司法試験 平成29年 刑事訴訟法
問題文
[刑事系科目]〔第2問〕(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
【事 例】1 平成28年9月1日に覚せい剤取締法違反(所持)により逮捕されたAは,同月4日,司法警察員Pの取調べにおいて,「所持していた覚せい剤は,逮捕される3日前の夜,H県I市J町の路上で,甲から買ったものである。」旨供述した。Pが甲について捜査したところ,甲は,覚せい剤取締法違反の前科3犯を有する者であり,現在,H県I市J町○丁目△番地所在のKマンション101号室(以下「甲方」という。)を賃借し,居住していることが判明した。また,A以外にも,その頃,覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕された複数の者が,覚せい剤を甲から買った旨供述していることも判明した。そこで,Pが,司法警察員Qらに,甲方への人の出入り及び甲の行動を確認させたところ,甲方には,甲とその内妻乙が居住しているほか,丙が頻繁に出入りしていること,甲が,Kマンション周辺の路上で,複数の氏名不詳者に茶封筒を交付し,これと引換えに現金を受領するという行為を繰り返していることが判明した。
これらの事情から,Pは,甲が自宅を拠点に覚せい剤を密売しているとの疑いを強め,覚せい剤密売の全容を解明するためには甲方の捜索差押えを実施する必要があると考えた。Pは,同月15日,H地方裁判所裁判官に対し,甲に対する覚せい剤取締法違反(Aに対する営利目的の譲渡)の被疑事実で甲方の捜索差押許可状の発付を請求した。H地方裁判所裁判官は,同日,捜索すべき場所を「甲方」とし,差し押さえるべき物を「本件に関連する覚せい剤,電子秤,茶封筒,ビニール袋,注射器,手帳,ノート,メモ,通帳,携帯電話機」とする捜索差押許可状を発付した。
Pは,Qから,甲が玄関のドアチェーンを掛けたまま郵便配達員に応対していたとの報告を受け,甲方の捜索の際,呼び鈴を鳴らしてドアを開けさせることができたとしても,ドアチェーンが掛かったままの可能性が高く,その場合,玄関から室内に入るのに時間が掛かり,甲らが証拠隠滅を図るおそれが高いと考えた。そこで,これに備えて,Qらが,甲方ベランダの外にあらかじめ待機し,Pの合図でベランダの柵を乗り越えて掃き出し窓のガラスを割って甲方に入ることとした。
2 Pは,同月17日,甲方を捜索することとし,同日午後1時頃,QらをKマンション1階甲方ベランダの外に待機させた上,甲方玄関先の呼び鈴を鳴らした。すると,甲がドアチェーンを掛けたままドアを開けたので,Pは,直ちにQに合図を送った。①Pから合図を受けたQらは,ベランダの柵を乗り越え,掃き出し窓のガラスを割って解錠し,甲方に入った。居間には,乙が右手にハンドバッグを持った状態で,また,丙がズボンの右ポケットに右手を入れた状態で,それぞれ立っていた。その間に,Pは,携行していたクリッパーでドアチェーンを切断して玄関から甲方に入った。
Pは,居間において,甲に捜索差押許可状を示した上,Qらと共に,甲方を捜索し,居間のテーブル付近において,電子秤1台,ビニール袋100枚,茶封筒50枚,注射器80本及び携帯電話機5台を発見し,これらを差し押さえた。
Pらによる捜索中,居間に立っていた乙が,ハンドバッグを右手に持ったまま玄関に向かって歩き出した。それを見たPが,乙に対し,「待ちなさい。持っているバッグの中を見せなさい。」と言ったところ,乙は,「私のものなのに,なぜ見せないといけないんですか。嫌です。」と述べてこれを拒否し,そのまま玄関に向かった。そこで,②Pは,「ちょっと待て。」と言いながら乙の持っていたハンドバッグをつかんでこれを取り上げ,その中身を捜索した。その結果,Pは,同ハンドバッグ内から,多数の氏名・電話番号が記載された手帳1冊及び甲名義の通帳1通を発見し,これらを差し押さえた。
他方,丙は,ズボンの右ポケットに入れていた右手を抜いたが,右ポケットが膨らんだままであったほか,時折,ズボンの上から右ポケットに触れるなど,右ポケットを気にする素振りや,落ち着きなく室内を歩き回るなどの様子が見られた。そこで,Qは,丙に,「ズボンの右ポケットに何が入っているんだ。」と尋ねたが,丙は答えなかった。その後,丙は,右手を再び右ポケットに入れてトイレに向かって歩き出した。これに気付いたQは,丙に,「待ちなさい。右ポケットには何が入っている。トイレに行く前に,ポケットに入っているものを出して見せなさい。」と言って呼び止めた。これに対し,丙は,黙ったままQの脇を通り抜けてそのままトイレに入ろうとした。そこで,③Qは,丙の右腕をつかんで引っ張り,右ポケットから丙の右手を引き抜いたが,丙が右手に何も持っていなかったことから,更に丙のズボンの右ポケットに手を差し入れ,そこから5枚の紙片を取り出した。Qがその紙片を確認したところ,各紙片に,覚せい剤を売却した日,相手方,量及び代金額と思われる記載があったことから,これらを差し押さえた。
