司法試験 令和2年 行政法
問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕の配点割合は45:30:25〕)
Xは,A県B市内の自宅脇に所有する農地において農業を営んでいたが,地域に医療施設が存在せず,その設置を望む声が近隣の農家に強いことから,医師である長男に医院を開設させることとし,所有する農地の一部(以下「本件農地」という。)を転用して,そこに長男のための医院を建築することを計画した。このため,農地法第4条第1項に基づく農地の転用許可の取得が必要となり,XがB市の担当課に相談したところ,農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)
第8条第1項に基づきB市が定めた農業振興地域整備計画の一環としての農用地利用計画(以下「本件計画」という。)により,本件農地が同条第2項第1号所定の農用地区域内の農地に指定されている旨を指摘された。そして,そのままでは同法第17条及び農地法第4条第6項第1号イにより転用は認められず,A県への転用許可申請の前提として,B市に対して,農振法第13条第1項に基づく本件計画の変更により本件農地を農用地区域から除外することを申し出なければならない旨を伝えられた。
Xの相談を受けて,B市の担当課が精査したところ,本件農地を含む区域においては,平成13年4月頃からA県により国の補助を受けて土地改良法に基づく土地改良事業として農業用の用排水施設の改修事業(以下「本件事業」という。)が実施されていたことが判明した。すなわち,本件事業は,従来の用排水施設の老朽化に伴い,大雨時の周辺農地の冠水や施設の維持管理労力の増加等の弊害が顕在化したために,施設の補修・改修を行うもので,本件農地を直接の受益地とする上流部分については,平成20年末頃には工事が終了していたものの,その後の計画変更による工事の中断もあって,全体としては,平成30年12月に完了している。そのため,同課においては,本件事業は,農振法第10条第3項第2号及び農業振興地域の整備に関する法律施行規則第4条の3第1号イの事業に該当し,農業振興地域の整備に関する法律施行令(以下「農振法施行令」という。)
第9条により,当該工事の完了した平成30年度の翌年度の初日から起算して8年を経過するまでは,本件農地は農振法第13条第2項第5号の要件を満たさないとの判断がなされた。そして,同課職員は,Xに対し,この期間が経過するまでは,本件農地についての本件計画の変更の申出は受け付けられない旨を回答した。
しかし,Xは,これに納得せず,B市長が定めた「農業振興地域整備計画の管理に関する運用指針」(以下「本件運用指針」という。)第4条第1項により,令和元年5月8日,B市長に対する本件計画の変更申出書(以下「本件申出書」という。)を所定の窓口に提出しようとしたものの,その受け取りを拒否されたため,即日,本件申出書を担当課に郵送した。本件申出書は,同月10日,同課に到達したが,同課は,これをXに返送した。これについてXが同課に電話で問い合わせたところ,同課職員は,所定の期間が経過するまでは,本件農地についての申出を受け付けることはできない旨を答えた。これに対して,Xは,申出をやめる意思がない旨を職員に伝えたものの,その後,翌令和2年5月中旬になっても,B市から本件計画の変更又はその拒絶についての本件運用指針第4条第4項による通知は受けていない。
Xは,本件計画の変更を実現するため,訴訟を提起すべく,同月13日,弁護士Cに相談した。
以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Cの指示に沿って,弁護士Dの立場に立って,B市の反論を想定しながら設問に答えなさい。
なお,関係法令の抜粋を【資料1 関係法令】に,本件運用指針の抜粋を【資料2 B市農業振興地域整備計画の管理に関する運用指針(抜粋)】に,それぞれ掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕
⑴ Xは,B市を被告として,抗告訴訟を提起することを考えている。本件計画の変更及びその申出の拒絶は,抗告訴訟の対象となる処分に該当するかを検討しなさい。
⑵ 本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であることを前提として,本件申出書を返送されたXが提起すべき抗告訴訟について,その訴訟要件の充足性と本案においてすべき主張をそれぞれ検討しなさい。ただし,Xの申出に対する拒否処分はされていないものとし,義務付けの訴えについては検討を要しない。
〔設問2〕仮に,今後,B市によって,本件計画の変更の申出前にB市担当課職員がした回答どおりの理由により,同申出を拒絶する通知がなされ,Xがそれに対する取消訴訟を提起する場合,本案において,どのような違法事由を主張することが考えられるかを検討しなさい。ただし,当該訴訟が適法であることを前提とする。
