司法試験 平成25年 知的財産法
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
Yの従業員である甲と乙は,物質Aに物質b1を反応させて化合物Cを生産する方法(以下「方法1」という。)を職務発明として共同で発明した。甲と乙は,Yの職務発明規程に従って,方法1に関する職務発明の特許を受ける権利を,双方同意の上でYに譲渡したが,Yは特許出願をしなかった。しかし,Yは方法1の発明完成の報告を受けて,直ちに秘密裏に方法1の使用による化合物Cの製造を複数の国内工場で開始した。
その後, 乙は, Yを退職してYと競合するXの従業員となり, Xでの研究開発に従事したところ,物質Aに物質b2を反応させて化合物Cを生産する方法(以下「方法2」という。)によると,方法1よりも顕著に高い収率で化合物Cを生産できることを発見した。そして,乙は,方法2のみならず方法1についても,自分の単独発明としてXに届け出て,両発明の特許を受ける権利をXに譲渡する旨をXと合意した。Xは,特許請求の範囲を「物質Aに物質Bを反応させて化合物Cを生産する方法」(以下 「発明α」 という。) とした特許出願を, 発明者を乙として行った。 その後, Xは,方法1を使用して化合物Cの製造を開始した。なお,物質Bは物質b1と物質b2の両方を含む上位概念であり,明細書には方法1と方法2の実施例がいずれも記載されている。
一方, Xが発明αの特許出願を行った1か月後, Yにおいても独自に方法2が開発され, 直ちに,Yは方法1を使用していた国内工場の生産ラインのうちの一部につき,方法2を使用するように変更して化合物Cの製造を開始した。Yは,以来継続して方法1と方法2の両方法を使用して化合物Cの製造を行っている。
Xは, 発明αについて特許査定を受けて設定登録を得た (以下, この特許を 「本件特許」 という。)
ので,本件特許に基づき,Yに対し,化合物Cの製造行為の差止めを求めて提訴した。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。
〔設 問〕1.本件特許に基づくXの差止請求に対し,方法1と方法2のそれぞれについて,Yはどのような抗弁を主張できるか論ぜよ。
2.設問1で検討したYの抗弁のうち,方法2に関する抗弁に対して,Xはどのような再反論ができるか論ぜよ。
3.Yは,本件特許について,Xに対し特許権の移転請求を行うことができるか,その可否について論ぜよ。また,Yによる特許権の移転請求が認められた場合,Yは本件特許に基づいてXに対し方法1の使用の差止めを請求できるかについても論ぜよ。
【参考】特許法施行規則(昭和35年3月8日通商産業省令第10号)
(特許権の移転の特例)
第40条の2 特許法第74条第1項の規定による特許権の移転の請求は,自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとする。
〔第2問〕(配点:50)
小説家であるAは,古代中国の春秋戦国時代に生きた武将αの数奇な生涯を描いた小説(以下「本件小説」という。)を執筆した。
漫画家であるBは, Aの承諾を得て, 本件小説を原作とした連載漫画 (以下 「本件漫画」 という。)
を執筆した。 その際, Bは, 本件小説に登場する主人公の武将αその他の登場人物の特徴について,本件小説に言語で描かれている特徴を踏まえながらも漫画として描くにふさわしい容姿を自ら考え出し,それぞれが身に着ける甲冑や衣装についても,数々の古代中国の資料を参考にし,さらに漫画としての特徴を出すべく,西洋風の甲冑や衣装の要素も取り入れながら,独自の視点を加味して描いた。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。ただし,著作者人格権について触れる必要はない。
〔設 問〕1.映画製作会社Cは,本件漫画に登場する武将αを主人公としたアニメーションを製作し,それをDVDとして販売したいと考え,この企画をBに持ちかけたところBの承諾を得たので,Aの承諾を得ないまま,同アニメーション(以下「本件アニメ」という。)を製作した。本件アニメは,Bが描いた本件漫画の登場人物の作画を忠実にアニメ化したものではあるが,その物語の展開は本件小説には全く描かれていない独自の内容であった。
Aは,Cに対して,本件アニメのDVDの製造・販売の差止めを求めるためにどのような主張をすべきか。
これに対するCの反論としてどのような主張が考えられるか。
双方の主張の妥当性についても論ぜよ。
2.イベント主催会社Dは,各漫画雑誌に掲載された人気漫画の原画を展示して紹介するイベント(以下「本件イベント」という。)を企画し,その際,所有者の承諾を得て本件漫画の原画を展示する予定であるが,その一方で,A及びBに無断で,展示される武将αが描かれている本件漫画の原画の1枚を, A5版30頁の観覧者向けパンフレット (以下 「本件パンフレット」
という。)において,1頁の約3分の2の大きさで掲載し,それに簡単な解説を付けた上で,これをイベント会場において観覧者に販売しようとしている。
また,Dは,本件イベントの入場前売りチケット(以下「本件チケット」という。 )にも,A及びBに無断で, 本件漫画の原画の1コマを印刷して, これを販売しようとしている。 なお,本件チケットは,上記原画の1コマを除けば,本件イベントの名称,本件イベントの日時場所が記載されているにすぎないものであった。
Bは,Dに対して,本件パンフレット及び本件チケットの販売の差止めを求めるためにどのような主張をすべきか。
これに対するDの反論としてどのような主張が考えられるか。
双方の主張の妥当性についても論ぜよ。
3.玩具製造業者Eは,A及びBの承諾を得て,本件漫画の主人公である武将αの小型のプラスチック製人形(以下「本件フィギュア」という。)を製作し,これを大量に販売している。本件フィギュアは,手足の関節が自由に屈折し,付属の甲冑の着せ替えができる高さ8センチメートルほどのおもちゃの人形ではあったが,その模型原型は,武将αの全体像についてEの従業員である造形師が想像力を駆使して造形したものであり,本件漫画では十分に描かれていない前後左右から見た武将αの容姿及び甲冑の立体的形状や色彩,金属としての光沢などがまるで本物のような質感で造形されており,小さいながらも極めて精細かつ色鮮やかで躍動感にあふれる形態のものであった。
