司法試験 平成24年 知的財産法
問題文
[知的財産法]〔第1問〕(配点:50)
Aは,充電式でない電池(以下「使い捨て電池」という。)を充電する方法の発明(以下「本件発明」という。)について特許権を有している。本件発明によると,電圧が低下した使い捨て電池を充電して繰り返し使用することができる。
メーカーBは,新型の充電器(以下「B製品」という。)を開発した。B製品は,充電式の電池を充電する機能のほかに,電圧が低下した使い捨て電池を本件発明と同一の方法で充電する機能を有しており,ユーザーは充電したい電池の種類に応じて充電機能を選択することができるように設計されている。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。
〔設 問〕1.Bは,日本国内市場及び外国市場を指向して,各国仕様ごとに生産工程を分けてB製品を製造し,国内仕様のB製品を国内で販売し,外国仕様のB製品を外国に輸出している。AはBに対し,本件発明の特許権に基づいてB製品の製造,販売及び輸出の各行為につき差止請求をすることができるか。 なお, B製品は, 家庭内での使用を予定した装置であるものとする。 また,Aは,外国において特許権を有していないものとする。
2.Cは,ソフトウェアメーカーであるが,Bからの発注を受けて,B製品に搭載する部品である半導体チップ(以下「C部品」という。)を製造してBに譲渡している。C部品には,本件発明と同一の充電方法をB製品で機能させるプログラムが記録されている。そこでAはCに対し,BがC部品を搭載して製造するB製品は,Aの本件発明の特許権を侵害していると通知した。AはCに対し,どのような請求をすることができるか。
3.AはBに対し,家庭内で使用される製品に限る条件で,本件発明による充電機能を有するB製品の製造・販売行為を許諾したが,事業者向けの充電器の製造・販売行為は許諾しなかった。
そこで,Bは,B製品に「家庭内使用に限る」と明記して販売した。ところが,日本国内の事業者Dは,市場において購入したB製品を自らの事業目的で使用し,電圧が低下した使い捨て電池を充電している。AはDに対し,本件発明の特許権に基づいてB製品の使用行為につき差止請求をすることができるか。
〔第2問〕(配点:50)
音楽家であるA及びBは,共同で楽曲αを創作し,楽曲αについての著作権を共有している。平成20年7月に,レコード会社Cは,A及びBとの間で,期間を3年とする楽曲αの日本国における利用許諾契約を結び,その後,同契約に基づいて,楽曲αの演奏を録音したレコード(以下「Cレコード」という。)の製造販売を開始した。また,A及びBは,X国のレコード会社Dに対して,X国における楽曲αについての著作権を譲渡した。レコード会社Dは,X国において,楽曲αの演奏を録音したレコード(以下「Dレコード」という。)を製造し販売している。映画会社Eは,レコード会社Dから利用許諾を得て,X国において,楽曲αをエンディング・テーマとした劇場用映画(以下「E映画」という。)を製作し,映画館等において上映した後,E映画のDVDを製造し販売している。
平成23年5月に,AとCは,上記利用許諾契約を更新しようと考えていたが,Bは,Aとの人間関係のもつれからAを困らせたいと思い,この更新を拒絶した。そのため,Cは,Cレコードの製造を中止し,同年7月までに,その製造したCレコードを全て販売した。しかしながら,Cは,Aからの強い要望を受けて,同年9月に,Bの許諾を得ないまま,Cレコードの製造販売を再開した。レコード店を経営するFは,平成24年2月から,Bの許諾がないという事情を知らずに,CからCレコードを購入していたところ,同年4月に当該事情を知り,その後はCレコードを新たに購入することはやめたが,現在,それ以前に購入したCレコードを消費者に販売している。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。
〔設 問〕1.Bは,Cに対してCレコードの製造販売の差止請求をする場合,どのような主張をすべきかについて,Cの反論を想定しつつ,述べよ。
2.Bは,Fに対してCレコードの販売の差止請求をする場合,どのような主張をすべきかについて,Fの反論を想定しつつ,述べよ。
3.Gは,X国においてDレコードを購入し,これを日本に輸入し販売している。Aは,Gに対して,Dレコードの輸入及び販売の各行為につき差止請求をすることができるか。
4.Hは,X国においてE映画のDVDを購入し,これを日本に輸入し販売している。Aは,Hに対して,E映画のDVDの輸入及び販売の各行為につき差止請求をすることができるか。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
知的財産法〔第1問〕設問1及び2は,方法の発明についての特許権を題材として間接侵害に関する問題点の理解を問うものであり,設問3は,方法の発明を実施できる装置が適法に市場に流通した場合において,方法の発明についての特許権の消尽の有無ないし黙示の許諾の成否,及び制限の可否についての考え方を問うものである。
設問1は,方法の発明を実施する機能を有する装置に対する特許法第101条第4号と第5号の適用の可否を問うものであり,間接侵害規定の基本的な理解と,各要件への丁寧な当てはめが求められる。