【法律事務所の会議録】弁護士C:それでは,Xさんの案件について,検討しましょう。本件農地について,農用地区域から除外するための本件計画の変更の申出をB市が認めないことに関する争いですから,本件計画の変更,更にその申出の拒絶の処分性から検討しましょう。
弁護士D:農用地区域から除外するための計画変更については,その処分性を否定するB市による主張が予想されます。しかし,こうした計画変更やその申出の拒絶の処分性については,下級審の判断も分かれており,まだ,決着はついていないようですので,なお,検討の余地はありそうです。
弁護士C:そうですね。では,まず,農用地区域を定める計画自体の法的性格を検討してみてください。本件計画の設定が区域内の農地所有者の権利義務に及ぼす影響を整理した上,都市計画法上の用途地域指定についての判例(最高裁判所昭和57年4月22日第一小法廷判決,民集36巻4号705頁)も参考にして,計画としての性質や規制の程度などの違いも考えながら,本件計画の法的性格を考えてみましょう。さらに,それを踏まえて,本件農地のような個別の農地を農用地区域から除外するための計画変更の処分性を検討してください。
弁護士D:承知しました。
弁護士C:もっとも,本件計画の変更に処分性を認めることができたとしても,当然に,それについての申出の拒絶に処分性が認められることにはなりません。農振法上は,本件計画の設定と同様に市町村等の職権による計画変更が前提とされているように思えますが。
弁護士D:本件のような個別の農地についての計画変更を判断するためには,実務上,農地所有者等からの申出が不可欠で,こうした計画変更は,多くの市町村で広く行われています。特にB市においては,市長の策定した本件運用指針第4条によって計画変更の申出とそれに対する可否の通知の手続が定められています。
弁護士C:それでは本件運用指針の存在なども考慮に入れながら,その申出の性格と併せて,本件計画の変更及びその申出の拒絶の処分性を検討してください。ただし,Xさんは,本件農地についての別の処分を申請して,その拒否処分に対して取消訴訟を提起することもできるわけですので,本件計画の変更の段階での抗告訴訟による救済の必要性も,検討してください。
弁護士D:承知しました。
弁護士C:つぎに,Xさんは,本件計画の変更の申出をしたわけですが,本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であるとすれば,その申出に対する可否の通知をしないB市の担当課による処理については,行政手続法上も問題がありそうですね。
弁護士D:B市は,農用地区域からの除外に1年程度を要する旨を公表しており,Xさんと同時期にB市にその申出をした他の農地所有者らに対しては,既に先月中に通知がなされています。
弁護士C:それでは,本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であること,Xさんの申出への拒否処分がされていないことを前提として,その置かれている状態やB市による対応の法的な意味を検討した上で,どのような抗告訴訟を提起すべきかを検討してください。その訴訟要件の充足性に加えて,本案においてすべき主張についても検討をお願いします。義務付けの訴えの提起も考えられますが,これについては,今回の検討からは除外しておきます。
弁護士D:承知しました。
弁護士C:最後に,今後,B市により,本件計画の変更の申出前にB市担当課職員がした回答どおりの理由により,本件計画の変更の申出を拒絶する通知がなされる可能性もありますので,これに対してXさんが取消訴訟を提起する場合,当該訴訟が適法であることを前提として,本案においてどのような違法事由の主張が考えられるかも,検討しておいてください。今回は,手続上の違法は,検討から除外しておきましょう。
弁護士D:B市は,土地改良事業である本件事業との関係から,農振法第13条第2項第5号を満たさないとしていますが,Xさんは,本件農地については,この要件を充足していると考えています。Xさんによると,本件事業は,農地の冠水の防止を主たる目的とするもので,これによって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくいそうです。とりわけ,本件農地は,高台にあるため,ほとんど本件事業の恩恵は受けないと言っています。
弁護士C:それでは,まず,その点にどのような違法が考えられるかについて,本件計画の目的も踏まえて,検討してください。
弁護士D:さらに,本件事業全体の完了は平成30年でしたが,本件農地と関連する部分の工事については,その10年も前に完了していたそうで,農振法施行令第9条の規定する8年という期間制限を一律に適用されることにも,Xさんは不満を感じています。
