司法試験 令和3年 行政法
問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕の配点割合は,35:20:45〕)
A市の市道上には多くの屋台が設けられ,簡単な飲食物を提供する営業を行っており,全国各地でこの種の屋台が姿を消しつつある中で,A市の個性として貴重な観光資源となっているほか,街に賑わいや防犯効果をもたらしている。その一方で,A市の屋台には通行の阻害,道路の汚れや排水の垂れ流し等の問題があり,とりわけ,屋台の設置に必要な市道占用許可(道路法第32条第1項第6号)を有する者から名義を借りた別の者が営業を行っている屋台があることから,許可が事実上売買の対象となったり,営業者の頻繁な交代により屋台をめぐる諸問題の解決に向けた継続的な話合いが難しくなったりするといった課題が指摘され,こうした課題はA市議会でも繰り返し取り上げられてきたが,長年にわたり手付かずのままになっていた。
そこで,A市が昨年制定したA市屋台基本条例(以下「本件条例」という。)では,屋台営業に係る市道占用許可の基準及び手続を,新規の許可に係るものと許可の更新に係るものに分けて規定した上で,屋台営業に係る名義貸しを禁止することにより,名義貸し行為の一掃を目指すことにした。具体的には,本件条例は,新規に市道占用許可を受けることができる者を,本件条例の施行の日において市道占用許可を受けて屋台営業を営む者の配偶者又は直系血族に当たる者以外は,本件条例第25条所定の屋台営業候補者に限定している。また,A市のウェブサイトに掲載されている「A市屋台営業候補者募集要項」によると,屋台営業候補者の公募に応募する者は営業希望場所(1か所)を明記した応募申請書等をA市長(以下「市長」という。)に提出し,これを受けて,有識者で構成されるA市屋台専門委員会(以下「委員会」という。)は,市長によって策定された屋台営業候補者選定指針(以下「本件指針」という。)に従って審査を行い,営業希望場所ごとに総合成績が最も優れた者各1名を屋台営業候補者として適当と認める者として推薦し,その後,市長が屋台営業候補者を選定することとされている(なお,屋台営業候補者が市道占用許可及びその後の更新を受けられる期間は通算して原則3年までである。)。このように,他人の名義を借りて営業を行っている屋台にあっては,本件条例の施行後も営業を続けようとすれば,名義人本人が屋台営業を行うか,実際に屋台営業を行っている者が屋台営業候補者の公募に応募することが必要となった。
A市の市道上で他人の名義を借りて屋台営業を行ってきたBは,本件条例の施行後も同じ場所(以下「本件区画」という。)で屋台営業を続けることを希望し,本件条例の施行後に実施された屋台営業候補者の公募(合計20区画)に応募したところ,市長は本件区画についてBを屋台営業候補者に選定しない旨の決定(以下「本件不選定決定」という。)を行う一方で,Cを屋台営業候補者に選定する旨の決定(以下「本件候補者決定」という。)を行った。本件区画で屋台営業を行ってきた実績から,屋台営業候補者に選定されるはずであると考えていたBは,本件不選定決定に不服を持ち,今後の対応を相談するため,弁護士Dに相談した。以下に示された【法律事務所の会議録】を踏まえて,弁護士Dの指示に応じる弁護士Eの立場に立って,設問に答えなさい。
なお,関係法令の抜粋を【資料 関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕
⑴ 本件不選定決定は,取消訴訟の対象となる処分に当たるか,検討しなさい。
⑵ Bは本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益を有するか,検討しなさい。なお,解答に当たっては,本件不選定決定が処分に当たることを前提にしなさい。
〔設問2〕本件不選定決定の取消訴訟において,Bはどのような違法事由の主張をすべきか。想定されるA市の反論を踏まえて,検討しなさい。なお,解答に当たっては,当該訴訟が適法であることを前提にしなさい。
【法律事務所の会議録】弁護士D:Bさんの不服の内容からすると,まずは本件不選定決定の取消訴訟を提起することが考えられます。市長は本件不選定決定が処分に当たると理解して,屋台営業候補者不選定通知書において審査請求や取消訴訟の教示をしていますが,この理解が正しいか検討しましょう。
弁護士E:Bさんは,屋台営業候補者の公募に応募して,本件不選定決定を受けたので,本件条例及び本件条例施行規則の仕組みに即して,屋台営業候補者の選定が申請に対する処分に当たるか,したがって,本件不選定決定が申請拒否処分に当たるかを検討すればいいでしょうか。
