司法試験 令和4年 行政法
問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴、〔設問1〕⑵、〔設問2〕の配点割合は、40:20:40〕)
A株式会社(以下「A」という。)は、水素・燃料電池自動車や自動運転等の研究開発と自動車の整備や走行テストを実施するため、B県C市内にある台地状のD山山頂部のA所有地と、これに連なる中腹部のE所有地の一部を開発区域(以下「本件開発区域」という。)として、山林の伐採、大規模な切土と盛土により合計200ヘクタールの土地を造成し(以下「本件開発行為」という。)、周回路等の走行試験場、開発・整備工場等の施設を設置する計画(以下「本件計画」という。)を立てた。本件開発区域は、森林法(以下「法」という。)第10条の2第1項における地域森林計画の対象となっている民有林で、総面積の98パーセントがA所有林、2パーセントがE所有林である。
本件計画のうちE所有林の部分においては、立木の伐採、住民の生活用水のための貯水池(以下「本件貯水池」という。)の設置等が予定されている。本件開発区域には、A所有林からE所有林を通過して本件開発区域外に流れ出す沢(以下「本件沢」という。)があり、Fは、本件開発区域の外縁から200メートル下流部の本件沢沿いに居住し、本件沢の水を飲料水や生活用水として使用している。また、本件開発区域を含むD山の山林はC市の水道水源の一部となっている。過去に数十年に一度程度の集中豪雨があった際、本件沢からの溢水等により、本件開発区域外のE所有地の土砂等が流失しE所有の立木の育成に悪影響が生じ、Fの住居も浸水被害を受けたことがあった。
なお、Eは、D山から30キロメートル離れたC市外に居住し、D山を水源とする水道水を使用していない。
B県には、法第10条の2第1項に基づく開発行為の許可(以下「開発許可」という。)の手続を円滑に進めるための指導指針(以下「B県指針」という。)があり、開発行為を行う者は、開発計画に関する概要等を記載した書面を担当課であるB県農林水産部森林課(以下「担当課」という。)
や関係市町村に提出すること、開発区域の周辺住民や地権者等に対し、開発計画、開発行為に係る防災計画等について説明することなどが定められている。Aが開催した説明会では、参加したFを含む地域住民やEが、本件開発行為を含む本件計画が実施された場合、水害や土砂災害の発生リスクが高まり、また、安定的な水の確保も困難になるなどとして反対意見を述べた。これに対し、Aは、担当課と地域住民等に、説明会で出された質問や要望に対する見解と対応方針を伝達した上で、B県知事に対し、本件計画に係る開発許可の申請(以下「本件申請」という。)を行った。
B県指針に基づき上記書面の提出を受け、上記説明会に参加したC市担当者は、今後、本件計画のようなC市の水道水源確保に支障が生じるおそれのある事業を規制する必要があると考えた。そこで、C市は本件申請前に水道水源保護を目的としたC市水道水源保護条例(以下「本件条例」という。)を新たに制定・施行し、C市長は、直ちに、所定の手続を経て、本件開発区域を含むD山の林地を本件条例第6条第1項に基づく水源保護地域に指定し、公示した。本件申請後に同指定を知ったAは、本件条例第7条第1項に基づくC市長との協議を開始したが、C市長は、C市水道水源保護審議会においてAの事業用の取水量・貯水量の多さが問題として重視されたことから、同審議会の意見に従い、本件計画により設置する予定の施設を本件条例第7条第3項に基づく規制対象事業場として認定し(以下「本件認定」という。)、Aに通知した。
以下に示された担当課長とB県法務室長(弁護士)による【検討会議の会議録】を読んだ上で、法務室長の立場に立って、設問に答えなさい。
なお、関係法令の抜粋を【資料1 関係法令】に、B県における法第10条の2第2項に基づく都道府県知事の許可に係る開発許可基準(以下「本件許可基準」という。)の抜粋を【資料2 B県林地開発行為の許可基準(抜粋)】に、それぞれ掲げてあるので、適宜参照しなさい。
〔設問1〕B県知事がAに対し本件申請に係る許可をした場合を想定して、以下の点を検討しなさい。
⑴ E及びFが同許可の取消訴訟を提起した場合、E及びFには、この取消訴訟における原告適格が認められるか、検討しなさい。
⑵ 仮にEが本件開発行為に同意し、Fのみが同許可の取消訴訟を提起した場合、同訴訟の係属中に本件開発行為に関する工事が完了した後においても、Fに訴えの利益は認められるか、検討しなさい。なお、解答に当たっては、Fに原告適格が認められることを前提にしなさい。
〔設問2〕B県知事がAに対し本件申請に係る許可をし、Fが同許可の取消訴訟を提起した場合を想定して、Fによる違法事由の主張として考えられるものを挙げた上で、それぞれに対するB県の反論を検討しなさい。ただし、同許可が法第10条の2第2項第1号及び同項第1号の2に定める基準を満たすかどうかについては、違法事由として検討する必要はない。また、Fによる違法事由の主張については、主張制限(行政事件訴訟法第10条第1項参照)を考慮しなくてよい。
【検討会議の会議録】担当課長:本件申請に係る許可の審査に当たり、Aの開発行為に関わる紛争発生時におけるB県の対応戦略について、法的観点からの検討をお願いします。
