司法試験 平成26年 行政法
問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕,〔設問3〕の配点割合は,5:2.5:2.5〕)
株式会社Aは,B県知事により採石法所定の登録を受けている採石業者である。Aは,B県の区域にある岩石採取場(以下「本件採取場」という。)で岩石を採取する計画を定め,採石法に基づき,B県知事に対し,採取計画の認可の申請(以下「本件申請」という。)をした。Aの採取計画には,跡地防災措置(岩石採取の跡地で岩石採取に起因する災害が発生することを防止するために必要な措置をいう。以下同じ。)として,掘削面の緑化等の措置を行うことが定められていた。
B県知事は,B県採石法事務取扱要綱(以下「本件要綱」という。)において,跡地防災措置が確実に行われるように,跡地防災措置に係る保証(以下「跡地防災保証」という。)について定めている。 本件要綱によれば, 採石法による採取計画の認可 (以下 「採石認可」 という。) を申請する者は,跡地防災措置を,申請者自身が行わない場合に,C組合が行う旨の保証書を,認可申請書に添付しなければならないものとされる。C組合は,B県で営業している大部分の採石業者を組合員とする,法人格を有する事業協同組合であり, AもC組合の組合員である。 Aは, 本件要綱に従って, C組合との間で保証契約(以下「本件保証契約」という。)を締結し,その旨を記載した保証書を添付して,本件申請をしていた。B県知事は,本件申請に対し,岩石採取の期間を5年として採石認可(以下「本件認可」という。)をした。Aは,本件認可を受け,直ちに本件採取場での岩石採取を開始した。
しかし,Aは,小規模な事業者の多いB県下の採石業者の中では突出して資本金の額や事業規模が大きく,経営状況の良好な会社であり,採取計画に定められた跡地防災措置を実現できるように資金を確保しているので, 保証を受ける必要はないのではないか, また, 保証を受けるとしても, 他の採石業者から保証を受ければ十分であり,保証料が割高なC組合に保証料を支払い続ける必要はないのではないか, との疑問をもっていた。 加えて, Aは, C組合の運営に関してC組合の役員と事あるたびに対立していた。こうしたことから,Aは,本件認可を受けるために仕方なく本件保証契約を締結したものの,当初から契約を継続する意思はなく,本件認可を受けた1か月後には,本件保証契約を解除した。
これに対し,B県の担当職員は,Aは採石業者の中では大規模な事業者の部類に入るとはいえ,大企業とまではいえないから,地元の事業者団体であるC組合の保証を受けることが必要であるとして, Aに対し, C組合による保証を受けるよう指導した。 しかし, Aは, そもそもC組合による保証をAに対する採石認可の要件とすることは違法であり,Aは本件申請の際にC組合による保証を受ける必要はなかったと主張している。
他方,本件採取場から下方に約10メートル離れた土地に,居住はしていないが森林を所有し,林業を営んでいるDは,Aによる跡地防災措置が確実に行われないおそれがあり,もし跡地防災措置が行われなければ,Dの所有する森林が土砂災害により被害を受けるおそれがあると考えた。そして,Dは,B県知事がAに対し岩石の採取をやめさせる処分を行うようにさせる何らかの行政訴訟を提起することを検討していると,B県の担当職員に伝えた。
B県の担当職員Eは,AがC組合から跡地防災保証を受けるように,引き続き指導していく方針であり,現時点で直ちにAに対して岩石の採取をやめさせるために何らかの処分を行う必要はないと考えている。しかし,Dが行政訴訟を提起する構えを見せていることから,B県知事はDが求めるようにAに対して処分を行うことができるのか,Dは行政訴訟を適法に提起できるのか,また,Aが主張するように,そもそもC組合による保証をAに対する採石認可の要件とすることは違法なのか,検討しておく必要があると考えて,弁護士Fに助言を求めた。
以下に示された【資料1 会議録】 を読んだ上で,職員Eから依頼を受けた弁護士Fの立場に立って,次の設問に答えなさい。
なお, 採石法及び採石法施行規則の抜粋を【資料2 関係法令】に, 本件要綱の抜粋を【資料3B県採石法事務取扱要綱(抜粋)】に,それぞれ掲げてあるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕Aは, 採石認可申請の際にC組合による保証を受ける必要はなかったと主張している。 仮にAが採石認可申請の際にC組合から保証を受けていなかった場合,B県知事がAに対し採石認可拒否処分をすることは適法か。 採石法及び採石法施行規則の関係する規定の趣旨及び内容を検討し, 本件要綱の関係する規定が法的にどのような性質及び効果をもつかを明らかにしながら答えなさい。
〔設問2〕B県知事は, Aに対し, 岩石の採取をやめさせるために何らかの処分を行うことができるか。 候補となる処分を複数挙げ, 採石法の関係する規定を検討しながら答えなさい。 解答に当たっては,〔設問1〕におけるB県知事の採石認可拒否処分は適法であるという考え方を前提にしなさい。
〔設問3〕Dが〔設問2〕で挙げられた処分をさせることを求める行政訴訟を提起した場合, 当該訴えは適法か。行政事件訴訟法第3条第2項以下に列挙されている抗告訴訟として考えられる訴えの例を具体的に一つ挙げ, その訴えが訴訟要件を満たすか否かについて検討しなさい。 なお, 仮の救済は解答の対象から除く。
