予備試験 令和7年 刑事実務基礎
問題文
次の【事例】を読んで、後記の設問に答えなさい。
【事例】
1 A1(21歳)は、令和7年3月10日、高額報酬のアルバイトを探そうと考え、不特定多数の者が投稿できるソーシャルネットワーキングサービス(SNS)で「高額」「短期」「アルバイト」などと検索したところ、「短期間で大金稼げるバイトあります。」との投稿を見つけ、当該投稿をしたアカウントに対し、当該アルバイトに関心がある旨のSNSのダイレクトメッセージ(以下「DM」という。)を送った。
A1は、同月11日、氏名不詳者からのDMでの返信により、アルバイトの概要として、「指定された場所に行って荷物を受け取る仕事。」「1回につき10万円の報酬を渡す。」「詳しい内容は仕事を引き受けたら話す。」との説明を受け、DMで引き受けると回答したところ、さらに、氏名不詳者からのDMにより、「荷物を受け取るときには『息子さんの代わりに受け取りに来た部下の者です。』と言うように。」「仕事がある日はスーツ、革靴を着用するように。」との指示を受けた。
A1は、氏名不詳者にDMで、「逮捕されることはないか。」と尋ねたが、氏名不詳者からのDMで、「心配ない。」「違法ではない。」と返信があったため、それ以上確認することなく氏名不詳者の指示に従うこととした。
2 V(70歳、女性)は、甲県乙市に単身居住していたところ、同月12日午後1時頃、Vの息子Wの上司を名のる者から電話を受け、「Wさんが仕事で必要な現金200万円入りのバッグを紛失してしまったんです。」「取引に直ちに必要な現金なので支払えないと大変なことになってしまいます。一旦立て替えてくれませんか。」と言われた。
Vは、これを信じ、銀行から現金を引き出して立て替える旨返事をしたところ、上司を名のる者は、「Wさんの部下が取りに行くので現金を封筒に入れて渡してください。」と伝えた。
3 A1は、その頃、氏名不詳者から、SNSの通話機能で、荷物の受取場所であるV方の住所及び同所では高齢女性が待っていることを伝えられるとともに、同女に対してその息子Wの部下を名のるよう指示された。A1は、氏名不詳者の指示どおりスーツ等を着用して、自宅付近の駅からV方最寄りの丙駅(V方から約1.5キロメートル)まで電車で移動し、丙駅からV方前までタクシーで移動した。
A1は、Wとは何の面識もなかったが、同日午後3時頃、V方において、Vに対し、Wの部下であると告げ、Vから、「息子がお世話になっています。」「お名前を伺ってもよいですか。」
などと言われたため、A1自身の名字を答え、Vが直前に銀行から引き出していた現金200万円在中の現金用封筒(「B銀行」と表面に大きく印字されたもの。以下「本件封筒」という。)
を受け取り、V方を立ち去った。
4 その後、Vは、Wと連絡を取って詐欺被害に遭ったことに気付き、110番通報し、V方を訪れた警察官に対し、本件封筒を渡した相手の容姿等の特徴を説明した。
乙市を管轄する乙警察署の司法警察員K1は、同日午後4時頃、丙駅において、Vの説明した特徴と一致するA1を発見し、職務質問の上、所持品検査をした結果、A1の上着のポケットから交通系ICカード、タクシーの領収証とともにV方の住所が記載されたメモが発見されたため、A1を乙警察署に任意同行した。
A1は、司法警察員K1に対し、「V方に行ったことはない。」と供述したものの、VにA1の容姿や服装を確認させたところ、本件封筒を渡した相手とよく似ていると思う旨供述したため、司法警察員K1は、A1をVに対する詐欺の被疑事実で緊急逮捕した。
5 同月14日、A1は、詐欺の送致事実により甲地方検察庁検察官に送致され、検察官Pによる弁解録取時も「V方に行ったことはない。」旨供述し、同日中に勾留された。
①検察官Pは、司法警察員K1に対し、前記交通系ICカード及びタクシーの領収証につき、A1の移動状況を解明するため所要の捜査を行うよう指示した。
その結果、前記3のA1の移動経路が判明し、さらに、A1所持のスマートフォンを解析した結果、前記1に記載した各DM(以下「本件DM履歴」という。)が判明した。これらを踏まえ、検察官PがA1の取調べを行った結果、A1は、「3月12日、V方を訪れて封筒を受け取ったことは間違いない。」「荷物を受け取る仕事と聞いていた。詐欺であるとは知らなかった。」などと供述を変遷させた。
検察官Pは、その後も必要な捜査を遂げ、②前記1及び3の各事実が判明したことを踏まえ、A1が詐欺の故意を有していたと判断し、A1を詐欺罪(【別紙】公訴事実の要旨参照)で公判請求した。
6 司法警察員K1は、同月12日に本件以外にも前記V方付近で同種被害事案が発生していたことから、A1がそれらの事案にも関与していた疑いがあると考え、A1の公判請求後、任意にA1を取り調べることとし、その旨をA1に告げた。
③起訴後勾留中のA1と接見をした弁護人Bは、A1から、「担当の警察官から別の事件について聞きたいことがあると言われている。こういう場合に取調べに応じなければいけないのか。」「もし、起訴された事件に関しても更に聞かれたらどうすればいいのか。」と相談を受けた。
7 弁護人Bは、A1との接見の際、A1から、公訴事実につき、Vから封筒を受け取ったことは間違いないが詐欺であることは知らなかった旨説明を受け、さらに、検察官Pから前記1ないし3の事実に関する各請求証拠等の開示を受けた結果、弁護方針として、詐欺の故意及び共謀を争うこととし、第1回公判期日の冒頭手続において、その旨主張した。