その後,Pらは,押し入れ内から,ビニール袋に入った覚せい剤1袋(100グラム)を発見し,同日午後3時頃,甲,乙及び丙を覚せい剤取締法違反(営利目的の共同所持)で現行犯逮捕した上,逮捕に伴う差押えとして,同覚せい剤を差し押さえた。
3 甲ら3名は,同月19日,覚せい剤取締法違反(営利目的の共同所持)の被疑事実によりH地方検察庁検察官に送致され,同日,勾留された。
甲ら3名は,取調べにおいて,いずれも被疑事実を認めた上で,平成27年11月頃から覚せい剤の密売を開始し,役割を分担しながら,携帯電話で注文を受けて覚せい剤を密売していたことなどを供述した。また,通帳等の記載から,甲ら3名の覚せい剤密売による売上金の5割相当額が甲名義の預金口座から丁名義の預金口座に送金されていることが判明した。甲は,当初,丁の覚せい剤密売への関与を否定したが,その後,丁の関与を認めるに至り,丁に対する前記送金は覚せい剤の売上金の分配であると供述した。乙は,丁の関与を一貫して否定し,丙は,丁のことは知らないと供述した。以上の過程で,【資料】記載の〔証拠1〕ないし〔証拠4〕が作成された。
検察官Rは,延長された勾留の満了日である平成28年10月8日,甲ら3名を覚せい剤取締法違反(営利目的の共同所持)により,H地方裁判所に公判請求した。
4 Pは,甲の供述等に基づき,同月19日,丁を覚せい剤取締法違反(甲ら3名との営利目的の共同所持)で通常逮捕した。丁は,「甲,乙のことは知っているが,丙のことは知らない。覚せい剤を甲らと共同で所持したことはない。甲は,毎週,私名義の預金口座に現金を送金してくれているが,その理由は分からない。昔,甲が,私の所有する自動車を運転中に事故を起こしたことがあり,その弁償として送金してくれているのではないか。」と供述し,事件への関与を否認した。
丁は,同月21日,覚せい剤取締法違反(甲ら3名との営利目的の共同所持)の被疑事実によりH地方検察庁検察官に送致され,同日,勾留された。
丁は,その後も否認を続けたが,Rは,捜査の結果,延長された勾留の満了日である同年11月9日,丁について,甲ら3名と共謀の上,営利の目的で,覚せい剤100グラムを所持したとの事実で,H地方裁判所に公判請求した。
Rは,丁の弁護人Sに対し,〔証拠3〕を含む検察官請求証拠を開示するとともに,甲の証人尋問が予想されたことから,〔証拠1〕,〔証拠2〕及び〔証拠4〕を含む,甲及び乙の供述録取書等を任意開示した。
5 丁に対する覚せい剤取締法違反被告事件の第1回公判期日において,丁は,「身に覚えがない。
甲が覚せい剤の密売をしていたかどうかも知らない。」と陳述して公訴事実を否認し,Sは,検察官請求証拠のうち,〔証拠3〕について不同意との証拠意見を述べた。そこで,Rは,丁と甲らとの共謀を立証するため,甲の証人尋問を請求し,H地方裁判所は,第2回公判期日においてこれを実施する旨の決定をした。
第2回公判期日において,甲の証人尋問が実施され,甲は,「私は,以前,覚せい剤取締法違反により懲役2年の実刑判決を受け,平成27年6月に刑務所を出所した。すると,丁が刑務所に迎えに来てくれて,『しばらくはのんびり生活したらいい。』と言って50万円をくれた。同年8月頃,丁から,『何もしていないんだったら手伝わないか。』と言われ,覚せい剤の密売を手伝うようになった。同年10月下旬,丁から,『覚せい剤を仕入れてやるから,自分たちで売ってこい。俺の取り分は売上金の5割でいい。あとは自由に使っていい。』と言われたので,同年11月頃から,内妻の乙や知人の丙と一緒に覚せい剤を密売し,毎週,売上金の5割を丁名義の口座に振り込み,私が3割,乙及び丙が1割ずつ受け取っていた。丁からは,1か月に1回の頻度で,密売用に覚せい剤100グラムを受け取っていた。」旨供述した(以下「甲証言」という。)。
第3回公判期日において,④Sは,甲証言の証明力を争うため,〔証拠1〕,〔証拠2〕及び〔証拠4〕の各取調べを請求した。
〔設問1〕 下線部①ないし③の捜査の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
〔設問2〕1.裁判所は,下線部④で請求された各証拠について,これらを証拠として取り調べる旨の決定をすることができるか否かを論じなさい。
2.仮に,前記1において,裁判所が甲証言の証明力を争うための証拠として取り調べた証拠があったとする。その場合,Rが「甲証言の証明力を回復するためである。」として,改めて〔証拠3〕の取調べを請求したとき,裁判所は,これを証拠として取り調べる旨の決定をすることができるか否かを論じなさい。
(参照条文) 覚せい剤取締法第41条の2 覚せい剤を,みだりに,所持し,譲り渡し,又は譲り受けた者(略)は,10年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は,1年以上の有期懲役に処し,又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金に処する。
