司法試験 平成23年 行政法
問題文
[公法系科目]〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕(1),〔設問2〕(2),〔設問3〕の配点の割合は,3.5:1.5:3.5:1.5〕)
社団法人Aは, モーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場 (以下 「本件施設」 という。)を P市Q地に設置する計画を立て,平成22年に,モーターボート競走法(以下「法」という。)第5条第1項により国土交通大臣の許可 (以下 「本件許可」という。)を受けた。Aは,本件許可の申請書を国土交通大臣に提出する際に, 国土交通省の関係部局が発出した通達 (「場外発売場の設置等の運用について」 及び 「場外発売場の設置等の許可の取扱いについて」) に従い, Q地の所在する地区の自治会Rの同意書(以下 「本件同意書」という。)を添付していた。本件許可がなされた直後に,Q地の近隣に法科大学院Sを設置している学校法人X1,及び自治会Rの構成員でありQ地の近隣に居住しているX2は, 国に対し本件許可の取消しを求める訴え (以下 「本件訴訟」という。) を提起した。本件訴訟が提起されたため,Aは,本件施設の工事にいまだ着手していない。
Aの計画によれば,本件施設は,敷地面積約3万平方メートル,建物の延べ床面積約1万平方メートルで,舟券投票所,映像設備,観覧スペース,食堂,売店等から構成され,700台を収容する駐車場が設置される。本件施設が場外発売場として営業を行うのは,1年間に350日であり,そのうち300日はナイターが開催される。本件施設の開場は午前10時であり,ナイターが開催されない場合は午後4時頃,開催される場合は午後9時頃に,退場者が集中することになる。
また,本件施設の設置を計画されているQ地,X2の住居,法科大学院S,及びこれらに共通の最寄り駅であるP駅の間の位置関係は,次のとおりである。Q地,X2の住居,法科大学院Sは,いずれも,P駅からまっすぐに南下する県道(以下「県道」という。)に面している。P駅の周辺には商店や飲食店が立ち並び,住民,通勤者,通学者などが利用している。P駅から県道を通って南下した場合,P駅から近い順に,法科大学院S,X2の住居,Q地が所在し,P駅からの距離は,法科大学院Sまでは約400メートル,X2の住居までは約600メートル,Q地までは約800メートルである。逆にQ地からの距離は,X2の住居までは約200メートル,法科大学院Sまでは約400メートルとなる。
平成23年になって,本件訴訟の過程で,本件同意書について次のような疑いが生じた。自治会Rでは,X2も含めて,本件施設の設置に反対する住民が相当な数に上る。それにもかかわらず,Aによる本件施設の設置に同意することを決議した自治会Rの総会において,同意に賛成する者が123名であったのに対し,反対する者は,10名しかいなかった。これは,自治会Rの役員が,本件施設の設置に反対する住民に総会の開催日時を通知しなかったために,大部分の反対派の住民が総会に出席できなかったためではないか,という疑いである。
国土交通大臣は,この疑いが事実であると判明した場合,次の措置を執ることを検討している。
まず,Aに対し,自治会Rの構成員の意思を真に反映した再度の決議に基づく自治会Rの同意を改めて取得し,国土交通大臣に自治会Rの同意書を改めて提出するように求める(以下「要求措置」
という。)。そして,Aが自治会Rの同意及び同意書を改めて取得することができない場合には,本件許可を取り消す(以下「取消措置」という。)。
以上の事案について,P市に隣接するT市の職員は,将来T市でも同様の事態が生じる可能性があることから, 弁護士に調査検討を依頼することにした。【資料1 会議録】 を読んだ上で, T市の職員から依頼を受けた弁護士の立場に立って,以下の設問に答えなさい。
なお,法及びモーターボート競走法施行規則(以下「施行規則」という。)の抜粋を【資料2 関係法令】に,関係する通達の抜粋を【資料3 関係通達】 に,それぞれ掲げるので,適宜参照しなさい。
〔設問1〕本件訴訟は適法か。X1及びX2それぞれの原告適格の有無に絞って論じなさい。
〔設問2〕国土交通大臣が検討している要求措置及び取消措置について,以下の小問に答えなさい。
⑴ Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明しているにもかかわらず,国土交通大臣がAに対し,取消措置を執る可能性を示しながら要求措置を執り続けた場合,Aは,取消措置を受けるおそれを除去するには,どのような訴えを提起するべきか。最も適法とされる見込みが高く,かつ,実効的な訴えを,具体的に二つ候補を挙げて比較検討した上で答えなさい。仮の救済は,考慮しなくてよい。