弁護士C:この政令自体が無効であるとまではいえず,その定める8年という期間も不適切とまではいえないとしても,例外を認めずに,この政令の定める期間制限を機械的に適用していることに問題がありそうですね。土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限している農振法の趣旨目的を踏まえて,本件農地について,これに基づく政令所定の期間制限に例外を認める解釈を検討してください。
弁護士D:承知しました。
【資料1 関係法令】〇 農地法(昭和27年法律第229号)(抜粋)
(農地の転用の制限)
第4条 農地を農地以外のものにする者は,都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。(以下略)
一~九 (略)
2~5 (略)
6 第1項の許可は,次の各号のいずれかに該当する場合には,することができない。(以下略)
一 次に掲げる農地を農地以外のものにしようとする場合イ 農用地区域(中略)内にある農地ロ (略)
二~六 (略)
7~11 (略)
〇 農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)(抜粋)
(農業振興地域の整備の原則)
第2条 この法律に基づく農業振興地域の指定及び農業振興地域整備計画の策定は,農業の健全な発展を図るため,土地の自然的条件,土地利用の動向,地域の人口及び産業の将来の見通し等を考慮し,かつ,国土資源の合理的な利用の見地からする土地の農業上の利用と他の利用との調整に留意して,農業の近代化のための必要な条件をそなえた農業地域を保全し及び形成すること並びに当該農業地域について農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進することを旨として行なうものとする。
(市町村の定める農業振興地域整備計画)
第8条 都道府県知事の指定した一の農業振興地域の区域の全部又は一部がその区域内にある市町村は(中略)その区域内にある農業振興地域について農業振興地域整備計画を定めなければならない。
2 農業振興地域整備計画においては,次に掲げる事項を定めるものとする。
一 農用地等として利用すべき土地の区域(以下「農用地区域」という。)及びその区域内にある土地の農業上の用途区分二~六 (略)
3 (略)
4 市町村は,第1項の規定により農業振興地域整備計画を定めようとするときは(中略)当該農業振興地域整備計画のうち第2項第1号に掲げる事項に係るもの(以下「農用地利用計画」という。)
について,都道府県知事に協議し,その同意を得なければならない。
(農業振興地域整備計画の基準)
第10条 (略)
2 (略)
3 市町村の定める農業振興地域整備計画のうち農用地利用計画は,当該農業振興地域内にある農用地等及び農用地等とすることが適当な土地であつて,次に掲げるものにつき,当該農業振興地域における農業生産の基盤の保全,整備及び開発の見地から必要な限度において農林水産省令で定める基準に従い区分する農業上の用途を指定して,定めるものでなければならない。
一 (略)
二 土地改良法(中略)に規定する土地改良事業又はこれに準ずる事業で,農業用用排水施設の新設又は変更,区画整理,農用地の造成その他の農林水産省令で定めるものの施行に係る区域内にある土地三~五 (略)
4,5 (略)
(農業振興地域整備計画の変更)
第13条 都道府県又は市町村は,農業振興地域整備基本方針の変更若しくは農業振興地域の区域の変更により(中略)又は経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは(中略)遅滞なく,農業振興地域整備計画を変更しなければならない。(以下略)
2 前項の規定による農業振興地域整備計画の変更のうち,農用地等以外の用途に供することを目的として農用地区域内の土地を農用地区域から除外するために行う農用地区域の変更は,次に掲げる要件のすべてを満たす場合に限り,することができる。
一~四 (略)
五 当該変更に係る土地が第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合にあつては,当該土地が,農業に関する公共投資により得られる効用の確保を図る観点から政令で定める基準に適合していること。
3,4 (略)
(土地利用についての勧告)
第14条 市町村長は,農用地区域内にある土地が農用地利用計画において指定した用途に供されていない場合において,農業振興地域整備計画の達成のため必要があるときは,その土地の所有者又はその土地について所有権以外の権原に基づき使用及び収益をする者に対し,その土地を当該農用地利用計画において指定した用途に供すべき旨を勧告することができる。