菓子製造販売業者Fは,A,B及びEに無断で,自らが製造販売するスナック菓子のおまけとして本件フィギュアを細部まで模倣して小型化した武将αのプラスチック製人形を製造して,これを消費者に提供しようとしている。
E及びBは,Fに対して,上記行為の差止めを求めるためにどのような主張をすべきか。
これに対するFの反論としてどのような主張が考えられるか。
双方の主張の妥当性についても論ぜよ。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
知的財産法〔第1問〕本問は,物を生産する方法の発明に関する特許を題材にしたもので,設問1では,特許を受ける権利の共有持分譲渡の有効性や,特許権侵害訴訟において主張される幾つかの基本的な抗弁の成否を問い,設問2では,設問1で検討した抗弁に対して特許権者がとるべき対応,主として特許無効の抗弁に対する対抗主張の要件及び可否を問い,設問3では,平成23年特許法改正によって新設された特許権移転請求制度(同法第74条)の要件と効果についての理解を問うものである。
設問1は, 特許を受ける権利の共有持分譲渡の有効要件 (同法第33条第3項), 並びに特許権侵害訴訟において主張される抗弁のうち,先使用による通常実施権(以下「先使用権」という。同法第79条),職務発明の法定通常実施権(同法第35条第1項)及び特許無効の抗弁(同法第104条の3)の基本的理解と応用力を問うものである。
まず,方法1及び方法2について,Yとしては,先使用権を主張することが考えられる。方法1は本件特許の出願前からYが実施していたことから,先使用権の成立要件を満たすかが問題となる。方法2については,本件特許の出願後に実施された方法2にまで先使用権の効力が及ぶかが問題となる。先使用権の範囲に関しては,発明思想説(最判昭和61年10月3日民集40巻6号1068頁 【ウォーキングビーム】) と実施形式説 (東京地判昭和49年4月8日無体集6巻1号83頁等)の対立があるが,いずれによるかを,最高裁判決を踏まえて論じ,事案に即して検討すべきである。この点,本問では,方法2では方法1よりも顕著な効果が得られるとされており,仮に発明思想説によった場合,この事実を踏まえて発明思想が異なるといえるかどうかについて検討することが望まれる。また,Yは,方法1の開示を,これをXに開示した発明者でもある乙から受けた者である点で,同法第79条の「特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者」から知得したといえるかも問題となるところ,この問題を論じていれば積極的評価の対象となり得る。
次に,方法1について,Yは,それがYの従業員である甲と乙による発明であることを理由に,職務発明の法定通常実施権(同法第35条第1項)を主張することが考えられる。もっとも,乙からXへの特許を受ける権利の譲渡は,共同発明者である共有者甲の同意(同法第33条第3項)が得られておらず無効と考えられる点で,Xが特許を受けたことが同法第35条第1項の「職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたとき」に当たるかについて検討することが望まれる。また,方法2にも職務発明の法定通常実施権が及ぶかという問題も考えられるところ,この問題を論じていれば積極的評価の対象となり得る。
また,方法1について,Yは,本件特許が,特許発明に含まれる方法1の特許を受ける権利につきXへの譲渡要件(甲の同意)を具備しないまま成立した点で,同法第123条第1項第2号,第38条(Yとの共同出願違反)又は同法第123条第1項第6号(無権利者による出願)違反を無効理由とする特許無効の抗弁を主張することが考えられる。さらに,方法2に対する権利行使についても,この特許を受ける権利はXが有効に取得したと考えられるが,請求項の一部に無効理由が含まれれば当該請求項に係る権利全体が無効となり得るのが原則であることから,特許無効の抗弁が問題となる。なお,Yは方法1を本件特許の出願前から実施しているが,その実施は秘密裏に行われており,公然実施や公知を理由とする無効理由については想定していない。
設問2は,方法2に関するYの抗弁に対するXの対応を問うものである。先使用権等の抗弁に対する反論をここで論じてもよいが,主として,特許無効の抗弁に対する訂正を理由とする対抗主張の可能性を論じてもらうのが出題の意図である。本件特許発明には方法1と方法2の両方が包含されているところ,Xとしては,方法1を除去する減縮訂正により方法2についてのYに対する差止請求の維持を図る余地がある。対抗主張の要件(東京地判平成19年2月27日判タ1253号241頁 【多関節搬送装置】 参照)を論じた上で, 本件事案に即して対抗主張の可否を論じることが望ましい。ただし,Yに職務発明の法定通常実施権を認める立場からは,同法第127条の承諾要件を具備しないままでもXの対抗主張を認めることができるかという問題があるところ,この問題について論じていれば積極的評価の対象となり得る。
設問3は,平成23年の特許法改正で新設された特許権移転請求制度(同法第74条)の要件と効果の理解を問うものである。本件特許に同法第123条第1項第2号又は同項第6号違反の事由が存在し,かつYが方法1の特許を受ける権利を有効に譲り受けていれば,Yとしては特許権の移転請求をXに対して行うことができる。ただし,Yが乙の発明した方法2に係る特許を受ける権利までは有していないと考えた場合,Yの請求は共有持分の移転請求にとどまるものと解される。この移転請求が認められた場合,YのXに対する方法1の使用の差止請求については,共有者の実施権(同法第73条第2項)や特許権の移転の登録前の実施による通常実施権(同法第79条の2)が問題となる。しかし,特に同法第73条第2項の適用により差止請求を排斥できるとしても,この結論を妥当と考えるか,問題があると考えるならばどのような法理をもって解決を図るべきかについても検討することが期待される。
