司法試験 令和5年 知的財産法
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
Xは、医薬品の製造販売を業とする会社であり、化合物αを有効成分とする疾患βの予防剤(以下「本件発明」という。)について特許権を有している(以下、登録された権利を「本件特許権」
といい、本件特許権についての特許を「本件特許」という。)。αには甲作用と乙作用の2種類の作用があり、甲作用が発現すると、疾患βの治療効果が生じ、乙作用が発現すると、疾患βの予防効果が生じる。α自体は公知の化合物であり、本件発明の特許出願前に、αを有効成分とする疾患βの治療剤が製造、販売されていた。本件発明は、αに乙作用があることを発見し、疾患βの予防剤に適用したことに特徴を有するものである。なお、αを治療剤として用いる場合と予防剤として用いる場合では、製剤の標準的な用法・用量に違いがある。
以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立したものであり、相互に関係はないものとする。
[設問1]本件発明は、Xの研究開発部の部長であるAが、部下であるBに対して、αを予防剤に適用することが可能か否かを検討するように指示し、Bが、Xの勤務時間中にXの施設を利用して実験を行い、αを所定の用法・用量で使用した場合に乙作用が発現することを確認して完成させたものである。本件発明完成時のXの職務発明規程には、職務発明について、その発明が完成した時にXが特許を受ける権利を取得し、Xが特許権を取得した時に発明をした従業者に対して一括して補償金を支払う旨が定められており、その内容は全従業員に周知されていた。Xは、前記職務発明規程に基づいて、本件発明の特許を受ける権利を取得し、発明者をA、出願人をXとする特許出願を行い、本件特許権を取得した。
⑴ 本件発明に係る特許出願が特許庁に係属している間に、Bは、Xに対して、自らが本件発明の発明者であると主張して、発明者名を訂正する補正手続を行うことを請求した。Bの請求が認められるかについて論じなさい。
⑵ Bは、Xを退社後、Xに対して、自らが本件発明の発明者であると主張し、本件発明に係る相当の利益として、前記職務発明規程に基づいて算出される額の補償金の支払を請求した。
Bの請求が本件発明の完成時から7年、本件発明に係る特許出願時から6年、本件発明に係る特許登録時から4年を経過した後に行われたとした場合、Bの請求が認められるかについて論じなさい。なお、解答に当たっては、現行民法及び現行特許法の適用を前提とすること。
[設問2]Cは、医薬品の製造販売を業とする会社であるが、本件発明に係る特許出願前に、他の化合物γが疾患βの治療剤と予防剤の両方に適用されていたことから、αを疾患βの予防剤に適用することは、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)
が容易に想到可能であると考え、本件特許について無効審判を請求したところ、特許庁が請求不成立審決をしたため、Cは審決取消訴訟を提起した。知的財産高等裁判所は、Cの主張を認め、αを疾患βの予防剤に適用することは当業者が容易に想到し得るとして審決を取り消す判決をし、その判決が確定した。その後、特許庁は再度の審理をし、本件特許を無効にすべき旨の第二次審決をしたため、Xは第二次審決取消訴訟を提起した。第二次審決取消訴訟において、Xは、仮にαを疾患βの予防剤に適用することを当業者が容易に想到し得るとしても、本件特許出願の願書に添付した明細書記載の実験により証明されるαの予防効果は当業者の予測できない顕著なものであるから、本件特許は無効ではないという主張を新たに行った。これに対して、Cは、αの予防効果はγのそれと同程度のものであるから、αが予測できない顕著な効果を有するとはいえないと主張した。
⑴ 第二次審決取消訴訟において、Xが本件発明の効果に関する主張を新たに行うことは許されるかについて論じなさい。
⑵ 第二次審決取消訴訟において本件発明の効果に関する主張をすることが許されるとして、X及びCの主張の妥当性について論じなさい。
[設問3]Dは、医薬品の製造販売を業とする会社であり、αを有効成分とする製剤(以下「D製剤」という。)を製造、販売している。D製剤の添付文書には、治療剤として使用する場合の用法・用量と予防剤として使用する場合の用法・用量が併記されている。Xは、本件特許権に基づき、Dに対して、D製剤の販売の差止め及び廃棄を請求した。Xの請求が認められるかについて論じなさい。なお、解答に当たっては、本件特許が有効であることを前提とすること。
〔第2問〕(配点:50)
動物αは、日本のある地域にのみ生息しているネコ科の動物であるが、警戒心が強く動きが俊敏であるため目撃例が非常に少なく、その生態には不明なところが多い。動物αの研究者であるXは、いくつかの証拠から動物αの生息域を絞り込み、その域内で動物αに認識されずに撮影できるポイントを発見し、そこにカメラ等の機材を設置・固定して、撮影する角度も最適に調整した上で録画を開始し、その場を立ち去って50時間放置した。このようにして撮影された映像(以下、この50時間分の映像を「X映像1」という。)に、動物αが鮮明に映っていた。Xは、X映像1に断続的に映っている動物αの部分の合計約3時間分から、各30秒から2分程度の10個のシーンを抽出し、さらに、これらのシーンを時系列と異なる順番に配置して、15分の映像(以下「X映像2」という。)を作成した。
民放のテレビ局であるYは、動物αについての番組(以下「Y番組1」という。)を作成し、放送した。Y番組1の一部として、Xの許諾を得てX映像2は放送された。
以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立したものであり、相互に関係はないものとする。
[設問1]出版社のZは、ネコ科の動物についての図鑑を発行した。この図鑑は2種あり、一つは書籍単独(以下「Z図鑑1」という。)、もう一つはZ図鑑1に各種ネコ科の動物の映像が収録されたDVD(以下「Z・DVD」という。)が付属しているもの(以下「Z図鑑2」という。)である。Z図鑑1は全部で250ページから成り、うち2ページにおいて動物αの画像5枚(以下「Z画像」という。)が掲載されている。Z・DVDには各15分程度の映像作品が5つ収録されており、そのうちの一つとして、動物αの映っている映像(以下「Z映像」という。)がある。
Z画像とZ映像は、放送されたY番組1を録画したものから、Z画像についてはX映像2の一部を抜き出して、Z映像についてはX映像2の全部を抜き出して、それぞれ作成されたものである。
XはZに対し、訴訟を提起した。
⑴ この訴訟において、Xは、X映像2を自らの著作物として主張している。Xがこのような主張をすることには、X映像1を自らの著作物として主張する場合と比較して、Xにとってどのような利点があるかについて論じなさい。
⑵ XがZに対して、その著作権に基づいてなし得る請求としてどのようなものが考えられるか。⑴の解答を踏まえ、その請求の妥当性についても論じなさい。
[設問2]Yは、Y番組1とは別の番組(以下「Y番組2」という。)において、X映像2を使用することを企画したが、Xの許諾が得られなかったため、将来的に同種の番組を作成する際に使用することも視野に入れて、X映像2と同様の映像を自ら作成することとした。このため、Yのスタッフは、X映像1の撮影場所を特定し、その場所にX映像1と同様の範囲が映るようにカメラ等の機材の位置と角度を調整して設置・固定し、50時間放置して撮影を実行した。さらに同スタッフは、撮影された映像の中から、動物αがX映像2で見られたのと似た動きをしている10個のシーンを抽出し、これらをX映像2で見られたのと同じ順番になるように配置した15分の映像(以下「Y映像」という。)を作成した。その後、Y映像はY番組2の一部として放送された。
Y番組2の終了間際に出されるテロップには、Xの氏名が「協力者」として表示されていた(この部分以外に、Y番組2においてXの氏名が表示される部分は存在しない。)。XはYに対し、訴訟を提起した。
⑴ この訴訟において、Yにより侵害された著作権法上の権利として、どのような権利をXが主張すべきかについて論じなさい。
⑵ ⑴で解答した権利に基づいて、XがYに対してなし得る請求としてどのようなものが考えられるか。その請求の妥当性についても論じなさい。
[設問3]Y番組1の放送後、視聴者から、Y番組1中のX映像2を見た飼い犬が急に激しく吠え立て始め、X映像2を見ている間それがやまなかったという多数の報告がYに寄せられた。X映像2を見た犬の反応の映像が視聴者の笑いを誘うものになるかもしれないと考えたYは、バラエティ番組の企画として、次のような実験(以下「Y実験」という。)を行うこととした。Y実験は、タブレットにⅩ映像2を記録し、そのタブレットを持ったYのスタッフが、街で犬を散歩させている飼い主に声掛けして、承諾を得られた場合、その犬に、タブレットに記録されたⅩ映像2を再生して見せる、というものである。Yは、Y実験が犬に映像を見せるために行うものであることから、Y実験に際してⅩ映像2をタブレットに記録することや、それに記録した映像を再生することが著作権侵害に問われることはないと判断したため、Y実験に関してⅩに許諾を求めることはしなかった。
YがY実験を実施したところ、承諾を得られた飼い主が20名いたため、20匹の飼い犬にX映像2の全てを見せた。Y実験の完了直後に、実験に用いたタブレットに記録されたX映像2はYにより削除された。
Y実験が行われたことを知り、この企画をくだらないものと思い立腹したXは、Yに対し、損害賠償を求める訴訟を提起した。
⑴ Yはどのような根拠に基づいて下線部のような判断をしたと考えられるか。簡潔に答えなさい。
⑵ Y実験においてYのスタッフは、各飼い主に対して事前に実験の趣旨を説明した際、飼い主が映像を見る必要はない旨伝達していたが、珍しい動物αに興味を持った飼い主3名がX映像2の全てを見ていた。この場合に、YがXの著作権を侵害したと言えるか。⑴の解答を踏まえ、論じなさい。
