司法試験 平成25年 憲法
問題文
[公法系科目]
〔第1問〕(配点:100)
Aは,B県が設置・運営するB県立大学法学部の学生で,C教授が担当する憲法ゼミナール(以下「Cゼミ」 という。) を履修している。 Cゼミの202*年度のテーマは,「人間の尊厳と格差問題」
である。Cゼミ生は,C教授の承諾も得て,ゼミの研究活動の一環として貧富の格差の拡大に関して多くの県民と議論することを目的としたシンポジウム「格差問題を考える」を県民会館で開催した。
そのシンポジウムでの活発な意見交換を経て,「格差の是正」 を訴える一連のデモ行進を行うことになった。そのデモ行進については,Cゼミ生を中心として実行委員会が組織され,Aがその委員長に選ばれた。 実行委員会は, 第1回目のデモ行進を202*年8月25日 (日) に行うこととして, ツイッター等を通じて参加を呼び掛けたところ, 参加希望者は約1000人となった。 そこで, Aは,主催者として,B県集団運動に関する条例第2条(【参考資料1】参照)の定めにより,B県の県庁所在地であるB市の金融街から市役所,県庁に至る片道約2キロメートルの幹線道路を約1000人の参加者が往復するデモ行進許可申請書を提出した。デモ行進が行われる幹線道路沿いには多くの飲食店があり,市の中心部にある県庁や市役所の周りは県内最大の商業ゾーンでもある。B県公安委員会は,デモ行進は片側2車線の車道の歩道寄りの1車線内のみを使うことという条件付きで許可した。
第1回目のデモ行進の当日,Aら実行委員会は,デモ参加者に対し,デモ行進中は拡声器等を使用しないこと, また, ビラの類は配らず, ゴミを捨てないようにすることを徹底させた。 第1回目のデモ行進は,若干の飲食店から売上げが減少したとの県への苦情があったが,その他は特に問題を起こすことなく終えた。 そこで, Aら実行委員会は, 第2回目のデモ行進を同年9月21日 (土) に, 第1回目と同じ計画で行うこととし, 同月5日 (木) にデモ行進の許可申請を行った。 これに対し, B県公安委員会は,第1回目と同様の条件を付けて許可した。
B県では,次年度以降の財政の在り方をめぐり,社会福祉関係費の削減を中心として,知事と県議会が激しく対立していた。 知事は, 同月13日 (金) に, B県住民投票に関する条例 (【参考資料2】参照)第4条第3項に基づき,「社会福祉関係費の削減の是非」を付議事項として住民投票を発議し,翌10月13日(日)に住民投票を実施することとした。
第2回目のデモ行進も, 拡声器等を使用せず, ビラの類も配らずに無事終了した。 ただし, 住民投票実施ということもあって参加者は2000人近くに達し,「県の社会福祉関係費の削減に反対」 という横断幕やプラカードを掲げる参加者もいたし,「社会福祉関係費の削減に反対票を投じよう」 というシュプレヒコールもあった。また,デモ行進が行われた道路で交通渋滞が発生したために,幹線道路に近接した閑静な住宅街の道路を迂回路として使う車が増えた。第2回目のデモ行進終了後,市民や町内会からは,住宅街で交通事故が起きることへの不安や騒音被害を訴える苦情が県に寄せられた。また,第1回目よりも更に多くの飲食店から,デモ行進の影響で飲食店の売上げが減少したという苦情が県に寄せられた。
Aら実行委員会は, 第3回目のデモ行進を同年9月29日 (日) に行うことにして, 参加予定人員を2000人とし,その他は第1回目・第2回目と同様の計画で許可申請を行った。しかし,B県公安委員会は,住民投票日が近づいてきて一層住民の関心が高まっており,第3回目のデモ行進は,市民の平穏な生活環境を害したり,商業活動に支障を来したりするなど,住民投票運動に伴う弊害を生ずる蓋然性が高いと判断し,当該デモ行進の実施がB県集団運動に関する条例第3条第1項第4号に該当するとして,当該申請を不許可とした。
この不許可処分に抗議するために,Aら実行委員ばかりでなく,デモ行進に参加していた人たち約200人が,B県庁前に集まった。そこに地元のテレビ局が取材に来ていて,Aがレポーターの質問に答えて,「第1回のデモ行進と第2回のデモ行進が許可されたのに, 第3回のデモ行進が不許可とされたのは納得がいかない。平和的なデモ行進であるのにもかかわらず,デモ行進を不許可としたことは,県の重要な政策問題に関する意見の表明を封じ込めようとするものであり,憲法上問題がある」 と発言する映像が, ニュースの中で放映された。 そのニュースを, B県立大学学長や副学長も観ていた。
