用を通じ,公共の安全を害する行為の抑止に役立ててもらうこともあります。
甲:確認ですが,報告義務の対象となるのは,機関紙のほか,団体が利用しているウェブサイト等,誰もが見ることができるようなものですね。SNSでも,そのサービスの利用者であれば自由に閲覧できる投稿をしているアカウント等も,ここには含まれてきますね。一方で,サービスの利用に当たって用いている氏名,住所,パスワード等の情報は含まれないという理解でよろしいでしょうか。
X:そのとおりです。現在問題となっている団体は,団体名を使っているウェブサイトやSNS等に限らず,様々なルートで公共の安全を害する行為を助長する可能性がありますが,その全てを把握するのは困難です。代表者や幹部に限らず,構成員が,個人名義のアカウントを使って団体の主張を流布する場合も含めて,それらを網羅的に把握し,団体の活動を継続的に観察する必要があります。
なお,規制②の指定の要件に該当するかどうかの判断は難しい場合があり,団体や構成員にもいろいろ言い分はあるでしょうから,告知・聴聞の機会の保障など,適正な手続の整備が必要になります。しかし,手続保障については,別途相談する予定ですので,本日は検討いただく必要はありません。
〔設問〕あなたが検討を依頼された法律家甲であるとして,規制①及び②の憲法適合性について論じなさい。なお,その際には,必要に応じて,参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及すること。規定の文言の明確性,手続の適正については,論じる必要はない。
【別添資料】
○ 公共の安全を害する行為の抑止及び公共の安全を害する行為を助長する団体の規制に関する法律案の骨子第1 目的この法律は,集団行進(集団示威運動を含む。)における公共の安全を害する行為を抑止するとともに,そのような行為を助長する団体の活動状況を明らかにするために必要な措置を定め,もって公共の安全の確保に寄与することを目的とする。
第2 定義1 この法律において「顔面を覆う行為」とは,手段のいかんを問わず顔面の全体又は一部を覆い,容貌の確認を困難にする行為をいう。
2 この法律において「公共の安全を害する行為」とは,次に掲げる行為をいう。
刑法第95条第1項〔公務執行妨害〕,第106条〔騒乱〕,第108条〔現住建造物等放火〕,第109条〔非現住建造物等放火〕,第110条〔建造物等以外放火〕,第199条〔殺人〕,第204条〔傷害〕,第205条〔傷害致死〕,第206条〔現場助勢〕,第208条〔暴行〕,第208条の2〔凶器準備集合及び結集〕,第260条〔建造物等損壊及び同致死傷〕,第261条〔器物損壊等〕に規定する行為をなすこと。
3 この法律において「集団行進において公共の安全を害する行為を行っていると認められる団体」とは,その構成員と認められる者のうち,第4の1の処分に係る手続が開始された日から遡って5年間に,集団行進において公共の安全を害する行為を行い刑に処せられた者の比率が,A1委員会規則で定める基準(当分の間,100分の10を下回らない比率とする。)を超える団体をいう。
第3 顔面を覆う行為の禁止1 何人も,集団行進において,正当な理由なく,顔面を覆う行為をしてはならない。
2 第3の1の規定に違反した者は,10万円以下の過料に処する。
第4 観察処分1 A1委員会は,集団行進において公共の安全を害する行為を行っていると認められる団体に対して,1年を超えない期間を定めて,A2庁長官の観察に付する処分(以下「観察処分」という。)を行うことができる。A1委員会は,さらに必要と認めるときは,その期間を更新することができる。
2 観察処分を受けた団体の代表者は,名義のいかんを問わず,団体の活動として団体の主義,主張等を不特定又は多数の者に対して伝えるために利用している機関紙,ウェブサイト,SNSのアカウント等について,1か月ごとにA2庁長官に対して報告しなければならない。
3 A2庁長官は,必要と認めるときは,観察処分を受けた団体の名称,当該団体の活動等の情報を各都道府県公安委員会に提供することができる。
4 観察処分を受けた団体の代表者が,正当な理由なく,第4の2の報告義務に違反した場合(虚偽の報告を行った場合を含む。)は,50万円以下の過料に処する。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第1問〕
