司法試験 令和8年 民法
問題文
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点は、50:50〕)
次の各文章を読んで、後記の〔設問1⑴・⑵〕及び〔設問2⑴・⑵〕に答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和8年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事実Ⅰ】
1.令和2年1月10日、Aは、更地である甲土地が、これに隣接するA所有の乙土地に含まれると過失なく信じて、甲土地の占有を開始し、両土地を資材置場として利用し始めた。しかし、実際には、甲土地はBが所有しており、その所有権の登記名義人もBであった。
2.令和22年4月20日、Bは、貸金業者Cから、令和37年4月20日を弁済期として、5000万円を借り受けた。Bは、この貸金債務を担保するため、令和22年4月20日、甲土地にCを抵当権者とする抵当権を設定し、その旨の登記(以下「本件登記①」という。)
がされた。
3.令和33年2月15日、Bは、貸金業者Dから、令和36年2月15日を弁済期として、1000万円を借り受けた。Bは、この貸金債務を担保するため、令和33年2月15日、甲土地にDを抵当権者とする第二順位の抵当権を設定し、その旨の登記(以下「本件登記②」
という。)がされた。
4.令和35年9月3日、Aは、甲土地が乙土地に含まれず、甲土地につき本件登記①及び本件登記②が存在することを知った。この日まで、Aは甲土地を自己の所有地であると信じてその占有を継続しており、そのように信じることについてAに過失はなかった。
5.令和35年10月15日、㋐Aは、甲土地について取得時効を援用し、甲土地の所有権を自らが取得したこと、それによりC及びDの抵当権は消滅したことを主張して、Cに対し本件登記①の、Dに対し本件登記②の各抹消登記手続を請求した。なお、これ以前に、Aは、甲土地についての時効を援用したことはなかった。
〔設問1⑴〕
【事実Ⅰ】を前提として、下線部㋐のAの各請求が認められるかどうかを論じなさい。
【事実Ⅱ】
1.令和7年6月2日、Eは、公正証書遺言の方式により、E所有の丙土地を友人Fに遺贈し、弁護士Gを遺言執行者に指定する旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をして、本件遺言に係る遺言書の謄本を自宅に保管し、その正本をFに預けた。なお、本件遺言は適法にされたものである。
2.令和8年1月10日、Eは、死亡した。Eの相続人は、その子であるHとJのみであった。
その翌日、Hは、本件遺言に係る遺言書の謄本を発見し、その内容を認識した。
3.令和8年1月20日、Hは、丙土地について、HとJとで法定相続分の割合で共有する旨
の、相続を原因とする所有権移転登記を備えた。その翌日、Hは、Kとの間で、丙土地のHの持分をKに売る契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。そして、Kは、当該持分について、売買を原因とする所有権移転登記(以下「本件登記③」という。)を備えた。
なお、本件売買契約を締結する際、Kは、本件遺言の存在を知らず、また、Hに対してEが遺言を残していたか否かを尋ねることもしなかった。
4.令和8年 2 月 1 日、Fは、Eの死亡の事実を知り、その事実と本件遺言の存在をGに伝えた。同月10日、Gは、H及びJに対し、遺言執行者への就職を承諾する旨の意思表示をするとともに、本件遺言の内容を通知した。
5.令和8年2月16日、Gは、本件登記③の存在を知り、その旨をFに伝えた。
6.令和8年3月2日、㋑Fは、Kに対し、本件登記③の抹消登記手続を請求した。
〔設問1⑵〕
【事実Ⅱ】を前提として、下線部㋑のFの請求が認められるかどうかを論じなさい。なお、HとJは、Eからの相続を単純承認したものとして解答しなさい。
【事実Ⅲ-1】
