司法試験 令和6年 行政法
問題文
〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕⑴、〔設問1〕⑵、〔設問2〕の配点割合は、35:35:
30〕)
Q県R市では、都市再開発法(以下「法」という。)に基づく第一種市街地再開発事業の施行が目指されている。以下では、まず法に基づく【市街地再開発事業の制度の概要】を説明した上で、
【本件の事案の内容】を述べる。
【市街地再開発事業の制度の概要】
市街地再開発事業とは、都市計画法上の都市計画区域内で、細分化された敷地を共同化して、いわゆる再開発ビル(法上の「施設建築物」)を建築し、同時に道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業であり、原則として、都市計画において市街地開発事業の種類(本件の場合は後述する第一種市街地再開発事業)、名称及び施行区域等が定められている場合に実施される(都市計画法第12条第1項第4号・第2項)。
都市計画に定められた第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、5人以上共同して、定款及び事業計画を定め、都道府県知事の認可を受けることにより、市街地再開発組合(以下「組合」という。)を設立することができる(法第11条第1項)。組合は、施行区域内の土地について、同事業を施行することができる(法第2条の2第2項)。都市計画に定められた施行区域内の土地のうち、事業計画において同事業が施行される土地として定められた地区を「施行地区」といい(法第2条第3号)、施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者の全員が、強制的に組合の組合員とされる(法第20条第1項)。
事業計画は、当該事業に関する都市計画に適合しないものであってはならない(法第17条第3号)。事業計画においては、上述の施行地区のほか、設計の概要、事業施行期間及び資金計画を定めなければならない(法第7条の11第1項)。このうち設計の概要は、設計説明書及び設計図を作成して定められる。設計説明書には、再開発ビル、その敷地及び公共施設の概要等が記載される。設計図は500分の1以上の縮尺で、再開発ビルの各階について柱、外壁、廊下、階段及びエレベータの位置を示す平面図、再開発ビルの床及び各階の天井の高さを示す断面図、再開発ビルの敷地についてビルの位置や主要な給排水施設の位置等を示す平面図、並びに公共施設の位置及び形状等を示す平面図等から成る。
第一種市街地再開発事業においては、原則として、施行地区内の宅地の所有者(以下では、借地権者には触れない。)に対し、それぞれの所有者が有する宅地の価額の割合に応じて、再開発ビルの敷地の共有持分権が与えられ、当該敷地には再開発ビルを建設するために地上権が設定されて、当該敷地の共有者には、地上権設定に対する補償として、再開発ビルの区分所有権(従前の所有権者に与えられた区分所有権に対応する再開発ビルの部分を一般に「権利床」という。)
が与えられる。事業施行前における宅地の所有権が区分所有権等に変換されたという意味で、これを「権利変換」という。権利変換がなされた後、土地の明渡しを経て実際の工事が着手される。
施行地区内の宅地の所有者等のうち、権利変換を希望しない者は、都道府県知事による組合設立の認可(法第11条第1項)の公告(法第19条第1項)があった日から30日以内に、権利変換に代えて自己の所有する宅地の資産の価額に相当する金銭の給付を希望する旨を申し出ることができる(法第71条第1項)。事業計画が変更され、従前の施行地区に新たな施行地区が編入された場合、当該変更の認可(法第38条第1項)の公告(同条第2項、第19条第1項)があった日から30日以内に、従前の施行地区内及び新たに編入された施行地区内のそれぞれの宅地の所有者は、従前の申出を撤回し、又は権利変換を希望しない旨の申出をすることができる
(法第71条第5項)。
【本件の事案の内容】
Q県R市は、その区域の全域が都市計画法上の都市計画区域に指定されている。R市内にあるA駅東口地区のうち、Dの所有する宅地を含む約2万平方メートルの土地の区域(以下「B地区」という。)について、組合施行による第一種市街地再開発事業(以下「本件事業」という。)の実施が目指された。R市は、平成27年中に、B地区を施行区域とする第一種市街地再開発事業に関する都市計画を決定した。B地区内の宅地の所有者らは、これによりB地区市街地再開発組合(以下「B地区組合」という。)の定款及び事業計画を定め、平成28年3月1日、Q県知事から組合設立認可(以下「平成28年認可」という。)を受け、B地区組合が設立された。同日、Q県知事は、本件事業の施行地区等を公告した(法第19条第1項)。