法務室長:それでは、B県知事がAに対し本件申請に係る許可をした後、EやFから同許可の取消訴訟が提起された場合を想定します。まず、訴訟要件について検討しますが、本件開発行為によりどのようなことが起こる可能性がありますか。
担当課長:一般に、大規模に行われる盛土、切土等の造成による地形の改変は、造成前に比べ、地盤の安定を害し、また、山林を伐採すれば、山林の保水力も低下し、土砂による濁水も増え、水源かん養機能を低下させるおそれが高くなります。しかも、本件計画では工事が長期に及ぶ予定ですから、その間に集中豪雨により土砂災害や水害が発生する可能性は否定できません。
法務室長:開発許可が処分であることは明らかですので、論点の一つは、E及びFに原告適格があるかです。この点は、ゴルフ場建設に関わる開発許可の取消訴訟に関する最高裁判決(最高裁判所平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号283頁)を参考に、EとFの各々について検討することにします。
担当課長:本件申請では、Eの同意書は添付されていません。仮に本件申請に係る許可をしても、Eの同意が得られなければ、本件開発行為の完了を見込むことはできません。ただ、Aによれば、AとEは協議中であり、今後、Eが同意に転じる可能性はあるようですが、明らかではありません。仮にEが本件開発行為に同意し、Fのみが本件申請に係る許可の取消訴訟を提起した場合、同訴訟の係属中に本件開発行為に関する工事が完了するとどうなるのでしょうか。
法務室長:その場合、Fの訴えの利益の問題が生じます。取消訴訟係属中に林地の開発行為に関する工事が完了した事例に関する最高裁判決(最高裁判所平成7年11月9日第一小法廷判決・裁判集民事177号125頁)では訴えの利益が否定されていますが、その理由が明確ではありません。訴えの利益を否定する理由を明確化するため、建築確認の取消訴訟係属中に建築工事が完了した事例に関する最高裁判決(最高裁判所昭和59年10月26日第二小法廷判決・民集38巻10号1169頁)を参考にしつつ、開発許可の法的効果などを法の仕組みに即して検討することにします。次に、本案の問題ですが、開発許可に当たっては、水源の確保対策等の必要性や措置の妥当性の評価などに関する専門技術的判断はもとより、公益の考慮も必要となります。そこで、法第1条と法第10条の2第3項に規定する「森林の保続培養」の意味を教えてください。
担当課長:「森林の保続培養」とは、森林造成には長期を要し、一度開発して土砂災害・水害防止機能や水源かん養機能などの公益的機能が破壊されると回復は相当難しいので、森林の無秩序な開発により森林の持つ機能発揮を阻害しないように、合理的かつ計画的に森林を維持改善することを意味します。
法務室長:B県知事が定め、B県ウェブサイト等で公開している本件許可基準(【資料2 B県林地開発行為の許可基準(抜粋)】参照)第1-1-①の趣旨は何ですか。
担当課長:本件許可基準では、法第10条の2第3項を踏まえ、同条第2項各号の要件を判断するために共通して必要となる一般的事項を定めています。森林法施行規則(以下「規則」という。)
第4条第2号に関し、本件許可基準第1-1-①では、開発行為の完了が確実であるといえるかを判断するため、開発区域内の私法上の権原を有する者全てではなく、3分の2以上の権利者が現に同意していること等を求めています。本来、全員の同意が望ましいのですが、申請時には開発行為が許可されるか不明であり、申請者に過度な負担を課さないためです。
この基準を前提に、Eの同意書が添付されていない現段階で本件開発行為を許可すると、法的にはどのように評価されるのでしょうか。
法務室長:想定する取消訴訟では、本件許可基準第1-1-①との関係が問題になりそうです。そこで、開発許可につきB県知事の裁量権が認められる理由や、本件許可基準に定める同意を要する権利者数以外に、本件許可基準に定めのない本件開発区域における所有林面積の割合を本件開発行為の許否の判断に当たって考慮することができないか、検討することにします。
なお、規則及び本件許可基準は適法であることを前提にしておきます。
担当課長:本件計画によれば、Aは本件開発区域全域に本件貯水池のほか複数の井戸や貯水池を設置して事業用水等を確保する予定です。本件開発区域を含むD山の山林はC市の水道水源の一つですから、C市長は、Aによる事業用水の取水や貯水によってC市の水道水源が枯渇するおそれを解消するため、本件計画の阻止を意図して本件認定をしたようです。この点に関するAとC市長の本件条例に基づく協議では各々の主張を言い合っただけで終わったそうです。
B県としては、C市長が丁寧に協議を行い、Aの協力を得ることができれば、水道水源の枯渇という問題は生じないと考えています。いずれにしても、C市長の本件認定は、Aの権利に重大な影響を与えますが、本件申請との関係ではどのような影響が生じるでしょうか。というのも、本件認定はAの土地の使用を制限する処分ですが、B県では、市町村による土地の使用制限に関する処分が違法であると評価して開発許可をした事例がかつてあったからです。
