司法試験 平成30年 行政法
問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕の配点割合は,35:40:25〕)
宗教法人Aは,宗教法人法に規定された宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,約10年前からB市の区域内に有している。Aは,以前から墓地用石材の販売等を扱う株式会社Cと取引関係にあったが,Cから,B市内に適当な広さの土地(以下「本件土地」という。)を見付けたので,大規模な墓地の経営を始めないかとの提案を持ち掛けられた。Cがこのような提案をしたのは,B市においては,「B市墓地等の経営の許可等に関する条例」(以下「本件条例」という。)
第3条の定めにより,株式会社であるCは墓地の経営許可を受けることができず,墓地経営のために宗教法人であるAの協力が必要であったという事情による。Aは,大規模な墓地の経営に乗り出すことは財政的に困難であると考えたが,Cから,用地買収や造成工事に必要な費用を全額無利息で融資するとの申出を受けたため,Cの提案を受け入れ,本件土地において墓地(以下「本件墓地」
という。)の経営を行うことを承諾した。そこで,Aは,Cから融資を受けて,平成29年9月25日に本件土地を購入した(なお,本件土地に所有権以外の権利は設定されていない。)。さらに,Aは,「墓地,埋葬等に関する法律」(以下「法」という。)第10条第1項に基づき,本件墓地の経営許可を得るため,本件条例に基づく必要な手続を開始した。なお,B市においては,法に基づく墓地経営許可の権限は,法第2条第5項に基づき,B市長が有している。
Aは,平成29年11月17日,周辺住民らに対して,本件条例第6条に基づく説明会(以下「本件説明会」という。)を開催した。本件説明会は,Aが主催したが,Cの従業員が数名出席し,住民に対する説明は,Aの担当者だけではなくCの従業員も行った。本件土地の周囲100メートル以内に住宅の敷地はなかったが,本件土地から100メートルを超える場所に位置する住宅に居住する周辺住民らが,本件説明会に出席し,本件土地周辺の道路の幅員はそれほど広いものではないため,墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされること,供物等の放置による悪臭の発生並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあることなど,生活環境及び衛生環境の悪化への懸念を示した。しかし,Aは,その後も本件墓地の開設準備を進め,平成30年3月16日,B市長に対して本件墓地の経営許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。
他方,本件土地から約300メートル離れた位置にある土地には宗教法人Dの事務所が存在し,Dは,同所で約10年前から小規模な墓地を経営していた。Dは,本件説明会の開催後,本件土地において大規模な墓地の経営が始まることを知り,自己が経営する墓地の経営悪化や廃業のおそれがあると考えた。Dの代表者は,その親族にB市内で障害福祉サービス事業を営む法人Eの代表者がいたことから,これを利用して,本件申請に対するB市長の許可処分を阻止しようと考えた。Dの代表者は,Eの代表者と相談し,本件土地から約80メートル離れた位置にあるDの所有する土地(以下「D所有土地」という。)に,Eの障害福祉サービスの事業所を移転するよう求めた。Eは,これを受けて,特に移転の必要性はなかったにもかかわらず,D所有土地を借り受けて事業所(以下「本件事業所」という。)を設置し,平成30年3月23日,D所有土地に事業所を移転した。本件事業所は,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に定められた要件に適合する事業所で,短期入所用の入所施設を有しており,本件条例第13条第1項第2号の「障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)」に該当する。本件事業所は,従来のEの施設の利用者を引き継いでいたことから,定員に近い利用者が日常的に利用し,また,数日間連続して入所する利用者も見られた。
B市は,本件事業所の移転やDの代表者とEの代表者に親族関係があるという事情を把握していなかったが,D及びEがB市長に対して平成30年4月16日,本件申請に対して許可をしないよう求める旨の申入れを行ったことにより,上記事情を把握するに至った。D及びEの申入れの内容は,①本件墓地が大規模であるため,B市内の墓地の供給が過剰となり,Dの墓地経営が悪化し,廃業せざるを得ないこともあり得る,②本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあり,本件条例第13条第1項の距離制限規定に違反する,③本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念がある,④本件墓地の実質的経営者は,AではなくCである,⑤仮にB市長が本件申請に対して許可をした場合には,D,E共に取消訴訟の提起も辞さない,というものであった。
