司法試験 令和8年 行政法
問題文
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕、〔設問2〕、〔設問3〕の配点割合は、20:30:50〕)
Aは、令和8年1月6日の時点で75歳であり、同日まで子のBとC市内で同居していた。当時Aは、判断能力には問題がないものの、両腕の機能に障害があり、要介護状態区分につき要介護3の認定を受け、Bの手助けの下で介護サービス契約を締結し、介護保険法に基づく居宅サービスを利用していた。Bは、約10年間にわたってAを介護していた。
令和7年11月20日、Aは、意識障害の症状が出たため、D病院に緊急搬送された。D病院において、Aに低ナトリウム血症(血液中のナトリウム濃度(血中ナトリウム値)が低下し、重症の場合には意識障害が生じ得る状態)が認められたため、AはそのままD病院に入院した。入院後、Aの血中ナトリウム値は、点滴によって正常値に戻った。同年12月10日、D病院の担当医は、A及びBに対して、Aには尿に塩分が出やすい症状があるものの、普通の食事を摂取していれば問題はなく、Aの低ナトリウム血症は自宅での食事が原因と思われる旨説明した。その際、Bは、Aの健康のために塩分控え目のものを十分食べさせていると発言した。これに対して、上記担当医は、塩分を控えすぎた食事では低ナトリウム血症が生じやすいこと、低栄養の予防が必要であることについて改めて説明した。同月12日、AはD病院を退院して自宅に戻り、同月15日以降、介護保険法に基づく居宅サービスが再開された。
令和7年12月25日、Aを担当する介護支援専門員(ケアマネージャー)がAの自宅を訪問し、Aの様子を確認した。その際、Aは、入院前と変わらず塩分が少ない食事で、時々めまいがすると話していたため、介護支援専門員は、C市高齢者緊急一時保護事業実施要綱(以下「本件要綱」という。)に基づく緊急一時保護事業の利用をAに勧めた。同日、Aは、介護支援専門員の手助けを得て、本件要綱に基づいて一時保護を申請したものの、C市福祉事務所長からは、同申請に対する応答がなかった【時点①】。
令和8年1月5日、Aは、往診を担当する医師(以下「往診医」という。)による血液検査を受けた。翌日、往診医は、Aの血液検査の結果をBに説明し、Aの血中ナトリウム値は昨年11月の緊急搬送時よりは高くなっており、直ちに意識障害が生じる程度ではないものの、正常値よりも低い値となっていること、この傾向が続けば意識障害が再発するおそれがあることを指摘した。そこで、令和8年1月6日、BはAをD病院に連れて行き、AはそのままD病院に入院した。
令和8年1月7日、C市に対して、Aが養護者から十分な食事を与えられない虐待(ネグレクト)を受けていると思われる旨、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(以下「高齢者虐待防止法」という。)第7条第1項の規定による通報がされた。同日、C市福祉事務所の高齢者福祉担当職員は、往診医から前記令和8年1月5日に実施したAの血液検査の結果の報告を受けた。同担当職員は、Aの自宅での療養が継続した場合には、血中ナトリウム値が低下して意識障害が生じ、Aの生命に重大な危険が発生するおそれがある旨の報告書をC市福祉事務所長に提出した。
令和8年1月8日、C市福祉事務所長は、Aに生命の危険が迫っているとの認識の下で、Aが居宅において常時の介護を受けることが困難であり、自ら介護老人福祉施設等と契約することも
困難であると判断して、老人福祉法第11条第1項第2号に基づき、AをD病院から、C市の設置する特別養護老人ホームE園に入所させる措置(以下「本件入所措置」という。)をした。同日、Bは、本件入所措置が採られたことを知った【時点②】。
令和8年1月23日、C市は、Bに対して、老人福祉法第28条第1項の規定により、本件入所措置に要する費用の一部として、月額5万1800円を徴収することを内容とする負担金額決定の通知書を送付した。
Aは、E園への入所後に適切な食事の提供を受け、体調が回復した。令和8年3月10日、Bは、C市に対して、今後はAに対して適切な居宅介護を実施し、血中ナトリウム値を維持するための栄養指導を受けると約束し、AをE園から退所させてほしいと求めた。翌日、E園の職員がAの意見を聞いたところ、Aは、帰宅すべきか迷っている旨の発言をした。C市は、同月13日、Bに対して、Aが自宅において適切な介護を受けられることが確実であるとはいえないとして、Bの要求を拒否した。
令和8年6月15日、Bは、C市に対して、居宅介護にこだわらず、Aが介護老人福祉施設等に入所することを希望する場合にはこれに協力するつもりであること、また、居宅介護を継続する場合でも定期的にAに血液検査を受けさせ、血中ナトリウム値が低下した場合には直ちに入院又は入所させることを内容とする誓約書を提出し、AをE園から退所させてほしいと求めた。翌日、E園の職員がAの意見を聞いたところ、Aは、帰宅してもよいと考えている旨の発言をした。