本問では,まず,特許方法による充電機能以外に通常の充電機能を有する装置が問題となっていることから,同条第4号の「のみ」要件をどのように解釈し,適用するかを論じる必要がある。この点については,「のみ」要件について厳格な解釈を行う立場(例えば,東京地判昭和56年2月25日無体集13巻1号139頁,判時1007号72頁【交換レンズ】 )と柔軟な解釈を行う立場(例えば,大阪地判平成12年10月24日判タ1081号241頁
【製パン方法】)があるが,「のみ」要件該当性を否定した場合はもとより,肯定した場合であっても,更に同条第5号の適用を検討することが望ましい。同号の適用に当たっては,各要件についての解釈を簡潔に示しつつ,事案への丁寧な当てはめが求められる。
また,問題の装置は家庭内で使用する装置であって,当該発明は家庭内での実施が予定されている。さらに,一部は外国市場を指向した仕様で製造されているので,外国での実施が予定されている。これらの点に関し,B製品の製造・販売行為について,直接侵害が成立しない場合の間接侵害の成否を論じる必要がある。いずれの説でもよいが,従属説や独立説による場合にはその理由を説得的に論じる必要があり,通説とされる折衷説による場合には,直接侵害が否定される趣旨を踏まえた論述が求められる。
設問2は,方法の発明の間接侵害品の生産に用いる物に対して間接侵害規定を適用して差止請求をなし得るか否かという点について問うものである。同条第4号については間接の間接侵害の成立を否定した裁判例が存在するが(知財高判平成17年9月30日判時1904号47頁【ワープロソフト】),この裁判例のように間接侵害規定を制限的に解釈すべきか否かについての見解を示し,これに沿った論述が求められる。
また,問いは「どのような請求をすることができるか」であるから,差止請求の可否とは別に,間接侵害者に間接侵害品の生産に用いる物を供給する行為について共同不法行為を理由とする損害賠償請求権が成立し得るか否か,及び成立するとした場合の損害賠償の範囲を検討することが望ましい。
設問3は,方法の発明を実施する機能を有する装置の製造・販売を許諾された者が適法に装置を市場に流通させた場合において,当該装置を購入した者が方法の発明を実施することの可否と,当該結論を導く理論的根拠の検討,及び装置の製造・販売の許諾に付された用途の制約が,当該装置を購入したDの実施の可否にどのような影響を与えるかについての考え方を問うものである。
物の発明と異なり,実施品の流通が観念できない方法の発明に対して消尽論を適用できるかを議論の出発点として見解を示し,適用を許容する場合にはいかなる要件を要するかについて論述する必要がある。ちなみに知財高判平成18年1月31日判時1922号30頁【インクタンク】においては,特許発明に係る方法の使用にのみ用いる物,又はその方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものを譲渡した場合には譲受人がその方法を使用する行為に差止請求権等を行使することは許されないことが述べられている。
権利行使を制限する見解を採用する場合,その理由付けとしては消尽論や黙示の許諾といったものが考えられようが,その上で,特許権者が用途制限を定めることの効果について,当該理由付けとの関係を考えることが必要となる。特に,取引の安全を重視して消尽論を採用した場合,特許権者が権利行使の範囲を任意に定め得るような例外を認めてよいかについては,慎重な考慮が求められよう。
〔第2問〕設問1は,著作権が共有に係る場合において,共有者全員の合意を得ずにレコードを製造販売する行為を問題とするものであり,設問2は,当該レコードを購入した者がこれを再販売する行為を問題とするものである。設問3及び設問4は,いわゆる国際消尽に関する問題の理解を問うものであり,設問3では,外国において製造販売されたレコードを日本国内に輸入し販売する行為が譲渡権を侵害するか否かなどが問題となり,設問4では,外国において製造販売された映画のDVDを日本国内に輸入し販売する行為が頒布権を侵害するか否かなどが問題となる。
設問1については,著作権が共有に係る場合において,著作権法は,共有に係る著作権の行使はその共有者全員の合意によらなければならないが,各共有者は,正当な理由がない限り,合意の成立を妨げてはならないと規定している(同法第65条第2項,第3項) 。そのため,BとCの間では,更新拒絶をしたBに正当な理由があったかどうか,また,正当な理由がなかったとした場合,それによってCの著作権侵害が否定されることになるのか,あるいはBがAに対して合意を成立させる義務を負うにとどまるのかが問題となると考えられる。Bがなすべき主張としては,これらの点について差止請求が認められるように説得的に論じることが必要となる。
設問2については,BとFとの間では,設問1で取り上げられる問題のほか,FがCレコード購入時に,Bの許諾がないという事情を知らなかったことから,善意者に係る譲渡権の特例を定める同法第113条の2が適用されるかどうか,また,同条と同法第113条第1項第2号との関係,すなわち,前者が適用されて譲渡権侵害が否定されても,なお,頒布時の知情を要件とする後者の適用により著作権侵害が成立するかどうかが問題となると考えられる。Bがなすべき主張としては,これらの点について差止請求が認められるように説得的に論じることが必要となる。