B市長は,本件墓地の設置に対する周辺住民の反対運動が激しくなったことも踏まえ,本件申請に対して何らかの処分を行うこととし,平成30年5月16日,法務を担当する総務部長に対し,法に関する許可等を所管する環境部長及びB市の顧問弁護士Fを集めて検討会議を行い,本件申請に対して,許可処分(以下「本件許可処分」という。)を行うのか,あるいは不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)を行うのか,また,それぞれの場合にどのような法的な問題があるのかを検討するよう指示した。
以下に示された【検討会議の会議録】を読んだ上で,弁護士Fの立場に立って,設問に答えなさい。ただし,検討に当たっては,本件条例は適法であるとの前提に立つものとする。
なお,関係法令の抜粋を【資料 関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕B市長が本件申請に対して本件許可処分を行い,D及びEが本件許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起した場合について,以下の点を検討しなさい。
⑴ D及びEは,上記取消訴訟の原告適格があるとして,それぞれどのような主張を行うと考えられるか。また,これらの主張は認められるか。B市が行う反論を踏まえて,検討しなさい。
⑵ 仮に,Eが上記取消訴訟を適法に提起できるとした場合,Eは,本件許可処分が違法であるとして,どのような主張を行うと考えられるか。また,これに対してB市はどのような反論をすべきか,検討しなさい。
〔設問2〕B市長が本件申請に対して本件不許可処分を行い,Aが本件不許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起した場合,Aは,本件不許可処分が違法であるとして,どのような主張を行うと考えられるか。また,これに対してB市はどのような反論をすべきか,検討しなさい。
【検討会議の会議録】総務部長:市長からの指示は,本件申請に対して本件許可処分を行った場合と本件不許可処分を行った場合それぞれに生じる法的な問題について,考えられる訴訟への対応も含めて検討してほしいというものです。法第10条第1項は,墓地経営許可の具体的な要件をほとんど定めておらず,本件条例が墓地経営許可の要件や手続を具体的に定めているのですが,本件条例の法的性質についてはどのように考えるべきでしょうか。
弁護士F:法第10条第1項の具体的な許可要件や手続を定める条例の法的性質については,様々な見解があり,また,地方公共団体によっても扱いが異なるようです。本日の検討では,本件条例は法第10条第1項の許可要件や手続につき,少なくとも最低限遵守しなければならない事項を具体的に定めたものであるという前提で検討することにしましょう。
総務部長:分かりました。では,まず,本市が本件申請に対して本件許可処分を行った場合の法的問題について検討しましょう。この場合,D及びEが原告となって本件許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起することが考えられます。このような訴訟は,法的に可能なのでしょうか。
弁護士F:D及びEに取消訴訟を提起する原告適格が認められるかどうかが争点となります。取消訴訟の他の訴訟要件については特に欠けるところはないと思います。D及びEは,本件許可処分が行われた場合,それぞれどのような不利益を受けると考えて取消訴訟を提起しようとしているのでしょうか。
環境部長:まず,Dについては,既にDの墓地は余り気味で,空き区画が出ているそうです。本件墓地は規模が大きく,本件墓地の経営が始まると,Dは,自らの墓地経営が立ち行かなくなるのではないかと懸念しています。墓地経営には公益性と安定性が必要であり,墓地の経営者の経営悪化によって,墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではないと考えることもできるでしょうね。
弁護士F:ええ。そのことと本件条例が墓地の経営主体を制限していることとの関連も検討する必要がありそうです。
環境部長:次に,Eについては,D所有土地に本件事業所を置いています。Eは,本件墓地の経営が始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念があると考えています。本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので,その限りでは住宅の居住者と変わりがない実態があります。