3 (略)
【資料】供述者 作成日付 証拠方法 供述要旨等(平成28年) 作成者証拠1 9月21日 捜査報告書 本職が,本日,被疑者甲から聴取した供述の要旨はP 以下のとおりである。
「密売グループの構成員は,私,乙,丙の3名である。私が密売グループのトップであり,乙,丙に密売の手伝いをさせていた。丁は私の知り合いだが,覚せい剤の密売には関与していない。」
〔甲の署名・押印なし。〕証拠2 甲 9月22日 供述録取書 私が覚せい剤の密売に関与するようになったのは,P 平成27年になってからである。密売用の覚せい剤は,私が知り合いの暴力団組員から定期的に仕入れていた。
その知り合いの組員は丁ではない。
丁名義の預金口座に現金を送金したのは,借金の返済のためであり,覚せい剤の密売による売上金を分配したものではない。
〔甲の署名・押印あり。〕証拠3 甲 10月5日 供述録取書 私は,平成27年8月頃,丁から,覚せい剤の密売R を手伝うように言われた。その後,丁の指示で,同年11月頃から,乙,丙と共に覚せい剤の密売を開始した。密売グループのトップは丁であり,丁から1か月に1回の頻度で覚せい剤100グラムを受領し,これを1グラムずつ小分けして密売していた。丁の指示で,毎週,売上金の5割を私名義の預金口座から丁名義の預金口座に送金し,私が3割,乙及び丙が1割ずつ受け取っていた。
警察では,私が密売グループのトップであり,丁は関係がないと供述したが,これは嘘である。嘘をついた理由は,丁が密売グループのトップだと正直に話したら,丁から報復を受けると思い,怖かったからだ。
しかし,ここで正直に話さないと,出所後,また丁の下で覚せい剤の密売をすることになると思い,勇気を出して正直に供述することにした。
〔甲の署名・押印あり。〕証拠4 乙 9月27日 供述録取書 密売グループの構成員は,私,甲及び丙の3名だけQ であり,丁は関係ない。丁名義の預金口座への送金は,甲の丁に対する借金の返済である。
〔乙の署名・押印あり。〕
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,覚せい剤取締法違反事件の捜査及び公判に関する事例を素材に,そこに生起する刑事手続法上の問題点,その解決に必要な法解釈,法適用に当たって重要な具体的事実の分析及び評価並びに結論に至る思考過程を論述させることにより,刑事訴訟法に関する基本的学識,法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
〔設問1〕は,甲に対する覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)の被疑事実で甲方の捜索差押許可状の発付を受けた司法警察員が,甲方の捜索差押えを実施する際,甲方ベランダの柵を乗り越え,掃き出し窓のガラスを割って解錠して甲方に入ったこと(下線部①),甲方にいた甲と同居する内妻の乙が携帯していたハンドバッグ内を捜索したこと(下線部②),甲方にいた丙のズボンのポケット内を捜索したこと(下線部③)につき,それぞれ,その適法性を論じさせることにより,捜索差押許可状に基づく捜索についての正確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。
下線部①は,捜索に伴う付随的措置である「必要な処分」(刑事訴訟法第222条第1項,第111条第1項)として許容される法的根拠及びその限界を問うとともに,甲方ベランダの掃き出し窓を割って解錠して甲方に入った措置が令状の呈示前に行われていることの適否を問うものである。
この点に関し,被疑者に対する覚せい剤取締法違反事件につき,被疑者が宿泊しているホテル客室に対する捜索差押許可状の執行に当たり,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らが,捜索差押許可状執行の動きを察知されれば,覚せい剤事犯の前科もある被疑者において,直ちに覚せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがあったため,ホテル支配人からマスターキーを借りた上,来意を告げることなく,施錠された被疑者の客室ドアを開けて室内に入り,その後直ちに被疑者に捜索差押許可状を呈示したという事案において,「以上のような事実関係の下においては,捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は,捜索差押えの実効性を確保するために必要であり,社会通念上相当な態様で行われていると認められるから,刑訴法222条1項,111条1項に基づく処分として許容される。