1.本問は,匿名表現の自由の制約(規制①),結社の自由,団体とその構成員の表現の自由・プライバシーの権利の制約(規制②)の可否を問うものである。
規制①は,集団行進(集団示威運動を含む)における公共の安全を害する行為の抑止を目的に,行進参加者が覆面や仮面等で顔を隠し容貌の確認を困難にする行為を禁止するものである。単に,集団行進への参加の態様の制約にとどまらず,匿名での表現の制約という問題を含むことに留意する必要がある。
規制②は,公共の安全を害する行為を実効的に抑止するため,そのような行為を助長する団体の活動を把握し,集団行進に際し所要の措置を採ることを可能にするという目的のもと,集団行進において公共の安全を害する行為を行った者が一定比率以上含まれる団体を観察対象として指定するとともに,当該団体がその活動のために利用している機関紙,ウェブサイト,SNSのアカウント等について,報告を義務付けるものである。また,上記の目的に加えて,団体の活動を観察対象とすることで,団体の表現活動を抑止しようという狙いもうかがえる。かかる措置は,結社の自由,団体の表現活動・プライバシーの制約に加えて,その構成員の表現活動・プライバシーをも制約するものとなっている。
2.規制①については,匿名で表現を行うことがどこまで憲法第21条で保障されるのかを踏まえておく必要がある。匿名表現の自由は,基本書などでは必ずしも正面から論じられていない。しかし,憲法第21条第1項は,特に限定を付することなく幅広い表現行為を保障しており,本問で問題となる表現行為についても,顕名であるか匿名であるかを問わず,保障されているとみることができよう。表現の匿名性は,発信者情報開示の仕組みなどに関連して,インターネット上の表現をめぐり議論となっている点でもあり,その意義や問題を意識して立論することは十分に可能であろう。表現者が特定されない匿名での表現には,弱い立場の者であっても,社会的圧力にさらされやすい表現行為を萎縮せずに行い得るといったメリットがあり,表現の自由として保護する価値は高いと言える。他方で,顕名であれば行わないような,他者の権利を侵害する行為や違法行為などがなされるおそれもある。以上のような問題の所在が把握できていれば,匿名表現という言葉を使っていなくとも差し支えない。
匿名表現を正面から扱った最高裁判所の判例はないが,報道関係者の取材源の秘匿について,情報提供者の匿名性に配慮した判断を行っている決定(最決平成18年10月3日民集60巻8号2647頁)がある。
規制①では,集団行進における匿名表現の規制が問題となっている。集団行進の自由は,「動く集会」とみれば「集会の自由」の内容として,あるいは「その他一切の表現の自由」
の一つとして,位置付けることができる。集団行進の規制については,公安条例による集団示威運動の規制をめぐる判決(新潟県公安条例事件,最大判昭和29年11月24日刑集8巻11号1866頁)や,市民会館の利用拒否をめぐり「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される」ことが必要だとした判決(泉佐野市民会館事件,最判平成7年3月7日民集49巻3号687頁)などが想起されよう。
規制①は,集団行進について不許可としたり条件を付したりするものではない。また,顔を隠す行為自体には,特定のメッセージは込められていないとされており,その限りでは,表現内容に着目した規制が問題になるわけではない。集団行進への参加の態様の規制であり,ひとまずは,内容中立的な規制とみることができよう。ただし,匿名での集団行進への参加が禁止されており,上記の匿名表現の意義を考えれば,社会的圧力にさらされやすい表現行為に対して強い萎縮効果を及ぼす規制となっている。それだけに,規制①の憲法適合性の判断に当たっては,匿名表現の意義を踏まえた慎重な検討が必要となる。
全国の大規模なデモで暴力行為が頻発し,現実に身体や財産が侵害される事態が生じていることからすると,上記の立法目的は重要あるいは極めて重要な公共の利益にかなうと言えよう。
一方,この目的を達成するために採られる措置は,暴力行為が発生する蓋然性などを考慮せず,暴力行為を行っている者や行うおそれが高い者だけでなく,平穏に集団行進に参加している者に対してまで一律に顔を隠す行為を禁止している。かなり広範囲な規制であり,また,その萎縮効果も無視できない。「正当な理由」がある場合には顔を隠すことが許されるが,その運用のいかんでは,過剰な規制ともなり得る。