弁護士D:基本的な方針はそれでいいと思いますが,Bさんが屋台営業候補者の公募に応募したのは,飽くまでも市道占用許可を受けるためなので,市道占用許可との関係にも注意してください。
なお,A市は,本件条例第9条を行政手続法上の審査基準として定めたようです。本件条例第9条の性格については,我々もA市と同じ立場を取ることにしましょう。
弁護士E:本件不選定決定が処分に当たるとしても,既に市長はCさんに対して本件候補者決定を行っているため,本件候補者決定が取り消されない限り,Bさんは本件区画について屋台営業候補者への選定を受けることができないとも考えられ,本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益は失われていることにならないでしょうか。
弁護士D:その問題については,放送局の開設免許に関する判例(最高裁判所昭和43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13号3254頁)がありますので,この判例を参考にして検討してください。
弁護士E:承知しました。
弁護士D:次に本案で主張すべき違法事由ですが,Bさんは,本件区画で10年以上も屋台営業を行ってきて,A市との間でトラブルもなかったのに,今後営業が続けられなくなると生活の基盤が失われてしまうと述べています。
弁護士E:新しい条例を施行する場合には経過措置を設けるのが通例で,そうすることが法的に要請される場合もありますが,本件条例の施行に際して,Bさんのように従前から他人の名義を借りて屋台営業を行っていた者(以下「他人名義営業者」という。)の地位への配慮はなかったのですか。
弁護士D:市長は,本件条例可決後の記者会見において,A市での屋台営業に係る市道占用許可は6か月ごとの更新のため,本件条例の施行から6か月後には屋台営業候補者が営業を開始できるよう速やかに公募を実施し,その間は他人名義営業の継続を暫定的に認めると述べました。
そうすると,他人名義営業者の地位への配慮は市道占用許可の期間の範囲内にとどまることになりますが,他人名義営業者が市道占用許可の更新を期待し得る地位を有しないのか疑問です。
弁護士E:他人の名義を借りた屋台営業はそもそも道路法上無許可営業に当たり,法的な保護に値しないということでしょうか。
弁護士D:しかし,本件条例制定に至るまでの経緯や関係法令の規定等に照らして,屋台営業において他人の名義を借りることは,営業の実績が全て法的な保護に値しなくなるほど悪質な行為と評価できるのでしょうか。本件条例が違法であるとまではいえないとしても,本件不選定決定の違法事由を検討する上で,まずは,Bさんの地位に対する配慮に欠けるところがなかったか検討してください。
弁護士E:承知しました。
弁護士D:それから,Bさんへの屋台営業候補者不選定通知書には,Bさんの総合成績が本件区画で第2位であった旨が記されていますが,実は,委員会は,Bさんを屋台営業候補者として適当と認める者として推薦していたようです。20区画の応募に対する屋台営業候補者選定決定後の記者会見で,市長が自ら発表したことですが,A市のウェブサイトで公開されている本件指針は,本件条例施行規則第19条第1号から第4号までの各号の審査に25点ずつ配点するとともに各号の審査において考慮すべき要素を例示しているところ,委員会では,他人名義営業者が本件条例の施行後6か月以内に新たな店舗や仕事を探すことは困難である上,特にA市との間でトラブルのなかった他人名義営業者は,今後A市の屋台政策への確実な貢献が期待できるとして,各号の審査では25点の配点の範囲内で営業実績を踏まえて5点を与えるという本件指針の運用を申し合わせたのです。
弁護士E:そうすると,委員会は,他人名義営業者の地位への更なる配慮が必要であると考えていたといえますね。
弁護士D:ところが,委員会の各委員がこの申合せどおりに審査を行った結果,ほとんどの区画についてBさんのような他人名義営業者が屋台営業候補者として適当と認める者として推薦されたため,不審に思った市長が委員会の議事録を取り寄せて申合せの内容を知ったのです。前回市長選挙で屋台営業の刷新を公約に掲げて当選した市長としては,屋台営業者の交代をより積極的に推進して公約を実現したいと考え,委員会の審査結果から申合せに基づく点数を差し引いた総合成績に基づいて屋台営業候補者を選定したと記者会見で発表しました。その結果,Bさんの総合成績が2位になったと考えられます。
弁護士E:事情がよく分かりました。
