司法試験 平成29年 行政法
問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴,〔設問1〕⑵,〔設問2〕⑴,〔設問2〕⑵の配点割合は,35:20:20:25〕)
Y市に所在し,社会福祉法人Aが運営する保育園(以下「本件保育園」という。)の敷地(南北約200メートル,東西約100メートルのほぼ長方形)は,その西側境界線の全部が,幅員約1メートル,全長約200メートルの南北方向に通る市道(以下「本件市道」という。)に接している。本件市道は,その北端及び南端(それぞれ本件保育園の敷地の北西端及び南西端に接する部分)
で,それぞれ東西方向に通る別の公道に接続している。本件市道は,古くからその敷地をY市が所有し,市道として道路法第8条第1項に基づく路線の認定を受けた道路(以下「認定道路」という。)
であるが,幅員が狭いため,歩行者,自転車及び原動機付自転車の通行は可能であるものの,普通乗用自動車の通行はできない。
本件市道を挟んで本件保育園の敷地と向かい合う位置には,Aが所有する畑(以下「本件畑」という。)があるほか,数戸の住宅が立ち並んでいる。これらの本件畑及び住宅の敷地は,いずれも,その東側で本件市道に接し,その西側で,南北方向に通る幅員5メートルの別の認定道路である市道(B通り)に接している。
本件保育園においては,保育活動の一環として,本件畑が園児の農業体験等に頻繁に利用されており,本件市道も,農業体験等の際に園児が自由に横断するなど,本件保育園の敷地及び本件畑と事実上一体的に利用されていた。そのため,本件市道を通行する原動機付自転車が園児と接触しかける事件が年数回発生しており,保護者らもAに対し園児の安全確保を申し入れることがしばしばあった。このような状況の下で,園児が本件市道を通行する原動機付自転車に接触して負傷する事故が実際に発生したことから,Aは,園児の安全を確保するための緊急措置として,本件市道の北端と南端に簡易フェンス(以下「本件フェンス」という。)を設置し,一般通行者が本件市道に立ち入ることができないようにした。同時にAは,抜本的解決のためには本件市道を買い取るしかないと考え,本件市道を管理するY市との間で,本件市道の路線の廃止及び売渡しについて事前相談を開始した。
Y市長は,Aからの相談の内容を踏まえ,(ア)本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しいと思われること,(イ)現に本件市道上で園児と原動機付自転車との接触事故が発生しており,現場の状況等からすると同種事故が発生しかねないこと,(ウ)Aが本件市道の路線の廃止及び売渡しを希望しており,いずれ路線の廃止が見込まれることから,本件フェンスの設置は道路法第43条第2号に違反しないと判断し,Aに対してその撤去を求めるなどの道路法に基づく監督処分の措置を執らなかった。
また,Y市長は,職員に命じて,本件フェンスにより本件市道が閉鎖された状況の下において本件市道の調査を行わせ,上記職員から,①本件市道の幅員は約1メートルしかなく,普通乗用自動車が通行できないこと,②本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しいと思われること,③本件市道の近くには認定道路であるB通りがあること等から,道路法第10条第1項に基づき本件市道の路線を全部廃止しても支障がないと考えられる旨の報告書の提出を受けた。なお,上記調査のうち聞き取り調査は,Aに対してのみ行われた。Y市長は,上記報告書を踏まえ,本件市道は一般交通の用に供する必要性がなくなったと判断し,Aに対し,本件市道に隣接する全ての土地(本件市道の西側に立ち並んでいる前記の数戸の住宅の敷地)の所有者から本件市道の路線の廃止に関する同意を得た上で売渡しに向けた手続を進めるよう回答した。
Aは,Y市長からの回答を受けて,上記隣接土地所有者と交渉を進め,そのほとんどの者から本件市道の路線の廃止に関する同意を得たが,本件畑の南側に隣接する土地(以下「本件土地」という。)を所有するX1だけは強く反対し,同意を得ることができなかった。
X1及びその子X2(以下,併せて「Xら」という。)は,本件土地上の住宅に居住し,X2は,C小学校への通学路として本件市道を利用してきた。C小学校まではB通りを通っても行くことができるが,周辺の道路状況から,本件市道を通る方が,C小学校までの距離は約400メートル短い。また,普通乗用自動車が通行できず交通量が少ない点で,B通りよりも本件市道の方がX2にとって安全であるとX1は考えている。さらに,C小学校は,災害時の避難場所として指定されており,Xらとしては,災害時にC小学校に行くための緊急避難路として,本件市道を利用する予定であった。
Y市のウェブサイトには,市道の路線を廃止するためには当該市道に隣接する全ての土地の所有者から同意を得る必要がある旨の記載がある。しかし,X1がY市に問い合わせたところ,隣接する全ての土地の所有者から同意を得ることは法律上の要件ではなく,X1の同意が得られなくても本件市道の路線の廃止は認められる旨の回答があった。
XらはY市に対して訴訟を提起しようと考え,知り合いの弁護士Dに相談した。
以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で,弁護士Dの指示に応じる弁護士Eの立場に立って,設問に答えなさい。
なお,道路法の抜粋を【資料1 関係法令】に,関連判例の抜粋を【資料2 参考判例】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕Xらは,現時点において,Y市を被告として,本件フェンスを撤去させるための抗告訴訟を提起したいと考えている。
⑴ 抗告訴訟として最も適切と考えられる訴えを具体的に一つ挙げ,その訴えが訴訟要件を満たすか否かについて検討しなさい。なお,仮の救済については検討する必要はない。
⑵ ⑴の訴えの本案において,Xらはどのような主張をすべきか。解答に当たっては,当該訴えが訴訟要件を満たすことを前提にしなさい。
〔設問2〕仮に,Y市長が,道路法第10条第1項に基づき,本件市道の路線を廃止したとする。