これに対して,表現内容に着目した規制ではなく集団行進への参加の一態様を規制するにすぎない,顔を隠さなくてもメッセージは十分に伝達可能であり,集団行進において匿名での表現行為を保障する必要性は高くない,といった点を強調した議論を行うことも考えられる。いわゆるデモ隊暴徒化論(東京都公安条例事件,最大判昭和35年7月20日刑集14巻9号1243頁)などを援用し,規制①の必要性を根拠付けることもできる。
3.規制②では,団体の指定の要件,報告義務を課すこと、さらには観察処分それ自体の合憲性が問題となるが,それらは一体をなしているから,適切な判断枠組みを設定する前提として,規制②全体からどのような憲法上の権利の制約が生じているかを,まずは検討することになろう。制約される権利としては,結社の自由,表現の自由,プライバシーの権利が考えられる。これら3つの権利の制約を論じる際には,いくつかの構成があり得る。例えば,規制対象となるのは表現活動を行っている団体であるから,表現活動の制約を結社の自由の制約として論じ,それと関連付けて,あるいはそれとは独立に,団体のプライバシーの権利の制約を論じることが可能である。あるいは,結社の自由それ自体の制約ではなく,団体の表現の自由・プライバシーの権利の制約を論ずることもあり得る。さらに,観察処分を受けること自体が,団体の表現の自由・プライバシーの権利の制約には解消されない団体の活動の制約を含むとみるならば,結社の自由の制約を,他の2つの権利の制約とは別に検討することになろう。
結社の自由の制約が問題となる立法としては,破壊活動防止法や,無差別大量殺人行為を行った団体を対象としたいわゆる団体規制法がある。後者は,規制②と同様の観察処分について定めており,下級審ではあるが,同法の合憲性をめぐる裁判例(東京地判平成13年6月13日判時1755号3頁)が本問でも参考となる。ただし,本問の法律案の骨子との違いには留意する必要がある。本問で規制対象となっている団体の危険性は,団体規制法が対象とする団体と比べると,決して高いとは言えない。規制の仕組みも異なっている。
報告義務の対象となるのは,誰もが閲覧可能な表現に係るものである。しかし,団体の名義が直接用いられていない場合には,報告によって,団体の構成員が特定されたり、あるいはその可能性が高まったりすることになる。また,観察処分を受け報告義務を課されることが,萎縮効果を生じさせ,団体による表現活動の抑制につながる可能性もある。なお,個人が利用しているウェブサイトやSNSのアカウントも,団体の活動に用いられている場合には報告の対象となるので,構成員の表現の自由やプライバシーの権利を制約する側面もある。
ウェブサイト,SNS等には,団体の主張や構成員の思想信条など,個人の内面に関わる情報が含まれ得る。公権力によるこれらの情報の収集は,団体及びその構成員双方のプライバシーの権利の制約となり得る。プライバシーの意義や保護範囲をめぐっては,前科照会事件(最判昭和56年4月14日民集35巻3号620頁),指紋押捺訴訟(最判平成7年12月15日刑集49巻10号842頁),住基ネット訴訟(最判平成20年3月6日民集62巻3号665頁)などの判決を参考として,立論することが期待される。
本問の法律案の骨子は,誰もが閲覧可能な表現に関して報告義務を課するにとどまり,団体規制法にある立入検査や構成員氏名等の報告義務は含んでおらず,規制態様は必ずしも強くないとみることもできる。また,団体規制法と同様に,団体の政治的主張などではなく,専ら公共の安全に対する団体の危険性に着目した規制である。一方で,誰もが閲覧可能なウェブサイトやSNS等が対象とはいえ,観察処分を受け,報告義務を課されることで,上記のように,団体や構成員の表現活動に対し無視できない影響が生じ得る。また,個人の内面に関わる情報が収集され,団体及び構成員の活動が把握され得る。
上記のような問題となる権利の重要性,制約の態様などを考慮して,規制②の憲法適合性を判断する適切な判断枠組みを設定する必要がある。
規制②の目的は,公共の安全を害する行為を実効的に抑止するため,そのような行為を助長する団体の活動を把握し,集団行進に際し所要の措置を採ることを可能にするというものであり,規制①と同様に,重要あるいは極めて重要な公共の利益にかなうものと言えよう。