2 市町村長は,前項の規定による勧告をした場合において,その勧告を受けた者がこれに従わないとき,又は従う見込みがないと認めるときは,その者に対し,その土地を農用地利用計画において指定した用途に供するためその土地について所有権又は使用及び収益を目的とする権利を取得しようとする者で市町村長の指定を受けたものとその土地についての所有権の移転又は使用及び収益を目的とする権利の設定若しくは移転に関し協議すべき旨を勧告することができる。
(都道府県知事の調停)
第15条 市町村長が前条第2項の規定による勧告をした場合において,その勧告に係る協議が調わず,又は協議をすることができないときは,同項の指定を受けた者は,その勧告があつた日から起算して2箇月以内に(中略)都道府県知事に対し,その協議に係る所有権の移転又は使用及び収益を目的とする権利の設定若しくは移転につき必要な調停をなすべき旨を当該市町村長を経由して申請することができる。
2 都道府県知事は,前項の規定による申請があつたときは,すみやかに調停を行なうものとする。
3,4 (略)
(農用地区域内における開発行為の制限)
第15条の2 農用地区域内において開発行為(中略)をしようとする者は,あらかじめ(中略)都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。(以下略)
一~十二 (略)
2~10 (略)
(農地等の転用の制限)
第17条 都道府県知事(中略)は,農用地区域内にある(中略)農地及び採草放牧地についての同法〔(注)農地法〕第4条第1項(中略)の許可に関する処分を行うに当たつては,これらの土地が農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならない。
〇 農業振興地域の整備に関する法律施行令(昭和44年政令第254号)(抜粋)
〔(注) 本政令中,「法」は農業振興地域の整備に関する法律を指す。〕(農用地区域の変更に係る基準)
第9条 法第13条第2項第5号の政令で定める基準は,当該変更に係る土地が法第10条第3項第2号に規定する事業の工事が完了した年度の翌年度の初日から起算して8年を経過した土地であることとする。
〇 農業振興地域の整備に関する法律施行規則(昭和44年農林省令第45号)(抜粋)
〔(注) 本規則中,「法」は農業振興地域の整備に関する法律を指す。〕(土地改良事業等)
第4条の3 法第10条第3項第2号の農林水産省令で定める事業は,次に掲げる要件を満たしているものとする。
一 次のいずれかに該当する事業(主として農用地の災害を防止することを目的とするものその他の農業の生産性を向上することを直接の目的としないものを除く。)であること。
イ 農業用用排水施設の新設又は変更(当該事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地にあつては,当該事業を除く。)
ロ~ホ (略)
二 次のいずれかに該当する事業であること。
イ 国が行う事業ロ 国が直接又は間接に経費の全部又は一部につき補助を行う事業
【資料2 B市農業振興地域整備計画の管理に関する運用指針(抜粋)】(目的)
第1条 農用地区域は,今後おおむね10年以上にわたり農業上の利用を確保すべき土地について設定するものであり,農用地利用計画の変更については,十分慎重を期す必要があるため,その場合における運用基準を定めるものである。
(変更手続き)
第4条 農用地利用計画の変更を必要とする者(以下「申出人」という。)は,別に定める申出書と必要な関係書類を添えて,正副2部作成し,農業振興課窓口に提出しなければならない。
2 農用地利用計画の変更の申出が計画を変更すべき事由に該当する場合は,B市農業振興審議会に付議し,意見を求めるものとする。
3 農用地利用計画の変更をするときは,県(国)と事前に協議を行うこととする。
4 申出書による農用地利用計画の変更の可否については,申出人に通知するものとする。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕農地を他の目的に転用するに際しては,農地法第4条第1項に基づく都道府県知事等による農地転用許可を要するが,当該農地が農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)第8条第1項に基づく市町村の農用地利用計画により,農用地区域内の農地に指定されている場合には,原則として,農地の転用は認められない。したがって,こうした農地を転用するためには,その前提として,農振法第13条第1項に基づく計画変更による当該農地の農用地区域からの除外を求めなければならない。本問は,近隣農家のための医院設置を目的として農地(以下「本件農地」という。)を転用するため,それを農用地区域から除外するためのB市による農用地利用計画(以下「本件計画」という。)の変更が求められた事例について,農振法や関係法令の仕組みを踏まえながら,そこでの法律問題を分析することが求められている。