また,同法222条1項,110条による捜索差押許可状の呈示は,手続の公正を担保するとともに,処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから,令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきであるが,前記事情の下においては,警察官らが令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うことは,法意にもとるものではなく,捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところであって,適法というべきである。」と判示した判例(最決平成14年10月4日刑集56巻8号507頁)があり,同判例に留意しつつ,「必要な処分」として許容される限界及び令状呈示時期に関する判断枠組みを明らかにした上で,本設問の事例に現れた具体的事実が,その判断枠組みにおいてどのような意味を持つのかを意識しながら,下線部①の行為の適法性を検討する必要がある。
本設問の事例においては,甲方を拠点にした組織性が疑われる覚せい剤の密売事案であること,水に流すなどして短時間に隠滅することが容易な覚せい剤が差押対象物件となっていること,覚せい剤は立証上重要な証拠であること,甲は覚せい剤取締法違反の前科3犯を有する者であり,初犯者と比較して警察捜査に関する知識経験を有していると考えられること,事前の捜査によって甲方には甲のほか乙,丙が出入りしており,捜索時に複数人が在室している可能性があったこと,甲が玄関ドアチェーンをつけたままで配達員に応対していたことなどから,捜査員が甲方室内に入るまでに時間を要する可能性が高い状況であるとともに,甲の協力が得られる可能性が低い状況にあると認められたこと,司法警察員Pが甲方玄関先の呼び鈴を鳴らしたところ,甲がドアチェーンを掛けたままドアを開けたことを具体的に指摘し,司法警察員Qらがベランダの窓ガラスを割って解錠して室内に入った措置について,捜索差押えの実効性を確保するために必要性があるのか,その態様は社会通念上相当な範囲内にあるのかといった観点から評価することが求められる。
また,手続の公正担保及び処分を受ける者の利益保護という令状呈示の趣旨から,令状呈示は,執行着手前に行われることが原則であることを論じ,事前呈示の要請と現場保存の必要性等に係る上記事情等を指摘・考量した上で,本件措置が令状呈示前に行われたことの適否を論じることが求められる。
下線部②は,刑事訴訟法が,捜索の対象を「身体」,「物」,「住居その他の場所」に分類し(刑事訴訟法第222条第1項,第102条),これに従って捜索令状に処分の対象を特定して記載することを要求している(同法第219条第1項)ところ,特定の「場所」に対する捜索差押許可状の効力が,令状には明示的に記載のない「物」に及ぶことはあるのか,それはいかなる場合であって,どのような理由に基づいて認められるのかを問うものである。
この点に関し,「警察官は,被告人の内妻であった甲に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき,同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け・・・・・・,右許可状に基づき右居室の捜索を実施したが,その際,同室に居た被告人が携帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって,右のような事実関係の下においては,前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと解するのが相当である」と判示した判例(最決平成6年9月8日刑集48巻6号263頁)があるが,同判例は捜索が適法との結論を導くに当たり,飽くまで「右のような事実関係の下においては・・・・・・捜索できるものと解するのが相当である」と説示するにとどまり,特にその理由を明示していないため,同判例に留意しつつ,場所に対する令状によって,その場所に居住する人がその場で携帯する物に対する捜索ができるかについての自説を各自が展開することが求められる。
基本的な考え方としては,場所に対する捜索差押許可状の効力は,当該場所の管理権者と当該場所にある物の管理権者が同一である場合には,場所に付属するものとして当該物にも及ぶ一方で,第三者の管理下にある物については,当該令状によって制約されることとなる管理権に服するものでない以上,その効力は及ばないという考え方が一般的であると思われるところ,本設問の事例においては,乙は甲と同居する内妻であること,乙は,司法警察員Qらが入室した時点で右手にハンドバッグを所持し,その後も継続して所持していることを具体的に指摘した上で,同バッグに甲の管理権が及んでいるかどうかを検討し,同バッグの捜索の適法性を論じることが求められる。また,同バッグは乙の管理権が及ぶものであるとした上で,甲方を捜索場所とする令状によって乙の管理権も制約されることになるかといった観点から,捜索の適法性を論じることも可能である。
