司法試験 平成30年 憲法
問題文
[公法系科目]
〔第1問〕(配点:100)
20**年,A市では,性的な画像を含む書籍の販売等の在り方に対し,市民から様々な意見や要望があることを踏まえ,新たな条例の制定が検討されることとなった。この条例の検討に関わっている市の担当者Xは,憲法上の問題についての意見を求めるため,条例案を持参して法律家甲のところを訪れた。【別添資料】は,その条例案の抜粋である。法律家甲と担当者Xとの間でのやり取りは以下のとおりであった。
甲:新しい条例が検討されているのはどのような理由からですか。
X:いわゆる「成人向け」「アダルトもの」と呼ばれる雑誌だけでなく,最近では一般の週刊誌として販売される雑誌を含む様々な出版物等に,裸の女性の写真など性的な画像が掲載され,それらがスーパーマーケットやコンビニエンスストアなど市民が食料品や生活用品を購入するために日常的に利用する店舗で販売されています。近年,一部のコンビニエンスストアでは,そのような雑誌類の取扱いをやめる動きも出てきていますが,飽くまでも一部の店舗による自主的なものにとどまっています。この状況に対して,市民からは,青少年の健全な育成に悪影響を及ぼす,安心して子供と買い物に行けないという意見が寄せられているほか,特に女性を中心として,見たくもないものが目に入って不快であるとか,思わぬところで性的なものに触れないようにしてほしいという意見が最近多く寄せられるようになりました。市内には,マンションや団地,住宅地が多く,子供がいる世帯が多数居住していますが,そのような地区の自治会からも性的な画像を掲載した出版物等の販売や貸与について規制を求める要望が出ています。
甲:すると,青少年の健全な育成を図ることだけが目的となるわけではないのですね。
X:そうです。青少年の健全な育成とともに,羞恥心や不快感を覚えるような卑わいな書籍等が,それらをおよそ買うつもりのない人たちの目に,むやみに触れることがないようにすることもねらいです。
甲:具体的にはどのようなものを規制の対象とするのですか。
X:規制の対象となる図書類は,この条例案の第7条に記載しています。日々発行される様々な出版物等を適切に規制の対象とするため,市長等が規制の対象となる図書類を個別に指定することとはせず,要件に該当する図書類が自動的に規制の対象となるようにしました。「性交」,「性交類似行為」や「衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態」を撮影した写真や動画などの画像とこれらを描写した図画を対象とし,かつ,「殊更に性的感情を刺激する」ものであることが要件となります。このような画像や図画が含まれる書籍や雑誌などを「規制図書類」としました。
甲:刑法第175条で処罰の対象となっている「わいせつ」な文書等には当たらないものもこの条例では規制の対象となるのですね。
X:そうです。刑法上の「わいせつ」な文書等に当たらないものも,もちろん対象になります。刑法上の「わいせつ」な文書等に該当すれば,頒布や陳列自体が犯罪行為となるわけですから,むしろ,この条例では刑法で処罰対象とならないものを規制することに意味があると考えています。
甲:規制の対象には,写真や動画などの画像だけでなく,漫画やアニメなど絵による描写も含むのですか。
X:含みます。絵による描写でも,殊更に性的感情を刺激する類のものがありますし,普通の漫画と同じように書店などで陳列され,子供が普通の漫画だと思って手に取って見てしまうので困るという意見も寄せられています。
甲:いわゆる性的玩具類の販売や映画館での成人向け映画の上映などの規制はどうするのですか。
X:これらは専門の店舗で販売等されるのが通常で,既に別の法律や条例の規制対象になっているので,本条例の対象とは考えていません。
甲:規制の内容,方法はどのようなものですか。
X:第8条に4種類の規制を定めています。まず,通常のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなど,市民が食料品などの日用品を購入するために日常的に利用する店舗に規制図書類が置かれていると,青少年の健全な育成にとっても,市民が性的なものに触れることなく安心して生活できる環境の保持という点でも,望ましくありませんので,そのような店舗に規制図書類が並ばないようにする必要があります。そのため,第8条第1項で,主に日用品等を販売する店舗における規制図書類の販売や貸与を禁止しています。次に,第8条第2項で,小学校,中学校,高等学校などの敷地から200メートルの範囲を規制区域とし,事業者が,その区域内において規制図書類の販売や貸与をすることを禁止します。規制区域では,事業者は,青少年に限らず,誰に対しても,店舗で規制図書類の販売や貸与をすることができないこととなります。児童・生徒らが頻繁に行き来する範囲にそのような店舗が存在することは望ましくないという市民の声に応えるためです。これらの規制の下でも,第8条第1項に当たらない事業者の店舗,つまり,日用品等の販売を主たる業務としていない事業者の店舗については,第8条第2項の規制区域の外であれば,規制図書類の販売や貸与ができます。そこで,第8条第3項で,青少年に対する規制図書類の販売や貸与を禁止し,さらに,第8条第4項で,規制図書類の販売や貸与をする店舗内では,規制図書類を壁と扉で隔てた専用の区画に陳列することなどを義務付けます。