まず,本問の事例においては,Xによる本件農地を農用地区域から除外するための本件計画の変更をB市が認めておらず,それを争う前提として,本件計画の変更及びその申出の拒絶の処分性が問われている(設問1(1))。さらに,本件計画の変更及びその拒絶が処分であることを前提として,Xによる本件農地の農用地区域からの除外の申出をB市が受け付けず,これに対する可否の通知をしていない状況において,Xが選択すべき抗告訴訟の検討が求められる(設問1(2))。最後に,B市により,本件申出を拒絶する通知がなされた場合に,それに対する取消訴訟において,Xがどのような違法事由を主張すべきかが問われている(設問2)。以上の点について,【法律事務所の会議録】を踏まえながら,そこで示されている弁護士Cの指示に沿って,B市による反論も想定しつつ,弁護士Dの立場から検討することが求められる。
まず,【設問1】(1)は,いわゆる処分性を問うものであるが,農用地区域の設定や除外の処分性については,なお,下級審判決は分かれている。まず,農用地区域の設定自体については,その法的効果として,農振法等により,様々な農地の利用制限が規定されている。こうした土地利用を規制する計画の法的性格については,都市計画法上の用途地域に関し,これを法令類似のものであるとする判例(【法律事務所の会議録】に掲げられた最高裁判所昭和57年4月22日第一小法廷判決)がある。しかし,その適用範囲や規制の強度等を考えると,これと農用地区域の規制を同視し得るか否かは問題となろうし,さらに,その範囲の点からも,個別の農地についての農用地区域からの除外について,同様に解してよいかについては,別途,検討を要する。さらに,本件の事例においては,B市の内部規程とはいえ,運用指針には,農用地区域からの除外の申出と可否の通知が制度化されており,これを農振法の趣旨を具体化したものとみて,農用地区域からの除外について,農地所有者等の申請権を読み取り,本件申出に対する可否の通知に処分性を認める解釈もあり得よう。さらに,処分性の判断においては,救済の必要性に関する実質的考慮も求められることから,本問の事案においても,後に予想される農地法第4条第1項に基づく農地転用許可の拒否処分に対する取消訴訟の段階での救済可能性の評価についても,言及が求められている。
次に,【設問1】(2)は,本件計画の変更及びその申出の拒絶に処分性が認められることを前提としつつ,B市が本件申出を返送して,1年以上たっても,これに対する可否の通知をしていないという事案について,Xがいかなる抗告訴訟を選択すべきかの検討が求められる。それらが処分であることを前提とすると,本件計画の変更の申出は申請であることになるが,まずは,行政手続法第7条に照らすと,Xの申出は,いかなる状況に置かれていることになるか。
行政手続法の基本的な理解が問われている。その結果,Xが選択すべき抗告訴訟は,不作為の違法確認訴訟ということになるが,事案から読み取れる範囲で,その訴訟要件充足性及び本案の主張の検討も求められる。Xの申出の置かれている状況を前提として,訴訟要件としては,Xの申出が「法令に基づく申請」に該当すること,それに対する処分がなされていないこと,本案の主張としては,申出から「相当の期間」が経過していることが整理されなければならない。なお,申請型義務付け訴訟の併合提起が考えられるが,本問では,その検討は求められていない。
最後に,【設問2】においては,その後にXの申出に対する拒絶の通知がなされたと仮定して,その取消訴訟において,この申出を拒絶することの違法事由として,Xが主張すべき違法事由の検討が求められる。農用地区域からの除外については,農振法や関係法令において,極めて多岐にわたる積極又は消極の要件が規定されているが,ここでは,事前の相談においてB市から示された拒絶の理由について,その妥当性が問題とされる。すなわち,土地改良事業である用排水施設の改修との関係について,やや複雑な法令の適用関係に照らして,農振法第13条第2項第5号の要件の充足性を検討することが求められる。まず,本件事業の目的や本件農地との関係など,与えられた事案の範囲で,農業の振興という本件計画の基本的な目的も踏まえつつ,本件事業が農振法第10条第3項第2号及び同法施行規則第4条の3第1号イの事業に該当するか否かが検討され,それに基づいて申出の拒絶の違法事由が提示されなければならない。次に,同法施行令第9条の規定する8年という期間制限の本件農地に対する適用が問題とされる。同条の文言上は,農用地区域からの除外が例外なく一律に排除されているようにも読めるが,こうした政令は,無効とまでは言えないとしても,委任した法律の趣旨目的に適合するように解釈されなければならない。土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限する農振法の目的は,「公共投資により得られる効用の確保」である。このことから,本件農地の農用地区域からの除外が本件事業の「効用」に与える影響との関係を踏まえて,一律の期間制限に例外を認める解釈が求められることとなる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1(1)——処分性