⑴ 本件市道の路線の廃止は,取消訴訟の対象となる処分に当たるか。
⑵ 本件市道の路線の廃止の取消訴訟において,Xらはどのような違法事由の主張をすべきか。解答に当たっては,当該取消訴訟が訴訟要件を満たすことを前提にしなさい。
【法律事務所の会議録】弁護士D:本日は,Xらの案件について議論したいと思います。Xらは,本件市道をX2のC小学校までの通学路として利用していること,また,災害時の緊急避難路として利用したいと考えていることから,本件フェンスによって本件市道を通行できなくなっている状態を解消するための行政訴訟の提起を検討しています。そこで,まず,本件市道の路線がまだ廃止されていない現時点の状態において,Y市を被告として,本件フェンスを撤去させるための抗告訴訟を提起することができないかを検討したいと思います。今回は抗告訴訟に絞って検討し,当事者訴訟や住民訴訟については検討しないことにしましょう。
弁護士E:通行妨害を排除するためには,本件フェンスの設置者であるAに対する民事訴訟の提起も考えられますね。この点については,村道を利用して生活及び農業を営んでいると主張する原告が,その村道上に建物を建築するなどして排他的に占有しているとされる被告に対し,通行妨害の排除を求めた事案についての最高裁判所の判例(【資料2 参考判例】参照)があるようです。
弁護士D:そうですね。本件でそのような民事訴訟をAに対して提起して勝訴できるかどうかは分かりませんが,当該民事訴訟の可能性が,Y市を被告とする抗告訴訟の訴訟要件の充足の有無に影響を及ぼすかという点は,落とさずに検討してください。また,訴訟要件の検討に当たっては,選択した訴訟類型を定める条文の規定に即して,全般的に検討をしてください。
弁護士E:分かりました。
弁護士D:Y市長は,本件フェンスの設置は道路法第43条第2号に違反していないと判断し,道路法に基づく監督処分の措置を執らないこととしています。我々としては,道路法の規定に即して,Y市長のこのような判断に誤りがないかどうかを検討し,仮に誤りがある場合には,さらに,本件フェンスに関する監督処分の措置を執らないことが違法といえるかどうかを検討しなければなりませんね。
弁護士E:分かりました。次に,Y市は道路法第10条第1項に基づき本件市道の路線を廃止してAに売り渡すことを検討していますから,路線が廃止された場合の対応についても検討しておかなければならないと思います。
弁護士D:なるほど。本件市道の路線の廃止前にそれを阻止するための訴訟を提起することも考えられますが,今回は,路線が廃止された場合を前提として,それに対して取消訴訟を適法に提起できるかに絞って検討しましょう。
弁護士E:本件市道の路線の廃止が取消訴訟の対象となる処分に当たるか否かが問題となりますね。
弁護士D:そうですね。この問題を検討するに当たっては,市町村道の路線の廃止が道路敷地の所有者及び通行者の法的地位にどのような影響を及ぼすかを検討して,それが処分に当たるか否かを明らかにする必要があります。市町村道は,路線の認定,そして道路の区域の決定という過程を経た上で供用が開始されます。また,Y市が検討している路線の廃止は,道路自体の消滅を意味するものであって,これにより,当該路線について定められていた道路の区域や,当該道路についてされていた供用行為も自動的に消滅することとなると理解されています。ですから,本件市道の路線の廃止に係る処分性の有無を検討するためには,道路の区域の決定及び供用の開始が,道路敷地の所有者及び通行者の法的地位に対してどのような影響を及ぼすかについても検討する必要がありそうです。
弁護士E:道路敷地の所有者とおっしゃいましたが,本件市道の敷地の所有権は,古くから,私人ではなくY市にあります。道路の区域の決定及び供用開始や路線の廃止がY市の法的地位に与える影響を検討する必要があるのでしょうか。
弁護士D:そうですね。そのような疑問も生じ得るでしょうが,道路法は,私人が所有する敷地が道路の区域とされる場合があり得ることを前提とした規定を置いていますので,処分性の検討に当たっては,そのような規定も踏まえ,道路の区域の決定及び供用開始や路線の廃止が道路敷地の所有者の法的地位に及ぼす影響を検討する必要があります。また,それに加えて,これらの行政上の行為が道路の通行者の法的地位にどのような影響を及ぼすかも検討しておくべきでしょう。なお,Xらの原告適格については,これまで検討をお願いした点とかなりの程度重なるように思われますので,本件市道の路線の廃止の取消訴訟との関係では,差し当たり検討しなくて結構ですし,その他の訴訟要件についても,今は検討しないで構いません。
弁護士E:分かりました。
弁護士D:次に,訴えの適法性が認められた場合,本件市道の路線の廃止の違法性についてどのような主張をすべきか検討してください。
弁護士E:そもそもX2が通学路に利用していて本件市道の機能が失われていない以上,路線の廃止は許されないのではないかと思うのですが。
弁護士D:道路法の規定に即してそのような解釈が可能かどうか検討してください。また,我々としては,Y市長が,本件市道の路線の廃止の適法性をどのような理由付けで主張してくるかを想定し,そのようなY市長の主張を前提としても本件市道の路線の廃止が違法といえるかについても,検討する必要があります。
弁護士E:分かりました。
弁護士D:本件市道を利用していた人は,Xらと本件保育園の関係者以外に誰かいますか。
弁護士E:現に本件市道上で,園児と原動機付自転車の接触事故が起こっていますし,それ以前にも時折原動機付自転車が通行して園児と接触しかけたことがあったようですから,利用されていたことは確かですが,どの程度の頻度で利用されていたのかはよく分かりません。Y市長は,本件フェンスにより本件市道が閉鎖された状況の下においてY市の職員がAに対してのみ行った聞き取り調査に専ら依拠した上で,「本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しい」としています。しかし,X1としては,Y市長が十分な調査をしていないのではないかとの不満を持っています。