甲:第8条第1項各号には,書籍やDVDなど「図書類」が挙げられていませんが,書店やレンタルビデオ店は,第8条第1項で規制図書類の販売や貸与が禁止される店舗には当たらないということですか。
X:そのとおりです。確かに,書店やレンタルビデオ店にも青少年や規制図書類を購入等するつもりのない人が出入りするのですが,他方で,書店など図書類を専ら扱う店舗で規制図書類を全く扱えないとなると,その営業に与える影響が大きく,これらの店舗に酷なことになります。また,通常,書店やレンタルビデオ店に,規制図書類に当たるような書籍等が置かれていることは一般の方も理解されているはずですので,そういった店舗では,第8条第4項に規定した規制図書類を隔離して陳列するなどの義務を履行してもらえば足りるのではないかと考えています。
甲:この条例によって,これまで規制図書類の販売や貸与をしていた事業者には,どの程度の影響が及ぶことになるのでしょうか。
X:市内には,小売店が約3000店舗あるのですが,そのうち,第8条第1項に該当する日用品等の販売を主たる業務とする店舗は約2400店舗あります。この第8条第1項に該当する店舗のうち,約600店舗が規制図書類を販売しています。もっとも,これらの店舗は,主に日用品等を扱っていますから,規制図書類の売上げが売上げ全体に占める割合は微々たるものです。また,第8条第2項によって規制図書類の販売や貸与をする事業が禁止される規制区域が市全体の面積に占める割合は20パーセント程度で,市内の商業地域に限っても,規制区域が占める割合は30パーセント程度です。市内の規制区域にある店舗は約700店舗で,そのうち規制図書類の販売や貸与をする店舗は約150店舗あります。しかし,その約150店舗のうち,規制図書類の売上げが売上げ全体の20パーセントを超えるのは,僅か10店舗に過ぎません。
甲:この条例案による規制に反対する意見はないのですか。
X:規制対象が広過ぎるのではないかという意見があります。また,日用品等の販売を主たる業務とする店舗の一部は,規制図書類の売上げが売上げ全体のごく一部であっても,これを販売していること自体に集客力があると考えているようで,販売の全面的な禁止に反対しています。そのほか,第8条第2項の規制区域で規制図書類を販売してきた店舗の中からも,この条例案に反対する意見が寄せられています。しかし,これまでどおりの営業ができなくなっても,正にそれを市民が求めている以上は,やむを得ないのではないかと考えています。規制区域の店舗には,規制図書類の販売と貸与さえやめてもらえればいいわけで,販売等を継続したいのであれば,市内にも店舗を移転できる場所はあるはずです。条例の施行までには6か月という期間を設けてもいます。
甲:事業者の側からは,ほかにどのような意見があるのですか。
X:スーパーマーケットやコンビニエンスストアの事業者や業界団体の中には,既にいわゆる「成人向け」の書籍等について自主規制を行っているところもあり,反対はそれほど多くありません。
しかし,例えば,書店やレンタルビデオ店など規制図書類とそれ以外の図書類とを取り扱っている店舗では,今後,第8条第4項に従って規制図書類を隔離して陳列しなければならないため,その要件を満たすための内装工事等が必要で,そこまでの必要があるのかと疑問視する声があります。
甲:規制図書類を購入する側である18歳以上の人,あるいは,青少年への影響についてはどのように考えていますか。
X:18歳以上の人にとっては,これまで規制図書類を購入していた店舗で購入できなくなる場合があるなど,不便になるということはあると思いますが,市内で規制図書類を一切買えなくなるわけではありません。青少年については,成長途上であり,規制図書類が全く購入できなくなっても,社会的に許容されると考えています。
甲:この条例に違反した場合の制裁はどうなっていますか。
X:第9条に規定しているとおり,第8条に違反した事業者に対し,市長が,改善命令又は業務停止命令を発することができます。そして,第15条で,第8条第1項から第3項までに違反した者や,市長の改善命令や業務停止命令に違反した者に対する刑事罰を定めており,その法定刑は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金としています。
甲:条例案の内容は分かりました。
X:いろいろな意見がありますし,規制は必要な範囲にしたいと考えて検討しているのですが,条例でこのような規制をすることは,憲法上,問題があるでしょうか。
甲:規制の対象となる図書類の範囲や,規制の手段,内容について,議論があり得ると思います。
図書類を購入する側と販売等をする店舗の双方の立場でそれぞれの権利を検討しておく必要がありそうですね。図書類を購入する側としては,規制図書類の購入等ができない青少年と18歳以上の人を想定しておく必要があります。また,販売等をする店舗としては,条例の規制による影響が想定される3つのタイプの店舗,すなわち,第一に,これまで日用品と並んで規制図書類を一部販売してきたスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの店舗,第二に,学校周辺の規制区域となる場所で規制図書類を扱ってきた店舗,第三に,規制図書類とそれ以外の図書類を扱っている書店やレンタルビデオ店を考えておく必要があるでしょう。