1 規範
抗告訴訟の対象となる「処分」(行政事件訴訟法3条2項)とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭39.10.29)。その判断においては、根拠法令の仕組みに照らして当該行為が国民の法的地位に与える影響のほか、実効的な権利救済の必要性をも考慮すべきである。
2 本件計画(農用地区域の設定)自体の法的性格
まず前提として、本件計画そのものの法的性格を検討する。農用地区域内の土地については、①農地法4条1項の転用許可が同条6項1号イによりすることができないこととされ、農振法17条により都道府県知事は指定用途以外の用途に供されないようにしなければならない、②農振法15条の2第1項により開発行為が許可制となる、③同法14条1項により市町村長から指定用途に供すべき旨の勧告を受け、同条2項の協議勧告及び15条の都道府県知事の調停に至りうる、という各効果が生ずる。
B市は、都市計画法上の用途地域の指定について、それが不特定多数の者に対する一般的抽象的な効果を生ずるにすぎず、新たに当該地域内の土地所有者等に建築基準法上の制約を課す効果を伴うものの、それは法令が同地域内の個別の土地に適用された効果にほかならないとして処分性を否定した判例(最判昭57.4.22)を援用し、本件計画も法令類似のものとして処分性を欠くと反論する。
もっとも、用途地域の指定と異なり、農用地区域の設定は、転用を原則として全面的に禁止し(農地法4条6項1号イ)、さらに積極的に指定用途での利用を強制する勧告・協議勧告・調停という仕組み(農振法14条、15条)を伴う点で、規制の強度が格段に高い。また、本件運用指針1条が、農用地区域は今後おおむね10年以上にわたり農業上の利用を確保すべき土地について設定するものであるとしているように、対象区域は比較的限定されている。これらに照らせば、本件計画の設定自体についても処分性を認める余地はある。
3 農用地区域からの除外のための計画変更の処分性
もっとも、本問で問題となるのは、本件計画の設定ではなく、本件農地という個別の農地を農用地区域から除外するための計画変更である。
この計画変更がされれば、本件農地について上記①から③までの各規制が一挙に解除され、農地法4条1項の転用許可を受ける道が開かれる。逆に変更がされない限り、同条6項1号イにより転用許可は法律上することができない。すなわち、本件農地に係る計画変更は、特定の土地を名指しして、その土地に対する法的規制を個別的・具体的に解除するものであり、一般的抽象的な法令の定立とは性質を異にする。したがって、本件計画の変更は、直接に本件農地の所有者であるXの権利義務の範囲を確定するものであり、処分性が認められる。
4 申出の拒絶の処分性
(1) B市は、農振法13条1項が「都道府県又は市町村は……変更しなければならない」と定めるにとどまり、計画変更は専ら市町村等の職権によって行われることが前提とされており、農地所有者等に変更を求める申請権は法令上認められていないから、申出の拒絶は法的効果を有しない事実行為にすぎないと反論する。
(2) しかし、個別の農地についての計画変更の必要性は、当該農地の所有者の具体的な土地利用計画によって初めて明らかになるものであり、その判断には農地所有者等からの申出が実務上不可欠であって、現にそのような取扱いが多くの市町村で広く行われている。そしてB市においては、本件運用指針4条が、変更を必要とする者を「申出人」と位置付け、同条1項で申出書と関係書類の提出を定め、2項でB市農業振興審議会への付議、3項で県(国)との事前協議、4項で申出人に対する可否の通知を定めるという一連の手続を制度化している。
本件運用指針はB市長が定めた内部規程にすぎないが、その内容は、農振法13条1項が「情勢の推移により必要が生じたとき」に遅滞なく計画を変更すべきものとしている趣旨を具体化し、変更の必要性に関する情報を農地所有者から得る手続を定めたものと解される。また、農振法13条2項が農用地区域からの除外の要件を各号に列挙して具体的に定めていることは、要件を満たす土地について除外を受ける利益が法的に保護されていることを示す。これらを併せ読めば、農振法は農地所有者等に対し、計画変更の申出をし、これに対する諾否の応答を受ける地位を認めているものと解しうる。
(3) さらに、実効的な権利救済の必要性からも処分性を認めるべきである。B市は、Xは本件農地について農地法4条1項の転用許可を申請し、その拒否処分に対する取消訴訟で争えばよいと反論する。しかし、同条6項1号イは農用地区域内の農地について転用許可を「することができない」と定めるから、計画変更がされない限り拒否処分は必然であり、その取消訴訟において都道府県知事は計画変更権限を有しないA県の機関であって、計画変更の適否が実質的に審理される保障はない。かえって、Xは拒否されることが明らかな申請を強いられることになる。計画変更の段階で争わせることが、紛争の成熟性及び救済の実効性に適う。