〔第2問〕設問1は,本件小説,本件漫画及び本件アニメの関係を通じて,二次的著作物の原著作者の権利(著作権法第28条)の主張の可否及びその権利範囲を問うものであり,設問2は,美術の著作物等の展示に伴う複製に関する権利制限(同法第47条)の成否及び引用(同法第32条第1項) の成否を問うものであり, 設問3は, いわゆる応用美術の問題等を問うものである。
設問1については,AがCに対して本件アニメのDVDの製造・販売の差止めを求めるために,まず,本件漫画が本件小説の,本件アニメが本件漫画の,それぞれ二次的著作物(同法第2条第1項第11号)であることを前提として,二次的著作物の原著作者の権利(同法第28条)としての複製権(同法第21条)及び頒布権(同法第26条)侵害を主張することが考えられる。この場合,二次的著作物に当たるか否かについては,判例(最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁(【江差追分】)の示す基準等を念頭に置きつつ,論述をすることが求められる。これに対してCは,本件アニメの内容は本件小説に描かれていない独自のものであり,本件漫画で描かれた武将α等の作画はB単独の創作部分であるから,Aの権利は本件アニメには及ばないと主張することが考えられる。この点は,本問と類似の事案に関する判例(最判平成13年10月25日判時1767号115頁【キャンディ・キャンディ】) の判旨を念頭に置きつつ,Bが独自に創作した部分についてもAの権利が及ぶのか否かにつき,説得的な論拠を挙げて論述する必要がある。なお,Aは,本件小説における武将αのキャラクターそのものに著作物性があると主張することも考えられるが,この点に関しては,判例(最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁 【ポパイネクタイ】) が, 具体的な漫画を離れて登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない旨を判示していることに留意する必要がある。
設問2については,Bは,Dが本件パンフレットに本件漫画の原画の1枚を掲載し,本件チケットに本件漫画の1コマを印刷してこれらを販売しようとしていることから,複製権(同法第21条)及び譲渡権(同法第26条の2)侵害を理由に差止めを求めることが考えられる。
これに対して,Dは,まず,美術の著作物の原作品の所有者の同意を得た者は著作物をその原作品により公に展示することができるところ(同法第45条), 本件イベントにおける本件漫画の原画の展示はその所有者の承諾を得てなされるものであるから,同法第25条に規定する権利(展示権)を害することのないものであるとして,本件パンフレットが同法第47条所定の「小冊子」に当たり,これに本件漫画の原画を掲載することができ,この場合,同パンフレットを譲渡することもできる(同法第47条の10本文) と反論することが考えられる。 ただし,本件パンフレットはA5版の大きさであり,そこに掲載された本件漫画の原画は1頁の3分の2の大きさであることから,これが「小冊子」に当たるか否かが問題となる。この点については,同種の裁判例(例えば,東京地判平成元年10月6日無体集21巻3号747頁【レオナール・フジタ】,東京地判平成9年9月5日判時1621号130頁【ダリ】)で示された判断基準等を念頭に置きながら,検討することが求められる。また,Dは,本件パンフレット及び本件チケットについて,引用(同法第32条第1項)を主張することも考えられる。この場合は, 判例 (最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁 【パロディ】) の示す基準等を念頭に置きつつ,引用に当たるか否かの判断基準を明示して当てはめることが必要となるが,特に,本件チケットに関しては,Bの再反論として,本件チケットは本件イベントの名称や日時場所が記載されているにすぎない単なる入場券であるところ,引用する側の作品自体に著作物性がない場合には同法第32条第1項が適用されないとの主張が考えられる。この点については,著作物性を要するとの立場(例えば,東京地判平成10年2月20日知的裁集30巻1号33頁 【バーンズ・コレクション】) とこれを不要とする立場 (例えば, 知財高判平成22年10月13日判時2092号136頁 【絵画の鑑定証書】) とがあるので, それらの裁判例の示す論拠を念頭に置きつつ,説得的な論述をすることが求められる。
設問3については,まず,Eの主張として,本件フィギュアは本件漫画に描かれている武将αをEの従業員である造形師が想像力を駆使して立体的形状に造形したものであるから,本件漫画の二次的著作物に当たり,Eはその著作者(同法第15条第1項)であると主張することが考えられる。これに対し,Fは,本件フィギュアは単なる量産品のおもちゃであって,それ自体 「美術の著作物」とも一品製作の「美術工芸品」(同法第2条第2項)ともいえないから,著作物性を有しないと主張することが考えられる。いわゆる応用美術の問題であるが,この点については,著作権法の保護と意匠法等による保護との関係等に照らし,関連する裁判例(例えば, 神戸地姫路支判昭和54年7月9日無体集11巻2号371頁 【仏壇彫刻】, 大阪高判平成17年7月28日判時1928号116頁【チョコエッグ】) で示された基準を念頭に置きつつ,本件事案に当てはめて論述することが求められる。次に,Bの主張に関しては,設問1と同様に,二次的著作物の原著作者の権利(著作権法第28条)の範囲が問題となろう。また,特に本件フィギュアに著作物性がないとした場合,BはFに対し,Fのおまけ人形を製造し,提供する行為が直接本件漫画の複製権(同法第21条)等及び譲渡権(同法第26条の2)を侵害するものであると主張することも考えられる。ただし,本件フィギュアに著作物性がないとすると,このように模倣の対象である作品が応用美術の問題から著作物でないとされる場合でも権利侵害を主張することができるのかということも問題となり,検討することが望まれる。
[ 労働法 ]〔第1問〕本問は,労働契約に設けられた期間の趣旨(雇用の終了又は試用期間),募集広告等に示された労働条件と労働契約の内容,就業規則の最低基準効等に関する理解を問うものである。いずれも,労働法における基本的な論点であり,関係条文・判例に対する知識を前提とし,これらを正確に示した上で自らの考えを述べ,問題文に示された具体的事実を摘示しつつ当てはめを行うことが求められる。