総務部長:D及びEに原告適格が認められるかどうかについては,いろいろな考え方があると思います。本市としては,D及びEが,原告適格が認められるべきであるとしてどのような主張を行うことが考えられるのか,そして,それに対して裁判所がどのような判断をすると考えられるのかを検討する必要があると思います。これらの点について,F先生に検討をお願いします。
弁護士F:了解しました。
総務部長:次に,仮に原告適格が認められるとした場合,本件許可処分の違法事由としてどのような主張がされるのかについて検討します。主張される違法事由については,DとEとで重複が見られますので,本日は,Eの立場からの主張のみを検討したいと思います。
環境部長:Eは,まず,本件事業所がD所有土地に存在することで本件許可処分は本件条例第13条第1項の規定に違反すると主張しています。そのような主張がされた場合,本市としてはどのように反論するのか考えておく必要がありますね。
弁護士F:そうですね。また,本件においては,仮に,本件墓地の経営許可を阻止するため,DとEが協力して本件事業所を意図的にD所有土地に設置したという事情があるならば,このような事情を距離制限規定との関係で法的にどのように評価すべきかについても,検討する必要がありそうです。
総務部長:F先生が今指摘された事情は,Eの原告適格に関しても問題になるのではないでしょうか。
弁護士F:原告適格の問題として整理する余地もあると思います。しかし,本日の検討では,原告適格ではなく,本案の主張の問題として考えておきたいと思います。
環境部長:本件許可処分の他の違法事由として,Eは,本件墓地の実質的な経営者は,AではなくCであると主張しています。
総務部長:本件墓地の実質的な経営者が,AとCのいずれであるかは検討を要する問題ですね。仮に実質的な経営者がCであるとした場合,法的に問題があるのでしょうか。
弁護士F:本件条例によると,墓地の経営者は,地方公共団体のほか,宗教法人,公益社団法人等に限られています。仮に本件墓地の実質的な経営者がCであるとすれば,このような点も踏まえ,法や本件条例の関連諸規定に照らして違法となるのかについて,注意深く検討する必要がありますね。
総務部長:では,この点についてもF先生に検討をお願いします。また,以上のような本件許可処分の違法事由について,Eがこれら全てを取消訴訟において主張できるかについても,検討する必要がありますね。
弁護士F:はい。Eが,自己の法律上の利益との関係で,いかなる違法事由を主張できるかにも注意して検討すべきと考えています。
総務部長:次に,本件申請に対して,本件不許可処分を行った場合です。この場合にはAが本件不許可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起することが想定されます。本日は,この取消訴訟における本案の主張の検討をお願いします。
環境部長:環境部では本件不許可処分をする場合の処分理由として,次のことを考えています。(ア)
本件墓地周辺の生活環境及び衛生環境が悪化する懸念から,周辺住民の反対運動が激しくなったこと,(イ)Dの墓地を含むB市内の墓地の供給が過剰となり,それらの経営に悪影響が及ぶこと,(ウ)本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあること,の3点です。
弁護士F:(ウ)については先ほど検討しましたので,本件不許可処分の問題としては,検討を省略しましょう。まず,(ア)について補足される点はありますか。
環境部長:Aは,本件墓地の設置に当たっては,植栽を行うなど,周辺の生活環境と調和するよう十分配慮しているとしていますが,住民の多くはそれでは十分ではないと考えています。
弁護士F:次に,(イ)についてですが,本件墓地の経営は,B市内の既存の墓地に対して大きな影響を与えるのでしょうか。
環境部長:Dの墓地を含めて,B市内には複数の墓地がありますが,いずれも供給過剰気味で,空き区画が目立つようになっています。本件墓地の経営が始まれば,Dの墓地のような小規模な墓地は経営が破綻する可能性もあると思います。
総務部長:では,これらの(ア)及び(イ)の処分理由に対して想定されるAからの主張について,本市からの反論を含めて,F先生に検討をお願いします。
弁護士F:了解しました。
【資料 関係法令】
○ 墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)(抜粋)
第1条 この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。
第2条 この法律で「埋葬」とは,死体(中略)を土中に葬ることをいう。
2,3 (略)
4 この法律で「墳墓」とは,死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設をいう。