⑵ Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明したため,国土交通大臣がAに対し取消措置を執った場合,当該取消措置は適法か。解答に当たっては,関係する法令の定め,自治会の同意を要求する通達,及び国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし限界を丁寧に検討しなさい。
〔設問3〕T市は,新たに条例を定めて,次のような規定を置くことを検討している。①T市の区域に勝舟投票券の場外発売場を設置しようとする事業者は,T市長に申請してT市長の許可を受けなければならない。②T市長は,場外発売場の施設が周辺環境と調和する場合に限り,その設置を許可する。
このような条例による許可の制度が,事業者に対して実効性を持ち,また,住民及び事業者の利害を適切に調整できるようにするためには,上記①②の規定以外に,どのような規定を条例に置くことが考えられるか。また,このような条例を制定する場合に,条例の適法性に関してどのような点が問題になるか。考えられる規定の骨子及び条例の問題点を,簡潔に示しなさい。
【資料1 会議録】職 員:P市は,場外舟券売場の件で大騒ぎになっていますが,我がT市にとっても他人事ではありません。公営ギャンブルの場外券売場の設置が計画される可能性は,T市にもあります。
そこで,P市の事案を様々な角度から先生に検討していただいて,T市としても課題を見付け出し,将来のための備えをしたいと考えています。そのような趣旨ですから,P市の事案のいずれかの当事者や利害関係者の立場に立たずに,第三者の視点から御検討をお願いいたします。
弁護士:公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は,刑法第187条の富くじに当たるものの発売等を適法にする法制度である点が,通常の事業の許認可とは違うところですね。私もこれまで余り調査したことがない分野ですが,検討した上で文書を作成してみましょう。
職 員:早速, まず本件訴訟についてですが, これは, 適法な訴えなのでしょうか。 法, 施行規則,それから関係する通達を読みますと,それぞれに関係しそうな規定があるのですが,これらの規定のそれぞれが,本件訴訟の適法性を判断する上でどのような意味を持つのか,どうもうまく整理できないのです。
弁護士:問題になるのは,原告適格ですね。私の方で,法,施行規則,それから通達の関係する規定と,それらの規定が原告適格を判断する上で持つ意味を明らかにしながら,X1とX2それぞれの原告適格の有無を考えてみましょう。
職 員:お願いします。仮に本件訴訟が適法とされた場合に,本件許可が適法と判決されそうかどうかも問題ですが,今年になって,状況が大きく変わりましたので,差し当たりその問題までは検討していただかなくて結構です。
弁護士:状況が変わったとは,どういうことですか。
職 員:地元の同意書の作成プロセスについて重大な疑惑が持ち上がり,今度は,紛争が国土交通大臣とAとの間で生じる可能性が出てきたのです。Aは,裁判になって対立が激化してからもう一度地元の同意書を取ることなど無理だというので,同意を取り直すつもりがないようですが,国土交通大臣の方も,地元を軽んじる姿勢は取れないので,Aに同意書を取り直すように求め続けることが予想されます。この場合,今度は,Aが何らかの訴えを起こすことはできるのでしょうか。
弁護士:最も可能性のある訴えを検討して,具体的に挙げてみましょう。
職 員:それから,やや極端なケースを想定するのですが,地元の同意のプロセスに重大な瑕疵があった場合,国土交通大臣は,本件許可を取り消すことができるのでしょうか。この問題については,どうも私の頭が混乱しているので,いろいろ質問させてください。まず,施行規則第12条は,許可の基準として地元の同意とは規定していないのですが,そもそも,この条文に定められた基準以外の理由で,許可を拒否できるのですか。
弁護士:関係法令をよく検討して,お答えすることにします。
職 員:よろしくお願いします。付け加えますと,地元の同意と定めているのは,国土交通省の通達の方であり,これもそもそもの話になるのですが,このような通達に定められたことを理由にして,許可を拒否してよいのですか。この点も教えていただければと思います。
弁護士:問題となっている通達の法的な性格をはっきりと説明するように,文書にまとめてみます。
職 員:通達の中身について言いますと,地元の同意を重視している点は,自治体の職員としてはとてもよく理解できます。ただ,許可の取消しという措置まで執ることができるのかと問われると,自信を持って答えられないのです。
弁護士:法律家から見ますと,地元の同意を重視する行政手法には,問題点もありますね。国土交通大臣が本件許可の申請に際して地元自治会の同意を得ておくように求める行政手法の意義と問題点を,まとめておきましょう。その上で,疑惑が事実であると仮定して,国土交通大臣は,Aに対してどこまでの指導,処分といった措置を執ることができるのか,執り得る措置の範囲ないし限界についても綿密に検討しておきます。