まず,本問の事例では,Yから示された1年間の「契約期間」が試用期間か労働契約の期間か,試用期間と解する場合には本件契約の法的性質(解約権留保付労働契約等)をどう解するかを検討する必要があり,その際には,神戸弘陵学園事件判決(最判平2年6月5日)等の判例の判断の枠組みを踏まえて規範を定立し,問題文に示された事実を抽出して当てはめを行うことが求められる。その上で,これを試用期間と解する見解を採ったとしても,労働契約の期間と解する見解を採ったとしても,Yによる契約終了の通知が権利濫用(労働契約法第16条又は第19条参照)となるかを論じる必要がある。
次に,平成20年に新卒で採用された教員の給与との差額賃金請求の当否を論ずる必要があり,具体的には,募集広告の記載等が本件労働契約の内容となっているかを検討した上で,本件労働契約の内容となっていないと解する見解を採る場合には,労働基準法第15条第1項及び信義則違反により不法行為に基づく損害賠償請求ができるかなどの法律構成に踏み込んだ論述を行う必要がある。 その際には, 日新火災海上保険事件判決 (東京高判平12年4月19日)
等の判例の判断の枠組みを意識しつつ,具体的な事実関係に即して論じることが求められる。
最後に, 平成24年12月分の賞与の請求の当否を検討する必要があり, その際には, まず,労働契約法第12条を指摘して,就業規則の最低基準効に言及することが求められる。その上で,応用的な論点とはなるが,賞与の不支給に対する教職員の同意が賞与債権の放棄として有効か否かを論じてほしいところである。
〔第2問〕本問は,ロックアウト及び労働組合の統制権に関する理解を問うものである。いずれも労働法の基本的な論点であり,使用者の争議権の意義,ロックアウトの正当性の判断基準,労働組合の統制権の根拠及び正当性の判断基準等に関する正確な知識が求められるとともに,これら論点をめぐる判例に関する理解が前提となる。
設問1においては,Y社の就労拒否が正当なロックアウトと評価される場合には,X1らの賃金請求は認められないこととなることから,使用者の争議権の根拠と正当性の判断基準に言及した上で,ロックアウトの正当性の判断基準を論じる必要がある。その際には,丸島水門事件判決(最判昭50年4月25日)等の判例の判断の枠組みを踏まえ,個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度,経過,組合側の争議行為の態様,それによって使用者側の受ける打撃の程度等の判断要素を摘示しつつ,問題文に示された事実を抽出して丁寧な当てはめを行うことが求められる。
設問2においては,まず,労働組合の統制権の根拠に言及した上で,組合員には労働組合の違法な指令に服従する義務がないとの観点から,本件争議行為の正当性を論じる必要がある。
その際には,争議行為の主体,目的,開始時期,手段・態様の相当性等の要素を摘示しつつ,問題文に示された事実を抽出して当てはめを行うことが求められる。そして,仮に,本件争議行為が正当で,Zの行為が統制違反と評価し得るとの結論に至った場合には,更に本件の除名という処分内容が相当と言えるか,統制権の濫用ではないかを論じる必要があろう。
[ 環境法 ]〔第1問〕本問は,水質汚濁防止法の規制システム及びその基本となる考え方に関する理解を問うものである。
〔設問1〕では,同法第12条第1項及び関係規定に関する周到な理解が試される。①排水基準遵守義務の対象行為が「特定施設」からの排水ではなく「特定事業場」からの排水であること(同法第12条第1項,第2条第6項),②「排出口」とは,「排出水を排水する場所」であること(同法第8条第1項),を踏まえて,設問文にある主張に対する反論をすることが期待される。設問文の主張は,特定施設起因ではない排水は規制対象にはならないとするところ,①からはそのように限定的に解せないことを指摘する。また,「パイプの先」のような場所での排水に関して排水基準遵守が義務付けられるとするところ,②からはそのように限定的に解せないことを指摘する。
〔設問2〕では,水質汚濁防止法違反の有罪確定が,ほかの環境法の運用に対してどのような影響を与えるのかを条文に即して説明できるかが試される。〔小問(1)〕では,以下の作業が期待される。【資料】として添付された廃棄物処理法施行令第4条の6第4号に水質汚濁防止法が掲げられていることに着目し,設問文に記された状況が,廃棄物処理法第7条第5項第4号ハの「その他生活環境の保全を目的とする法令で政令で定めるもの……の規定に違反し…
…罰金の刑に処せられ」に該当することを指摘する。本問では,産業廃棄物処理施設許可に対する影響が問われているところ,それを踏まえて,同法第7条第5項第4号ハが,同法第14条第5項第2号イを通じて同法第15条の3第1項第1号に規定される許可取消事由となっていることを指摘する。その上で,許可取消が義務的となっていることから,施設許可が取り消されると指摘する。〔小問(2)〕では,2つの環境個別法の連携措置の制度趣旨に対する理解が問われる。ここでは,社会的にコンプライアンスが強く求められる廃棄物処理法に関して,生活環境保全という目的共通の法令の重大な違反者に廃棄物処理に関する業や施設の許可を与えるのは不適当であるという法政策意図があることを指摘してほしい。
〔設問3〕は,〔設問1〕でも触れられた水質汚濁防止法の排水基準の遵守場所について,これを大気汚染防止法の排出基準の遵守場所と比較することにより,両法における規制の考え方の違いを相対的に理解しているかを問うている。水質汚濁防止法の排水基準は,特定事業場の排水口からの排水を規制する(同法第12条第1項,第8条第1項)のに対して,大気汚染防止法はばい煙発生施設の排出口(開口部) からの排出を規制している (同法第13条第1項,第2条第7項)ことを指摘してほしい。その上で,汚染者支払原則の観点からは事業場主義をとる水質汚濁防止法が望ましいが,大気汚染防止法においては技術的制約から施設主義にならざるを得ないことを説明してほしい。