法務室長:本件許可基準第1-1-②との関係で本件認定の違法性が問題となります。想定する取消訴訟で、B県が本件認定の違法を主張することができるかは、別の機会に検討する必要がありそうですが、ここでは、本件認定が違法で取り消されるべきものであれば、本件許可基準第1-1-②に適合し、B県知事が本件申請に係る許可をするのに支障はないという前提で、本件認定の違法性について検討することにします。
担当課長:本件開発行為についてEが同意し、本件申請に係る許可がされて本件開発行為が始まれば、Aは本件計画に従い本件貯水池を設置することになります。しかし、Fは、説明会で、本件貯水池の容量が少なく、Fの生活用水に不足が生じると主張していました。B県としては、Fが主張する容量の確保は技術的に難しく、実現には費用が掛かりすぎると考えています。
法務室長:想定する取消訴訟では、本件計画による水資源確保対策が法第10条の2第2項第2号及び本件許可基準第4-1に適合しているかが問題となるでしょう。そこで、B県として法的にどのような反論をすることができるか、検討することにします。その他の本案の論点は別の機会に検討することにしたいと思います。
【資料1 関係法令】
○ 森林法(昭和26年法律第249号)(抜粋)
(この法律の目的)
第1条 この法律は、森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とする。
(開発行為の許可)
第10条の2 地域森林計画の対象となつている民有林(中略)において開発行為(土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為(中略)をいう。以下同じ。)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。(以下略)
2 都道府県知事は、前項の許可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、これを許可しなければならない。
一 当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること。
一の二 当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること。
二 当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること。
三 (略)
3 前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たつては、森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しなければならない。
4~6 (略)
(監督処分)
第10条の3 都道府県知事は、森林の有する公益的機能を維持するために必要があると認めるときは、前条第1項の規定に違反した者若しくは同項の許可に附した同条第4項の条件に違反して開発行為をした者又は偽りその他の不正な手段により同条第1項の許可を受けて開発行為をした者に対し、その開発行為の中止を命じ、又は期間を定めて復旧に必要な行為をすべき旨を命ずることができる。
第206条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
一 第10条の2第1項の規定に違反し、開発行為をした者二~四 (略)
○ 森林法施行規則(昭和26年農林省令第54号)(抜粋)
〔(注) 本規則中、「法」は森林法を指す。〕(開発行為の許可の申請)
第4条 法第10条の2第1項の許可を受けようとする者は、申請書(中略)に開発行為に係る森林の位置図及び区域図並びに次に掲げる書類を添え、都道府県知事に提出しなければならない。
一 開発行為に関する計画書二 開発行為に係る森林について当該開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類三 (略)
○ C市水道水源保護条例(抜粋)
(目的)
第1条 この条例は、住民が安心して飲める水を確保するため、市の水道水源を保護し、もって市民の生命及び健康を守ることを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 (略)
二 水源保護地域 市の水道に係る水源及びその上流地域で、市長が指定する区域をいう。
三 水源の枯渇 取水施設の水位を著しく低下させることをいう。
四 対象事業 水源の枯渇をもたらすおそれのある事業をいう。
五 規制対象事業場 対象事業を行う工場その他の事業場のうち、水道に係る水源の枯渇をもたらし、又はそのおそれのある工場その他の事業場で、第7条第3項の規定により規制対象事業場と認定されたものをいう。
六 (略)
(水道水源保護審議会の設置)
第5条 市の水道水源の保護を図り、水道事業を円滑に実施するため、(中略)水道水源保護審議会(以下「審議会」という。)を設置する。
2 審議会は、水源の保護に関する重要な事項について、調査、審議する。
(水源保護地域の指定等)
第6条 市長は、水道水源を保護するため、水源保護地域を指定することができる。
2 市長が、水源保護地域を指定しようとするときは、あらかじめ審議会の意見を聴かなければならない。
3 市長が、第1項の規定により、水源保護地域の指定をしたときは、その旨を直ちに公示するものとする。
(事前の協議及び措置等)