AたちCゼミ生は, 当初から, 学外での活動の締めくくりとして, 学内で 「格差問題と憲法」 をテーマにした講演会の開催を計画していた。デモ行進が不許可になったので学内講演会の計画を具体化することとなったが,知事の施策方針に賛成する県議会議員と反対する県議会議員を講演者として招き,さらに,今回のデモ行進の不許可処分に関するC教授による講演を加えて,開催することにした。 C教授の了承も得て, Aたちは, Cゼミとして教室使用願を大学に提出した。 同じ頃, Cゼミ主催の講演会とは開催日が異なるが,経済学部のゼミからも,2名の評論家を招いて行う「グローバリゼーションと格差問題:経済学の観点から」をテーマとした講演会のための教室使用願が提出されていた。
B県立大学教室使用規則では,「政治的目的での使用は認めず, 教育・研究目的での使用に限り,これを許可する」 と定められている。 この規則の下で, 同大学は, ゼミ活動目的での申請であり, かつ,当該ゼミの担当教授が承認していれば教室の使用を許可する,という運用を行っている。同大学は, 経済学部のゼミからの申請は許可したが, Cゼミからの申請は許可しなかった。 大学側は, Aらが中心となって行ったデモ行進が県条例に違反すること,ニュースで流されたAの発言は県政批判に当たるものであること,また講演者が政治家であることから,Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いと判断した。
Aは,B県を相手取ってこの2つの不許可処分が憲法違反であるとして,国家賠償訴訟を提起することにした。
〔設問1〕
あなたがAの訴訟代理人となった場合,2つの不許可処分に関してどのような憲法上の主張を行うか。
なお,道路交通法に関する問題並びにB県各条例における条文の漠然性及び過度の広汎性の問題は論じなくてよい。
〔設問2〕
B県側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で,あなた自身の見解を述べなさい。
【参考資料1】B県集団運動に関する条例(抜粋)
第1条 道路, 公園,広場その他屋外の公共の場所において集団による行進若しくは示威運動又は集会(以下「集団運動」という。)を行おうとするときは,その主催者は予めB県公安委員会の許可を受けなければならない。
第2条 前条の規定による許可の申請は, 主催者である個人又は団体の代表者 (以下 「主催者」 という。) から, 集団運動を行う日時の72時間前までに次の事項を記載した許可申請書三通を開催地を管轄する警察署を経由して提出しなければならない。
一 主催者の住所,氏名二 集団運動の日時三 集団運動の進路,場所及びその略図四 参加予定団体名及びその代表者の住所,氏名五 参加予定人員六 集団運動の目的及び名称第3条 B県公安委員会は, 前条の規定による申請があつたときは,当該申請に係る集団運動が次の各号のいずれかに該当する場合のほかは,これを許可しなければならない。
一~三 (略)
四 B県住民投票に関する条例第14条第1項第2号及び第3号に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるとき。
2 B県公安委員会は,次の各号に関し必要な条件を付けることができる。
一,二 (略)
三 交通秩序維持に関する事項四 集団運動の秩序保持に関する事項五 夜間の静ひつ保持に関する事項六 公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合の進路, 場所又は日時の変更に関する事項
【参考資料2】B県住民投票に関する条例(抜粋)
第1条 この条例は, 県政に係る重要事項について, 住民に直接意思を確認するための住民投票に係る基本的事項を定めることにより, 住民の県政への参加を推進し, もって県民自治の確立に資することを目的とする。
第2条 住民投票に付することができる県政に係る重要事項 (以下 「重要事項」 という。)は ,現 在又は将来の住民の福祉に重大な影響を与え, 又は与える可能性のある事項であって, 住民の間又は住民, 議会若しくは知事の間に重大な意見の相違が認められる状況その他の事情に照らし, 住民に直接その賛成又は反対を確認する必要があるものとする。