目的達成の手段としては,まず,団体の指定の要件が問題となる。規制②では,過去5年間に公共の安全を害する行為で処罰された者の比率という客観的な指標を基準として,実際に問題を起こしている団体が規制対象となるような仕組みが採られている。規制対象が一定の危険性がある団体のみに絞り込まれているとみることもできる。しかし,ここで問題となる団体は,組織の外延が曖昧であり,構成員の把握は決して容易ではない。規制目的を達成する手段としての実効性には疑問も残る。また,過去5年間の行為を問題としていること,処分期間が最長で1年に及ぶことから,現在は危険性が低い団体が指定対象となる可能性がある。
報告義務の対象となるのは,誰もが閲覧可能な機関紙,ウェブサイト,SNS等の情報にとどまる。とはいえ,団体の活動に用いられている媒体について幅広く,また1か月ごとの報告が義務付けられており,団体や構成員のプライバシーに係る情報が,継続的かつ網羅的に収集され,把握されているという点には留意する必要がある。継続的・網羅的な情報収集の問題をめぐっては,GPS捜査に関する判決(最大判平成29年3月15日刑集71巻3号13頁)が参考となろう。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 規制①(顔面を覆う行為の禁止)の憲法適合性
1 制約される権利
(1)集団行進の自由
集団行進は、多数人が共通の目的のために一定の場所に集合し、場所を移動しながら集団としての意思を社会に訴える行為である。場所の共同利用を不可欠の前提とし、集団としての力を背景に意思を表明する点で個人の言論とは性質を異にするから、いわゆる動く集会として、21条1項の集会の自由により保障されると解する。
集会の自由は、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成・発展させ、相互に意見や情報等を伝達・交流する場として必要であり、対外的に意見を表明するための有効な手段である。とりわけ集団行進は、マスメディアを通じた表現手段を持たない一般市民にとって、少ない費用で自己の主張を社会に訴えることのできる貴重な手段であり、民主政の過程において重要な意義を有する。
(2)匿名で表現を行う自由
21条1項は、特に限定を付することなく広く表現行為を保障しており、表現が顕名でなされるか匿名でなされるかを問わない。したがって、覆面や仮面によって顔を隠したまま集団行進に参加することも、同項の保障を受ける。
匿名性の意義は大きい。表現者が特定されない匿名での表現には、社会的に弱い立場にある者や、社会的圧力にさらされやすい主張を持つ者であっても、不利益を恐れることなく表現行為を行い得るという機能がある。判例も、報道関係者の取材源の秘匿について、情報提供者の匿名性が確保されなければ報道のための情報の提供自体が得られなくなることに配慮した判断を示している(最決平18.10.3)。
本件でも、SNS等において、デモの報道で顔が映る心配がない、就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できるといった意見が多く見られ、団体の構成員ではない参加者の中にも顔を隠す者が多数現れるようになった。これは、匿名性が確保されることによって初めて集団行進への参加が可能になる層が現実に存在することを示している。したがって、集団行進において顔を隠す自由の保護価値は高い。
他方、匿名性には、顕名であれば行わないような違法行為がなされやすくなるという問題もある。Xが指摘するように、顔を隠すことによって誰がやっているか分からないという感覚が生じ、普段はしないような行動に走る面があることは否定できない。
(3)制約
骨子第3の1は、何人も、集団行進において、正当な理由なく顔面を覆う行為をしてはならないと定め、同2はこれに違反した者を10万円以下の過料に処する。これは、集団行進における匿名での参加を、違反に対する制裁をもって一律に禁ずるものであり、前記各権利に対する制約である。
2 審査基準
(1)規制①は、集団行進それ自体を不許可とし、又は条件を付するものではない。また、各団体は顔を隠すこと自体に特定のメッセージを込めていなかったのであるから、顔を隠す行為の伝達内容に着目した規制とはいえない。したがって、形式的には、集団行進への参加の態様に着目した内容中立規制と位置付けられる。