論文式試験問題集[労 働 法][労 働 法]〔第1問〕(配点:50)
次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。
【事 例】Xは、平成15年4月、約500名の社員を擁するIT企業であるY社との間で、所定労働時間を1日8時間、賃金(基本給)を月額30万円として、担当職種の限定なく、期間の定めのない労働契約を締結し、その頃から、同社においてプログラマー兼システムエンジニアとして就労を始め、平成30年4月には、本社システム開発課の課長補佐に昇進するとともに賃金(基本給)は月額50万円に昇給し、以後、主に同課の課長補佐が務めるものとされていたシステム開発のプロジェクトマネージャーとして就労していた。
ところが、Xは、令和元年9月頃、私傷病であるうつ病を発症した。Xは、発症後しばらくは、有給休暇を取得して療養したものの、症状は改善せず、かかりつけのメンタルクリニックの主治医Aからも、「少なくとも今後3か月間の自宅療養の必要がある。」旨の診断を受けた。そこで、Xは、上司と相談の上、後記のY社の就業規則に定められた私傷病休職の制度を利用し、令和2年1月1日から休職することとなった。
休職期間の満了日(令和3年6月30日)が迫る同月1日に至り、Xは、主治医Aに対し、復職の希望を述べて診断書の作成を求めた。主治医Aは、Xの症状は、休職を開始した頃と比べれば改善傾向にはあるものの、依然として投薬の種類・量が多く、そのため、Xについては「なお3か月程度の療養の継続を要する。」と診断するとともに、復職については「不可能ではないが、複雑な業務の遂行はいまだ困難と思われる。」と記載した診断書を作成し、Xに交付した。
この診断書及び復職申出書をXから受領したY社の復職判定委員会(Y社の就業規則第34条に規定するものであり、同社の人事担当役員らにより組織される。)は、同月10日、Xに対し、Y社の産業医Bと面談するよう指示し、産業医Bは、Xと面談の上、復職判定委員会に対して、「適切な配慮がない限り、プロジェクトマネージャーとしての就労は困難と思料する。」との意見を述べた。これを受け、復職判定委員会は、Xと面談を行ったが、その際、Xは、「今でも朝に起床するのが億劫なときがあり、これまで外出もあまりしておらず、注意力が散漫になるときもないではないが、休職に入った令和2年1月当時に比べれば、症状は改善しており、エンジニアとして力を尽くしたいので、復職させてほしい。」旨を述べた。
復職判定委員会は、主治医A作成の診断書、復職申出書の内容、産業医Bの意見、Xの面談の際の発言などを考慮し、Xを本社システム開発課の課長補佐として復職させ、プロジェクトマネージャーとして就労させることは難しいと考えた。
【就業規則(抜粋)】第31条 社員が次の各号のいずれかに該当するときは、会社は休職を命ずる。
第1号 社員が、業務災害又は通勤災害に起因するもの以外の傷病(以下「私傷病」という。)により引き続き60日間欠勤し、なお就労することができないと会社が認めたとき。
(第2号以下は省略)
第32条 前条により休職を命ぜられた社員は、次条の休職の期間中は社員としての地位を失わないが、賃金は支給されないものとする。
第33条 第31条第1号の事由による休職の期間は、勤続年数に応じて次のとおりとする。ただし、会社は、当該休職の期間が満了してもなお引き続き休養が必要と認めたときは、通算して2年を超えない範囲内でこれを延長することができる。
第1号 勤続年数が1年未満の者 6か月第2号 勤続年数が1年以上10年未満の者 1年第3号 勤続年数が10年を超える者 1年6か月第34条 第31条第1号の事由により休職を命ぜられた社員が復職をしようとするときは、会社に対し、医師の診断書を添えて申出をするものとし、会社は、復職判定委員会の判定に基づき、当該社員について復職が可能と認めたときは、当該社員に対し、10日以内に復職することを命ずるものとする。
第35条 社員が第33条の休職の期間を満了しても復職することができないときは、会社を退職する。
〔設 問〕1 上記【事例】の経過を踏まえ、復職判定委員会は、Xに対し、原職である本社システム開発課の課長補佐としての復職は難しい旨を伝えたが、Xは、「プロジェクトマネージャーとして期待される役割を全うする自信はある。別の職務をあてがわれて課長補佐から降格させられ、それにより給与が減額されては困る。」と述べて原職での復職を強く希望し、それ以外の形での復職を拒否した。復職判定委員会は、そのようなXの意思を踏まえ、復職可能とは認められないと判定し、Y社は、令和3年6月20日、Xに対し、就業規則第34条の復職命令はしない旨を伝えた。
その後、同月30日をもって就業規則所定の休職期間が満了し、なお復職できないと認められたことから、Y社は、就業規則第35条に基づき、Xは自然退職したものとした。
Xは、Y社が自分を原職で復職させず、自然退職したものとして取り扱ったことは不当であり、同社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める訴訟を提起したいと考えている。このXの請求の当否について、考えられる法律上の論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。
2 上記【事例】の経過を踏まえ、復職判定委員会は、Xに対し、直ちに原職である本社システム開発課の課長補佐としての復職は難しい旨を伝えるとともに、「一旦正式な復職とせずに本社総務課に出社して繁忙度が比較的低い同課の事務職の業務を行ってもらい、一定期間、同課でのフルタイムでの就労の状況を観察した上で、改めて正式に復職の可否を判断する。」という案を提示したが、Xが「最初からフルタイムで就労を再開することには不安が残る。」と述べて難色を示したことから、更に「当面の間、週3日の隔日勤務、勤務時間を午後1時から午後5時までの4時間とし、就労状況を観察して徐々に業務量や勤務時間を増やしていく。」という案を提示し、Xはこれを了承した。Y社は、これを踏まえ、就業規則第33条ただし書に基づき、Xの休職期間を2か月間延長した上で、休職扱いのまま、Xに対し、令和3年7月1日から本社総務課の事務職として就労するよう指示し、同課課長に対し、Xには簡易な業務から担当させるよう指示した。Xは、同日からY社への出勤を再開した。
同課における業務は、定型的な事務が中心であり、システム開発課における業務よりも日々の繁忙度は低かったが、Xは、2週間ほどで体調不良となり、同月中旬頃から欠勤を重ねるに至った。復職判定委員会は、このような状況に照らし、Xにつき復職可能とは認められないと判定し、Y社は、同年8月20日、Xに対し、就業規則第34条の復職命令はしない旨を伝えた。その後、同月31日をもって延長後の休職期間が満了し、なお復職できないと認められたことから、Y社は、就業規則第35条に基づき、Xは自然退職したものとした。
Xは、復職がかなわなかったのは、本社総務課で就労を再開した際の労働条件が過重であったためであって、復職させずに休職期間の満了をもって自然退職したものとして取り扱われたことは不当であり、また、同年7月1日以降については、実際に同課で就労していたのであるから、少なくとも当該就労分の賃金は支払われるべきであるとして、Y社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同課で就労した期間に係る未払賃金の支払を求める訴訟を提起したいと考えている。このXの請求の当否について、考えられる法律上の論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。
〔第2問〕(配点:50)
次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。
【事 例】1 A社は、観光バスツアーの催行その他の旅客自動車運送事業等を営む会社である。B社は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)に基づく労働者派遣事業その他の事業を営む会社であり、その雇用する添乗員をA社に派遣している。なお、B社は、A社と同じ企業グループに所属する同社の関連会社であるが、同グループ外の会社を含め、A社以外にも添乗員を派遣している。C組合は、B社に雇用されている添乗員の6割で組織する労働組合であり、Dは、B社に雇用され、A社に派遣されている添乗員で、C組合の組合員である。C組合とB社との間で締結された賃金に関する基本的内容を定める労働協約においては、賃金は毎月20日締め、月末支払とされていた。
A社は、同社に派遣されている添乗員(以下単に「添乗員」という。)について、基本的には、同社が各ツアーの催行に際し旅程を踏まえて作成する添乗員勤務計画書に基づいて添乗業務に従事させつつ、これに加えて、業務従事日には日報を提出させ、また、必要に応じて携帯電話等で添乗員に連絡・指示をすること等により、添乗員が添乗業務に従事する時間の管理を行っていたが、添乗員の勤務の実態としては、ツアー当日の交通状況や立ち寄り先の観光地の事情等により、前記の添乗員勤務計画書に定められた時間を超える労働がしばしば行われ、しかも、時間外労働について所定の割増賃金が支払われない状況が生じていた。そのため、C組合は、令和3年10月1日、A社に対して、C組合の組合員である添乗員の労働時間管理の改善に向けた事項(具体的には、勤務実態についての資料の提示、長時間労働等を解消するための方策の策定等)を議題として、団体交渉を申し入れるとともに、同日、B社に対して、時間外労働に係る未払の割増賃金の支払を議題として、団体交渉を申し入れた。
2 A社は、同月10日、B社に雇用されている添乗員で組織する労働組合であるC組合との団体交渉に応じる立場にはないとしてこの申入れを拒否し、C組合は、同月31日、この団体交渉拒否は労働組合法第7条第2号所定の不当労働行為に該当するとして、前記のとおり申し入れた団体交渉にA社が応じる旨の救済を求め、管轄する労働委員会に救済申立てを行った。