第4条 (略)
2( 略 )
3 知事は,自ら住民投票を発議し,これを実施することができる。
4 住民投票の期日は,知事が定める。
第14条 何人も, 住民投票の付議事項に対し賛成又は反対の投票をし, 又はしないよう勧誘する行為 (以下 「住民投票運動」 という。) をするに当たっては, 次に掲げる行為をしてはならない。
一 買収,脅迫その他不正の手段により住民の自由な意思を拘束し又は干渉する行為二 平穏な生活環境を害する行為三 商業活動に支障を来す行為2( 略 )
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第1問〕
本年の問題も,判例を正確に理解した上でそれらを主体的に検討して判断枠組みを構築すること,そして事案を丹念に拾って個別的・具体的に検討することを求めている。本年の問題は,伝統的に表現活動のために使用されてきた場所である道路と,伝統的には公衆の集会のための使用に供されていない場所である大学の教室という,対比的構造となっている。
まず,本問で制約されている権利・自由を確定することが必要である。
道路の使用が許可されないことによって制約される権利・自由は,デモ行進の自由である。
デモ行進の自由が憲法上保障されていることについては,異論がない。ただし,その憲法上の位置付けに関して,憲法第21条第1項の解釈の仕方と関わって,学説は大きく2つの見解に分かれる。そのいずれの見解によるのかを,理由も述べつつ,明らかにする必要がある。
大学の教室使用不許可処分の場合には,大学の教室は公衆に「開かれた」場所ではないし,学生も当然に教室を使用する権利があるわけではない。しかし,その場合でも,学問や表現・集会の意義を踏まえつつ,Cゼミの使用申請に対する不許可処分の平等原則違反を問うことはできる。したがって,Cゼミによる講演会と経済学部のゼミによる講演会の内容・性質の違いが問題となる。
設問1の「原告の主張」においては,違憲という結論を導き出す論拠を十分に書くことが求められている。
本問では,1回目,2回目と許可されたのに,デモ行進のための3回目の道路使用申請が不許可とされた問題であるので,論ずべき中心は当該不許可処分の違憲性である。なお,条例自体の違憲性を論ずる場合には,付随的規制という観点や事前規制という観点から検討を加え,きちんと論じていることが求められる。
道路使用不許可処分の違憲性に関しては,道路の場所としての2つの特性が関係する。
それは,伝統的に表現活動の場として使用されてきたことと,多くの人がその他の目的で利用する場所であることである。その際,デモ行進の重要性,条例に取り込まれた付随的理由による規制の問題性を,用語の観念的な使用によってではなく,きちんと説明し,検討する必要がある。さらに,「明らか」といえるか否か等について,事案の内容に即して個別的・具体的に検討する必要がある。
教室使用不許可処分の違憲性の場合には,前述したように,教室という場の特性を踏まえた平等原則違反が問題となる。表現の観点に基づいた差別ではないかを,事案の内容に即して検討することもあり得る。Cゼミによる講演会と経済学部のゼミの講演会とでは講演者の職業が異なっている等の相違点もあるが,とりわけ,Cゼミの講演会への評価においては,それが学問研究活動の一環であるのか,それとも実社会の政治的社会的活動であるのかについて検討することになる。さらに,Aの発言が県政批判といえるか,仮に県政批判といえるとしても,表現の自由として保障されるAの発言を大学側がマイナスに評価することは許されるのか等についても検討する必要がある。
設問2では,まず最初に,想定される県側の反論を書くことになる。ここでは,合憲となる論拠のポイントだけを簡潔に書けばよいのであって,想定される県側の反論の論拠等を詳細に書く必要はない。被告の反論の論拠は,設問2の第2パートである「あなた自身の見解」
において,必要に応じて述べればよい。
「あなた自身の見解」は,「あなた自身」が検討しなければならない原告と被告の判断枠組みにおける理論的対立点,そして事実認定・事実評価における相違点を明らかにした上で,筋の通った理由を記して,「あなた自身」の結論を導き出すことが求められている。