第7条 水源保護地域内において対象事業を行おうとする者(以下「事業者」という。)は、あらかじめ市長と協議しなければならない。
2 (略)
3 市長は、第1項の規定による協議の申出があった場合において、審議会の意見を聴き、規制対象事業場と認定したときは、事業者に対し、その旨を速やかに通知するものとする。
(規制対象事業場の設置の禁止)
第8条 何人も、水源保護地域内において、規制対象事業場を設置してはならない。
(罰則)
第20条 次の各号の一に該当する者は、1年以下の懲役、又は10万円以下の罰金に処する。
一 第8条の規定に違反した者二 (略)
【資料2 B県林地開発行為の許可基準(抜粋)】第1 一般的事項1 次の事項の全てに該当し、申請に係る開発行為を行うことが確実であること。
① 開発行為に係る森林につき、開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を申請者が得ていることが明らかであること。この場合の相当数の同意とは、開発行為に係る森林につき開発行為の妨げとなる権利を有する全ての者の3分の2以上の者から同意を得ており、その他の者についても同意を得ることができると認められる場合を指すものとする。
② 開発行為又は開発行為に係る事業の実施について、法令等による許認可等を必要とする場合には当該許認可等がなされているか若しくはそれが確実であること又は法令等による土地の使用に関する制限等に抵触しないこと。(以下略)
第4 水資源確保の要件(法第10条の2第2項第2号関係)
1 飲用水、かんがい用水等の水源として依存している森林を開発行為の対象とする場合で、周辺における水利用の実態等からみて必要な水量を確保するため必要があるときには、貯水池又は導水路の設置その他の措置が適切に講ぜられることが明らかであること。(以下略)
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕林地を開発して一定規模以上の事業場を設置するためには、森林法(以下「法」という。 )
第10条の2第1項に基づく都道府県知事の許可(以下「開発許可」 という。 )が必要となる。
本問は、A株式会社(以下「A」という。 )がB県C市に所在する自己所有地を中心とする区域を事業の用に供するための大規模な開発行為(以下「本件開発行為」という。 )に関し、開発許可に係る申請前の段階から開発許可後の開発行為に関する工事の完了までの一連の行政過程の中で、C市や地域住民との間で生じる法的問題について検討するものである。
本問では、Aの申請に係る開発行為の許否を決定する審査段階で行われた、B県担当課長とB県法務室長(弁護士)との【検討会議の会議録】を読んで、地域住民や地権者が原告となって提起することが想定される取消訴訟の訴訟要件と本案の主張に関する法的問題のいくつかについて同法務室長の立場から検討することが求められる。
まず、 【設問1】⑴は、Aの申請に係る開発許可の取消訴訟を第三者が提起する場合における原告適格の存否を問うものである。本問では、仮に、B県知事がAの開発行為を許可した後、開発区域内外の土地所有者で立木所有者であるEと、開発区域を水源とする沢(以下「本件沢」という。 )に沿って本件開発区域外に居住する者で過去に溢水等による浸水被害を受けたことがあり、かつ、本件沢から取水した水を飲料水や生活用水として使用するFの2名が原告となって同許可の取消訴訟が提起されることを想定し、最判平成13年3月13日民集55巻2号283頁を参考にして、同訴訟におけるE及びFの原告適格の存否を問うものである。行政事件訴訟法第9条に基づき、法第10条の2等の規定を踏まえ、E及びFのそれぞれについて原告適格の存否を検討することが求められる。
次に、 【設問1】⑵は、Aの申請時点では開発区域内の土地所有者であるEは本件開発行為に同意していなかったが、仮にEが同意に転じ、Fのみが前記許可の取消訴訟を提起した場合を想定し、同訴訟の係属中に本件開発行為に関する工事が完了した後においても、Fに訴えの利益が認められるかを問うものである。このような場合の訴えの利益はゴルフ場建設を目的とした開発許可の事例に関する最判平成7年11月9日集民177号125頁によれば否定されているが、その理由が必ずしも明確ではない。そこで本問では、建築確認の取消訴訟係属中に当該建築物の建築工事が完了した事例に関する最判昭和59年10月26日民集38巻10号1169頁を参考にしつつ、開発行為に関する工事の完了による開発許可の法効果など、法の仕組みを踏まえ、Fの訴えの利益が否定される理由付けを明確化し、検討することが求められる。
最後に、 【設問2】は、B県知事がAの申請に係る許可をし、Fが同許可の取消訴訟を提起した場合を想定して、Fによる違法事由の主張とそれに対するB県の反論を問うものである。
開発行為の許否の判断に当たっては、開発区域内の森林の現に有する水源かん養機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないこと(法第10条の2第2項第2号。以下「水確保要件」という。 )のほか、森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意する(同条第3項)旨の規定内容から、公益を考慮しつつ、専門技術的判断を基礎とする都道府県知事の裁量権が認められる。この点を踏まえ、 【検討会議の会議録】からすると、同許可の取消訴訟におけるFによる違法事由の主張とそれに対するB県の反論としては、以下の(i)~(ⅲ)が考えられる。