【資料1 会議録】職 員E:Aは,C組合による保証をAに対する採石認可の要件とすることは違法であると主張しています。 これまでは, 採石認可申請が保証書の添付なしに行われた場合も, 指導すれば, 採石業者はすぐにC組合から保証書をとってきましたので,Aの言うような問題は詰めて考えたことがないのです。しかし,これからAに指導を行う上では,Aの主張に対して答える必要が出てきそうですので,検討していただけないでしょうか。
弁護士F:Aの主張については,Dによる行政訴訟に関して検討する前提としても明らかにしておく必要がありますので,よく調べてお答えすることにいたします。まずは採石法と採石法施行規則の関係規定から調べますが,B県では要綱も定めているのですね。
職 員E:はい。 採石業は, 骨材, 建築・装飾用材料, 工業用原料等として用いられる岩石を採取する事業ですが, 岩石資源は単価が安く, また, 輸送面での制約があるため, 地場産業として全国各地に点在しており,小規模事業者の比率が高い点に特徴があります。ところが,跡地防災措置は多額の費用を必要とし,確実に行われないおそれがあります。そのような背景から,本件要綱は,採石認可の申請者はC組合の跡地防災保証を受けなければならないとし,保証書を採石認可申請の際の添付書類として規定しています。本件要綱のこうした規定によれば,C組合の保証を受けない者による採石認可申請を拒否できることは,当然のようにも思われるのですが。
弁護士F:御指摘の要綱の定めは,法律に基づく政省令等により,保証を許認可の要件として規定する場合とは,法的な意味が異なります。御指摘の本件要綱の規定が,採石法や採石法施行規則との関係でどのような法的性質をもち,どのような法的効果をもつか,私の方で検討しましょう。
職 員E:お願いします。
弁護士F:ところで,他の都道府県でも,本件要綱と同じように,特定の採石事業協同組合による保証を求めているのですか。
職 員E:その点は, 都道府県によってまちまちです。保証人は申請者以外の複数の採石業者でもよいとしている県もありますし,跡地防災措置のための資金計画の提出を求めるのみで,保証を求めていない県もあります。 しかし, B県では, 跡地防災措置が適切になされない例が多く, 跡地防災措置を確実に履行させるためには,地元のC組合による保証が必要と考えています。
弁護士F:なるほど。今までのお話を踏まえて,Aからの反論も想定した上で,仮にAがC組合による保証を受けずに採石認可申請をした場合,B県知事が申請を拒否することが適法といえるかどうか,まとめておきます。
職 員E:今後の私たちの採石認可業務にも参考になりますので,よろしくお願いします。
弁護士F:承知しました。ところで,Dが行政訴訟を起こそうとしていることも伺いました。B県としては,保証が必要と考えておられるのでしたら,Aに対して何らかの処分をすることは考えておられないのですか。
職 員E:Aに対して保証を受けるように指導はしているのですが, 今のところ,Aの財務状況は良好で,岩石の採取をやめさせる処分を直ちに行う必要はないと考えています。それに,こんな事例は初めてで,どのような処分が可能なのか,やはり詰めて考えたことがないのです。
弁護士F:そうですか。それでは,Dが求めているように,Aに対し岩石の採取をやめさせる処分が可能なのか, 検討しておく必要がありますね。 Dは, Aの主張とは逆に, 仮にC組合による跡地防災保証がなければ,Aからの採石認可申請は拒否すべきであったと主張するでしょうから,こうした主張を前提にして考えてみます。検討の前提として伺いますが,認可されたAの採取計画には,跡地防災保証についても記載されているのですか。
職 員E:採取計画には, 法令上,跡地防災措置について記載する必要があると考えられ,Aの採取計画にも,採取跡地について掘削面の緑化等の措置を行うことが記載されていますが,跡地防災保証については,法令上,採取計画に定める事項とはされておらず,Aの採取計画にも記載されていません。跡地防災保証については,申請書に添付された保証書によって審査しています。しかし,採取計画と保証書とは一体であると考えていまして,保証によって跡地防災措置が確実に履行されることを前提として,採取計画を認可しています。
弁護士F:分かりました。今のお話を踏まえ,採石法の関係する規定に照らして,Aに対し岩石の採取をやめさせるために行うことのできる処分について,様々な可能性を検討してみます。
職 員E:お願いします。 ただ,素朴に考えると,認可の審査の際に前提としていた保証がなくなってしまったわけですから,認可の取消しは,採石法の個々の規定にかかわらず当然できるように思うのですが,いかがでしょうか。
弁護士F:なるほど。まずは採石法の個々の規定を綿密に読む必要がありますが,御指摘の点も検討しておく価値がありますね。
職 員E:お願いします。 ところで,Aに対して何らかの処分を行うことが可能だとしても,処分を行うか否かはB県知事が判断することだと思うのですが,Dが裁判で求めるようなことができるのですか。
弁護士F:Dがどのような訴えを起こすのか,現時点では確かではありませんが,法定抗告訴訟を提起する可能性が高いと思いますので,法定抗告訴訟として考えられる訴えの例を具体的に一つ想定し,Dの訴えが訴訟要件を満たすか否かについて,もちろん法令の関係する規定を踏まえて, 検討しておきます。 Dは, 行政訴訟に併せて仮の救済も申し立ててくると思いますが, 仮の救済の問題は,今回は検討せず,次の段階で検討することにします。