その際,「あなた自身」 の見解が, 原告とも被告とも異なることがあり得る。 その場合には,なぜそれらの見解と異なるのかについて,「あなた自身の見解」を論じる必要がある。また,「あなた自身の見解」が結果として原告あるいは被告のいずれかと同じであったとしても,原告あるいは被告と「同じ意見である」と書いてあるだけでは,全く不十分である。その場合でも,「あなた自身」がいずれかの見解に同調する理由をきちんと述べることが,必要不可欠である。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 デモ行進不許可処分について
(1)制約される権利
Aら実行委員会が計画した第3回目のデモ行進は、「格差の是正」及び社会福祉関係費の削減反対という共通の意見を有する約2000人が、幹線道路を行進することによってその意見を社会に訴えるものである。
デモ行進の自由の憲法上の位置付けについては、21条1項の「その他一切の表現の自由」として保障されるとの見解もある。しかし、デモ行進は、多数人が一定の場所に集合し、集団としての力を背景にその意思を表明する行為であり、場所の共同利用を不可欠の前提とする点で、個人の言論とは性質を異にする。すなわち、デモ行進は「動く集会」であり、21条1項の集会の自由として保障されると解すべきである。
集会の自由は、多数人が共同の目的のために一定の場所に集まることを保障するものであり、国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成・発展させ、相互に意見や情報等を伝達・交流する場として必要であり、また、対外的に意見を表明するための有効な手段である。特に、デモ行進は、マスメディアを通じた表現手段を持たない一般市民にとって、少ない費用で自己の意見を社会に訴えることのできる貴重な手段であり、民主政の過程において重要な意義を有する。
本件不許可処分は、Aらがその意見を表明する手段を全面的に封じるものであり、集会の自由の重大な制約である。
(2)規制の性質
第一に、本件条例1条は、屋外の公共の場所における集団運動につき事前の許可を要求する一般的許可制を採用している。集会の自由に対する事前の抑制は、公の批判の機会を減少させ、濫用のおそれが大きく萎縮効果を伴うから、原則として許されない。一般的な許可制によって集団行動を事前に抑制することは許されず、特定の場所又は方法について合理的かつ明確な基準の下で許可を要求することが許されるにとどまる(最大判昭29.11.24)。
第二に、道路は、伝統的に表現活動のために使用されてきた場所であり、公衆が自由に行き交う場であるから、集会・表現の場として最も重要なパブリック・フォーラムである。道路に他の用途があるとしても、表現の場としての機能が損なわれるような規制は、集会の自由に対する強い制約として扱われるべきである。
第三に、本件不許可処分の根拠である条例3条1項4号は、住民投票条例14条1項2号(平穏な生活環境を害する行為)及び3号(商業活動に支障を来す行為)に掲げる行為がなされることとなることが明らかであるときを不許可事由とする。これは、形式上はデモ行進の内容ではなく、デモ行進に付随して生ずる弊害に着目した付随的規制の形をとる。しかし、同号が引用する住民投票条例14条1項は、住民投票運動すなわち付議事項に対する賛否の投票を勧誘する政治的表現活動を対象とする規定であり、本件不許可処分も、住民投票日が近づき住民の関心が高まっていることを理由としている。すなわち、実質においては、県の重要政策に関する意見表明という表現内容に着目した規制であり、内容規制として扱うべきである。
(3)審査基準
以上より、本件不許可処分の合憲性は、厳格に審査されるべきである。すなわち、公共の福祉に反する明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される場合に限って不許可が許されると解すべきであり、その危険の程度としては、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である(最判平7.3.7参照)。条例3条1項4号が「明らかであるとき」という文言を用いていることも、この解釈を裏付ける。