5 この法律で「墓地」とは,墳墓を設けるために,墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつては,市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域をいう。
6,7 (略)
第10条 墓地,納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならない。
2 (略)
○ B市墓地等の経営の許可等に関する条例(抜粋)
(趣旨)
第1条 この条例は,墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号。以下「法」という。)
第10条の規定による経営の許可等に係る事前手続並びに墓地,納骨堂又は火葬場(以下「墓地等」
という。)の設置場所等,構造設備及び管理の基準その他必要な事項を定めるものとする。
(墓地等の経営主体)
第3条 墓地等を経営することができる者は,原則として地方公共団体とする。ただし,次の各号のいずれかに該当し,B市長(以下「市長」という。)が適当と認める場合は,この限りでない。
⑴ 宗教法人法(中略)に規定する宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,B市(以下「市」という。)の区域内に有するもの
⑵ 墓地等の経営を目的とする公益社団法人又は公益財団法人で,登記された事務所を,市の区域内に有するもの2 前項に規定する事務所は,その所在地に設置されてから,3年を経過しているものでなければならない。
(説明会の開催)
第6条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けて墓地等を経営しようとする者は,当該許可の申請に先立って,規則で定めるところ〔注:規則の規定は省略〕により,墓地の設置等の計画について周知させるための説明会を開催し,速やかにその説明会の内容等を市長に報告しなければならない。
(経営の許可の申請)
第9条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けようとする者は,次の各号に掲げる事項を記載した申請書を市長に提出しなければならない。
⑴~⑹ (略)
2 墓地又は火葬場の経営の許可を受けようとする者は,前項の申請書に次の各号に掲げる書類を添付しなければならない。
⑴ 法人(地方公共団体を除く。)にあっては,その登記事項証明書
⑵ 墓地又は火葬場の構造設備を明らかにした図面
⑶ 墓地にあっては,その区域を明らかにした図面
⑷ 墓地又は火葬場の周囲100メートル以内の区域の状況を明らかにした図面
⑸ 墓地又は火葬場の経営に係る資金計画書
⑹ (略)
3 (略)
(墓地等の設置場所等の基準)
第13条 墓地及び火葬場は,次の各号に定めるものの敷地から100メートル以上離れていなければならない。ただし,市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,この限りでない。
⑴ 住宅
⑵ 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(中略)に規定する障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)
⑶~⑸ (略)
2 墓地及び火葬場は,飲料水を汚染するおそれのない場所に設置しなければならない。
3 墓地等の土地については,当該墓地等の経営者(地方公共団体を除く。)が,当該墓地等の土地を所有し,かつ,当該土地に所有権以外の権利が設定されていないものでなければならない。ただし,市長が当該墓地等の経営に支障がないと認めるときは,この限りでない。
(墓地の構造設備の基準等)
第14条 墓地には,次の各号に掲げる構造設備を設けなければならない。ただし,市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,この限りでない。
⑴ 外部から墳墓を見通すことができないようにするための障壁又は密植した垣根
⑵ 雨水等が停滞しないようにするための排水路
⑶ 墓地の規模に応じた管理事務所,便所,駐車場並びに給水及びごみ処理のための設備(墓地の付近にあるこれらのものを含む。)