その後、本件事業が停滞している中、令和4年になって、R市は、B地区から見て河川を越えた対岸にある約2千平方メートルの空き地(以下「C地区」という。)を施行区域に編入するために、上記平成27年に決定された都市計画を変更した(以下「本件都市計画変更」という。)。
本件都市計画変更に際しては、B地区内の宅地の所有者としてB地区組合の組合員であり、かつ、C地区内の宅地を全て所有するEが、R市長やB地区組合の理事らに対し、C地区を本件事業の施行地区に編入するよう働き掛けを行っていた。C地区は河川沿いの細長い形状の空き地であり、地区周辺の人通りも少なかった。また、C地区については、その周辺からB地区側へ橋が架かっていないためにB地区側からの人の流入も期待できず、A駅方面へ行くにはかなりの遠回りをしなければならないという状況であった。そのため、EはC地区の土地の活用に長年苦慮していた。
本件都市計画変更を受けて、B地区組合は、平成28年認可に係る事業計画を変更すべく、Q県知事に対し、C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とする一方で、設計の概要のうち当該公園を新設すること以外は変更しないという内容で、事業計画の変更の認可を申請した(法第38条第1項)。Q県の担当部局は、この事業計画の変更が「軽微な変更」(同条第2項括弧書き)に当たると判断したため、Q県知事はR市長に事業計画の縦覧及び意見書提出手続(法第16条)を実施させなかった。令和5年3月6日、Q県知事は、B地区組合の申請のとおりに事業計画の変更を認可し(以下「本件事業計画変更認可」という。)、同認可に係る施行地区等を公告した(法第38条第2項、第19条第1項)。
Dは、C地区がB地区と何ら一体性を持たず、また、空き地のまま放置されているにもかかわらず、突如として本件事業の施行地区に編入されたことに不審を覚えたが、この段階では、本件事業計画変更認可によっても自分に割り当てられる権利床の面積には影響がないと誤解していたこともあり、争訟の提起等は考えなかった。
同年9月上旬、権利変換計画の公告縦覧手続が行われ(法第83条第1項)、Eが多くの権利床を取得することが明らかになった。Dは、本件事業にとって無益と思われるC地区の編入により、権利床に変換されるべき宅地の総面積が増加した結果、自己が本来取得できたはずであった権利床が減少したことを知り、かかる事態を生じさせた本件事業計画変更認可に不満を持つに至った。
同年10月10日、Q県知事は、本件事業計画変更認可に係る施行地区について権利変換計画を認可した(法第72条第1項)。同日、B地区組合は同認可を受けた旨を公告し、Dを含めた組合員に関係事項を書面で通知することで(法第86条第1項)、権利変換に関する処分を行った(同条第2項。以下、この処分を「本件権利変換処分」という。)。これに対し、Dは、令和6年4月7日、B地区組合を被告として、本件権利変換処分の取消訴訟(以下「本件取消訴訟」
という。)を提起した。
以上の事案について、R市に隣接するS市の職員は、S市でも法に基づく第一種市街地再開発事業の実施を検討中であることから、関係職員間で法的問題を検討することとした。
以下に示された【S市都市計画課の会議録】を踏まえて、都市計画課長からの相談と検討依頼を受けた法制課訟務係長(弁護士)の立場に立って、設問に答えなさい。
なお、関係法令の抜粋を【資料 関係法令】に掲げてあるので、適宜参照しなさい。
〔設問1〕
⑴ 本件事業計画変更認可が取消訴訟の対象となる処分に当たることの論拠について、同認可が施行地区内の宅地の所有者等の権利義務又は法的地位に対して有する法的効果の内容を明らかにした上で検討しなさい。
⑵ 本件事業計画変更認可が違法であることについて、Dはどのような主張をすることが考えられるか、検討しなさい。
〔設問2〕
Dは、本件取消訴訟において、本件事業計画変更認可の違法性を主張することができるか。実体法的観点及び手続法的観点の双方から、想定される被告B地区組合の反論を踏まえて、Dの立場から検討しなさい。ただし、本件事業計画変更認可及び本件権利変換処分がいずれも取消訴訟の対象となる処分に当たることを前提としなさい。