職 員:今言われた「処分」について詳しく伺いたいのですが,仮に,地元自治会の同意がない場合に,国土交通大臣が申請に対して不許可処分をする余地が多かれ少なかれあるという考え方を採ると,一度許可をした後で許可を取り消す処分もできることになるのでしょうか。
弁護士:そこまで考えて,ようやく答えが出ますね。全体を順序立てて文書にまとめてみます。
職 員:助かります。それでやっと,我がT市の話になるのですが,T市の区域で場外舟券売場を設置しようとする事業者が現れた場合,国が定めた法令や通達の基準だけで設置を認めるのでは,不十分であると考えています。T市としては,調和のとれた街づくりをするために,場外舟券売場が周辺環境と調和するかをしっかりと審査して,市長が調和しないと判断した場合には,設置をやめていただく制度を作りたいと考えています。このような制度を条例で定める場合に,配慮すべき点を教えていただければ幸いです。
弁護士:解釈論だけでなく,立法論も大事ですからね。簡潔にまとめておきましょう。
【資料2 関係法令】
○ モーターボート競走法(昭和26年6月18日法律第242号) (抜粋)
(趣旨)
第1条 この法律は,モーターボートその他の船舶,船舶用機関及び船舶用品の改良及び輸出の振興並びにこれらの製造に関する事業及び海難防止に関する事業その他の海事に関する事業の振興に寄与することにより海に囲まれた我が国の発展に資し,あわせて観光に関する事業及び体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに,地方財政の改善を図るために行うモーターボート競走に関し規定するものとする。
(競走の施行)
第2条 都道府県及び人口,財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」という。)は,その議会の議決を経て,この法律の規定により,モーターボート競走(以下「競走」という。)を行うことができる。
2~4 (略)
5 施行者以外の者は,勝舟投票券(以下「舟券」という。)その他これに類似するものを発売して,競走を行つてはならない。
(競走場の設置)
第4条 競走の用に供するモーターボート競走場を設置し又は移転しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。
2~4 (略)
5 国土交通大臣は,必要があると認めるときは,第1項の許可に期限又は条件を附することができる。
6 国土交通大臣は, 第1項の許可を受けた者 (以下 「競走場設置者」という。) が1年以上引き続き同項の許可を受けて設置され若しくは移転されたモーターボート競走場(以下「競走場」という。) を競走の用に供しなかつたとき, 又は競走場の位置, 構造及び設備がその許可の基準に適合しなくなつたと認めるときは,同項の許可を取り消すことができる。
7,8 (略)
(場外発売場の設置)
第5条 舟券の発売等の用に供する施設を競走場外に設置しようとする者は,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。当該許可を受けて設置された施設を移転しようとするときも,同様とする。
2 国土交通大臣は,前項の許可の申請があつたときは,申請に係る施設の位置,構造及び設備が国土交通省令で定める基準に適合する場合に限り,その許可をすることができる。
3 競走場外における舟券の発売等は,第1項の許可を受けて設置され又は移転された施設(以下「場外発売場」という。)でしなければならない。
4 前条第5項及び第6項の規定は第1項の許可について,同条第7項及び第8項の規定は場外発売場及び場外発売場設置者 (第1項の許可を受けた者をいう。 以下同じ。) について, それぞれ準用する。
(競走場内等の取締り)
第22条 施行者は,競走場内の秩序(場外発売場において舟券の発売等が行われる場合にあつては, 当該場外発売場内の秩序を含む。) を維持し, かつ, 競走の公正及び安全を確保するため,入場者の整理,選手の出場に関する適正な条件の確保,競走に関する犯罪及び不正の防止並びに競走場内における品位及び衛生の保持について必要な措置を講じなければならない。
(競走場及び場外発売場の維持)
第24条 (略)
2 場外発売場設置者は,その場外発売場の位置,構造及び設備を第5条第2項の国土交通省令で定める基準に適合するように維持しなければならない。
(秩序維持等に関する命令)
第57条 国土交通大臣は,競走場内又は場外発売場内の秩序を維持し,競走の公正又は安全を確保し,その他この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは,施行者,競走場設置者又は場外発売場設置者に対し,選手の出場又は競走場若しくは場外発売場の貸借に関する条件を適正にすべき旨の命令,競走場若しくは場外発売場を修理し,改造し,又は移転すべき旨の命令その他必要な命令をすることができる。
(競走の開催の停止等)
第58条 (略)
