司法試験 令和8年 憲法
問題文
〔第1問〕(配点:100)
A市立中央公園(以下「本件公園」という。)は、市民の休息、観賞、散歩、遊戯、運動等の利用のため、A市が都市公園法に基づいて設置した60メートル四方の広さの市立公園である。A市内に同規模の市立公園はほかに5つあるが、いずれも郊外に位置し、市の中心部にあるのは本件公園のみである。本件公園は繁華街の近くにあり、公園南側に隣接する中央大通りの歩道は、平日・休日の昼夜を問わず多くの人々が通行する。中央大通りを挟んだ反対側の地区(10年前に廃止された県立女子短大の跡地)では再開発が行われ、数棟の超高層住宅と大型商業施設が建設されたため、本件公園一帯のにぎわいは増している。本件公園は、一般市民が随時、無料で利用できる公園であるが、その一部又は全部を独占して使用する場合には、A市立公園管理条例(以下「本件条例」という。後掲【資料】を参照。)第5条第 1 項の定める市長の許可を得る必要がある。同項所定の許可を得て、在留外国人との共生を進める国際交流団体の活動紹介を内容とする行事のほか、原水爆禁止を訴える趣旨の集会が開催されたことがある。
5年ほど前から、夜間に本件公園内で暴走族が集会を行ったり、未成年者が集まり飲酒をして騒ぐなどの行為が繰り返され、治安上の懸念を理由として夜間における公園の閉鎖を求める多くの陳情があったため、A市議会は本件条例を改正して、本件公園については夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の利用を禁止した(本件条例第8条第1項)。条例改正を受けてA市は、本件公園を囲む鉄製の柵(高さ1.5メートル)を設置し、夜間、その出入口を施錠している。ただし、本件条例第8条第 2 項の許可を得れば、夜間でも本件公園の独占使用をすることは可能であり、市内の愛好者団体による星座鑑賞会や商店街主催の盆踊り等の行事が度々夜間に本件公園で開催されている。
ところで、近年、世界各地の大都市において住宅費高騰が深刻な社会問題になっており、その原因は都市中心部の再開発によって低廉物件の減少等をもたらした地方政府の失政にあるとして、都市中心部の公園や広場で人々が寝袋や段ボールで一夜を過ごす抗議活動が世界各地で行われるようになった。この抗議活動への支持を広げるため、貧困問題に取り組んできた国際NGOが、世界各地の市民に対して、それぞれの現地時間で202*年7月1日午後 8 時から同月 2 日午前 6 時までの間に各都市の中心部でこの抗議活動を行うプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)を計画し、これへの参加を呼び掛けた。この呼び掛けに対して、世界各地の100以上の都市の市民が直ちに参加を表明した。世界各地の都市での抗議活動がリレーのように継続することになる本件プロジェクトは、世界中で注目されており、日本でも度々報道されていた。A市においても、県立女子短大の跡地利用をめぐっては、市民の間で意見が対立し、その場所で進められた再開発についても現在まで賛否が分かれているところ、再開発の結果としてA市の中心部でも住宅費は高騰しており、市民の間からもそれを問題視する意見が出始めていた。
A市内で各種の市民運動に取り組んできた「市民自治を進める会」(以下「X」という。)
は本件プロジェクトへの参加を決定し、その実施場所については、A市中心部にあって再開発
地区と近接し、夜間でも周辺の通行人が多い本件公園が最も適当であると考えて、本件公園において寝袋や段ボールで一夜を過ごす抗議活動(以下「本件活動」という。)を行うことにした。そこで、同年5月10日、Xは、同年7月1日午後8時から同月2日午前6時までの本件公園の独占使用許可を求めて申請を行った(以下「本件申請」という。)。