(4) 以上より、本件計画の変更の申出の拒絶も処分に該当する。
第2 設問1(2)——提起すべき抗告訴訟
1 Xの置かれている状態
本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であるとすると、Xの申出は、行政庁に対し許認可等を求める行為であって、これに対し行政庁が諾否の応答をすべきこととされているもの、すなわち「申請」(行政手続法2条3号)に当たる。
行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく審査を開始しなければならず、申請書の記載事項に不備がないかなどの形式上の要件に適合しない申請については、速やかに補正を求めるか、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない(行手法7条)。したがって、申請書の受取りを拒否したり、これを返送することは許されない。
本件では、Xは令和元年5月8日に本件申出書を窓口に提出しようとして受取りを拒否され、同日郵送し、同月10日に担当課に到達している。到達により申請は効力を生じているから、B市がこれを返送したことは行手法7条に反する違法な取扱いであって、申請が不存在となるものではない。また、同課職員の電話での回答は、受け付けることができないという事務的な説明にとどまり、申出に対する拒否処分としての通知(本件運用指針4条4項)ではない。Xも申出をやめる意思がない旨を伝えている。
よって、Xの申請は現に係属しており、これに対して何らの処分もされていない「不作為」の状態が継続している。
2 提起すべき訴訟と訴訟要件
そこで、Xは、B市を被告として、不作為の違法確認の訴え(行訴法3条5項、37条)を提起すべきである。
(1) 原告適格 同訴えは、処分についての申請をした者に限り提起することができる(行訴法37条)。前述のとおりXの申出は「法令に基づく申請」に当たり、Xはこれをした者であるから、原告適格が認められる。「法令」には、法律の趣旨を具体化する本件運用指針を含めて理解すべきである。
(2) 不作為の存在 令和2年5月中旬に至っても、本件運用指針4条4項による可否の通知はされていない。B市は、申出書を返送したことにより申請は存在しないと反論するが、前述のとおり返送は行手法7条違反であって申請の効力を失わせない。したがって、申請に対し何らの処分もされていないという不作為が存在する。
(3) 被告適格・その他 処分をすべき行政庁であるB市長の所属するB市が被告となる(行訴法38条1項、11条1項1号)。不作為の違法確認の訴えには出訴期間の制限がなく、不作為状態が継続している限り訴えの利益も認められる。
3 本案の主張
本案においては、申請から「相当の期間」内に何らの処分もされないことを主張する。「相当の期間」は、当該処分の性質、審査に必要な事務量、標準処理期間(行手法6条)、同種申請の処理に要している期間等を総合考慮して判断すべきである。
本件では、B市は農用地区域からの除外に1年程度を要する旨を公表しており、これが事実上の標準処理期間に相当する。本件申出書は令和元年5月10日に到達しており、既に1年を超えている。しかも、Xと同時期にB市に申出をした他の農地farmers所有者らに対しては、既に令和2年4月中に通知がされている。すなわち、通常必要とされる期間は経過しており、B市が殊更Xの申請のみを放置していることは明らかである。
B市は、本件農地は農振法施行令9条の8年の期間が経過していないから要件を満たさず、審査を進める余地がないと反論する。しかし、要件を満たさないと判断するのであれば、速やかに拒否処分をすべきであって、応答を留保する理由とはならない。
よって、相当の期間の経過が認められ、B市長が本件申出に対して何らの処分もしないことは違法である。
第3 設問2——拒絶通知の違法事由
1 農振法13条2項5号の要件該当性
(1) 農用地等以外の用途に供することを目的として農用地区域内の土地を農用地区域から除外する変更は、農振法13条2項各号の要件のすべてを満たす場合に限りすることができる。同項5号は、当該変更に係る土地が同法10条3項2号に掲げる土地に該当する場合には、農業に関する公共投資により得られる効用の確保を図る観点から政令で定める基準に適合することを要するとする。
そして10条3項2号の土地とは、土地改良法に規定する土地改良事業等で農業用用排水施設の新設又は変更その他の農林水産省令で定めるものの施行に係る区域内にある土地である。同法施行規則4条の3は、第1号で「次のいずれかに該当する事業(主として農用地の災害を防止することを目的とするものその他の農業の生産性を向上することを直接の目的としないものを除く。)」とし、同号イで「農業用用排水施設の新設又は変更(当該事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地にあつては、当該事業を除く。)」と定める。