2 国土交通大臣は,競走場設置者若しくは場外発売場設置者又はその役員が,この法律若しくはこの法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反し,又はその関係する競走につき公益に反し,若しくは公益に反するおそれのある行為をしたときは,当該競走場設置者又は当該場外発売場設置者に対し,その業務を停止し,若しくは制限し,又は当該役員を解任すべき旨を命ずることができる。
3 (略)
(競走場等の設置等の許可の取消し)
第59条 国土交通大臣は,競走場設置者又は場外発売場設置者が前条第2項の規定による命令に違反したときは,当該競走場又は当該場外発売場の設置又は移転の許可を取り消すことができる。
○ モーターボート競走法施行規則(昭和26年7月9日運輸省令第59号) (抜粋)
(場外発売場の設置等の許可の申請)
第11条 法第5条第1項の規定により場外発売場の設置又は移転の許可を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。
一 申請者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名二 場外発売場の設置又は移転を必要とする事由三 場外発売場の所在地四 場外発売場の構造及び設備の概要五 場外発売場を中心とする交通機関の状況六 場外発売場の建設費の見積額及びその調達方法七 場外発売場の建設工事の開始及び完了の予定年月日八 その他必要な事項2 前項の申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 場外発売場付近の見取図(場外発売場の周辺から1000メートルの区域内にある文教施設及び医療施設については,その位置及び名称を明記すること。)
二 場外発売場の設備の構造図及び配置図(1000分の1以上の縮尺による。 )
三 申請者が当該施設を使用する権原を有するか,又はこれを確実に取得することができることを証明する書類四 場外発売場の経営に関する収支見積書五 施行者の委託を受けて舟券の発売等を行う予定であることを証明する書類(場外発売場の設置等の許可の基準)
第12条 法第5条第2項の国土交通省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設及び設備の基準を除く。)は,次のとおりとする。
一 位置は,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのない場所であること。
二 構造及び設備が入場者を整理するため適当なものであること。
三 競走の公正かつ円滑な運営に必要な次に掲げる施設及び設備を有していること。
イ 舟券の発売等の用に供する施設及び設備ロ 入場者の用に供する施設及び設備ハ その他管理運営に必要な施設及び設備四 (略)
2 (略)
【資料3 関係通達】
○ 場外発売場の設置等の運用について(平成20年2月15日付け国海総第136号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
7 場外発売場設置予定者は,設置許可申請書に省令第2条の7(注1)第2項に定める書類のほか,地元との調整がとれていることを証明する書類及び管轄警察の指導の内容が反映されていることを証明する書類並びに建築確認申請書の写しを添付すること。
(注1)【資料2 関係法令】 に掲げる現行のモーターボート競走法施行規則第11条を指す。 以下「省令」とは現行のモーターボート競走法施行規則を指す。
○ 場外発売場の位置,構造及び設備の基準の運用について(平成20年2月15日付け国海総第139号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
1 場外発売場の基準場外発売場の基準の運用については,次のとおりとする。
⑴ 位置(省令第12条第1項第1号)
① 「文教上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,文教施設から適当な距離を有している,当該設置場所が主たる通学路(学校長が児童又は生徒の登下校の交通安全の確保のために指定した小学校又は中学校の通学路をいう。)に面していないなど総合的に判断して行う。
② 「衛生上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,医療施設から適当な距離を有している,救急病院又は救急診療所(都道府県知事が救急隊により搬送する医療機関として認定したものをいう。)への救急車の主たる経路に面していないなど総合的に判断して行う。
③ 文教施設とは,学問又は教育を行う施設であり,学校教育法第1条の学校(小学校,中学校, 高等学校, 中等教育学校, 大学, 高等専門学校, 盲学校, 聾学校, 養護学校及び幼稚園)
及び同法第82条の2の専修学校をいう。