まず、(i)Fの主張する違法事由として、Eの同意がない段階においてB県知事がAの申請に係る開発許可をした場合、森林法施行規則第4条第2号に規定する「相当数の同意」に関し、同知事が審査基準として自ら設定・公表しているB県林地開発行為の許可基準(以下「本件許可基準」という。 )第1-1-①を満たしていない旨の主張が考えられる。この点に関するB県の反論では、開発行為に関する許可につきB県知事に裁量権が認められることから、本問のように開発区域内における権利者が2者である場合、開発区域内でAの所有林が占める面積の割合をも考慮して許可することができるかに関して本問における事実関係に即した検討が求められる。
次に、(ⅱ)Fの主張する違法事由として、C市水道水源保護条例に基づき規制対象事業場として認定(以下「本件認定」という。 )されているから、本件許可基準第1-1-②を満たしていない旨の主張が考えられる。この点に関するB県の反論では、いわゆる紀伊長島町水道水源保護条例事件の最判平成16年12月24日民集58巻9号2536頁を参考にしつつ、本件認定に至るプロセスなどの本問における事実関係に即した検討が求められる。その際、かつて市町村による土地の使用制限に関する処分が違法であると評価して開発許可をしたというB県の運用を踏まえた検討も求められる。
最後に、(ⅲ)Fの主張する違法事由として、Aが設置を計画している貯水池の容量ではFの生活用水に不足が生じ、水確保要件と本件許可基準第4-1を満たしていない旨の主張が考えられる。この点に関するB県の反論では、Aが設置を計画している住民の生活用水確保のための貯水池に関して水確保要件及び本件許可基準第4-1の規定内容を踏まえ、Fが主張する規模の貯水池設置に関する技術的制約とそれに要する費用の問題等について検討することが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1(1)——E及びFの原告適格
1 判断枠組み
取消訴訟の原告適格は、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に認められる(行政事件訴訟法9条1項)。これは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最判平元.2.17)。
E及びFはいずれも開発許可の名宛人ではないから、同条2項により、①当該法令の趣旨及び目的、②当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮して判断する。①については当該法令と目的を共通にする関連法令の趣旨及び目的をも参酌し、②については当該処分がその根拠法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案する。
森林法10条の2第2項は、開発許可の消極要件として、1号で当該森林の周辺の地域における土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれ、1号の2で当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれ、2号で当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれを定める。同条3項は、これらの機能の判断に当たり森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意すべきものとする。そして法1条は、森林の保続培養と森林生産力の増進を図り、もって国土の保全と国民経済の発展に資することを目的とする。
このうち1号及び1号の2は、土砂災害及び水害による被害を防止する趣旨であり、これらの災害は周辺住民の生命及び身体に直接的かつ重大な被害を及ぼすものである。したがって、同項1号及び1号の2は、公益の保護にとどまらず、開発区域に近接する一定範囲の地域に居住し、土砂の流出・崩壊又は水害により直接的な被害を受けることが予想される範囲の者の生命・身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含む(最判平13.3.13参照)。
他方、同項2号の水の確保に係る要件は、水源かん養機能という森林の公益的機能の維持を目的とするものであり、渇水による不利益は地域一般に広く及ぶ性質のものであるから、原則として個別的利益を保護する趣旨を含まないと解される。
2 Eの原告適格
(1) Eは、本件開発区域内に所有林を有する。その面積は総面積の2パーセントにとどまるが、立木の伐採及び本件貯水池の設置が予定されており、本件開発行為はE所有林の形質を変更するものである。