Xの運営方針は、大学教授(代表)、弁護士(事務局長)、牧師、僧侶、医師及び市民運動家Bの6人で構成される幹部会で決定しており、本件申請に関わる事務全般を事務局長が担当した。本件活動に参加するのはXの幹部6人とその他の会員のみである(全員で20名程度)。本件活動中、Xとしては会員外の一般市民が公園内に立ち入るのは認めないが、数名の報道関係者が取材のために公園内に立ち入る予定である。本件申請の際、取材を受けたXの事務局長は、「A市の住宅費高騰問題の深刻さを訴えるため、A市の中心部に所在する本件公園内で一夜を過ごすことにした。本件活動は公園南側の中央大通りから容易に見える場所で行う。本件プロジェクトへの連帯を訴えるパネル等を設置してライトで照らす予定である。」と語り、その発言は翌朝の新聞やニュースで報道された。また、Bは、本件申請以降、SNSで本件活動に関する情報を度々発信している。
ところで、Bは、長年、A市を拠点として外国人との共生を進める運動に関わってきたが、全国各地から外国人排斥を訴える様々な団体がA市に集結して集会やデモ行進を行うようになったため、そのような集会等に対してカウンターデモを行う団体Cを組織して、その代表になった。Xの幹部のうちCの活動に関わっているのはBのみである。同年3月1日、外国人排斥デモの参加者とBらのカウンターデモの参加者との間で小競り合いが生じ、双方の参加者がお互いに暴力を振るう事態となり、20人の逮捕者が出た。なお、Bも逮捕されたが不起訴となった。A市内ではその後も、外国人排斥を訴える諸団体とCとの間で小競り合いが何回か繰り返され、警察官が出動して制圧する事態も起きている。
A市の総務部長である甲は、本件活動により管理に支障があると認められること(本件条例
第5条第3項第5号)、また、夜間の独占使用を認めるべき特別な理由がないこと(本件条例
第8条)から、いずれの根拠においても、本件申請を不許可にできると考えている。ただし、念のため憲法上の問題点について、任期付公務員(法曹資格者)の乙に相談した。甲と乙の間でのやり取りは以下のとおりであった。
甲:本件公園は、都市公園法に基づいてA市が設置した市立公園ですので(本件条例第2条第1号)、地方公共団体が設置した「公の施設」(地方自治法第244条)に該当します。本件公園の設置目的は、近隣住民を中心とする一般市民の自由な随時利用にありますが、本件条例第5条所定の市長の許可を得れば、公園の一部又は全部を独占して使用することも可能です。なお、202*年7月1日から同月2日にかけての夜間の独占使用の申請をしているのはXのみで、他団体による申請はありません。
乙:承知しました。A市としては、Xによる本件申請を不許可にしたいとのことですが、その根拠と理由を教えてください。
甲:第一に、管理上の支障を根拠として本件申請を不許可にできると考えます。Xの幹部の一人であるBは、過去に政治的に対立する諸団体の関係者との間で暴力事件を起こしており、
逮捕されたこともある人物です。Bが幹部の一人であるXによる本件活動のための本件公園の独占使用を認めると、対立する諸団体の関係者との間で暴力沙汰になる危険性があります。Bは本件活動についてSNSで度々発信しているので、その可能性は否定できません。
また、夜間に行われる長時間の抗議活動なので、管理上の支障の発生を防ぐのに必要な人数の警察官を配備するのも容易ではありません。
乙:なるほど。ただし、管理上の支障を根拠として不許可処分をする場合、関連する判例とそれに対する学説の評価を確認する必要がありますね。
甲:第二に、A市としては、夜間の利用禁止を根拠にして不許可にできるとも考えております。
乙:本件公園は夜間、一般市民の利用が禁止されているとのことですが、本件条例第8条によれば、市長の許可があれば夜間の独占使用も可能とのことですし、過去にも許可した例があるようですね。
甲:はい。星座鑑賞会や盆踊りなど「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」(本件条例第8条第2項)があれば、許可をしてきました。例年10~20件は許可しております。ただし、住宅費高騰問題に関する抗議活動は、本件公園の夜間の独占使用によらずとも、昼間の公園でも行えますし、夜間ならば市立公民館でも行えるので、本件申請については、「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」を認めることはできません。
乙:Xとしては、特定の日時に世界規模で実施が計画されている本件プロジェクトに呼応するためには、本件公園で夜間に本件活動をするのが最適であると考えていることにも留意すべきでしょう。Xに対して特別に夜間の独占使用を認めるべき憲法上の理由があるか否かの検討が必要になりますね。