④ 医療施設とは,医療法第1条の5第1項の病院及び同条第2項の診療所(入院施設を有するものに限る。)をいう。
⑤ 「適当な距離」とは,著しい影響を及ぼさない距離をいい,場外発売場の規模,位置,道路状況,周囲の地理的要因等により大きく異なる。
⑵~⑸ (略)
○ 場外発売場の設置等の許可の取扱いについて(平成20年3月28日付け国海総第513号海事局総務課長から各地方運輸局海事振興部長,北陸信越運輸局海事部長,神戸運輸監理部海事振興部長あて通達)(抜粋)
7 局長通達(注2)7の「地元との調整がとれていること」とは,当該場外発売場の所在する自治会等の同意,市町村の長の同意及び市町村の議会が反対を議決していないことをいう。
(注2)前記の平成20年2月15日付け国海総第136号「場外発売場の設置等の運用について」を指す。
参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 設問1
1 原告適格の判断枠組み
取消訴訟の原告適格は、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に認められる(行政事件訴訟法9条1項)。「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最判平元.2.17)。処分の名宛人以外の第三者については、根拠法令が当該利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させず、個別的利益としても保護する趣旨を含むか否かによって判断する。
その際、同条2項により、①当該処分の根拠となる法令の趣旨及び目的、②当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべきであり、①については当該法令と目的を共通にする関連法令の趣旨及び目的をも参酌し、②については当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案しなければならない。
本件許可は法5条1項の許可であり、その根拠法令は、法5条2項及び同項の委任を受けた施行規則12条である。もっとも、本件同意書の添付を求める通達(国海総第136号及び同第513号)は、国家行政組織法14条2項に基づく行政組織内部の命令にすぎず、国民の権利義務を直接規律する法規ではないから、行訴法9条2項の「法令」にも「関連法令」にも当たらない。したがって、自治会の同意という通達上の要求から、住民の個別的利益の保護を導くことはできない。通達の規定は、後述するとおり本案の裁量統制の局面で意味を持つにとどまる。
2 X1の原告適格
施行規則12条1項1号は、場外発売場の位置が「文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのない場所であること」を許可基準とする。そして施行規則11条2項1号は、申請書の添付書類として、場外発売場の周辺から1000メートルの区域内にある文教施設及び医療施設の位置及び名称を明記した見取図を要求する。このように、法は、申請の段階で個々の文教施設を特定して把握させ、当該施設に対する「著しい支障」の有無を個別に審査させる仕組みを採っている。これは、文教環境一般という抽象的公益の保護にとどまらず、周辺の特定の文教施設の設置者が、その施設において良好な教育環境の下に教育活動を行う利益を、個別的利益としても保護する趣旨と解される。
また、通達(国海総第139号)1⑴③は、文教施設とは学校教育法1条の学校及び専修学校をいうとする。これは法令の解釈を示すものとして、法5条2項及び施行規則12条1項1号の趣旨を明らかにする資料となる。法科大学院Sは大学院であり、学校教育法1条の大学に含まれるから、同号の文教施設に当たる。
害される利益の内容及び性質をみると、本件施設は敷地面積約3万平方メートル、延べ床面積約1万平方メートル、700台収容の駐車場を備える大規模施設であり、年間350日営業し、そのうち300日はナイターが開催される。開場は午前10時、退場者の集中はナイターのない日は午後4時頃、ナイター開催日は午後9時頃である。法科大学院Sは、P駅からQ地に至る県道に面し、Q地から約400メートルの位置にあって、P駅とQ地の間に位置する。すなわち、本件施設の入退場者が最寄り駅であるP駅との間を往復する主たる経路上に所在する。法科大学院は、夜間を含む長時間の自習と演習を不可欠とする教育施設であり、退場者の集中が午後9時頃に及ぶことは、その教育活動に対する影響が小さくない。良好な教育環境を享受する利益は、いったん害されれば事後的な金銭賠償による回復が困難な性質のものである。
したがって、X1は、本件許可が施行規則12条1項1号に違反してされた場合に害されることとなる個別的利益を有する者であり、原告適格を有する。
3 X2の原告適格
これに対し、X2は本件施設の近隣に居住する住民であり、自治会Rの構成員である。