弁護士D:我々としては,市長は委員会の推薦どおりにBさんを屋台営業候補者に選定すべきであったという立場ですので,既に検討をお願いした他人名義営業者の地位への配慮の問題のほかに,屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せが合理的であったかという問題を検討する必要があります。委員会の申合せが不合理であれば,市長がこれに基づく推薦を覆すのは当然ということになりますから。具体的には,委員会の申合せが本件条例施行規則第19条各号の選定基準に照らして是認することができるか,また,新規に屋台営業を始めようとして公募に応募した者の利益を不当に侵害することにならないか検討してください。なお,A市は,平成7年からA市行政手続条例を施行しており,同条例は行政手続法第2章と同じ内容の規定を設けていますので,必要に応じて参照してください。
弁護士E:承知しました。
弁護士D:そして,これらの検討を踏まえて,本件不選定決定の取消訴訟における違法事由の主張として,市長の選定に係る判断の内容に瑕疵があったと主張することができないか検討してください。さらに,市長が委員会の推薦を覆して選定したこと自体に瑕疵があったと主張することも考えられます。その際には,行政庁である当時の運輸大臣の処分と諮問機関である運輸審議会の決定との関係について一般論を述べた判例(最高裁判所昭和50年5月29日第一小法廷判決・民集29巻5号662頁)がありますので,この判例を参考に,諮問機関の機能等を踏まえて本件不選定決定が違法であると主張することができないか,検討することにしましょう。
弁護士E:承知しました。
【資料 関係法令】
○ 道路法(昭和27年法律第180号)(抜粋)
(道路の占用の許可)
第32条 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物,物件又は施設を設け,継続して道路を使用しようとする場合においては,道路管理者の許可を受けなければならない。
一~五 (略)
六 露店,商品置場その他これらに類する施設七 (略)
2 前項の許可を受けようとする者は,左の各号に掲げる事項を記載した申請書を道路管理者に提出しなければならない。
一 道路の占用(道路に前項各号の一に掲げる工作物,物件又は施設を設け,継続して道路を使用することをいう。以下同じ。)の目的二 道路の占用の期間三 道路の占用の場所四 工作物,物件又は施設の構造五 工事実施の方法六 工事の時期七 道路の復旧方法3~5 (略)
(道路の占用の許可基準)
第33条 道路管理者は,道路の占用が前条第1項各号のいずれかに該当するものであつて道路の敷地外に余地がないためにやむを得ないものであり,かつ,同条第2項第2号から第7号までに掲げる事項について政令で定める基準に適合する場合に限り,同条第1項(中略)の許可を与えることができる。
2~6 (略)
○ A市屋台基本条例(抜粋)
(定義)
第3条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
⑴ 屋台 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第2条第4項に規定する軽車両に飲食店営業(食品衛生法施行令(昭和28年政令第229号)第35条第1号に規定する飲食店営業をいう。次号において同じ。)のための設備を備え付けたものをいう。
⑵ 屋台営業 屋台を一定の時間一定の場所に設置して行う飲食店営業をいう。
⑶ 屋台営業者 屋台営業を営む者をいう。
⑷ 屋台営業従事者 屋台営業者以外の者であって屋台営業に従事するものをいう。
⑸ 市道 道路法(昭和27年法律第180号)第2条第1項に規定する道路であって市が管理するものをいう。
⑹ 市道占用許可 屋台営業を行うための道路法第32条第1項(中略)の規定による市道の占用の許可をいう。
(市道占用許可の申請)
第8条 市道占用許可を受けようとする者(次条第1項(中略)において「申請者」という。)は,道路法第32条第2項に規定する申請書のほか規則で定める書類を市長に提出しなければならない。
(市道占用許可の基準等)
第9条 市長は,申請者(次条第1項に規定する更新申請者を除く。以下この項において同じ。)の申請の内容が道路法第33条第1項に規定する場合に該当する場合であって,次に掲げる基準のいずれにも適合するときに限り,市道占用許可を与えるものとする。
⑴ 申請者が,次のいずれにも該当しないこと。