【資料2 関係法令】
○ 採石法(昭和25年12月20日法律第291号) (抜粋)
(目的)
第1条 この法律は, 採石権の制度を創設し,岩石の採取の事業についてその事業を行なう者の登録,岩石の採取計画の認可その他の規制等を行ない,岩石の採取に伴う災害を防止し,岩石の採取の事業の健全な発達を図ることによつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。
(採取計画の認可)
第33条 採石業者は, 岩石の採取を行なおうとするときは, 当該岩石の採取を行なう場所 (以下 「岩石採取場」 という。) ごとに採取計画を定め, 当該岩石採取場の所在地を管轄する都道府県知事の認可を受けなければならない。
(採取計画に定めるべき事項)
第33条の2 前条の採取計画には,次に掲げる事項を定めなければならない。
一 岩石採取場の区域二 採取をする岩石の種類及び数量並びにその採取の期間三 岩石の採取の方法及び岩石の採取のための設備その他の施設に関する事項四 岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項五 前各号に掲げるもののほか,経済産業省令で定める事項(認可の申請)
第33条の3 第33条の認可を受けようとする採石業者は,次に掲げる事項を記載した申請書を都道府県知事に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては,その代表者の氏名二 登録の年月日及び登録番号三 採取計画2 前項の申請書には,岩石採取場及びその周辺の状況を示す図面その他の経済産業省令で定める書類を添附しなければならない。
(認可の基準)
第33条の4 都道府県知事は, 第33条の認可の申請があつた場合において,当該申請に係る採取計画に基づいて行なう岩石の採取が他人に危害を及ぼし,公共の用に供する施設を損傷し,又は農業,林業若しくはその他の産業の利益を損じ,公共の福祉に反すると認めるときは,同条の認可をしてはならない。
(認可の条件)
第33条の7 第33条の認可(中略)には,条件を附することができる。
2 前項の条件は, 認可に係る事項の確実な実施を図るため必要な最小限度のものに限り,かつ,認可を受ける者に不当な義務を課することとなるものであつてはならない。
(遵守義務)
第33条の8 第33条の認可を受けた採石業者は, 当該認可に係る採取計画(中略)に従つて岩石の採取を行なわなければならない。
(認可の取消し等)
第33条の12 都道府県知事は,第33条の認可を受けた採石業者が次の各号の一に該当するときは,その認可を取り消し,又は六箇月以内の期間を定めてその認可に係る岩石採取場における岩石の採取の停止を命ずることができる。
一 第33条の7第1項の条件に違反したとき。
二 第33条の8の規定に違反したとき。
三 (中略)次条第1項の規定による命令に違反したとき。
四 不正の手段により第33条の認可を受けたとき。
(緊急措置命令等)
第33条の13 都道府県知事は,岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要があると認めるときは,採取計画についてその認可を受けた採石業者に対し,岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきこと又は岩石の採取を停止すべきことを命ずることができる。
2 都道府県知事は, (中略) 第33条若しくは第33条の8の規定に違反して岩石の採取を行なつた者に対し,採取跡の崩壊防止施設の設置その他岩石の採取に伴う災害の防止のための必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
第43条 次の各号の一に該当する者は, 1年以下の懲役若しくは10万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。
一( 略 )
二 (前略) 第33条の12, 第33条の13第1項若しくは第2項又は (中略) の規定による命令に違反した者三 第33条又は第33条の8の規定に違反して岩石の採取を行なつた者四( 略 )
○ 採石法施行規則(昭和26年1月31日通商産業省令第6号) (抜粋)
(採取計画に定めるべき事項)
第8条の14 法 (注:採石法)第33条の2第5号の経済産業省令で定める事項は,次に掲げるとおりとする。
一 岩石の賦存の状況二 採取をする岩石の用途三 廃土又は廃石のたい積の方法(認可の申請)
第8条の15 (略)
2 法第33条の3第2項の経済産業省令で定める書類は,次に掲げるとおりとする。
一 岩石採取場の位置を示す縮尺五万分の一の地図二 岩石採取場及びその周辺の状況を示す図面三 掘採に係る土地の実測平面図四 掘採に係る土地の実測縦断面図及び実測横断面図に当該土地の計画地盤面を記載したもの五( 略 )