設問3については,Dレコードの輸入が同法第113条第1項第1号の適用により侵害となるかどうか,また,Dレコードの国内での販売が譲渡権(同法第26条の2第1項)の侵害となるかどうかを,DレコードがX国において同国の著作権者によって製造販売されたものであるという事情を踏まえて,特に譲渡権の国際消尽を定める同法第26条の2第2項第5号について論じることが求められる。なお,同号が外国で譲渡権に相当する権利を有する者が日本の譲渡権者と同一人であることを要件としていないことにも言及することが望ましい。
設問4については,E映画のDVDの輸入が同法第113条第1項第1号の適用により侵害となるかどうか,また,E映画のDVDの国内での販売が頒布権(同法第26条第2項)の侵害となるかどうかを,楽曲αがX国において同国の著作権者の許諾の下にE映画のDVDに複製されたという事情を踏まえて,論述することが求められる。楽曲αは,映画の著作物に複製されているから,譲渡権ではなく,頒布権の侵害が問題となることに注意しなければならない。
そして,頒布権については,消尽に関する規定は定められていないため,国際消尽を認めるにせよ認めないにせよ,特許権に関して国際消尽に言及した判例(最判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁【BBS】)及び家庭用ビデオゲームソフトにつき頒布権のうち譲渡に関する権利の国内消尽を認めた判例(最判平成14年4月25日民集56巻4号808頁【中古ビデオゲーム】)等を念頭に置きつつ,説得的な論拠を提示しなければならない。
[ 労働法 ]〔第1問〕本問は,年次有給休暇及び育児休業に関する理解を問うものである。労働法における基本的な論点ではあるものの,関係条文・判例に対する知識を前提とし,これらを正確に示した上で自らの考えを述べ,問題文に示された具体的事実を摘示しつつ丁寧に当てはめを行うことが求められる。
まず,本問の事例では,Y社の時季変更権行使の有効性を検討した上で,Y社がXに対して行った懲戒処分及び10日相当分の賃金控除の各措置の当否を論ずる必要がある。具体的には,労働基準法第39条第5項の文言に即し,年次有給休暇権の法的性質及び時季指定権と時季変更権の関係を論じた上で,同項ただし書の「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否かを検討する必要がある。その際には,判例による判断の枠組みを踏まえ,例えば,代替勤務者確保の難易,事前の調整の有無,状況に応じた配慮の有無等に関する具体的な要件を摘示しつつ,問題文に示された事実を抽出して当てはめを行い,Y社の時季変更権行使の有効性を論じることが求められる。
次に,賞与全額不支給の措置の当否を論じる必要がある。具体的には,①賞与支給条件としての育児休業の欠勤扱いの当否(いわゆる90%条項の相当性),②賞与額算定における育児休業の欠勤扱いの当否,更には,③賞与額算定における年次有給休暇の欠勤扱いの当否を順次検討することが求められる。その際には,関係条文(育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第10条,労働基準法附則第136条)について,その私法上の効力を意識しつつ検討するとともに,判例による判断の枠組みを踏まえて,具体的な事実関係に即して本件措置の当否を論じることが求められる。
最後に,以上の検討結果から,Y社がXに対して賞与を支給すべきであるとの結論に至った場合には,論理的道筋を示して根拠を明らかにしながら,賞与額の算定において欠勤日数を何日として計算すべきかを説明する必要がある。
〔第2問〕本問は,組合活動及び団体交渉を素材として,労働組合の正当な行為の範囲及び団体交渉権の範囲等に対する理解並びに組合活動に対する使用者の対応に関する理解を問うものである。
いずれも労働法の基本的な論点であり,不当労働行為の成立要件及びその救済方法に関する正確な知識が求められるとともに,これら論点をめぐる判例に関する理解が前提となる。
設問1においては,まず,就業規則で禁止されているビラ配布を理由とするBの降格人事が不利益取扱いないし支配介入に該当するかについて,ビラ配布の組合活動としての正当性を中心に,ビラの内容や配布の態様等に着目して具体的に論ずる必要がある。次に,Y社の対応が団体交渉拒否に該当するかについて,Y社による資料提出や説明等で誠実交渉義務を履行しているといえるのか,また,降格人事の撤回及びベース・アップ要求が義務的団交事項に含まれるかを分けて検討する必要がある。
さらに,Y社の総務部長CがX組合員の脱退を勧奨した点及びビラを回収し破棄した点が支配介入に該当するかについて,降格人事の理由とされたビラ配布との異同を意識しつつ,ビラ配布の組合活動としての正当性に言及した上で,Cの行為のY社への帰責性等を論ずる必要がある。