3 B社は、同月15日、前記のとおり申し入れられた団体交渉に応じ、その際、時間外労働に係る未払の割増賃金があることを認めつつ、近年同社の事業全体が低調で経営が悪化しているため、懸案の未払の割増賃金を含め、当面の賃金の支払について交渉したい旨述べた。これを受け、B社とC組合との間で交渉が重ねられ、同年12月20日、両者の間で、C組合の組合員である添乗員の時間外労働に係る未払の割増賃金は同月末に一括して支払う一方で、同月分以降12か月間の基本給の1割について支払の猶予を認め、令和4年12月分の賃金の支払の際、当該支払猶予分の賃金を一括で併せて支払うことを内容とする労働協約が締結された(以下「令和3年協約」という。)。令和3年協約は、C組合の規約に定められた手続を経て締結されたものであり、Dは、その過程で明示的に反対の意思を表明したものではなかったが、自身について未払となっている時間外労働に係る割増賃金はそれほど多額ではなく、むしろ向こう1年間の基本給の1割の支払が猶予されることによる生活への影響を懸念し、不満を持っていた。
4 令和3年協約を締結する際、B社としては、1年後であれば経営状態が改善して賃金の支払に支障がなくなっているであろうと見込んでいたが、令和4年下半期に同社の経営状態は更に悪化し、令和4年12月分の賃金の支払の際、令和3年協約において約した支払猶予分の賃金の支払ができなかった。このため、B社は、令和5年1月に入り、C組合に対して交渉を申し入れ、未払となっている支払猶予分の賃金債権の放棄を提案した。C組合は、B社の経営がこれ以上悪化しない保証はなく、その結果として同社が組合員の解雇に踏み切ったり、将来にわたり賃金を減額する措置に出たりする事態となることは回避すべきであるとして、同月31日、前記のB社の提案を受け入れ、C組合と同社との間で、その旨の労働協約が締結された(以下「令和5年協約」という。)。令和5年協約も、C組合規約所定の手続を経たものであった。
かねて令和3年協約に不満を持っていたDは、令和5年協約は到底受け入れられないと考え、令和5年2月28日、支払猶予分の賃金及びその遅延損害金の支払をB社に求める訴訟を、管轄する地方裁判所に提起した。
〔設 問〕1 C組合は、令和3年10月31日に行った申立てについて、労働委員会において救済を受けることができるか。検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。なお、C組合は、労働組合法第2条に規定する「労働組合」に該当し、かつ、C組合について同法第5条第1項の立証がなされたものとする。
2 Dが訴訟を提起した、支払猶予分の賃金及びその遅延損害金の支払請求は、認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。
論文式試験問題集[環 境 法][環 境 法]〔第1問〕(配点:50)
道路騒音訴訟及び空港・基地騒音訴訟に関する以下の問いに答えなさい。
〔設問1〕Aらは、B市とC市を結ぶ一般国道の沿道の道路端に近接した範囲内に居住している。Aらは、この道路を走行する自動車による騒音によって被害を被っており、国に対して訴訟を提起したいと考えている。
なお、大阪国際空港訴訟最高裁大法廷判決(最高裁判所昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁)は、空港騒音訴訟において、国に対する民事差止訴訟を不適法として却下している。
⑴ 本件設例と同様の道路騒音の事例について、裁判所は、Aらの民事差止訴訟の提起は適法であるとしてきた。その理由としてはどのようなことが考えられるか。【資料】を参照しつつ、解答しなさい。
⑵ ①Aらが民事差止訴訟を提起する場合、違法性の判断枠組みはどのようになるか、②損害賠償を請求する場合の違法性の判断枠組みとどのように異なるか。参考となる最高裁判所の判決や学説の立場を指摘しつつ、解答しなさい。
〔設問2〕Dらは、自衛隊基地の周辺に居住しており、夜間における自衛隊機の離発着に起因する騒音による不眠等に悩んでおり、差止めを請求する訴訟を提起したいと考えている。
⑴ Dらは、どのような訴訟を提起することができるか。複数の可能性を挙げて、訴訟要件に言及しつつ比較・検討しなさい。
⑵ ⑴において解答した訴えについて、自衛隊機の離発着の違法性の判断枠組みはどのようになるか。参考となる最高裁判所の判決の立場を指摘しつつ、解答しなさい。
⑶ 〔設問1〕の⑵①と〔設問2〕の⑵の違法性の判断枠組みの関係について、どのように考えるか、解答しなさい。
【資 料】以下の文章は、道路騒音に関する最高裁判所の判決の後に、関係省庁が連名で発出した通知の抜粋である。
警察庁丙都交発102号警察庁交通局長・環境庁大気保全局長・通商産業省環境立地局長・運輸省運輸政策局長・建設省道路局長から各都道府県知事・政令指定都市市長あて(略)
道路交通騒音の深刻な地域における対策の実施方針について平成7年12月1日道路交通公害対策関係省庁連絡会議1 (略)
2 (略)
3 道路交通騒音の深刻な地域における対策の基本的考え方道路交通騒音が深刻である地域においては、可能な限り道路構造対策を実施すべきであるが、これに加えて、交通流対策、沿道対策を含めた総合的対策が必要であり、関係省庁の連携をさらに強化して対策を推進する必要がある。この場合、交通や沿道の状況が地域により様々であることから、自治体等地域レベルの施策実施主体が各々の地域に応じた取組を行うことが重要である。(以下、略)
4 道路交通騒音が深刻な地域における具体的な道路交通騒音対策⑴ 道路構造対策の推進① 平面構造の道路における対策騒音の状況が深刻な地域においては、騒音の低減のためには、平面構造の道路においても遮音壁を設置することが望ましい。ただし、遮音壁の設置が沿道からのアクセスを低下させる場合や、景観上望ましくない場合等も考えられるため、騒音の観点に加えて沿道利用等総合的な観点から地域の意向を踏まえつつ、遮音壁の設置を推進する必要がある。
また、通常の遮音壁が設置できない地域においても低層の遮音壁や低騒音舗装の敷設等可能な限りの対策を行っていくべきである。このため、関係省庁においては、低層遮音壁や、美観に優れた遮音壁等の技術開発を推進し、地域の状況に応じた技術の選択の幅を広げていく。
② 高架の道路における対策(略)
⑵ 発生交通量の低減の推進① 物流対策の推進(略)
② 人流対策の推進(略)
⑶ 交通流対策の推進① 道路ネットワークの整備による交通流の分散(略)
② 交通管制システムの高度化等による交通流の分散(略)
③~⑤ (略)
⑥ 交通規制及び交通指導取締り適正な交通流の実現のため、以下の施策について支援を行う。
a 速度違反取締り等の強化及び速度違反自動取締装置の増設速度超過車両、過積載車両の取締り活動を強化し、車両走行時に発生する騒音の低減を図る。また、速度超過車両に対する取締り効果のみならず、走行速度の抑制に効果がある速度違反自動取締装置を増設するとともに、軸重自動計測装置や走行状況を把握するためのITVカメラの設置を推進する。
b 減速を促す標識・標示の設置・改良標識の視認性の向上(大型化、灯火化及び可変化)や運転者に減速を促す標示の設置・改良(車線境界線のワイド化、くし形減速マーク等)を行い、走行速度の抑制を図る。
c 高速走行抑止システムの増設高速走行車両の検出、高速走行車両に対する警告及び高速走行車両の取締り機能を持つ高速走行抑止システムの設置を推進し、走行速度の抑制を図る。
d 大型自動車の通行規制等の検討交通実態や迂回路等の整備状況等を勘案して、大型自動車の通行規制等の検討を行う。
⑷ 沿道対策等の推進(略)
⑸ 自動車単体対策の強化(略)
⑹ 低公害車の普及促進(略)
⑺ 自動車公害防止計画の策定に対する支援(略)
⑻ 自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(以下「自動車NOx法」という)の進行管理(略)
⑼ 普及啓発活動の推進(略)
⑽ その他(略)
5 今後の取組関係省庁は、3に示したように地域的取組を支援していくほか、今後とも本連絡会議等の場において相互に密接な連携を図りつつ、本とりまとめに盛られた道路交通騒音対策を着実に実施していくものとする。
〔第2問〕(配点:50)
小売業を営むXは、容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リサイクル法」という。)上の特定容器利用事業者として再商品化義務を履行するため、公益財団法人日本容器包装リサイクル協会との間で再商品化に関する契約を締結して委託料を支払ってきた。Xは、容器包装リサイクル法が特定容器利用事業者に特定容器製造等事業者よりも過重な負担を課するのは、憲法に違反し、容器包装リサイクル法の規定に係る国会の立法行為は違法であると主張して、国家賠償を請求する訴訟を提起したいと考えている。
〔設問1〕容器包装リサイクル法等における費用負担の考え方について以下の問いに答えなさい。
⑴ 容器包装リサイクル法における費用負担はどのような考え方に基づいているか。その考え方について説明しなさい。
⑵ ①⑴の考え方は同法のどの点にあらわれているか、条文上の根拠を挙げつつ簡潔に説明しなさい。②その中には、規定の導入以降実際には機能を果たさなくなってきた規定もある。それについては、なぜ機能を果たさなくなってきたかについても説明しなさい。
⑶ ⑴の考え方は循環型社会形成推進基本法にも定められている考え方である。それは同法のどの点にあらわれているか、条文を挙げつつ答えなさい。
〔設問2〕問題文との関連で、以下の問いに答えなさい。
⑴ 現行の容器包装リサイクル法は、実際に容器の製造に関与していないともいえる特定容器利用事業者に費用負担を課している。その背景にある実質的根拠は何か。
⑵ 現行の容器包装リサイクル法において、特定容器利用事業者に特定容器製造等事業者よりも過重な負担を課しているとするXの主張に関連する規定は、同法の条文のどの点か。
⑶ ⑵の規定については国には立法裁量があるとしても、立法上の適切さを考えた場合、立法論としては、特定容器製造等事業者と特定容器利用事業者の負担は同等とした上で、双方の事業者にインセンティブをより適切に与える他の方法も考えられる。【資料】を読み、どのような方法が考えられるかを指摘しなさい。