六 岩石採取場を管理する事務所の名称及び所在地,当該事務所の業務管理者の氏名並びに当該業務管理者が当該岩石採取場において認可採取計画に従つて岩石の採取及び災害の防止が行われるよう監督するための計画を記載した書面七 岩石採取場で岩石の採取を行うことについて申請者が権原を有すること又は権原を取得する見込みが十分であることを示す書面八 岩石の採取に係る行為に関し, 他の行政庁の許可,認可その他の処分を受けることを必要とするときは,その処分を受けていることを示す書面又は受ける見込みに関する書面九 岩石採取場からの岩石の搬出の方法及び当該岩石採取場から国道又は都道府県道にいたるまでの岩石の搬出の経路を記載した書面十 採取跡における災害の防止のために必要な資金計画を記載した書面十一 その他参考となる事項を記載した図面又は書面
【資料3 B県採石法事務取扱要綱(抜粋) 】第7条 法(注:採石法)第33条の認可を受けようとする採石業者は,法第33条の2第4号により採取計画に定められた跡地防災措置(岩石採取の跡地で岩石採取に起因する災害が発生することを防止するために必要な措置をいう。 以下同じ。) につき, C組合を保証人として立てなければならない。
2 前項の保証人は, その保証に係る採石業者が破産等により跡地防災措置を行わない場合に,その採石業者に代わって跡地防災措置を行うものとする。
第8条 採取計画の認可を受けようとする採石業者は, 法第33条の3第1項の申請書に,法施行規則第8条の15第2項第11号の図面又は書面として,次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 第7条の保証人を立てていることを証する書面二~五 (略)
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
〔第2問〕本問は,Aが,採石法(以下「法」という。)に基づく採取計画の認可申請に当たり,B県の要綱に従い,岩石採取の跡地で岩石採取に起因する災害が発生することを防止するために必要な措置に係る保証(以下「跡地防災措置」及び「跡地防災保証」という。 )をC組合から受けたが,認可直後に保証契約を解除した事案における法的問題について論じさせるものである。
論じさせる問題は,要綱どおりの保証を受けずになされた認可申請に対する拒否処分の可能性(設問1),Aに採石をやめさせる処分の可能性(設問2),及び,当該採取計画に係る採取場の周辺に森林を所有し林業を営むDによる義務付け訴訟の可能性(設問3)である。問題文と資料から基本的な事実関係を把握し,法及び法施行規則の趣旨を読み解いた上で,各種処分の適法性及び義務付け訴訟の訴訟要件を論じる力を試すものである。
設問1では,法及び法施行規則の関係規定,跡地防災保証を定める要綱,及び認可申請拒否処分の関係を的確に論じなければならない。まず,法第33条の4が採石認可に関して都道府県知事に裁量をどの範囲で認めているかについて,採石認可に係る法及び法施行規則の規定並びに採石認可の性質を踏まえて論じることが求められる。法第33条の2第4号・第33条の3第2項・法施行規則第8条の15第2項第10号は,跡地防災措置につき定めるものの,いずれも跡地防災保証については明示していないが,法第33条の4が「公共の福祉に反すると認めるとき」という抽象的な要件を規定していること,採石業及び跡地防災措置の実態に鑑みて跡地防災保証の必要性が認められ得るが,その必要性の有無や程度は地域の実情によって異なり得ることなどに着目して,跡地防災保証を考慮に入れて認可の許否を決する裁量が都道府県知事に認められないか,検討することが求められる。次に,本件要綱の法的性質及び効果について,上記の裁量を前提とした裁量基準(行政手続法上の審査基準)に当たると解することが可能であり,裁量基準としての合理性が認められれば,必要な書類の添付を求めることも適法といえないか,検討することが求められる。ただし,法規命令と異なり,裁量基準としての要綱により申請者に一律に義務を課すことはできないことを踏まえて,岩石採取に当たり跡地防災保証を求め,さらにC組合という地元の特定の事業者団体を保証人とする要綱の定めがどの程度合理性を有し,逆にどの程度例外を認める趣旨か,検討しなければならない。以上を前提として,Aの事業規模や経営状況等の事実関係に即して,C組合による跡地防災保証をAに対する採石認可の要件とすることの適法性を論じることが求められる。
設問2では,B県知事がAに岩石採取をやめさせるために採り得る処分について,法の関係規定に照らして多面的に検討しなければならない。まず,法第33条の12第1号・第2号に関して,跡地防災保証は採取計画に定めるべき事項とはされていないものの,保証を前提として採取計画が認可されているという本件の事実関係に照らし,保証契約の継続が認可の「条件」
に当たり,又は「採取計画」に含まれるといえるか,また,同条第4号に関して,Aが当初から契約を継続する意思なく保証契約を締結し,本件認可の1か月後に保証契約を解除したことが,「不正の手段により……認可を受けたとき」に当たるか,そして,法第33条の13第1項に関して,本件の事実関係の下で「岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要がある」
と認められるかについて,検討することが求められる。さらに,認可要件を事後的に満たさなくなったことを理由とする認可の撤回が,法に直接明文の規定がなくても可能か,また,可能であるとしても,本件の事実関係の下で,本件認可の撤回によってAが被る不利益を考慮しても,なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるかについて,検討することが求められる。その際,法第33条の12が全体として一定の命令違反等を認可の撤回の要件としていることとの関係も考慮すべきである。