(4)あてはめ
第1回目のデモ行進は、実行委員会が参加者に拡声器等を使用しないこと、ビラの類を配らずゴミを捨てないことを徹底させ、若干の飲食店からの苦情を除き特に問題を起こすことなく終了した。第2回目も、拡声器等を使用せず、ビラの類も配らずに無事終了した。横断幕やプラカード、シュプレヒコールはあったが、これらは平穏な意見表明の手段そのものである。すなわち、Aらのデモ行進は一貫して平和的であり、第3回目に暴力行為や秩序破壊が生ずる具体的なおそれは全く存在しない。
県に寄せられた苦情の内容も、住宅街で交通事故が起きることへの不安、騒音被害、飲食店の売上げの減少である。しかし、交通渋滞及びこれに伴う迂回路の交通量増加は、道路を使用する集団行動に通常付随する結果であり、公安委員会が条例3条2項3号・6号に基づいて車線や進路・日時に関する条件を付すことによって対処できる。現に、第1回目・第2回目は片側2車線のうち歩道寄りの1車線内のみを使用するという条件の下で実施されている。飲食店の売上げの減少も、通行人の流れが一時的に変化したことによる間接的な経済的影響にすぎず、参加者が店舗の営業を妨害したわけではない。これらをもって、住民投票条例14条1項2号・3号の「平穏な生活環境を害する行為」「商業活動に支障を来す行為」が「なされることとなることが明らか」とはいえない。
公安委員会は「弊害を生ずる蓋然性が高い」と判断したにすぎず、自ら明白かつ差し迫った危険の存在を認定していない。しかも、第1回目・第2回目を許可しながら、住民投票日が近づき住民の関心が高まったことを理由に第3回目を不許可とするのは、関心が高まった時期にこそ必要となる政治的意見表明を封じるものであって、民主政の過程を支える集会の自由の意義に正面から反する。
さらに、条例3条2項6号は、公共の秩序又は公衆の衛生を保持するためやむを得ない場合に進路、場所又は日時の変更に関する条件を付すことを認めている。進路を商業ゾーンや住宅街から離れた経路に変更する、実施時刻を変更する、参加人数を分散させるなど、より制限的でない手段が存在するのに、公安委員会はこれを検討することなく全面的な不許可処分をした。手段として過剰である。
したがって、本件不許可処分は21条1項に違反する。
2 教室使用不許可処分について
(1)制約される権利・利益
大学の教室は、市民会館等と異なり公衆の集会の用に供するために設けられた施設ではなく、学生に当然に教室を使用する権利があるわけでもない。しかし、学問の自由(23条)は、学問研究の自由、研究発表の自由及び教授の自由を含み、学生もまた大学の施設を利用して学問的な研究・発表を行う自由を有する(最大判昭38.5.22)。Cゼミの講演会は、ゼミの年間テーマである「人間の尊厳と格差問題」に関する研究活動の締めくくりとして当初から計画されていたものであり、担当のC教授の了承も得ている。したがって、本件不許可処分は、Aら学生の研究・発表の自由及び集会の自由(21条1項)に対する制約である。
(2)平等原則違反(14条1項)
大学が教室を使用に供する場合、その利用関係の設定に際して不合理な差別をすることは許されない。教室使用規則は「政治的目的での使用は認めず、教育・研究目的での使用に限り、これを許可する」と定め、大学はこれを受けて、ゼミ活動目的での申請であり、かつ当該ゼミの担当教授が承認していれば許可するという運用を行っている。
Cゼミの申請は、ゼミ活動目的であり、C教授の承認もあるから、この運用基準を満たす。他方、経済学部のゼミの申請は、2名の評論家を招いて「グローバリゼーションと格差問題:経済学の観点から」をテーマとする講演会であり、格差問題を扱う点でCゼミの講演会と実質的に同種である。それにもかかわらず、経済学部のゼミの申請は許可され、Cゼミの申請のみが不許可とされた。これは、同一の運用基準を満たす同種の申請に対する別異取扱いである。
区別の理由として大学が挙げるのは、①Aらのデモ行進が県条例に違反すること、②ニュースで流されたAの発言が県政批判に当たること、③講演者が政治家であることである。