ア A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団員イ A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団又は暴力団員と密接な関係を有する者
⑵ 申請者が,次のいずれかであること。
ア この条例の施行の日において市道占用許可を受けている屋台営業者(以下「現営業者」という。)の配偶者又は直系血族のうち,同日及び申請の日(現営業者が死亡している場合にあっては,現営業者が死亡した日。)において,主として現営業者が営む屋台営業による収入により生計を維持している屋台営業従事者(その者が2人以上である場合は,そのうちの1人に限る。)
イ 第25条第1項に規定する屋台営業候補者
⑶ 市道占用許可を受けようとする場所が,次のいずれにも適合すること。
ア~ウ (略)
2 (略)
(市道占用許可を受けた者による屋台営業等)
第13条 市道における屋台営業は,市道占用許可を受けた者が,自ら行わなければならない。
2 市道占用許可を受けた者は,市道占用許可に係る権利を他人に譲渡し,転貸し,又は担保に供してはならない。
(屋台営業候補者の公募)
第25条 市長は,市道における屋台営業が,まちににぎわいや人々の交流の場を創出し,観光資源としての効用を発揮することができると認めるときは,場所を指定して,当該場所において市道占用許可を受けることができる者(法人を除く。以下「屋台営業候補者」という。)の公募を行うことができる。
2~3 (略)
4 前3項に定めるもののほか,屋台営業候補者の公募に関し必要な事項は,規則で定める。
(屋台営業候補者の選定等)
第26条 市長は,前条第1項の規定による公募を行った場合は,A市屋台専門委員会に諮り,屋台営業候補者を選定するものとする。
2 A市屋台専門委員会は,規則で定める基準に基づき,当該公募に応募した者のうちから屋台営業候補者として適当と認める者を推薦するものとする。
3 市長は,第1項の規定による選定を行ったときは,その旨を当該屋台営業候補者に通知しなければならない。
(A市屋台専門委員会)
第28条 市長の附属機関として,A市屋台専門委員会(以下「委員会」という。)を置く。
2~5 (略)
○ A市屋台基本条例施行規則(抜粋)
〔(注) 本規則中,「条例」はA市屋台基本条例を指す。〕(公募書類)
第18条 条例第26条第1項の規定により屋台営業候補者の選定を受けようとする者(以下「公募申請者」という。)は,市長が定める期間内に,公募屋台営業候補者応募申請書(中略)に次の各号に掲げる書類を添えて市長に提出しなければならない。
⑴~⑸ (略)
(選定基準)
第19条 条例第26条に規定する規則で定める基準は,次に掲げるとおりとする。
⑴ 関係法令等を遵守し,安全で快適な公共空間及び良好な公衆衛生を確保する具体的な取組が示されていること。
⑵ 市民,地域住民及び観光客に親しまれ,観光資源としてA市を広報することができる屋台を目指し,従来のA市らしい屋台文化を守るとともに,新たな魅力を創出するための創意工夫が見られること。
⑶ 地域の清掃活動に参加する等地域貢献に向けた具体的な取組が示されていること。
⑷ まちににぎわいや人々の交流の場を創出し,まちの魅力を高めようとする意欲が感じられること。
(決定の通知)
第21条 条例第26条第3項の規定による通知は,屋台営業候補者選定通知書(中略)により行うものとする。
2 市長は,屋台営業候補者として選定しないこととしたときは,屋台営業候補者不選定通知書(中略)により公募申請者に通知するものとする。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,A市の市道上で屋台営業を行うために必要な市道占用許可(道路法第32条第1項第6号)を自ら取得せず,他人の名義を借りて屋台営業を行ってきた者(以下「他人名義営業者」という。)であるBが,名義貸し行為の一掃を目指すA市屋台基本条例(以下「本件条例」
という。)の施行後も,従前からの場所(以下「本件区画」という。)で屋台営業を続けるため,本件条例第25条所定の屋台営業候補者の公募に応募したところ,A市長(以下「市長」という。)が本件区画についてBを屋台営業候補者に選定しない旨の決定(以下「本件不選定決定」
という。)を行う一方で,Cを屋台営業候補者に選定する旨の決定(以下「本件候補者決定」
という。)を行ったという事例における法的問題について論じさせるものである。