弁護士D:ところで,Y市は,市道の路線を廃止するには当該市道に隣接する全ての土地の所有者の同意を必要とする旨の内部基準を設け,その旨をウェブサイトで公表しています。この内部基準の法的性質や,道路法の規定との関係を検討した上で,本件市道の路線の廃止の違法性とこの内部基準がどう関係するかについても検討しなければなりませんね。
弁護士E:分かりました。
【資料1 関係法令】
○ 道路法(昭和27年6月10日法律第180号)(抜粋)
(この法律の目的)
第1条 この法律は,道路網の整備を図るため,道路に関して,路線の指定及び認定,管理,構造,保全,費用の負担区分等に関する事項を定め,もつて交通の発達に寄与し,公共の福祉を増進することを目的とする。
(用語の定義)
第2条 この法律において「道路」とは,一般交通の用に供する道で次条各号に掲げるものをいい,トンネル,橋,渡船施設,道路用エレベーター等道路と一体となつてその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含むものとする。
2~5 (略)
(道路の種類)
第3条 道路の種類は,左に掲げるものとする。
一 高速自動車国道二 一般国道三 都道府県道四 市町村道(私権の制限)
第4条 道路を構成する敷地,支壁その他の物件については,私権を行使することができない。但し,所有権を移転し,又は抵当権を設定し,若しくは移転することを妨げない。
(市町村道の意義及びその路線の認定)
第8条 第3条第4号の市町村道とは,市町村の区域内に存する道路で,市町村長がその路線を認定したものをいう。
2~5 (略)
(路線の認定の公示)
第9条 (前略)市町村長は,(中略)前条の規定により路線を認定した場合においては,その路線名,起点,終点,重要な経過地その他必要な事項を,国土交通省令で定めるところにより,公示しなければならない。
(路線の廃止又は変更)
第10条 (前略)市町村長は,(中略)市町村道について,一般交通の用に供する必要がなくなつたと認める場合においては,当該路線の全部又は一部を廃止することができる。(以下略)
2 (略)
3 (前略)前条の規定は前2項の規定による市町村道の路線の廃止又は変更について(中略)準用する。
(市町村道の管理)
第16条 市町村道の管理は,その路線の存する市町村が行う。
2~5 (略)
(道路の区域の決定及び供用の開始等)
第18条 (前略)第16条(中略)の規定によつて道路を管理する者((中略)以下「道路管理者」
という。)は,路線が指定され,又は路線の認定若しくは変更が公示された場合においては,遅滞なく,道路の区域を決定して,国土交通省令で定めるところにより,これを公示し,かつ,これを表示した図面を(中略)道路管理者の事務所(中略)において一般の縦覧に供しなければならない。
(以下略)
2 道路管理者は,道路の供用を開始し,又は廃止しようとする場合においては,国土交通省令で定めるところにより,その旨を公示し,かつ,これを表示した図面を道路管理者の事務所において一般の縦覧に供しなければならない。(以下略)
(道路に関する禁止行為)
第43条 何人も道路に関し,左に掲げる行為をしてはならない。
一 (略)
二 みだりに道路に土石,竹木等の物件をたい積し,その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること。
(道路管理者等の監督処分)
第71条 道路管理者は,次の各号のいずれかに該当する者に対して,この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定によつて与えた許可,承認若しくは認定を取り消し,その効力を停止し,若しくはその条件を変更し,又は行為若しくは工事の中止,道路(中略)に存する工作物その他の物件の改築,移転,除却若しくは当該工作物その他の物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること若しくは道路を原状に回復することを命ずることができる。
一 この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反している者二,三 (略)
2~7 (略)
(道路予定区域)
第91条 第18条第1項の規定により道路の区域が決定された後道路の供用が開始されるまでの間は,何人も,道路管理者(中略)が当該区域についての土地に関する権原を取得する前においても,道路管理者の許可を受けなければ,当該区域内において土地の形質を変更し,工作物を新築し,改築し,増築し,若しくは大修繕し,又は物件を付加増置してはならない。
2 道路の区域が決定された後道路の供用が開始されるまでの間においても,道路管理者が当該区域についての土地に関する権原を取得した後においては,当該区域又は当該区域内に設置された道路の附属物となるべきもの(以下「道路予定区域」という。)については,第4条,(中略)第43条,(中略)第71条(中略)の規定を準用する。
3 第1項の規定による制限により損失を受ける者がある場合においては,道路管理者は,その者に対して通常受けるべき損失を補償しなければならない。
4 (略)
第102条 次の各号のいずれかに該当する者は,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
一,二 (略)
三 第43条(中略)の規定に違反した者四 (略)
第104条 次の各号のいずれかに該当する者は,100万円以下の罰金に処する。
一~三 (略)
四 第71条第1項(中略)の規定による道路管理者の命令に違反した者五 (略)
【資料2 参考判例】
○ 最高裁判所昭和39年1月16日第一小法廷判決(民集18巻1号1頁)(抜粋)
「地方公共団体の開設している村道に対しては村民各自は他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において,自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法710条参照)を有するものと解するを相当とする。勿論,この通行の自由権は公法関係から由来するものであるけれども,各自が日常生活上諸般の権利を行使するについて欠くことのできない要具であるから,これに対しては民法上の保護を与うべきは当然の筋合である。故に一村民がこの権利を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり,この妨害が継続するときは,これが排除を求める権利を有することは,また言を俟たないところである。」