下線部③は,前記のとおり,刑事訴訟法は,捜索の対象として「場所」と「身体」とを区別しているところ(同法第219条第1項),「場所」に対する捜索差押許可状によって「身体」
に対する捜索を行うことが許されることはあるかを問うものである。
場所に対する捜索差押許可状の効力は,人の身体には及ばない以上,捜索すべき場所に居合わせた者の身体について捜索を実施することは当然には許されないものの,例外的にそれが許される場合があるか否か,許される場合があるとしていかなる場合にどのような理由で許されると解すべきかについての自説を各自が展開し,本設問に現れた具体的事実を的確に指摘,評価して,本件捜索の適法性を論じることが求められる。その際,具体的事実を本設問の事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく,それぞれの事実が持つ意味を的確に分析して論じる必要がある。
本設問の事例では,差押対象物件は,覚せい剤,ビニール袋,注射器,手帳,メモなどの比較的小さい物が含まれていること,事前捜査により甲は甲方を拠点に覚せい剤を密売している疑いがあったこと,丙は甲方に頻繁に出入りしていたこと,司法警察員Qらが甲方に入室した時点で丙が右手をポケットに入れていたこと,丙が右手を抜いた後もポケットが膨らんだ状態であったこと,丙が時折ポケットを触るなど気にする素振り等を示していたこと,丙は司法警察員Qからポケットの中身を尋ねられても答えなかったこと,丙が再びポケットに手を入れてトイレに向かって歩き出したこと,丙は司法警察員Qの制止を無視して黙ったままトイレに入ろうとしたことを具体的に指摘し,それぞれの事実が持つ意味を的確に分析,評価して,自説への具体的な当てはめを行う必要がある。
また,捜索を行うこと自体を適法とした場合には,司法警察員Qが丙の右腕を引っ張ってポケットから引き抜き更にポケット内に手を差し入れた行為が,刑事訴訟法第222条第1項,第111条第1項の「必要な処分」として又は(「必要な処分」として考えるまでもなく)本来行うべき捜索そのものとして許容されるか否かを論じる必要がある。
[設問2]は,甲証言をめぐる弁護人と検察官の証拠の取調べ請求のやり取りを素材として,刑事訴訟法第328条で許容される証拠の範囲を問うものである。具体的には,証拠1(甲を取り調べた司法警察員P作成に係る甲の供述要旨を記載した捜査報告書),証拠2(司法警察員P作成に係る甲の供述録取書)及び証拠4(司法警察員Q作成に係る乙の供述録取書)は,甲証言と矛盾する内容であり,証拠3(検察官R作成に係る甲の供述録取書)は,甲証言と一致する内容であるところ,設問2-1は,同条により許容される証拠は自己矛盾供述に限られるか否か(証拠2,証拠4),供述者の署名押印を欠くものも含まれるか(証拠1)を問うものである。設問2-2は,仮に設問2-1で甲証言の証明力を争うための証拠として取り調べた証拠があったとして,証拠3が「甲証言の証明力を回復するため」の証拠として許容されるのか,すなわち,同条の「証明力を争うため」の証拠には,一旦減殺された証明力を回復させるための証拠も含まれるのかを問うものであるが,この点に関する最高裁判所の判例はなく,基本書等にはあまり記載がない分野であり,受験生の応用力を試すことを狙いとした設問である。
設問2-1は,「刑訴法328条は,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述が,別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に,矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより,公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり,別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については,刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である。そうすると,刑訴法328条により許容される証拠は,信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,同人の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。」と判示した判例(最判平成18年11月7日刑集60巻9号561頁)があり,同判例に留意しつつ,伝聞法則や刑事訴訟法第328条の趣旨を踏まえた論述が求められる。同判例の立場に立てば,証拠1は甲の署名押印を欠くため,証拠4は乙の供述録取書であって甲の自己矛盾供述ではないため,いずれも,同条により証拠として許容されず,裁判所は証拠として取り調べる旨の決定はできないこととなり,証拠2は,同条により証拠として許容され,裁判所は証拠として取り調べる旨の決定ができることとなる。一方,同判決の立場に依拠しない場合には,それぞれの結論がどのような道筋で導き出されるのかについて相応の説得を持って説明することが求められよう。