〔第2問〕〔設問1〕は,環境影響評価法の手続上の瑕疵を理由として,後続する行政決定である許可処分が違法となるかについて,空港予定地の敷地の一部の土地を所有する者が国土交通大臣の許可の取消訴訟においてどのような主張ができるかを問うものである。①評価書に対する免許権者等の意見に対してA県が補正書の中で答えていないこと,②複数案の検討がなされていないことが,同法の手続上の瑕疵になるか,仮になるとして手続上の瑕疵が後続する許可処分を違法とするのはどのような場合かを論じてほしい。①については,環境影響評価法第25条第1項柱書きの「当該事項の修正を必要とすると認めるとき」とは何か,②については,複数案(同法第14条第1項第7号ロ,第21条第2項第1号)の同法における位置付けをどう解するかが問題となる。そして,国土交通大臣が許可をするに当たっては,環境保全に適正な配慮をした審査を行わなければならない(同法第33条第1項)のであり,処分の根拠法により同大臣に付与された裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるかが問題とされる。
〔設問2〕は,環境影響評価法における複数案の検討について,同法の2011年改正及びその後に改正された基本的事項が,改正前と比べてどのような相違があるか,計画段階配慮書の段階で複数案の検討を取り入れた同法等の改正の趣旨はどこにあるかを問うものである。同法上は必ずしも明らかでないが(同法第3条の2第1項の「一又は二以上の当該事業の実施が想定される区域・・・における・・・環境保全のために配慮すべき事項」参照) ,基本的事項では,第一種事業について,複数案を検討しない場合には理由を付することを要するとしていること(資料参照)を指摘してほしい。環境影響評価の核心は複数案(代替案)にあり,計画段階のような早い段階で複数案を検討することによって,合理的な意思決定という環境影響評価の目的に資することに言及してほしい。
〔設問3〕は,生物多様性基本法第25条と2011年環境影響評価法改正との関係,生物多様性基本法第25条と環境基本法の関係を問うものである。
生物多様性基本法第25条は,生物多様性について計画アセスメントないし戦略的環境アセスメントをすることを内容としていること,この規定の存在が環境影響評価法の2011年改正における計画段階配慮書の規定導入の契機となったこと,他方,計画段階配慮書の規定は計画アセスメントにとどまっており,(本格的な)戦略的アセスメントを規定しているとは言いにくいことなどを指摘してほしい。
また,生物多様性基本法第25条は,事業者等が,その事業に関する計画の立案の段階から生物の多様性に及ぼす影響の調査,予測,評価を行うために,国が必要な措置を講ずるものとしており,環境基本法第20条とともに,同法第19条に対応すると解する余地もあると考えられる。
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参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 第1問
1 設問1
⑴ 前提として、乙からXへの特許を受ける権利の譲渡の有効性を検討する。方法1は甲と乙がYの従業員として共同でした職務発明であり、その特許を受ける権利は甲乙の共有であったが、甲乙は職務発明規程に従い双方同意の上でこれをYに譲渡している。したがって乙は方法1の特許を受ける権利を有しておらず、乙からXへの譲渡は無権利者の処分として無効である。仮に乙に持分が残っていたとしても、共有に係る特許を受ける権利の持分の譲渡には他の共有者の同意を要するから(特許法33条3項)、甲の同意を欠く譲渡は無効である。
他方、方法2は、乙がXの従業員としてXでの研究開発に従事して発明したものであるから、その特許を受ける権利はXが有効に承継している。
⑵ 先使用権(79条)
同条は、特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者等に、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において通常実施権を認める。その趣旨は、出願前に発明を完成して事業設備を整えた者の投資を保護し、特許権者との間の公平を図る点にある。
方法1について、Yは、発明者である甲乙から発明完成の報告を受けて本件特許出願前から複数の国内工場で方法1を使用して化合物Cの製造を開始し、以来継続している。甲乙は本件特許出願に係る発明αの内容を知らないで方法1を発明した者であり、Yはこれらの者から知得した者に当たる。乙が後に方法1をXに開示し発明者として届け出られたことは、Yの知得が出願前に適法になされたことを左右しない。よってYは方法1について先使用権を有する。
方法2について、Yが方法2を開発したのは本件特許出願の1か月後であるから、出願の際に方法2の実施又はその準備をしていたとはいえない。そこで、方法1についての先使用権の効力が方法2に及ぶかが問題となる。
判例は、79条の「実施又は準備をしている発明の範囲」とは、先使用権者が出願の際に現に実施又は準備をしていた実施形式に限定されるものではなく、その実施形式に具現されている技術的思想すなわち発明の範囲をいい、出願後に実施形式を変更しても、変更後の実施形式がなお先使用権者の有していた発明と同一性を失わない範囲内であれば先使用権の効力が及ぶとした(最判昭和61年10月3日)。
本件では、方法1は物質Aに物質b1を反応させる方法、方法2は物質Aに物質b2を反応させる方法であり、反応させる物質そのものが異なる。しかも方法2によれば方法1よりも顕著に高い収率で化合物Cを生産できるのであり、この顕著な効果の差は両者の技術的思想が異なることを裏付ける。したがって方法2は方法1に具現された発明と同一性を失わない範囲内にあるとはいえず、先使用権の効力は及ばない。出願時の実施形式に限る立場によれば一層この結論となる。
⑶ 職務発明の法定通常実施権(35条1項)
同項は、従業者等がした職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、使用者等は通常実施権を有するとする。方法1は甲乙がYの従業員としてYの業務範囲に属し職務に属する行為としてした発明であり、Yは使用者等に当たる。