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,道路法第8条により市町村道としての認定を受けていた道路(以下「本件市道」という。)に,本件市道に隣接する保育園(以下「本件保育園」という。)を経営する社会福祉法人Aが簡易フェンス(以下「本件フェンス」という。)を設置し,さらに,本件市道を管理するY市が同法第10条第1項に基づき本件市道の路線を廃止してAに売り渡すことを検討しているという事案における法的問題について論じさせるものである。論じさせる問題は,本件市道の路線がまだ廃止されていない状態における本件フェンスを撤去させるための抗告訴訟(〔設問1〕)及びY市長が本件市道を廃止した場合を想定した取消訴訟(〔設問2〕)である。問題文と資料から基本的な事実関係を把握し,同法の関係規定の趣旨を読み解いた上で,非申請型義務付け訴訟における訴訟要件及び一定の処分がされないことの違法事由並びに取消訴訟における処分性及び本案の違法事由について論じることを求めるものである。
〔設問1⑴〕は非申請型義務付け訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問うものである。
行政事件訴訟法第3条第6項第1号及び第37条の2の規定に従って,本件フェンスを撤去させるために道路管理者Y市長が道路法第71条第1項の規定に基づき行うべき処分を「一定の処分」として具体的に特定した上で,当該処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあるか,また,その損害を避けるため他に適当な方法がないか,そして原告適格の有無について論じなければならない。
重大な損害を生ずるおそれの検討に当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮し,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質を勘案した上で,本件市道を,X2が小学校への通学路として利用できないこと及びXらが災害時の避難路として利用ができないこと(以下「本件被侵害利益」という。)がそれぞれ「重大な損害」に当たるかどうかについて論じることが求められる。
損害を避けるための他に適当な方法の検討に当たっては,参考判例に示されているように「通行の自由権」を主張して民事訴訟によるAに対する妨害排除請求の可能性があることを指摘し,それが「他に適当な方法」に当たるかどうかを検討することが求められる。
原告適格の検討に当たっては,行政事件訴訟法第37条の2第4項で準用されている同法第9条第2項の規定に基づき,道路法第71条第1項及び第43条第2号の規定の趣旨・目的を踏まえ,本件被侵害利益がこれらの規定によって考慮されているか,また本件被侵害利益の内容・性質及びそれが害される態様・程度を勘案しなければならない。
〔設問1⑵〕は,道路管理者による「一定の処分」がなされないことが違法であるかどうかを論じさせるものである。道路法第71条第1項第1号は「この法律(中略)に違反している者」に対して監督処分が可能としているため,まず,Aによる本件フェンスの設置行為が同法第43条第2号に違反しているかどうかを,道路管理者の要件裁量の有無も含めて検討しなければならない。その上で,Aの行為が同法第43条第2号に違反していると評価された場合でも,同法第71条第1項第1号は,監督処分を行うかどうか,いかなる監督処分を行うかについて道路管理者の効果裁量を認めていることを指摘した上で,一方ではXらが受ける本件被侵害利益,他方でY市側が主張するような諸事情が,裁量権を行使するに当たって考慮すべき事項に当たるか,考慮に当たってどの程度重視されるべきかについて検討することが求められる。
〔設問2⑴〕は,取消訴訟の訴訟要件である処分性に関する理解を問う問題である。Y市長が道路法第10条第1項に基づき行うことが想定される本件市道の路線の廃止が,行政事件訴訟法第3条第2項に定める「行政庁の処分その他公権力の行使」に当たるかどうかを検討することが求められている。
設問に示されているD弁護士の指示に従って道路法の規定を分析して,道路の区域決定・供用開始が敷地所有者及び道路通行者に対してそれぞれどのような法効果を及ぼすかを検討し,道路法第10条第1項に基づくY市長による本件市道の路線の廃止が,それらの法効果を一方的に消滅させるものであることについて論じること,道路通行者については,当該市道を生活上不可欠な道路として利用していた通行者の生活に著しい支障が生ずる場合があることを踏まえた上で論じることが求められる。
〔設問2⑵〕は,Y市長が道路法第10条第1項に基づき行うことが想定される本件市道の路線の廃止の違法性の有無について論じさせるものである。本件市道の路線の廃止は,同法第10条第1項「一般交通の用に供する必要がなくなつた」ことを要件にしていることを指摘した上で,まず,現に通行者による利用が存在して道路としての機能が喪失していない以上は同条の要件を満たさないといえるのか,それとも,現に利用が存在しても,通行者による利用の程度の乏しさ,代替的な交通路の存在などに鑑みて一般交通の用に供するに適さない状況があれば「必要がなくなつた」として廃止できるのかを検討し,更に上記の要件該当性の判断について行政庁に裁量権が認められるのかを検討しなければならない。また,同法第10条第1項が「廃止することができる」という文言を用いていること,廃止するかどうかの判断に当たって考慮される事項などの性質に着目して,要件が充足されている場合において廃止するかどうかの判断についても行政庁に裁量権が認められるのかを検討することが期待される。