2 墓地の構造設備については,植栽を行う等周辺の生活環境と調和するように配慮しなければならない。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,「墓地,埋葬等に関する法律」(以下「法」という。)第10条第1項に基づいて,宗教法人Aが墓地(以下「本件墓地」という。)の経営許可を申請した場合(以下「本件申請」という。),それに関して生じる法的な問題について,経営許可の権限を有する地方公共団体B市の主張を考慮しつつ,検討を求めるものである。本問で論じられるべき第1の問題は,本件申請に対して許可(以下「本件許可処分」という。)が行われた場合,本件墓地の近隣で別の墓地を経営している宗教法人Dと,障害福祉サービス事業を行う法人Eに,本件許可処分に対して取消訴訟を提起する原告適格が認められるかである(設問1(1))。論じられるべき第2の問題は,仮にEに原告適格が認められた場合,本件許可処分が違法であるとして,Eがどのような主張をすることが考えられるか,また,それらの主張が制限を受けることはないかである(設問1(2))。そして,論じられるべき第3の問題は,本件申請に対して不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)が行われ,Aが,本件不許可処分に対して取消訴訟で争う場合,Aが本件不許可処分の違法事由としてどのような主張をすることができるかである(設問2)。これらの点を,法,法に関して最小限必要な許可要件や手続を定めた「B市墓地等の経営の許可等に関する条例」
(以下「本件条例」という。)等の資料を踏まえて論じることが求められている。
〔設問1(1)〕は,取消訴訟の原告適格という,取消訴訟の基本的な訴訟要件の理解を問うものである。本問では,DとEは,それぞれ本件許可処分の名宛人ではなく,第三者であることから,行政事件訴訟法第9条第1項と同条第2項の基準に基づいて,原告適格に関しどのような主張がなされるのか,また,原告適格は認められるのかを,B市からの反論を踏まえて検討することが求められている。
Dの原告適格の検討に当たっては,既存の墓地の経営主体であるDが,本件墓地によって経営上悪影響を受けることを理由に,原告適格が認められるのかを論じることとなる。法第1条は,公衆衛生や宗教感情の保護等を法目的としているが,既存の墓地の保護については特に触れるところはない。しかし,本件条例第3条第1項が墓地の経営主体を原則として地方公共団体としていることや,本件条例第9条第2項の経営許可に関する要件を定めた規定により,法や本件条例がその趣旨目的として墓地経営の安定を求めていると考えることもできることから,墓地経営許可に際して,既存の墓地の利益保護が考慮されているかどうかを論じることが求められる。
Eの原告適格の検討に当たっては,Eは障害福祉サービス事業を行う事業所を運営していることから,本件墓地の経営によって,衛生環境や生活環境の悪化を理由に原告適格が認められるのかが問題となる。
本件条例第13条第1項や第14条第1項等を手掛かりとして,法や本件条例が,Eの事業所に対して,障害福祉サービス事業を行う事業所として,適切な環境の下で円滑に業務を行う利益を保護しているかを論じることが求められる。
〔設問1(2)〕では,Eが,本件許可処分に対する取消訴訟を適法に提起できるとした場合,本件許可処分が違法であるとして,どのような主張が可能か,また,それらの主張が制限を受けないかを検討することが求められる。法第10条第1項に基づく許可については,公益的見地からその許否が判断され,行政に一定の裁量が認められると考えられるが,どのような根拠に基づいて,いかなる裁量が認められるのか,さらに,本件許可処分が,どのような理由から裁量権の範囲を逸脱・濫用し,違法とされるのかについて,検討を進めることが求められている。
Eが主張する違法事由としては以下の2点を論じることが求められる。第1に,本件墓地から約80メートルの距離にあるEの事業所が本件条例第13条第1項(2)の「障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)」に該当し,本件条例第13条第1項の距離制限に違反することから,本件許可処分は違法ではないかという点である。さらに,たとえ距離制限に違反していても,Eが,Dと相談して,説明会や本件申請の後に事業所を移転している等の事情から,本件許可処分を妨害するため,意図的に本件事業所を移転したとすれば,権利濫用として,そのような違法事由は主張できないのではないかという点もあわせて論じることが求められている。第2に,本件墓地の実質的な経営者は,Aではなく,営利企業のCではないのかという,いわばAとCの間で一種の「名義貸し」に当たる行為が行われたのではないかという点である。法や本件条例には「名義貸し」を明文で禁止する定めは見られないが,本件条例が,墓地の経営主体を地方公共団体や宗教法人等に限定し,営利企業への墓地営業許可を認めていないことや,経営主体に一定の要件を求めていることから,仮に,本件許可処分が「名義貸し」によって認められたものであるとすれば,法や本件条例の趣旨を潜脱して違法ではないかという主張を行うことが考えられよう。法や本件条例を踏まえて,資料に示された具体的な事実を通して,Eの主張を検討することが求められている。
さらに,本件許可処分の違法事由については,Eの「自己の法律上の利益」に関係があるかどうか,すなわち,行政事件訴訟法第10条第1項による主張制限についても検討することが求められている。