設問3は,非申請型義務付け訴訟(行政事件訴訟法第3条第6項第1号)に関する基本的な理解を問う問題であり,本件の事実関係の下で,Dの訴えが行政事件訴訟法第37条の2に規定された「一定の処分」,「重大な損害を生ずるおそれ」,「損害を避けるため他に適当な方法がないとき」等の訴訟要件を満たすか否かについて検討することが求められる。特に,Dに原告適格が認められるか否かについては,法第33条の4が林業の利益を損じると認めるときは認可をしてはならないと規定していること,Dは本件採取場から10メートル下方に森林を所有して林業を営んでおり,跡地防災措置が行われなければ土砂災害により所有権及び林業の利益が損なわれるおそれがあることなどを踏まえて,検討することが求められる。
なお,受験者が出題の趣旨を理解して実力を発揮できるように,本年も各設問の配点割合を明示することとした。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 採石認可における知事の裁量
採石法1条は、岩石の採取の事業について登録、採取計画の認可その他の規制等を行い、岩石の採取に伴う災害を防止し、岩石の採取の事業の健全な発達を図ることによって公共の福祉の増進に寄与することを目的とすると定める。
そして33条の4は、知事は、申請に係る採取計画に基づいて行う岩石の採取が「他人に危害を及ぼし、公共の用に供する施設を損傷し、又は農業、林業若しくはその他の産業の利益を損じ、公共の福祉に反すると認めるとき」は認可をしてはならないとする。
同条は、認可をしてはならない場合を定める消極要件の形式を採っており、同条の要件に該当しない限り知事は認可をしなければならない。したがって効果裁量は認められない。他方、「公共の福祉に反すると認めるとき」という要件は抽象的かつ多義的であり、しかも岩石の採取によって災害が発生するおそれの有無及び程度の判断は、採取場の地形・地質、周辺の土地利用状況、採取の方法等に関する専門技術的な予測を伴う。そこで、同条の要件該当性の判断については、知事に裁量(要件裁量)が認められると解する。
2 跡地防災保証を考慮に入れることができるか
次に、法令が明示していない跡地防災保証の有無を、33条の4の判断において考慮できるかを検討する。
法33条の2第4号は、採取計画に「岩石の採取に伴う災害の防止のための方法及び施設に関する事項」を定めなければならないとし、33条の3第2項及び施行規則8条の15第2項10号は、申請書に「採取跡における災害の防止のために必要な資金計画を記載した書面」を添付しなければならないとする。すなわち法は、跡地防災措置の内容のみならず、それが現実に実施されるための財政的裏付けまでを審査の対象としている。
もっとも、これらの規定は、跡地防災保証、すなわち申請者が跡地防災措置を行わない場合に第三者がこれを行う旨の保証については明示していない。
しかし、採石業は、岩石資源の単価が安く輸送面での制約があるため地場産業として全国各地に点在し、小規模事業者の比率が高い。他方、跡地防災措置は多額の費用を必要とし、確実に行われないおそれがある。そうすると、申請者自身の資金計画のみでは跡地防災措置の実施を担保しきれない場合があり、第三者の保証による履行確保は、災害の防止という法の目的の達成に直結する考慮要素である。そして、その必要性の有無や程度は、当該地域における採石業者の規模や跡地防災措置の実施状況といった地域の実情によって異なり得るから、都道府県知事の判断に委ねるのが相当である。現に、保証人を申請者以外の複数の採石業者でもよいとする県や、資金計画の提出を求めるのみで保証を求めない県もある。
したがって、知事は、跡地防災保証の有無を33条の4の要件該当性の判断における考慮要素とすることができる。
3 本件要綱の法的性質及び効果
本件要綱は、法令の委任に基づいて定立された法規命令ではなく、知事が内部的に定めた行政規則である。その内容は、33条の4の要件該当性に関する前記の裁量について判断の基準を示すものであり、申請により求められた認可をするかどうかを法令の定めに従って判断するために必要とされる基準、すなわち審査基準(行政手続法5条1項)に当たる。
審査基準は行政の内部基準であって国民を直接拘束する法規ではない。したがって、本件要綱7条が「C組合を保証人として立てなければならない」と定めていても、これにより申請者に一律に保証人を立てる法的義務を課すことはできない。同8条1号が保証人を立てていることを証する書面の添付を求めている点も、施行規則8条の15第2項11号の「その他参考となる事項を記載した図面又は書面」の内容を具体化したものにとどまり、当該書面の不添付のみをもって申請を不適法として拒否することはできない。
もっとも、審査基準が法の趣旨に照らして合理的である場合には、これに従ってされた処分は原則として適法であり、また、基準を適用する前提として必要な書面の提出を求めることも適法である。他方、審査基準は法規命令ではないから、その適用に当たっては個別具体的な事情を考慮しなければならず、基準を機械的に適用することが著しく不合理となる場合には、基準からの離脱が求められる。
4 本件要綱の合理性
跡地防災保証を求めること自体は、前記2のとおり合理性を有する。B県では跡地防災措置が適切になされない例が多いという実情があり、履行確保の手段を要求することは法の目的に適合する。