いずれの論点についても,判例による判断の枠組みを踏まえ,具体的な規範を定立した上で,問題文に示された事実を抽出して丁寧な当てはめを行うことが求められる。また,設問が求めている「X組合として採り得る法的措置」については,抽象的な論述にとどまらず,労働委員会によるポスト・ノーティスや,裁判所による団体交渉を求める法的地位の確認等の具体的救済内容に踏み込んで論述することが望ましい。
設問2においては,使用者の採り得る法的措置を論ずる必要があるが,具体的には,営業権や信用毀損等に基づく情宣活動の差止め請求や不法行為に基づく損害賠償請求等が考えられることを示した上で,本問の社前集会について,その目的,態様等に関する具体的事実を問題文から抽出して,組合活動としての正当性を論じることが求められる。
[ 環境法 ]〔第1問〕〔設問1〕 は, 公害防止協定の法的性質及びその限界に関する基本的理解を問う問題である。
協定に関しては,伝統的に,紳士協定説と契約説があるが,現在では,個別条項ごとにその性質を検討すべきとされていることを指摘した上で,B町の反論としては,設問中にある規定等の表現振りから,それが法的拘束力を有するとの論述を展開することが期待される。また,協定には比例原則などの法の一般原則に反せないという限界があるところ,2割程度の厳格化がその範囲内といえるかどうかという点も指摘してほしい。さらに,大気汚染に関する行政的対応は大気汚染防止法に基づくA県の権限のみにより可能という主張に対して,公序良俗に違反しない任意の合意である限りはそうした制約は適用されないと反論することが考えられる。
〔設問2〕は,資料に掲げてある大気汚染防止法の1968年法と1970年改正法の関係条文から,排出基準違反に対して導入された「新たな法政策」が直罰制(大気汚染防止法第33条の2第1項第1号)であることを把握した上で,導入の必要性が理解されているかを問う問題である。通常,指摘される1968年法の問題点としては,命令前置制であるがゆえに,命令がされない限りは刑罰を科すことができないために迅速な違反是正が期待できないことが挙げられる。
〔設問3〕は,大気汚染防止法の2010年改正の一つの柱である,測定データの改ざん対策及びその背景事情についての理解を問う問題である。
小問(1)については,資料から,企業の自主管理に対して全幅の信頼がされていたことを読み取るとともに,排出基準の違反が直罰制になっているものの特定施設の排出口における基準遵守を捜査機関が的確に把握することができないために現実には刑罰の適用が困難になっていたことを指摘してほしい。
小問(2)については,C社は,第1に,2011年4月以降については,記録義務(大気汚染防止法第16条)違反により,両罰規定として,30万円以下の罰金が科されること(同法第35条第3号,第36条)を指摘できる。第2に,2007年4月以降2012年3月までの間の排出基準遵守義務(同法第13条第1項)違反に対して,両罰規定として,50万円以下の罰金が科されること(同法第33条の2第1項第1号,第36条)を指摘できる。
〔第2問〕〔設問1〕の小問(1)は,Xが訴訟を提起する場合の訴訟物を問うものである。A県知事の違法な処分又はA県の違法な埋立工事によるA県に対する国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求などが考えられる。
小問(2)については,Xが損害賠償を請求する場合の要件を検討し,具体的事実に当てはめて,Xの主張を構成することが求められている。また,Xにとって不利な点をも検討し,被告の予想される反論として指摘してほしい。
本問では,被侵害利益は何か,A県知事の処分又はA県の埋立工事が違法な侵害行為といえるか等を,主な論点として検討することが期待される。
被侵害利益としては,景観利益などが考えられる。例えば,景観利益については,最判平成18年3月30日民集60巻3号948頁(国立景観訴訟)を踏まえて,その性質・内容,法律上保護される利益といえるかどうかを検討し,Xが当該利益を有するかを,X及び被告の観点で論じることができよう。学説上論じられている景観権,環境権を被侵害利益として記述する場合にも,上記の最高裁判決との関係に触れることが期待される。
また,景観利益を被侵害利益とする場合,上記最高裁判決を参考に,当該利益が違法に侵害されたかどうかを検討することができる。本問においては,公有水面埋立法第4条第1項第2号,第3号,瀬戸内海環境保全特別措置法第13条第1項,同法第3条第1項に基づく「瀬戸内海環境保全に関するA県計画」に照らして,本問における処分又は埋立工事が,行政法規に違反する処分といえるかどうか,代替案を採用しなかったことをどのように評価するかなどを踏まえて,違法性をX及び被告の観点で論じてほしい。
〔設問2〕の小問(1)は,Xが訴訟を提起する場合の訴訟物を問うものである。道路の設置管理の瑕疵によるA県に対する国家賠償法第2条第1項に基づく損害賠償請求などが考えられる。
小問(2)では,被侵害利益は何か,道路の設置管理に瑕疵があるといえるか(自動車騒音が受忍限度を超えるといえるか) 等を, 主な論点として検討することが期待される。 ここでも,Xの主張を構成するのみならず,Xにとって不利な点をも検討し,被告の予想される反論として指摘してほしい。
被侵害利益としては,人格権などが考えられる。