行政事件訴訟法第10条第1項の「自己の法律上の利益」の基本的な理解に基づき,上で述べた各違法事由の主張が制限されるかどうかを,個別に検討することが求められている。
〔設問2〕は,Aが本件不許可処分に対して取消訴訟を提起した場合,本件不許可処分が違法であるとしてどのような主張がなされるのかを問うものである。本件不許可処分の理由としてB市が想定している理由のうち,本問で論じられるべきものは,(ア)本件墓地周辺の住環境が悪化する懸念から,近隣住民の反対運動が激しくなったこと及び(イ)Dの墓地を含むB市内の墓地の供給が過剰となり,その経営に悪影響が及ぶことであるが,これらに関して,B市の主張を踏まえて,検討することが求められている。
(ア)については,単に近隣住民の反対運動が激化するということを理由とするにとどまるのであれば,本件不許可処分の根拠としては認められないとの見解もあり得る一方で,B市の立場からは,法第10条第1項が,墓地の経営許可につき市長に裁量を認めていることを前提にして,住環境の悪化を懸念する反対運動の存在を考慮することは適法との見解もあり得,これらを比較して論じることが求められている。(イ)についても,B市内の墓地の需給を考慮して本件不許可処分を行うことは許されないとの見解と,B市の立場からは,墓地の公共性や墓地の経営の安定性を求める法や本件条例の規定から,経営状態が悪化しないように,需給状況を考慮することは,裁量の範囲を超えるものではないという見解もあり得,これらを比較して論じることが求められている。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1(1)
1 判断枠組み
取消訴訟の原告適格は、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」に認められる(行政事件訴訟法9条1項)。これは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最判平元.2.17)。
DもEも本件許可処分の名宛人ではない第三者であるから、同条2項により、①根拠法令の趣旨及び目的、②当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮して判断する。①については当該法令と目的を共通にする関連法令の趣旨及び目的をも参酌し、②については当該処分がその根拠法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案する。
本件条例は、法10条1項の許可要件及び手続につき少なくとも最低限遵守すべき事項を具体的に定めたものであるから、法と一体となって本件許可処分の根拠法令を構成する。よって本件条例の各規定も同条2項の考慮対象となる。
2 Dの原告適格
(1) Dの主張 Dは、本件条例3条1項が墓地の経営主体を原則として地方公共団体とし、例外的に宗教法人・公益法人に限定し、同条2項が事務所の所在から3年の経過を要求し、9条2項5号が資金計画書の添付を求めていることから、法及び本件条例は墓地経営の公益性と安定性を要求しており、既存墓地経営者の経営上の利益を保護していると主張する。そして、本件墓地は大規模で、B市内の墓地は既に供給過剰気味であり空き区画が目立つから、本件許可処分によりDは経営悪化・廃業に至るおそれがあり、これは法律上保護された利益の侵害であると主張する。公衆浴場の距離制限に関し既存業者の原告適格を認めた判例(最判昭37.1.19)も援用しうる。
(2) B市の反論 法1条は、墓地等の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とすると定めるにとどまり、既存墓地経営者の保護には何ら触れていない。本件条例1条も設置場所・構造設備・管理の基準を定めるものであり、需給調整を目的とする規定は存しない。経営主体の限定や資金計画書の要求は、墓地が永続的な管理を要する施設であることから当該申請者自身の経営の安定を確保し、もって宗教的感情及び公衆衛生に適合する管理を担保する趣旨であって、既存経営者を競争から保護する趣旨ではない。
(3) 検討 法及び本件条例には、距離制限のような需給調整的規定や既存経営者の意見聴取手続は存在しない。経営主体の限定等は、当該申請に係る墓地の管理の適正を確保するための要件であり、既存墓地の経営上の利益を個別的利益として保護する趣旨とは解されない。Dの被る不利益は、新規参入による競争上の反射的・経済的不利益にとどまる。よって、Dの主張は認められず、原告適格は否定される。
3 Eの原告適格