しかし、その際のAの受け答えはしっかりしたものではなく、発言の内容には一貫性に欠けるところがあった。そこで、C市は、Aが低ナトリウム血症の状態になって以降、徐々にAの認知面における能力低下が見られ、要介護状態が重度になっている可能性があると考え、また、B以外の者がAと介護老人福祉施設等との契約を手助けできる状況にはなっていないことから、Aが自ら介護老人福祉施設等と契約することが困難であるという状況は変わっていないとして、AをE園から退所させなかった。
令和8年7月6日、Bは、本件入所措置が採られたこと及び本件入所措置が解除されないことによって被った負担金相当額の財産的損害の賠償を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した【時点③】。
C市の隣の市のF市の法務担当職員Gは、Bが本件訴訟を提起したことを知り、F市でも同様の問題が生じる可能性があると考え、弁護士Hの法律事務所を訪問した。以下に示された【法律事務所の会議録】は、令和8年7月15日に、本件についてG、H及び同法律事務所の若手弁護士 I が会議を行った際の記録である。これを踏まえて、弁護士 I の立場に立って、設問に答えなさい。ただし、設問1及び設問2にそれぞれ記載した追加的な事実関係は、別個独立したものである。なお、関係法令の抜粋を【資料1 関係法令】に、本件要綱の抜粋を【資料2 C市高齢者緊急一時保護事業実施要綱(抜粋)】に掲げてあるので、適宜参照しなさい。
〔設問1〕
【時点①】以降、仮にC市福祉事務所長の不応答が続き、AがC市長に対して行政不服審査法に基づく不作為についての審査請求をしたとすると、この審査請求は適法か。「行政庁の不作為」
(行政不服審査法第3条)の該当性に絞って検討しなさい。
〔設問2〕
【時点②】において、Bが本件入所措置の取消訴訟を提起した場合、Bに当該取消訴訟の原告適格が認められるか、検討しなさい。
〔設問3〕
【時点②】において本件入所措置の要件が充足されていたか、及び、【時点③】において本件入所措置の解除の要件が充足されているかについて、本件訴訟において、Bはどのような主張をし、C市はどのように反論することが考えられるか、検討しなさい。
【法律事務所の会議録】
職 員G:C市のような高齢者虐待をめぐる事案は、本市でも増え始めています。本件訴訟は高齢者の養護者が原告で、C市を被告とする国家賠償請求訴訟ですが、他の紛争形態もあり得るところなので、詳細な検討をお願いしたいと思います。高齢者虐待は、児童虐待の場合と法制度が異なっており、どのように対応すべきか判断に迷うことがあります。児童虐待の場合には、児童福祉法の規定に基づき、入所措置とは別に一時保護を行うことができますが、高齢者虐待防止法はそのような仕組みにはなっていませんね。
弁護士H:そうですね。高齢者虐待防止法第9条第2項は、高齢者を一時的に保護するために、老人福祉法第11条等の、いわゆる福祉の措置を講じるように求めています。老人福祉法第11条等の福祉の措置が、行政上の不服申立てや取消訴訟の対象であることに、実務上の争いはありません。具体的には、措置解除の規定の存在に着目して、措置決定には施設でサービスを受ける地位を設定する法的効果があると考えることが一般的だと思います。また、Aには身体障害があり、要介護認定のうち最も軽度の要介護1から最も重度の要介護5までの中で要介護3の状態なので、老人福祉法第11条第1項第2号の「身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし」という要件を満たしていると考えられます。
弁護士I:Aは、令和7年12月25日の時点(【時点①】)で、本件要綱に基づく緊急一時保護を申請しているようです。この事業は、高齢者虐待があった場合に、一時的に高齢者と家族を分離し、高齢者を特別養護老人ホーム等で保護するもので、多くの市町村では要綱を制定して、一時的に特別養護老人ホーム等に入所できる枠を確保しています。ただ、要綱は法令の委任に基づくものではなく、法的にいえば緊急一時保護も老人福祉法第11条に基づく入所措置の一つです。
職 員G:そうすると、Aが申請を行ったとして、これにC市側が応答しなかったとしたら、不作為についての審査請求、さらには不作為の違法確認訴訟や申請型の義務付け訴訟をAが提起することはできないことになるのでしょうか。
弁護士H:入所措置の老人福祉法上の根拠規定である同法第11条が、申請の仕組みを設定していると解釈できるのかが問題となります。要綱の法的性格と、本件要綱にいう「申請」が法令に基づく申請といえるかに注意して、検討してみてください。
弁護士I:分かりました。
職 員G:ところで、Bは本件入所措置が採られた令和8年1月8日(【時点②】)にこれを知ったようですけれども、審査請求も取消訴訟の提起もしていません。Bは本件入所措置の取消訴訟を提起することはできないのでしょうか。
弁護士 I:Bは本件入所措置の相手方ではないので、その取消訴訟における原告適格を認めることができるかは、慎重に検討する必要があると思います。この事例では、原告適格を認めるのは、容易ではないと思われます。