甲:「夜間の独占使用を認めるべき特別な理由」に関わるもう一つの問題として、夜間の利用は禁止が原則ですので、特定の政治的主張を行うための夜間の独占使用を認めたら、A市の政治的中立性に対する市民の信頼が損なわれる危険性があります。
乙:なるほど。Xの夜間の独占使用を認めると、A市の政治的中立性が損なわれるのではないかという点についても、憲法の観点から検討する必要がありそうです。そこでお尋ねしますが、過去の夜間の独占使用に関して、政治的中立性を理由として抗議等があったケースはあるのでしょうか。
甲:はい。市内の経営者・商店主が組織する「新幹線延長を求める市民の会」から、本件公園で午後7時から午後9時まで無料ビアガーデンを開いて、帰宅途中の市民に新幹線延長の必要性をアピールしたいとの申請があったので、市長が夜間の独占使用を許可したところ、市議会で延長反対派の議員が政治的中立性の観点から問題ではないかと質問しました。市長は「新幹線延長は市長選の際の私の公約であり、A市の基本政策の一つであるから、その御批判は当たらない。」と答弁しました。
乙:最後に確認しますが、本件申請を許可したら、夜間に騒音が出て近隣住民が迷惑するとは考えていないということですね。
甲:世界各地の抗議活動の様子やXの申請内容から判断して、本件活動自体から騒音の問題が生じるとは考えていません。また、許可の際、例えば午後9時以降の静穏確保の厳守を求め
る条件を付すことも可能です(本件条例第8条第2項)。ちなみにXの事務局長は、「そのような条件を付した許可で結構です。」と答えています。
乙:承知しました。それでは、憲法上の論点を精査した上で、改めて私見を申し上げます。
〔設問〕
あなたが検討を依頼された乙であるとして、本件申請について、市長が、①本件条例第5条
第3項第5号に規定する管理上の支障があることを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、②本件条例第8条第2項に規定する特別な理由がないことを根拠として不許可処分をすることが憲法上許されるか、それぞれについて論じなさい。なお、その際には、参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及すること。規定の文言の明確性については、論じる必要はない。
【資料】A市立公園管理条例(抜粋)
第1条 この条例は、市立公園の設置、管理等について必要な事項を定め、市立公園の健全な発展と利用の適正化を図り、もって市民福祉の増進に寄与することを目的とする。
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 市立公園 都市公園法第2条第1項に規定する都市公園でA市が設置するもの及び同項に規定する都市公園以外の公園又は緑地でA市が設置するものをいう。
二~四 (略)
五 独占使用 市立公園の一部又は全部を独占して使用することをいう。
第5条 独占使用をしようとする者は、市長の許可を得なければならない。
2 前項の許可を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書を市長に提出しなければならない。
一 申請者の住所、氏名及び職業
二 (略)
3 次の各号に該当する場合、市長は第1項の許可をすることができない。
一 公衆による市立公園の利用を害すると認められる場合。
二~四 (略)
五 その他市立公園の管理に支障があると認められる場合。
第8条 市立公園のうちA市立中央公園については、夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の利用は認めない。
2 前項の規定にかかわらず、市長は、夜間の独占使用を認めるべき特別な理由があるときは、
第5条第3項各号に該当する場合を除き、夜間の独占使用を許可することができる。この場合において、市長は、必要な条件を付することができる。
3 前項の許可を受けようとする者は、第5条第2項の定める申請書を市長に提出しなければならない。
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