法1条の趣旨は、海事に関する事業の振興と地方財政の改善にあり、施行規則12条1項2号は構造及び設備が入場者を整理するため適当なものであることを、同項3号は競走の公正かつ円滑な運営に必要な施設及び設備を有することを基準とする。法22条は場外発売場内の秩序維持等を施行者の義務とし、法57条は場外発売場内の秩序維持等のための命令権を定める。これらはいずれも、施設内部の秩序や競走の公正・円滑な運営の確保を目的とするものであって、施設周辺の居住環境を保護する趣旨を含まない。
施行規則12条1項1号の「衛生上著しい支障」についても、通達1⑴②④が医療施設からの距離や救急車の経路を判断要素とし、医療施設を医療法1条の5の病院及び入院施設を有する診療所に限定していることからすれば、同号が個別に保護しようとしているのは医療施設の設置者であって、周辺住民一般の健康や生活環境ではない。周辺住民が受ける騒音、交通渋滞、風紀の悪化といった影響は、法が一般的公益として考慮することを求めているにとどまり、個々の住民の個別的利益として保護されているとはいえない。判例も、場外車券場の設置許可について、位置基準のうち医療施設等の設置者の利益を個別的利益として保護する趣旨を認める一方、周辺住民の原告適格を否定している(最判平21.10.15)。
なお、X2が自治会Rの構成員であり、本件同意書の瑕疵により自治会総会に出席できなかったという事情は、前述のとおり通達が法令ではない以上、原告適格を基礎付けない。自治会の同意は、法令上の許可要件ではなく、構成員に手続上の地位を与えるものでもない。
したがって、X2は原告適格を有しない。本件訴訟は、X1の訴えについて適法であり、X2の訴えについては不適法として却下されるべきである。
第2 設問2
1 小問⑴
(1) まず、要求措置を対象とする取消訴訟が考えられないかを確認する。取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭39.10.29)。要求措置は、自治会Rの同意を改めて取得して同意書を提出するよう求めるものであるが、法及び施行規則には同意書の提出を義務付ける規定がなく、通達に基づく事実上の働きかけにすぎない。したがって要求措置は行政指導であって処分性を欠き、その取消訴訟は不適法である。
そこで、Aが取消措置を受けるおそれを除去する訴えとして、①取消措置の差止めの訴え(行訴法3条7項、37条の4)と、②本件許可の取消処分を受ける法的義務ないし同意書の再提出義務がないことの確認を求める実質的当事者訴訟(行訴法4条後段)の二つが候補となる。
(2) ①の差止訴訟は、「一定の処分……がされようとしている場合」において、「重大な損害を生ずるおそれ」があるときに提起でき、ただし「その損害を避けるため他に適当な方法があるとき」は提起できない(37条の4第1項)。
本件では、Aが要求措置に従う意思がないことを表明しているにもかかわらず、国土交通大臣は取消措置を執る可能性を示しながら要求措置を執り続けている。取消措置の内容は本件許可の取消しとして特定されており、処分がされる蓋然性も認められるから、「一定の処分がされようとしている場合」に当たる。
重大な損害については、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する(同条2項)。本件許可が取り消されれば、Aは場外発売場を設置できず(法5条3項)、本件施設に係る事業を行う法的地位を全面的に失う。Aは敷地面積約3万平方メートルの大規模施設の計画を立て、建設費の調達方法や収支見積りを示して許可を得ており(施行規則11条1項6号、2項4号)、許可を前提とする契約関係や事業機会の喪失は、事後に取消訴訟で勝訴しても回復が困難である。したがって重大な損害を生ずるおそれが認められる。
補充性についても、取消措置を待って取消訴訟を提起し執行停止を求める方法は、処分がされた後の事後的救済にとどまり、「他に適当な方法」には当たらない。
本案については、処分をすべきでないことがその処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ、又は裁量権の逸脱・濫用となると認められることが要件となる(同条5項)。後述するとおり、本件で取消措置を執ることは法令上の根拠を欠き違法であるから、本案勝訴も見込まれる。
(3) ②の確認訴訟は、処分性を欠く行政活動に対する救済として活用されるが、確認の利益として、対象選択の適否、方法選択の適否及び即時確定の利益が必要である。本件では、取消措置という処分の差止めという抗告訴訟の方法が用意されており、これによって紛争を直接かつ終局的に解決できる。そうすると、方法選択の適否を欠き、確認訴訟は補充的な手段として不適法とされる可能性が高い。また、同意書の再提出義務がないことの確認を得ても、大臣が取消措置を執ることを法的に阻止する効力はなく、実効性に乏しい。
(4) 以上より、Aは、取消措置の差止めの訴え(行訴法3条7項)を提起すべきである。
2 小問⑵
(1) 取消措置の法令上の根拠