(1) Eの主張 Eは、本件条例13条1項が墓地は住宅及び障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)の敷地から100メートル以上離れていなければならないと定め、9条2項4号が周囲100メートル以内の区域の状況を明らかにした図面の添付を求め、14条1項が障壁・排水路・ごみ処理設備等を、同条2項が周辺の生活環境との調和への配慮を求めていることを指摘する。これらは、墓地の近接により生ずる悪臭、害虫・カラス・ネズミの発生、墓参車両による交通渋滞等の生活環境・衛生環境の悪化から、近接地の住宅居住者及び入所施設利用者を保護する趣旨である。本件事業所は同項2号に該当し、本件土地から約80メートルの位置にあり、定員に近い利用者が日常的に利用し数日間連続して入所する者もいるから、住宅居住者と変わらない実態がある。よって、適切な環境の下で業務を行う利益は法律上保護された利益であると主張する。
(2) B市の反論 13条1項の距離制限は、公衆衛生及び国民の宗教的感情という一般的公益を実現するための客観的基準にすぎず、特定の施設の設置者の個別的利益を保護するものではない。また、同項ただし書は市長が支障がないと認めるときは距離制限を適用しないとしており、専ら公益的判断に委ねられている。さらに、Eは事業所の設置者であって、入所者の生命・健康を自らの利益として主張する立場にない。
(3) 検討 13条1項が、100メートルという具体的距離をもって、住宅のほか入所施設を有する障害福祉サービス施設という類型を列挙して保護している点は重要である。これは、墓地の設置により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者の範囲を、距離をもって画したものと解される。そして入所施設の利用者は、障害を有し、かつ数日間連続して当該施設に滞在するのであるから、悪臭・衛生環境の悪化による被害は直接的かつ重大であり、その被害は反復継続して生ずる。14条2項が周辺の生活環境との調和への配慮を求めていることも、これを裏付ける。
もっとも、E自身は施設の設置者であるが、入所者が適切な環境で生活し、Eがその事業を円滑に遂行する利益は不可分一体であり、Eは当該施設の設置者として13条1項2号により直接その敷地を保護の対象とされている。よって、Eには法律上保護された利益が認められ、原告適格が認められる。
第2 設問1(2)
1 裁量の有無
法10条1項は許可要件を定めておらず、本件条例13条1項ただし書、14条1項ただし書及び13条3項ただし書は、「市民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がない」か否かの判断を市長に委ねている。これらは専門技術的かつ公益的な判断であるから、B市長には要件該当性の判断及び許否の判断につき効果裁量を含む裁量が認められる。したがって、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り違法となる(行訴法30条)。審査は、判断過程において考慮すべき事項を適切に考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮していないか、各考慮事項の評価が合理的かという観点から行う。
2 距離制限違反の主張
Eは、本件事業所が13条1項2号に該当し本件土地から約80メートルの位置にあるから、本件許可処分は同項に違反すると主張する。これに対しB市は、同項ただし書により支障がないと認めたと反論することになるが、本件事業所は定員に近い利用者が日常的に利用し連続入所者も存在するのであるから、悪臭・衛生環境の悪化による影響は軽微とはいえず、ただし書の適用を認める判断は考慮不尽として裁量権の逸脱・濫用となりうる。
もっとも、B市は、Eの当該主張が権利濫用として許されないと反論すべきである。すなわち、Eには移転の必要性がなかったにもかかわらず、Dの代表者とEの代表者が親族関係にあることを利用して相談の上、本件説明会(平成29年11月17日)及び本件申請(平成30年3月16日)の後である平成30年3月23日に、ことさら本件土地から約80メートルのD所有土地に本件事業所を移転したものである。これは、専ら本件申請に対する許可を阻止する目的で距離制限規定の適用を人為的に作り出した行為であり、同規定が保護しようとする利益を自ら招致したものにほかならない。このような者が同規定違反を主張することは、信義則に反し権利の濫用として許されない。よって、Eの距離制限違反の主張は認められない。
3 名義貸しの主張
Eは、本件墓地の実質的経営者はAではなく株式会社Cであり、本件許可処分は法及び本件条例の趣旨を潜脱するものとして違法であると主張する。
本件条例3条1項が経営主体を原則として地方公共団体とし、例外を宗教法人及び公益法人に限定して営利法人を排除しているのは、墓地が永続的な管理を要し高度の公益性を有する施設であることから、営利目的による不適切な経営を防止する趣旨である。同条2項が事務所設置後3年の経過を求め、9条2項5号が資金計画書を、13条3項が経営者自身による土地所有と無負担を求めているのも、経営の安定性と主体の実質を確保する趣旨である。したがって、形式上は宗教法人が申請者であっても、実質的な経営主体が営利法人であるときは、3条1項の要件を欠き、又は同項の趣旨を潜脱するものとして違法となる。明文の禁止規定がなくとも、これらの規定の趣旨から導かれる。