【S市都市計画課の会議録】
課長:本市でも組合施行の第一種市街地再開発事業が計画されています。R市での訴訟と同種の訴訟が提起されるかもしれません。そこで、R市での訴訟について検討しておこうと思います。まず、平成28年認可は取消訴訟の対象となるのでしょうか。
係長:最高裁判決(最高裁判所昭和60年12月17日第三小法廷判決・民集39巻8号1821頁)は、土地区画整理組合の設立認可について、それが事業施行権限を持つ強制加入団体の設立行為であることを根拠として、処分性を認めています。市街地再開発組合についても同様に考えることができるでしょう。
課長:なるほど。では、本件事業計画変更認可の処分性はどうでしょうか。本件事業計画変更認可によってもB地区組合の組合員には変更がないため、上記最高裁判決にいう強制加入団体の設立であることを根拠として処分性を肯定できるか、疑問があり得ます。しかし、実現されるべき事業の内容を示す事業計画が変更されれば、施行地区内の宅地の所有者等には何らかの影響が生じるはずです。組合設立認可を行うに当たっては事業計画も審査されますから、同認可には、強制加入団体の設立以外の、事業計画に関わる法的効果もあるものと考えられないでしょうか。
係長:では、本件事業計画変更認可の処分性を肯定する論拠について、強制加入団体の設立であるという点からではなく、同認可が施行地区内の宅地の所有者等の権利義務や法的地位に対してどのような法的効果を有しているかという点から検討して御報告します。
課長:次に、本件事業計画変更認可の違法性ですが、第一に、変更認可の申請があった後、法第16条が定める縦覧及び意見書提出手続が履践されていないようです。これで問題はないのでしょうか。
係長:検討して御報告します。
課長:第二に、第一種市街地再開発事業の施行区域は都市計画として定められるため、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること」という都市計画基準(都市計画法第13条第1項第13号)を満たさなければなりません。加えて、法第3条各号が掲げる施行区域の要件をも満たさなければなりません。これらは、施行地区を変更する都市計画にも同様に適用されます。まず、C地区の立地条件からみて、上記の都市計画基準を満たしているといえるのか、さらに、C地区は公園として整備される予定ですが、そのようにすることで法第3条第4号に定める施行区域の要件が満たされることになるのか、それぞれ疑問があります。
係長:本件都市計画変更の違法性の問題ですね。最高裁判決(最高裁判所昭和59年7月16日第二小法廷判決・判例地方自治9号53頁)は第一種市街地再開発事業に関する都市計画決定の処分性を否定していますから、その違法性は後続の処分の違法事由として主張することになります。
本件事業計画変更認可に処分性が認められると仮定して、お示しいただいた事情を具体的に考慮し、同認可の違法事由となるかどうか検討してみます。
課長:もっとも、本件事業計画変更認可については、処分性が認められたとしても既に認可の公告があった日から6か月以上経過しています。そのため、本件取消訴訟において同認可の違法性を主張することが考えられますが、可能でしょうか。
係長:いわゆる違法性の承継の問題ですね。この問題に関する最高裁判決(最高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決・民集63巻10号2631頁)は違法性の承継の可否を検討する際の手掛かりとして、先行行為と後行行為が同一目的を達成するために行われ、両者が相結合して初めてその効果を発揮するものであるかという実体法的観点と、先行行為の適否を争うための手続的保障が十分に与えられているかという手続法的観点の二つを挙げています。
課長:本件において被告B地区組合にとっては違法性の承継が否定される方が有利ですが、我々としては念のためにDの立場から、あり得る反論を踏まえつつ検討した上で、上記の二つの観点のいずれからも違法性の承継が肯定されるという主張を考えてみましょう。
係長:検討して御報告します。
【資料 関係法令】
○ 都市計画法(昭和43年法律第100号)(抜粋)
(市街地開発事業)
第12条 都市計画区域については、都市計画に、次に掲げる事業を定めることができる。
一~三 (略)