(2)しかし、内容中立規制であることから直ちに緩やかな審査でよいことにはならない。前述のとおり、匿名性は、社会的圧力にさらされやすい主張を持つ者が萎縮せずに表現を行うための前提条件である。顔を隠すことを禁止すれば、職場や就職活動への影響を懸念する者は集団行進への参加自体を断念することになる。すなわち、規制①は、参加の態様を規律する外形をとりながら、特定の立場にある者の集団行進への参加そのものを封じる効果を持つ。この萎縮効果は無視できない。
(3)そこで、規制①の合憲性は、目的が重要であり、手段が目的達成のために実質的な関連性を有し、かつ目的達成のために必要な範囲を超えないかによって判断すべきである。そして、匿名表現の萎縮効果防止機能に照らし、手段の必要性については厳格に検討すべきである。
3 あてはめ
(1)目的の重要性
規制①の目的は、集団行進において公共の安全を害する行為が行われるのを抑止することである。
各地の大規模なデモでは、顔を隠した参加者の一部が商店のショーウィンドウを破壊し、ごみ箱に放火し、さらに警備に当たる警察官を負傷させ、それぞれ数十名が逮捕される事態となっている。人の身体及び財産が現実に侵害されており、公務の執行も妨害されている。これらの行為を抑止することは、極めて重要な公共の利益にかなう。
(2)手段の実質的関連性
顔を隠すことによって、匿名性の感覚から行動が大胆になるという心理的機序は一般に認められるところであり、また、顔を隠している被疑者の特定が難しいため逮捕者は暴力的な行為を行った者の一部にとどまっているという事情もある。顔を隠すことを禁止すれば、違法行為の抑止と事後的な責任追及の双方に資する。したがって、手段と目的との間には実質的な関連性が認められる。
(3)規制の範囲の過度の広汎性
しかし、規制①は、目的達成のために必要な範囲を大きく超える。
第一に、規制①は、暴力的な行為を行っている者や行うおそれが高い者に限らず、平穏に集団行進を行っている参加者に対しても一律に適用される。問題文によれば、大規模なデモにおいて参加者の大部分は平穏に集団行進を行っており、暴力的な行為に及んだのはその一部である。にもかかわらず、骨子第3の1は、暴力的行為が発生する蓋然性を一切考慮することなく、全ての集団行進における全ての参加者に禁止を及ぼす。
第二に、規制①は、集団行進の規模、場所、性質を区別しない。小規模で平穏な集団行進、過去に問題を生じたことのない主催者による集団行進、暴力的な行為とは無縁の主張を掲げる集団行進についても、顔を隠すことは一律に禁止される。
第三に、匿名性を奪われることによる萎縮の対象となるのは、まさに社会的圧力を受けやすい少数者である。暴力的な行為を目的とする者は、過料という軽微な制裁を顧慮しないであろうが、職場や就職活動への影響を懸念する一般市民は、参加を断念する。すなわち、規制①は、抑止したい相手に対する効果が乏しく、保護すべき表現に対する打撃が大きいという逆効果を持つ。
第四に、より制限的でない手段が存在する。具体的には、①過去に暴力的な行為が行われた集団行進と同一の主催者又は団体が関与する場合、現に暴力的な行為が発生している場合など、公共の安全を害する行為が行われる具体的なおそれがあると認められる場合に限って顔を隠す行為を禁止する、②公安委員会が許可に際して条件として付し得るものとする、③暴力的な行為の現場において警察官が覆面の除去を命じ得るものとする、④現場における警備の強化と記録の方法の整備(警察官による撮影、現場における身元確認)によって事後的な責任追及の実効性を高める、といった手段が考えられる。現に、公安委員会は主催者側に適切な対応を求め、所轄の警察署も警備を強化していたのであるから、こうした対応を制度化する余地がある。
(4)異なる立場への応答
これに対し、集団行進は、多数人の集合という性質上、ときに暴徒化し、警察力をもってこれを阻止することが困難な事態に発展する危険を内包しているから、不測の事態に備えて法と秩序を維持するに必要かつ最小限度の措置を事前に講ずることはやむを得ないとする立場があり得る(最大判昭35.7.20参照)。この立場からは、顔を隠さなくても集団行進を通じてメッセージを届けることは十分に可能であり、匿名での参加を保障する必要性は高くないとして、規制①を合憲とすることになる。