弁護士H:そうですね。児童の親権を行う保護者による児童虐待の場合、児童福祉法は、原則として、児童の親権を行う保護者の意に反して同法第27条第1項第3号の措置を採ることができないとしており、同法第28条第1項に該当するときであっても、当該措置を採るた
めには家庭裁判所の承認を得ることを必要としています。それに対して、高齢者の場合には、その子である養護者に、児童の場合の親権に相当するような、親の監護権があるわけではありません。したがって、高齢者の養護者であるBが本件入所措置の法的効果による権利の制限を受けると考えるのは難しいでしょうね。また、高齢者虐待防止法第14条には、養護者に対する支援の規定があるとはいえ、これだけで本件入所措置の取消訴訟に関する養護者の原告適格を認めることは難しいのではないでしょうか。この点については、児童虐待の場合との比較も含めて I 弁護士に検討してもらいましょう。
弁護士I:分かりました。
職 員G:そういう事情もあって、令和8年7月6日の時点(【時点③】)で、Bは、本件入所措置を前提とした負担金額決定に基づいて支払った負担金相当額の財産的損害の賠償を求める本件訴訟を提起したのでしょうね。Bは、そもそも本件入所措置の時点(【時点②】)
において、措置の要件が満たされていなかったと考えているようです。措置の要件としては、「居宅においてこれを受けることが困難なもの」という要件(困難性要件)のほか、「やむを得ない事由により介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設又は介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるとき」という要件(補充性要件)
が問題になるのではないかと思います。
弁護士H:前者の困難性要件については、少なくとも居宅において高齢者虐待がある場合には、この要件が満たされるといえます。後者の補充性要件については、実務においては、自ら介護老人福祉施設等と入所契約を締結することが困難である場合等を指すと考えられています。高齢者虐待の事例では、こちらの要件も同時に満たされると判断される場合もあるでしょう。ただし、高齢者虐待の事実やそのおそれがなかったとすると、この要件が満たされない可能性もあります。
職 員G:Bは、本件訴訟において、本件入所措置を解除しなかったことが違法であるという主張もしています。本件入所措置を解除すべきかについてはどのように判断されるのでしょうか。
弁護士H:本件入所措置の時点(【時点②】)において、困難性要件及び補充性要件が満たされていたとしても、その後の事情の変化により、これらの要件の一つが満たされなくなったときには、本件入所措置を解除すべきかが問題になります。老人福祉法第12条は、措置の解除について規定していますけれども、これは解除の手続を定めたものにすぎません。入所措置と措置解除のそれぞれの要件を特定し、本件入所措置時点の事実関係と現在までの事実の変化を整理した上で、その法的評価を検討する必要がありますね。
弁護士I:分かりました。検討してみます。
職 員G:ありがとうございました。I 弁護士、どうぞよろしくお願いします。
【資料1 関係法令】
○ 老人福祉法(昭和38年法律第133号)(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は、老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに、老人に対し、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講じ、もつて老人の福祉を図ることを目的とする。
(福祉の措置の実施者)
第5条の4 65歳以上の者(65歳未満の者であつて特に必要があると認められるものを含む。
以下同じ。)又はその者を現に養護する者(以下「養護者」という。)に対する第10条の4及び第11条の規定による福祉の措置は、その65歳以上の者が居住地を有するときは、その居住地の市町村が、居住地を有しないか、又はその居住地が明らかでないときは、その現在地の市町村が行うものとする。(以下略)
2 市町村は、この法律の施行に関し、次に掲げる業務を行わなければならない。
一 老人の福祉に関し、必要な実情の把握に努めること。
二 老人の福祉に関し、必要な情報の提供を行い、並びに相談に応じ、必要な調査及び指導を行い、並びにこれらに付随する業務を行うこと。
(市町村の福祉事務所)
第5条の5 市町村の設置する福祉事務所(社会福祉法(昭和26年法律第45号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)は、この法律の施行に関し、主として前条第2項各号に掲げる業務を行うものとする。
(居宅における介護等)
第10条の4 市町村は、必要に応じて、次の措置を採ることができる。
一~六 (略)
2 (略)
(老人ホームへの入所等)