設問2-2は,いわゆる回復証拠が同条により許容されるのかについて,同条の「証明力を争う」という文言の解釈を示した上で,それのみを肯定あるいは否定の根拠とするのは十分でなく,結論がもたらされる実質的な理由を示す必要がある。本設問の事例では,甲証言の証明力が証拠2によって減殺されたときに,甲証言の内容と一致する内容の証拠3が,いかなる理由で証明力の回復証拠となるのか,あるいは,ならないのかまで論じた上で,結論を導くことが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 下線部①の捜査
(1)問題の所在
Qらは、Pの合図を受け、甲方ベランダの柵を乗り越え、掃き出し窓のガラスを割って解錠し、甲方に入っている。これは、捜索差押許可状の執行に伴う付随的措置として許されるか、また令状の呈示に先立って行われている点が適法かが問題となる。
(2)必要な処分
捜索差押許可状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる(刑訴法222条1項、111条1項)。令状の執行が無意味に帰することを防ぎ、その実効性を確保する趣旨である。もっとも、処分を受ける者の権利を害するものであるから、捜索差押えの実効性を確保するために必要であり、かつ社会通念上相当な態様で行われる限度において許容されると解する(最決平成14年10月4日参照)。
本件は、甲が自宅を拠点として組織的に覚せい剤を密売しているとの疑いがもたれた事案であり、差押対象物には覚せい剤が含まれている。覚せい剤は、水に流すなどして短時間のうちに容易に隠滅できるものであり、かつ本件の立証上最も重要な証拠である。甲は覚せい剤取締法違反の前科3犯を有しており、警察の捜索に関する知識経験を有すると考えられるから、捜索を察知すれば直ちに隠滅行為に及ぶおそれが高い。また、甲方には甲及び乙が居住し、丙が頻繁に出入りしていたから、複数人が在室して隠滅行為を分担するおそれもあった。さらに、甲は玄関のドアチェーンを掛けたまま郵便配達員に応対していたとの報告があり、現にPが呼び鈴を鳴らした際もドアチェーンを掛けたままドアを開けたのであるから、玄関から室内に入るまでに時間を要することが現実化していた。
そうすると、玄関からの立入りと並行してベランダから室内に入ることは、差押対象物の隠滅を防ぎ捜索差押えの実効性を確保するために必要であった。
態様についてみると、Qらは柵を乗り越えて掃き出し窓のガラスを割り解錠したにすぎず、損壊の程度は窓ガラス1枚にとどまる。他に室内に立ち入る手段はなく、甲方は1階であって危険も伴わない。したがって社会通念上相当な態様といえる。
(3)令状呈示の時期
令状の呈示(222条1項、110条)は、手続の公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから、令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきである。
もっとも、前記のような証拠隠滅のおそれが高度である場合に、呈示を先行させれば令状の執行自体が無意味に帰する。そこで、執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うことは、法意にもとるものではなく、捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところであって適法と解する(前掲平成14年決定)。
本件では、Qらが入室した間にPがクリッパーでドアチェーンを切断して玄関から入り、居間において甲に捜索差押許可状を示している。入室の直後に呈示がなされており、呈示を欠いたまま捜索が行われたものではない。
(4)よって、①の捜査は適法である。
2 下線部②の捜査
(1)問題の所在
刑訴法は、捜索の対象を「身体」、「物」、「住居その他の場所」に区別し(222条1項、102条)、令状にその対象を特定して記載することを要求している(219条1項)。本件令状が捜索すべき場所として記載するのは「甲方」であり、乙のハンドバッグは記載されていない。そこで、場所に対する令状の効力が、その場所にいる者が携帯する物に及ぶかが問題となる。
(2)規範
場所に対する捜索差押許可状は、当該場所の管理権を制約することを許すものであり、裁判官は当該場所の管理権に属する物について捜索の正当な理由を審査している。そして、捜索すべき場所に存在する物は、通常その場所の管理権に属する。そこで、当該場所の管理権者の管理権が及ぶ物については、場所に付属するものとして令状の効力が及ぶと解する。他方、第三者の独立した管理下にある物については、令状によって制約される管理権に服するものではないから、原則として効力は及ばない。