〔設問1〕⑴は,本件不選定決定の処分性の有無を問うものである。Bは屋台営業候補者の公募に応募して本件不選定決定を受けたことから,まずは,本件条例及び本件条例施行規則の仕組み(屋台営業候補者であることが市道占用許可の要件の一つとなっていること,A市屋台専門委員会(以下「委員会」という。)は選定基準に則して推薦を行い,それを受けて市長は選定を行うこと,市長は選定又は不選定の決定の通知を行うこと等)に即して,屋台営業候補者の選定が申請に対する処分に当たるか,したがって本件不選定決定は申請拒否処分に当たるかについて検討することが求められる。他方で,Bが最終的に求めているのは市道占用許可であるため,本件不選定決定は中間段階の決定にすぎず,処分に当たらないのではないかという問題もある。そこで,本件不選定決定の処分性の有無については,Bが市道占用許可を申請して不許可処分を引き出し,その取消訴訟の中で本件不選定決定の違法性を争うといった訴訟手段との比較も視野に入れて検討する必要がある。
〔設問1〕⑵は,市長が既にCに対して本件候補者決定を行っていることから,Bが本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益が失われていないかを問うものである。この問題については,最判昭和43年12月24日民集22巻13号3254頁を参考にして,BとC及び本件不選定決定と本件候補者決定がいかなる関係にあるかを踏まえ,本件不選定決定の取消判決の効力によって生じることになる事態を正確に追跡し,Bが屋台営業候補者に選定される可能性が残っているかを検討することが求められる。
〔設問2〕は,本件不選定決定の取消訴訟において主張すべき違法事由を問うものである。
まず,本件不選定決定の違法事由を検討する前提として,①本件条例の施行の際にBの地位への配慮に欠ける点がなかったか,②委員会の屋台営業候補者の推薦に係る判断に瑕疵はなかったか(より具体的には,屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せに不合理な点はなかったか。)という問題の検討が求められる。
①の問題については,Bが本件区画で10年以上も屋台営業を行ってきたという事実を踏まえ,市道占用許可は財産権保護の観点から更新が原則であるという解釈が成り立たないか,屋台営業において他人の名義を借りることは,A市における実害や過去の取扱い,道路法及び本件条例で定める市道占用許可の要件に照らして,営業の実績が全て法的な保護に値しなくなるほど悪質な行為と評価できるかといった検討を行うことが要求される。この①の問題の検討の結果を踏まえ,市長が本件不選定決定を行う際に自身の公約を重視する一方でBの地位に更なる配慮を行わなかったことについていかなる違法事由を主張すべきかが論じられるべきことになる。
②の問題については,委員会の申合せが本件条例施行規則第19条各号の選定基準に照らして是認することができるか,また,新規に屋台営業を始めようとして公募に応募した者の利益を不当に侵害することにならないかの検討が要求される。前者は,基本的に本件条例施行規則第19条各号の解釈の問題であるが,後者は,とりわけ,屋台営業候補者選定指針は目にしたものの本件委員会の申合せを知るすべもなく公募に応募した者の権利保護といった観点からの検討が期待される。この②の問題の検討の結果を踏まえ,最判昭和50年5月29日民集29巻5号662頁を参考にして,市長が本件不選定決定を行うことによって「特段の合理的な理由」がないにもかかわらず委員会の推薦を覆したとの違法事由を主張し得るかが論じられるべきことになる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1(1)——本件不選定決定の処分性
1 規範
取消訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭39.10.29)。その判断においては、根拠法令の仕組みに照らした法的効果の有無のほか、実効的な権利救済の必要性をも考慮する。
2 公権力性及び法令に基づく行為であること
本件条例26条1項は、市長が公募を行った場合には委員会に諮り屋台営業候補者を選定するものと定め、同条2項は委員会が規則で定める基準に基づき適当と認める者を推薦するものと定める。本件条例施行規則18条は、選定を受けようとする者(公募申請者)が市長が定める期間内に応募申請書に所定の書類を添えて提出すべきものとし、同規則21条2項は、選定しないこととしたときは屋台営業候補者不選定通知書により公募申請者に通知するものとする。