第11条 市町村は、必要に応じて、次の措置を採らなければならない。
一 (略)
二 65歳以上の者であつて、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものが、やむを得ない事由により介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設又は介護老人福祉施設に入所することが著しく困難であると認めるときは、その者を当該市町村の設置する特別養護老人ホームに入所させ、又は当該市町村以外の者の設置する特別養護老人ホームに入所を委託すること。
三 (略)
2 (略)
(措置の解除に係る説明等)
第12条 市町村長は、第10条の4又は前条第1項の措置を解除しようとするときは、あらかじめ、当該措置に係る者に対し、当該措置の解除の理由について説明するとともに、その意見を聴かなければならない。ただし、当該措置に係る者から当該措置の解除の申出があつた場合その他
厚生労働省令で定める場合においては、この限りでない。
(行政手続法の適用除外)
第12条の2 第10条の4又は第11条第1項の措置を解除する処分については、行政手続法
(平成5年法律第88号)第3章(第12条及び第14条を除く。)の規定は、適用しない。
(特別養護老人ホーム)
第20条の5 特別養護老人ホームは、第11条第1項第2号の措置に係る者又は介護保険法の規定による地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護に係る地域密着型介護サービス費若しくは介護福祉施設サービスに係る施設介護サービス費の支給に係る者その他の政令で定める者を入所させ、養護することを目的とする施設とする。
(費用の徴収)
第28条 第10条の4第1項及び第11条の規定による措置に要する費用については、これを支弁した市町村の長は、当該措置に係る者又はその扶養義務者(民法(明治29年法律第89号)
に定める扶養義務者をいう。以下同じ。)から、その負担能力に応じて、当該措置に要する費用の全部又は一部を徴収することができる。
2 (略)
○ 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)
(抜粋)
(目的)
第1条 この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的とする。
(定義等)
第2条 この法律において「高齢者」とは、65歳以上の者をいう。
2 この法律において「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等(中略)以外のものをいう。
3 この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう。
4 この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
一 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
ニ (略)
二 (略)
5、6 (略)
(相談、指導及び助言)
第6条 市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うものとする。
(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第7条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2、3 (略)
(通報等を受けた場合の措置)
第9条 (略)
2 市町村又は市町村長は、第7条第1項若しくは第2項の規定による通報又は前項に規定する届出があった場合には、当該通報又は届出に係る高齢者に対する養護者による高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護が図られるよう、養護者による高齢者虐待により生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため迅速に老人福祉法第20条の3に規定する老人短期入所施設等に入所させる等、適切に、同法第10条の4第1項若しくは第11条第1項の規定による措置を講じ、又は、適切に、同法第32条の規定により審判の請求をするものとする。
(居室の確保)
第10条 市町村は、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について老人福祉法第10条の4第1項第3号又は第11条第1項第1号若しくは第2号の規定による措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。
(養護者の支援)
第14条 市町村は、第6条に規定するもののほか、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。