四 都市再開発法による市街地再開発事業
五~七 (略)
2 市街地開発事業〔注・第12条第1項各号に掲げる事業をいう。〕については、都市計画に、市街地開発事業の種類、名称及び施行区域を定めるものとするとともに、施行区域の面積その他の政令で定める事項を定めるよう努めるものとする。
3~6 (略)
(都市計画基準)
第13条 都市計画区域について定められる都市計画(中略)は、(中略)当該都市の特質を考慮して、次に掲げるところに従つて、土地利用、都市施設の整備及び市街地開発事業に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを、一体的かつ総合的に定めなければならない。(以下略)
一~十二 (略)
十三 市街地開発事業は、市街化区域又は区域区分が定められていない都市計画区域内において、一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること。
十四~二十 (略)
2~6 (略)
○ 都市再開発法(昭和44年法律第38号)(抜粋)
(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 (略)
二 施行者 市街地再開発事業を施行する者をいう。
三 施行地区 市街地再開発事業を施行する土地の区域をいう。
四 公共施設 道路、公園、広場その他政令で定める公共の用に供する施設をいう。
五 宅地 公共施設の用に供されている国、地方公共団体その他政令で定める者の所有する土地以外の土地をいう。
六 施設建築物 市街地再開発事業によつて建築される建築物をいう。
七~十三 (略)
(市街地再開発事業の施行)
第2条の2 (略)
2 市街地再開発組合は、第一種市街地再開発事業の施行区域内の土地について第一種市街地再開発事業を施行することができる。
3~6 (略)
(第一種市街地再開発事業の施行区域)
第3条 都市計画法第12条第2項の規定により第一種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、(中略)次に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならない。
一~三 (略)
四 当該区域内の土地の高度利用を図ることが、当該都市の機能の更新に貢献すること。
(事業計画)
第7条の11 事業計画においては、国土交通省令で定めるところにより、施行地区(中略)、設計の概要、事業施行期間及び資金計画を定めなければならない。
2~6 (略)
(認可)
第11条 第一種市街地再開発事業の施行区域内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、5人以上共同して、定款及び事業計画を定め、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けて組合〔注・市街地再開発組合〕を設立することができる。
2~5 (略)
(宅地の所有者及び借地権者の同意)
第14条 第11条第1項(中略)の規定による認可を申請しようとする者は、組合の設立について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれの3分の2以上の同意を得なければならない。この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地積と同意した者のその区域内の借地の地積との合計が、その区域内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の3分の2以上でなければならない。
2 (略)
(事業計画の縦覧及び意見書の処理)
第16条 都道府県知事は、第11条第1項(中略)の規定による認可の申請があつたときは、施行地区となるべき区域(中略)を管轄する市町村長に、当該事業計画を2週間公衆の縦覧に供させなければならない。(以下略)
2 当該第一種市街地再開発事業に関係のある土地(中略)について権利を有する者(中略)は、前項の規定により縦覧に供された事業計画について意見があるときは、縦覧期間満了の日の翌日から起算して2週間を経過する日までに、都道府県知事に意見書を提出することができる。(以下略)
3~5 (略)
(認可の基準)