また,自動車騒音が受忍限度を超えるといえるかについては,最判平成7年7月7日民集49巻7号1870頁(国道43号線訴訟)を踏まえて,判断基準(判断要素)を指摘し,本問の具体的事実に当てはめることが望まれる。その際,環境基準を超える騒音が受忍限度を超えるといえるかどうか (環境基準と受忍限度との関係), 道路の公共性, 受益と被害の彼此相補関係の有無,被害防止措置の有無などについて,検討してほしい。
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参考答案AI生成(出題の趣旨と論証集をもとに作成した目安です)
第1 第1問
1 設問1
⑴ 本件発明は使い捨て電池を充電する方法の発明であり、その実施とは「その方法の使用」をいう(特許法2条3項2号)。Bは、B製品を製造し、販売し、輸出しているが、これらは物の発明についての実施態様であって、方法の発明の実施には当たらない。したがって、Bの各行為は直接侵害を構成しない。
そこで、間接侵害(101条4号、5号)の成否を検討する。
⑵ まず101条4号は、特許が方法の発明についてされている場合において、業としてその方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等をする行為を侵害とみなす。
「のみ」要件の趣旨は、他の用途を有する物の供給を侵害とすると、特許権の効力が本来及ばない範囲に及び、第三者の経済活動を不当に制約することになるため、侵害を幇助する蓋然性が極めて高い物に限って規制する点にある。そこで、他の用途とは、単に抽象的・実験的な使用の可能性では足りず、社会通念上、経済的・商業的・実用的な用途として認められるものをいうと解する。
本件では、B製品は、本件発明と同一の方法で使い捨て電池を充電する機能のほかに、充電式の電池を充電する機能を有し、ユーザーは充電したい電池の種類に応じて充電機能を選択できるように設計されている。充電式電池の充電は充電器の本来的用途であって、経済的・商業的・実用的な用途にほかならない。したがって「のみ」要件を欠き、4号による間接侵害は成立しない。
⑶ 次に101条5号は、方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く)であってその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業としてその生産、譲渡等をする行為を侵害とみなす。
B製品は、本件発明と同一の方法で使い捨て電池を充電する機能を有するから「その方法の使用に用いる物」に当たる。B製品はBが開発した新型充電器であり、汎用品として市場に広く存在する物ではないから、「広く一般に流通しているもの」には当たらない。そして、電圧が低下した使い捨て電池を充電して繰り返し使用することを可能にするという本件発明の課題解決は、B製品に搭載された当該充電機能によって初めて実現されるから、B製品は課題の解決に不可欠なものである。また、Bは自ら当該機能を搭載して開発しているから、主観的要件も満たす。
⑷ もっとも、B製品の購入者による実施は、国内仕様については家庭内での使用であり「業として」(68条)の実施でないため直接侵害とならず、外国仕様については外国での実施であるため属地主義により日本の特許権の効力が及ばない。そこで、直接侵害が成立しない場合に間接侵害が成立するかが問題となる。
間接侵害規定は、侵害の予備的・幇助的行為のうち侵害に至る蓋然性の高いものを捕捉して特許権の実効的保護を図る趣旨の規定である。そうすると、直接侵害の現実の成立は不要であるが、直接侵害が否定される理由が特許権者に保護を与えない趣旨に基づく場合には、間接侵害も否定すべきである(折衷説)。
まず国内仕様については、68条が実施を「業として」の場合に限る趣旨は、個人的・家庭的な実施にまで特許権の効力を及ぼすことは産業政策上不要であり、かつ権利行使が実際上困難であることにある。もともと家庭内での使用が予定された発明について、家庭内使用向け装置の業としての製造販売を放置すれば特許権者は何らの保護も受けられず、発明の保護を図る特許法の趣旨が没却される。したがって、家庭内使用を理由に直接侵害が否定されても、間接侵害の成立を認めるべきである。
これに対し外国仕様については、Aは外国において特許権を有しておらず、日本の特許権の効力を外国での実施に及ぼすことは属地主義に反する。Bは各国仕様ごとに生産工程を分けており、外国仕様のB製品が日本国内で方法の使用に供されることは予定されていない。そうすると、外国仕様のB製品の生産及び輸出は、日本国内における直接侵害を招くおそれのある行為ではなく、間接侵害規定の趣旨が及ばない。
⑸ よって、Aは、国内仕様のB製品の製造及び販売については101条5号に基づき差止請求(100条1項)をすることができるが、外国仕様のB製品の製造及び輸出については差止請求をすることができない。
2 設問2
⑴ Cは本件発明の方法を使用していないから直接侵害は成立しない。また、C部品はB製品の部品であり、B製品自体が間接侵害品であるから、いわゆる間接の間接侵害の成否が問題となる。