本件では、本件土地を見付けて大規模墓地の経営を提案したのはCであり、Cは本件条例3条により自ら許可を受けられないためAの協力を必要としたものである。用地買収及び造成工事の費用は全額Cの無利息融資によっており、A自身は財政的に大規模墓地の経営は困難と考えていた。本件説明会ではCの従業員が数名出席し住民への説明も行っている。これらによれば、企画・資金・運営の実質はCが担っているとみる余地が大きく、名義貸しとして違法となりうる。
これに対しB市は、申請者は宗教法人Aであり、本件土地はAが平成29年9月25日に購入してAの所有に属し所有権以外の権利も設定されていない(13条3項)こと、融資は無利息で担保設定もなく、Aが経営主体として承諾し説明会を主催していることを指摘して、実質的経営者もAであると反論すべきである。
4 行訴法10条1項による主張制限
取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることはできない(行訴法10条1項)。第三者が争う場合、主張しうる違法事由は、原告適格の基礎となった利益に関係するものに限られる。
距離制限違反は、まさにEの原告適格の基礎である適切な環境の下で業務を行う利益に関する違法であるから、主張制限は及ばない。これに対し、名義貸し、すなわち経営主体の適格性に関する違法は、墓地経営の公益性・安定性という一般的公益に関わるものであって、Eの生活環境・衛生環境上の利益とは直接関係しない。よって、B市は、この主張は同条1項により制限されると反論すべきである。もっとも、営利主体による経営は管理の不適正を招き周辺の衛生環境の悪化に結び付くとして、関係性を認める見解もあり得る。
第3 設問2
1 審査の枠組み
前述のとおりB市長には裁量が認められるから、本件不許可処分は裁量権の逸脱・濫用がある場合に違法となる(行訴法30条)。もっとも、本件は申請に対する許可の拒否であり、Aは既に本件土地を購入して投資を行っているから、考慮事項の適否及び評価の合理性を具体的に審査すべきである。
2 処分理由(ア)——周辺住民の反対運動
Aは、法1条及び本件条例の趣旨からすれば、考慮すべきは生活環境・衛生環境に対する客観的な支障の有無であって、反対運動の激しさそれ自体は法の考慮事項ではないと主張する。Aは植栽を行うなど14条2項に従い周辺の生活環境と調和するよう十分配慮しており、本件土地の周囲100メートル以内に住宅の敷地はなく13条1項に違反しない。反対運動の存在のみを理由とする不許可は、考慮すべきでない事項を考慮したものとして違法であり、また地域住民の同意を事実上の許可要件とするに等しく違法である。
これに対しB市は、法1条が国民の宗教的感情への適合を目的に掲げており、周辺住民の反対は宗教的感情に関わる事情として考慮しうること、反対運動は渋滞、悪臭、害虫発生という具体的な懸念に基づくものであって、これらは14条1項3号の駐車場・ごみ処理設備、同条2項の生活環境との調和に関する事情として考慮対象となること、住民の多くが植栽等の措置では十分でないと考えていることを指摘して反論すべきである。
ただし、Aが客観的に基準に適合しているのであれば、反対運動の存在を独立の不許可理由とすることは許されず、B市としては、反対運動を手掛かりとして把握された具体的な環境上の支障を認定し、これを理由とする必要がある。単なる反対運動の激化のみを理由とする限り、不許可処分は違法である。
3 処分理由(イ)——墓地の供給過剰
Aは、法及び本件条例には需給調整に関する規定が一切なく、13条の距離制限も環境保護の趣旨であって既存業者の保護を目的としないから、B市内の墓地の需給状況や既存墓地の経営への影響は考慮すべき事項ではなく、これを考慮した不許可処分は他事考慮として違法であると主張する。これは設問1(1)でDの原告適格を否定した帰結とも整合する。
これに対しB市は、墓地は永続的な管理を要する高度の公益性を有する施設であり、3条の経営主体の限定、同条2項の3年要件、9条2項5号の資金計画書は墓地経営の安定性を要求する趣旨であるから、供給過剰により既存墓地の経営が破綻し管理が放棄されれば、公衆衛生及び宗教的感情に支障が生ずると反論すべきである。B市内の墓地はいずれも供給過剰気味で空き区画が目立ち、大規模な本件墓地の出現により小規模墓地の経営が破綻する可能性があるという事情は、この観点から考慮しうる。
もっとも、法及び本件条例に需給調整規定が欠けていることに照らせば、需給状況の考慮は、既存墓地の管理放棄により公衆衛生上の具体的支障が生ずると認められる限度で許されるにとどまる。本件では既存墓地の管理放棄の具体的危険まで認定されていないから、専ら需給を理由とする不許可は裁量権の逸脱・濫用として違法となる。
以上