〔設問〕あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合,本条例案の憲法上の問題点について,どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で,参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。
【別添資料】善良かつ健全な市民生活を守るA市環境保持条例(案)
(目的)
第1条 この条例は,性風俗に係る善良な市民の価値観を尊重するとともに青少年の健全な育成のために必要な環境の整備を図り,もって善良かつ健全な市民生活を守り,A市の健全で文化的な環境を保持することを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
⑴ 青少年 18歳未満の者をいう。
⑵ 図書類 書籍,雑誌,文書,絵画,写真,ビデオテープ,ビデオディスク,コンピュータ用のプログラム又はデータを記録した電磁的記録媒体並びに映写用の映画フィルム及びスライドフィルムをいう。
⑶ (略)
(規制図書類)
第7条 次の各号に掲げるものを撮影した画像又は描写した図画(殊更に性的感情を刺激する画像又は図画に限る。)を含む図書類を規制図書類とする。
⑴ 性交又は性交類似行為
⑵ 衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態(規制図書類の販売等の制限)
第8条 次の各号に掲げる物品(以下「日用品等」という。)の販売を主たる業務とする事業者は,その営業を行う店舗において規制図書類を販売し又は貸与してはならない。
⑴ 飲食料品
⑵ 衣料品・日用雑貨
⑶ 医薬品・化粧品
⑷ 文房具
⑸ スポーツ用品
⑹ 玩具・娯楽用品
⑺ 楽器2 事業者は,学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(幼稚園及び大学を除く。)の敷地の周囲200メートル以内の区域(以下「規制区域」という。)の店舗において,規制図書類を販売し又は貸与してはならない。
3 規制図書類を店舗において販売し又は貸与する事業者は,青少年に対して規制図書類を販売し又は貸与してはならない。
4 規制図書類を店舗において販売し又は貸与する事業者は,規制図書類の陳列に当たり,次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
⑴ 規制図書類を隔壁及び扉により他の商品の陳列場所と区分された場所に陳列すること。
⑵ 規制図書類の陳列場所の出入口付近の見やすい場所に,規制図書類の陳列場所であることを掲示すること。
(改善命令等)
第9条 市長は,事業者が,前条各項の規定に違反して規制図書類の販売又は貸与を行っていると認めるときは,当該事業者に対し,期限を定めて業務の方法の改善に関し必要な措置を採るべきことを命ずることができる。
2 市長は,事業者が,前項の規定による命令に従わないときは,当該事業者に対し,3月以内の期間を定めて,その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。
(罰則)
第15条 次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
⑴ 第8条第1項,第2項又は第3項の規定に違反した者
⑵ 第9条第1項又は第2項の規定による命令に違反した者(両罰規定)
第16条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の業務に関し,前条の違反行為をしたときは,その行為者を罰するほか,その法人又は人に対して,同条の罰金刑を科する。
附則(抄)
第1条 本条例は,公布の日から起算して6月を経過した日から施行する。
(参照条文)学校教育法(昭和22年法律第26号)
第1条 この法律で,学校とは,幼稚園,小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,大学及び高等専門学校とする。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第1問〕
全国都道府県では,青少年の健全育成を目的とした図書類の販売等に関する規制が行われている。本問は,そのような目的にとどまらず,一般市民がむやみに羞恥心等を覚えるような卑わいな画像等に触れることがないようにして性風俗にかかる善良な市民の価値観を尊重するという観点も併せ,健全で文化的な環境を保持するという目的のために種々の規制を行う架空の条例案について,その合憲性の検討を求めるものである。従来は,訴訟の場面を想定し,当事者の主張等において憲法論を展開することを求める出題が通例であったが,実務的には,必ずしも訴訟の場面に限られず,法令を立案する段階においても法律家としての知見が必要であることから,そのような場面で憲法論をどのように活用,展開するかを問う出題とした。
法律家としての助言を求められているため,具体的な条例の文言を指摘しつつ,当該規定で合憲といえるかどうかを答えることが不可欠であり,違憲であるとする場合に,条例案のどの部分がどのような憲法上の規定との関係で問題なのかを具体的に指摘することが期待される。