このように、本件条例及び同施行規則は、私人の側の応募(申請)と、これに対する市長の選定又は不選定という応答及びその通知を一対のものとして定めている。すなわち、屋台営業候補者の選定は、公募申請者の申請に対して行政庁が諾否の応答をする行為であり、A市の優越的地位に基づく一方的判断としてされるものであるから、公権力の行使に当たる。本件不選定決定は、申請拒否処分としての性質を有する。
3 法的効果
本件条例9条1項は、市長は申請者の申請の内容が道路法33条1項に規定する場合に該当する場合であって、同項各号の基準のいずれにも適合するときに限り市道占用許可を与えるものとすると定め、同項2号は、申請者が、現営業者の配偶者又は直系血族で生計維持要件を満たす屋台営業従事者(ア)、又は本件条例25条1項に規定する屋台営業候補者(イ)のいずれかであることを要求する。
Bは現営業者の配偶者又は直系血族ではないから、屋台営業候補者に選定されない限り、本件条例9条1項2号の要件を欠き、市道占用許可を受けることが法律上およそ不可能となる。すなわち、本件不選定決定は、Bが市道占用許可を受ける資格を確定的に失わせるものであり、Bの法的地位に直接の影響を及ぼす。
なお、A市は、本件条例9条を行政手続法上の審査基準として定めており、A市も我々と同じ立場に立つ。審査基準であるとしても、それは市道占用許可の要件を定める基準であり、合理的な理由なくこれと異なる取扱いをすることは平等原則に反するから、屋台営業候補者でない者が市道占用許可を受けられないという帰結は変わらない。
4 中間段階の決定にすぎないとの反論
A市は、Bが最終的に求めているのは市道占用許可であって、本件不選定決定はその前段階の内部的決定にすぎず、Bは市道占用許可を申請し、不許可処分を受けてその取消訴訟において本件不選定決定の違法を争えばよいと反論する。
しかし、第一に、前述のとおり本件不選定決定は、それ自体として申請に対する応答であり、通知の様式まで定められている。第二に、市道占用許可は6か月ごとの更新であり、営業希望場所は1か所に限定され、区画ごとに総合成績が最も優れた者各1名のみが推薦されるという仕組みであるから、不選定決定を放置したまま後の段階で争わせるのでは、その間に当該区画が他者に占められ、原状回復が著しく困難となる。第三に、本件条例9条1項2号が屋台営業候補者であることを明確な要件としているため、市道占用許可の不許可処分の取消訴訟において選定の適否が十分に審理される保障もなく、かえってBは拒否されることが明らかな申請を強いられる。
よって、実効的な権利救済の観点からも、本件不選定決定の段階で争わせるべきである。本件不選定決定は処分に当たる。
第2 設問1(2)——訴えの利益
1 問題の所在
A市は、市長は既にCに対し本件区画について本件候補者決定を行っており、本件区画の屋台営業候補者は1名に限られるから、本件候補者決定が取り消されない限りBは選定を受けられず、本件不選定決定を取り消しても法律上の利益の回復はないとして、訴えの利益(行訴法9条1項括弧書)が失われていると反論する。
2 検討
取消訴訟においては、処分の取消しにより回復すべき法律上の利益が存在する限り、訴えの利益が認められる。
本件区画についての公募は、各応募者が営業希望場所1か所を明記して応募し、営業希望場所ごとに総合成績が最も優れた者各1名が推薦され選定されるという仕組みであるから、BとCは本件区画について競願関係に立つ。そして、本件不選定決定と本件候補者決定とは、同一の審査の結果として一体的にされたものであり、Bを選定しないことがCを選定することと表裏の関係にある。
本件不選定決定の取消判決が確定した場合、市長は判決の趣旨に従い改めて申請に対する処分をする義務を負う(行訴法33条2項)。確かに本件候補者決定は本件不選定決定の取消判決によって当然に取り消されるものではない。しかし、判例は、競願関係にある場合、一方に対する拒否処分の取消判決が確定すれば、行政庁は判決の趣旨に従って審査をやり直すべきこととなり、その結果、競願者に対する許可を撤回して原告に許可を与える可能性が残されているとして、訴えの利益を肯定している(最判昭43.12.24)。
本件でも、取消判決により市長は本件区画についての選定を改めてやり直す義務を負う。その際、判決が示す違法事由に従って審査をすれば、Bが総合成績第1位となり選定を受ける可能性が現実に存する。現に、委員会はBを屋台営業候補者として適当と認める者として推薦していたのであり、市長が申合せに基づく点数を差し引いたためBが第2位となったにすぎないから、やり直しによってBが選定される可能性は具体的かつ高度である。市長は、Cに対する本件候補者決定を撤回し、又は市道占用許可を与えないことによってこれに対応しうる。
3 結論