第17条 都道府県知事は、第11条第1項(中略)の規定による認可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その認可をしなければならない。
一、二 (略)
三 事業計画(中略)の内容が当該第一種市街地再開発事業に関する都市計画に適合せず、又は事業施行期間が適切でないこと。
四 (略)
(認可の公告等)
第19条 都道府県知事は、第11条第1項(中略)の規定による認可をしたときは、遅滞なく、国土交通省令で定めるところにより、組合の名称、事業施行期間、施行地区(中略)その他国土交通省令で定める事項を公告し、かつ、国土交通大臣及び関係市町村長に施行地区及び設計の概要を表示する図書を送付しなければならない。
2~4 (略)
(組合員)
第20条 組合が施行する第一種市街地再開発事業に係る施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、すべてその組合の組合員とする。
2 (略)
(定款又は事業計画若しくは事業基本方針の変更)
第38条 組合は、定款又は事業計画(中略)を変更しようとするときは、国土交通省令で定めるところにより、都道府県知事の認可を受けなければならない。
2 (中略)第14条(中略)の規定は組合が事業計画(中略)を変更して新たに施行地区に編入しようとする土地がある場合に、(中略)第16条の規定は事業計画の変更(政令で定める軽微な変更を除く。)の認可の申請があつた場合に、(中略)第17条及び第19条の規定は前項の規定による認可について準用する。この場合において、(中略)第16条第1項中「施行地区となるべき区域(中略)」とあるのは「施行地区及び新たに施行地区となるべき区域」と、(中略)第19条
第1項中「認可」とあるのは「認可に係る定款又は事業計画についての変更の認可」と(中略)読み替えるものとする。
(建築行為等の制限)
第66条 第60条第2項各号に掲げる公告〔注・組合が施行する第一種市街地再開発事業にあっては、第19条第1項の公告又は新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の認可の公告〕があつた後は、施行地区内において、第一種市街地再開発事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくは堆積を行おうとする者は、都道府県知事(市の区域内において
(中略)組合(中略)が施行(中略)する第一種市街地再開発事業にあつては、当該市の長。(中略))の許可を受けなければならない。
2~9 (略)
(権利変換を希望しない旨の申出等)
第71条 (中略)第19条第1項の規定による公告(中略)があつたときは、施行地区内の宅地
(中略)について所有権(中略)を有する者(中略)は、その公告があつた日から起算して30日以内に、施行者に対し、(中略)権利の変換を希望せず、自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を施行地区外に移転すべき旨を申し出ることができる。
2、3 (略)
4 第1項の期間経過後6月以内に第83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(中略)がされないときは、当該6月の期間経過後30日以内に、第1項(中略)の規定による申出を撤回し、又は新たに第1項(中略)の規定による申出をすることができる。(以下略)
5 事業計画を変更して従前の施行地区外の土地を新たに施行地区に編入した場合においては、前項前段中「第1項の期間経過後6月以内に第83条の規定による権利変換計画の縦覧の開始(中略)
がされないときは、当該6月の期間経過後」とあるのは、「新たな施行地区の編入に係る事業計画の変更の公告又はその変更の認可の公告があつたときは、その公告があつた日から起算して」とする。
6~8 (略)
(権利変換計画の決定及び認可)
第72条 施行者は、前条の規定による手続に必要な期間の経過後、遅滞なく、施行地区ごとに権利変換計画を定めなければならない。この場合においては、(中略)組合(中略)にあつては都道府県知事の認可を受けなければならない。
2~5 (略)
(権利変換計画の縦覧等)
第83条 個人施行者以外の施行者は、権利変換計画を定めようとするときは、権利変換計画を2週間公衆の縦覧に供しなければならない。この場合においては、あらかじめ、縦覧の開始の日、縦覧の場所及び縦覧の時間を公告するとともに、施行地区内の土地又は土地に定着する物件に関し権利を有する者及び参加組合員又は特定事業参加者にこれらの事項を通知しなければならない。