本条例の検討に際しては,問題文の最後の甲の発言にあるとおり,図書類を購入する立場と販売等をする店舗の立場から憲法上の権利を検討することが必要であり,前者については,憲法第21条の表現の自由に含まれる「知る自由」を,後者については,憲法第22条の職業選択の自由に含まれる「営業の自由」の観点から検討する必要がある。
憲法第21条に関しては,まず,知る自由が,憲法第21条第1項により保障されることに言及した上で,購入や貸与を受けることを制限される青少年について,その自由の制約になるかどうかを論じることとなろう。制約になるとした場合,まず,明確性の原則との関係で,規制図書類の定義が適切かどうか,「衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態」
「殊更に性的感情を刺激する」との文言が曖昧,不明確でないかどうかの検討が必要となる。
一般に,明確性の原則は,不明確な法文が表現者の表現行為に対して萎縮効果を持つことを問題にするものであるが,本問における条例による規制においては,表現物の流通過程に位置する販売者を萎縮させ,それに伴って青少年の知る自由を制約することになるのではないかという観点から,明確性の原則を論ずることが考えられる。さらに,明確性の原則に反しないとしても,かかる制約の合憲性判断について,いかなる審査基準によって審査することが妥当かどうかを論じる必要がある。その際,内容規制と考えるのか,それとも内容中立規制と考えるのかという観点から議論することも考えられるし,規制対象となる図書類が性的な表現を含むものであることから,その表現の価値を考慮するかどうか,あるいは,情報の受け手が青少年であることの考慮が働くかどうか(岐阜県青少年保護育成条例事件補足意見)
といった観点を意識した議論をすることが考えられよう。その上で,本件規制図書類の範囲が過度に広汎ではないかという点を含め規制の必要性,合理性を検討する必要がある。また,審査基準の設定又は当てはめにおいて,後述するように,本条例の目的についての検討,すなわち,青少年の健全育成の目的や,一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという目的が,憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいものであるかどうかを意識した議論をすることが考えられよう。
次に,18歳以上の者との関係では,知る自由の制約になるかどうかをまず検討する必要があろう。規制図書類の購入がおよそできなくなるわけではなく,購入方法の限定はごく一部に過ぎないから知る自由の制約とまでは言えないと評価するのか,情報の受領方法に制限が加わる以上,知る自由の制約ととらえるのかの両論が考えられる。知る自由の制約ととらえると,青少年における検討と同様に,明確性に関する検討が必要となり,審査基準の設定についても,青少年の場合と同様の点(青少年であることを考慮するかどうかを除く。)を踏まえた審査基準の設定が考えられる。18歳以上の者は,購入場所が限定されるにとどまるため,青少年とは異なる審査基準を設定することも考えられるし,そうでない場合でも,審査基準への当てはめにおいては,購入が全面的に制約される青少年とは異なり,個々の規制の合理性を検討する必要があろう。その際,本条例の目的が,青少年の健全育成のみならず,一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという点にあることについて,青少年の場合と同様,憲法上の権利の制約の目的としてふさわしいのかどうかについても言及することが考えられる。例えば,条例の目的は,結局のところ,卑わいな画像等を見たくない人を保護するということになるが,見たくないものに触れさせないこと一般が法的保護に値するとは言えないという議論や,目的が漠然としたもので抽象的にすぎるといった指摘をして,その目的としての価値が大きくないと評価する方向で議論をすることも考えられよう。他方,性的な羞恥心や卑わいなものを見たくない人の不快感は,現に一般に共有されている感情である以上,十分に法的保護に値するといったことから,制約目的としての価値を見出す議論をすることもできるであろう。
青少年及び18歳以上の者のいずれにおいても,目的と規制の対応関係を意識する必要がある。例えば,学校から200メートル以内における販売等の規制(いわゆるゾーニング)
については,青少年の健全育成と結びつくものであり,日用品販売店での販売規制と隔壁等の義務付けは,青少年の健全育成と一般市民をむやみに卑わいな画像等に触れさせないという観点の両面を趣旨としていることなどを意識した論述が求められる。
憲法第22条に関しては,営業の自由が憲法上の権利であること,本件規制が営業の自由の制約に該当することに言及した上で,営業の自由の制約としてどのような審査基準が妥当であるかを議論することが考えられる。青少年の健全育成という目的と一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという目的をどのようにとらえ,制約される権利の性質,制約の程度等との関係で,どのような審査基準を設定するかの議論をする必要がある。