101条4号及び5号の「その方法の使用に用いる物」は、文字どおりには当該方法の使用に直接供される物を指すから、その物の生産に用いられる物はこれに当たらないとして、間接の間接侵害を否定した裁判例がある(知財高判平成17年9月30日)。間接侵害は本来侵害でない行為を政策的に侵害とみなす規定であるから、その範囲を無限定に拡張することは法的安定性を害し、相当でない。
もっとも、C部品には、本件発明と同一の充電方法をB製品で機能させるプログラムが記録されており、C部品をB製品に搭載すればそれだけで本件発明の方法の使用が可能となる。すなわちC部品は、本件発明の方法を実現する機能そのものを担う物であって、B製品への組付けという機械的工程を経るのみで直接に方法の使用に供されるものである。このような物は、実質的に見て「その方法の使用に用いる物」に当たると解すべきである。これを否定すれば、機能の中核を部品に外出しすることで容易に間接侵害規定の適用を免れることになり、同規定の趣旨を損なう。
⑵ そこで101条5号の要件を検討する。C部品はBの発注を受けて製造される専用の半導体チップであり、広く一般に流通しているものではない。使い捨て電池の充電を可能にする本件発明の課題解決は当該プログラムによって実現されるから、課題の解決に不可欠なものである。主観的要件については、AがCに対しB製品が本件特許権を侵害している旨を通知しているから、少なくとも通知を受けた後は、Cは本件発明が特許発明であること及びC部品がその実施に用いられることを知っていたといえる。
よって、Aは、通知後のC部品の製造・譲渡について、101条5号に基づき差止請求(100条1項)及びC部品の廃棄請求(100条2項)をすることができる。なお、C部品が専ら本件発明の方法を機能させるためのものであれば4号による間接侵害も成立する。
⑶ また、101条該当行為は特許権侵害とみなされるから、Cは過失ある侵害者として損害賠償責任を負う(民法709条、特許法103条)。仮に間接の間接侵害を否定する立場に立つとしても、Cは、Bによる間接侵害を容易にする物を認識の上で供給しているから、Bの不法行為を幇助した者として連帯して損害賠償責任を負う(民法719条2項)。
損害賠償の範囲は、Cが主観的要件を充足した通知後に譲渡したC部品が搭載されたB製品によってAに生じた損害に限られる。そして、BとCの行為はいずれも同一のB製品の流通によるAの損害をもたらすものであるから、両者は同一の損害について不真正連帯債務を負い、Aがこれを重複して回収することは認められない。
3 設問3
⑴ Dは、事業者として自らの事業目的でB製品を使用し使い捨て電池を充電しているから、業として本件発明の方法を使用するものであり(2条3項2号、68条)、形式的には直接侵害に当たる。
⑵ そこで、方法の発明について消尽論が適用されるかが問題となる。方法の発明においては実施行為が方法の使用であり、譲渡の対象となる実施品の流通を観念できないため、物の発明と同様に消尽を論じられないようにみえる。
しかし、消尽論の根拠は、①特許製品の円滑な流通を確保して取引の安全を図ること、②特許権者は譲渡の際の対価において発明の公開に対する代償を回収する機会を得ているから重複して利得を得させる必要がないことにある。この趣旨は、方法の発明について、その方法の使用にのみ用いる物又は方法の使用に用いる物でその発明による課題の解決に不可欠なものが流通に置かれた場合にも、等しく妥当する。これらの物は方法の実施のためにのみ取得されるものであり、その使用を特許権者が事後的に禁じ得るとすれば、物の取引の安全が害されるからである。
そこで、特許権者又はその許諾を得た者が、特許発明に係る方法の使用にのみ用いる物、又はその方法の使用に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものを譲渡した場合には、譲受人及びその後の取得者が当該物を用いてその方法を使用する行為に対し、特許権を行使することは許されないと解する(知財高判平成18年1月31日参照)。
本件では、B製品は本件発明の方法の使用に用いる物であり、その課題の解決に不可欠なものである。そして、BはAから家庭内で使用される製品に限る条件で製造・販売を許諾され、その範囲内で家庭内使用向けのB製品を製造販売しており、Dは市場においてこれを購入している。したがって、B製品は特許権者の許諾を得た者により適法に流通に置かれたものであり、Dの使用に対しAは本件特許権を行使できないのが原則である。
⑶ もっとも、Aは許諾に用途制限を付し、Bは製品に「家庭内使用に限る」と明記して販売している。この制限により権利行使が可能となるかが問題となる。
実施許諾に付された用途制限は、Bの製造・販売行為が許諾の範囲内かを画するものである。Bは制限に従い家庭内使用向け製品として製造販売しているから、その販売は許諾の範囲内の適法な拡布である。そうであれば、当該物については特許権は目的を達成して消尽しており、その後の使用態様を特許権者が一方的に制限することはできない。
消尽が取引の安全の確保を根拠とする制度である以上、特許権者が表示や契約によって権利行使の範囲を任意に設定し得る例外を認めることは、制度の趣旨を潜脱するものであって許されない。製品を転々と取得する者に対し、特許権者が定めた使用条件の遵守を特許権の効力によって強制することは、特許製品の自由な流通を著しく害する。