しかし、第一に、集団行進が常に暴徒化の危険を内包するという一般的な想定を前提に規制を正当化することは、集会の自由の制約を無限定に認めることにつながる。判例も、集会の自由の制約が許されるためには、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることを要するとしている(最判平7.3.7)。第二に、顔を隠さなくてもメッセージの伝達は可能であるという点は、匿名性の機能を見落としている。問題は、匿名性が確保されない限り集団行進に参加できない者が現実に存在するという点にある。これらの者にとっては、匿名性の否定は参加の否定を意味する。
(5)「正当な理由」による限定の可否
骨子第3の1は「正当な理由なく」との限定を付し、Xは、感染症対策や健康上の理由によるマスクの着用、信仰上の理由による顔の隠蔽は正当な理由に当たるとしている。
これらが除外されることは当然であるが、その限度では、匿名性の確保という本来の問題は解決されない。他方、報道で顔が映ることを避けたい、就職活動や職場への影響を避けたいという理由を正当な理由に含めるならば、規制の実質はほとんど失われる。すなわち、「正当な理由」の解釈によって規制①を合憲とすることは困難である。
4 結論
規制①は、公共の安全を害する行為の抑止という極めて重要な目的に向けられ、手段としての関連性も認められるが、暴力的な行為が発生する具体的なおそれを問わず、平穏な参加者を含む全ての集団行進参加者に一律に禁止を及ぼす点において、目的達成のために必要な範囲を超え、匿名で集団行進に参加する自由に対する過度に広汎な制約である。よって、21条1項に違反する。
立法化するのであれば、禁止の対象を、公共の安全を害する行為が行われる具体的なおそれがあると認められる集団行進に限定し、又は公安委員会が許可の条件として個別に付し得る仕組みとすべきである。
第2 規制②(観察処分及び報告義務)の憲法適合性
1 制約される権利
規制②は、団体の指定(骨子第2の3、第4の1)、報告義務の課徴(第4の2)、都道府県公安委員会への情報提供(第4の3)が一体となって一つの規制を構成する。そこで、全体としていかなる権利が制約されるかを検討する。
(1)結社の自由(21条1項)
21条1項は結社の自由を保障する。これは、共通の目的を有する者が団体を結成し、これに加入し、団体として活動する自由を意味する。本件の各団体は、それぞれ異なる政治的主張を掲げて組織的な活動を行っているのであるから、政治的結社として、その自由は民主政の過程を支えるものとして強く保護される。
観察処分を受けること自体が、団体に対し、その活動を公権力に継続的に把握される地位を課するものであり、団体としての自律的な活動を制約する。Xも、観察処分を受けた団体がそのことを意識して自覚ある行動をとることを期待していると述べており、団体の活動を事実上抑制することが規制の狙いの一つとされている。これは結社の自由に対する制約である。
(2)団体及び構成員の表現の自由(21条1項)
報告義務の対象は、団体の主義、主張等を不特定又は多数の者に対して伝えるために利用している機関紙、ウェブサイト、SNSのアカウント等であり、まさに表現活動の媒体そのものである。しかも、骨子第4の2は「名義のいかんを問わず」とするため、構成員が個人名義のアカウントを使って団体の主張を流布する場合も報告の対象となる。
公権力に報告されることが分かっていれば、団体も構成員も、表現活動を控えるようになる。個人名義のアカウントが報告されることにより、当該構成員が団体の構成員であることが公権力に明らかになり、あるいはその可能性が高まるから、構成員は団体の主張を発信することをためらう。これは表現の自由に対する制約である。
(3)団体及び構成員のプライバシーの権利(13条)
13条は、個人の私生活上の自由の一つとして、みだりに自己に関する情報を公権力によって収集・利用されない自由を保障する。判例も、前科等のある者もこれを公表されない利益を有するとし(最判昭56.4.14)、何人もみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有するとし(最判平7.12.15)、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するとしている(最判平20.3.6)。