その際,小売市場許可制判決や薬事法判決等の既存の営業の自由に関わる判決との対比をすることや,積極目的,消極目的等の規制目的の区別に基づいて審査基準を立てるべきかを議論することが考えられよう。その上で,当該審査基準に基づいて,日用品等販売店舗での販売禁止の合憲性,学校から200メートル以内における販売等の禁止の合憲性,隔離販売規制の合憲性,青少年への販売規制の合憲性について検討することとなる。他方,制約の程度等の審査基準設定に与える影響を重視するとすれば,各規制ごとに審査基準を設定すべきことになろう。営業の自由との関係でも,一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという目的について,目的としての妥当性を検討することが考えられるが,知る自由との関係で議論したのと同様として扱っても差し支えない。もっとも,その目的の妥当性判断に当たって,制約される権利との関係で,異なる考慮がなされ得るとの立場からは,知る自由の場合と異なる議論をすることもあり得る。なお,規制対象となる規制図書類の範囲が過度に広汎であるかどうかは,憲法第22条の営業の自由との関係でも問題となるが,知る自由において検討するのとは必ずしも同じ問題状況ではないことを踏まえる必要がある。また,規制の合理性の検討に際しては,意図せず一般市民が卑わいな画像等に触れないようにするという観点からすると,隔壁等による隔離販売の規制のみで足りるのではないかという方向で議論することもできるし,他方,営業の自由の性格に鑑み,様々な制約を合憲とする方向で議論することもできると考えられる。このほか,表現物の流通過程における書店という位置づけに鑑み,通常の営業主体よりもその販売等の自由は保護されるべきであるという議論もなし得る。
事業者にとっては違反すれば罰則も設けられていることから,刑罰法規としての明確性を指摘することも考えられる。刑罰法規の明確性は,表現の自由の制約において求められる明確性の原則とは趣旨を異にするため,別の論述が必要であろう。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 検討の前提-本条例案の目的の評価
1 本条例案の目的は、第一に青少年の健全な育成を図ること、第二に、羞恥心や不快感を覚えるような卑わいな書籍等が、それらをおよそ買うつもりのない人たちの目にむやみに触れることがないようにすることである(1条参照)。以下の各権利の検討に先立ち、これらの目的が憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいかを確認する。
2 第一の目的については、青少年が人格形成の途上にあり、性的な表現物に接することによって健全な成長が妨げられるおそれがあることは、社会一般に共有された認識である。判例も、青少年の健全な育成を図るため有害図書の販売等を規制することは、必要かつ合理的な制約であるとしている(最判平1.9.19)。したがって、重要な目的であると認められる。
3 第二の目的については、慎重な検討を要する。自己が見たくない表現に接しない利益を一般的に法的保護の対象とすれば、不快感を理由とする表現の抑圧が広く許されることになり、表現の自由の保障が形骸化する。不快な表現であっても、受け手がこれを容易に回避できる状況では、回避すべきであって、規制を正当化する利益とはならない。
もっとも、本条例案が念頭に置くのは、スーパーマーケットやコンビニエンスストアのように、市民が食料品や生活用品を購入するために日常的に利用せざるを得ない店舗において、意図せず性的な画像に接してしまう状況である。これらの店舗の利用は生活上避け難く、受け手に回避可能性がない。このような場面で不意に性的表現に接しない利益は、私生活の平穏に関わる人格的利益として、13条の保護に値する。市民から、安心して子供と買い物に行けない、思わぬところで性的なものに触れないようにしてほしいという意見が多く寄せられ、子供がいる世帯が多数居住する地区の自治会からも要望が出ているという事情も、この利益の実在を裏付ける。
したがって、第二の目的は、受け手が接触を回避できない場面に限定される限りで正当な目的と認められるが、青少年の健全育成と同程度に重要な目的と評価することはできない。この目的のために認められる規制手段の範囲は、第一の目的の場合より狭いと考えるべきである。
第2 図書類を購入する側の知る自由(21条1項)
1 知る自由の保障
21条1項は表現の自由を保障するが、表現の自由は受け手の存在を前提とするものであり、受け手が情報を受領できなければ表現の自由は意味を失う。したがって、同項は、情報を自由に受領し、収集する自由、すなわち知る自由をも保障している。判例も、思想及び情報を受領する自由が21条の趣旨、目的からその派生原理として当然に導かれるとしている(最大判昭58.6.22)。
2 青少年との関係
本条例案8条3項は、事業者が青少年に対して規制図書類を販売し又は貸与することを禁ずる。その結果、青少年は規制図書類を一切購入等できなくなる。これは知る自由の全面的な制約である。Xが述べるように、青少年は成長途上であり、規制図書類が全く購入できなくなっても社会的に許容されるという考え方もあるが、知る自由自体は青少年にも保障されるから、制約の存在は否定できない。もっとも、知る自由の保護の程度は一律ではなく、青少年に対する保護の必要性との関係で、成人の場合より緩やかな規制が許されると解すべきである(前掲最判平1.9.19の伊藤正己裁判官補足意見参照)。