2~5 (略)
(権利変換の処分)
第86条 施行者は、権利変換計画若しくはその変更の認可を受けたとき(中略)は、遅滞なく、国土交通省令で定めるところにより、その旨を公告し、及び関係権利者に関係事項を書面で通知しなければならない。
2 権利変換に関する処分は、前項の通知をすることによつて行なう。
3 (略)
○ 都市再開発法施行令(昭和44年政令第232号)(抜粋)
(縦覧手続等を要しない事業計画等の変更)
第4条 事業計画の変更のうち法第38条第2項(中略)の政令で定める軽微な変更(中略)は、次に掲げるものとする。
一 都市計画の変更に伴う設計の概要の変更
二 施設建築物の設計の概要の変更で、最近の認可に係る当該施設建築物の延べ面積の10分の1をこえる延べ面積の増減を伴わないもの三 事業施行期間の変更四 資金計画の変更五 その他第2号に掲げるものに準ずる軽微な設計の概要の変更で、国土交通省令〔注・施設建築敷地内の主要な給排水施設や消防用水利施設等の位置の変更等が挙げられている〕で定めるもの
2、3 (略)
○ 都市再開発法施行規則(昭和44年建設省令第54号)(抜粋)
(組合施行に関する公告事項)
第11条 (略)
2 (略)
3 法第38条第2項において準用する法第19条第1項(中略)の国土交通省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
一 (略)
二 (中略)施行地区(中略)に関して変更がされたときは、その変更の内容三、四 (略)
五 事業計画の変更により従前の施行地区外の土地が新たに施行地区に編入されたとき(中略)は、権利変換を希望しない旨の申出をすることができる期限六 (略)
出題の趣旨
法務省が公表した出題の趣旨です。
本問は、都市再開発法(以下「法」という。)に基づく組合施行の第一種市街地再開発事業を巡る紛争に関して、第三者である隣接市の立場に立って、本件事業計画変更認可の処分性(行政事件訴訟法第3条第2項)及びその違法性、並びに本件事業計画変更認可と権利変換処分との間の違法性の承継の各検討を求めるものである。
〔設問1〕⑴は、市街地再開発組合の事業計画の変更の認可の処分性について、これを肯定する立論を求める問題である。定款と事業計画を対象とする市街地再開発組合の設立の認可(以下「組合設立認可」という。)については、事業施行権限を付与された強制加入団体を成立せしめる行為であることを理由に土地区画整理組合の設立の認可の処分性を肯定した最判昭和60年12月17日民集39巻8号1821頁と同様の考え方から処分性を肯定することができるものと考えられる。それに対して、本問では強制加入団体が既に設立されており、新たに加入させられる者もいない。そこで、組合設立認可が強制加入以外の点で国民の権利義務、法的地位にいかなる法的効果を及ぼすのか、次いで事業計画の変更の認可が国民の権利義務、法的地位にいかなる法的効果を及ぼすのかが問題となる。
最判平成4年11月26日民集46巻8号2658頁及び最判平成20年9月10日民集62巻8号2029頁は、いずれも地方公共団体が施行する第二種市街地再開発事業又は土地区画整理事業における事業計画決定の処分性を認めたものであり、本問で提示した事案とは異なる。しかし、両判例の事案における事業計画も、本問における事業計画も、一定の区域内の土地に対する権利を、換地であれ、権利変換であれ、強制的に異質なものに変化させるための事業の内容を示すものであり、このことが一連の事業プロセスの出発点となっている点では共通している。したがって、上記両判例を手掛かりにした論述が求められる。すなわち、①本件における事業計画は施行地区を定め、再開発ビルの設計を示すものであり、当該事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて一定の限度で具体的に予測することが可能となること、②第一種市街地再開発事業に係る組合設立認可が公告されると権利変換手続が開始され、権利変換を希望しない旨の申出をした者を除き、特段の事情のない限り、施行地区内の宅地所有者等に対して、権利変換処分が当然に行われることになること、さらに③施行地区内の宅地所有者等は、認可の公告の日から起算して30日以内に、金銭の給付を受けて施行地区外へ転出するか、又は新たに建築される施設建築物等に関する権利を取得するかの選択を余儀なくされること、④したがって、施行地区内の宅地所有者等は、組合設立認可により、市街地再開発事業の手続に従って権利変換処分を受けるべき地位に立たされることとなり、その意味でその法的地位に直接的な影響が生じていることについて、論述が求められる。