しかし、保証人をC組合という地元の特定の事業者団体に限定する点は、必要以上の制約である。保証の目的は跡地防災措置の確実な履行の確保であるから、同等以上の履行能力を有する他の保証人による保証や、申請者自身の確実な資金確保によっても、その目的は達せられる。C組合に限定することは、採石業者に対しC組合への加入と割高な保証料の支払を事実上強制するものであって、営業の自由(憲法22条1項)に対する過度の制約となりかねない。
もっとも、C組合はB県で営業している大部分の採石業者を組合員とする法人格を有する事業協同組合であり、保証の履行可能性が高い点で、履行確保の手段としての合理性は否定できない。そこで本件要綱7条は、跡地防災措置の確実な実施が他の方法によって担保されている場合には例外を認める趣旨のものと限定して解すべきである。このように解する限りにおいて、本件要綱は合理的な審査基準として適法である。
5 本件における拒否処分の適法性
これを本件に当てはめる。Aは、小規模な事業者の多いB県下の採石業者の中では突出して資本金の額や事業規模が大きく、経営状況の良好な会社であり、採取計画に定められた跡地防災措置を実現できるように資金を確保している。そして法は、施行規則8条の15第2項10号により採取跡における災害防止のために必要な資金計画を記載した書面の提出を求めているのであるから、知事はこれによりAの資金確保の状況を個別に審査することができる。
その審査の結果、A自身の資金によって跡地防災措置が確実に実施されると認められるのであれば、第三者の保証を欠いても、Aの岩石採取が「他人に危害を及ぼし……公共の福祉に反する」とは認められない。それにもかかわらず、C組合の保証がないことのみを理由として認可を拒否することは、33条の4の要件に該当しない場合に認可を拒否するものであり、違法である。
B県の担当職員は、Aが大規模な事業者の部類に入るとはいえ大企業とまではいえないことを理由にC組合の保証が必要であるとしているが、これはAの資金確保の具体的内容を個別に審査することなく、要綱を機械的に適用したものにほかならない。審査基準の適用における個別事情考慮義務に反し、裁量権の逸脱・濫用となる。
また、知事は、認可に条件を附することができる(33条の7第1項)のであるから、跡地防災措置の確実な実施を担保する必要があるとしても、相当額の資金の留保や跡地防災措置の段階的な実施を条件として付すなど、より制限的でない手段を採ることができる。同条2項は、条件は認可に係る事項の確実な実施を図るため必要な最小限度のものに限り、認可を受ける者に不当な義務を課することとなるものであってはならないとしており、法は履行確保の手段についても必要最小限度の原則を採っていると解される。この趣旨は、認可の許否の判断においても妥当する。
さらに、B県の担当職員はAに対しC組合による保証を受けるよう指導しているが、これは行政指導であって相手方の任意の協力によってのみ実現されるべきものであり(行手法32条1項)、これに従わなかったことを理由として不利益な取扱いをすることは許されない(同条2項)。指導に従わないことを理由とする拒否処分も違法である。
もっとも、Aの資金計画の審査の結果、跡地防災措置の確実な実施が認められない場合には、C組合に限らず何らかの履行確保の手段を欠くことを理由として認可を拒否することは、33条の4の要件に該当するものとして適法となり得る。
よって、本件のようにAが跡地防災措置を実現できる資金を確保している場合に、C組合による保証がないことのみを理由としてされる採石認可拒否処分は違法である。
第2 設問2
以下、設問1における拒否処分が適法であるという考え方、すなわちC組合による跡地防災保証を欠く申請は拒否すべきであったという立場を前提に検討する。
1 33条の12第1号(条件違反)
33条の12第1号は、認可を受けた採石業者が33条の7第1項の条件に違反したときは、認可を取り消し、又は6箇月以内の期間を定めてその認可に係る岩石採取場における岩石の採取の停止を命ずることができるとする。
33条の7第1項の条件は、認可処分に附される附款であり、認可処分において明示的に附されることを要する。本件認可においては、保証契約の継続を内容とする条件は附されていない。B県知事は保証書の添付を前提として本件認可をしたにとどまる。処分に附されていない事項を事後に条件とみなすことは、罰則(43条2号)の適用もある以上許されない。
よって1号には当たらない。
2 33条の12第2号(遵守義務違反)
同条2号は、33条の8の規定に違反したとき、すなわち認可に係る採取計画に従って岩石の採取を行わなかったときを定める。
採取計画に定めるべき事項は33条の2各号及び施行規則8条の14に法定されており、跡地防災保証はそのいずれにも含まれていない。Aの採取計画にも跡地防災保証は記載されておらず、保証書は33条の3第2項及び施行規則8条の15第2項11号の添付書類として審査されたにとどまる。
B県は採取計画と保証書とは一体であると考えているが、採取計画の内容は法令によって法定されているのであるから、添付書類の内容をもって採取計画の一部とみなすことはできない。罰則の対象ともなる遵守義務の範囲を解釈により拡張することは、明確性の要請にも反する。
よって2号にも当たらない。なお、Aがその採取計画に定められた掘削面の緑化等の跡地防災措置を現実に行わなかった場合には33条の8違反となるが、本件は岩石採取の期間を5年とする認可を受けてその途中にあり、跡地防災措置の履行期は到来していないから、現時点では違反がない。