2 市町村は、前項の措置として、養護者の心身の状態に照らしその養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に高齢者が短期間養護を受けるために必要となる居室を確保するための措置を講ずるものとする。
○ 児童福祉法(昭和22年法律第164号)(抜粋)
第26条 児童相談所長は、第25条第1項の規定による通告を受けた児童、第25条の7第1項
第1号若しくは第2項第1号、前条第1号又は少年法(昭和23年法律第168号)第6条の6
第1項若しくは第18条第1項の規定による送致を受けた児童及び相談に応じた児童、その保護者又は妊産婦について、必要があると認めたときは、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
一 次条の措置を要すると認める者は、これを都道府県知事に報告すること。
二~八 (略)
2 (略)
第27条 都道府県は、前条第1項第1号の規定による報告又は少年法第18条第2項の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
一、二 (略)
三 児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること。
四 (略)
2、3 (略)
4 第1項第3号又は第2項の措置は、児童に親権を行う者(中略)又は未成年後見人があるときは、(中略)その親権を行う者又は未成年後見人の意に反して、これを採ることができない。
5、6 (略)
第28条 保護者が、その児童を虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する場合において、第27条第1項第3号の措置を採ることが児童の親権を行う者又は未成年後見人の意に反するときは、都道府県は、次の各号の措置を採ることができる。
一 保護者が親権を行う者又は未成年後見人であるときは、家庭裁判所の承認を得て、第27条第1項第3号の措置を採ること。
二 (略)
2~8 (略)
【資料2 C市高齢者緊急一時保護事業実施要綱(抜粋)】
(目的)
第1条 この要綱は、高齢者を介護している家族の疾病、事故等特別な事情により、在宅で日常生活を送ることが困難となった高齢者又は家族等からの虐待により保護を要する高齢者を特別養護老人ホーム等で緊急的に一時保護することにより、高齢者及びその家族の福祉の向上を図ることを目的とする。
(保護の申請)
第8条 対象者又は対象者の家族等(以下「申請者」という。)が保護を申請する場合は、高齢者緊急一時保護事業申請書(以下「申請書」という。)に次の書類を添付し、市長に提出するものとする。
⑴ 高齢者緊急一時保護事由書
⑵~⑻ (略)
(保護の要否等)
第9条 市長は、保護の申請があったときは、その内容について審査し、保護する必要があると認めた場合は、施設の長と受入れの協議を行った上で保護の決定を行い、高齢者緊急一時保護決定通知書により申請者に通知するものとする。
(緊急時の取扱い)
第10条 市長は、この事業の利用について緊急を要すると認めるときは、第8条の規定による申
請手続を省略して、この事業の実施をすることができる。(以下略)
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1 不作為についての審査請求の適法性
1 問題の所在
行政不服審査法3条は、「法令に基づき行政庁に対する処分についての申請をした者」は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないこと)がある場合に、不作為についての審査請求をすることができると定める。したがって、Aの審査請求が適法であるためには、令和7年12月25日にAがした一時保護の申請が「法令に基づく申請」、すなわち法令上申請権が認められ、行政庁に諾否の応答義務が課されている申請(行政手続法2条3号参照)に当たることを要する。
2 本件要綱に基づく申請が法令に基づく申請といえるか
(1) 否定説
本件要綱は、法令の委任に基づかずにC市が制定した内部規程であり、「法令」には当たらない。そして、緊急一時保護は法的には老人福祉法11条に基づく入所措置の一つであるところ、同条1項は「市町村は、必要に応じて、次の措置を採らなければならない」と定めるのみで、申請の仕組みを設けていない。福祉の措置は、介護保険制度における契約方式とは異なり、市町村が職権により要保護者を発見し保護する職権主義の制度であって、本人や家族の申請は職権発動を促す端緒にすぎない。このことは、本件要綱10条が、緊急を要するときは8条の申請手続を省略して事業を実施できると定め、申請を不可欠の要件としていないことからも裏付けられる。要綱8条の「申請」は行政内部の事務処理の便宜のために設けられた手続にすぎず、応答義務を伴う法令上の申請権を創設するものではない。この立場によれば、C市福祉事務所長の不応答は「不作為」に当たらず、審査請求は不適法となる。