もっとも、本件で特許を受けたのはXであり、Xは方法1の特許を受ける権利を有効に承継していないから、文言上は同項の要件を満たさないようにみえる。しかし、同項の趣旨は、研究開発の費用とリスクを負担した使用者に最低限の実施の利益を保障する点にある。職務発明について第三者が無権利で特許を取得した場合に、かえって使用者が実施できなくなるのは不合理である。また、Yは甲乙から特許を受ける権利自体を譲り受けた「承継した者」である。したがって、同項を適用又は類推適用し、Yは方法1について法定通常実施権を有すると解する。
これに対し方法2は、Yの従業者がYにおいて発明したものではないから職務発明に当たらず、35条1項の実施権は及ばない。発明αが方法1と方法2を包含するとしても、同項の実施権は職務発明である方法1の実施の限度にとどまる。
⑷ 特許無効の抗弁(104条の3)
発明αの特許請求の範囲は「物質Aに物質Bを反応させて化合物Cを生産する方法」であり、物質Bはb1とb2の上位概念であるから、方法1は本件特許発明に含まれる。そして方法1の特許を受ける権利はYに帰属し、Xはこれを承継していないから、本件特許は、その一部についてXが発明者でもなく特許を受ける権利を承継した者でもないままされた出願に対してされたものであり、123条1項6号の無効理由がある。発明αに係る特許を受ける権利がYとXの共有に属すると見れば、38条の共同出願義務に違反するものとして同項2号の無効理由もある。
そして、無効理由の有無は請求項を単位として判断されるのが原則であり、一つの請求項の一部にのみ無効理由がある場合であっても当該請求項に係る特許は全体として無効とされる。したがって、方法2に対する権利行使についても、本件特許は無効審判により無効にされるべきものであり、YはXの権利行使を阻止できる(104条の3第1項)。
なお、Yの方法1の実施は秘密裏に行われていたから、公知又は公然実施を理由とする無効理由は生じない。
⑸ よって、Yは、方法1については先使用権、職務発明の法定通常実施権及び特許無効の抗弁を、方法2については特許無効の抗弁を主張できる。
2 設問2
⑴ まず、方法2に関する先使用権及び法定通常実施権の主張に対しては、前述のとおり、方法2は方法1に具現された技術的思想と同一性を欠くから先使用権の効力が及ばないこと、方法2はYにおける職務発明ではないから35条1項の実施権が及ばないことを再反論すべきである。
⑵ 主たる再反論は、特許無効の抗弁に対する訂正を理由とする対抗主張である。特許権者は、無効理由を解消する訂正審判の請求又は訂正の請求により権利行使を維持し得ることを主張して、104条の3の抗弁に対抗できる。その要件は、①特許権者が適法な訂正の請求をし又はこれをすることが確実であること、②当該訂正が特許請求の範囲の減縮等として適法であること、③訂正により無効理由が解消すること、④訂正後の特許請求の範囲に被告の実施行為が属することである(東京地判平成19年2月27日参照)。
本件では、Xは、特許請求の範囲の「物質B」を「物質b2」に限定する訂正をすることにより、Yに帰属する方法1を特許請求の範囲から除去できる。これは特許請求の範囲の減縮に当たり、明細書には方法2の実施例が記載されているから新規事項の追加にも当たらず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。訂正後の請求項に係る特許を受ける権利は乙の職務発明としてXが有効に承継しているから、無権利者出願及び共同出願違反の無効理由は解消する。そしてYは現に方法2を使用して化合物Cを製造しているから、訂正後の請求項に属する。
よってXは、訂正を理由とする対抗主張により、方法2についての差止請求を維持できる。
⑶ もっとも、Yに方法1について35条1項の法定通常実施権を認める立場からは、訂正審判の請求には通常実施権者の承諾を要するため(127条)、Yの承諾がない限りXは訂正をなし得ず、対抗主張も認められないのではないかが問題となる。
しかし、127条の趣旨は、訂正により実施権の対象となる発明の範囲が縮小・消滅して実施権者が不利益を受けることを防ぐ点にある。本件の減縮訂正は、Yの法定通常実施権の対象である方法1を特許請求の範囲から除外するものであって、Yはその後何らの制約もなく方法1を実施できるようになるのであるから、Yに不利益は生じない。したがって、本件では同条の承諾を要しないと解すべきであり、仮に承諾が必要であるとしても、Yが承諾を拒むことは権利の濫用として許されない。
3 設問3
⑴ 74条1項は、特許が123条1項2号又は6号に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、特許権者に対し当該特許権の移転を請求できるとする。
本件特許には方法1に係る部分について同項6号(又は2号)の無効理由があり、方法1の特許を受ける権利は甲乙から有効に譲り受けたYに帰属する。したがってYは移転請求をすることができる。
もっとも、移転の請求は自己が有すると認める特許を受ける権利の持分に応じてするものとされる(特許法施行規則40条の2)。Yは、方法2に係る特許を受ける権利を有しない。Yが出願後に独自に方法2を開発したことも、本件特許出願より後の事情であるから権利の取得をもたらさない。本件特許発明は方法1と方法2を包含する一つの発明であり、Yが権利を有するのはそのうち方法1に係る部分に限られる。
したがって、Yの請求は本件特許権全部の移転請求ではなく、共有持分の移転請求にとどまると解すべきである。移転の登録があったときは、当該特許権は初めからYに帰属していたものとみなされ(74条2項)、本件特許権はXとYの共有となる。
⑵ 次に、移転請求が認められた場合に、YがXに対し方法1の使用の差止めを請求できるかを検討する。
特許権が共有に係るときは、各共有者は契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる(73条2項)。Xは共有者であるから、Yの同意なく本件特許発明を実施でき、方法1の使用も本件特許発明の実施に当たる。したがって、Xの実施は適法であり、Yの差止請求は認められないことになる。