その上で,要件裁量又は効果裁量が認められる場合は,裁量権の範囲の逸脱濫用の有無を検討しなければならない。Y市による調査が通行の実態を適切に調査できていないのではないか,Xらが主張する本件被侵害利益が適切に考慮されていないのではないかなどの点について検討することが求められる。
また,Y市は道路法第10条第1項の路線廃止について,隣接土地所有者の同意を必要とする内部基準を定め,これをウェブサイトで公表しているが,本件において,当該内部基準の法的性質及び,本件において隣接土地所有者であるX1の同意が得られていないことが,裁量権の範囲の逸脱濫用の有無とどのように関係するかを検討することが求められる。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1⑴
1 訴えの類型
Xらは、本件フェンスの設置者であるAに対して処分を求める法令上の申請権を有しない。したがって、提起すべき抗告訴訟は非申請型の義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項1号)である。具体的には、Y市長がAに対し道路法71条1項1号に基づき本件フェンスの除却を命ずべき旨を命ずることを求める訴えが最も適切である。以下、37条の2の訴訟要件を検討する。
2 一定の処分
71条1項は、道路管理者は、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定に違反している者に対して、道路に存する工作物その他の物件の改築、移転、除却若しくは道路を原状に回復することを命ずることができるとする。Xらが求めるのは、Aを名宛人とする本件フェンスの除却命令であり、根拠規定、名宛人及び内容がいずれも特定されているから、「一定の処分」に当たる。
3 重大な損害を生ずるおそれ
37条の2第1項は、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあることを要件とし、同条2項は、その判断に当たり損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
Xらが受ける損害は、第一に、X2がC小学校への通学路として本件市道を利用できないことである。C小学校まではB通りを通っても行けるが、本件市道を通る方が距離は約400メートル短い。また、B通りは幅員5メートルで普通乗用自動車が通行できるのに対し、本件市道は幅員約1メートルで普通乗用自動車が通行できず交通量が少ないため、小学生であるX2にとってより安全である。小学生の通学における安全は、生命及び身体の安全に関わる利益である。
第二に、C小学校は災害時の避難場所として指定されており、Xらは災害時にC小学校に行くための緊急避難路として本件市道を利用する予定であった。災害時には迂回路の通行が困難となることもあり得るのであって、避難経路の喪失は生命に直結する不利益である。
これに対し、B通りという代替路が存在し、迂回距離も約400メートルにとどまるから損害は重大でないとの反論が考えられる。しかし、通行の自由は、これが妨害されている間継続的に害される性質の利益であり、事後的な金銭賠償によって回復し得るものではない。しかも本件フェンスによる閉鎖状態は既に継続しており、Y市長は撤去を求める措置を執らない方針であって、さらに本件市道の路線の廃止及びAへの売渡しが見込まれていることから、放置すれば原状の回復は一層困難になる。
よって、重大な損害を生ずるおそれが認められる。
4 補充性
37条の2第1項は「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」であることを要件とする。
判例は、地方公共団体の開設している村道について、村民各自は他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において自己の生活上必須の行動を自由に行い得る使用の自由権を有し、この通行の自由権を妨害されたときは民法上その妨害の排除を求める権利を有するとしている(最判昭39.1.16)。したがってXらは、Aに対し民事訴訟により本件フェンスの撤去を求める余地がある。
しかし、「他に適当な方法」とは、当該処分がされないことによる損害を避けるために法令上特別の救済手続が設けられている場合をいうと解すべきである。民事訴訟による妨害排除請求は、私人間の権利関係に基づく救済であって、道路法が道路管理者に監督処分の権限を与えて道路の適正な管理を確保しようとする趣旨とは別個のものであり、行政庁に処分を義務付ける方法ではない。したがって、民事訴訟の可能性は補充性を否定しない。
加えて、本件ではAが本件市道を排他的に占有しているといえるか、Xらの通行が「生活上必須」のものといえるかについて争いがあり得るのであって、民事訴訟によって確実に救済を受けられるとは限らない。
よって、補充性の要件を充たす。
5 原告適格
37条の2第3項は、一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起できるとし、同条4項は9条2項を準用する。すなわち、処分の根拠となる法令の趣旨及び目的、並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、処分がされないことにより害される利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案して判断する。
道路法1条は、道路網の整備を図るため道路に関して路線の認定、管理等に関する事項を定め、交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的とするとし、2条1項は「道路」を「一般交通の用に供する道」と定義する。43条2号は、何人も、みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をしてはならないとし、違反には罰則が設けられている(102条3号)。そして71条1項1号は、これに違反している者に対する監督処分を定め、その命令違反にも罰則が設けられている(104条4号)。