森林法施行規則4条2号は、申請に当たり、開発行為に係る森林について当該開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類の添付を求める。本件許可基準第1-1-①も、全ての権利者の3分の2以上の者から同意を得ており、その他の者についても同意を得ることができると認められることを要求する。これらは、開発区域内の権利者の権利を尊重し、その意思に反する開発を抑止する趣旨を含む。
そして、開発許可がされれば、Aは開発行為を適法に行うことができる地位を取得し、法206条1号の罰則及び法10条の3の監督処分の対象から外れる。Eは同意していないにもかかわらず、自己の所有林について開発行為が適法に行われうる状態が作出され、所有権の行使が実質上制限される。すなわち、開発許可の法的効果は直接Eの法的地位に及ぶ。
よって、Eは処分の相手方に準ずる者として、行訴法9条1項により原告適格を有する。
(2) なお、Eは本件開発区域外にも土地及び立木を有し、過去に本件沢からの溢水等により区域外のE所有地の土砂等が流失し立木の育成に悪影響が生じたことがある。しかし、これは財産上の利益にとどまり、1号及び1号の2が個別的利益として保護するのは生命・身体の安全であるから、この点のみでは原告適格を基礎付けるには足りない。また、EはD山から30キロメートル離れたC市外に居住し、D山を水源とする水道水を使用していないから、2号に関する利益も有しない。
3 Fの原告適格
(1) Fは、本件開発区域の外縁から200メートル下流部の本件沢沿いに居住する。本件開発行為は、合計200ヘクタールという大規模な区域において山林の伐採と大規模な切土・盛土を行うものであり、地盤の安定を害し、山林の保水力を低下させ、土砂による濁水を増加させるおそれが高い。しかも工事は長期に及ぶ予定であり、その間に集中豪雨により土砂災害や水害が発生する可能性は否定できない。現に過去に数十年に一度程度の集中豪雨があった際、本件沢からの溢水等によりFの住居が浸水被害を受けたことがある。
Fは、開発区域にごく近接した下流部に居住し、現実に被害を受けた実績を有するのであるから、本件開発行為により土砂の流出又は崩壊及び水害によって生命・身体に直接的かつ重大な被害を受けることが予想される範囲の住民に当たる。よって、法10条の2第2項1号及び1号の2により保護される個別的利益を有し、行訴法9条2項により原告適格が認められる。
(2) さらに、Fは本件沢の水を飲料水や生活用水として使用している。2号の水の確保に係る利益は一般に公益的なものであるが、Fは水道によらず直接本件沢から取水して生活しているのであり、水の確保に著しい支障が生ずれば、その生活そのものが成り立たず健康を害されるおそれがある。このような直接的かつ個別的な依存関係がある場合には、2号も当該者の利益を個別的に保護する趣旨を含むと解する余地がある。もっとも、1号及び1号の2により既に原告適格が認められるから、結論に影響はない。
第2 設問1(2)——工事完了後の訴えの利益
1 問題の所在
取消訴訟においては、処分の取消しにより回復すべき法律上の利益が存在する限り、訴えの利益が認められる(行訴法9条1項括弧書)。Eが同意し、訴訟係属中に本件開発行為に関する工事が完了した場合、Fになお訴えの利益が認められるか。
2 検討
(1) 判例は、建築確認について、それが建築基準法上の工事をすることを適法とする法的効果を有するにすぎず、当該工事が完了した場合には建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるとしている(最判昭59.10.26)。すなわち、処分の法的効果が将来に向かって消滅した場合には、取消判決によって回復すべき法律上の利益は存在しないことになる。
(2) これを森林法の仕組みに即して検討する。法10条の2第1項の開発許可は、地域森林計画の対象となっている民有林において「開発行為」、すなわち土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為をすることを適法とするものである。許可を受けずに開発行為をした者は法206条1号の罰則の対象となり、また法10条の3により開発行為の中止又は復旧に必要な行為を命ずる監督処分の対象となる。
このように、開発許可の法的効果は、専ら土地の形質を変更する行為という一回的な行為を適法に行うことができる地位を付与することに尽きる。開発許可は、建築確認と異なり、工事完了後に成立する施設の存続や使用を継続的に授権する効果を有しない。本件計画において設置される走行試験場や開発・整備工場等の施設の設置・使用は、開発許可の効果とは別の法令の規律に委ねられる。
(3) したがって、本件開発行為に関する工事が完了した時点で、開発許可の法的効果は目的を達して消滅する。開発許可を取り消しても、既に行われた形質変更が違法となるわけではなく、原状回復義務が生ずるわけでもない。法10条の3の監督処分は、無許可で開発行為をした者等に対するものであり、許可が取り消されたことを理由に当然に復旧命令が発せられる仕組みにはなっていない。
(4) Fは、取消判決がされれば法10条の3による復旧命令等を通じて森林の回復が期待できると主張しうるが、同条の監督処分は都道府県知事の裁量に委ねられており、取消判決による拘束力(行訴法33条)が復旧命令の発動を義務付けるものではない。また、Fが受けた、あるいは受けるおそれのある被害については、損害賠償(国家賠償法1条1項、民法709条)や民事上の差止めによって救済を求めるべきであり、これらは開発許可の取消しを前提としない。