ウェブサイトやSNSの投稿には、団体の主張のみならず、構成員の思想・信条や生活状況など、個人の内面に関わる情報が含まれ得る。これらの媒体が誰もが閲覧可能なものであるとしても、個々の情報が公開されていることと、公権力がこれを網羅的に把握し継続的に収集・蓄積することとは、質的に異なる。判例も、個人の位置情報という個別には秘匿性の低い情報について、これを継続的・網羅的に把握することは個人の行動全体を把握することを可能にし、私的領域に侵入するものであるとしている(最大判平29.3.15)。
本件でも、団体が利用する媒体を網羅的に把握し、1か月ごとに継続的に報告させることによって、団体の活動の全体像及び構成員の思想・信条が明らかになる。これはプライバシーの権利に対する制約である。
2 審査基準
(1)制約される権利は、政治的結社の自由及び政治的表現の自由という、民主政の過程を支える優越的な権利を含む。他方、報告義務の対象は誰もが閲覧可能な表現に係る媒体の名称等にとどまり、サービスの利用に当たって用いている氏名、住所、パスワード等の情報は含まれない。また、団体規制法に見られるような立入検査や構成員の氏名等の報告義務は含まれていない。この点では規制の態様は必ずしも強くない。
(2)さらに、規制②は、団体の政治的主張の内容に着目するものではなく、専ら公共の安全に対する団体の危険性に着目した規制である。この点も、審査を厳格一辺倒にしない事情である。
(3)そこで、規制②の合憲性は、目的が重要であり、手段が目的達成のために実質的な関連性を有し、かつ制約が目的達成のために必要な限度を超えないかによって判断すべきである。その判断においては、①団体の公共の安全に対する現在の危険性の程度、②規制の態様すなわち収集される情報の範囲及び期間、③より制限的でない手段の有無を具体的に検討すべきである。
3 あてはめ
(1)目的の重要性
規制②の目的は、公共の安全を害する行為を実効的に抑止するため、そのような行為を助長している団体の活動を把握し、集団行進に際して所要の措置を採ることを可能にすることである。現に身体及び財産に対する侵害が発生していることに照らし、極めて重要な公共の利益にかなう。
(2)団体の指定の要件
ア 骨子第2の3は、構成員と認められる者のうち、手続開始の日から遡って5年間に、集団行進において公共の安全を害する行為を行い刑に処せられた者の比率が、A1委員会規則で定める基準(当分の間、100分の10を下回らない比率)を超える団体を指定の対象とする。
過去の処罰という客観的な事実を指標とし、かつ一定の比率を要求する点で、指定の対象を実際に問題を起こした団体に限定する機能が認められる。現状では、該当する団体はいずれも構成員が50人から100人程度で、処罰された構成員が全体の10パーセント以上に上るとされており、相当程度の危険性が認められる。
イ しかし、次の問題がある。
第一に、構成員の範囲の画定である。Xは、構成員として組織としての活動に継続的に参加している者を想定し、SNS等をフォローして集団行進に参加しているだけの者は含まないとするが、本件の各団体は、SNSを通じて参加を呼び掛けるという緩やかな結合形態をとっており、組織の外延は曖昧である。構成員の総数が確定できなければ、比率という指標は機能しない。また、構成員の範囲の確定自体が、公権力による団体の内部構成の把握を伴うから、それ自体が結社の自由及びプライバシーへの制約となる。A2庁である程度の把握ができているという説明は、むしろ既に構成員の網羅的な把握が行われていることを示すものであって、問題を解消しない。
第二に、現在の危険性との乖離である。指定の要件は過去5年間の処罰歴を基礎とし、観察処分の期間は1年を超えない範囲で定められるが、A1委員会は必要と認めるときはその期間を更新することができるとされ、更新の回数に上限がない。したがって、既に危険性が消滅した団体が、過去の処罰歴のみを理由として長期にわたり観察下に置かれ続けるおそれがある。結社の自由に対する制約としては、現在の危険性が継続していることを要件とし、かつ更新の際にこれを改めて認定する仕組みが必要である。
第三に、比率の基準がA1委員会規則に委ねられ、「100分の10を下回らない比率」という下限のみが「当分の間」の措置として定められていることである。Xも、基準については今後の状況の変化も踏まえてA1委員会で見直してもらうとしている。結社の自由の制約の範囲を行政機関の規則に委ね、しかもその見直しを予定することは、規制対象の拡大を容易にするものであって、問題が大きい。指定の要件は法律自体で定めるべきである。