このように法は、道路における交通の確保を罰則をもって担保しているのであり、道路の通行の自由は法が保護する利益である。もっとも、道路の通行は一般公衆による自由使用であり、通常は個々人の個別的利益として保護されているとはいえない。
しかし、前記最判昭39.1.16が村道の通行について使用の自由権を認め民法上の保護を及ぼしていることに照らせば、当該道路を生活上不可欠な通行路として日常的に利用し、他に適当な代替路がないために通行が妨害されれば日常生活に著しい支障を受ける者については、その通行の利益は一般的公益に吸収解消されない個別的利益として保護されると解すべきである。
本件では、X1は本件市道に隣接する本件土地を所有し、その上の住宅に居住している。本件市道は全長約200メートルで、その西側に立ち並ぶ数戸の住宅の敷地及び本件畑が接しており、X1の本件土地もこれに接する。X2は本件市道をC小学校への通学路として利用してきた。本件市道の閉鎖によりXらが受ける不利益は、前記3のとおり通学路及び災害時の避難路の喪失であり、生命及び身体の安全に関わる。
よって、Xらは原告適格を有する。
6 結論
以上より、Xらの提起する義務付け訴訟は訴訟要件を満たし適法である。
第2 設問1⑵
1 本案勝訴要件
37条の2第5項は、義務付けの訴えに係る処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ、又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、請求を認容するとする。
そこで、まずAによる本件フェンスの設置が道路法43条2号に違反し71条1項1号の要件を充たすこと、次にY市長が監督処分の措置を執らないことが裁量権の逸脱・濫用に当たることを主張すべきである。
2 43条2号違反
43条2号は「みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること」を禁止する。
本件フェンスは、本件市道の北端と南端に設置され、一般通行者が本件市道に立ち入ることができないようにするものである。本件市道は道路法8条1項に基づく路線の認定を受けた認定道路であり、歩行者、自転車及び原動機付自転車の通行が可能な道路である。本件フェンスは、その交通に支障を及ぼすにとどまらず、通行を全面的に遮断するものであるから、「道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為」に明らかに該当する。
次に「みだりに」とは、正当な理由なくという意味である。Aは園児の安全を確保するための緊急措置として本件フェンスを設置したのであり、その目的自体は正当である。しかし、認定道路の通行を遮断することは、路線の廃止(10条1項)又は供用の廃止(18条2項)という道路管理者の権限に属する事項であって、私人が実力をもって行い得るものではない。園児の安全を確保する手段としては、注意標示の設置、園児の横断時における誘導、本件保育園及び本件畑の側への防護柵の設置、道路管理者又は交通管理者に対する交通規制の要請など、通行を全面的に遮断しない代替的手段が存在した。したがって、通行の全面的遮断という手段を自ら選択したことは正当な理由を欠き、「みだりに」に当たる。
なお、43条2号の「支障を及ぼす虞」「みだりに」という文言は評価を含むが、同号違反は102条3号により罰則の対象となる犯罪構成要件であって、道路管理者の裁量的判断に委ねられた事項ではない。したがって要件該当性の判断に広い裁量は認められない。
Y市長は、(ア)本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しいと思われること、(イ)現に接触事故が発生し同種事故が発生しかねないこと、(ウ)いずれ路線の廃止が見込まれることから43条2号に違反しないと判断した。しかし、(ア)は後述するとおり事実の基礎を欠き、(イ)は前記のとおり通行の全面的遮断を正当化しない。(ウ)は、現に路線が廃止されていない現段階において考慮すべきでない事情である。よってY市長の判断は誤りである。
以上より、Aは71条1項1号の「この法律……の規定に違反している者」に当たる。
3 監督処分の措置を執らないことの違法
71条1項は「命ずることができる」と定め、監督処分を行うか否か、またいかなる監督処分を行うかについて道路管理者に効果裁量を認めている。したがって、除却命令をすべきことが法令の規定から明らかであるとはいえず、処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用に当たるかを検討する。
裁量権の逸脱・濫用の有無は、判断の過程において考慮すべき事項を適切に考慮したか、考慮すべきでない事項を考慮していないか、各考慮事項に対する評価が合理的であるかを審査し、その結果として判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかによって判断する。
まず、違反の内容及び程度をみると、本件フェンスは認定道路の通行を全面的かつ継続的に遮断するものであり、私人が実力をもって公道を閉鎖するという、道路管理の秩序を根底から害する行為である。43条2号違反には1年以下の懲役又は50万円以下の罰金という罰則が設けられており(102条3号)、法はこれを軽微な違反とはみていない。違反の重大性は明らかである。
次に、これにより害される利益は、前記のとおりX2の通学路としての利用及びXらの災害時の緊急避難路としての利用であり、生命及び身体の安全に関わる重要な利益である。Y市長はこれを全く考慮していない。
他方、Y市長が挙げる事情を検討する。(ア)本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用が乏しいという認定は、本件フェンスにより本件市道が閉鎖された状況の下で行われた調査に基づくものである。閉鎖されていれば通行はあり得ないのであるから、この状況下の調査によって通行の実態を把握することはできない。しかも聞き取り調査は、路線の廃止及び売渡しを希望する当事者であるAに対してのみ行われ、隣接土地所有者であるX1に対しては行われていない。現に本件市道上で園児と原動機付自転車の接触事故が発生し、それ以前にも接触しかける事件が年数回発生していたのであるから、本件保育園の関係者以外の者による通行は現に存在していた。したがって(ア)は重要な事実の基礎を欠く。