よって、Bは本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益を有する。
第3 設問2——違法事由
1 市長の裁量と審査の方法
本件条例26条1項は、市長が委員会に諮り屋台営業候補者を「選定するものとする」と定めるにとどまり、同25条1項は公募を行うこと自体を市長の判断に委ね、選定基準である同施行規則19条各号も「具体的な取組が示されていること」「創意工夫が見られること」「意欲が感じられること」といった評価的・概括的な文言である。したがって、市長には選定につき広範な裁量が認められ、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り違法となる(行訴法30条)。
もっとも、本件不選定決定は、Bの屋台営業による生計の維持を直接左右するものであるから、判断過程に着目し、①考慮すべき事項を考慮しなかったか、②考慮すべきでない事項を考慮したか、③各考慮事項の評価が合理性を欠くかを審査すべきである。
2 Bの地位への配慮を欠く違法
(1) Bの主張 Bは、本件区画で10年以上も屋台営業を行い、A市との間でトラブルもなく、屋台営業が生活の基盤となっている。道路法32条1項の市道占用許可は、A市では6か月ごとに更新されてきたのであり、継続的な営業を前提とする占用許可については、更新が原則であり、不更新には合理的理由を要すると解すべきである。他人名義営業者であっても、現に自ら営業を継続してきた者には、更新を期待し得る法的地位が認められる。
そして、新しい条例を施行する場合には経過措置を設けるのが通例であり、既存の営業者の地位に対する配慮としてそれが法的に要請される場合もある。しかし、市長が示した配慮は、本件条例の施行から6か月後に屋台営業候補者が営業を開始できるよう速やかに公募を実施し、その間は他人名義営業の継続を暫定的に認めるというものにとどまり、現に有効な市道占用許可の期間の範囲内の猶予にすぎず、実質的な経過措置とはいえない。6か月以内に新たな店舗や仕事を探すことは困難であり、営業基盤の喪失という不利益は重大である。
(2) A市の反論 A市は、他人の名義を借りた屋台営業は、自ら市道占用許可を受けずに道路を占用するものであって無許可占用に当たり、本件条例13条1項が市道における屋台営業は市道占用許可を受けた者が自ら行わなければならないと定め、同条2項が許可に係る権利の譲渡・転貸を禁止する趣旨にも反する違法な営業であるから、その実績は法的保護に値しないと反論する。
(3) 検討 確かに名義貸しによる営業は許されない。しかし、名義貸し行為は、A市において長年にわたり事実上放置され、A市議会で繰り返し取り上げられながら手付かずのままとされてきたものであり、行政が長期間これを黙認してきた経緯がある。また、A市の屋台は、全国的に姿を消しつつある中でA市の個性として貴重な観光資源となり、街に賑わいや防犯効果をもたらしてきた。Bの営業も10年以上継続し、A市との間でトラブルもなかった。道路法33条1項及び本件条例9条1項が定める占用許可の実体的要件(暴力団員等でないこと、場所の適合性等)に照らしても、Bに欠けるところはない。
これらに照らせば、名義を借りたという一事をもって、10年以上の営業実績が全て法的保護に値しなくなるほど悪質な行為と評価することはできない。本件条例が名義貸しを禁止し新規許可を屋台営業候補者に限定したこと自体は、名義貸しの一掃という正当な立法目的に基づくものであり違法とまではいえないとしても、個別の選定に当たっては、他人名義営業者の営業実績及び営業基盤喪失の不利益は、当然に考慮すべき事項である。
それにもかかわらず、市長は、前回市長選挙で屋台営業の刷新を公約に掲げて当選したことから、屋台営業者の交代をより積極的に推進して公約を実現したいという動機により、委員会が営業実績を踏まえて与えた点数を一律に差し引いた。公約の実現という市長個人の政治的動機は、本件条例25条1項及び同施行規則19条各号が定める考慮事項ではなく、考慮すべきでない事項である。市長は、これを考慮する一方で、Bの営業実績及び生活基盤という考慮すべき事項を一切考慮しなかった。
よって、本件不選定決定は、他事考慮及び考慮不尽により裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法である。
3 委員会の申合せの合理性
もっとも、A市は、委員会の申合せが不合理であるから市長がこれに基づく推薦を覆したのは当然であると反論する。そこで、申合せの合理性を検討する。