しかし、①第3回目のデモ行進は不許可とされたため実施されておらず、Aらが条例に違反した事実はない。第1回目・第2回目は許可を受け条件を守って実施されている。②Aの発言は、不許可処分が県の重要な政策問題に関する意見表明を封じ込めるものであり憲法上問題があるという趣旨であり、公共的事項に関する意見の表明として21条1項により保障される。B県立大学はB県が設置・運営する公立大学であり、県の機関がAの県政批判を理由に不利益な取扱いをすることは、表現内容及び表現者の立場に着目した差別であって、表現活動に対する事実上の制裁にほかならない。③Cゼミは、知事の施策方針に賛成する県議会議員と反対する県議会議員の双方を講演者として招いており、特定の政治的立場に加担するものではない。講演者が政治家であることは、現実の政策を素材として格差問題を研究するというゼミのテーマに即した当然の選択であり、研究の方法として合理的である。
したがって、別異取扱いの理由はいずれも合理性を欠く。本件区別は、Aらの表現内容及び表現者に着目した差別であるから、厳格な審査が妥当し、やむを得ない目的のための必要不可欠な手段とはいえない。よって本件不許可処分は14条1項に違反し、あわせて21条1項・23条に違反する。
第2 設問2
1 B県側の反論の要点
県側は、次のように反論すると考えられる。①本件条例の許可制は、公共の場所の競合的利用を調整するための制度であり、3条1項が各号に該当する場合のほかは許可しなければならないと定めている点で実質的には届出制と変わらず、合憲である。②デモ行進に対する規制は、表現内容ではなく、集団行動に付随する交通秩序・生活環境・商業活動への弊害に着目した付随的規制であるから、審査基準は緩やかでよい。③第2回目のデモ行進では参加者が2000人近くに達し、現実に住宅街の交通事故の不安・騒音被害、飲食店の売上減少という苦情が寄せられており、第3回目は同規模以上で住民投票日直前に行われるのであるから、弊害が生ずることは明らかであった。④大学の教室は公衆の集会のために開かれた場所ではなく、学生に使用請求権はないから、不許可は権利の制約に当たらない。⑤教室の使用許否は大学の自治(23条)に基づく施設管理権の行使であり、大学の自律的判断が尊重されるべきである。⑥Cゼミの講演会は現職の県議会議員を招き、現に争われている県政問題を扱うものであるから、学問研究の一環を超えた実社会の政治的社会的活動であり、経済学部のゼミの講演会とは性質が異なる。
2 私見
(1)デモ行進の自由の位置付けと許可制
デモ行進は多数人の集合を前提として場所を共同利用する行為であるから、集会の自由(21条1項)として保障されると解する。もっとも、道路という有限の公共用物を排他的に使用する点で、他者の利用との調整を要する内在的制約を伴う。したがって、集団行動について事前に主催者・日時・進路・人数等を届け出させ、必要な条件を付す制度を設けること自体は、集会の自由の性質に照らして合理的である。本件条例3条1項は、各号に該当する場合のほかは許可しなければならないと規定しており、許可が原則で不許可が例外であることが明示されている。この点で本件許可制は実質的に届出制に近く、それ自体が21条1項に反するとはいえない。県側の反論①は正当である。
(2)本件不許可処分の審査基準
問題は不許可事由の解釈と適用である。条例3条1項4号は、形式的には集団行動に付随する弊害に着目した規制である。しかし、同号が引用する住民投票条例14条1項は住民投票運動という政治的表現活動を規律する規定であり、公安委員会も住民の関心の高まりを理由としている。付随的規制という外形をとりながら、適用の局面において特定の政治的主張の表明を抑制する作用を持つ以上、内容中立規制であることを理由に審査を緩和することは適切でない。原告の主張するように、内容規制に準じた厳格な審査を行うべきである。
また、集会の自由の規制が、他者の権利・利益との調整として行われる場合であっても、集会の自由が民主政の過程において果たす役割の重要性に照らせば、単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることを要すると解すべきである(最判平7.3.7参照)。条例3条1項4号が「明らかであるとき」と定めているのは、まさにこの趣旨を条文化したものと解される。したがって、同号は、デモ行進の過程で住民投票条例14条1項2号・3号に当たる行為が確実に行われると認められる場合に限って適用されるものと限定的に解釈すべきである。
(3)あてはめ