これに対し、権利行使の制限の根拠を特許権者の黙示の許諾に求める立場からは、Aの許諾には家庭内使用の限定が付されており、事業目的での使用には許諾が及ばないから、Dの使用は侵害となるとの結論が導かれる。しかし、この立場では、購入者が表示を認識していたか否かという個別的事情により侵害の成否が左右され、物の流通に関する法律関係が不安定となる。消尽の趣旨を重視する前記の立場が妥当である。
⑷ なお、Aは、事業者向け充電器の製造・販売についてBに別途の対価で許諾するなどして利益を確保することができ、またBが制限に違反した場合には契約責任を追及し得るのであるから、Aに不当な不利益はない。
よって、Aは、Dに対してB製品の使用行為につき差止請求をすることができない。
第2 第2問
1 設問1
⑴ 楽曲αはAとBの共同著作物であり(著作権法2条1項12号)、その著作権はAとBの共有に属する。Cは、平成23年7月に利用許諾契約の期間が満了した後、同年9月にBの許諾を得ないままCレコードの製造販売を再開している。
共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ行使することができない(65条2項)。Aの意向のみではこの合意に代わるものではないから、Cの製造は複製権(21条)の侵害、販売は譲渡権(26条の2第1項)の侵害に当たる。そして、共有著作権の各共有者は、他の共有者の同意を得ないで単独で差止請求をすることができる(117条1項)。
したがってBは、65条2項により自己の合意を欠くCの利用が無権限であることを主張し、112条1項に基づきCレコードの製造販売の差止めを、同条2項に基づき在庫の廃棄を請求すべきである。
⑵ これに対しCの反論としては、各共有者は正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができない(65条3項)とされるところ、Bの更新拒絶はAとの人間関係のもつれからAを困らせたいという動機に基づくものであって正当な理由がないから、Bは更新を拒絶できず、合意は成立したものと扱われるべきである、との主張が考えられる。また、正当な理由なく合意を妨げたBが自らの合意の欠缺を理由に差止めを求めることは権利濫用(民法1条3項)であるとの主張も考えられる。
⑶ Bはこれに対し、次のように主張すべきである。65条3項は共有者相互間の義務を定めた規定であり、同項違反があっても、これによって当然に合意の成立が擬制され第三者に利用権限が生ずるものではない。合意の成立を妨げられた共有者は、他の共有者に対し合意をすべきことを求める訴えを提起し、その確定判決をもって合意に代えることができるにとどまる。第三者であるCが、共有者間の正当な理由の有無という内部事情を自ら判断して利用を開始することを許せば、共有著作権の帰属関係が著しく不安定となり、65条2項が全員の合意を要求した趣旨が失われる。したがって、Bに正当な理由がなかったとしても、Cの利用は無権限であり、差止請求は認められる。
権利濫用の主張についても、Bは、Cレコードによる楽曲αの利用方法や収益配分について自己の意見が反映されていないこと等、更新拒絶に客観的な理由があったことを主張立証して、濫用の評価を避けるべきである。もっとも、Bの拒絶が専らAを困らせる目的に出たものと認定される場合には、権利濫用として差止請求が制限される余地は残る。
2 設問2
⑴ FはCから購入したCレコードを消費者に販売している。CレコードはBの合意を欠いて作成された違法複製物であるから、Fの販売は譲渡権(26条の2第1項)の侵害に当たり、26条の2第2項1号の消尽も生じない。Bはまずこの点を主張することになる。
⑵ これに対しFは、113条の2による免責を反論する。同条は、複製物を譲り受けた時において当該複製物が26条の2第2項各号のいずれにも該当しないことを知らず、かつ知らないことについて過失がなかった者が当該複製物を公衆に譲渡する行為は、譲渡権を侵害する行為でないものとみなす旨定める。Fは平成24年2月から4月までBの許諾がないという事情を知らずにCから購入しており、現在販売しているのはその間に購入したものであるから、善意無過失であれば譲渡権侵害は否定される。
⑶ そこでBは、113条1項2号を主張すべきである。同号は、著作権を侵害する行為によって作成された物を、情を知って頒布し、又は頒布の目的をもって所持する行為を著作権侵害とみなす。Fは平成24年4月に事情を知った後も、それ以前に購入したCレコードを消費者に販売しているから、情を知って頒布する行為に当たる。
これに対しFは、113条の2により譲渡権侵害が否定されるのに同じ行為が113条1項2号で侵害とみなされるのでは、113条の2が無意味になると反論しよう。
しかしBは、両規定は要件も趣旨も異なると主張すべきである。113条の2は「譲り受けた時」の善意無過失を要件として譲渡権という特定の支分権の侵害を否定するにとどまり、取引に入った時点の信頼を保護する規定である。これに対し113条1項2号は「頒布」の時点における知情を要件とし、違法複製物を流通過程から排除することを目的とする別個の規定である。違法複製物であることを知った後もなお頒布を継続することを許せば、著作権者の保護に欠け、著作物の違法な流通を是認する結果となる。したがって、113条の2により譲渡権侵害が否定されても、なお113条1項2号により著作権侵害とみなされると解すべきである。