(2) 本件事業は、従来の用排水施設の老朽化に伴い、大雨時の周辺農地の冠水や施設の維持管理労力の増加等の弊害が顕在化したために施設の補修・改修を行うものである。すなわち、その主たる目的は農地の冠水の防止、つまり農用地の災害の防止であって、農業の生産性を向上することを直接の目的とするものではない。関係農地の生産性が本件事業によって向上するとは考えにくい。よって、本件事業は施行規則4条の3第1号の括弧書により除外され、同号の事業に該当しない。
(3) 仮に本件事業が一般には同号イの農業用用排水施設の変更に当たるとしても、同号イの括弧書は、「当該事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれない土地」については当該事業を除く旨を定めており、土地ごとの判断を要求している。本件農地は高台にあるため、大雨時の冠水のおそれが乏しく、ほとんど本件事業の恩恵を受けない。したがって、本件農地については、本件事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図られると見込まれないから、本件農地は10条3項2号の土地に該当しない。
(4) そうすると、本件農地については農振法13条2項5号の要件がそもそも適用されず、同号の不適合を理由とする拒絶は、要件該当性の判断を誤った違法なものである。農振法2条及び10条3項が農業振興地域における農業生産の基盤の保全、整備及び開発の見地から必要な限度において用途を指定すべきものとしていること、本件計画の目的が農業の振興にあることに照らしても、現実に農業生産基盤の整備の効用を受けない土地を規制の対象とすべき理由はない。
2 農振法施行令9条の期間制限の一律適用の違法
(1) 仮に本件農地が10条3項2号の土地に該当するとしても、B市は、本件事業全体が完了した平成30年度の翌年度の初日から起算して8年を経過していないとして(農振法施行令9条)、13条2項5号の要件を欠くとする。
(2) しかし、政令は法律の委任を受けて制定されるものであるから、委任した法律の趣旨目的に適合する範囲内でのみ効力を有し、かつその趣旨目的に適合するように解釈されなければならない。施行令9条自体が無効とまではいえず、8年という期間の設定も不適切とまではいえないとしても、同条を例外を認めず機械的に適用することは、委任法律の趣旨目的の範囲を逸脱し違法となる。
農振法13条2項5号が土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限する趣旨は、同号の文言が明示するとおり「農業に関する公共投資により得られる効用の確保を図る観点」にある。すなわち、国の補助等による公共投資がされた区域の土地が早期に農地以外の用途に転用されると、投資された費用に見合う農業上の効用が確保されないままとなるため、一定期間の転用を制限するものである。
(3) これを本件に当てはめると、第一に、本件農地を直接の受益地とする上流部分の工事は平成20年末頃には終了しており、本件事業全体の完了(平成30年12月)より10年も前である。全体の完了が遅れたのは、その後の計画変更による工事の中断という本件農地とは無関係の事情によるものである。本件農地に関しては既に投資後10年以上にわたり農業上の利用が確保されてきたのであるから、公共投資の効用は十分に確保されている。第二に、前述のとおり本件農地は高台にあり本件事業の恩恵をほとんど受けないから、本件農地を除外しても本件事業により得られる効用は実質的に減少しない。
(4) したがって、施行令9条の8年の期間は、当該土地を直接の受益地とする工事が完了した年度を起算点として解すべきであり、少なくとも、当該土地について公共投資の効用が既に確保され、除外によって効用が害されない場合には、同条の規律は及ばないと解すべきである。それにもかかわらず、本件事業全体の完了時を一律の起算点として同条を機械的に適用し、本件農地について例外を認めなかった判断は、委任法律である農振法13条2項5号の趣旨目的に反し違法である。
3 考慮不尽
なお、農振法13条1項は、情勢の推移により必要が生じたときに遅滞なく計画を変更すべきものとし、同法2条は土地の農業上の利用と他の利用との調整に留意すべきものとする。本件では、地域に医療施設が存在せず、その設置を望む声が近隣の農家に強いという事情があり、本件農地の転用は近隣農家の医療の確保という地域の必要に応えるものである。B市がこうした調整の必要性を全く考慮せず、形式的な期間要件のみで申出を拒絶したことは、考慮すべき事項を考慮しないものとして、この点でも違法である。
以上