法5条4項は4条6項を準用するから、大臣が本件許可を取り消すことができるのは、ⓐ1年以上引き続き施設を競走の用に供しなかったとき、又はⓑ位置、構造及び設備がその許可の基準に適合しなくなったと認めるときである。また法59条は、法58条2項の命令に違反した場合の取消しを定める。
本件では、Aは本件訴訟が提起されたため工事に着手していないにとどまり、ⓐの要件を充たさない。同意書の作成手続の瑕疵は、施設の位置、構造及び設備に関する事情ではないから、ⓑにも当たらない。法58条2項の命令もされていないから法59条の適用もない。よって、取消措置には法令上の直接の根拠がない。
(2) 地元の同意を理由として許可を拒否できるか
次に、本件許可自体に瑕疵があるとして職権取消しが許されるかを検討する前提として、そもそも施行規則12条の基準以外の理由で許可を拒否できるかが問題となる。
法5条2項は、「申請に係る施設の位置、構造及び設備が国土交通省令で定める基準に適合する場合に限り、その許可をすることができる」と定める。「限り」という文言は基準適合を許可の必要条件とするものであり、「できる」という文言からは、基準に適合する場合にも許可しない余地(効果裁量)があるとの解釈が成り立ち得る。場外発売場における舟券の発売等は、本来刑法187条の富くじ発売等として処罰される行為を例外的に適法化するものであり、その設置許可は警察許可ではなく特許的性格を有するから、大臣に広い裁量が認められるとも考えられる。
しかし、法5条2項は、許可基準を省令に委任してその内容を具体的に限定し、施行規則12条1項が位置、構造及び設備に関する基準を限定列挙している。これは、申請者の予見可能性を確保し、恣意的な拒否を防ぐ趣旨と解すべきである。したがって、列挙された基準と無関係な事由を独立の許可要件として付加し、これを理由に許可を拒否することは許されない。もっとも、施行規則12条1項1号の「文教上又は衛生上著しい支障」の有無は総合的な判断を要するから、地元住民の意向は、当該地域における支障の有無を判断するための一資料として考慮することはできる。すなわち、地元の同意の有無は考慮事由にとどまり、それ自体が許可要件となるものではない。
(3) 通達の法的性格
通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発する行政組織内部の命令であり(国家行政組織法14条2項)、国民及び裁判所を拘束する法規ではない。したがって、通達が「地元との調整がとれていること」(国海総第136号7、同第513号7)を求めていることを直接の根拠として、申請を拒否し、又は許可を取り消すことはできない。通達は、法5条2項及び施行規則12条の解釈及び裁量判断の基準を示すものとして意義を有するにとどまり、その適用の結果が法令の解釈として合理的な範囲を超えるときは、当該処分は違法となる。
(4) 地元同意を求める行政手法の意義と問題点
この手法の意義は、紛争を事前に調整して施設の円滑な設置と運営を確保し、法令の基準では捉えきれない地域の具体的事情を行政庁が把握できる点にある。
他方、問題点として、第一に、法律に根拠のない要件を事実上の許可要件とするものであり、法律による行政の原理に反するおそれがある。第二に、自治会という私的団体に事実上の拒否権を与えるものであって、その意思決定手続の公正性・透明性が担保されない。本件でまさに、反対派住民に総会の開催日時が通知されなかったという疑いが生じている。第三に、申請者の申請権を実質的に制約し、行政指導の限界を超えるおそれがある。行政手続法33条は、申請者が行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず行政指導を継続することにより申請者の権利の行使を妨げてはならないとし、同法32条2項は、行政指導に携わる者は相手方が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならないとする。
(5) 本件取消措置の適法性
以上を前提に検討すると、まず、本件許可それ自体に違法はない。自治会Rの同意は法令上の許可要件ではなく、その決議手続の瑕疵は自治会内部の瑕疵である。しかも、総会の通知を欠いたのは自治会Rの役員であり、Aに帰責すべき事由は認められない。したがって、違法な処分の是正としての職権取消しの前提を欠く。
仮に、地元の同意の有無を施行規則12条1項1号の判断資料として考慮し得ることから、同意に重大な瑕疵がある場合に許可の基礎を欠くと評価する余地があるとしても、授益的処分の職権取消しは、違法又は不当な状態を是正する公益上の必要と、相手方が処分を信頼して形成した地位及び法的安定性とを比較衡量して判断すべきである。本件では、Aは適法に申請して許可を受け、建設費の調達方法を定めて事業を進める地位を得ている。これに対し、同意手続の瑕疵を是正する必要は、Aに同意を取り直させるという方法ではなく、大臣自らが地域の事情を調査して「著しい支障」の有無を改めて判断することによっても充たし得る。許可の取消しという最も重大な措置を選択することは、目的と手段の均衡を欠き、裁量権の逸脱・濫用に当たる。