(1) 選定基準との適合性 本件指針は、本件条例施行規則19条1号から4号までの各号の審査に25点ずつ配点し、各号の審査において考慮すべき要素を例示する。委員会の申合せは、各号の審査において25点の配点の範囲内で営業実績を踏まえて5点を与えるというものである。
19条1号は関係法令等の遵守と安全で快適な公共空間及び良好な公衆衛生を確保する具体的な取組を、2号は従来のA市らしい屋台文化を守るとともに新たな魅力を創出するための創意工夫を、3号は地域の清掃活動への参加等地域貢献に向けた具体的な取組を、4号はまちににぎわいや人々の交流の場を創出しまちの魅力を高めようとする意欲を、それぞれ要求する。
これらは、いずれも将来の屋台営業の在り方に関する基準であるが、その実現可能性や真摯性を判断するに当たり、現に長年屋台営業を営んできた実績を考慮することは合理的である。とりわけ2号の「従来のA市らしい屋台文化を守る」ことは、既存営業者の継続的営業と親和的であり、3号の地域貢献や4号の意欲についても、過去の実績が有力な判断資料となる。A市との間でトラブルのなかった他人名義営業者は今後A市の屋台政策への確実な貢献が期待できるという委員会の判断は、19条各号の趣旨に沿うものである。他方、1号の「関係法令等を遵守」という点では名義貸しは消極的に評価されるべき事情であるが、各号25点の配点の範囲内で5点にとどめる扱いは、評価として不合理とはいえない。
(2) 新規応募者の利益との関係 もっとも、本件指針はA市のウェブサイトで公開されているのに対し、委員会の申合せは公表されていない。屋台営業候補者選定指針のみを見て応募した新規応募者は、営業実績に一律に5点が加算されることを知るすべがなかった。A市は、平成7年からA市行政手続条例を施行しており、同条例は行政手続法第2章と同じ内容の規定を設けている。同条例の定める審査基準は、できる限り具体的なものとし、かつ公にしておかなければならないとされている(行手法5条2項・3項に対応)。公表された本件指針と異なる実質的な加点基準を非公開の申合せで設けることは、審査基準の公表義務の趣旨に反し、新規応募者の予測可能性及び公正な競争の利益を害する。
(3) 小括 したがって、申合せの実体的内容は19条各号の選定基準に照らして是認し得るが、これを公表しないまま運用した点には手続的な問題がある。しかし、この問題は、営業実績の考慮自体を不合理とするものではなく、むしろ本来は本件指針において営業実績を考慮要素として明示すべきであったことを意味する。実体的に是認し得る考慮要素である以上、市長が申合せに基づく点数を一律に差し引くことを正当化する「不合理性」は認められない。
4 委員会の推薦を覆した手続的瑕疵
(1) 本件条例26条1項は、市長が屋台営業候補者を選定するに当たり委員会に諮るものとし、同条2項は委員会が規則で定める基準に基づき適当と認める者を推薦するものと定め、同28条1項は委員会を市長の附属機関として置く。委員会は有識者で構成され、本件指針に従って営業希望場所ごとに審査を行う。
このように、委員会は、屋台営業候補者の選定という専門的・政策的判断について、公正かつ慎重な判断を担保するために置かれた諮問機関である。判例は、諮問機関の決定について、行政庁が諮問機関の決定を尊重すべきこと、及び諮問手続において必要とされる審理の慎重・公正を欠くときは当該処分が違法となることを示している(最判昭50.5.29)。この趣旨に照らせば、行政庁は、諮問機関の答申・推薦に法律上拘束されるものではないが、専門機関の判断を尊重すべきであり、これと異なる判断をするには特段の合理的な理由を要すると解すべきである。
(2) 本件では、委員会はBを本件区画の屋台営業候補者として適当と認める者として推薦していた。それにもかかわらず、市長は、委員会の審査結果から申合せに基づく点数を一律に差し引いた総合成績に基づいて選定を行い、推薦を覆した。
その理由は、屋台営業者の交代をより積極的に推進して自らの公約を実現したいという政治的動機であり、前述のとおり考慮すべきでない事項である。また、申合せの実体的内容は19条各号に照らして是認し得るものであったから、これを不合理として全面的に排除することに合理性はない。仮に申合せの非公表に問題があると考えたのであれば、市長は委員会に再度の諮問を行い、公表された基準に基づく審査をやり直させるべきであって、自ら点数を操作して結論を変更することは、委員会に諮ることを定めた本件条例26条の趣旨を潜脱するものである。
(3) よって、市長が特段の合理的な理由なく委員会の推薦を覆して本件不選定決定を行ったことは、本件条例26条に反する手続的瑕疵であり、この点でも本件不選定決定は違法である。
以上