3 結論
よって、本件開発行為に関する工事が完了した後は、開発許可の取消しによって回復すべき法律上の利益は存在せず、Fの訴えの利益は失われる。
第3 設問2——違法事由とB県の反論
1 裁量の存否と審査の方法
法10条の2第2項は、各号のいずれにも該当しないと認めるときは「これを許可しなければならない」と定める。しかし、同項各号は「災害を発生させるおそれ」「水害を発生させるおそれ」「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」といった要件を定めるにとどまり、森林の有する災害防止機能・水害防止機能・水源かん養機能の評価、開発行為による影響の予測、防災措置の妥当性の判断は、高度に専門技術的な判断を要する。さらに同条3項は、これらの機能の判断に当たり「森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意」すべきものとし、森林造成には長期を要し、一度公益的機能が破壊されると回復が相当難しいことから、森林の無秩序な開発により機能発揮を阻害しないよう合理的かつ計画的に森林を維持改善するという公益的考慮を要求する。
したがって、各号の要件該当性の判断についてB県知事に専門技術的裁量が認められ、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り違法となる(行訴法30条)。審査は、判断の基礎となる事実に誤認があるか、考慮すべき事項を考慮したか、評価が明らかに合理性を欠くかという判断過程の観点から行う。
2 主張(i)——本件許可基準第1-1-①の不適合
(1) Fの主張 森林法施行規則4条2号は「相当数の同意」を得ていることを証する書類の添付を求め、B県知事はこれを受けて審査基準として本件許可基準第1-1-①を設定・公表している。同基準は、開発行為の妨げとなる権利を有する全ての者の3分の2以上の者から同意を得ており、その他の者についても同意を得ることができると認められる場合を「相当数の同意」とする。
本件開発区域の権利者はAとEの2者のみであり、Eの同意書は添付されていない。そうすると同意を得ている者は2者のうち1者、すなわち2分の1にとどまり、3分の2以上という基準を満たさない。しかも、AとEは協議中であるがEが同意に転じる可能性は明らかでなく、「その他の者についても同意を得ることができると認められる場合」にも当たらない。審査基準は、合理的理由なくこれと異なる取扱いをすれば平等原則に反し違法となるから、同基準に適合しないまま許可をすることは違法である。また、Eの同意が得られなければ本件開発行為の完了を見込むことができず、開発行為を行うことが確実であるという本件許可基準第1の要件も満たさない。
(2) B県の反論 本件許可基準は、規則4条2号の「相当数の同意」という不確定概念を具体化したものであり、法10条の2第2項各号の要件を判断するために共通して必要となる一般的事項を定めたものである。その趣旨は、開発行為の完了が確実であるかを判断することにあり、本来は全員の同意が望ましいが、申請時には許可されるか不明であって申請者に過度の負担を課さないよう、3分の2以上という数的基準を設けたにすぎない。
同基準が人数の割合を基準としているのは、権利者が多数である通常の場合に完了の確実性を簡便に判断するためである。本件のように権利者が2者のみという場合には、人数の割合によることは適切ではなく、実質的に開発行為の完了が確実であるかを判断すべきである。本件では、本件開発区域の総面積の98パーセントがA所有林であり、E所有林は2パーセントにとどまる。本件許可基準に所有林面積の割合に関する定めはないが、審査基準に定めのない事項であっても、規則4条2号及び本件許可基準第1の趣旨である完了の確実性の判断に資する事項である限り、裁量判断において考慮することができる。圧倒的大部分がAの所有地であり、残余がわずか2パーセントであること、AとEが現に協議中であることを併せ考えれば、開発行為を行うことが確実であると評価することは可能である。
もっとも、E所有林には本件貯水池の設置が予定され、これは法10条の2第2項2号の水確保要件に関わる重要な施設であるから、Eの同意が得られなければ水資源確保対策が実現しない。この点を考慮せずに面積割合のみを根拠とすることは、評価の合理性を欠くとの反論を受けうる。
3 主張(ii)——本件許可基準第1-1-②の不適合
(1) Fの主張 本件許可基準第1-1-②は、開発行為又はこれに係る事業の実施について法令等による許認可等を必要とする場合には当該許認可等がなされているか若しくはそれが確実であること、又は法令等による土地の使用に関する制限等に抵触しないことを要求する。
本件では、C市長が本件条例7条3項に基づき本件計画により設置する予定の施設を規制対象事業場として認定している(本件認定)。本件条例8条は、何人も水源保護地域内において規制対象事業場を設置してはならないと定め、違反には同20条1号の罰則が課される。したがって、本件計画は条例による土地の使用に関する制限に抵触し、本件許可基準第1-1-②を満たさない。よって許可は違法である。