⑷ Xは、問題文の訴訟は提起せず、今後、委託料の支払を留保するという選択肢も考えている。
留保した場合、行政側はXに対してどのような措置を採ることが考えられるか。条文を挙げつつ説明しなさい。
【資 料】2015年に欧州委員会が発表した循環経済パッケージの中には製品デザインに対する具体的な提案が2つある。そのうちの一つが調整料金制度である。こうした流れの中で、2016年の「OECD(経済協力開発機構)ガイダンス改訂版」に調整料金制度が位置づけられたとみるべきだろう。またこれは、理論的に望ましいとされるリサイクラビリティに基づく製品課金を簡易的に導入したものと捉えられる。ガイダンス改訂版2章の推奨事項でも、フルコスト、可変料金制、静脈セクター・消費者からメーカーへの情報フロー拡大、PRO(Producer Responsibility Organisation)によるエコデザイン投資への支援、国際協調と並んで、調整料金制度や新技術利用等の革新的方法の検討があげられている。
フランスはEUの中でも調整料金制度を先駆的・積極的に導入している。(中略)具体的には、欧州レベルの制度またはEUの規制に対応した7つの制度に加えて、フランス独自の制度として廃タイヤ(2004年)、印刷物等(ただし本・雑誌・新聞・行政文書は今のところ対象外:2007年)、衣類・家庭用リネン類・履物(2009年)、在宅医療の注射針等(2013年)、家具(2013年)、家庭用薬品廃棄物(2013年)、ボトル入りガスボンベ(2013年)、レジャー用・スポーツ用ボート(2018年から実施予定)の8つの制度がある。そのほか自主的取組としてオフィス系インクカートリッジ(2000年)、農業用品(農薬容器、未使用農薬、農業用フィルム等:2001年)、トレーラハウス(2010年)があげられている。2000年以降、順次拡大されており、また制度改革も進められている。そうした制度改革の一つが調整料金制度である。
(中略)エコデザインを推進するために、特に製品デザインや耐用年数、使用後のリサイクル等の環境面に関係する判断基準に基づいてPROへのリサイクル委託料金(contribution)を調整することが定められた(フランス環境法L541-10-9条)。
(山川肇・廃棄物資源循環学会誌29巻1号39頁(抜粋)(引用に当たり、一部追記した。))
論文式試験問題集[国際関係法(公法系)][国際関係法(公法系)]〔第1問〕(配点:50)
P大陸東部地域において南北に隣接するA国及びB国は、いずれもその東側においてQ海に面している。両国間にはα山脈が東西に走っており、その分水嶺が両国の陸の国境線とされていて、北側のA国と南側のB国を分けつつ、東端はQ海にやや突き出たβ岬まで続いている。A国もB国もα山脈の分水嶺が陸地境界線となること及びβ岬が陸地境界線の東の終点であることは争っていないが、海洋に関する境界線については合意がなされていなかった。北側のA国は、β岬から子午線に沿うように北へほぼまっすぐに伸びる低潮線を通常基線として定め、国内法により当該基線から12海里までの海域を領海とし、通常基線から200海里までの海域に排他的経済水域(以下「EEZ」という。)を、その下の海底部分に大陸棚を設定した。これに対して、南側のB国の海岸線はβ岬からやや緩やかに南西方向に伸びており、β岬より南側には、海岸に沿って沖合約5海里のところに一連の島と低潮高地が存在している。B国は国内法により、基線の一部についてこれらの島と低潮高地をつないで直線基線とするとともに、当該基線から12海里までの海域に領海を、200海里までの海域とその下の海底部分にそれぞれEEZと大陸棚を設定した。
AB両国は、海洋境界線の設定に関して何度かの交渉を経てそれぞれの基線を確認した上で、領海については等距離線で境界画定することに合意したが、EEZ及び大陸棚については単一の境界画定線とすることに合意したものの、その境界画定線をどこに引くかに関しては合意に至らなかった。AB両国間での主たる意見の相違は、β岬が位置する緯度よりも約6海里北側でA国沖約30海里のところにあるγ島(面積約0.5平方キロメートル)の取扱いと、海洋境界画定に関連するAB両国それぞれの関連海岸線の長さについてであった。AB両国ともγ島がB国領であることを認めていたものの、A国は、γ島が無人島であることから海洋境界画定についてはその存在を無視することを主張したのに対し、B国はこれを関連事情として考慮すべきであると反論した。また、海洋境界画定に関するA国とB国の関連海岸線について、A国の主張によれば、その長さはA国が約400キロメートル、B国は約410キロメートルで、長さの比は約1:1となり、A国が主張する境界画定線で分けられる海域の面積も約1:1となる。これに対して、B国の主張によれば、関連海岸線の長さはA国が約400キロメートル、B国は約620キロメートルで、約1:1.5であり、γ島を関連事情として考慮した境界画定線で分けられる海域の面積は約1:1.7になるという。
その後、B国が、γ島に埋立て用の作業船とこれを護衛する軍艦を派遣し、γ島の周辺を埋め立てて島を大きくする作業を開始しようとしたため、A国もまた、γ島の周辺海域に軍艦を派遣してB国の作業船による埋立作業を中止させるために威嚇発砲を行ったところ、B国の軍艦もこれに応戦したため、AB両国軍艦の間で武力衝突が発生した。A国は、B国との武力衝突が生じている最中に、AB両国間におけるEEZと大陸棚の境界画定に関する問題を、国際司法裁判所(以下「ICJ」という。)に一方的に付託して海洋境界線の画定を求めたほか、B国に対して埋立作業と軍事活動を停止してγ島の周辺海域からB国の船舶を撤収させ、紛争を悪化・拡大するような措置を控えることを指示する仮保全措置も併せてICJに要請した。
A国が海洋境界画定問題をICJに付託した後、C国の軍艦X号がB国の主張する領海に入域して、更にB国が設定した直線基線の内側に入り、この直線基線とB国の低潮線との間の海域を迅速かつ継続的に通航しているところをB国の沿岸警備隊が発見するという出来事が生じた。B国の沿岸警備隊は、X号を発見した海域からB国の設定した領海外まで直ちに出るようX号に通知したところ、X号は、これを無視してB国の直線基線と低潮線との間の海域をしばらく航行した後、B国の主張する領海内を航行してようやくB国の領海の外に出た。B国は、国内法令で自国領海内での外国軍艦の通航について事前の許可申請や事前の通告を求めてはいなかったが、直線基線の内側は内水であって外国軍艦の通航は許容されないと主張して、この事件の後、X号の通航がB国の主権を侵害する行為であるとしてC国に対して抗議を行った。
A国、B国及びC国はいずれも国際連合(以下「国連」という。)の原加盟国であり、上記の出来事が生じた時点では既に1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。)の当事国でもあった。またAB両国は、国連加盟時に国際司法裁判所規程第36条第2項に基づきICJの管轄権を受諾する宣言を留保なしで行っている。
以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕1.A国がICJに要請した仮保全措置に関して、近時のICJの判例を参考にしつつ、指示が命じられるための要件を確認した上で、A国は、自らが要請した仮保全措置がICJにより指示されるためにいかなる主張が可能かについて論じなさい。
2.B国は、国連海洋法条約上、EEZと大陸棚の境界画定に関していかなる主張が可能かについて、海洋境界画定に関する近時の国際判例を参考にしつつ論じなさい。
3.X号の通航がB国の主権を侵害する行為であるというB国の抗議に対して、C国は国際法上いかなる反論が可能かについて論じなさい。
〔第2問〕(配点:50)
α河は、ある大陸を流れる広い流域面積を有する河川で、同大陸の複数の国の領域を流れていた。
A国は、α河から分岐した支流のβ川を挟んでB国と隣り合っていた。また、同じくα河から分岐した別の支流であるγ川が、別の隣国であるC国との国境線をまたいで複雑に蛇行していた。
A国では19世紀末から少しずつ工業化が進み、特にα河上流地域に位置するD国から多くの石炭を輸入することで栄え始めた。β川は、そのための重要なルートであったが、他方、β川をめぐってA国とB国の双方が領有権を主張していた。AB両国は外交交渉を重ね、その結果、20世紀初頭には、「β川の主権はB国に属する。他方、A国はβ川において、産業目的のため、永久の航行利用権を有する。」との条項を有する協定(以下「P協定」という。)を締結した。
この大陸では、20世紀後半になって、E国などのごく僅かな国を除いて、地域のほぼ全ての国である30数か国が加盟する一般的な地域国際組織Qが設立された。その設立条約によれば、Qはこの地域と世界の「平和、安全及び進歩を達成すること」を目指して設立され、また、総会や理事会、事務局などのほか、地域の安全保障や人権保障、社会的福利増進のための各種機関を備えていた。Qはこの大陸の中心的な国際組織として、設立以来、その目的に照らした活動に積極的に取り組み、各種分野において着実に実行を積み重ねていった。
21世紀に入り、A国は自国の国土開発計画を見直す中で、自国と関わりのある河川の有効利用を考え始めた。
β川については、これまで石炭輸入のための輸送以外には利用されてこなかったが、β川は起伏に富んだ風光明媚な地域を流れており、また、他の地域にはない多様な生物が生息していた。そこで、A国は、有償で観光客を石炭輸送船に乗せる事業を国内事業者に許可し、あわせて、外国学術機関と契約して、研究を目的とする河川の生物資源調査を許すようになった。さらに、ちょうどその頃、上流のD国とE国の間で軍事的緊張が生じたため、A国は、β川を利用して、同じ石炭輸送船を用いてD国へ向けて対空砲や銃器・銃弾などの軍事兵器・物資の輸送も開始した。この種の軍事協力をA国は以前からD国に対して無償で行ってきたが、今回の輸送もこの協力の一環であり、緊張している地域の地理的位置から考えてβ川を利用することが戦略的に好ましいと考えられた。