この基準によれば、本件不許可処分は違憲である。第1回目・第2回目のデモ行進はいずれも拡声器を用いず、ビラも配らず、条件を遵守して平穏に終了しており、Aら実行委員会の統制能力は実証されている。参加者が増加したことは、それ自体が弊害を意味しない。
県側が挙げる苦情のうち、住宅街の騒音や交通事故の不安は、デモ参加者の行為ではなく迂回する自動車によって生じたものであり、飲食店の売上減少も通行人の流路の一時的変化による経済的影響にすぎない。住民投票条例14条1項2号・3号は、住民投票運動として行われる勧誘行為の態様を規律する規定であって、交通渋滞の間接的結果を広く取り込むものと解すべきではない。そのように解さなければ、商業地域や住宅地を通る集団行動はおよそ不可能となり、都市におけるデモ行進の自由が実質的に失われる。したがって、同各号該当行為がなされることが「明らか」であるとはいえない。
加えて、条例3条2項が交通秩序維持や進路・場所・日時の変更に関する条件を付す権限を与えていることに照らせば、公安委員会は条件の付与によって弊害を軽減すべきであった。全面的な不許可は、より制限的でない手段を尽くさないものとして必要性を欠く。
以上より、本件不許可処分は条例3条1項4号の限定解釈のもとでその要件を欠き、Aらの集会の自由(21条1項)を侵害する違憲・違法な処分である。
(4)教室使用不許可処分
大学の教室は、市民会館のように公衆の集会の用に供することを目的として設置された施設ではなく、学生に教室使用請求権があるわけでもない。この点で県側の反論④には理由がある。また、大学には学問の自由を制度的に保障するものとして大学の自治が認められ、施設管理の自治もその内容に含まれる(最大判昭38.5.22)から、教室使用の許否についての大学の判断には一定の裁量が認められる。
しかし、公立大学が教室を学生の課外的な研究活動に供する制度を設け、現にゼミ活動目的かつ担当教授の承認があれば許可するという運用を行っているのであれば、その利用関係の設定において合理的な理由のない差別をすることは14条1項に反して許されない。とりわけ、設置者であるB県の機関が、学生の表現内容を理由に利用を拒むことは、大学の自治によって正当化されるものではない。大学の自治は学問の自由を守るために大学に認められたものであり、公権力が学生の政治的言論を抑圧する根拠として用いることはできない。
そこで、Cゼミの講演会が真に学問研究の一環であるか、それとも実社会の政治的社会的活動であるかを検討する。Cゼミは「人間の尊厳と格差問題」を年度テーマとする憲法ゼミであり、県民との議論を目的としたシンポジウムの開催、デモ行進、学内講演会という一連の活動を、C教授の承諾のもとに研究活動として行ってきた。本件講演会は、当初から学外活動の締めくくりとして計画されていたものであり、知事の施策方針に賛成する議員と反対する議員の双方を招き、さらに不許可処分についての憲法学者による講演を加えるという構成をとっている。賛否双方の見解を対置し、これを憲法学の観点から分析するという方法は、学問的な討論の形式そのものである。したがって、本件講演会は学問研究活動の一環であり、政治的目的での使用には当たらない。経済学部のゼミが外部の評論家を招いて同じ格差問題を論ずる講演会を許可されていることとの対比においても、講演者が政治家であるという一点で区別する理由はない。
さらに、Aの発言を理由とする点は、公立大学による不利益取扱いとして一層問題が大きい。Aの発言は不許可処分の憲法上の問題を指摘するものであって、県政批判であるとしても21条1項の保障を受ける正当な言論である。これを否定的に評価して教室使用を拒むことは、表現活動に対する報復的な不利益処分であり、表現の自由に対する重大な萎縮効果をもたらす。デモ行進が条例に違反したという評価も、第3回目が不許可とされて実施されていないことに照らし、前提を欠く。
以上より、本件教室使用不許可処分は、同種の申請に対する合理的理由のない別異取扱いであり、かつ表現内容に着目した不利益取扱いであるから、14条1項に違反し、Aらの研究・発表の自由(23条)及び集会の自由(21条1項)を侵害する。
(5)結論
2つの不許可処分はいずれも違憲であり、公務員の職務上の注意義務違反も認められるから、Aの国家賠償請求(国家賠償法1条1項)は認められる。
以上