さらに、本件取消措置は、Aが要求措置に従う意思がないことを表明したことを直接の理由としてされるものである。これは、行政指導に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いであって、行手法32条2項及び33条の趣旨に反し、違法である。
加えて、許可の取消しは申請により求められた許認可等を取り消す不利益処分であるから、行手法13条1項1号イにより聴聞を行わなければならない。聴聞を経ずにされた取消措置は、手続上の瑕疵により違法となる。
よって、取消措置は違法である。大臣が執り得る措置は、法57条に基づく必要な命令、法58条2項の要件を充たす場合の業務の停止・制限の命令及びこれに違反した場合の法59条による取消しに限られ、本件のような事情の下で直ちに許可を取り消すことはできない。
第3 設問3
1 条例に置くことが考えられる規定の骨子
第一に、申請手続に関する規定である。申請書の記載事項(設置場所、構造及び設備の概要、営業時間、入場者の予定数、交通処理計画、周辺1000メートル以内の文教施設・医療施設・住居の状況)及び添付書類を定める。
第二に、許可基準の具体化である。「周辺環境と調和する」という要件は抽象的であるから、文教施設・医療施設・住宅地からの距離、通学路との関係、駐車場の規模と出入口の位置、騒音・振動・ごみ・防犯対策、営業時間及び退場者の分散方策など、判断要素を条例で明示する。
第三に、住民及び事業者の利害調整のための手続規定である。申請前の周辺住民に対する説明会の開催義務、申請書の公告及び縦覧、周辺住民による意見書の提出、第三者委員会(審議会)への諮問、市長による判断理由の公表を定める。条例に基づく処分には行政手続法第2章及び第3章が適用されないから(行手法3条3項)、審査基準の設定及び公表、標準処理期間、理由の提示、不利益処分における聴聞等に相当する手続を条例自体に置く必要がある。
第四に、実効性確保のための規定である。許可に期限又は条件を付す権限、報告徴収及び立入検査、基準に適合しなくなった場合の改善命令、無許可設置又は命令違反に対する中止命令、許可の取消し、違反事実の公表、そして地方自治法14条3項の範囲内での罰則(2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金等)を定める。
第五に、既存施設についての経過措置及び届出義務を定める。
2 条例の適法性に関する問題点
(1) 法令との関係
条例は「法律の範囲内」で(憲法94条)、「法令に違反しない限りにおいて」(地方自治法14条1項)制定できる。条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって決すべきである(最大判昭50.9.10)。
法は、場外発売場の設置を国土交通大臣の許可に係らせ、施行規則12条で全国一律の基準を定めている。もっとも、法1条の目的は海事に関する事業の振興及び地方財政の改善等であり、施行規則12条の基準は競走の公正かつ円滑な運営と文教上・衛生上の支障の防止を内容とする。これに対し、本条例の目的は、調和のとれたまちづくりという地域の生活環境の保全であって、法とは目的を異にする。地方公共団体がその区域における土地利用及び生活環境について独自に規制することは、地方自治の本旨(憲法92条)に沿うものであり、法が全国的に画一的な規制を施し、それ以上の規制を一切許さない趣旨であるとは解されない。したがって、目的を異にする横出し規制として、原則として適法と解すべきである。
もっとも、国の許可を受けた事業者に対して市長の許可がない限り設置を全面的に禁止する制度は、国の許可の効果を事実上失わせ、法の目的の達成を阻害するおそれがある。そこで、許可基準を周辺環境との調和の確保という目的に必要な限度に限定し、法及び施行規則の基準と矛盾する運用をしないこと、国の許可を受けた事業者の地位に配慮した手続を置くことが必要である。
(2) 営業の自由との関係
許可制は職業選択の自由(憲法22条1項)に対する強い制約であるから、規制の目的と手段の合理性が問題となる。良好な生活環境の保全という目的は正当であり、場外発売場が周辺に及ぼす影響の大きさに照らせば、許可制という手段にも合理性が認められる。ただし、「周辺環境と調和する場合に限り」という基準のみでは、市長に広範な裁量を白紙的に委ねるものとなり、申請者の予見可能性を欠き、明確性の点で問題がある。前記のとおり判断要素を条例で具体化し、審査基準を設定・公表することにより、この問題を回避すべきである。
(3) その他
罰則を設けるには地方自治法14条3項の限度を超えないことが必要である。また、既存の適法な施設に対して条例を遡及的に適用して設置を禁ずることは、財産権(憲法29条)及び信頼保護の観点から問題があるから、経過措置を置くべきである。
以上