なお、79条の2は、74条1項の移転の登録前に、特許が123条1項2号又は6号に該当することを知らないで日本国内において当該発明の実施である事業をしている者等に通常実施権を認めるが、Xは乙の届出を受けて自ら無権利で出願した者であり、無効理由の存在を知らなかったとはいえないから、同条の通常実施権は認められない。もっとも、73条2項により実施が適法となる以上、同条を論ずる必要はない。
⑶ しかし、この結論は妥当でない。Yは本来方法1について特許を受ける権利を単独で有していたのに、Xの無権利出願によって共有持分の取得にとどまり、かえって自己の職務発明である方法1をXに自由に実施させる結果となる。これはXの違法行為を利するものであって、74条が真の権利者の救済を図った趣旨に反する。
そこで、共有関係がXの無権利出願という違法行為によって生じた本件のような場合には、73条2項の適用を信義則により制限し、又はXの実施権の主張を権利濫用(民法1条2項、3項)として排斥すべきである。この解釈によれば、Yは方法1の使用の差止めを請求できる。少なくとも、YはXに対し、Xが方法1を実施して得た利益について不当利得の返還又は不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。
第2 第2問
1 設問1
⑴ Aがすべき主張。翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつその表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為である(最判平成13年6月28日)。
本件漫画は、Aの承諾を得て本件小説を原作として執筆されたものであり、登場人物の特徴についても本件小説に言語で描かれている特徴を踏まえて描かれている。したがって、本件漫画に接する者は本件小説の表現上の本質的特徴を直接感得でき、本件漫画は本件小説の二次的著作物(2条1項11号)である。
そして本件アニメは、本件漫画の登場人物の作画を忠実にアニメ化したものであるから、本件漫画の表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ新たな創作的表現を加えたものであり、本件漫画の二次的著作物である。
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する(28条)。本件アニメは映画の著作物(2条3項)であり、CがDVDを製造する行為は複製(21条)、販売する行為は頒布(26条1項)に当たる。
よってAは、28条により本件アニメの利用についてBが有するのと同一の複製権及び頒布権を有し、自己の承諾を得ないCの行為はこれを侵害するとして、112条1項に基づき差止めを請求すべきである。
⑵ Cの反論。第一に、本件アニメの物語の展開は本件小説には全く描かれていない独自の内容であるから、本件アニメに接する者は本件小説の表現上の本質的特徴を直接感得できず、本件アニメは本件小説の二次的著作物ではない、との主張が考えられる。第二に、本件アニメが依拠したのは、本件漫画のうちBが自ら考え出した登場人物の容姿や甲冑・衣装の作画であって、これはB独自の創作部分であり本件小説に由来しないから、Aの権利は及ばないとの主張が考えられる。第三に、本件小説の武将αのキャラクター自体に著作物性はないとの主張が考えられる。
⑶ 妥当性。判例は、二次的著作物の著作権は二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同一にする部分には生じないとしつつ、原著作物の著作者は二次的著作物の利用に関し二次的著作物の著作者が有するものと同一の権利を有するから、原著作物の著作者の権利は二次的著作物の著作者が独自に創作した部分の利用にも及ぶとした(最判平成13年10月25日)。
28条が「当該二次的著作物の利用に関し」原著作者に権利を認めている以上、二次的著作物は全体として一体のものとして把握すべきであり、そのいずれの部分の利用についても原著作者の権利が及ぶ。二次的著作物は原著作物の存在を前提として創作されたものであって、原著作者の許諾なしにその自由な利用を認めれば、翻案を許諾した原著作者の正当な利益が害されるからである。
本件では、本件漫画は本件小説の二次的著作物であり、本件アニメはその本件漫画を利用するものである。したがって、本件アニメがBの独自の作画部分を用いたものであり、物語の展開が本件小説と異なるとしても、本件漫画の利用に当たる以上、Aの28条の権利が及ぶ。しかも本件漫画の登場人物の容姿は本件小説の言語的描写を踏まえて創作されたものであって、本件小説との関係が断たれているわけでもない。Cの第一・第二の反論は採用できない。
他方、Cの第三の反論は正当である。判例は、具体的な漫画を離れて登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできないとしている(最判平成9年7月17日)。キャラクターは登場人物の人物像という抽象的概念であって具体的表現ではないから、著作物性を認め得ない。したがってAがキャラクター自体の著作物性を根拠とする主張は認められない。
以上より、Aは28条に基づき本件アニメのDVDの製造・販売の差止めを求めることができる。
2 設問2
⑴ Bがすべき主張。本件漫画の原画はBの美術の著作物である。Dが本件パンフレットに原画1枚を掲載し、本件チケットに原画の1コマを印刷する行為は複製(21条)に当たり、これらを販売する行為は譲渡権(26条の2第1項)の対象となる。Bは、無断の複製及び譲渡として、112条1項に基づき販売の差止めを請求すべきである。
⑵ Dの反論。まず、美術の著作物の原作品の所有者又はその同意を得た者は、これを原作品により公に展示することができる(45条1項)。本件イベントにおける原画の展示は所有者の承諾を得たものであるから適法である。そして47条は、45条1項により美術の著作物を原作品により公に展示する者は、観覧者のためにその著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子に当該著作物を掲載することができると定め、これにより作成された複製物の譲渡も認められる。本件パンフレットは観覧者向けに解説を付したものであるから「小冊子」に当たる、との反論が考えられる。