これに対し、B国は、A国に認めたのは石炭輸送のみであり、A国の行為はP協定違反だと主張した。
Qは、D国とE国の軍事的緊張が武力衝突に発展することを危惧して、Qの職員Xを含む国際監視団をD国にあるE国と隣接する国境地帯に派遣し、状況を監視させていた。しかし、その最中に、E国の軍隊がXをD国兵だと誤認して銃撃し死亡させた。Xの死亡を理由に、QはE国に損害賠償を求めたが、E国はこれを拒否し、Q設立条約にはQが損害賠償を求める権能については規定がないことを指摘しつつ、そもそも国際組織であるQにそのような権能はないと主張した。
他方、γ川についてもA国は新たな活用を検討し始めた。A国は、γ川流域に共同でダム4基から成る治水施設を構築する計画を立案し、C国に申し込んで、A国とC国がそれぞれ自国領域内においてγ川にダム2基ずつを建設することとする協定(以下「R協定」という。)を締結した。R協定によれば、その締結から8年以内をめどに工事を完成させ、運用を開始するものとされた。A国は即座に建設に取り掛かり、5年目には自国が建設することになっていたダムの建設を完了させた。他方、C国はR協定を締結した直後から経済状況が苦しくなり、ダム建設は遅滞していった。
さらに、C国国内で環境保護団体が、γ川流域には多様な生物が生息していることに着目してダム建設はこの付近の生態系を壊すとの主張を行うようになった。C国国内ではダム建設に反対する声が高まり、ついにはこれに支持された政党が政権を取るに至り、ダム建設作業は完全に停止した。
A国はC国に対して、ダム建設を継続するように申し入れたが、新政権下のC国は聞き入れず、それどころかC国国内のγ川流域を自然保護区とする国内法を制定した。この国内法によれば、自然保護区にダムや発電所などの一定以上の規模の建設物を設置できないとされる。A国は、4基のダムが一体として機能することで初めてR協定締結時に予定していた効果が発揮できることから、自国がこれまで投じた建設費用の相当部分が無駄になったと抗議し、C国に損害賠償を求めた。他方、C国は、γ川流域を自然保護区とする国内法によってR協定を守ることはできなくなったとして不遵守を正当化し、かつ、R協定の無効を主張し、さらに、経済的苦境や環境保護は喫緊の問題なのであって、これは緊急避難に当たり、損害賠償を支払う義務はないとも主張した。
なお、A国~E国は、いずれも条約法に関するウィーン条約の当事国である。また、A国~D国は、国際組織Qの加盟国である。
以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕1.A国がP協定に違反しているとのB国の主張に対して、国際法上どのように評価できるかについて論じなさい。
2.国際組織Qは、自らに生じた損害の賠償を請求するために、E国に対してどのように主張できるかについて論じなさい。
3.R協定に関するC国の主張は国際法上認められるかについて論じなさい。
論文式試験問題集[国際関係法(私法系)][国際関係法(私法系)]〔第1問〕(配点:50)
甲国法人A社は、食品の加工・製造・販売を業とする株式会社であり、様々な国の企業との間で、食品や食材の輸出入の取引をしている。A社は、2022年1月10日、日本法人B社との間で、A社を売主、B社を買主とし、日本法を準拠法とする、A社製の食品の売買契約(以下「売買契約①」という。)を締結して、B社に対する3000万円の売買代金債権(以下「債権①」という。)
を取得した。
以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、〔設問1〕と〔設問2〕は独立した問いである。
〔設問1〕B社は、2022年2月1日、A社との間で、B社を売主、A社を買主とし、甲国法を準拠法とする、冷凍食材の売買契約(以下「売買契約②」という。)を締結して、A社に対する3200万円の売買代金債権(以下「債権②」という。)を取得した。売買契約②の契約書には、「この契約から生じる一切の紛争については、甲国P市にあるP地方裁判所を専属的管轄裁判所とする」旨の条項(以下「本件条項」という。)が定められていた。
A社は、債権①の弁済期が到来した後もB社から債権①の弁済がなかったため、同年3月1日、B社に対し、債権①の弁済を催告した。B社は、同年5月25日、A社に対し、自己が有する債権②をもって、債権①と対当額において相殺する旨の意思表示をした(以下「本件相殺」という。)。
〔小問1〕A社が、同年12月1日、B社を相手取り、債権①の弁済を求めて、東京地方裁判所に提起した訴訟において、B社が本件相殺を抗弁として主張したのに対し、A社は、本件条項は、売買契約②から生じる一切の紛争について、その最終的な解決を甲国の特定の裁判所に委ね、日本の裁判所の管轄を排除するものであるから、日本の裁判所において債権②について審理・判断することはできないと主張した。A社の主張が認められるか否かについて、そのように考えた根拠を挙げて論じなさい。なお、本件条項に係る合意は、民事訴訟法第3条の7の要件を満たし、効力を生じているものとする。
〔小問2〕〔小問1〕において、日本の裁判所において債権②について審理・判断することができるものと解した場合、本件相殺を理由とするB社の抗弁について、いずれの国の法によって判断されるべきかを論じなさい。
〔設問2〕A社は、2022年2月10日、乙国法人C社に対し、債権①を譲渡した。A社は、B社に対し、公証人が同日の日付印を押した証書によって、債権①をC社に譲渡した旨の通知を発し、この通知は、同月12日、B社の本社に郵便で到達した。C社は、債権①の弁済期が到来した後もB社から債権①の弁済がなかったため、同年3月1日、B社に対し、債権①の弁済を催告した。
なお、各小問は独立した問いである。
〔小問1〕B社は、C社に対し、B社が既にA社に対して債権①の弁済をしたことを理由として、同年5月25日、債権①の弁済を拒絶する旨の通知をした。
C社が、同年12月1日、B社を相手取り、債権①の弁済を求めて、東京地方裁判所に提起した訴訟において、この弁済を理由とするB社の抗弁が認められるかについて、いずれの国の法によって判断されるべきかを論じなさい。なお、この訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。
〔小問2〕甲国法人D社は、同年2月1日、A社に対し、3000万円を貸し付けるとともに、この貸付けに基づく貸金債権の引き当てとして、A社から、債権①を目的とする債権譲渡担保権の設定を受けていた。この契約においては、甲国法が準拠法とされていた。A社は、B社に対し、この債権譲渡担保権の設定について何ら通知をしていない。なお、甲国法上、債権譲渡又は債権譲渡担保権の設定の第三者対抗要件は、債権譲渡契約又は債権譲渡担保権設定契約の締結時期の先後で決まるとされている。
D社は、上記貸金債権の弁済期が到来した後もA社からその弁済がなかったため、債権①を目的とする譲渡担保権を実行することとして、同年6月1日、B社に譲渡担保権実行の通知をしたところ、B社は、同年7月1日、債権①の債権者を確知することができないとの理由により、売買契約①に基づく売買代金3000万円を東京法務局に供託した。
C社とD社の間で、この供託に係る供託金還付請求権の帰属が争われ、東京地方裁判所に訴えが提起された場合において、C社とD社のいずれが債権①を取得したかについて、どのような判断がされるべきかを論じなさい。なお、この訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。
〔第2問〕(配点:50)
A女(甲国籍)は、甲国K市の理工系の大学院に在学中、留学生のB男(乙国籍)と知り合い、両者は親密な交際を始めた。両者の関係は、Aが大学院を修了後に、日本の工作機械メーカーO社の甲国における現地法人P社に技術者として就職してからも継続した。やがて、AはBの子を懐妊するに至ったが、その直後に両者の関係が悪化し、両者は話合いの末に交際関係を解消した。Aは、Bとの関係を解消してから間もない2010年1月、未婚のままでYを出産し、Yは出生により甲国籍を取得した。その後しばらくして、Bは大学院を修了したが、Yを認知しないまま乙国に帰国し、それ以降、BとA及びYとの間に一切の連絡はない。
その後、Aは、Yを育てながらP社で働いていたが、ある時、O社からP社に一時的に出向してきていたX男(日本国籍)と知り合い、両者は親密な交際を始めた。しばらくして、Xは、Aの歓心を買うため、血縁関係のないYを自分の子として認知することを決意し、2012年1月上旬、甲国K市の身分登録所にAと連れ立って出頭した上、身分登録をつかさどる官吏に対し、Yを自分の子として認知する旨の意思表示を行い(以下「本件認知」という。)、甲国の身分登録簿には、Yに係る身分事項として、本件認知が登録された。さらに、同月下旬、AとXは、甲国K市において、甲国法上の方式で婚姻し(以下「本件婚姻」という。)、甲国の身分登録簿には、Aに係る身分事項として、本件婚姻が登録された。その翌月の同年2月、Xは、戸籍法第41条第1項の定めるところに従い、甲国K市駐在の日本国領事に対し、本件認知及び本件婚姻に関してそれぞれ作成された証書の謄本を提出し、その後間もなく、Xの戸籍には、その身分事項として、本件認知及び本件婚姻が記載された。
2015年、XがP社への一時的な出向を終えてO社に復帰することとなったことを契機として、O社とP社との間で、A及びXの要望に基づき、AをP社からO社に出向させるとともに、A及びXをいずれも、O社の東京本社に配属する旨の人事上の調整が行われ、同年4月、A及びXは、Yを伴って日本に転居し、東京都内の住宅において同居生活を開始した。
ところが、日本での同居生活を開始してから、AとXの関係は次第に悪化していき、ついには、両者の婚姻関係は実質的に破綻している状態となった。そこで、A及びXは、話合いの末に別居することとして、2018年10月以降、Xは横浜市内の住宅に単身で居住し、AはYと共に従前と同じ東京都内の住宅に居住している。
以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、〔設問1〕と〔設問2〕は独立した問いである。