(2) 肯定説(私見)
しかし、以下の理由から、本件の申請は法令に基づく申請に当たると解すべきである。第一に、老人福祉法11条1項は、「必要に応じて」措置を「採らなければならない」と定め、要件を充足する者について市町村に措置義務を課している。同項2号の措置は、介護保険制度の下で自ら施設と契約することが著しく困難な者を保護する最後の受け皿であり、対象者は保護を受けることについて法律上の利益を有する。第二に、高齢者虐待防止法9条2項は、通報等があった場合に老人福祉法11条1項の措置を「適切に」講じることを市町村に義務付け、同法10条は措置に必要な居室の確保を求めており、老人福祉法5条の4第2項は相談に応じ必要な調査・指導を行う業務を市町村に義務付けている。これらの規定を総合すれば、法は、保護を要する高齢者からの保護の求めに対し市町村が応答すべきことを予定していると解される。第三に、本件要綱は、この法の趣旨を具体化し、対象者又はその家族が申請書と事由書を提出し(8条)、市長が審査の上保護の要否を決定して決定通知書により申請者に通知する(9条)という、応答を予定した手続を制度化している。要綱自体は法令でないが、法令の趣旨から読み取られる申請権が要綱により手続的に具体化されている場合には、当該申請は法令に基づく申請と評価できる。要綱10条は、緊急時に職権で保護を開始できることを定めるにとどまり、申請があった場合の応答義務を否定する趣旨ではない。第四に、Aは判断能力に問題がなく、介護支援専門員の手助けを得て自ら申請しており、申請権を認めて不作為の救済を図る実益が大きい。
(3) したがって、Aの申請は法令に基づく申請であり、C市福祉事務所長が何らの応答もしないことは「行政庁の不作為」に当たる。
3 結論
令和7年12月25日の申請から相当の期間が経過してもなお不応答が続く限り、Aの不作為についての審査請求は「行政庁の不作為」の該当性の点で適法である。
第2 設問2 Bの原告適格
1 判断枠組み
取消訴訟の原告適格は「法律上の利益を有する者」に認められ(行政事件訴訟法9条1項)、これは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。処分の相手方以外の者については、同条2項に従い、処分の根拠法令の趣旨及び目的、処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、根拠法令が不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むかを検討する(最大判平成17年12月7日)。
2 処分の相手方に準ずる者としての原告適格
(1) 本件入所措置の名宛人はAであり、その法的効果は、AにE園で介護サービスを受ける地位を設定することである。Bは本件入所措置の相手方ではない。
(2) Bは、Aと約10年間同居して介護してきた養護者であり、本件入所措置によってAと分離され介護を継続できなくなるから、処分の法的効果が直接自己の法的地位に及ぶと主張することが考えられる。しかし、児童虐待の場合、児童福祉法27条4項は親権者の意に反して入所措置を採ることができないとし、同法28条1項は虐待の場合でも家庭裁判所の承認を要するとしており、親権者の監護権(民法820条)という法的権利が措置により制約されることが法律上明示されている。これに対し、高齢者の子である養護者には親権に相当する法的な監護権はなく、Bの同居・介護は事実上の関係にすぎない。老人福祉法11条1項2号及び高齢者虐待防止法9条2項は養護者の同意や意見聴取を措置の要件としておらず、措置解除の際に説明と意見聴取の相手方とされるのも「当該措置に係る者」すなわちAのみである(老人福祉法12条)。法は養護者を措置の手続に関与させておらず、本件入所措置がBの権利を制限する法的効果を有するとはいえない。
(3) また、Bは、Aの子として民法877条1項の扶養義務者に当たり、老人福祉法28条1項により本件入所措置の費用の一部(月額5万1800円)を徴収される地位に立つから、第二次納税義務者に主たる課税処分の不服申立適格を認めた最判平成18年1月19日と同様に、本件入所措置の取消しを求める法律上の利益を有すると主張することも考えられる。しかし、第二次納税義務は主たる納税義務の確定に連動して法律上当然に発生するのに対し、費用徴収は、措置を前提としつつも、市長が扶養義務者の「負担能力に応じて」全部又は一部を「徴収することができる」という別個の裁量処分であり、入所措置の法的効果として当然に生じるものではない。Bは負担金額決定の名宛人としてこれを争うことができ、その取消訴訟において本件入所措置の違法を主張し、又は本件のように国家賠償を請求することができるから、入所措置自体の取消しを求める利益を認める必要はない。
3 9条2項による原告適格
(1) Bは、高齢者虐待防止法14条が養護者の負担軽減のための相談、指導、助言、短期間の居室確保等を市町村に義務付け、老人福祉法5条の4第1項が「養護者」に対する福祉の措置を市町村の事務と規定していることを根拠に、養護者が高齢者を養護し続ける利益は法律上保護されていると主張することが考えられる。