第四に、手段としての実効性である。問題文によれば、逮捕者の半数ほどは団体の構成員ではなく、専ら暴力的な行為を目的としてその都度SNSで仲間を募ってデモに参加していた者であり、さらにその場の雰囲気に刺激された一般の参加者が加わった例もある。すなわち、暴力的行為の主たる担い手は必ずしも団体の構成員ではない。団体を観察対象として指定し、その活動を把握しても、これらの者による行為を抑止する効果は限定的である。目的達成の手段としての実効性に疑問が残る。
(3)報告義務の範囲
ア 報告義務の対象は、団体が「名義のいかんを問わず」その活動として主義、主張等を不特定又は多数の者に対して伝えるために利用している媒体であり、1か月ごとの継続的な報告が義務付けられる。
対象が誰もが閲覧可能な表現に係るものに限られ、氏名、住所、パスワード等が含まれないことは、制約を緩和する事情である。
イ しかし、「名義のいかんを問わず」という範囲は広汎である。構成員が個人名義のアカウントを使って団体の主張を発信している場合、その報告により当該個人が団体の構成員であることが公権力に明らかになる。個人のSNSアカウントには、政治的主張のみならず、交友関係、生活状況、趣味・嗜好といった私生活上の情報が広く含まれる。公権力がこれを特定して継続的に閲覧・分析すれば、当該個人の思想・信条及び生活の全体像が把握される。これは、公開情報の集積による重大なプライバシーの制約である。
また、どの媒体が「団体の活動として」利用されているかの判断は、団体の代表者が行わなければならない。構成員の個人的な発信との区別は困難であり、過料の制裁(骨子第4の4)を避けるため、代表者は構成員の発信を広く報告する方向に傾く。その結果、構成員は自由な発信を控えるようになる。すなわち、報告義務は、団体の内部において構成員の表現活動を監視させる機能を持つ。この点の萎縮効果は重大である。
(4)情報提供(骨子第4の3)
A2庁長官は、必要と認めるときは、観察処分を受けた団体の名称、当該団体の活動等の情報を各都道府県公安委員会に提供することができる。Xの説明によれば、提供された情報は公安条例や道路交通法等の運用を通じて公共の安全を害する行為の抑止に役立てられる。
しかし、公安条例の運用とは、集団行進の許可・不許可及び条件の付与である。すなわち、観察処分によって収集された情報が、当該団体による将来の集団行進の許否の判断に用いられることになる。これは、団体の表現活動の内容及び過去の処罰歴を理由として、集会の自由の行使を制限する結果をもたらす。情報の提供の要件が「必要と認めるとき」とされているだけで、提供先における利用目的の限定、提供できる情報の範囲、保存期間、消去についての定めがないことは、制約を不必要に拡大するものである。
(5)より制限的でない手段
次のような手段が考えられる。①報告義務の対象を、団体名義で運営されている媒体に限定する。②報告の頻度を、1か月ごとではなく、変更があった場合及び一定期間ごとに改める。③観察処分の期間の更新について、現在の危険性の存続を要件とし、通算期間の上限を設ける。④収集した情報の利用目的を公共の安全を害する行為の抑止に限定し、保存期間及び消去について定めを置く。⑤公安委員会への提供は、具体的な集団行進に関して公共の安全を害する行為が行われるおそれを認めるに足りる相当な理由がある場合に限る。
4 結論
規制②は、極めて重要な目的に向けられており、報告義務の対象が誰もが閲覧可能な表現に係る媒体の名称等にとどまり、立入検査や構成員の氏名等の報告を含まない点では、規制の態様は団体規制法に比して緩やかである。
しかし、①指定の要件が過去5年間の処罰歴に基づくものであり、観察処分の期間の更新に上限がなく、現在の危険性の存続を要件としていない点、②指定の比率の基準が行政機関の規則に委ねられている点、③報告義務が「名義のいかんを問わず」構成員の個人名義の媒体にまで及び、1か月ごとの継続的な報告を義務付けることにより、団体及び構成員の思想・信条が継続的・網羅的に把握される点、④収集した情報の利用目的及び公安委員会への提供の要件に実質的な限定がない点において、目的達成のために必要な限度を超える制約を課すものである。
よって、規制②のうち、骨子第4の1の期間の更新に関する部分、第4の2のうち「名義のいかんを問わず」構成員の個人名義の媒体を対象とする部分、及び第4の3は、21条1項及び13条に違反する。
立法化するのであれば、前記(5)の修正を加えることが必要である。
以上