〔設問1〕Xは、2019年7月、東京家庭裁判所に対し、Yを被告として、本件認知が血縁の事実に反することを理由として、認知の無効の訴えを提起した。この訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。また、本設問において反致の成立はないものとする。なお、甲国法及び乙国法には、親子関係の成立等に関し、それぞれ次の規定が存在する。
【甲国法】① 嫡出でない子は、その父が認知することができる。
② 認知は、身分登録吏又は裁判官の面前での意思表示によってする。
③ 認知をした者は、認知の時から7年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。
【乙国法】④ 非嫡出父子関係は、親からの意思表示を要することなく、血縁関係が証明されるときに成立する。
〔小問1〕本件認知が方式上有効に成立しているかについて論じなさい。
〔小問2〕本件認知は方式上有効に成立しているものとする。この場合において、Xによる認知無効の請求は認められるか。訴訟上、Yの血縁上の父がBであることが不明のままであるときと、提出された証拠により、Yの血縁上の父がBであることが証明されたときのそれぞれについて、論じなさい。
〔設問2〕Aは、2019年4月、Yを連れて行くことについてXの同意を得た上で、Yと共に甲国へ帰国し、そのまま現在まで甲国K市で生活している。Xは、2015年に日本に帰国してから甲国に渡航したことはなく、現在も日本で生活している。
Aは、2022年4月、甲国のK裁判所に対し、Xを被告として、離婚を請求するとともに、附帯処分として財産分与を申し立て、提訴した。
甲国と日本との間の司法共助に基づき日本において訴状の送達を受けたXは、甲国の弁護士を訴訟代理人として選任した上、K裁判所における答弁として、主位的には、甲国の裁判所は国際裁判管轄権を有しないとして訴えの却下を求め、予備的には、請求に理由がないとして請求棄却を求めた。これに対し、K裁判所は、2023年4月、下記の甲国法⑤及び⑥の規定に基づき、離婚及び財産分与のいずれについても国際裁判管轄権を有すると判断した上、Aの離婚請求を認容するとともに、財産分与として300万円の支払をXに命じる内容の判決(以下「本件判決」
という。)をし、翌月、本件判決は確定した。
そこで、Aは、東京家庭裁判所に対し、本件判決のうち300万円の支払を命じる部分について、民事執行法第24条に基づいて執行判決を求める訴えを提起した。
この場合において、執行判決の要件である民事訴訟法第118条第1号の要件が具備されているかについて論じなさい。
【甲国法】⑤ 離婚に関する訴えは、原告が甲国に1年以上継続して住所を有するときは、甲国の裁判所に提起することができる。
⑥ 裁判所は、甲国の裁判所が離婚の訴えについて管轄権を有するときは、財産の分与に関する処分についての裁判に係る事件について、管轄権を有する。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
] 〔第1問〕 1 設問1⑴は、発明者の認定、発明者名誉権に基づく補正手続請求、設問1⑵は、職務発明に係る相当利益請求権の消滅時効を問うものである。設問2⑴は、取消判決の拘束力、設問2⑵は、用途発明における顕著な効果の判断を問うものである。設問3は、用途発明に係る 特許権の効力を問うものである。
2 設問1については、まずBが本件発明の発明者といえるかを検討する必要がある。その際には、本件発明が用途発明であって、効果の検証が発明の重要な要素となることを踏まえ、Bが本件発明の技術的思想の創作に関与したといえるか否かを論じることが求められる。
設問1⑴については、特許法に直接の規定はないものの、発明者には人格権としての発明者名誉権が認められることを指摘した上で、Bが、Xに対して、願書の発明者名を訂正する補正手続(特許法(以下「法」という。)第17条第1項)請求を行うことができるか否かについて検討することが求められる(大阪地判平成14年5月23日判時1825号116頁【希土類の回収方法事件】参照)。 設問1⑵については、本件発明がXの職務発明(法第35条第1項)に該当すること、職務発明に係る相当利益請求権(同条第4項)が法定債権であり、消滅時効期間が5年又は10年となること(民法第166条第1項)、Xの職務発明規程にはXが特許権を取得した時に一括して補償金を支払う旨の定めがあり、当該支払時期が到来するまでBの権利行使につき法律上の障害があるため、当該支払時期が消滅時効の起算点となること(最判平成15年4月22日民集57巻4号477頁【オリンパス事件】参照)を指摘した上で、設問の事実関係の下で、Bの相当利益請求権について消滅時効期間が経過しているか否かを検討するこ とが求められる。
3 設問2⑴については、取消判決の拘束力(行政事件訴訟法第33条第1項)が「判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断」に及ぶこと、取消判決の拘束力に従ってした審決はその限りで適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできないこと(最判平成4年4月28日民集46巻4号245頁【高速旋回式バレル研磨法事件】参照)、進歩性(法第29条第2項)の判断では、構成の容易想到性に加えて、予測し得ない顕著な効果が考慮されることを指摘した上で、設例の事実関係の下で、第一次取消判決の拘束力が本件発明に係る進歩性の判断全体に及ぶのか、それとも、用途(予防剤への適用)の容易想到性の判断にのみ及び、効果の顕著性の判断には及ばないと解すべきかを具体 的に論述することが求められる。
設問2⑵については、予測し得ない効果の顕著性は、特許発明以外の発明との比較のみで決するべきではなく、特許発明の効果が奏するものとして予測される効果との比較により決するべきと判示した最判令和元年8月27日判時2446号37頁【アレルギー性眼疾患用処方物事件】を踏まえ、X及びCの主張の当否について具体的に論述することが求められる。 4 設問3については、本件発明が用途発明であり、本件発明に係る特許権の効力がαを有効成分とする予防剤の製造、譲渡等にのみ及ぶこと(知財高判平成28年7月28日(平成28年(ネ)10023号)【メニエール病治療薬事件】参照)を指摘した上で、D製剤の添付文書に治療剤としての用途と予防剤としての用途が併記されていることを踏まえ、D製剤の販売が本件発明の実施(法第68条、法第2条第3項第1号)に該当するか否か、該当するとした場合には、D製剤の販売の差止め(法第100条第1項)及び廃棄(同条第2項)
を認めるべきか否かについて具体的に検討することが求められる(東京地判平成4年10月23日判時1469号139頁【アレルギー性喘息予防剤事件】参照)。また、差止請求の検討においては、D製剤が治療剤としても使用可能なものであることから、D製剤の販売の差止めが過剰差止めとならないか否かが考慮されるべきであり、廃棄請求の検討においては、最判平成11年7月16日民集53巻6号957頁【生理活性物質測定法事件】を踏まえ、D製剤の廃棄が、「差止請求権の行使を実効あらしめるものであって差止請求権の実現のた めに必要な範囲内のものである」か否かを検討されるべきである。
〔第2問〕 1 設問1及び設問2は、著作物性、問題となる著作権法上の権利及びその侵害の成否、並びに侵害が肯定された場合の適切な救済について、それぞれ異なる観点から理解を問うものである。設問3は、著作物の享受を目的としない利用行為やそれに関連してなされる行為が著 作権法上どのように評価されるかについての理解を問うものである。
2 設問1⑴については、X映像1とX映像2のどの部分に創作性が認められ、保護範囲にどのような差異が生ずるかについて検討し、後者の方が設問の訴訟において著作物性(著作権法(以下「法」という。)第2条第1項第1号)及び類似性が認められる可能性が高いこと を示す必要がある。
3 設問1⑵については、Z図鑑1及びZ図鑑2の作成に関して複製権(法第21条)侵害が、Z図鑑1の販売に関して譲渡権(法第26条の2第1項)侵害が、Z図鑑2の販売に関しては、譲渡権侵害に加え頒布権(法第26条第1項)侵害が問題となることを指摘した上で、救済として、差止請求(法第112条第1項)及び廃棄請求(同条第2項)の具体的な内容について論述する必要がある。このほか、損害賠償請求(民法第709条)についても言及 する必要がある。
次に、上記の請求の妥当性の問題として、とりわけZ画像において、X映像2の創作的表現が維持されているかを検討する必要がある。また、権利侵害に係る部分の分離可能性等を 考慮して、差止めや廃棄の適切な範囲についても論ずることが求められる。
4 設問2⑴については、Xが主張すべき著作者人格権として、氏名表示権(法第19条第1項)及び同一性保持権(法第20条第1項)を、著作権として、複製権(法第21条)及び 公衆送信権(法第23条第1項)を挙げる必要がある。
5 設問2⑵については、まず⑴において特定した権利との関係で可能な救済として、差止請求(法第112条第1項)、廃棄請求(同条第2項)、名誉回復等措置請求(法第115条)
及び損害賠償請求(民法第709条)について指摘する必要がある。これらのうち、損害賠償請求を除く各請求については、Yに求める作為や不作為の内容を具体的に論述することが 求められる。
次に、Xの請求の妥当性を検討する際に、同一の撮影方法を用いて撮影した素材から、類似の取捨選択方針に基づいて作成されたY映像において、X映像2の創作的表現が維持されているかについて具体的に論述する必要がある。氏名表示権侵害については、「協力者」としてXの氏名を表示することが著作者名の表示に当たらない点を指摘する必要がある。さらに、救済の妥当性について、Y映像の将来の放送の差止め(法第112条第1項)の必要性や、Y映像を記録した媒体の廃棄(同条第2項)の必要性が認められるか等についても検討 する必要がある。