3 33条の12第4号(不正の手段による認可)
同条4号は、不正の手段により33条の認可を受けたときを定める。「不正の手段」とは、認可の要件に関する知事の判断を誤らせるような偽りその他不正な行為をいう。
Aは、本件認可を受けるために仕方なく本件保証契約を締結したものの、当初から契約を継続する意思はなく、本件認可を受けた1か月後には本件保証契約を解除した。設問1の前提に立てば、跡地防災保証は認可の許否を左右する重要な審査事項であり、Aは、継続する意思のない保証契約を締結して保証書を添付し、跡地防災措置の履行が担保されているという誤った判断を知事に生じさせて本件認可を得たものである。
確かに、本件保証契約は締結の時点では有効に成立しており、保証書の記載自体は真実である。しかし、Aが、保証を受ける必要性に疑問を持ち、C組合の運営に関してC組合の役員と事あるたびに対立していたこと、本件認可の1か月後という極めて短期間で解除したことからすれば、認可申請の当初から保証契約を継続する意思がなかったと認定できる。そうであれば、Aの行為は、形式的に保証書を整えて認可を得るという実質を有し、知事の判断を誤らせる不正な行為に当たる。
よって4号に該当し、知事は、本件認可を取り消し、又は6箇月以内の期間を定めて本件採取場における岩石の採取の停止を命ずることができる。なお、ここでいう認可の取消しは、認可を遡及的に無効とするものではなく、将来に向かってその効力を失わせる撤回と解される。
4 33条の13第1項(緊急措置命令)
同項は、知事は、岩石の採取に伴う災害の防止のため緊急の必要があると認めるときは、認可を受けた採石業者に対し、災害の防止のための必要な措置をとるべきこと又は岩石の採取を停止すべきことを命ずることができるとする。
本件では、Aの財務状況は良好で、跡地防災措置を実現できる資金を確保している。職員E自身、現時点で直ちにAに対して処分を行う必要はないと考えている。採取期間5年の途中であり跡地防災措置の履行期も到来しておらず、現に土砂災害が差し迫っているという事情もない。保証契約が解除されたことは、将来の跡地防災措置の履行の担保が失われたことを意味するにとどまり、災害発生の緊急性を示すものではない。
よって「緊急の必要がある」とは認められず、同項による処分はできない。なお同条2項は、33条又は33条の8の規定に違反して岩石の採取を行った者に対する措置命令であって、前記2のとおり違反がないから適用できない。
5 法の明文の規定によらない認可の撤回
職員Eが指摘するように、認可の審査の際に前提としていた保証が失われたことを理由として、33条の12の各号によらずに認可を撤回することができないかを検討する。
授益的行政行為の撤回は、相手方の既得の地位を奪うものであるが、行政行為の後に生じた事情によりこれを維持することが公益に適合しなくなった場合に、当該行為の目的を達成するためにされるものであるから、当該行為の根拠法規がその授権の中に撤回の権限を含むと解されるときには、明文の規定がなくても許される。もっとも、その可否は、撤回によって達成される公益上の必要性と、相手方が受ける不利益とを比較衡量して判断しなければならない。
しかし本件では、33条の12が、条件違反、遵守義務違反、命令違反及び不正の手段による認可取得という四つの場合を限定列挙して認可の取消しの要件を定めている。これは、採石業者が認可を受けて事業を行う地位の安定を図り、撤回事由を法定の場合に限定する趣旨と解される。したがって、同条各号に該当しない事由を理由とする撤回は、原則として許されない。
仮に許される場合があるとしても、本件では、Aは経営状況が良好で跡地防災措置を実現できる資金を確保しているのであるから、保証の喪失によって跡地防災措置が実施されないという公益上の支障が現実化しているとはいえない。他方、Aは本件認可を受けて直ちに本件採取場での岩石採取を開始しており、認可の撤回による不利益は重大である。そうすると、撤回すべき公益上の必要性が高いとはいえず、撤回は比例原則に反し違法となる。
なお、認可の取消し又は採取停止命令はいずれも不利益処分であるから、行手法13条1項に従い、認可の取消しについては聴聞(同項1号イ)、採取停止命令については弁明の機会の付与(同項2号)の手続を経なければならない。
6 結論
B県知事は、33条の12第4号に基づき、本件認可を取り消し、又は6箇月以内の期間を定めて岩石の採取の停止を命ずることができる。その余の処分をすることはできない。
第3 設問3
1 訴えの類型
Dは、本件認可の名宛人ではなく、B県知事に対し処分を求める法令上の申請権も有しない。そこで、Dが提起すべき訴えは、非申請型の義務付け訴訟(行政事件訴訟法3条6項1号)である。具体的には、B県知事がAに対し採石法33条の12第4号に基づき本件認可を取り消すべき旨を命ずることを求める訴えが考えられる。以下、この訴えについて37条の2の訴訟要件を検討する。
2 「一定の処分」
義務付けを求める処分は、裁判所が審理判断できる程度に特定されていなければならない。本件では、33条の12第4号に基づく本件認可の取消しとして、根拠規定、名宛人及び内容が特定されている。
なお、同条は認可の取消しと採取停止命令のいずれを選択するかを知事の裁量に委ねているから、「岩石の採取をやめさせる処分」という程度の特定であっても、裁量の範囲内でいずれかの処分をすべきことを命ずることは可能であり、「一定の処分」に当たると解してよい。