もっとも、捜索すべき場所に居合わせた者が携帯する物であっても、差押対象物がその中に隠匿されている蓋然性が認められるときは、場所の捜索の実効性を確保するために捜索が許されると解すべきである。
(3)あてはめ
乙は、甲と同居する内妻であり、甲方の管理権を甲と共同して有する者である。そして、ハンドバッグは乙が甲方居間において所持していたものであり、甲方という場所の管理権と別個独立の第三者の管理権に属するものとはいえない。したがって、「甲方」を捜索すべき場所とする本件令状の効力が及ぶ。
また、本件の差押対象物には覚せい剤、手帳、ノート、メモ、通帳といったハンドバッグに容易に収納できる物が含まれており、甲方が密売の拠点と疑われていたこと、乙が捜索開始時から継続してハンドバッグを右手に持ち、捜索中に玄関に向かって歩き出し、Pの求めを拒んでなお玄関に向かったことからすれば、同バッグ内に差押対象物が隠匿されている蓋然性は高い。現に手帳1冊及び甲名義の通帳1通が発見されており、いずれも令状記載の差押対象物であって被疑事実との関連性も認められる。
(4)Pが「ちょっと待て。」と言いながらハンドバッグをつかんで取り上げた行為は、捜索を実施するために必要な処分(222条1項、111条1項)として、又は捜索そのものの実施として許される。乙が明示的に拒んで退去しようとしていた状況では、これ以外に捜索を実現する方法はなく、態様も必要最小限度である。
(5)よって、②の捜査は適法である。
3 下線部③の捜査
(1)問題の所在
丙はズボンのポケット内を捜索されている。身体に対する捜索は場所に対する捜索とは対象を異にするから(219条1項)、「甲方」を捜索すべき場所とする令状の効力は、当然には居合わせた者の身体に及ばない。
(2)規範
身体に対する捜索は、人格的利益の侵害の程度が大きく、裁判官も場所の捜索の審査においてこれを許可していないから、場所に対する令状により居合わせた者の身体を捜索することは原則として許されない。
もっとも、捜索すべき場所に居合わせた者が、差押対象物を身体に隠匿したと疑うに足りる具体的な状況があり、これを捜索しなければ令状の執行が無意味に帰する場合には、場所に対する捜索の実効性を確保するため、必要最小限度の範囲で身体の捜索が許されると解する。
(3)あてはめ
差押対象物には覚せい剤、ビニール袋、注射器、手帳、メモといった、ズボンのポケットに収納可能な小さい物が含まれている。そして、甲方は覚せい剤密売の拠点と疑われ、丙は甲方に頻繁に出入りしていた者であるから、密売に関与し証拠物を所持している可能性があった。
さらに、Qらが入室した時点で丙は右手をズボンの右ポケットに入れた状態で立っており、右手を抜いた後も右ポケットは膨らんだままで、時折ズボンの上から右ポケットに触れるなど右ポケットを気にする素振りを示し、落ち着きなく室内を歩き回っていた。Qから中身を尋ねられても答えず、その後再び右手をポケットに入れてトイレに向かって歩き出し、Qの制止を無視して黙ったままトイレに入ろうとしている。
これらの事実は、丙が右ポケット内に差押対象物を隠匿し、これをトイレで水に流して隠滅しようとしていることを強く推認させる。そして、丙がトイレに入ってしまえば差押対象物は失われ、本件令状の執行は無意味に帰する。
したがって、丙の右ポケット内を捜索することは許される。
(4)Qが丙の右腕をつかんで引っ張り右手を引き抜き、さらに右ポケットに手を差し入れて紙片5枚を取り出した行為は、丙が制止を無視して隠滅行為に及ぼうとしていた状況下において、ポケット内の捜索を実施するために必要不可欠な行為であり、対象も右ポケットに限られているから、必要最小限度の範囲にとどまる。
(5)取り出された紙片には、覚せい剤を売却した日、相手方、量及び代金額と思われる記載があり、令状記載の「メモ」に該当し、被疑事実である営利目的譲渡との関連性も認められるから、差押えも適法である。
(6)よって、③の捜査は適法である。
第2 設問2の1
1 328条の趣旨及び許容される証拠の範囲
伝聞証拠は原則として証拠能力を有しないが(320条1項)、公判期日における供述の証明力を争うためには、伝聞証拠を証拠とすることができる(328条)。
同条は、公判期日における供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許容する趣旨のものである。供述が変遷しているという事実自体から信用性が減殺されるのであり、矛盾供述の内容の真実性は問題とならないから、伝聞法則の適用が除外されるのである。