以上を根拠として、まずは、本件における事業計画が施行地区内の宅地所有者等の権利ないし法的地位に対して有する法的効果を手掛かりに組合設立認可に処分性を認めることができる。事業計画の変更の認可は、以上のようにして成立する施行地区内の宅地所有者等の権利ないし法的地位を、何らかの形で直接的に変動させるという意味で、直接的な(個別具体的な)
法的効果を持つといえる。また、新たな施行地区の編入を伴う事業計画の変更にあっては、同変更の認可が公告されると、法第71条第5項により、同条第1項の定める権利変換を希望しない旨の申出期間につき、同公告があった日が改めて当該期間の起算日となる点でも直接的な
(個別具体的な)法的効果を認めることができる。本件事業にあっては再開発ビルの設計の概要の変更が伴わない形で施行地区が拡大されるため、個々の組合員に割り当て得る権利床の面積が変化することも、直接的な(個別具体的な)法的効果といえよう。以上の諸点から、本件事業計画変更認可にも処分性を認めることができる。
なお、上記平成20年最判は建築行為の制限にも言及しているが、判決の多数意見によれば、それは「具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐ」ための手段であるから、それ自体が処分性を肯定する論拠とされているわけではないとの指摘もある。したがって、建築制限の存在は、それが継続的に課され続けることにより市街地再開発事業の手続の進行がより確実なものとなるという意味で、本件事業計画変更認可が本件事業の施行地区内の宅地所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすことを示す事情として言及することが望まれる。
〔設問1〕⑵は、本件事業計画変更認可の違法性の検討を求めるものである。【S市都市計画課の会議録】において示唆したように、本件事業計画変更認可には手続的瑕疵がある。法第38条第2項によれば、事業計画の変更の認可の申請があった場合には法第16条が適用されるので、同条に従い事業計画の縦覧及び意見書提出手続が履践されなければならない。ただし、法第38条第2項括弧書きによれば、当該変更が「政令で定める軽微な変更」である場合には、上記の手続を行う必要はない。【本件の事案の内容】で示した事業計画の変更の内容は、公園の設置に係る設計の概要の変更、及び新たな土地の編入という形での施行地区の変更である。
このように、本件における事業計画の変更は施行地区の変更を含んでいるところ、【資料 関係法令】で挙げた都市再開発法施行令第4条第1項各号に列挙された「軽微な変更」の内容を見ても、施行地区の変更は「軽微な変更」として挙げられていないため、本件における事業計画の変更は、「軽微な変更」には当たらない。したがって、法第16条の定める手続を履践しなければ、本件事業計画変更認可には手続的瑕疵があることになる。法第16条が定めている手続のうち、少なくとも意見書提出は「当該第一種市街地再開発事業に関係のある土地(中略)
について権利を有する者」に認められていることから、それら手続は単なる情報収集にとどまらず、事業によって影響を受ける土地所有者等の権利保護をも目的としたものであるといえる。
そのような趣旨の手続を全く履践しなかったという瑕疵は、本件事業計画変更認可を違法ならしめるものである。
次に、【S市都市計画課の会議録】では、C地区を施行区域に編入する本件都市計画変更が違法であることが示唆されている。第一種市街地再開発事業の都市計画決定に処分性が認められないこと、したがって、その違法性は後続の処分の違法事由として主張し得ることも会議録中で示されているが、答案ではそのことを本件事業計画変更認可の違法性を検討するための問題の所在を明らかにするために明記した上で、本件都市計画変更の実体的な違法性を検討する必要がある。都市計画決定権者は都市計画を決定するについて一定の裁量権を有しているといい得るが、その裁量権は法令の定めに従って行使されなければならず、第一種市街地再開発事業の都市計画については、都市計画法第13条第1項第13号所定の都市計画基準、及び法第3条各号所定の施行区域の要件を満たす必要がある。本問においては、本件都市計画変更がこれら規定に違反していることを端的に指摘することが求められる。