1.令和8年3月3日、Aは、建築業者Bとの間で、A所有の土地の上にAの自宅用建物を建築する工事(以下「本件工事①」という。)を報酬1000万円でBに請け負わせる契約
(以下「本件契約①」という。)を締結した。本件契約①では、報酬について、契約締結日に400万円を、引渡日に残額の600万円をそれぞれ支払うこと、引渡日を同年9月1日とすること、及び本件契約①が解除された場合に出来形部分の所有権をAに帰属させることが合意された。同年3月3日、Aは、Bに対し、本件契約①に従い、400万円を支払った。
2.令和8年3月3日、Bは、工務店を営むCとの間で、本件工事①の全てを報酬800万円でCに請け負わせる契約(以下「本件契約②」という。)を締結した。本件契約②の締結に先立ち、Bは、本件工事①の全てをCに請け負わせることについて、Aから書面による承諾を得ていた。また、Cは、本件契約②の内容が、Bの請け負った本件工事①を一括して請け負うものであることを知っていた。本件契約②では、報酬について、契約締結日に200万円を、同年6月15日に200万円を、引渡日に残額の400万円をそれぞれ支払うこと、及び引渡日を同年9月1日とすることが合意された。他方において、本件契約②が解除された場合における出来形部分の所有権の帰属に関する特段の合意はされなかった。同年3月3日、Bは、Cに対し、本件契約②に従い、200万円を支払い、Cは、本件工事①に着手した。
3.Cは、本件工事①に必要な材料の全部を自ら調達し、計画通りに工事を進めた。しかし、令和8年5月末頃、Bの資金繰りが悪化し、同年6月15日に行われるはずであったBのCに対する200万円の支払が行われなかったため、Cは、同年7月1日、工事を停止した。
結局、同年9月1日までに本件工事①は完成せず、同日が経過した。
4.令和8年9月2日、Aは、Bに対し、同月末日までに本件工事①を完成させて、完成した建物をAに引き渡すよう求めた。しかし、同月2日以降も本件工事①が進むことはなく、同
月末日までに本件工事①は完成しなかった。同年10月1日、Aは、Bに対し、本件契約①を解除する旨の意思表示をした。
5.令和8年10月1日の時点において、Cが築造した出来形部分(以下「本件出来形」という。)は、独立の不動産となっており、Aに引き渡されていない。
6.本件出来形の引渡しによってAが受けるべき利益は、本件工事①が完成したとすればAが受けたであろう利益の6割に相当するものであった。
〔設問2⑴〕
【事実Ⅲ-1】を前提として、次の問いに答えなさい。
令和8年10月1日の時点において、本件出来形の所有権がAとCのいずれに帰属するのかについて、反対の立場の論拠にも触れつつ、論じなさい。
【事実Ⅲ-2】
前記【事実Ⅲ-1】に加え、次の事実があった。
7.令和8年10月13日、Aは、Cから本件出来形の引渡しを受けた上で、工務店を営むDとの間で、本件工事①の未完成部分の工事(以下「本件工事②」という。)を報酬650万円でDに請け負わせる契約(以下「本件契約③」という。)を締結した。650万円という金額は、同日の時点における市場の適正価格と評価できるものであった。本件契約③では、報酬について、引渡日に650万円全額を支払うこと、及び引渡日を同年12月1日とすることが合意された。
8.令和8年12月1日、Dは、本件工事②を完成させ、完成した建物をAに引き渡した。同日、Aは、Dに対し、本件契約③に従い、650万円を支払った。
9.令和8年12月2日、㋐Aは、Bに対し、Bの債務不履行による損害の賠償を請求した。
これに対して、㋑Bは、「令和8年10月1日の時点において本件工事①の一部が完成しており、Bは、その報酬の支払をAに請求することができるので、その限りにおいて相殺をする。」と反論した。
〔設問2⑵〕
【事実Ⅲ-1】及び【事実Ⅲ-2】を前提として、次の問いに答えなさい。
下線部㋐のAの請求がどのような範囲で認められるかについて、下線部㋑のBの反論の当否も検討しつつ、金額を示して論じなさい。なお、Aによる損害賠償請求に関して、遅延賠償については論じなくてよい。
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