したがって、同条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述、すなわち自己矛盾供述が現れている証拠に限られる。そして、別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証についても厳格な証明を要するから、供述書、刑訴法が定める要件を満たす供述録取書、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠に限られる(最判平成18年11月7日)。
2 〔証拠1〕
〔証拠1〕は、Pが甲から聴取した供述の要旨を記載した捜査報告書であり、「丁は私の知り合いだが、覚せい剤の密売には関与していない。」という甲証言と矛盾する内容を含む。
しかし、これは甲の供述を録取した書面であって、甲の署名押印を欠く。供述録取書について供述者の署名押印が要求されるのは(321条1項柱書)、録取の過程に誤りがないことを担保する趣旨であり、署名押印を欠く書面は、甲が現にそのような供述をしたこと自体の立証にも用いることができない。前記のとおり、矛盾供述の存在の立証についても厳格な証明を要するのであるから、署名押印を欠く〔証拠1〕は328条により許容されない。
よって、裁判所は〔証拠1〕を取り調べる旨の決定をすることができない。
3 〔証拠2〕
〔証拠2〕は、Pが作成した甲の供述録取書であり、甲の署名押印がある。その内容は、覚せい剤は知り合いの暴力団組員から仕入れており、その組員は丁ではなく、丁名義の口座への送金は借金の返済であるというものである。
これは、丁から覚せい剤を受領し売上金の5割を送金していたという甲証言と明らかに矛盾する。甲自身の供述録取書であって署名押印もあるから、法が定める要件を満たす。
よって、〔証拠2〕は328条により許容され、裁判所はこれを取り調べる旨の決定をすることができる。
4 〔証拠4〕
〔証拠4〕は、Qが作成した乙の供述録取書であり、密売グループの構成員は乙、甲及び丙の3名だけで丁は関係ない、丁名義の口座への送金は甲の丁に対する借金の返済であるという内容である。
確かにこれは甲証言と矛盾する内容であるが、供述者は乙であって、甲の自己矛盾供述ではない。第三者の供述を用いて公判供述の証明力を争うことを許せば、実質的に伝聞証拠を犯罪事実の認定に用いることと同じ結果を招き、伝聞法則が潜脱される。
よって、〔証拠4〕は328条により許容されず、裁判所はこれを取り調べる旨の決定をすることができない。なお、乙は丁と共同被告人の関係にないから、〔証拠4〕を実質証拠として用いるには321条1項3号の要件を満たす必要があるが、乙は公判で供述することが可能であり、同号の要件も満たさない。
第3 設問2の2
1 回復証拠の許容性
〔証拠3〕は、Rが作成した甲の供述録取書であり、甲の署名押印があるが、その内容は甲証言と一致するものである。そこで、328条の「証明力を争うため」の証拠に、一旦減殺された証明力を回復させるための証拠が含まれるかが問題となる。
「争う」という文言は、証明力を減殺する方向の立証を指すのが自然であるが、弾劾証拠の提出を許しながら相手方による回復を一切許さないのは当事者間の公平を欠く。そこで、328条の「証明力を争うため」の証拠には、弾劾証拠によって減殺された証明力を回復させるための証拠も含まれると解する。もっとも、同条が伝聞法則の例外を認める趣旨は、矛盾供述をしたこと自体という外形的事実に信用性を減殺する作用があることに求められるのであるから、回復証拠も、供述内容の真実性に立ち入らない範囲のものに限られる。
2 あてはめ
本件では、〔証拠2〕によって、甲が捜査段階において公判証言と矛盾する供述をしていたという事実が示され、甲証言の証明力が減殺されている。
これに対し〔証拠3〕は、甲が平成28年10月5日にRに対し公判証言と同一内容の供述をしていたことを示すものである。しかし、同一人が公判外で公判証言と同じ内容を述べていたという事実自体は、その供述が真実であることを裏付けるものではなく、供述の一貫性という外形的事実から信用性が高まる関係にもない。甲は〔証拠2〕と〔証拠3〕とで相反する供述をしているのであって、後に述べた内容が公判証言と一致することは、変遷の事実を解消するものではない。
むしろ、〔証拠3〕が証明力の回復に資するとすれば、それは「警察では嘘をついた。嘘をついた理由は、丁から報復を受けると思い、怖かったからだ。」という記載により、変遷の理由が合理的であることを示す点にある。しかしこれは、記載された供述内容が真実であることを前提とするものであって、まさに伝聞法則が妥当する領域である。これを328条により許容すれば、公判外の供述を実質証拠として用いることを認めるに等しく、伝聞法則が潜脱される。
3 結論
よって、〔証拠3〕は328条により許容されず、裁判所はこれを取り調べる旨の決定をすることができない。なお、〔証拠3〕は検察官の面前における供述を録取した書面であるが、その内容は甲証言と相反し又は実質的に異なるものではないから321条1項2号後段の要件を満たさず、Sの同意(326条1項)もないから、実質証拠としても採用することはできない。
以上