(イ)園児の安全確保の必要は正当な考慮事項であるが、前述のとおり通行を遮断しない代替手段が存在するのであるから、違反状態を放置することを正当化する理由とはならない。また、園児の安全確保は、第一次的にはAが自らその敷地及び本件畑の側に防護措置を講ずることによって図るべきものである。
(ウ)いずれ路線の廃止が見込まれるという点については、路線の廃止は10条1項の要件を充たす場合に限り認められるのであるから、現に廃止されていない段階でこれを前提とすることは、法の定める手続を潜脱するものである。しかも隣接土地所有者であるX1が強く反対しており、廃止が確実であるともいえない。考慮すべきでない事情である。
以上によれば、Y市長は、考慮すべきでない事情を考慮し、重要な事実の基礎を欠く認定に依拠し、Xらが受ける重大な不利益及び違反の重大性を考慮しないまま、監督処分の措置を執らないこととしたものである。その判断は社会通念に照らし著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものである。
よってXらは、Y市長がAに対し71条1項1号に基づき本件フェンスの除却を命じないことが違法であると主張すべきである。
第3 設問2⑴
1 判断枠組み
取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭39.10.29)。
市町村道は、市町村長による路線の認定(8条1項)及びその公示(9条)、道路の区域の決定及び公示(18条1項)、供用の開始の公示(18条2項)という過程を経て供用が開始される。そして路線の廃止は道路自体の消滅を意味し、これにより道路の区域及び供用行為も自動的に消滅する。そこで、区域の決定及び供用開始が道路敷地の所有者及び通行者の法的地位に及ぼす影響を検討した上で、路線の廃止の法効果を明らかにする。
2 道路の区域の決定及び供用開始の法効果
(1) 敷地所有者について
18条1項により道路の区域が決定されると、91条1項により、供用が開始されるまでの間は、道路管理者が当該区域についての土地に関する権原を取得する前においても、何人も道路管理者の許可を受けなければ当該区域内において土地の形質を変更し、工作物を新築し、改築し、増築し、若しくは大修繕し、又は物件を付加増置してはならないこととなる。すなわち、当該土地の所有者は、その土地の利用について一般的な制限を受ける。そして91条3項は、この制限により損失を受ける者に対し通常受けるべき損失を補償しなければならないとしており、法が補償規定を置いていることは、区域の決定が所有者の権利に対する法的な制限を生じさせるものであることを示す。
さらに供用が開始されると、4条により、道路を構成する敷地、支壁その他の物件については私権を行使することができないこととなる(ただし所有権の移転又は抵当権の設定・移転は妨げられない)。すなわち、敷地所有者は、所有権に基づく使用、収益及び妨害排除等の権利行使を一切できなくなる。これは所有権の内容に対する重大かつ直接の制限である。
本件市道の敷地は古くからY市が所有しているが、法は私人が所有する敷地が道路の区域とされる場合があり得ることを前提としており(91条1項の「権原を取得する前においても」という文言、4条ただし書)、区域の決定及び供用開始が敷地所有者の法的地位に及ぼす前記の効果は、法が一般的に定めるところである。
(2) 通行者について
供用が開始されると、当該道路は「一般交通の用に供する道」(2条1項)となり、何人も自由に通行することができる。そして43条2号は道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為を禁止し、71条1項は違反者に対する監督処分を定め、102条3号及び104条4号は罰則を設けている。すなわち、道路における通行の自由は、法が罰則をもって担保する保護された地位である。判例も、村道について村民各自が自己の生活上必須の行動を自由に行い得る使用の自由権を有し、妨害排除請求権を有するとしている(最判昭39.1.16)。
3 路線の廃止の法効果
10条1項により路線が廃止されると、道路自体が消滅し、当該路線について定められていた道路の区域及び供用行為も自動的に消滅する。
その結果、第一に、敷地所有者については、91条1項の利用制限及び4条による私権行使の制限が解除される。私人が所有する敷地について区域決定及び供用がされていた場合には、路線の廃止によってその土地が道路でなくなるのであるから、所有者の法的地位は一方的に変動する。
第二に、通行者については、当該道路を自由に通行し得る法的地位を一方的に失う。路線が廃止されれば当該土地は道路ではなくなり、43条2号及び71条1項の適用もなくなるから、敷地の所有者がこれを閉鎖しても道路法上これを是正する手段は存在しなくなる。本件市道を生活上不可欠な通行路として利用していた者にとっては、その生活に著しい支障が生ずる。
そして、路線の廃止は市町村長が一方的に行う行為であり、通行者や隣接土地所有者の同意は法律上の要件とされていない。10条3項により9条が準用され、公示によってその効力が一般に及ぶ。
4 結論
以上によれば、本件市道の路線の廃止は、道路管理者が一方的に、敷地所有者に対する権利制限を解除し、かつ通行者が当該道路を自由に通行し得る法的地位を消滅させる行為であって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものである。
これに対し、路線の廃止は道路網の管理に関する行政内部の判断にすぎず、通行の自由は反射的利益にとどまるとの反論が考えられる。しかし、前述のとおり法は通行の自由を罰則をもって担保しており、かつ生活上不可欠な道路の通行者には日常生活に著しい支障が生ずるのであるから、単なる反射的利益とはいえない。
よって、本件市道の路線の廃止は取消訴訟の対象となる処分に当たる。