よってBは、113条1項2号に基づき、112条1項によりFのCレコード販売の差止めを、同条2項により在庫の廃棄を請求できる。
3 設問3
⑴ A・BはX国における楽曲αの著作権をDに譲渡したが、著作権は国ごとに別個の権利であるから、日本における著作権は依然A・Bの共有に属する。Gの行為のうち、まず販売について検討する。
Gの販売は譲渡権(26条の2第1項)の対象となる。同条2項5号は、国外において、著作権に相当する権利を害することなく、又は当該権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の複製物については譲渡権が及ばない旨定め、譲渡権の国際消尽を認めている。
本件では、DレコードはX国における楽曲αの著作権者であるDが同国において製造し販売したものであるから、5号に該当する。なお、同号は、外国において著作権に相当する権利を有する者が日本の譲渡権者と同一人であることを要件としていない。したがって、X国の権利がDに譲渡され日本の権利者Aと別人であっても、同号の適用は妨げられない。
よって、譲渡権は消尽しており、Gの販売行為について差止請求をすることはできない。
⑵ 次に輸入について検討する。113条1項1号は、国内において頒布する目的をもって、輸入の時において国内で作成したとしたら著作権の侵害となるべき行為によって作成された物を輸入する行為を侵害とみなす。Gは日本で販売する目的で輸入しており、Dレコードを日本国内でA・Bの許諾なく作成したとすれば複製権侵害となるから、文言上は同号に該当するようにみえる。
しかし、同号は、どの国においても正当な権限に基づかずに作成された海賊版等の国内流入を阻止する趣旨の規定である。そして、26条の2第2項5号が譲渡権の国際消尽を正面から認め、国外で適法に譲渡された複製物の国内での販売を許容している以上、その販売の前提である輸入のみを侵害とみなすことは均衡を失し、同号の趣旨を無意味にする。したがって、国外において当該国の著作権者により適法に作成された複製物については、113条1項1号は適用されないと解すべきである。
よって、Aは、Gに対し、Dレコードの輸入及び販売のいずれについても差止請求をすることができない。
4 設問4
⑴ 楽曲αは、Dから利用許諾を得たEにより、X国においてE映画のエンディング・テーマとして複製されている。E映画のDVDは、映画の著作物において複製されている楽曲αの複製物である。
著作権者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する(26条2項)。そして譲渡権は26条に規定する映画の著作物の複製物による場合を除外しているから、本件では譲渡権ではなく頒布権の侵害が問題となる。
⑵ 頒布権については消尽に関する明文規定がない。そこで、Hの販売について頒布権が消尽するかが問題となる。
頒布権が認められたのは、劇場用映画について配給制度による流通の管理を可能にする必要があったためである。そこで判例は、公衆に提示することを目的としない映画の著作物の複製物については、いったん適法に譲渡されたことにより、頒布権のうち譲渡する権利は消尽し、著作権者はその後の譲渡に権利を行使できないとした(最判平成14年4月25日)。
E映画のDVDは、映画館等での上映の後に製造販売された、家庭内での視聴に供される複製物であり、公衆への提示を目的とするものではない。したがって、頒布権のうち譲渡する権利は消尽し得る。
⑶ さらに国際消尽が認められるかが問題となる。判例は特許権について、国際的な商品流通の自由の確保と、権利者が国外での譲渡の際に対価を回収する機会を得ていることを理由に、国際消尽を認めた(最判平成9年7月1日)。著作物の複製物についても国際的な流通の自由を確保する必要は同様に存在し、26条の2第2項5号が譲渡権について国際消尽を明文で認めていることとの均衡からも、頒布権のうち譲渡する権利について国際消尽を認めるべきである。
本件では、E映画のDVDは、X国における楽曲αの著作権者Dの許諾を得たEにより、X国において適法に製造販売されたものである。したがって、頒布権のうち譲渡する権利は消尽している。
Aは日本における著作権者であり、X国の著作権はDに譲渡されているため、A自身はE映画のDVDについて対価回収の機会を得ていないとの反論が考えられる。しかし、26条の2第2項5号が外国の権利者と国内の権利者の同一性を要件としていないことからすれば、国内権利者が現実に対価を得ていないことは消尽を否定する理由とならない。Aは、Dに対するX国の著作権の譲渡に際して対価を得る機会があったのであるから、不当な不利益を受けるものではない。
⑷ 輸入についても、設問3と同様、E映画のDVDはX国において同国の権利者の許諾の下に適法に作成されたものであるから、113条1項1号は適用されない。
よって、Aは、Hに対し、E映画のDVDの輸入及び販売のいずれについても差止請求をすることができない。
以上