都市計画法第13条第1項第13号は、市街地開発事業に係る都市計画基準として、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域」であることを求めているが、C地区は、都市計画変更前の施行区域であるB地区とは河川で隔てられており、C地区周辺からB地区側へは橋が架かっておらず、変更に係る都市計画においても両地区の地理的な接続は予定されていないため、B地区と一体的に開発又は整備する必要があるということはできない。また、法第3条は施行区域とすることができる土地の区域の要件を定めているが、同条第4号は、当該区域内の土地の高度利用を図ることが当該都市の機能の更新に貢献することを求めている。現況が空き地であるC地区を公園として整備しても活発な利用を見込むことはできず、本件事業が施行される地区及びその周辺の都市機能の更新に貢献するということはできない。したがって、本件都市計画変更は、施行区域要件も満たしていないことになる。
〔設問2〕は、本件事業計画変更認可と本件権利変換処分の間の違法性の承継の検討を求める問題である。違法性の承継の検討は、最判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁を手掛かりにして行うことになるが、そこでは違法性の承継を認める要素として、先行処分と後行処分が同一の目的を達成するために行われ、両者が相結合して初めてその効果を発揮するものであること(実体法的観点)と、先行処分の適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分には与えられていないこと(手続法的観点)とが挙げられている。そこで、本問では、実体法的観点と手続法的観点の双方から、違法性の承継を否定する論拠と肯定する論拠とを列挙した上で、違法性の承継を肯定する立論を行うことが求められている。
実体法的観点に関しては、空間利用の態様の決定である事業計画と、その実現手法である権利変換は趣旨目的を異にしていることが否定論の論拠となろう。それに対して、【市街地再開発事業の制度の概要】で説明したように、事業計画のうち設計の概要は再開発ビルの各階の平面図を含むなど、事業計画段階で事業の基本的内容が定められ、権利変換処分はそれを個々の組合員に適用するものであるから、両者は一体として、権利変換という法効果の実現に向けられている、との論拠により、実体法的観点から違法性の承継を肯定することが考えられる。
手続法的観点からは、違法性の承継を否定する論拠として、新たな事業地区の編入を伴う事業計画変更にあっては申請前に宅地所有者等の3分の2以上の同意を要するとされていること
(法第38条第2項、法第14条第1項)や、事業計画変更の申請があった場合の事業計画の縦覧及び意見書提出手続といった手続保障がされていること(法第38条第2項、法第16条)、事業計画変更認可があると施行地区の変更内容が公告されること(法第38条第2項、法第19条第1項、都市再開発法施行規則第11条第3項第2号)といった事情を指摘することが考えられる。それに対して、肯定論の論拠としては、問題文の【市街地再開発事業の制度の概要】
での「設計の概要」に関する説明に示されているように、事業計画は事業内容を客観的に説明するものであって、それによって宅地所有者等に生じる権利変動の具体的内容は包括的には明らかになっているものの、なお、個々の宅地所有者等に与えられるべき権利床等の詳細は確定には至っていないことや、上記の事業計画の縦覧及び意見書提出手続並びに変更認可の公告のいずれも、施行区域内の宅地所有者等に個別に通知する制度ではないこと、そもそも権利侵害の重大性と比較すると、利害関係人に対する手続的保障は、後行処分の段階での先行処分の違法性の主張を排除するに十分であるとはいえないことといった事情を指摘することが考えられる。
いずれの設問に関しても、資料として挙げられた関係法令の条文を正確に読み取ることが求められる。特に、読み替え規定や政省令への委任規定を正確に読み解き、どの条文が適用されるのかを正確に特定することが求められる。
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