これに対しBは次のように再反論すべきである。47条の趣旨は、展示される著作物の解説・紹介という限度で観覧者の便宜を図ることにあり、それ自体鑑賞の対象となる独立の価値を有する複製物の作成を許すものではない。そこで「小冊子」とは、著作物の解説・紹介が主たる内容をなし、掲載される複製の大きさ・画質がそれ自体鑑賞の対象となり得ない程度のものに限られると解すべきである。裁判例も、観賞用の書籍として市販されるものと同様の実質を有する図録はこれに当たらないとしている。
本件パンフレットは、A5版30頁のうち、武将αの原画が1頁の約3分の2の大きさで掲載され、付された解説は「簡単な」ものにすぎない。1頁の3分の2という大きさは原画の鑑賞に十分堪えるものであり、解説が簡単なものにとどまることからすれば、解説・紹介が主体であるとはいえず、実質は原画の鑑賞に供するための複製物である。したがって「小冊子」に当たらず、47条の適用はない。
⑶ 次にDは、公表された著作物の引用(32条1項)を反論することが考えられる。判例は、引用に当たるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があることを要するとした(最判昭和55年3月28日)。
本件パンフレットについては、簡単な解説に比して原画が1頁の3分の2という大きな割合を占めており、解説が主、原画が従の関係にあるとはいえない。原画の鑑賞的利用は引用の目的上正当な範囲を超え、公正な慣行にも合致しない。よって32条1項の適用はない。
本件チケットについては、Bの再反論として、引用する側の作品自体に著作物性がない場合には32条1項の適用がないとの主張が考えられる。同項が「引用して利用することができる」と定めるのは新たな著作物の創作のための既存著作物の利用を認める趣旨であるとして著作物性を要求する裁判例がある一方、同項の文言は引用する側の著作物性を要件としておらず、著作物の公正な利用を広く認める趣旨から著作物性を不要とする裁判例もある。本件チケットは、原画の1コマを除けばイベントの名称と日時場所が記載されているにすぎず、著作物性を認め難いから、前者の立場によれば直ちに32条1項の適用は否定される。
後者の立場によっても、本件チケットへの原画の印刷は、著作物の解説・紹介や批評・研究等の目的に向けられたものではなく、専らチケットの商品価値を高めて購入者を誘引するための利用であって、主従関係も認められず、公正な慣行に合致せず引用の目的上正当な範囲内ともいえない。よっていずれの立場によっても32条1項の適用はない。
以上より、Bは本件パンフレット及び本件チケットのいずれについても販売の差止めを求めることができる。
3 設問3
⑴ Eがすべき主張。本件フィギュアは、本件漫画に描かれた武将αを基礎としつつ、造形師が想像力を駆使して、本件漫画では十分に描かれていない前後左右から見た容姿及び甲冑の立体的形状や色彩、金属としての光沢を造形したものであり、新たな創作的表現が付与されている。したがって本件漫画の二次的著作物(2条1項11号)であり、Eの従業員である造形師がその職務上作成したものであるから、Eが著作者となる(15条1項)。
Fが本件フィギュアを細部まで模倣して小型化した人形を製造する行為は複製又は翻案(21条、27条)に当たり、消費者に提供する行為は譲渡(26条の2第1項)に当たる。よってEは112条1項に基づき差止めを請求すべきである。
⑵ Fの反論。本件フィギュアは、手足の関節が屈折し甲冑の着せ替えができる高さ8センチメートルほどの、大量に販売されるおもちゃの人形であって実用品である。著作権法は美術の著作物に美術工芸品を含むとするが(2条2項)、これは一品製作的な美術工芸品を指すものであり、量産される実用品の形態は意匠法による保護に委ねられるべきであって著作物性を有しない、との反論が考えられる。
⑶ 妥当性。応用美術について、著作権法は美術工芸品を美術の著作物に含める旨を定めるにとどまる。意匠法が登録要件及び短い存続期間の下で工業的物品の形態を保護していることとの調整上、量産される実用品の形態を無方式・長期の著作権により保護することは相当でない。もっとも、実用目的を離れて、それ自体が独立して美的鑑賞の対象となり得る美的創作性を備えている場合には、純粋美術と同視でき、美術の著作物として保護されると解する。裁判例も同様の基準により量産されるフィギュアの著作物性を判断している。
本件では、本件フィギュアは玩具としての実用的機能を有するものの、その模型原型は、造形師が想像力を駆使して武将αの全体像を造形したものであり、立体的形状や色彩、金属としての光沢がまるで本物のような質感で表現され、小さいながらも極めて精細かつ色鮮やかで躍動感にあふれる形態となっている。これは玩具という実用目的に由来する制約を超え、それ自体独立して美的鑑賞の対象となり得る美的創作性を備えたものである。よって美術の著作物として著作物性を認めるべきであり、EはFに対し差止めを請求できる。
⑷ Bがすべき主張。本件フィギュアは本件漫画の二次的著作物であるから、Bは原著作物の著作者として、その利用に関しEが有するものと同一の複製権及び譲渡権を専有する(28条)。Fの行為は本件フィギュアの利用に当たるから、Bも28条に基づき差止めを請求できる。
また、本件フィギュアの著作物性が否定される場合には、Bは、Fの人形が本件漫画に描かれた武将αの表現上の本質的特徴を直接感得させるものであるとして、直接に本件漫画の複製権・翻案権及び譲渡権の侵害を主張すべきである。Fが現に模倣したのは本件フィギュアであるが、本件フィギュアは武将αの表現を再現したものであり、Fの人形はこれを細部まで模倣するものであるから、本件漫画に依拠して作成されたものと評価でき、依拠性も認められる。
これに対しFは、本件フィギュアが応用美術として著作物でないならば、立体化された武将αの形態は著作権法上保護されない表現であり、これを模倣しても本件漫画の著作権侵害とならないと反論しよう。しかし、本件フィギュアの著作物性が否定される理由は、それが量産される実用品であるという点に由来するにすぎず、そこに再現された本件漫画の武将αの表現上の本質的特徴が保護を失うわけではない。したがってBの主張は認められる。
以上