6 設問3⑴については、タブレットへの記録が複製(法第2条第1項第15号)に、犬にタブレットで映像を再生して見せる行為が上映(同項第17号)にそれぞれ該当することを指摘し、これらに関係する支分権の侵害に当たらないとYが判断した根拠を挙げる必要がある。
より具体的には、複製権(法第21条)との関係では法第30条の4を、上映権(法第22 条の2)との関係では「公に」の要件を満たさないことを、それぞれ指摘する必要がある。
7 設問3⑵については、⑴の解答を踏まえ、設問の事実関係の下で、Yの各行為が複製権や上映権を侵害するといえるかについて具体的に述べる必要がある。上映権との関係では、結果的にX映像2のすべてを見た3名の飼い主がいたことをもって、著作物を「公に上映」(法第22条の2)したといえるかにつき検討する必要がある。その上で、法第30条の4に該当するか否かについて、自らの見解を説得的に述べる必要がある。複製権については、複製 物の目的外使用(法第49条第1項第2号)の可能性についても検討することが望ましい。
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参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 第1問設問1(1)
1 まず、Bが本件発明の発明者といえるかを検討する。発明者とは、発明の技術的思想の創作行為に現実に加担した者をいい、単に一般的な管理をした者、一般的な助言や指導を与えた者、資金や設備を提供した者、単なる補助者は発明者に当たらない。
本件発明は、公知の化合物αに乙作用があることを発見し、これを疾患βの予防剤に適用した用途発明である。このような用途発明では、当該用途における効果の検証が発明の完成にとって不可欠の要素であり、その検証を離れて技術的思想が具体化されることはない。
本件では、AはBに対しαを予防剤に適用することが可能か否かを検討するよう指示したにとどまり、課題を示したにすぎず、具体的な技術的手段を提供していない。これに対しBは、自ら実験を行い、αを所定の用法・用量で使用した場合に乙作用が発現することを確認して本件発明を完成させている。本件発明の特徴である乙作用の発現とその用法・用量はBの実験によって初めて明らかになったものであるから、Bは技術的思想の創作に現実に加担した者であり、発明者である。
2 次に、Bが願書の発明者名を訂正する補正手続を行うことをXに請求できるかを検討する。特許法(以下「法」という。)には直接の規定はないが、願書には発明者の氏名を記載することが要求され(法36条1項2号)、特許公報にも発明者が掲載される。これは発明者が発明者として社会的に認識される人格的利益を保護する趣旨を含むものであり、発明者には人格権としての発明者名誉権が認められると解する。
もっとも、願書の補正(法17条1項)をすることができるのは出願人であり、発明者はこれを自ら行う地位にない。そうすると、出願人が真の発明者を記載しないまま出願を維持する場合、発明者名誉権は何ら救済されないことになる。そこで、発明者は、発明者名誉権に基づき、出願人に対して発明者名を訂正する補正手続を行うことを請求できると解すべきである(大阪地判平成14年5月23日参照)。
3 本件では、本件発明に係る出願が特許庁に係属している間に請求がされており、補正は可能である。よってBの請求は認められる。
第2 第1問設問1(2)
1 本件発明は、Xの業務範囲に属し、かつ従業者であるBの現在の職務に属する発明であるから職務発明(法35条1項)である。Xの職務発明規程により、特許を受ける権利は発明完成時にXに帰属する(法35条3項)。この場合、発明者であるBは、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利(法35条4項)を有する。
2 同項の権利は法律の規定により発生する法定債権であるから、その消滅時効期間は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年である(民法166条1項)。
そして、勤務規則等に使用者が支払うべき対価の支払時期に関する定めがある場合には、当該支払時期が到来するまでは権利の行使につき法律上の障害があるから、当該支払時期が消滅時効の起算点となる(最判平成15年4月22日・オリンパス事件)。
3 本件のXの職務発明規程は、Xが特許権を取得した時に一括して補償金を支払う旨を定めている。したがって消滅時効の起算点は本件特許の設定登録時である。Bの請求は本件発明に係る特許登録時から4年を経過した後に行われているから、5年の時効期間はいまだ経過していない。本件発明の完成時から7年、出願時から6年が経過していることは、起算点が登録時である以上、結論を左右しない。
4 よってBの相当の利益請求権は時効により消滅しておらず、Bの請求は認められる。Bは職務発明規程に基づいて算出される額を請求しているのであるから、当該規程の定めが法35条5項に照らして不合理であるかを論ずる必要もない。
第3 第1問設問2(1)
1 取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に及ぶ。そして、取消判決の拘束力に従ってされた審決はその限りで適法であり、再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない(最判平成4年4月28日・高速旋回式バレル研磨法事件)。したがって、Xが第一次取消判決の拘束力の及ぶ判断を争うことは許されない。
2 進歩性(法29条2項)の判断においては、引用発明からの構成の容易想到性に加えて、当該発明が奏する予測し得ない顕著な効果の有無も考慮される。両者は進歩性を支える別個の判断要素である。
本件の第一次取消判決は、αを疾患βの予防剤に適用することは当業者が容易に想到し得るとして請求不成立審決を取り消したものであり、その判断は用途の構成に関する容易想到性に限られる。本件発明の効果が当業者の予測を超える顕著なものであるか否かについては、何ら判断していない。
3 したがって、第一次取消判決の拘束力は用途の容易想到性の判断にのみ及び、効果の顕著性の判断には及ばない。
なお、効果の顕著性に関する主張は、本件審判で審理判断された進歩性欠如という同一の無効理由の枠内で、その判断資料を明らかにするものであるから、審決取消訴訟の審理範囲(最大判昭和51年3月10日・メリヤス編機事件)を逸脱するものでもない。
4 よってXが本件発明の効果に関する主張を新たに行うことは許される。
第4 第1問設問2(2)
1 予測し得ない顕著な効果の有無は、当該発明の構成が奏するものとして当業者が出願時の技術水準に基づき予測することができた効果と、現実に当該発明が奏する効果とを比較して判断すべきであり、当該発明以外の発明が奏する効果との比較のみによって決すべきではない(最判令和元年8月27日・アレルギー性眼疾患用処方物事件)。他の化合物の効果と同程度であることは、当業者が当該発明の効果を予測できたことを必ずしも意味しないからである。
2 Cの主張は、αの予防効果が別の化合物γの予防効果と同程度であることのみを根拠に効果の顕著性を否定するものであり、比較の対象を誤っている。γが疾患βの治療剤と予防剤の双方に適用されていたことは、αを予防剤に適用するという構成の容易想到性を基礎付ける事情にはなるが、αがいかなる程度の予防効果を奏するかを予測させるものではない。
3 これに対し、Xの主張は、本件特許出願の願書に添付した明細書記載の実験により証明されるαの予防効果が当業者の予測できない顕著なものであるというものである。α自体は公知の化合物であったが、αに乙作用があることは本件発明により初めて発見されたものであり、出願時の当業者はαが疾患βの予防効果を奏すること自体を予測できなかった。そうすると、明細書に記載された実験結果が示す予防効果の程度が、当業者が予測し得た効果を上回るものであれば、顕著な効果が認められる。
4 したがってCの主張は妥当でなく、Xの主張が妥当である。明細書記載の実験結果に照らし効果の顕著性が認められるならば、本件発明は進歩性を有し、第二次審決は取り消されるべきである。
第5 第1問設問3
1 本件発明は、公知の化合物αについて疾患βの予防という新たな用途を見出した用途発明であり、物の発明である。その技術的範囲は、αを有効成分とする疾患βの予防剤に限られ、αを有効成分とする治療剤には及ばない。したがって本件特許権の効力は、予防剤としての製造、譲渡等にのみ及ぶ。
2 医薬品が当該用途に向けられた物であるかは、製剤の客観的な性状のみならず、添付文書に記載された用法・用量等をも考慮して判断すべきである。αを治療剤として用いる場合と予防剤として用いる場合では標準的な用法・用量に違いがあるところ、D製剤の添付文書には予防剤として使用する場合の用法・用量が併記されている。そうするとD製剤は、疾患βの予防剤としての用途に向けられた製剤として流通しているものと認められ、本件発明の技術的範囲に属する。
3 よってDによるD製剤の製造販売は本件特許発明の業としての実施(法68条、2条3項1号)に当たり、本件特許権を侵害する。
4 もっとも、D製剤は治療剤としても使用可能なものであり、治療剤としての製造販売は本件特許権を侵害しない。D製剤の販売を一律に差し止めれば、侵害に当たらない行為までも禁ずることになり過剰差止めとなる。侵害は添付文書に予防剤としての用法・用量を併記した点に由来するのであるから、差止め(法100条1項)は、予防剤としての用法・用量を記載した添付文書を添付したD製剤の販売について認めるべきである。Dが当該記載を削除すれば侵害状態は解消する。
5 廃棄請求(法100条2項)については、同項の侵害の予防に必要な行為は、特許発明の内容、侵害行為の態様及び差止請求権の具体的内容等に照らし、差止請求権の行使を実効あらしめるものであって、その実現のために必要な範囲内のものに限られる(最判平成11年7月16日・生理活性物質測定法事件)。D製剤自体はαを有効成分とする製剤にすぎず、添付文書を改めれば治療剤として適法に販売できるのであるから、D製剤そのものの廃棄は必要な範囲を超える。廃棄を認めるべきは、予防剤としての用法・用量を記載した添付文書に限られる。