(2) しかし、高齢者虐待防止法14条の養護者支援は、同法1条が定めるとおり「養護者による高齢者虐待の防止に資する支援」であって、高齢者の権利利益の擁護という目的の手段として養護者の負担を軽減するものであり、養護者が高齢者を手元に置いて介護を継続する利益を個別的利益として保護する趣旨とは解されない。老人福祉法5条の4第1項の養護者に対する措置も、養護者自身の負担軽減のための居宅サービス等(10条の4)に関するものであって、入所措置における養護者の地位を定めるものではない。また、本件入所措置の根拠である老人福祉法11条1項2号の要件(常時介護の必要性、居宅介護の困難性、施設入所契約の著しい困難性)は、いずれも高齢者本人の心身の状況と保護の必要性に関するものであり、養護者の意向や介護継続の利益は考慮事項とされていない。処分において考慮されるべき利益はAの生命・身体の安全と福祉であって、Bの利益は一般的公益に吸収される反射的利益にとどまる。
4 結論
Bには本件入所措置の取消訴訟の原告適格は認められない。なお、A自身は処分の名宛人として原告適格を有するから、Aの権利救済はAによる取消訴訟により図られるべきである。
第3 設問3 本件入所措置の要件及び解除の要件の充足
1 要件の整理
老人福祉法11条1項2号の措置の要件は、①65歳以上であること、②身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とすること、③居宅において介護を受けることが困難であること(困難性要件)、④やむを得ない事由により介護老人福祉施設等に入所することが著しく困難であると認められること(補充性要件)である。Aは75歳で、両腕の機能障害により要介護3の認定を受けており、①②の充足に争いはない。同法12条は措置解除の手続を定めるにすぎないが、同法11条1項が「必要に応じて」措置を採ることを義務付け、本件入所措置が高齢者虐待防止法9条2項の「一時的に保護するため」の措置として採られたものである以上、措置後の事情の変化により③又は④の要件が失われたときは、措置の必要がなくなったものとして措置を解除すべきであり、解除しないことは違法となる。要件の認定には福祉の専門的判断として市町村に一定の裁量が認められるが、事実の基礎を欠き又は判断過程が合理性を欠く場合には裁量権の逸脱濫用(行政事件訴訟法30条)として違法となる。
2 時点②における要件充足
(1) Bの主張
ア 困難性要件について、Bは約10年間Aを介護し、Aは介護保険法に基づく居宅サービスを利用しており、12月15日にはサービスが再開され、12月25日には介護支援専門員が訪問するなど専門職による見守りの体制もあった。Bが塩分控え目の食事を与えていたのはAの健康のためであり、担当医の説明によればAには尿に塩分が出やすいという体質上の要因があったのであって、通常であれば問題にならない減塩食が低ナトリウム血症を招いたにすぎない。これは知識の不足であり、高齢者虐待防止法2条4項1号ロの「衰弱させるような著しい減食」や「養護を著しく怠ること」には当たらない。令和8年1月6日には往診医の指摘を受けて直ちにAをD病院に入院させており、Bは適切に対応している。しかも、C市は、A自身が12月25日に一時保護を申請したにもかかわらず1月7日まで何ら応答せず、同法6条、14条が定める養護者への相談・指導・助言も一切行っていない。栄養指導等の支援を行えば居宅での介護は十分可能であったのであり、本件入所措置がされた1月8日の時点でAはD病院に入院中で、生命の危険が「迫っている」状況にはなく、D病院から直接E園に入所させる緊急性もなかった。
イ 補充性要件について、Aは判断能力に問題がなく、Bの手助けの下で介護サービス契約を締結してきた実績があり、必要であれば自ら介護老人福祉施設等と契約することができた。Bが契約を手助けできる以上、「やむを得ない事由により」契約による入所が「著しく困難」とはいえない。C市は、A及びBに施設入所の意向を確認することもなく措置に踏み切っており、補充性要件の判断に必要な事実の調査を怠っている。
(2) C市の反論
ア 困難性要件について、Aは令和7年11月20日に低ナトリウム血症による意識障害で緊急搬送され、12月10日に担当医が自宅の食事が原因であると説明したにもかかわらず、Bは塩分控え目の食事を十分食べさせていると発言し、再度の説明後も12月25日の時点でAは入院前と変わらず塩分の少ない食事で時々めまいがすると述べ、令和8年1月5日の血液検査では血中ナトリウム値が正常値より低く、意識障害再発のおそれが指摘された。Aの体質を医師から二度説明されてなお食事を改めなかった以上、知識不足では済まされず、Bの介護の下で同じ原因による危険が反復していることは、結果としてAを衰弱させる「養護を著しく怠る」ものに当たるか、少なくともそのおそれがあり、担当職員の報告書のとおりAの生命に重大な危険が発生するおそれがあった。高齢者虐待防止法9条2項は、通報があった場合に生命又は身体に重大な危険が生じているおそれのある高齢者を「迅速に」保護するため措置を講じることを義務付けており、入院中であっても退院後は居宅に戻ることが予定される以上、退院を待たずに措置を採る必要があった。A自身も12月25日に緊急一時保護を申請しており、居宅での介護が困難であることはAの認識とも一致する。