検察官Pは、同公判期日の証拠調べ手続において、④司法警察員K1作成の写真撮影報告書
(A1所持のスマートフォン画面に本件DM履歴を表示させ、その画面を撮影した写真が添付されたもの)を、その立証趣旨を「被告人と氏名不詳者の共謀状況」として証拠請求したところ、弁護人Bは「不同意」との証拠意見を述べた。
8 前記4と併行し、司法警察員K2は、令和7年3月12日、丙駅の防犯カメラ映像を精査した結果、A1が司法警察員K1から職務質問を受ける前に駅構内のコインロッカーに何らかの物を入れている様子を確認した。そこで、司法警察員K2が、直ちに同コインロッカーに赴いたところ、A2(24歳)が同コインロッカーから本件封筒を取り出す状況を現認した。
そこで、司法警察員K2は、本件封筒を取り出したA2に職務質問したところ、A2が、「SNSで募集していた荷物を運ぶアルバイトを引き受け、知らない人の指示を受けて動いていた。」「この封筒には詐欺でだまし取った現金が入っていることは分かっていた。」などと供述したため、A2をVに対する詐欺の被疑事実で緊急逮捕した。
検察官Pは、⑤司法警察員K2から、A2がVに対する詐欺の共同正犯であるか否かを判断するに当たりどのような点が問題となるか聞かれたため、A2が氏名不詳者から前記コインロッカー在中の本件封筒を取り出すよう指示を受けた時期について、A1がVから本件封筒を受領した時点との先後関係に留意して解明する必要があると述べた。
〔設問1〕
検察官Pが、下線部①の捜査を指示した理由を、その時点における証拠関係を踏まえて答えなさい。
〔設問2〕
下線部②に関し、本件において立証が求められる詐欺の故意の具体的内容に触れた上、【事例】
に記載された事実の中から詐欺の故意の認定に積極的に働く事実、消極的に働く事実をそれぞれ摘示し、各事実が詐欺の故意の有無をどのように推認させるかを明らかにしつつ、検察官Pが、公訴を提起するに際し、A1が詐欺の故意を有していたと判断した理由を答えなさい。
〔設問3〕
下線部③のA1の各相談に対し、弁護人Bは、「余罪の取調べに応じる必要はない。」「起訴された事件に関する取調べに応じるべきではない。」と回答した。弁護人Bがこのように回答した理由をそれぞれ答えなさい。
〔設問4〕
下線部④に関し、検察官Pが、「当該写真撮影報告書は、本件DM履歴を機械的に撮影した写真を内容とするものであるところ、不同意とした理由につき明らかにされたい。」と述べ、これを受けて裁判官Jは、弁護人Bに不同意の理由について釈明を求めた。
⑴ 前記求釈明に対し、弁護人Bは、「当該写真撮影報告書の内容は検察官指摘のとおりであるが、被告人は氏名不詳者との共謀を争っているのであるから、共謀状況という立証趣旨は相当ではない。」旨の意見を述べた。裁判官Jは、弁護人Bの意見を踏まえ、当該写真撮影報告書の証拠の採否に関し、どのような訴訟指揮を行うことが考えられるか答えなさい。
⑵ ⑴と異なり、弁護人Bは、裁判官Jの求釈明に回答せず不同意の意見を維持した。検察官Pは、下線部④記載の写真撮影報告書の証拠採用を求めるためにどのような訴訟活動を行うべきか答えなさい。
〔設問5〕
下線部⑤に関し、検察官Pが、A2が氏名不詳者から指示を受けた時期について、A1がVから本件封筒を受領した時点との先後関係に留意して解明する必要があると回答した理由を答えなさい。
【別紙】 公訴事実の要旨
被告人は、氏名不詳者と共謀の上、令和7年3月12日、氏名不詳者が、甲県乙市V方に電話をかけ、V(当時70歳)に対し、電話の相手がVの息子Wの会社関係者であり、Wが現金200万円を至急必要としているので、同人の代わりに行く会社の部下に現金を渡してもらいたい旨うそを言い、さらに、同日、被告人が、前記V方において、Vに対し、Wの会社の部下になりすまし、Vを、電話の相手がWの会社関係者であり、Wが現金を至急必要としており、被告人がWのために現金を受領する旨誤信させ、よって、その頃、同所において、Vから現金200万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させたものである。
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
本問は、詐欺罪の成否が問題となる事件を題材に、刑事事実認定の基本構造、刑事実体法及び刑事手続法の基本的理解並びに基礎的実務能力を試すものである。
設問1は、検察官による捜査指揮を題材に、証拠関係が流動的である捜査段階における犯人性の事実認定に関する証拠構造の理解を問うものである。
設問2は、検察官の終局処分における事実認定を題材に、詐欺の故意につき、共犯事件であって被疑者が犯行の全体像を把握していないという事案の性質に応じた要証事実を意識しつつ、間接事実を用いた事実認定の思考過程の基礎を理解しているかを問うものである。
設問3は、弁護人の接見時における被告人への回答を題材に、被告人の意思を尊重すべき弁護人の立場に留意しつつ、起訴後勾留中の取調べ(別件及び本件)に関する理解を問うものである。
設問4は、書証の採否手続に関する訴訟活動及び訴訟指揮を題材に、要証事実を踏まえた書証の証拠能力の理解を前提とし、実務における訴訟進行を意識した刑事手続の実践的な理解を問うものである。
設問5は、検察官と司法警察員との協議を題材に、詐欺罪の既遂時期と共謀の成立時期との関係の理解を問うものである。
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