3 18歳以上の者との関係
本条例案8条1項及び2項は、日用品等の販売を主たる業務とする事業者の店舗及び規制区域内の店舗における販売・貸与を禁ずる。18歳以上の者は、これらの店舗では規制図書類を購入等できなくなる。
Xは、市内で規制図書類を一切買えなくなるわけではないから不便にとどまると説明する。確かに、日用品等の販売を主たる業務としない事業者の店舗で、かつ規制区域外であれば、販売・貸与は可能である。しかし、情報の受領の方法及び場所が限定されること自体が、知る自由に対する制約である。制約の程度は青少年の場合に比して小さいが、制約が存在することを前提に合憲性を検討すべきである。
4 明確性の原則
(1)表現の自由を規制する法令の文言は、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるものでなければならない(最大判昭50.9.10)。
本条例案では、市長等が規制の対象となる図書類を個別に指定することとせず、7条の要件に該当する図書類が自動的に規制図書類となる。そのため、販売する事業者が自ら該当性を判断しなければならず、しかも判断を誤れば15条により6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処される。この構造のもとでは、事業者は処罰を避けるため、該当性が疑わしい図書類を広く取扱いから除外するようになる。すなわち、表現物の流通過程に位置する販売者が萎縮することにより、青少年及び成人の知る自由が間接的に制約される。したがって、明確性の要請は厳格に妥当する。
(2)7条2号の「衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態」という文言は、「卑わい」という評価的な概念を含み、それ自体としては判断の幅が広い。また、「殊更に性的感情を刺激する」という限定も、どの程度の刺激が「殊更に」に当たるのかが文言上明らかでない。特に、7条が漫画やアニメなど絵による描写を含むため、芸術的・物語的な文脈をもつ作品の一場面が該当するか否かの判断は困難である。
(3)もっとも、「卑わいな姿態」という文言は青少年の保護育成に関する条例に広く用いられてきたものであり、「殊更に性的感情を刺激する」という限定が付されていることを併せ考えれば、全体として、社会通念上、性的好奇心をそそることを主眼とすると認められる画像又は図画に限られると解することができる。このように限定的に解釈するならば、通常の判断能力を有する一般人において判断は可能であり、明確性の原則に反するとはいえない。判例も、条例の文言について、規制の目的及び趣旨に照らして限定解釈を行うことを認めている(最判平19.9.18)。
ただし、立法技術としては、7条に「社会通念上、性的好奇心をそそることを主たる目的とすると認められるもの」といった限定を明記するか、判断の指針を規則等で示すことが望ましい。これを欠くままでは、過度の広汎性及び萎縮効果の問題が残る。
5 審査基準
本件規制は、性交、性交類似行為、卑わいな姿態という表現の内容に着目して規制対象を画するものであり、内容に基づく規制である。しかし、規制の内容は、頒布そのものを禁止するのではなく、販売の場所及び相手方を限定し、陳列方法を規律するという、いわゆるゾーニング規制である。表現物の流通が完全に封じられるわけではない。
また、規制対象となる性的表現は、政治的言論のように自己統治の価値を有するものではなく、表現の価値は相対的に低い。他方で、刑法175条のわいせつ物に当たらないものを含むのであるから、表現として保護されないわけではない。
以上を総合すると、青少年に対する関係では、目的が重要であり、手段が目的達成のために実質的な関連性を有することを要すると解すべきである。18歳以上の者に対する関係では、受領の場所・方法が限定されるにとどまるから同様の基準によるが、あてはめにおいて、各規定ごとに制約の程度と目的との対応関係を具体的に検討すべきである。
6 各規定へのあてはめ
(1)8条3項(青少年への販売・貸与の禁止)
青少年の健全な育成という重要な目的に直接向けられた規制であり、青少年に対する販売・貸与のみを禁ずるもので、成人の知る自由を制約しない。手段としても実質的関連性を有する。合憲である。
(2)8条4項(隔離陳列義務)
青少年が規制図書類を店頭で手に取ることを防ぎ、かつ購入の意思のない市民が不意に接することを防ぐという、二つの目的の双方に直接適合する。販売自体は禁止されず、陳列方法の規律にとどまるから、知る自由に対する制約の程度も小さい。合憲である。
(3)8条1項(日用品等販売店舗での販売・貸与の禁止)
対象店舗は、飲食料品、衣料品・日用雑貨、医薬品・化粧品等の販売を主たる業務とする事業者の店舗であり、市民が生活上必要から日常的に利用する場所である。利用の回避可能性がなく、子供を連れた買物客も多い。このような店舗での販売を禁ずることは、第一の目的及び第二の目的の双方に実質的に関連する。