イ 補充性要件について、Aは両腕の機能障害により自ら契約手続を行うことは困難であり、契約を手助けできる者はBのみであるところ、Bは虐待のおそれのある養護者であって居宅介護を続ける意向であったから、Bの手助けによる施設入所契約は期待できず、B以外にAを支援する親族等もいない。これは「やむを得ない事由により」契約による入所が「著しく困難」な場合に当たる。
(3) Bの再反論
C市は、虐待の有無やBの意向について何ら調査・確認をせず、通報の翌日に措置を決定しており、判断の基礎となる事実の調査を欠く。C市自身が12月25日の申請を放置していたことは、1月8日時点の危険が措置を直ちに要するほど切迫したものではなかったことを示す。また、高齢者虐待防止法9条2項は一時的な保護の手段として老人短期入所施設への入所等を例示しているのに、C市は、栄養指導、居宅サービスの強化、短期入所といったより制限的でない手段を検討することなく、特別養護老人ホームへの入所という最も重い措置をAの意思に基づかずに選択しており、困難性及び補充性の要件認定は事実の基礎を欠き社会観念上著しく妥当を欠く。
3 時点③における解除要件の充足
(1) Bの主張
ア 困難性要件の消滅について、Bは令和8年3月10日に適切な居宅介護の実施と栄養指導の受講を約束し、6月15日には定期的な血液検査の実施と血中ナトリウム値低下時の直ちの入院・入所を内容とする誓約書を提出した。低ナトリウム血症は食事管理により予防可能であり、Bが原因を理解して具体的な対策を誓約した以上、居宅において適切な介護を受けることが困難な状況は解消した。A自身も6月16日に帰宅してもよいと述べており、本人の意思は尊重されるべきである(同法12条ただし書が本人の解除申出を予定していることも参照)。C市は居宅介護が「確実」であることを求めるが、法は確実性を要求しておらず、C市の判断は法の要件を超える基準を課すものである。
イ 補充性要件の消滅について、Bは6月15日、Aが介護老人福祉施設等への入所を希望する場合にはこれに協力すると誓約している。補充性要件は自ら契約することの著しい困難性であるところ、Bが契約を手助けし協力する以上、契約による入所は可能であり、措置による入所を継続する必要はない。認知能力の低下や要介護度の重度化はC市の推測にすぎず、医学的評価も要介護認定の変更もなされていない。
(2) C市の反論
ア 困難性要件について、3月11日の時点でAは帰宅すべきか迷っており、6月16日の発言も受け答えがしっかりせず一貫性を欠いていたから、Aの帰宅の意思は確認できない。Bは12月の医師の説明後も改善できなかった経緯があり、誓約書は書面上の約束にすぎず、居宅での適切な介護が実現する保証はない。Aの生命に関わる判断であるから、再発の危険が残る限り安全側に判断する裁量が認められる。
イ 補充性要件について、Aの受け答えの状況からすれば、低ナトリウム血症以降、認知面の能力低下が進み要介護状態が重度になっている可能性があり、Aが自ら契約することは一層困難となっている。契約を手助けできるのはなおBのみであり、Bはかつて虐待のおそれを生じさせた養護者であって、Bの協力の下での契約が適切に行われるとはいえない。したがって、やむを得ない事由により契約による入所が著しく困難である状況は変わっていない。
(3) Bの再反論
C市は、Aの認知能力の低下を疑いながら、医師による診断や要介護認定の見直し、高齢者虐待防止法9条2項が予定する成年後見等の審判請求(老人福祉法32条)といったAの意思と能力を確認する手段を何ら講じていない。また、Bの協力の信頼性を疑うのであれば、介護支援専門員等の関与の下での契約や条件付きの解除といった手段を検討すべきであった。C市は、6月の時点で生じていた事情の変化(Bの誓約、Aの帰宅意思の表明、Aの体調回復)を適切に考慮せず、措置時の認識をそのまま維持しており、その判断過程は合理性を欠く。少なくとも時点③において措置を解除しないことは裁量権の逸脱濫用として違法である。
4 結論
本件訴訟は国家賠償請求訴訟であり、本件入所措置が取り消されていなくてもその違法を主張することは妨げられない。Bは以上の違法に加え、C市福祉事務所長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかった過失(国家賠償法1条1項)を主張することになる。時点②については、C市の反論にも相応の根拠があり、生命の危険を理由とする迅速な措置には裁量が広く認められるため、要件充足を否定することは容易ではないが、時点③については、事情の変化を考慮しない措置の継続は違法と評価される余地が大きい。
以上