第4 設問2⑵
1 10条1項の要件該当性
10条1項は、市町村長は、市町村道について「一般交通の用に供する必要がなくなつたと認める場合」においては、当該路線の全部又は一部を廃止することができると定める。
Xらは、まず、2条1項が「道路」を「一般交通の用に供する道」と定義していることからすれば、現に通行者による利用が存在し道路としての機能が失われていない以上、「一般交通の用に供する必要がなくなつた」とはいえないと主張すべきである。本件ではX2が現にC小学校への通学路として本件市道を利用しているのであるから、この主張によれば要件該当性が否定される。
これに対しY市長は、「必要がなくなつた」とは、当該道路を一般交通の用に供する客観的な必要性が失われたことをいい、現に一部の者による利用があっても、利用の程度が乏しく、代替的な交通路が近接して存在し、道路の構造上も一般交通に適さない状況があれば要件を充たすと主張することが考えられる。本件市道は幅員約1メートルしかなく普通乗用自動車が通行できず、近くに幅員5メートルの認定道路であるB通りがあり、本件保育園の関係者以外の者による利用は乏しいというのである。
そして「認める場合」という文言、及び道路網の整備という政策的・専門技術的判断(1条)を伴うことからすれば、要件該当性の判断について市町村長に一定の裁量が認められる。また「廃止することができる」という文言からすれば、要件を充たす場合に廃止するか否かについても効果裁量が認められる。
もっとも、路線の廃止は、通行者の通行の自由という法的地位を一方的に消滅させ、生活上不可欠な道路を利用していた者には日常生活に著しい支障を生じさせるものであるから、その裁量は無限定ではなく、通行者の利益を適切に考慮することが要請される。
2 裁量権の逸脱・濫用
(1) 重要な事実の基礎を欠くこと
Y市長は、本件フェンスにより本件市道が閉鎖された状況の下において職員に本件市道の調査を行わせた。閉鎖されていれば一般通行者による通行はあり得ないのであるから、この状況下の調査によって通行の実態を把握することは不可能である。
しかも聞き取り調査は、本件市道の路線の廃止及び売渡しを希望する当事者であるAに対してのみ行われ、隣接土地所有者であるX1その他の隣接土地所有者に対しては行われていない。
現に、本件市道上で園児と原動機付自転車の接触事故が発生し、それ以前にも原動機付自転車が園児と接触しかける事件が年数回発生していたのであるから、本件保育園の関係者以外の者による通行は存在していた。
したがって、「本件保育園の関係者以外の者による本件市道の利用は乏しい」との認定、ひいては「一般交通の用に供する必要がなくなつた」との判断は、重要な事実の基礎を欠く。
(2) 考慮不尽及び評価の誤り
X2はC小学校への通学路として本件市道を利用してきた。本件市道を通る方がB通りを通るより約400メートル短く、通学の負担が軽い。また、本件市道は普通乗用自動車が通行できず交通量が少ないため、B通りよりも小学生にとって安全である。小学生の通学路の安全は、生命及び身体の安全に関わる重要な利益である。
さらに、C小学校は災害時の避難場所として指定されており、Xらは災害時にC小学校に行くための緊急避難路として本件市道を利用する予定であった。災害時の避難経路の確保は生命に直結する利益である。
Y市長は、B通りという代替路の存在のみを理由とし、これらの事情を全く考慮していない。しかも、本件市道の幅員が約1メートルしかなく普通乗用自動車が通行できないという事実を、Y市長は廃止を正当化する理由としているが、X2にとってはかえって通学路としての安全性を高める要素である。同一の事実についての評価を誤っている。
加えて、路線の廃止により本件市道の敷地はAに売り渡され、本件保育園の敷地及び本件畑と一体化されることが予定されている。これは、本来一般交通の用に供されるべき公道を、特定の私人の便宜のために処分するものであり、交通の発達に寄与し公共の福祉を増進するという1条の目的に沿わない。Aの私的利益を過大に評価したものといえる。
(3) 内部基準との関係
Y市は、市道の路線を廃止するためには当該市道に隣接する全ての土地の所有者から同意を得る必要がある旨の内部基準を設け、これをウェブサイトで公表している。
この内部基準は、法令の委任に基づく法規命令ではなく、10条1項の要件該当性及び廃止をするか否かの判断についての裁量基準すなわち行政規則である。したがって、隣接土地所有者全員の同意を得ることは法律上の要件ではなく、この点についてのY市の回答自体は誤りではない。
しかし、第一に、この内部基準は合理性を有する。隣接土地所有者は、当該道路の通行について最も密接な利害を有する者であるから、その同意を要求することは、「一般交通の用に供する必要がなくなつた」か否かを判断するに当たって通行の実態及び必要性を的確に把握するための手段として合理的である。
第二に、Y市はこれをウェブサイトで公表しており、住民はこれに従った運用がされることを信頼する。合理的な裁量基準が設定され公表されている場合に、正当な理由なくこれに反する処分をすることは、平等原則及び信義則に反し、裁量権の逸脱・濫用となる。
本件では、本件土地を所有するX1が強く反対して同意していない。それにもかかわらず、基準から離脱すべき特段の理由を示すことなく路線を廃止することは、合理的な裁量基準に正当な理由なく反する処分として違法である。しかもY市長は、自らAに対し、本件市道に隣接する全ての土地の所有者から路線の廃止に関する同意を得た上で売渡しに向けた手続を進めるよう回答していたのであるから、これに反する取扱いは信義則にも反する。
3 結論
以上より、Xらは、本件市道の路線の廃止は、「一般交通の用に供する必要がなくなつた」との判断が重要な事実の基礎を欠き、Xらの通学路及び緊急避難路としての利益を考慮せず、同一の事実の評価を誤り、Aの私的利益を過大に評価し、かつ公表された合理的な裁量基準に正当な理由なく反するものであって、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法である(行訴法30条)と主張すべきである。
以上