もっとも、8条4項の隔離陳列義務があるのであるから、同項を遵守させれば足り、販売の全面禁止は過剰ではないかという反論が想定される。しかし、スーパーマーケットやコンビニエンスストアは売場面積に限りがあり、隔壁及び扉により区分された専用区画を設けることは現実的に困難である。したがって、これらの店舗については販売自体を禁ずることに必要性が認められる。18歳以上の者は、他の店舗で購入でき、知る自由の制約の程度は小さい。合憲と解する。
(4)8条2項(規制区域内での販売・貸与の禁止)
同項は、学校教育法1条の学校(幼稚園及び大学を除く)の敷地の周囲200メートル以内の区域における販売・貸与を禁ずる。Xの説明によれば、規制区域では、事業者は青少年に限らず誰に対しても規制図書類を販売・貸与できない。
目的との対応関係を見ると、同項は、児童・生徒が頻繁に行き来する範囲に規制図書類を扱う店舗が存在することを避けるという、第一の目的に向けられたものである。しかし、青少年への販売・貸与は既に8条3項で全面的に禁止され、店頭で手に取ることも8条4項の隔離陳列義務によって防止される。それに加えて、当該区域内において成人に対する販売まで禁ずることが、青少年の健全育成のためにどのように必要なのかは説明されていない。店舗の存在自体が青少年に悪影響を及ぼすという理由は、具体的な根拠を欠く。
第二の目的についても、規制区域内の店舗は書店やレンタルビデオ店であり、日用品等販売店舗と異なり利用の回避が可能であるから、不意に接するおそれは8条4項の隔離陳列義務によって十分に除去される。
さらに、規制区域は市全体の面積の20パーセント程度、商業地域に限れば30パーセント程度に及び、区域内の約700店舗のうち約150店舗が規制図書類を扱っている。学校教育法1条の学校には高等専門学校も含まれ、そこには18歳以上の学生も在籍するため、200メートルという距離の設定と青少年保護との対応関係は一層希薄になる。
したがって、8条2項は、成人に対する販売・貸与まで一律に禁止する点において、目的達成のために必要な範囲を超え、18歳以上の者の知る自由を過度に制約するものであり、21条1項に違反する疑いが強い。規制区域内においても、青少年への販売禁止(8条3項)及び隔離陳列義務(8条4項)を適用するにとどめ、加えて店舗の外部からの可視性を遮断する措置や、屋外広告・看板の規制を課すという、より制限的でない手段によるべきである。
第3 販売等をする事業者の営業の自由(22条1項)
1 保障及び制約
職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、社会的機能分担の活動たる性質を有し、個人の人格的価値とも不可分の関連を有する(最大判昭50.4.30)。22条1項は、職業選択の自由のみならず、選択した職業を遂行する自由(営業の自由)も保障する。
本条例案8条各項は、事業者が規制図書類を販売・貸与する営業活動を禁止し又はその方法を制約するものであり、営業の自由に対する制約である。さらに、9条は改善命令及び3月以内の業務停止命令を、15条は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を定めており、制約の実効性は刑罰及び行政処分により担保されている。
2 審査基準
本件規制の目的は、国民の生命・健康に対する危険の防止という消極的・警察的目的でもなく、経済的弱者の保護や経済政策の実現という積極的目的でもない。社会的・道徳的環境の保持という、いずれにも分類し難い目的である。したがって、小売市場の許可制に関する判断(最大判昭47.11.22)や薬事法の距離制限に関する判断(前掲最大判昭50.4.30)が示した規制目的の区別をそのまま当てはめて審査基準を決することはできない。
そこで、規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質・内容及び制限の程度を検討し、これらを比較衡量して、各規定ごとに個別に判断すべきである。なお、書店やレンタルビデオ店は表現物の流通過程に位置し、その営業は表現の自由及び知る自由の実現に奉仕する面を有するから、単なる物品販売業に比して、その営業の自由はより尊重されるべきである。
3 各規定の検討
(1)8条3項(青少年への販売・貸与の禁止)
販売の相手方を限定するにとどまり、営業全体への影響は小さい。青少年の健全育成という重要な目的のために必要かつ合理的である。合憲である。
(2)8条4項(隔離陳列義務)
営業の方法に関する規制であり、販売自体を禁ずるものではないから、制約の程度は小さい。もっとも、書店やレンタルビデオ店においては、隔壁及び扉により区分された場所を設けるために内装工事等が必要となり、相応の費用負担が生ずる。小規模な書店にとっては、この負担が営業の継続を困難にするおそれもある。
目的との関連性は認められるから、同項自体は合憲と解する。しかし、立法技術としては、店舗の規模・構造に応じて、隔壁及び扉による区分以外の方法(成人コーナーとしての区分陳列、ひも掛け又は包装による内容の不可視化、背の高い仕切りによる区分等)でも目的を達成できる場合にこれを認める規定を設け、あるいは工事費用の助成措置を講ずることが望ましい。そうすれば、より制限的でない手段によって同一の目的を達成できる。
(3)8条1項(日用品等販売店舗での販売・貸与の禁止)