6 以上より、Xの請求は、上記の限度で認められる。
第6 第2問設問1(1)
1 X映像1は、Xが動物αの生息域を絞り込み、撮影ポイントを発見し、機材を設置・固定して撮影角度を最適に調整した上で録画した50時間分の映像である。撮影場所及び画角の選択に工夫があるから、被写体の捉え方における創作性が認められ、著作物(著作権法2条1項1号。以下「法」という。)に当たる余地はある。しかし録画開始後は機材を放置しているため、被写体の選択や映像の構成に撮影者の個性が表れる余地は乏しく、創作性は撮影場所及び画角の選択という限られた範囲にとどまる。そうすると、保護範囲も狭く、同一の場所・画角で撮影された映像との間で創作的表現の共通性を主張することは困難である。
2 これに対しX映像2は、X映像1のうち動物αが映っている約3時間分から各30秒から2分程度の10個のシーンを抽出し、これを時系列と異なる順番に配置して作成した15分の映像である。素材たるシーンの選択と、時系列を離れた配列にXの個性が明確に表れており、編集による創作性が認められる。影像により表現され物に固定されているから映画の著作物(法2条3項、10条1項7号)である。保護範囲はシーンの選択及び配列に及ぶ。
3 本件のZ画像及びZ映像は、Y番組1を録画したものからX映像2の一部又は全部を抜き出して作成されたものである。X映像2を自らの著作物として主張すれば、シーンの選択及び配列という創作的表現がそのまま再製されているといえるから、著作物性及び類似性が認められる可能性が高い。これがX映像1を主張する場合と比較したXの利点である。
第7 第2問設問1(2)
1 Z映像はX映像2の全部を抜き出したものであり、その創作的表現がそのまま再製されているから、Z・DVDの作成はX映像2の複製(法21条)に当たる。Z・DVDは映画の著作物の複製物であるから、これを含むZ図鑑2の販売は頒布(法2条1項19号)に当たり頒布権(法26条1項)を侵害し、併せて譲渡権(法26条の2第1項)も問題となる。Z・DVDは無断で作成された複製物であるから権利は消尽しない。
2 Z画像は、X映像2の一部を抜き出した静止画5枚である。X映像2の創作性はシーンの選択及び配列にあるところ、静止画5枚にはシーンの配列という要素は再現されていない。もっとも、どのシーンを選び取るかという選択の一部は再現されており、かつ各画像にはX映像1に由来する撮影上の創作的表現(被写体の捉え方、構図)が再製されている。したがってZ画像の作成も複製権を侵害すると解する。Z図鑑1及びZ図鑑2の書籍部分の販売は譲渡権(法26条の2第1項)の侵害となる。
3 救済としては、まず差止請求(法112条1項)として、Z・DVD及びZ図鑑2の製造販売の差止め、並びにZ画像を掲載したZ図鑑1の製造販売の差止めが考えられる。
次に廃棄請求(法112条2項)として、Z・DVDの廃棄が認められる。これに対しZ図鑑1は全部で250ページから成り、動物αの画像が掲載されているのは2ページにすぎない。侵害部分は書籍全体のごく一部であり、他のページには侵害がない。そうすると書籍全体の廃棄は過剰であって、侵害部分である当該2ページの除去又は抹消を求めるにとどめるべきである。
4 さらに損害賠償請求(民法709条)が考えられる。Zは出版社であり、放送された番組を録画して図鑑に利用するに際し、映像の著作権者の許諾を得るべきことは当然に認識し得たのであるから、少なくとも過失がある。損害額は法114条により算定することができる。
第8 第2問設問2(1)
1 Xが主張すべき著作権は、複製権(法21条)及び公衆送信権(法23条1項)である。
Y映像は、Yのスタッフが自ら撮影した素材から作成されたものであるが、X映像1と同一の場所・画角で撮影され、X映像2で見られたのと似た動きをしている10個のシーンを抽出し、これをX映像2と同じ順番に配置したものである。X映像2の創作性の中核であるシーンの選択及び配列がそのまま再現されており、Yは許諾を得られなかったことからX映像2に依拠して作成しているから、Y映像はX映像2の複製に当たる。なお新たな創作性の付加を認める立場からは翻案(法27条)となる。そしてY映像がY番組2の一部として放送されたことは公衆送信(放送)であるから公衆送信権の侵害となる。
2 著作者人格権としては、氏名表示権(法19条1項)及び同一性保持権(法20条1項)を主張すべきである。
Y番組2では終了間際のテロップにXの氏名が「協力者」として表示されたにとどまる。著作者名の表示とは、当該著作物の著作者としてその氏名を表示することをいうから、「協力者」との表示は著作者名の表示に当たらない。よって氏名表示権の侵害となる。
また、Y映像はX映像2のシーンの選択及び配列を維持しながら、各シーンの具体的な映像をYが撮影した別の映像に差し替えたものであるから、X映像2の表現をXの意に反して改変するものであり、同一性保持権の侵害となる。
第9 第2問設問2(2)
1 差止請求(法112条1項)として、Y映像の放送の差止めが考えられる。YはX映像2と同様の映像を、将来的に同種の番組を作成する際に使用することも視野に入れて作成しているから、再放送ないし再使用のおそれが現に存在する。よって将来の放送の差止めの必要性が認められる。
2 廃棄請求(法112条2項)として、Y映像を記録した媒体の廃棄が考えられる。Y映像が存在する限り将来の放送が可能であり、その廃棄は差止請求権の実現のために必要であるから、これも認められる。他方、Yのスタッフが撮影した50時間分の素材映像自体にはX映像2の創作的表現は含まれていないから、その廃棄までは認められない。
3 名誉回復等の措置請求(法115条)として、Xが著作者であることを明らかにする訂正の放送や、Xを著作者として表示する旨の措置を求めることが考えられる。Y番組2ではXが単なる協力者として表示されたため、Xが著作者であることが視聴者に伝わらず、著作者としての声望が害されている。この回復のためには、Xを著作者として明示する訂正措置が適当である。
4 損害賠償請求(民法709条)も認められる。YはXの許諾を得られなかったことを知りながらX映像2と同様の映像を自ら作成して放送したのであるから故意がある。
5 以上の請求の前提として、同一の撮影方法を用いた素材から類似の取捨選択方針により作成されたY映像にX映像2の創作的表現が維持されているかが問題となる。この点、個々のシーンの映像はY自身が撮影したものであるからX映像1の表現そのものの再製とはいえない余地があるが、X映像2の創作性はシーンの選択及び配列にあり、Y映像は似た動きの10個のシーンを同じ順番に配置したものであって、その選択・配列をそのまま再現している。よってX映像2の創作的表現は維持されており、各請求はいずれも妥当である。
第10 第2問設問3(1)
1 X映像2をタブレットに記録する行為は、著作物を有形的に再製するものであり複製(法2条1項15号)に当たる。しかし、著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、必要と認められる限度において、著作権者の利益を不当に害しない限り、著作物を利用することができる(法30条の4)。Y実験はX映像2を犬に見せて犬の反応を観察するためのものであり、人が映像の内容を鑑賞してその知的・精神的欲求を満たすことを目的としていない。Yは、享受目的を欠くから同条により複製権(法21条)の侵害とならないと判断したものと考えられる。
2 タブレットに記録した映像を再生して犬に見せる行為は、著作物を映写するものであり上映(法2条1項17号)に当たる。しかし上映権(法22条の2)は著作物を「公に」上映する場合に及ぶものであり、「公に」とは公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とする場合をいう(法22条参照)。公衆とは不特定の者又は特定多数の者(法2条5項参照)であって、いずれも人を指す。犬は公衆に当たらないから、犬に見せることを目的とする再生は「公に」の要件を満たさない。Yはこの点を根拠に上映権の侵害とならないと判断したものと考えられる。
第11 第2問設問3(2)
1 上映権について。街で声掛けして承諾を得た飼い主は不特定の者であり公衆に当たる。しかし「公に」上映したというためには、公衆に直接見せることを目的としていたことを要する。本件では、Yのスタッフは各飼い主に対し事前に実験の趣旨を説明した際、飼い主が映像を見る必要はない旨を伝達していた。飼い主3名がX映像2の全てを見たのは、動物αに興味を持った飼い主自身の行動によるものであって、Yが飼い主に見せることを目的としていたわけではない。したがって「公に上映」したとはいえず、上映権の侵害は成立しない。
もっとも、街頭で犬に映像を見せるという態様に照らせば、同伴する飼い主が映像を見ることは当然に予想されるのであるから、見る必要はないと伝達しただけでは目的を否定できないとの見解もあり得る。しかし、Yは積極的に視聴を排除する説明をしており、公衆に鑑賞させる意図はなかったのであるから、なお目的を欠くと解すべきである。
2 複製権について。法30条の4の適用は、利用行為の目的が著作物の享受にないことを前提とする。Y実験の目的は犬の反応を観察することにあり、人に映像を鑑賞させることにはない。飼い主3名が結果的に全てを見たことは、Yの利用目的を変更するものではない。またタブレットへの記録は実験に必要な限度にとどまり、Y実験の完了直後に削除されているから、著作権者の利益を不当に害することとなる場合にも当たらない。よって記録行為は同条により適法である。
3 もっとも、法30条の4の適用を受けて作成された複製物を、同条に定める目的以外の目的のために使用した者は、新たに複製を行ったものとみなされる(法49条1項2号)。飼い主が映像を見たことがYによる目的外使用に当たるかが問題となるが、使用の主体はYであり、Yは実験以外の目的でタブレットを使用していない。飼い主の視聴はYの使用目的の外にある偶発的事情であるから、目的外使用には当たらない。
4 以上より、Yは複製権も上映権も侵害しておらず、Xの著作権を侵害したとはいえない。
以上