(2) B県の反論 本件認定が違法で取り消されるべきものであれば、本件許可基準第1-1-②に適合し、許可をするのに支障はない。そして本件認定は違法である。
判例は、水道水源保護条例に基づく規制対象事業場認定について、当該条例が水源の保護を目的とする一方で事業者の権利を制限するものであることから、市長は、事業者が水源保護の目的に適合する施設の設置等により水源の枯渇のおそれを解消しうるか否かについて、事業者と十分に協議を行い、適切な指導等をすべきであり、これを尽くさないまま認定をすることは違法となるとしている(最判平16.12.24)。
本件条例7条1項は、事業者が「あらかじめ市長と協議しなければならない」と定め、同条3項は協議の申出があった場合に審議会の意見を聴いて認定するものとする。このように、本件条例は認定に先立つ協議を手続として要求しており、その趣旨は、事業者の権利の制限を最小限にとどめつつ水源保護の目的を達成する方策を協議により見出すことにある。
しかし本件では、AとC市長の協議は各々の主張を言い合っただけで終わっている。C市長は、本件計画の阻止を意図して本件認定をしたものであり、審議会においてAの事業用の取水量・貯水量の多さが問題として重視されたことから、その意見に従って認定したにすぎない。C市長は、Aに対し、取水量・貯水量を抑制する方法や代替水源の確保等について具体的な指導を行わず、Aの協力を得る努力を尽くしていない。B県としても、C市長が丁寧に協議を行いAの協力を得ることができれば水道水源の枯渇という問題は生じないと考えている。
さらに、本件条例が制定・施行され水源保護地域の指定がされたのは本件申請の直前であり、Aは本件申請後に初めて指定を知ったのであって、本件条例が本件計画を念頭に置いて制定・運用されたという経緯も、協議を尽くすべき要請を強める。
したがって、本件認定は、協議及び指導を尽くさないままされたものとして裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であり、取り消されるべきものである。B県には、かつて市町村による土地の使用制限に関する処分が違法であると評価して開発許可をした事例があり、本件でも同様に、本件認定が違法であることを前提として本件許可基準第1-1-②に適合すると判断することができる。
4 主張(iii)——水確保要件及び本件許可基準第4-1の不適合
(1) Fの主張 法10条の2第2項2号は、開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあることを消極要件とする。本件許可基準第4-1は、飲用水、かんがい用水等の水源として依存している森林を開発行為の対象とする場合で、周辺における水利用の実態等からみて必要な水量を確保するため必要があるときには、貯水池又は導水路の設置その他の措置が適切に講ぜられることが明らかであることを要求する。
Fは本件沢の水を飲料水や生活用水として使用しており、本件開発区域を含むD山の山林はC市の水道水源の一部でもある。本件開発行為により山林が伐採され大規模な造成が行われれば、保水力が低下し、濁水も増加して水源かん養機能が低下する。加えて、Aは本件開発区域全域に本件貯水池のほか複数の井戸や貯水池を設置して事業用水等を確保する予定であり、取水量・貯水量が多い。
これに対し、Aが設置を計画する本件貯水池の容量は少なく、Fの生活用水に不足が生じる。したがって、必要な水量を確保するための措置が適切に講ぜられることが明らかであるとはいえず、水確保要件を満たさない。
(2) B県の反論 本件許可基準第4-1が要求するのは、「周辺における水利用の実態等からみて必要な水量を確保するため必要があるとき」に、適切な措置が講ぜられることである。すなわち、確保すべき水量は、周辺住民の水利用の実態に照らして必要とされる量であって、申請者に対し技術的・経済的に実現不可能な規模の措置まで要求するものではない。
Fが主張する容量の確保は技術的に難しく、実現には費用が掛かりすぎる。法1条が森林の保続培養と森林生産力の増進を図り、もって国土の保全と「国民経済の発展」とに資することを目的としていることからも、開発行為による経済的利益との調整が要請される。技術的制約及び費用の過大さに照らし、Aが計画する本件貯水池の容量をもって「適切」な措置と評価することは、専門技術的裁量の範囲内である。
また、法10条の2第2項2号は「著しい支障」を要件としており、水の確保に何らかの影響が生ずることだけでは足りない。本件貯水池のほか複数の井戸や貯水池が設置される予定であり、これらにより水量の確保が図られることを考慮すれば、著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。
(3) もっとも、Fは水道によらず本件沢から直接取水して生活しており、生活用水の不足は直ちに生活の基盤を失わせる。技術的困難及び費用の過大という事業者側の事情のみを重視し、Fの水利用の実態に即した必要水量の検討を欠くのであれば、考慮すべき事項を考慮しないものとして裁量権の逸脱・濫用となりうる。B県としては、周辺における水利用の実態を具体的に調査し、必要水量を認定した上で、計画された措置がこれを満たすことを示す必要がある。
以上