対象となる約2400店舗のうち、現に規制図書類を販売しているのは約600店舗であり、これらの店舗において規制図書類の売上げが売上げ全体に占める割合は微々たるものである。したがって、同項は、これらの事業者の職業選択そのものを不可能にするものではなく、取扱商品の一部を制限するにとどまる。
事業者の一部は、規制図書類を販売していること自体に集客力があると主張している。しかし、集客力という事実上の利益は、営業の自由の核心に属するものではなく、青少年の健全育成及び市民が不意に性的表現に接しない利益と衡量すれば、これを優越させることはできない。合憲である。
(4)8条2項(規制区域内での販売・貸与の禁止)
同項は、特定の区域における規制図書類の販売・貸与を一切禁ずるものであり、規制図書類の販売を主たる業務とする事業者にとっては、当該区域における営業そのものを不可能にする。規制区域は市全体の20パーセント、商業地域の30パーセント程度に及ぶ。
影響を受ける約150店舗のうち、規制図書類の売上げが売上げ全体の20パーセントを超えるのは10店舗であり、大多数の店舗にとっては取扱商品の一部の制限にとどまる。しかし、その10店舗にとっては、営業の基盤が失われ、移転を強制されるに等しい。店舗の移転には多額の費用を要し、既存の顧客基盤も失われるから、実質的には当該場所での職業選択の自由の剥奪に近い。Xは市内に移転できる場所があるはずであると述べるが、商業地域の30パーセントが規制区域となるうえ、8条1項の対象店舗は除かれるのであるから、代替地の確保は容易でない。附則1条の6か月の施行猶予期間も、店舗の移転に要する期間としては十分とはいえない。
そして、第2の6(4)で述べたとおり、成人に対する販売まで禁ずることについて、目的との対応関係が示されていない。青少年への販売禁止及び隔離陳列義務によって目的は達成できるのであるから、必要性を欠く。
したがって、8条2項は、21条1項のみならず22条1項にも違反する疑いが強い。仮に規制区域の設定を維持するとしても、①対象となる学校を小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校に限定する、②距離を通学路の実態に即して短縮する、③条例施行時に現に当該区域で営業している店舗については適用を除外する経過措置を設ける、④移転費用の補助を講ずる、といった修正が必要である。
4 制裁規定について
(1)9条2項の業務停止命令は、3月以内の期間を定めて業務の全部又は一部を停止させるものである。業務の全部の停止は、営業の全面的な禁止であって、営業の自由に対する極めて重大な制約である。改善命令違反に対する制裁としては過剰となる場合があるから、違反の態様・程度に応じた段階的な措置を定め、かつ処分に当たって意見陳述の機会を保障する旨を明記すべきである。
(2)15条は、8条1項から3項までの違反及び9条の命令違反に対し、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金を定める。刑罰法規については、何が処罰の対象となるかが法文上明らかでなければ、国民の予測可能性を害し、罪刑法定主義(31条)に反する。これは、表現の自由の規制について要求される明確性とは趣旨を異にし、処罰の範囲の予告機能に由来するものである。
本条例案では、7条の規制図書類の定義が構成要件の中核をなす。前述の限定解釈によれば一応の判断は可能であるが、刑罰を伴う規定の構成要件としては、なお評価的要素が大きい。特に漫画・アニメの描写については該当性の判断が困難である。そこで、7条に判断基準を明記するか、違反に対する制裁を行政上の措置(改善命令・業務停止命令)に限り、刑罰は命令違反の場合(15条2号)に限定することを検討すべきである。そのようにすれば、事業者は市長の命令によって該当性の判断を知ることができ、予測可能性が確保される。
(3)16条の両罰規定は、従業者の違反行為について法人又は人にも罰金刑を科すものである。これは、事業主に従業者の選任監督について過失があったものと推定する趣旨の規定と解することにより許容される。もっとも、事業主が注意義務を尽くしたことを立証した場合には免責されることを明らかにしておくことが望ましい。
第4 結論
1 8条3項(青少年への販売・貸与の禁止)及び8条4項(隔離陳列義務)は、青少年の健全な育成及び市民が不意に性的表現に接しない利益の保護という目的に直接適合し、制約の程度も相当であるから、21条1項及び22条1項に違反しない。ただし、8条4項については、店舗の規模・構造に応じた代替措置を認める規定を設けることが望ましい。
2 8条1項(日用品等販売店舗での販売・貸与の禁止)は、当該店舗の利用について回避可能性がなく、かつ隔離陳列が構造上困難であることに照らし、必要かつ合理的な規制として合憲である。
3 8条2項(規制区域内での販売・貸与の禁止)は、青少年への販売禁止及び隔離陳列義務によって目的を達成できるにもかかわらず、区域内の成人に対する販売まで一律に禁止するものであり、知る自由(21条1項)及び営業の自由(22条1項)を過度に制約する。この部分は違憲の疑いが強く、規制対象の学校の限定、距離の見直し、既存店舗への適用除外等の修正を要する。
4 7条の規制図書類の定義は、限定解釈によって明確性の原則に反しないと解する余地があるが、刑罰の構成要件として用いるには評価的要素が大きい。定義の明確化、又は刑罰の対象を命令違反に限定することを検討すべきである。
以上