3 重大な損害を生ずるおそれ
37条の2第1項は、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあることを要件とし、同条2項は、その判断に当たり損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
Dは、本件採取場から下方に約10メートル離れた土地に森林を所有し、林業を営んでいる。Aによる跡地防災措置が確実に行われなければ、採取跡の崩壊により土砂災害が発生し、Dの森林が被害を受けるおそれがある。森林は、土砂の流入や崩落によって一旦毀損されれば、樹木の生育に長期間を要するため原状回復は事実上不可能であり、Dの林業の継続も困難となる。すなわち損害の回復は著しく困難であり、金銭賠償によって填補し得る性質のものではない。本件採取場から約10メートルという近接性及び採取場が上方に位置するという地形的関係からすれば、損害発生の蓋然性も認められる。
これに対し、Aは跡地防災措置を実現できる資金を確保しており、採取期間5年の途中で跡地防災措置の履行期も到来していないことから、損害発生の切迫性を欠くとの反論も考えられる。しかし、Aは跡地防災保証を失い、保証を受け直す意思もないのであって、跡地防災措置の履行確保が制度上失われた状態が継続している。設問2の前提に立てば、本来認可すべきでない採取が継続していることになる。そして岩石の採取が進行すれば掘削面は拡大し、災害のおそれは累積的に高まる。したがって重大な損害を生ずるおそれは認められる。
4 補充性
「その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」(37条の2第1項)とは、当該損害を避けるために法令上特別の救済手段が設けられている場合をいう。Dは本件認可の名宛人ではなく、また本件認可の取消訴訟を提起しても、Aの岩石採取をやめさせる効果を直接得ることはできず、しかも本件認可から既に相当の期間が経過している。法令上、周辺の土地所有者に特別の救済手続は用意されていない。
Aに対する民事上の妨害予防請求の可能性は、行政訴訟以外の私法上の手段にとどまり、行政庁に処分を義務付けることによる救済とは性質を異にするから、補充性を否定する事情とはならない。
よって補充性の要件を充たす。
5 原告適格
37条の2第3項は、義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができるとし、同条4項は9条2項の規定を準用する。
「法律上の利益を有する者」とは、当該処分がされないことにより自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。その判断に当たっては、当該処分の根拠となる法令の趣旨及び目的、並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、前者については当該法令と目的を共通にする関連法令の趣旨及び目的をも参酌し、後者については当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案する。
法1条は「岩石の採取に伴う災害を防止し」と定め、33条の4は、岩石の採取が「他人に危害を及ぼし、公共の用に供する施設を損傷し、又は農業、林業若しくはその他の産業の利益を損じ、公共の福祉に反すると認めるとき」は認可をしてはならないとする。すなわち法は、周辺における他人の生命・身体・財産の安全及び林業その他の産業の利益を、認可の許否において考慮すべき利益として明示的に掲げている。
さらに、33条の2第4号は採取計画に災害防止のための方法及び施設に関する事項を定めることを要求し、施行規則8条の15第2項は、岩石採取場及びその周辺の状況を示す図面(2号)、掘採に係る土地の実測平面図(3号)、実測縦断面図及び実測横断面図に計画地盤面を記載したもの(4号)、採取跡における災害の防止のために必要な資金計画を記載した書面(10号)の添付を求める。これらは、採取場の周辺の地形及び土地利用の状況を個別具体的に把握させ、周辺の特定の土地について災害が及ぶおそれを審査させる仕組みである。したがって法は、周辺において土地を所有し又は産業を営む者の利益を、専ら一般的公益に吸収解消させるのではなく、個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される。
Dは、本件採取場から下方に約10メートル離れた土地に森林を所有し林業を営んでおり、採取場に極めて近接し、かつ土砂が流下する下方に位置している。害されることとなる利益は森林の所有権及び林業の利益であって、土砂災害により一旦害されれば回復が著しく困難である。なお、Dは当該土地に居住していないが、33条の4は「林業……の産業の利益」を明示して保護しており、居住を要件としていないから、居住の有無は結論を左右しない。
よって、Dは原告適格を有する。
6 結論
以上より、Dが提起する、B県知事に対しAに対する本件認可の取消しを命ずることを求める非申請型義務付け訴訟は、訴訟要件を満たし適法である。
なお本案においては、33条の12が「認可を取り消し、又は……停止を命ずることができる」として知事に効果裁量を認めているから、処分をしないことが裁量権の逸脱・濫用に当たるか(37条の2第5項)が問題となるが、これは訴訟要件ではない。
以上